Todos los capítulos de 合縁奇縁、そんなふたりの話(BL): Capítulo 21 - Capítulo 30

35 Capítulos

第二十一話

「お兄ちゃんったら、別にあのまま続けてくれてよかったのに。めちゃくちゃセクシーだったよ?」「はいはい、どうもありがとうございますー。でも寧人は“人に見られながら”っていうのに慣れてないの。あんなの見せられたら固まっちゃうじゃない。せっかく気持ちよくなってたのに」「寧人さんもごめんね〜。邪魔しちゃって」 三人で並んで麻婆丼を食べる食卓は、妙ににぎやかだった。 頼知は帰る気などさらさらなく、一護が“紹介したいから”と呼んだのだと知って、寧人はさらに顔から火が出そうになる。 恥ずかしさと、不完全燃焼のもやもやで、寧人はひたすら麻婆丼をガツガツと口に運んだ。「おお、いい食べっぷり。ね、絶対性欲強いタイプでしょ?」 その一言で、寧人は口の中の麻婆を盛大に吹き出した。 慌てて自分で拭いていると、一護の手が肩に触れる。「頼知、食事中に変なこと言わないの。……まぁ、たしかに頼知の頭皮マッサージはすごいけど。性感帯つくの上手いから、女のお客さんなんて毎回びしょ濡れで……」 寧人は再び噴き出した。気管に入ったらしく、咳き込みながら一護に背中をやさしくさすられる。 コップを持つ手も震える寧人に、一護が口元へゆっくり水を運んでくれた。「お兄ちゃんこそ……そういう話は食事中にしないの……」「……だね。ごめん、寧人」 寧人は首を横に振り、「大丈夫」と言うようにふわりと手を振った。 その仕草に、二人の視線がふと柔らかく重なる。「本当に気持ちよかったよ……変なところ見せちゃったけど気持ち良くって、あのままだとやばかったです」「あら、寧人さん。いつでもわたしやりますよ。その時は是非是非って、……痛いっ!」 頼知は一護に叩かれた。漫才師みたいに。とても痛そうである。「僕の寧人なんだから」 一護のその言葉に寧人はドキッとする。結局一護は自分にとっての何なのか。ただの居候? エッチの相手? そして恋人なのかと。一護はもう完全に寧人の恋人気分。さっきからも口を拭いたり、身の回りのお世話をしている。 その姿を見て頼知は笑う。「お兄ちゃんったら、お世話焼きは健在ね。でも、やりすぎると前の彼氏みたいに“何もしないダメ人間”に育てちゃったり、尽くされすぎて逃げられたりするんだから」「大丈夫。寧人はもともとダメ人間だし、逃げないし。……てか、元カレの話はしないの」 
last updateÚltima actualización : 2025-11-19
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第二十二話

 朝、目が覚めると隣のスペースはひんやりしていた。一護の気配はない。代わりに、台所の方からふわりと食欲をそそる匂いが漂ってくる。「おはよう……いい匂いだな」「おはよう」 一護はコンロの前で朝ごはんを作っていた。寧人はまだ半分夢の中のような頭で、その背中をぼんやり眺める。「……こういう時は、後ろから抱きしめてもいいんだから」「えっ……」 一護は振り向かず、ただ淡々と卵焼きを巻きながらそう言う。促されるように、寧人はゆっくり手を伸ばし、一護の大きな背中に腕を回した。じんわりとした体温が掌と胸元に伝わってきて、胸の奥がほぐれる。 一護は鼻歌まじりに卵焼きを焼いている。じゅうじゅう、と落ち着いた音がキッチンに満ちた。「昨日さ。寧人がね、ちょっとかっこいいなって思ったの」「なんだよ、急に」「頼知と過ごしてた子供の頃さ、楽しいことも多かったけど……辛いことも色々あってね。でも寧人は無理に聞こうとしなかった。夜も、何も言わずにただ抱きしめてくれた。それがすごく嬉しかったんだ」 寧人は少しだけ呼吸を詰めた。「……いや。なんか寂しそうな目をしてたから。上手いこと言えなくて、ごめん」「ううん。それで良かったんだよ。惚れ直したんだから」「……」「お世話好きな理由、ちゃんと話せたのも良かった。頼知くんも、ああ見えて素直で明るい子だし。一護がちゃんと面倒見てあげたから、今あんな風に育ったんだと思う」「それはね、ちょっと自信ある」「そっか……」 寧人は抱きしめる腕にそっと力を込めた。背中越しのぬくもりが、朝の静けさの中でふたりをひとつにしていた。「でもさ……また話したいときにでいいから、過去のこと、僕に教えてほしい」「……うん……」 甘い空気が朝のキッチンに漂う。少しだけ卵焼きが焦げたような匂いが鼻に届いた。「ほら、さっさとトイレ行って顔洗ってきなさい」 一護が振り返った瞬間——寧人はまだしがみついていた。背中に顔を埋め、一護の温度を吸い込むように深く息をし、無意識のまま腰が寄り添う。「……ちょ、寧人……っ」 今までそんなことをしたことがないはずの寧人が、本能に引かれるように動く。鼻先から漏れる甘い息に、一護の指が震えた。「ちょっと……あのね……朝からそんな……」 火を止め、コンロから離れようとした一護の手首を、寧人が逃がさない。流しへ移
last updateÚltima actualización : 2025-11-20
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出社編 第二十三話

