All Chapters of 転生したら王族だった: Chapter 31 - Chapter 40

48 Chapters

31話 「怖いけど、お兄ちゃんがいるから」エリゼの信頼

「移動しますか……。勘付かれたっぽいからな」 リーダー格の男がそう呟くと、男たちは懐からキラキラと光る石を取り出した。その石から放たれる不気味な光が、レイニーたちを囲むように魔法陣を浮かび上がらせる。空間がグニャリと歪み、次の瞬間、二人は別の建物へと移動していた。 そこは動物臭が漂い、木造で薄暗い。王都から離れた場所なのか、周囲はしんと静まり返っていた。ひんやりとした空気が肌を撫で、どこからか獣の鳴き声が微かに聞こえる。 あらら……転移? 転移されちゃったじゃん……。これじゃ、複数いた監視がまかれちゃったんじゃないの? レイニーは、頭を抱えたくなる衝動に駆られた。それにしてもエリゼは落ち着いてるね……。自分が置かれた状況を理解していないのかな? 頭は良さそうだけどなぁ、俺たち誘拐されてるんだよ?? レイニーは隣のエリゼの表情を伺い、その能天気さに少しだけ安堵しつつも、内心では焦燥感を募らせていた。「お前ら、ここで大人しくしてろよ?」 リーダーっぽい男が、ニヤけた顔で話しかけて来ると、重い足音を立てて部屋から出て行った。その足音は、レイニーの心臓に響く。「分かるよな? 頭良さそうだしよ! 大人しくしてろな……じゃないと、痛い目にあうからな!」 続いて、下っ端の男が顔をしかめ、いかにも悪党といった面構えで威圧的に言ってきた。その言葉には、粗暴な力が込められており、レイニーは思わず身構えた。リーダーに続いて部屋を出た。「まあ、念のため拘束させてもらうけどな」 残された悪党面の下っ端がそう言うと、持っていた縄を素早く扱い、レイニーとエリゼの両手両足を縛り上げた。縄が肌に食い込み、チクリとした痛みが走る。男たちは、満足げな顔で別の部屋に行ってしまった。その足音は、遠ざかるにつれて、レイニーの不安を増幅させた。「エリゼ、落ち着いてるね? 怖くないの?」 レイニーは、繋がれた体でエリゼに問いかけた。「ん……少し怖いけど、
last updateLast Updated : 2025-11-16
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32話 王子の誘拐、非常事態の赤い信号弾

 こういう悪いやつは、買収してたり……抜け道をつくってるんだよねぇ。そうなったら……悪いけど、ちょっと痛くしちゃうけど自業自得だからねぇ〜。レイニーは、ぼんやりとそんなことを考えた。 馬車に乗せられると、ガタンと大きく揺れて移動が始まった。幌の隙間から差し込む光が、薄暗い車内を不規則に照らす。「エリゼ、大丈夫?」 レイニーは、エリゼの顔を覗き込んだ。「うん。別に大丈夫だよぉ」 エリゼは小さく頷いた。その声には、微かな震えが混じっている。「そっかぁ〜。エリゼは、強いねっ♪」 レイニーは、エリゼの頭を撫でてやりたい衝動に駆られた。「そうかなぁ〜?お兄ちゃんがいるからかな。いなかったら……パニックになってるかもなぁ……お兄ちゃん♪」 隣に座るエリゼがレイニーに寄りかかってきた。その小さな体温が、レイニーの腕を通して伝わってくる。手が自由だったら頭を撫でてあげたいけど、拘束されているのでムリだ。レイニーは、もどかしさを感じながら、エリゼの寄り添う重みにそっと身を任せた。 しばらく馬車で走ると、森の中から町中に入ったようで周りが騒がしくなってきた。人々の話し声や、馬車の車輪の軋む音が混じり合い、王都の活気が戻ってきたことを知らせる。「お前ら黙ってろよ。騒いだら容赦なく殺すからな!」 前方の幌が乱暴に開き、悪人面の男がギラついた目で睨みながら言ってきた。その声には、これまでの軽薄さがなく、強い焦燥が感じられた。 開いた隙間から城壁が見え、王都に出入りする検問所の列に並んでいるようだった。馬車は少し動いては止まりを繰り返す。「積み荷はなんだ?」 男たちとは別の、凛とした声が聞こえてきた。質問からして警備兵だろうなぁ。早く気付いてくれないかな……レイニーは、微かな希望を抱いた。「子供の奴隷です」 驚くほど落ち着いた声で、男が答えた。レイニーは思わず息を飲んだ。よくこの状況
last updateLast Updated : 2025-11-17
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33話 信号弾の代償と王都の騒動

