「どこにでも転がってる程度の情愛なら救いはある。失敗したと、膝についた土を払って、また進めばいい。 でも、そうじゃないだろ? おれは、あいつに苦しんでほしくないんだ」 よりにもよって、なんであんな厄介な女を欲しがったりしたんだ。隊にいる女の半分はあいつになにがしかの関心を持っていて、あいつの天幕に入り込むチャンスを欲しがってるっておまえも言ってたじゃないか。そういう女を選べよ。 ぶつぶつ、ぶつぶつ。 やりきれないとつぶやいていた不安が、ついにレンジュへの不満に行き着いたところでユイナはぷっと吹き出した。 ハリの丸まった背中に手をあて、身を寄せる。「馬鹿ね」 ハリの、細くて、柔らかくて、大好きな後ろ髪を指で弄ぶ。「あなた、本当は全然わかってないんでしょう、どれだけレンジュが魅力的な男性か。女たちの目に、どんなふうに映っているか。 今愛されてないのが何だというの? 心は変わるものだわ。 たとえ彼女が人でなかったとしても同じ。形のないものは、いくらでも変わることができるし、変えることもできるのよ。 大丈夫。レンジュなら、きっと彼女を射止めることができるわ」 まるで見てきたことのように言うユイナを、ハリは不思議な思いにかられて見つめた。 ユイナはハリを見上げている。そこにはたしかな愛情があった。愛されていることを確信し、その喜びに包まれる幸せに恭順している。 ハリは果実をついばむ鳥のように唇を触れあわせ、耳元に囁いた。「おまえも? あいつの天幕に、行ってみたいと思った?」 ユイナは少し身を離して考え込むそぶりをする。「そうね、興味はあったわね。 だってあなたたちったら、一人で天幕が持てるようになってからは、二人してあたしを閉め出したでしょう? それまではいつも中へ入れて遊んでくれたのに。 一体どっちがあんなに天幕内をいつもごみだらけにしていたのか、すごく知りたかったわ。 でももう知ったし、改善もできたから、いいわ」 くすくすくす。思い出し笑いをしながらふざけて肩
Last Updated : 2025-12-08 Read more