黒薔薇の魔女~さよなら皆さん。今宵、私はここを出て行きます のすべてのチャプター: チャプター 11 - チャプター 20

51 チャプター

10 私の婚約者

 翌朝――離れで1人、メイドが運んできた粗末な料理を口にしていると、こちらへバタバタと向かって来る複数の足音が聞こえてきた。「お待ち下さい! ジークハルト様!」突然叔父の声が廊下に響き渡る。「いいえ! とにかくフィーネに会うまでは帰りません!」ジークハルト様の声だ!すると次の瞬間――ガチャッ!扉が突然開けられ、部屋に人がなだれ込んできた。「ジークハルト様!」慌てて立ち上がると彼は一瞬驚いた様に目を見開き……次の瞬間、駆け寄ってくると私を強く抱きしめてきた。「良かった……。フィーネ」「ジークハルト様……?」ひょっとして彼は私が昨日、倉庫に捕らわれていた事を知っているのだろうか? それで私の身を案じて……?「そ、そんな馬鹿な!」ジークハルトに抱きしめられているから状況はよく分らなかったが、叔父の驚いた声が扉の方から聞こえた。「そんな……! 確かに閉じ込めたはずなのに……!」悔しそうなヘルマの声が聞こえる。「およしなさい! 滅多なことを口に出してはいけません!」ヘルマを叱責するのは夫人だ。「貴方たちは嘘つきだ! 何がフィーネは出掛けているだ。ちゃんとここにいるではないか!」ジークハルトは私を抱きしめたまま叔父家族に怒鳴りつけた。その言葉で確信した。彼は私の身を案じてこんな朝早くから駆けつけて来てくれた。そして私が昨夜ユリアンによって助け出されたことを知らない叔父家族はジークハルトに私が行方不明なのを知られない為に出掛けていると嘘を……。「ジークハルト様……。会いに来て下さって嬉しいです……」彼の胸に顔をうずめ、私も強く抱きしめ返した。「フィーネッ! どうやってあの倉庫から抜け出したのよ! 確かに外側から鍵を掛けて閉じ込めたのに!」嫉妬に狂ったヘルマは先程自分の母に警告を忘れて、自分が私に対して行った事を自ら暴露した。「何だって!? ヘルマ嬢がフィーネを閉じ込めたのか!?」私から身体を離したジークハルトは怒気を含んだ声でヘルマを追及する。「ち、ちが……そ、それは3人のメイド達が勝手にやったことで……」「ならそのメイド達を連れて来るんだ! 早く!」ジークハルトの迫力に押されたのか、ヘルマは部屋を飛び出していく。「フィーネ……やはり君は閉じ込められていたんだね……」優しく私の髪を撫でていたジークハルトは、次に背
last update最終更新日 : 2025-10-31
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11 見捨てられた3人のメイド

 3人のメイド達は私を見ると青ざめた。「あなた達! 一体これはどういうことなの!?」ヘルマはメイド達を叱責した。「そ、そんな馬鹿な……」「確かにあの倉庫に閉じ込めたはずなのに……」「どうしてここにいるの……?」「何だって……?」3人のメイド達の言葉にジークハルトの顔が険しくなる。「ヘルマお嬢様! 信じて下さい! 私たちはお嬢様の仰った通り、確かにあの女を北塔の倉庫に閉じ込めたんです!」釣り目の気の強そうなメイドがヘルマに訴える。「こ、この馬鹿! 何てことを言うのよ!」メイドに自分が命じて私を閉じ込めさせたことがバレてヘルマは焦りの声を上げる。「やはり、そなただったのか!? ヘルマ嬢!」ジークハルトは怒りをたぎらせ、ヘルマを睨み付ける。「ち、違います! ジークハルト様! 誤解です。わ、私は何も知りません!」この期に及んでも、ヘルマは罪を認めようとはしない。「ええ、そうですとも。ジークハルト様。仮にもフィーネは私の可愛い姪っ子であり、ヘルマの従姉なのです。そんなこと我らがするはずないでしょう?」叔父のしらじらしい言葉には嫌悪しか感じられない。「なら、何故可愛い姪っ子と言うのであれば、こんな酷い料理を出すのだ? いや……もはやこんなものは料理の内にも入らない……まるで残飯ではないか!」叔父の言葉にジークハルトは冷たい言葉を投げかける。「そ、それはこの屋敷の使用人たちが勝手にしたことです! な、何しろフィーネは離れに住んでおるのですから……わ、我らが知る筈も無いでしょう?」「そうですか……。なら問います。何故フィーネだけを離れに住まわせる!? 彼女はここの正当な血を引く女性なのに!」ジークハルトは私を掻き抱いた。その力強さが嬉しかった。「そ、それは……フィーネが離れに住みたいと……」叔父の言葉の後に、今度は叔母が口を挟んでくる。「ええ! そ、そうよ! 私たちはフィーネの為に……両親を亡くして1人寂しい思いをして城に住んでいる彼女の為に、ここに来てあげたって言うのに、私達と同じ城で生活するのは嫌だからと言って、1人離れに住んでいるだけです!」何て勝手な……いい加減なことばかり言って来る人たちなのだろう。もう限界だった。「嘘です! 私はそんなこと一言も言ってません! こっちは頼んでもいないのに勝手にこの城へ上がり込み、私を
last update最終更新日 : 2025-11-01
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12 嘘を吐く人々

