Todos los capítulos de 合縁奇縁、そんなふたりの話(BL): Capítulo 11 - Capítulo 20

35 Capítulos

第十一話

「チクショーっ……! 一護、どこ行ったんだよ……!」 寧人の叫びは虚しく部屋に響いた。 それからというもの、寧人は一護との一夜を引きずり続けていた。 あの夜を境に、心の奥にぽっかりと穴が空いたままだった。 何をしても満たされない。 仕事も、食事も、眠りさえも。 裏ルートを使って、フードジャンゴでの登録情報を探ってみた。 だが――一護のアカウントは完全に削除されていた。 履歴も、レビューも、跡形もなく。 さらに思い出を辿るように、一護が働いていた美容院を検索した。 しかし、ホームページのオーナー名は別人に変わっており、写真からも一護の姿は消えていた。 まるで最初から存在しなかったかのように。 それ以来、寧人は麻婆丼が食べられなくなった。 テレビのグルメ特集でその映像が映るだけで、あの時の笑顔と声が蘇る。 箸を持つ手が震え、胸の奥が痛くなる。 思い出に縋るように一護を何度も思い出しては、結局、虚しさだけが残った。 ――自分はやはり、人と関わることも、恋をすることもできないのだ。 そんな折、営業の古田から一本の連絡が入った。「得意先に同行してくれ」と。 電話口での明るい声が、妙に遠く感じた。 なぜ自分が? 営業なんて行ったこともないのに。 まして古田は、職場でもできれば関わりたくない相手のひとりだ。 それでも、断る理由も見つからず、寧人はしぶしぶ了承した。 久しぶりの出社の日。 押し入れの奥から取り出したスーツはテロテロで、肩も丈も合っていなかった。 それでも鏡の前でネクタイを締め、無理やり社会人の顔を作る。 ――まるで仮面のような笑顔。 朝の電車では乗り継ぎを間違え、構内で迷子になる。 焦るほど汗が滲み、ようやく会社にたどり着いた頃には約束の時間を過ぎていた。 廊下を歩いていると、ドアの隙間から声が聞こえた。 古田と上司が話している。「寧人くん、また家から出てこなかったんだって?」「ええ、まあ……いつも通りって感じで」 笑い混じりの言葉が胸に刺さる。 それでも寧人は立ち止まらなかった。 何も聞かなかったふりをした。 とりあえず、自分はついていくだけでいい――そう思い込むことで、寧人は不安を誤魔化していた。 だが心の中ではずっと引っかかっている。 なぜ、自分なのか。 SEなんて他にもいくらでも
last updateÚltima actualización : 2025-11-06
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第十二話

 寧人の思考は一瞬、完全に止まった。 理解が追いつかない。 ――なぜ、ここに。 なぜ、あの一護が。 麻婆丼を運んでいた男が。 美容師として髪を切ってくれた男が。 そして――自分のすべてを舐め、甘く、激しく弄んだ男が。 その一護が、今、社長として目の前にいる。 現実感が崩壊していく。頭の中が真っ白だ。「鳩森くん、社長とは……?」 横で古田が訝しげに声をかける。 寧人は焦りながら、何か言おうとしても言葉が出てこない。 視線は泳ぎ、手は震え、体はもぞもぞと妙に落ち着かない。 ――やめろ、そんな目で見るな。俺は悪くない。たぶん。「ちょっとしたお知り合いですよね、鳩森さん」 一護は何事もなかったように穏やかに笑った。 “ちょっとした”という言葉が、妙に刺さる。 あんな夜を過ごしておいて「ちょっとした」……?  寧人のこめかみがピクついた。「んー、そういえば彼からたくさん要望があるような?」 一護は机の上のメモを手に取り、さらさらと目を通している。 ――まさか、それ。 寧人の顔色が変わる。思わずそのメモを奪い取って見た。 そこに並んでいたのは、寧人が自宅のパソコンに保存していたフードジャンゴの改善要望メモ。 開発の愚痴、提案、仕様の矛盾点――誰にも出さなかった、あのファイルの内容だ。 (あの時……一護が俺のパソコンを……!) 嫌な予感が確信に変わる。 一護は、あの夜のうちにこのデータを抜いていたのだ。 目の前がぐらりと揺れる。「古田さん、こんなにも改善案があるのに、なぜ伝えなかったんですか?」 一護の声が、静かに刺さった。 その言葉には、柔らかさの裏に確かな鋭さがあった。「社内の人間が不満を抱えているということは、利用者も同じように感じているということです。 実際、私もエゴサーチして確認しました。似たような意見が多いですね」 一護はタブレットを操作し、一般利用者の不満の声をまとめたプレゼン資料を映し出した。 古田の顔から血の気が引く。目が泳いでいる。 どうやら彼も同様の情報を掴んでいながら、報告を避けていたようだった。「も、申し訳ございませんっ……そ、その……!」「三日後、改めてこれらに対する改善策を練って持ってきてください。 アプリのリニューアルを検討していますが、場合によっては他社への切り替えも
last updateÚltima actualización : 2025-11-07
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第十三話

