名刺を握ってニマニマしていた寧人は、ふと車が停まった衝撃で我に返った。 窓の外に広がるのは、さっきの賑やかな繁華街ではない。照明がくすんだままの古いビル、雑居ビルの並ぶ路地、そして──堂々とそびえるラブホテルの看板。 「……えっ、ふ、古田さん? ラブホじゃ燃えないって言ってたのに……」 寧人が真っ赤になると、古田は即座にギロッと睨んだ。 「ばか。ホテルじゃない。ついてこい」 その言い方が妙に冷たく、寧人は思わず背筋を伸ばした。 車を降りると、古田は迷いなく細い路地を進んでいく。 その先にあったのは、ネオンで“BUTTERFLY SKY”と書かれた看板。 (……どこかで聞いたことが……) 記憶の端を掘り返す。 一護が言っていた。 “古田に理不尽にいびられたら、バタフライスカイって言えばいい。古田は黙るから” 実際、一度言っただけで古田は珍しくうろたえた。 だが今は──古田は微動だにしない。 寧人の横をすり抜け、黒塗りの怪しい店の中へ堂々と入っていく。 外は昼間なのに、店内は闇に近い薄暗さ。狭い通路の先で黒服の男性が一歩前に出て二人を迎えた。 怪しい照明。香水の強烈な匂い。壁に響く派手なBGM。 寧人は完全に飲まれて、挙動不審の極みになる。 「そ、そうだ……バタフライスカイ……」 呟いた瞬間、古田がピタリと振り返る。 「よく知ってるな。お前の口からここが出るとは思わなかった。……まあ、今さら隠す関係でもねぇか」 「い、いや、だってここって……!」 「安心しろ。営業先だ。ここの退勤管理システム、うちが作ったやつだからな」 「えっ……そ、そうなんですか……でもどう見ても……絶対これ健全じゃない……!」 寧人の言葉が終わる前に、黒服が足を止めた。 「古田様、こちらへ」 ドアが開かれる。 その瞬間、古田は振り返りもせず、冷たく言い放った。 「鳩森、お前は別だ。……勉強してこい。しばらく相手してやったけど、正直──下手すぎる」 「……は?」 寧人は目の前が真っ白になった。 下手? 今まで古田とした、あれこれ全部、あれが……下手? 「じゃあ今までの……俺のは……」 古田はもう部屋に入って行き、扉が静かに閉まる。 (もしかして……一護も……俺との……下手って……思って
Last Updated : 2025-12-14 Read more