「チクショーっ……! 一護、どこ行ったんだよ……!」 寧人の叫びは虚しく部屋に響いた。 それからというもの、寧人は一護との一夜を引きずり続けていた。 あの夜を境に、心の奥にぽっかりと穴が空いたままだった。 何をしても満たされない。 仕事も、食事も、眠りさえも。 裏ルートを使って、フードジャンゴでの登録情報を探ってみた。 だが――一護のアカウントは完全に削除されていた。 履歴も、レビューも、跡形もなく。 さらに思い出を辿るように、一護が働いていた美容院を検索した。 しかし、ホームページのオーナー名は別人に変わっており、写真からも一護の姿は消えていた。 まるで最初から存在しなかったかのように。 それ以来、寧人は麻婆丼が食べられなくなった。 テレビのグルメ特集でその映像が映るだけで、あの時の笑顔と声が蘇る。 箸を持つ手が震え、胸の奥が痛くなる。 思い出に縋るように一護を何度も思い出しては、結局、虚しさだけが残った。 ――自分はやはり、人と関わることも、恋をすることもできないのだ。 そんな折、営業の古田から一本の連絡が入った。「得意先に同行してくれ」と。 電話口での明るい声が、妙に遠く感じた。 なぜ自分が? 営業なんて行ったこともないのに。 まして古田は、職場でもできれば関わりたくない相手のひとりだ。 それでも、断る理由も見つからず、寧人はしぶしぶ了承した。 久しぶりの出社の日。 押し入れの奥から取り出したスーツはテロテロで、肩も丈も合っていなかった。 それでも鏡の前でネクタイを締め、無理やり社会人の顔を作る。 ――まるで仮面のような笑顔。 朝の電車では乗り継ぎを間違え、構内で迷子になる。 焦るほど汗が滲み、ようやく会社にたどり着いた頃には約束の時間を過ぎていた。 廊下を歩いていると、ドアの隙間から声が聞こえた。 古田と上司が話している。「寧人くん、また家から出てこなかったんだって?」「ええ、まあ……いつも通りって感じで」 笑い混じりの言葉が胸に刺さる。 それでも寧人は立ち止まらなかった。 何も聞かなかったふりをした。 とりあえず、自分はついていくだけでいい――そう思い込むことで、寧人は不安を誤魔化していた。 だが心の中ではずっと引っかかっている。 なぜ、自分なのか。 SEなんて他にもいくらでも
Última actualización : 2025-11-06 Leer más