 寧人はトイレの個室に駆け込み、ドアを閉めるなり背中を壁に押し付けた。 胸の奥が熱く、鼓動が暴れている。喉がカラカラに乾く。息を吸っても吸っても空気が足りない。「やべぇ、やべぇ……なんで一護が、あそこに……」 目を閉じると、スーツ姿の一護の笑顔がまぶたの裏に浮かぶ。 髪を結い、あの時よりも少し大人びた顔つき。 けれど確かに、あの夜、自分の上で笑っていた男だった。 フードジャンゴの社長——その肩書きがまるで冗談のように思えた。 手のひらに汗が滲む。シャツの下の肌までじっとりしていた。 呼吸を整えようと深呼吸するたび、心臓の音が耳の奥で反響する。 ——トントン。 個室のドアを叩く音がした。 寧人はびくりと肩を震わせる。 返事をする前に、外からくすっと笑うような声が聞こえた。「……一護、か?」「そうよ、寧人」 その柔らかな声が鼓膜に触れた瞬間、胸の奥がひどく痛んだ。 怒りとも、安堵ともつかない感情が混ざり合う。「なんで、あの時帰ってこなかったんだよ!」 声が裏返る。 自分でも驚くほどの震えが混じっていた。「ごめん……」 一護の声は静かで、少し掠れていた。「……あの夜、家に戻ったら、親父が危篤だって連絡があった。 家族や親戚が集まって、気づいたら僕が後を継ぐことになってたんだ。 社長就任の準備や美容院のオーナー譲渡の手続きもあって……あのまま連絡できなくて」「そんな言い訳、今さら聞きたくないっ!」 寧人はドアノブを掴んで勢いよく開けた。 そこに立っていた一護は、まるで記憶の中から抜け出したようだった。 黒いスーツに細いネクタイ、結ばれた髪、そしてあの眼差し。 懐かしくて、憎らしくて、泣きたくなるほどまっすぐな目。「一護っ!」「寧人……ごめんね」 一護はそっと跪き、寧人の目線に合わせた。 手にしたハンカチで、寧人の額に滲んだ汗を拭う。 その仕草が優しすぎて、かえって胸が締めつけられる。「……やめろよ」「ふふ、やっぱり変わってない。いい匂いだ」「は?」 一護は顔を近づけた。 息が触れ合う距離。 寧人は反射的に後ずさったが、壁に背をつけたまま逃げ場を失った。「やめ、ろって」「久しぶりだね、寧人」 囁きとともに唇が触れた。 その一瞬、頭の中が真っ白になる。 拒絶しようとしたはずの手が、なぜか
last updateÚltima actualización : 2025-11-10
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同棲編 第十四話