3人のメイド達が出ていくと、ジークハルトは叔父を睨みつけた。「何と言う恐ろしい人だ……罪を使用人に擦り付けるだけでなく、殺すなどと脅迫して追い出すとは……」「はて? 何を仰っているのですか、ジークハルト様。私はフィーネを閉じ込めただけでなく、ヘルマに命じられたと嘘を吐く不届きなメイド達を処罰しようとしただけですが? 本来であれば実際に殺しても良い程の罪をあの者たちは働いたのですよ。何しろあの倉庫は色々と曰くつきですからな。その昔、恋人に捨てられて首をつって自殺したメイドが怨霊となって現れると噂されていた場所なのですから」ジークハルトに睨まれつつも、叔父は平然と嘘を吐く。「何だって!? あなた方はフィーネをそんな危険なところに閉じ込めたのか!? そのような恐ろしい場所に閉じ込めて彼女に何かあったらどう責任を取るおつもりだったのだ!?」ジークハルトがここまで怒りを露わにする姿を私は初めて見た。彼は私の前ではいつも紳士であったから。「何をそのように大げさに騒ぎ立てるのですか? この通りフィーネは無事だったのですから問題は無いでしょう? メイド達もこの城から追放したのですから」叔父は悪びれる様子も無い。「ええ、そうですわ。落ち着いて下さい。ジークハルト様」バルバラ夫人はジークハルトに愛想笑いを浮かべる。「ここまできて開き直るとは……何と呆れた人達なのだ。今すぐフィーネの待遇を改善しないのであれば王宮に赴き、国王陛下に謁見してアドラー家の正当な後継者に対して不当な扱いをしている事を全て報告させて貰う。勿論。フィーネを監禁した事も全て含めて!」「そ、それは……!」ジークハルトのその言葉に流石の叔父も青くなった。「あなた……!」「お父様!」夫人とヘルマは叔父に縋りついてきた。「わ、分った! フィーネの待遇をもとに戻そう! やはりこの城の正当な後継者は亡き兄の娘であるフィーネなのだからな」叔父は必死になってジークフリートに訴えると、次に私を見た。「フィーネ。今の話を聞いただろう? 元の部屋に戻る為にここにある荷物を片付けておきなさい。後で使用人達を呼んで手伝わせるから」「分りました」良かった……元の部屋に戻れるなんて。これも全てジークハルトのお陰だ。「ありがとう、ジークハルト」するとジークハルトは笑みを浮かべた。「いや、当然のことだよ
last update最終更新日 : 2025-11-02
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13 誰も来ない部屋