♢責任の所在と小さな嘘 まぁ……王子の拉致だから、非常事態になったのかな? レイニーは、頭の片隅でそんなことをぼんやりと考えた。というか、セリオス騎士団長の責任問題になったらマズイな……。かなり良くしてもらっているし、エリゼとも今後も仲良くしたいしなぁ。俺が怒られるのは仕方ないけどさぁ。レイニーの心には、友人への配慮と、自身の立場への諦めが混じり合っていた。「なぁ、エリゼ。今回は俺が勝手にエリゼを連れて武器が見たいって連れ出したことにしようねっ」 レイニーは、エリゼの顔を覗き込み、真剣な眼差しで囁いた。「え……? だ、ダメだよ。嘘ついたらダメなんだよ」 エリゼは、レイニーの言葉に慌てた様子で、小さな体を震わせながら真剣に拒否の意思を示した。その瞳には、嘘をつくことへの純粋な抵抗が宿っている。「え? ウソじゃないしぃー。俺が武器屋に入りたいって言ったし、買い物に行きたいって言い出したのも俺だよっ。お父さんに、わがまま言ったのも俺だしさ」 レイニーは、エリゼの頬をそっと撫でながら、説得するように言葉を続けた。この作戦は、エリゼの協力が必要だし、口裏を合わせないと。レイニーの心には、エリゼを守りたいという強い思いと、事態を収拾させたいという現実的な思惑が交錯していた。「うぅ〜ん……それだと、お兄ちゃんが怒られちゃうよぅ……」 エリゼは、心配そうな顔をしてレイニーにぎゅっと抱きついてきた。その小さな腕がレイニーの体を包み込み、温かい体温が伝わってくる。今度は両手が拘束されていなかったので、レイニーはエリゼの頭を優しく撫でることができた。サラサラとした金髪の感触が指先を滑り、その髪から漂う甘い香りがレイニーの心を落ち着かせた。ひどい嘘でもないし、誰かを傷つけるウソでもない。レイニーは、この小さな嘘が最善の策だと自分に言い聞かせた。♢兵士たちの末路とセリオスの怒り 赤色の信号弾を見た悪人面をした警備兵たちは、血の気を失って青ざめ、その場にへたり込んで
last updateLast Updated : 2025-11-18
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34話 王都封鎖の超オオゴト

 非常事態宣言が発令されたことで、発信元の現場には続々と王国軍の兵士が集まってきた。集まってきた兵士はみな完全武装をしており、まるで戦場のような物々しい光景が広がっていた。滅多に起こるようなことではないため、皆が緊張の面持ちで、中にはこの機に武功を上げようとする者もいた。 王都へ入る門はすべて封鎖された。聞く分には「へぇ〜」で済むかもしれないが、王都全域が完全に封鎖されたのだ。主要な門だけではなく、農民が畑へ向かい帰ってくるような中規模な出入り口も門兵が付き、閉鎖されていた。非常事態宣言のみ知らされているので、これから魔物の大群や敵勢が攻め込んでくるかもしれない、もしくは王都で謀反を起こし逃亡する者がいるかもしれない。そのため、内側と外側に門兵を配置し、見張りも厳重にしなければならなかった。ようするに……超オオゴトになったわけだ。♢王子、国王を丸め込む 多少落ち着いたセリオスの腕を掴み、馬から降ろした。レイニーは、エリゼに話したことと同じ内容を小声でセリオスに伝えた。始めはセリオスも拒否の姿勢を見せたが、エリゼが納得した内容だと聞くと、セリオスも最終的には納得してくれた。さらに、これからもレイニーの協力者として一緒にいて欲しいと頼むと、セリオスは驚いたように跪き、深々と頭を下げた。その姿は、まるで忠誠を誓う騎士のようだった。「こいつらさぁ……子供を拐ってる街の警備兵だから、普通の処刑じゃダメだからね〜許せないっ」 レイニーは、ぷくーと頬を膨らませて文句を言った。その表情には、子供らしい純粋な怒りが滲み出ていた。「……それは……ホントですか? こんな奴らが警備兵とは……ラクには死なせませんよ。この様なことが二度と起こらないように、見せしめに致しますのでお任せ下さい!」 一度は怒りが収まっていたセリオスの目に、再び激しい怒りの炎がともった。その顔は、復讐の念に燃える鬼のようだった。 さて……これからの問題はっと……両親への言い訳を考え
last updateLast Updated : 2025-11-19
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35話 演技派王子の勝利と国王の譲歩