 あれから——。 寧人は大手クライアント「フードジャンゴ」との案件で目覚ましい成果を上げた。 複雑なシステム統合をわずか数週間で完了させ、運用テストでも高評価。社内でも「鳩森が変わった」と噂が立った。 そして、彼は正式にチームリーダーへ昇進したのだ。 リーダーになってからというもの、寧人は自分でも驚くほど落ち着いていた。 仕事への姿勢が以前よりも丁寧になり、資料のまとめ方や部下への指示も自然と板についてきた。 パソコン越しに映る自分の姿をふと見て、「あの頃より少し大人になった気がする」と思う瞬間もある。 ただ——。 画面の端に映る、自分の“髪型”にはいまだ慣れきれずにいる。 一護の手によって、バリカンで一気に刈られたあの日。 鏡の前で呆然としたまま、「……なにこれ、刑務所帰りか?」と呟いたのを今でも覚えている。 だが、今となってはそのツーブロックも、彼の日常の一部になっていた。 寝ぐせのつき方にも慣れ、ワックスで軽く整えると意外に似合う。 新しい自分を見つめるように、毎朝、鏡の前で深呼吸するのが習慣になっていた。 部屋も変わった。 以前のボロアパートから引っ越し、駅近の中層マンションの最上階へ。 南向きの窓からは光が差し込み、遠くの高架を走る電車の音が心地よいBGMになっている。 壁は白く、床は木の温もりを感じる明るい色。 書斎のドアを開けると、広々としたデスクと最新のPC環境が整っていた。 デュアルディスプレイに、静音のキーボード、ワイヤレスのトラックパッド。 そしてその脇には、小さな観葉植物と、フードジャンゴのロゴが入ったマグカップ。 もちろん、玄関ドアは壊れていない。 水回りも綺麗で、浴室乾燥機までついている。 夜になると、湯船に浸かりながら窓の外の夜景を眺め、ようやく自分が「生きている」ことを実感するのだ。 それでも、完全に心が安定したわけではない。 仕事の合間、カップ麺にお湯を注いでいると、ふと一護の笑顔がよぎることがある。 スーツの襟を正して「ちゃんと食べてる?」と聞いてきた、あの優しい声。 寧人はその度に首を振り、湯気を見つめて気持ちを切り替える。 ——その証拠が、デスクの上にある。 マウスのすぐ横に置かれた、一護が残していったUSBメモリ。 小さな傷がついたシルバーのボディには、彼の筆跡で
last updateÚltima actualización : 2025-11-11
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第十五話

寧人は慌てて、近くに掛けてあったカーキ色のシャツをつかんだ。会社からのビデオチャットの着信音が鳴っている。「寧人、それ僕のだよ」「緊急だっ、借りる……はい、鳩森です」 シャツは明らかに大きすぎるが、裸よりはマシだ。肌着を探す余裕もない。 もちろん相手には、下半身が裸なことも、その下に一護が潜んでいることも知られていない。 画面に現れたのは営業の古田だった。 フードジャンゴの案件で、寧人は古田とチームを組むことになっており、1日に何度かビデオチャットでやり取りをしている。 もともとビデオチャットが苦手な寧人だが、最近ようやく慣れてきたところだった。「鳩森、さっきのデータ……ミスばかりだぞ。何かよそごとしてたか?」「えっ、あ、その……」 寧人は机の下をちらりと見た。 そこには、一護がひょいと顔をのぞかせていた。無言のまま、悪戯っぽく微笑んでいる。 よそごと……。まさか「仕事中にちょっかいを出されてました」なんて言えるはずがない。 冷や汗が首筋を伝う。「その服もボタン掛け違えてるしよぉ!」「あっ! あっ……すいません!」 慌てて直すと、シャツの隙間から素肌がのぞいた。 古田が目を丸くして言葉を詰まらせる。「……おい、下、着てないのか?」「き、着てます! もちろん!」 声が裏返る。 机の下では一護が息を殺して笑っていた。 ビデオチャットの会話が耳に入らない。 胸が早鐘のように鳴り、息が整わない。「おい鳩森、どうした! パニックか?」 古田の声で我に返り、慌てて姿勢を正す。 なんとか受け答えを続けたものの、集中できるわけがない。「ま、また落ち着いたら連絡しろよ。俺はまだオフィスにおるから」 古田が通話を切ると同時に、寧人は椅子にもたれ、深く息を吐いた。 全身から力が抜ける。 机の下から、いたずらを終えた一護がそっと顔を上げ、唇の端を上げて囁いた。「バレなかったね」 寧人は顔を真っ赤にしながら、ただ黙ってうなずいた。「一護! どうしてくれるんだっ。古田さんに変な人だって誤解されたっ」「まぁもともと変な子だし、あっちも“またパニクったな”くらいに思ってるって」 一護はあっけらかんとしている。 そのまま、寧人の膝に軽く腰を下ろして、古田が指摘したデータを開いた。眼鏡をかけ、真顔で画面をのぞき込む。「……あ
last updateÚltima actualización : 2025-11-12
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第十六話