 朝から妙に機嫌のいい寧人は、つい頬がゆるんでしまう。 理由はもちろん、一護と迎えた“とても密な朝”のせいだ。 背中に残る微かな余韻や、唇にまだ漂う温度が、何度思い返しても体の奥をくすぐってくる。 一護は寧人より少し早く朝食を終えると、クローゼットからさっと着替えを取り出して姿を消す。 ほどなくして、部屋の扉が開き――出てきた一護の姿に、寧人は思わず息を呑んだ。 今日は天気がいいので、彼は自転車通勤らしい。 スポーティなウェアは無駄のないラインを押し出し、背の高さとモデルのような体型をさらに強調していた。 広い背中、締まった胸、脚の長さ、そして……寧人が密かに一番好きな、ぴんと上を向くように丸い尻の形まではっきり見える。(こんなの……ずるいよ……) スーツ姿の一護ももちろん好きだが、自転車の日はまた違う“楽しみ”がある。 雨が降れば迎えの車が来るらしいが、こんな社長、世の中探してもそうそういない。「じゃあ行ってくるね。十四時からミーティングだから、それまでにメールに添付しておいた資料、まとめておいてね」「はい、わかりました。菱社長」「社長って、家で言われるとなんか照れるんだけど……。あ、あと洗濯物、頼んだよ」「は、はいっ」 外に出れば2人はビジネス関係。 だが家の中では、一護が寧人の生活リズムや性格に合わせて、家事の分担やルールを整えてくれる。 “できないこと”を責めず、“できること”を増やしていくように導いてくれる、一護らしいやり方。(……でも、年下にこんなに世話されて、教育されて……なんで嬉しいんだろ)「いってきます」「いってらっしゃい」 軽く唇が触れ合う。 以前つい玄関で深いキスをしてしまい、そのまま寧人が“出勤できなく”なりかけたことがあるため、一護は自制して軽いキスしかしなくなった。 本当は強く抱きしめて、もっと深く触れたいのだと寧人はわかっている。 本当なら、このあとベランダから一護が自転車に乗って颯爽と出ていく姿を眺めるつもりだった。 ――と、そのとき着信音が鳴った。 画面には『古田』の文字。寧人の顔がほんの少し曇る。「……え、なんで今日……」 仕方なく電話に出る。「おはようございます」「おう、おはよう。朝からすまんなー。今日、会社に来れるか?」「は?! い、いや、えっと……今日はテレビ会
last updateÚltima actualización : 2025-11-21
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第二十四話