「……イヤなの? 主が困ってるのにぃ〜。へぇ……あーちゃんって、そんなやつなんだ……?」 レイニーは、あーちゃんをからかうように、わざとらしく悲しそうな声を出した。「当然、協力いたしますってばぁ〜。それで、わたしは……何をすれば??」 あーちゃんは、すぐに態度を軟化させ、少し慌てたように尋ねてきた。「護衛兵の記憶の操作をお願いねっ♪ セリオスは、俺から相談を受けてないし、見てないってさっ」「あぁ、それくらいなら問題ないです」 あーちゃんの声には、いつもの余裕が戻っていた。 セリオスとレイニーの二人で、国王陛下の父に事情の説明をした。当然、国王は激怒し、レイニーは言い訳をせずに怒られて、罰を受ける話になった。「レイニーよ、お前は……しばらく外出禁止だ。城から出ることは許さんぞ!」 国王の低い声が、部屋に重く響き渡った。「まさか、お父さまの王国の治安が、ここまで悪いとは信じられなくて……直接、確認に行ったのです。実際に王都の治安を守る警備兵に拐われましたし。コワイので部屋から、もう出ません……」 レイニーは、珍しく反抗的な態度を見せず、暗い表情を浮かべた。怖くもなんともなかったが、演技で目をうるうるさせて部屋に引き篭もる宣言をして、口をとがらせてそっぽを向いた。 レイニーは、お父さまが統治する王都を信じて確認をしに行ったら、拐われて怖い目にあったから引き篭もると言ったのだ。街を守る警備兵が今回は悪いのだから、全て責任と国王の怒りの矛先を向けさせてもらう。街の警備は警備隊長の責任なので、セリオスは関係ないので被害は出ない。レイニーは、内心で完璧な作戦だとほくそ笑んだ。 国王がレイニーの思わぬ反応を見て、慌てた様子で困った顔をしていた。「レイニー……そうか、悪かった。余を信じてくれていたのだな……外出
last updateLast Updated : 2025-11-20
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36話 エリゼの無邪気な好意の真実

 好みの男の子だから仲良く話をしていたんじゃないの? 邪魔しなくても良いのに……。レイニーの用件は別の者でも分かることだしさぁ……。レイニーは、心の中でぶつぶつと文句を並べた。「わっ。お父さん! 何をって……ちょっとお話してただけだよ?」 エリゼは、セリオスの剣幕に驚き、びくりと肩を震わせた。その声には、明らかに動揺の色が混じっている。「レイニー様を放って置くとは……まったく……はぁ」 セリオスは、大きくため息をついた。その目には、レイニーへの申し訳なさと、エリゼへの教育不足を感じているような複雑な感情が揺れている。「あ、だから……大丈夫だってばぁー。他の者に確認をすれば良いことだしさっ。それじゃ!」 レイニーは、この気まずい雰囲気の場所にこれ以上いたくない一心で、足早に立ち去ろうとした。セリオスが、俺とエリゼを仲良くさせようと思っているのか……? そんな考えが、レイニーの頭をよぎる。「レイニー様、お待ち下さい。エリゼ、レイニー様がお話があるそうだ、来なさい」 セリオスの声には、有無を言わせぬ強い意志が感じられた。「エリゼ、俺は大丈夫だから……話を続けてて良いよ。さーて……」 レイニーはそう言って、エリゼに遠慮するよう促した。だが、内心では暇を持て余している自分に気づく。エリゼくらいしか友達はいないし。あーちゃんが、いるけどねぇ♪ セリオスが、エリゼの耳元で何かを小声で話すと、エリゼは途端に慌てる表情になった。その顔には、困惑と焦りの色がくっきりと浮かび上がっている。ん? どうしたんだ? 後でお説教だとでも言われたのか? この世界は階級社会で女性は政略結婚が当たり前みたいだし。俺と結婚すれば、第3王子とはいえ権力はあるしなぁ……そんな結婚はゴメンだけどなぁ。レイニーの心には、不穏な予感がよぎった。
last updateLast Updated : 2025-11-21
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37話 予期せぬ好意と心の温もり