 寧人はモニターに向かい、データの修正を終えると、深く息を吐いた。 数時間の緊張がほどけ、背もたれに体を預ける。送信ボタンを押し、古田宛にメールを送ったあと、ようやく昼を過ぎていることに気づく。 時計を見ると、もう十三時半。 いつの間にか外の光も傾きかけていて、カーテンの隙間から秋の陽射しが柔らかく差し込んでいた。 静かな部屋。聞こえるのは自分のタイピング音と、PCのファンの低い唸りだけ。 ──あのボロアパートから、よくここまで来たものだ。 1Kの薄暗い部屋から、今は3LDKのマンション。 玄関を開けると木の香りがする。新品の床材の感触。清潔な水回り。ピカピカのキッチン。 それだけで、毎日が少しだけ誇らしい。 鏡に映る自分の姿を見て、寧人は思わず笑ってしまった。かつての寝癖だらけの自分はもういない。 一護の手によって整えられた髪型は、今ではすっかり板についていた。 お腹が空いた。 立ち上がってキッチンへ向かうと、冷蔵庫のドアにメモが貼られている。 丸い文字で、可愛らしい筆跡。 > 「お昼はカレー炒飯。野菜たっぷりに仕上げました。 > クックメーカーでお昼過ぎにスープができるようにセットしておいたから、食べてね♡」 クスッと笑って、メモを指でなぞる。 台所の片隅にある自動調理機からは、トマトの香りが漂っていた。 蓋を開けると、赤く透き通ったミネストローネ。彩り豊かな野菜が浮かび、湯気の向こうに暖かな生活の気配が見える。「……うまそう」 スプーンを取り、ひと口すくって口に運ぶ。「はぁーん、幸せダぁ……あっち!」 舌を火傷して顔をしかめた瞬間、PCからビデオチャットの着信音が鳴り響いた。「うわっ、ちょ、ちょっと待って!」 慌ててスプーンを置き、椅子に座り直してカメラを起動する。案の定、画面には古田の名前が表示されていた。「お、今はちゃんと着替えたか?」「着替えました……あ、お疲れ様です」「おう。データありがとな。ばっちし修正できてたけど……それだけ? “直しました、ご確認よろしくお願いします”とか添えるだろ、普通」「は、はい……すいません」「まったく何年社会人やってんだよ。ま、引きこもり歴の方が長いかもしれんけどな」 皮肉交じりの言葉が画面越しに響く。 いつものことだ。慣れている……つもりだった。「今から
last updateÚltima actualización : 2025-11-13
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第十七話

「菱社長、本日はお時間をいただきありがとうございます」「来月の連休向けにまとめてくれた企画ページ、拝見しましたよ。レイアウト、とても良かった。色の配置も含めて、全体がすごく見やすい」「評価いただけて光栄です」 古田は、いつもの寧人への高圧的な態度が嘘のように、終始ぺこぺこと腰を低くしていた。 寧人はその変わり身の早さに内心げんなりしつつも、それ以上に――画面の向こうに座る一護の仕事姿に目を奪われていた。 落ち着いた声、的確な言葉の選び方、姿勢の良い座り方。 ほんの少し前まで、あんな無防備な姿を自分に晒していた男と同じ人物には見えない。 少し前まで自分にべったり甘えてきていた男と同一人物だなんて、とても思えない――そう脳裏をかすめた瞬間、寧人の胸の奥がきゅっと疼いた。 理由の分からない鼓動に戸惑い、気を紛らわせるように水を飲む回数ばかりが増えていく。「うちの鳩森のデータミスで少し納期遅れてしまいましたが、他のデザイナーチームが調整しまして、より使いやすいレイアウトになりました」「それは助かります。……では次ですが」 一護は古田の言い訳めいた説明を軽く受け流し、淡々と次の資料へ話を進めていく。 寧人には、会議に加わる隙がまるで見えなかった。 それなのに――胸の奥の熱だけはどんどん高まっていく。 仕事モードの一護を見るだけで息が浅くなるなんて、自分でも何が起きているのか分からない。(落ち着け……こんな場面で何考えて……) 焦るほど胸の鼓動は乱れ、視線が泳ぐ。 案の定、古田の鋭いキツネ目が寧人を捉える。「すいません、うちの鳩森はこういうネット会議に慣れてなくてですね……」「大丈夫よ」 一護が柔らかく笑った。 その瞬間、寧人の背筋まで一気に熱が走る。「鳩森さんが提案してくれた、週末の悪天候に合わせた導線システム、あれ助かったわ。修正も的確だった」「っ……あ、ありがとうございます……」 寧人の頬は一気に熱を帯び、言葉が上ずる。 ただ微笑まれただけなのに、胸の奥が跳ね上がって仕方がなかった。「なのにデータミスがあったとかいうけど……鳩森さんが、そんな初歩的なミスをするようには見えないけれど」「す、すみません……僕の確認不足です」「大丈夫。問題ないわ」 一護はそう言うと、画面を軽く見やった。「――あ、鳩森さん。次のファイ
last updateÚltima actualización : 2025-11-14
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第十八話