 慌てて身支度をしていた寧人は、ふと鏡に映った自分の頭に目を止めた。 サイドをかなり刈り込んだ、いわゆるソフトモヒカン。最初は抵抗があったが、毎日一護がこまめに整えてくれるおかげで形はいつもきれいだ。こんな髪型に挑戦したのも初めてで、実は結構気に入っている。「……でも、これさすがに職場だと浮かない?」 髪型は今すぐどうにもならない。そう思った寧人はクローゼットへ歩いた。 ――スーツ、あったか? ほとんど外に出ずリモート生活だった彼が最後にスーツを着たのは、フードジャンゴ日本支部に出向いたとき。しかもそのとき着ていたテロテロのスーツは、引っ越しの時に「もういいや」と捨ててしまったのを思い出す。「一護の借りる……? いやいや、サイズ絶対でかい。絶対笑われる……」 寧人の会社はスーツ必須ではなく、ビジネスカジュアルを少し崩した程度の服装が基本だ。 だが、部屋着と同じルーティン服で出勤するのはどう考えてもアウト。タンスを開けても、いつも着ている色違い程度のシャツばかり。清潔ではあるが、外向けではない。「……詰んだ気がする」 悩みに悩んだ末、寧人は結局、頼れる相手に電話することにした。 一護なら何か言ってくれるかもしれない。いや、最悪これを口実に帰ってきてくれるかもしれない――そんな淡い期待すら混ぜながら。 数回のコールのあと、ようやく一護が電話に出た。「ごめん、今自転車止めたから。どうしたの?」『あ、その……会社に行くことになって』「まじで? 大丈夫? 電車乗れそう?」『なんとか……。あの、その、服が無くて。一護の服、借りてもいい?』「わたしのでも良いけど……クローゼットに白い紙袋ない?」 一護の言葉に、寧人はスマホを耳に当てたままクローゼットを開ける。 中には、言われた通り白い紙袋がいくつも並んでいた。どれも見覚えのないブランドロゴが目立つ。『ね、ねぇ……たくさんあるんだけど……?』「ああ。どれでも好きなの選んで大丈夫。 その紙袋ごとにコーディネートしてあるから。靴は横の箱に揃えてあるよ」『え、えええっ?! ていうか、高級なのばっかじゃん……何これ、誰の?』「そりゃ寧人のだよ。サイズはぴったりなはず。 寝てるときに計らせてもらったから〜。じゃ、行ってらっしゃい」 軽い声を残し、一護は通話を切った。 残された寧人は、電
last updateÚltima actualización : 2025-11-22
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第二十五話

  寧人は駅へ向かう道を歩きながら、すれ違う人々の視線にどうしようもなく落ち着かなくなっていた。 ついこの前、外に出た時はヨレヨレの服のせいで、まるで“ゴミでも見るような”冷たい目を向けられた。 なのに今日は――何故か違う。 確かに視線は来るのだが、その質が、まるで別物だ。 寧人にとってはそれがむず痒くて仕方なく、背中を撫でられているようなくすぐったさが募っていく。「……この髪型、かなぁ。変じゃないよね……?」 ぽつりと呟き、整えてもらったばかりのソフトモヒカンを指先でそっと触る。 駅に着き、電車に乗り込む。今の時間帯はそれほど混んでいない。 以前は――どれだけ混んでいても、寧人が座ると左右どちらにも微妙な“空白”が生まれ、誰も隣に座ろうとしなかった。 だが今日は違っていた。 混んでもいないのに、両隣に若い女性がすっと腰を下ろしてくる。 右隣の女性からはふわりと香水の香りが流れ、ちらりと寧人と目が合うと、驚くほど自然に微笑んで、また窓の外へ視線を移した。 その小さな所作すら、寧人には刺激が強い。 胸の奥がソワリとして、思わず視線を膝にいってしまった。 隣のさらに若い女性はどう見ても女子大生だった。 寧人がちらりと視線を向けると、目が合う。そしてまた少ししても目が合う。 そんなやり取りを何度も繰り返すうちに、くすぐったさが胸の奥に溜まり、耐えきれずスマホに逃げた。 通知が一件。「……一護からじゃないんだ」 本当は、一護からの連絡を期待していたらしい。 けれど画面に表示されていた名前は――「頼知」。「頼知っ?!」 思わず声が出てしまい、車内が一瞬静まり返る。 寧人は肩をすくめて縮こまり、視線を落とした。 ふと目の前を見ると、ミニスカートの女性が脚を組み替えていた。 その動作がいちいち艶っぽく、しかも寧人をちらちらと見てくる。 耐えきれず、スマホへ逃避。 頼知からのメッセージはあっけらかんとしていた。『一護お兄ちゃんに寧人くんのアドレス聞いちゃった。ごめんね。 お兄ちゃん、お節介すぎるでしょ? なんか愚痴があれば聞くよ』 あの時は一護を懐いていたはずなのに……妙に雰囲気が違う。 寧人は即座に返信した。『いえ、大丈夫です。ありがとう』 素っ気なく送信し、ふと顔を上げた瞬間――目の前のミニスカの女性が立ち上が
last updateÚltima actualización : 2025-11-23
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第二十六話