「お、お兄ちゃん……あのね、ちがうの。あの男の子に話し掛けられてね、お父さんの部下の人のドジな話をされて笑ってただけなの……」 エリゼは、レイニーの顔色を伺いながら、早口で釈明を始めた。その声には、レイニーに誤解されたくないという必死さが滲み出ている。エリゼが話を始めると、セリオスは満足げに頷いて、静かにその場を去って行った。 あーちゃんの話を聞いていなければ、レイニーにはエリゼの言葉の意味が全く分からなかっただろう。何が違うのか、なぜ言い訳を始めたのかも。俺がヤキモチを妬くとか、エリゼが好きなのは俺だけだと言いたいんだろうな。レイニーは、エリゼの純粋な気持ちに、心が温かくなるのを感じた。「あーうん。そっかぁ〜」 レイニーは、どんな返事を返していいか分からず、曖昧に相槌を打った。というか、セリオスが珍しく少年兵の集まる方へ向かってるじゃんっ。面白そう……レイニーの好奇心が再び刺激される。「あ……セリオスがヤキモチを妬いていますね……面白そうですよ! にひひ……♪」 あーちゃんの声が、レイニーの頭の中に響いてきた。その笑い声には、どこか悪魔らしい嗜虐性が混じっている。「その笑い方、俺じゃん〜」 レイニーは、思わずツッコミを入れた。「飼い主に似ちゃうんですよー」 あーちゃんは、悪びれる様子もなく答えた。あーちゃん、俺を飼い主だと認めているんだ? そういえばこの世界に使い魔っているんだよな? 従者契約と違うのかなぁ? レイニーは、あーちゃんの言葉に、新たな疑問を抱いた。 あぁ〜暇だったのでいつも眺めていて知っているけど……少年兵たちが、いつも行っている訓練とは明らかに違う、張り詰めた空気を纏った訓練が始まった。隊長や他の講師たちも、その場に緊張した様子で固まっているのが見て取れる。彼らの顔には、通常では見られないほどの真剣さと、畏怖が滲んでいた。 あぁ……セ
last updateLast Updated : 2025-11-22
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38話 冒険者ごっこの意外な実態

「……未知なる力……」 レイニーは、あーちゃんの言葉を無視するかのように、ボソッと呟いた。その言葉には、底知れない恐怖を思い出させる響きと、あーちゃんを震え上がらせるような意味が込められた響きがあった。 肩に乗るあーちゃんの体が、ビクッと震えるのがレイニーの体にも伝わった。「……勘弁して下さい……」 あーちゃんは、心底怯えたように、弱々しい声で訴えた。「もぉ〜あーちゃんのウソつきぃ……」 レイニーは、あーちゃんの反応を楽しんでいるかのように、ニヤリと笑った。「その代わりに従者に、なったじゃないですかぁ〜」 あーちゃんは、不満げな声で反論した。「それって……俺は頼んでないけどねぇ……。勝手にあーちゃんが提案してきたんじゃんっ」 レイニーは、意地悪く事実を突きつけた。「……頑張って、いろいろと助言をしてるじゃないですかぁ〜」 あーちゃんは、観念したように、少しだけ声のトーンを上げた。「まぁ……そうだね~。頼りにしてるよー」 レイニーがそう言うと、あーちゃんはホッとしたように、肩の上の体がすっと軽くなったのを感じた。そして、ベッタリとレイニーの肩に体を預けてきた。その安心しきった重みが、レイニーの肩にじんわりと伝わってくる。 そういえば……エリゼが「冒険者ごっこ」って言ってたよな? レイニーは、ふと以前の会話を思い出した。ゲームとかアニメで聞き慣れてたから、普通に聞き流してたけど……この世界に冒険者っているんだなぁ。レイニーの頭の中に、新たな興味が湧き上がってきた。「エリゼって、剣術は使えるんだよね?」 レイニーは、隣に座るエリゼに尋ねた。「うん。お父さんに教えてもらってるよ!」
last updateLast Updated : 2025-11-23
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39話 「冒険者ごっこ」と、騎士団長への直談判