「そして……?」 涙でぐしゃぐしゃになった顔を上げた古田に、一護はゆるりと口角を上げた。穏やかさよりも、獲物を見つけた捕食者の色が濃い。「――その後は、僕の“言うこと”を、ちゃんと聞きなさい」 その声音は甘いのに、ぞくりと背筋が震えるほど低く冷ややかだ。「い、言うこと……?」「そう。あなたが鳩森くんにしたことは、全部“清算”してもらう。仕事の話じゃないわよ。……あなたの好みに合わせて、ね?」 古田の喉が引きつるように鳴る。「し、社長……そ、それって……」「誤魔化さなくていいの。あなた、こうやって追い詰められるの……嫌いじゃないでしょう?」 一護は机に肘を置き、カメラに顔を寄せる。距離が一気に縮まり、息遣いが触れそうな近さだ。「だってあなた……うちの店に来たとき、肩触った途端“ふにゃっ”て力抜けて――」「や、やめ……っ」「『もっと……』って、腰まで浮かせて甘えてきたくせに?」 古田の耳が真っ赤に染まり、唇が震えた。「……っ、あれは……っ、そんなつもりじゃ……!」「つもりなんてどうでもいいの。事実は、あなたが“そういう男”だってこと」 一護は背筋を伸ばし、ふっと優しい微笑みに戻る。しかしその奥に潜む光は、完全に悪戯のそれだ。「だから――」「――はい……っ!」「まず鳩森くんに。誠心誠意、ちゃんと謝罪すること」 古田は縋るように力強く頷いた。「はいっ……! もちろんです……!」「その次に、今日の夜。ビデオチャットを僕に繋ぎなさい」「よ、夜に……?」「そう。鳩森くんには内緒。あなたが彼にした分……私があなたをしつけ直してあげる」 言葉の意味を理解した瞬間、古田の喉が震えて声が途切れた。 一護は小さく、甘く笑う。「言葉攻め、好きでしょう? ――だったら、ちゃんと聞き分けなさい。倫悟くん」 その名を呼ばれた瞬間、古田の体が小さく跳ねる。「……っ、は、はい……っ」「いい子」 そのタイミングで、チャットの通知音が鳴る。 画面には “鳩森 寧人:修正完了しました” の文字。 一護の目が細くなり、冷たい静けさが戻る。「あぁ……ちょうどいいわね。まずは彼に謝りなさい。下手な言い訳は絶対にしないこと。わかった?」「……はい……っ!」 古田は涙を拭き、震える体で深々と頭を下げた。「……夜にまた、ご連絡します……一護さん
last updateÚltima actualización : 2025-11-15
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第十九話