 慌てて電車を飛び降りたはいいものの、そこが各駅停車ではない駅で、しかも寧人の全く知らない場所だった。「いたいたいたー。すいません、駅員さん。うちの部下が……」 駆けつけたのは古田だった。本当は一護に連絡したかったが、ちょうど古田からメールが来ていたため、つい「知らない駅に降りちゃって」と返してしまったのだ。 駅員に二人して頭を下げ、寧人はそのまま古田の営業車へ乗り込む。「ったく、なにやってんだよ。俺がたまたま近くの営業先にいたからよかったけどさ。最初から迎えに行っときゃよかったか?」 狐目の古田に睨まれ、寧人は肩をすぼめた。「す、すいません……こんな年で迎えに来てもらうなんて……」「そうだよ。で、なんでこの駅で降りたわけ?」 その問いにはどうしても答えられない。 ──女性を見てムラムラして爆発し、そのまま電車を降りてトイレで抜いた、などと。 あの瞬間、理性を保てたのは奇跡だったと寧人は思う。痴漢と一般人の境界は紙一重だと、身をもって知ってしまった。 古田はまだしかめっ面をしている。何を言われるかと寧人が身構えたところで、「髪の毛……それ、やばいだろ。まあ服装はオッケーだけどな」「ありがとうございます……」 少し照れたように口元をゆるめる寧人に、古田はふっと鼻で笑った。「褒めてねえよ」 やれやれと視線を前に戻しながらも、その声はどこか楽しげで、 やっぱり古田は相変わらずドSなところを惜しげなく散らしていた。 ふいに、寧人の脳裏に一護に教わった“とっておきの言葉”がよぎった。「……バタフライスカイ」 その一言を口にした瞬間、古田の動きがピタリと止まった。 ハンドルに置いた手も、狐のような細い目も、ぜんぶ固まる。「……おまえ、なんでそれを……」 古田が二度見どころか三度見しそうな勢いで寧人を振り返る。 寧人は気づかず続けようとしてしまう。「バタフライス……むぐっ」 口を塞がれた。 古田の顔は、耳の先まで真っ赤だ。「……言うな。二度とその単語を俺の前で言うな。忘れろ」 声は低いのに、完全に動揺がにじんでいる。「い、いきますか……?」「行くぞ。昼過ぎから菱社長とのビデオチャットもあるんだよ」 そう言って古田は逃げるようにエンジンをかけた。 寧人は口元を押さえながら、不思議そうにまばたきをする。 一護に言わ
last updateÚltima actualización : 2025-11-24
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第二十七話

「そ、そ、その……これは……っ」 古田は寧人の上で完全に固まり、顔を真っ赤にしてあたふたしていた。「ふ、古田さん……ごめんなさい。僕、寝ちゃって……」 寧人はまず謝るが、状況がまったく理解できていない。 さっきまで古田の右手が自分の“そこ”を撫でていたことに、まだ気づいていなかった。 古田は慌てて手を離すものの、覆いかぶさった体勢だけはすぐに戻せずにいる。「そ、そ、そうだよっ。おまえが寝てるのが悪いんだ……っ。寝てるから助手席倒してやろうとしたら急に起きるし……! 全部おまえが悪い!」  古田はようやく運転席に戻り、乱れた服をバサッと整えて大きく息を吐いた。 しかし隣で、倒れたままのシートから起き上がれずにオロオロしている寧人は、車のリクライニングの戻し方すらわからない。「古田さぁん……どうやって戻すんですか……」「そのままでいろ。会社まで」 つれないように言うが、寧人の不安げな声と仕草に、古田の下腹がまた熱くなる。 その瞬間──「わっ!」  何かの弾みで寧人のリクライニングがバンッと音を立てて戻った。「も、戻りました……すみませ……」 安堵した寧人が起き上がりかけたのを、古田は反射的に押し戻した。 再び寧人に覆いかぶさり、倒れた座席へと押し付ける。「どアホ……!」 古田は、喉の奥から噛みしめるように声を漏らした。「なんでそんな……そんなにポンコツなんだよ。可愛すぎて、しんどいんだよ……。40のくせに電車も満足に乗れないし、困った顔ばっかりして……いじめても全然怒らないし……」  眉をひそめたまま、額を寧人の肩に落とす。 声は震え、もう半分告白に近い。「なんなんだよ……おまえ……っ。なんでこんなに……俺をおかしくするんだよ……」 古田はそう叫ぶと、衝動のまま寧人に抱きついた。 寧人はぽかんとしつつも、古田の頭を優しくポンポンと撫でる。 その仕草に、古田は「へっ?」と変な声を漏らし、顔を上げる。 寧人はふっと微笑んだ。「古田さん……褒めてくださって、ありがとうございます。嬉しいです」「あ、あああああああっ……!」 古田は意味不明な呻きを上げ、耳まで真っ赤にして俯いた。 そんなつもりじゃないのに、微笑まれたことで逆に体温が跳ね上がる。「何も言わずに……しばらく、こうしてましょうか」「……」 「……」
last updateÚltima actualización : 2025-11-25
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第二十八話