 ……あぁ、それか。それがレベルが上がってる原因じゃん。行動をともにして、魔物の討伐でレベルアップか……なるほどねぇ……。レイニーは、納得の声を漏らした。「レイニー様……私を使ってレベルアップをしようとしてませんか……?」 あーちゃんの声が、レイニーの頭の中に響いてきた。その声には、呆れと、わずかな警戒が混じっている。「えへへっ♪ バレちゃったぁ〜?」 レイニーは、悪びれる様子もなく、心の中で笑った。「この体で、戦闘をしろと? ムリですよっ」 あーちゃんは、心底嫌だというように、ため息をつくのが分かった。「あーちゃん、擬態でも強いじゃん? たぶん……悪魔だし、不死だよねぇ〜? ンフフ……♪」 レイニーの笑顔には、どこか悪魔じみた響きがあった。「イヤですよ……面倒くさい……。それにレイニー様は、外出を許してくれないと思いますけどね〜」 あーちゃんは、断固として拒否の姿勢を示した。その声には、心底面倒だと感じている感情が滲み出ている。 レイニーがあーちゃんを見つめ、ニヤッと笑うと、あーちゃんは察したらしく、大きなため息をついた。その息は、肩に乗るあーちゃんの小さな体を通して、レイニーに伝わってきた。 そんなあーちゃんを無視して、エリゼに話しかけた。「それじゃ〜冒険者ごっこをしに山に行こうか〜?」 レイニーは、エリゼを見つめ、ニコッと笑いかけた。その瞳には、新しい遊びを思いついた子供のような輝きがある。「え? ダメですよぉ〜。絶対に怒られちゃいますよっ。それに、お父さんが許してくれるわけないじゃないですかー」 エリゼは、レイニーの提案に否定の言葉を返すが、その表情には、ほんの少しの期待が宿っていた。瞳の奥には、冒険への微かな憧れが見て取れる。 さーて、
last updateLast Updated : 2025-11-24
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40話 多忙な兵士と、お喋りを楽しむ所長

 しばらく歩くが、遠く山は見えるが近づいてる気がしない。足元の小石が、カツカツと音を立てる。「なぁ〜どのくらい掛かるのぉ~?」 レイニーは、少しばかり疲れて問いかけた。「ん〜とぉ……三時間くらいかなぁ〜」 エリゼの答えに、レイニーは思わず固まった。マジかぁ……すでに1時間は経過してるんですけど? 片道四時間で、討伐で二時間くらいかなぁ、で……10時間かぁ……ちょ、ちょっと待って……山に着いて帰ってくる感じじゃない?? ……山に着いて、帰ると夜中に帰宅なんですけど。レイニーの顔には、絶望の色が浮かんだ。 それと、剣も持ってないじゃん。準備不足に情報不足だなぁ……。レイニーは、自分の計画性のなさにため息をついた。 明日に変更するしかないか。城の王都の城門を、まだ抜けてすらいなかった。レイニーは、仕方なく引き返すことにした。街の警備兵の詰め所に立ち寄った。休憩と情報収集と剣を借りるつもりで寄ったのだ。 丁度、街の様子を確かめるのにも良いかなっと思ったりもしている。レイニーの頭の中では、新たな情報収集の計画が練られていた。 うわぁ……城門のほどほど近くの大きめの詰め所なだけあって、捕えられた者や兵士の出入りが激しく混雑をしていた。人々の話し声と足音が、ごちゃ混ぜになって耳に届く。「お兄ちゃん、兵士の人の邪魔になっちゃうんじゃないかなぁ……」 エリゼが不安そうな表情をして、レイニーの服を掴み言ってきた。その小さな手は、レイニーの服をぎゅっと握りしめている。 そうだよなぁ……邪魔になるけど、用事があるし、手早く済ませて立ち去りたいんだけど。ん? でも、暇そうにしてる人いるじゃん。詰め所のカウンターの中で偉そうな人が事務作業員の女の子と楽しそうに話をして盛り上がっていた。ん……父親の改革って進んでる
last updateLast Updated : 2025-11-25
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