 寧人は仕事を終えると、着替えもそこそこにベッドへ倒れ込んだ。じん、と重さの残る瞼をそっと押さえる。そこへ、一護が美容院で使うタオルウォーマーから、ふかふかに温められたタオルを取り出して持ってきた。「はい。今日も、目がんばったでしょ」 差し出されたタオルは相変わらず熱々で、広げるたびに寧人は「熱っ……」と情けない声を漏らしてしまう。それでも、乗せてしまえばあの気持ちよさには抗えなかった。じんわりと温かさが染み込み、仕事の疲れが溶け出していく。 ――そういえば、数時間前のことだ。 突然連絡をくれた古田が、いつになく神妙な面持ちで現れた。言葉を選ぶように何度も頭を下げ、途中から涙をこぼしながら謝罪を続けてきた。「大丈夫です。そんな……そこまで謝らなくても。反省してるなら、それで」 年上の彼を寧人が宥める形になったのが、少し不思議でもあった。(困った顔を見るのが好きって……変わった人だなぁ) ふっと思い返していると、頭にひやりと指先が落ちた。「うわっ」「ただいま。一護だよ」 優しい声とともに、温かい気配がすぐ傍に降りてくる。「……おかえり。びっくりした」 タオル越しに返すと、一護の指がそのまま寧人の頭皮をほぐし始めた。十本の指がゆっくり沈み、ほどけ、また押し返す。息が漏れそうなほど気持ちいい。 ふわりと漂うコロンの香りは、一護がよくつけている落ち着いた香調のもの。加減の見事なマッサージは、元美容師ならではの確かな技だ。 寧人は力を抜き、ただその手に委ねた。 今日の疲れも、さっきまで胸に残っていたざわつきも、すべて溶けていくようだった。  彼は少しどきっとした。 触れられた場所から、じんわりと熱が広がっていく。 人に触られることがほとんどなかった人生。だが一護と一緒に暮らし始めてから、寧人の身体は変わってしまった。 一護に触れられると、まるで電気が走ったように敏感になるのだ。全身の血が、一瞬で“ある一部”へ流れ込んでしまうような、あのどうしようもない感覚。 本来なら恥ずかしくて仕方がない。 けれど──一護ならいい。 寧人は、彼の前でだけは自分をさらけ出してしまう。 頭の上あたりから、ふふふっとくぐもった笑い声が降ってきた。 その声に、寧人はますます息が荒くなる。「寧人、私がそれ……マッサージしてあげる」「えっ……?」
last updateÚltima actualización : 2025-11-17
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第二十話

 触れたら火がつくような距離だった。 ほんの数センチ、肌と肌の間にあるはずの空気はすでに熱を帯び、2人の呼吸が混ざり合うたび、その境界が曖昧になっていく。 寧人が一護に背中を預けるように反らすと、首筋から落ちる吐息さえ震えて見えた。 その震えは恐怖ではなく、抑えきれない衝動のもの。 一護にはそれが分かる。 寧人は、自分の求め方すらまだうまく分かっていない。 それでも――いや、だからこそ、必死なキスが真っすぐ胸に刺さった。 唇を離すたび、寧人の赤くなった瞳が揺れる。 細い唇の端から、透明な光沢が細く伸び、寧人は慌てたように息を吸った。 その羞恥が混ざる仕草は、まるで「これ以上近づかれたら困る」と言いつつ、近づきたい気持ちは隠せていない、そんな矛盾の塊だった。 一護はたまらず喉の奥で笑う。「……寧人、そんな顔で夢中になるんだ。ずるいよ」 耳元でそっと落とされた声に、寧人の肩が大きく跳ねる。 そこへ、一護は意地悪く吐息を触れさせた。 その瞬間、寧人の指がぎゅっと一護の服を掴む。 触れられたわけでもないのに、胸元にだけ熱が集中しているように見えた。 一護は思わず、寧人の頬に触れる。 指先に吸い込まれそうなほど柔らかい頬。 その奥で、寧人は自分でも分からないまま燃え上がっている。 その荒い息遣いに合わせるように、一護はソファ脇に置いていたタオルへ手を伸ばす。 寧人の下にそれを差し入れながら、一護は自嘲気味に微笑んだ。(……本当に、準備しておいて正解だよ) 寧人といると、いつだって想定以上に心が揺さぶられる。 普段は慎重で冷静なはずの一護が、たった一つの仕草で簡単に足元をすくわれる。 それほど寧人は、一護にとって“油断ならない存在”だった。「ねえ、寧人。見て。……君、今すごく可愛いよ」 その言葉が届いた瞬間、寧人の中で何かが弾けた。 理性という薄い膜が破れ、体ごとぶつかる勢いで一護に覆いかぶさる。「わ、ちょ……寧人っ!? うそ、そんな……急に……!」 驚きながらも、一護は受け止めてしまう。 拒めない。拒めるはずがない。 寧人が求める限り、どこまででも受け止めたくなる。 寧人は一護の胸に顔を埋め、呼吸が乱れすぎて言葉にならない。 ただ、その身体の震え方と、押し寄せるような温度だけが雄弁に語っていた。(一護が……
last updateÚltima actualización : 2025-11-18
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