 結局ふたりはクルマの中で乱れた。助手席で毛布をかぶり、その中ではもう服という服を全部脱いでいた。 寧人は、背丈の変わらない古田の身体を目にして思わず息をのむ。 毛布の隙間から漏れた光が滑るように照らしたのは、鍛え抜かれた筋肉の陰影だった。思わずどきりと胸が鳴る。 自分の不摂生な身体が急に恥ずかしくなる――だが、肌を重ねた瞬間、どうでもよくなった。 何度もキスを交わし、擦れ合い、はあ、と漏れる吐息ごと互いの肌に触れて舐めて、求める音だけが狭い車内に響いた。「鳩森、もっといいことしよう」「いいこと……?」「僕、もう限界。お互いの……ちゃんと確かめたい」 体勢なんて気にしていられない。 寧人が仰向けになり、古田が覆いかぶさるようにして上に乗る。それだけで息苦しいほど近かった。 古田の求めること――一護としたことはない。でも、今ならやってみようと思える。そんな余裕がどこかにあった。 酸素が足りないほどなのに、不思議と苦しくなかった。 どこを支えればいいのか分からず、寧人は後ろ手に古田の尻を掴み、上下に導くようにしてやると――。「んんんんーーーーっ……!」 寧人を咥え込んだ古田が強く震え、そのまま一気に反応してしまう。「んんんんんーっ……!」 突然のことに寧人も目を見開き、ほとんど巻き込まれるようにして自分も達してしまった。 互いに果てたはずなのに、古田はそこで終わらなかった。 息を荒くしたまま、まだ寧人の胸元や首筋に触れ、しつこいほどに求め続ける。 重なった身体を支えきれなくなり、ふたりは毛布を抱えたまま横向きに倒れた。 乱れた呼吸だけが、濡れた車内の静けさにゆっくりと溶けていった。  早く吐き出したい。古田はどうしたのだろうか、という気持ちにもなるが彼はその様子もない。「ティッシュあるよ」 古田が箱ごと差し出してくれた。「ありがとう……」 ふたりは毛布の中で乱れた呼吸を整え、体勢を戻して向き合う。 汗がにじむほど熱く、肌が貼りつく。狭い車内の空気には、互いの体温と匂いが混ざっていた。 古田の甘いシナモンの香水。 寧人の石けんの匂い。そして男らしい汗の匂いが、距離の近さを際立たせる。 寧人のうなじに顔を寄せ、古田がくんくんと嗅ぐ。「鳩森の匂い、すごく好き」「いい匂いじゃないですよ」「おじさんの匂い、好き」
last updateÚltima actualización : 2025-11-26
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第二十九話

 寧人と古田がオフィスに足を踏み入れた途端、課長の鋭い視線が突き刺さった。「……古田。ずいぶん遅かったな」「お疲れ様です。鳩森と営業先に行ってまして。──ほら、鳩森、挨拶」 寧人は思わず古田の背に隠れたが、肩を押されて前に出される。 課長は、寧人の頭を見た瞬間に眉を上げた。「その髪型……在宅勤務は気楽でいいな。チームの連中はお前の作業待ちだぞ」 ソフトモヒカンがどう見ても社風に合っていなかったのだ。 寧人は萎縮しながら、古田に連れられてオフィス奥へと歩く。 以前はメインフロアしか知らなかったが──寧人が在宅の間に、隣の区画はすっかり改装されていた。 知らない机、知らない機材、そして……見知らぬ社員たち。 視線が重なるたびに、寧人の挙動はぎこちなくなる。「前、見て歩け。こけるぞ、鳩森」 さっきまで身体を溶かし合っていた男とは思えないほど、古田の声は冷静で、いつものドS調子に戻っていた。 寧人がビクッと震えると、古田は横目でそれを見て、口元だけでくくっと笑う。 赤い扉の前まで来ると、中からざわめきが聞こえた。 古田が扉を押し開けると、数人の若いメンバーが一斉に顔を上げた。「あ、リーダーだ」「鳩森リーダー、ビデオチャットより実物のほうがかっこいいですね!」 寧人は、自分より明らかに若いメンバーばかりなのに驚き、 そして容姿を素直に褒められて、思わず心がふわっと浮く。 すかさず古田が肘でつつく。「ほら。リーダーらしく挨拶しろ」 寧人は肩を跳ねさせながら、前に立ってぎこちなく頭を下げた。「え、えっと……今日から、よろしくお願いします……!」 その声は、まだ少し古田に抱かれていた余韻を引きずったまま震えていた。「あ、その……お疲れ様です。リーダーの鳩森です。いつもサポートありがとう。若い君たちのアイデアや業務で……その……」 寧人が慣れない調子で話し始めた瞬間、「話が長い」 古田が容赦なく突っ込み、メンバーたちは和やかに笑った。 寧人は肩をすくめ、耳まで赤い。「──さて。14時からフードジャンゴの菱社長へのプレゼンがあります。あと二時間。早急に打ち合わせをしましょう」「はいっ!」 ビシッと声がそろった直後、 ぐぅぅぅうーー……。 沈黙。 鳴ったのは、寧人のお腹だった。 寧人は「……っ」 と唇をすぼめ、羞恥
last updateÚltima actualización : 2025-11-27
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第三十話

 夜。ソファに横になった寧人は、目の上に乗せた蒸しタオルの温かさに思わず息をゆるめた。 一護の指がゆっくりと頭皮をほぐしていく。美容関係の仕事を離れたとは思えない、的確で優しい手つきだった。「出社できたんだね。頼知には“寧人の自立のために干渉禁止”って釘刺されてたからさ……会議で顔が見えた時、ほんと安心したよ」「心配かけてごめん。それと……服のことも。助かったよ。あ、そこ、気持ちいい……」 一護はくすっと笑い、指先を耳の後ろに滑らせた。 敏感なところを正確に押されて、寧人は身を震わせる。「洗濯物もね、後で寧人の分渡すから。たたむのお願いね」「はぁ……い……。耳……そこ……ずるい……」 熱がゆっくり胸の奥まで広がっていき、寧人はこっそり息を乱していた。 そんな彼の変化に一護は気づき、わざとらしく目を細める。「……そろそろ、別のところもほぐす?」 囁くような声に、寧人は観念したように小さく頷いた。 そして――しばらくして。 一護は寧人をそっと抱き寄せ、乱れた呼吸が落ち着くまで背中を撫でてくれた。 イチャイチャを延長しながらシャワーを浴び、就寝時間。 並んで布団に入ると、一護がぽつりと尋ねる。「明日も会社?」「うん……。でも在宅がいいな、やっぱり」「エッチしながら仕事できるから?」「ば、バカ……」「電車で通勤すると寧人、痴漢しちゃうぞ〜?」「それは大丈夫……。古田さんに迎えに来てもらうことになったんだ」 一護の手が、寧人の頭を優しくぽんと叩いた。「ふぅん。あの人、ね」「うん。しばらく提携店舗の見回りもあるし。現場の声、ちゃんと聞きたいから」 一護はそれ以上何も言わなかった。ただ「おやすみ」と囁き、おでこに軽くキスを落とした。 それだけで寧人の胸は妙にざわつく。 ――明日、古田と出社する。 それは「仕事」だけが理由ではないことを、寧人自身がよくわかっていた。 みんなにも……そして一護にも、悟られてはいけない。 枕元のスマホが震える。古田からのメール。『明日迎えに行く。そのあと三件回ったあと……いいよね?』 直接的な言葉はない。けれど、何を指すかは明らかだった。 一護の寝顔をチラと見る。長いまつ毛が穏やかな影を落としている。「……ごめんね、一護」 寧人は胸の痛みを押し込み、古田へ“YES”の絵文字を送信し
last updateÚltima actualización : 2025-11-28
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