 私は離れの部屋で黙々と部屋の片づけを行っていた。バスルームの小物を全て収納ケースにしまったり、テーブルの上の物を片付けたり……。それなのに一向に1人の使用人も手伝いに現れない。既にあれから2時間が経過しているというのに。「何故誰も手伝いに来てくれないのかしら? 1人で荷物を運べないのに……」床の上に座って荷造りしながら溜息をついた時。「フィーネ様? 何をされているのですか?」扉の外から声が聞こえた。みると開け放たれた扉の外にはユリアンが立っていた。「まぁ、ユリアン。貴方が手伝いに来てくれたの? 入って来てくれる?」「はい、フィーネ様」声をかけるとユリアンは部屋の中に入って来た。そして部屋の中を見渡し、首を傾げる。「フィーネ様。一体どうされたのですか? 荷造りなどなさって……何処かへ行かれるのですか?」「え? 叔父様から何も話を聞かされていないの?」「何の話でしょうか?」ユリアンはわけが分からないと言う感じで首を傾げる。「そんな……私、今日から離れの塔から本館へ移ることになったのよ? それで荷物整理をしていたのだけど……叔父様が言ってたのよ? 使用人達を呼んで手伝わせると」「いいえ? そのような話は初耳ですし、離れの使用人たちは殆ど全員本館にいますよ? 突然旦那様が本館の大掃除を始めるから使用人を全員集まる様に言われたのです。私は今本館で足りなくなった掃除用具を取りに来たのです」「な、何ですって……? だって叔父様は……」まさか叔父様は私を離れから移すつもりは無かったのだろうか? 始めから騙すつもりで……? なら何故ジークハルトはここへ来てくれないのだろう? 叔父様を説得してくれなかったのだろうか?「フィーネ様? どうされたのですか? 顔色が悪いですよ?」ユリアンが心配そうに尋ねてきた。「私……行くわ……」「え? 行くって一体どこへですか?」「本館よ! 叔父様の所へよ!」それだけ言うと立ち上がり、急いで本館目指して走り出した。「待って下さい! フィーネ様! 私も行きます!」ユリアンが追いかけて来た。「ユリアン……貴方は掃除用具を取りに来たのでしょう? 私は大丈夫だから自分の仕事をして?」「ですが……」「お願い、叔父家族に逆らった使用人たちはクビにされてしまうわ。今日も3人メイドがクビにされたのよ」「え? 
last update最終更新日 : 2025-11-03
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14 見下される私

 離れから本館の城まで私は急ぎ足で向かった。「お待ち下さい! フィーネ様!」長い渡り廊下を歩いていると、背後からユリアンの声が迫ってきた。振り返ると大きな荷車を引いた彼がこちらに向かってやってきた。「ユリアン……」「フィーネ様。私も一緒に参ります」「ええ、それは構わないけれど貴方は持ち場へ戻ってちょうだい。私は叔父様の元へ行くから。恐らくジークハルト様も一緒だと思うし」「え……? ジークハルト様ですか? あの方は……」並んで隣を歩くユリアンの顔が曇る。「何? そんな顔をして……どうかしたの? 今、何を言いかけたの?」「い、いえ。私はまだこの城にフットマンとして雇われて日が浅いものですから……お顔は拝見したことはあるのですが……どの様なお方なのか分からかなったので」「そうだったのね? ジークハルト様は私の婚約者なのよ。私が18歳の成人年齢になれば結婚することになっているの」「え!? あの方はフィーネ様の婚約者なのですか!?」目を見開くユリアン。……そんなに驚くことなのだろうか?その時、背後から声をかけられた。「ユリアン! どこまで行くんだ!? 掃除用具を持ってこっちへ来てくれ!」2人で振り返るとそこには本館の城のフットマンがユリアンに手招きしていた。その人物には見覚えがあった。「何ですか……誰かと思えばフィーネ様じゃないですか? 一体本館に何の用事ですか?」嫌味を含ませた言い方をするフットマン。「何を言ってるの? 私はこの城の正当な跡継ぎなのよ? 私はもうすぐ18歳になるの。そうなるともう後見人である叔父様も必要なくなるわ。その私に向かってそんな口を利いてもいいと思っているの?」いくら今は離れに追いやられているからといって、フットマンにここまで言われるのは我慢出来ない。「……っ!」フットマンは悔しそうな顔を見せると、ユリアンを手招きする。「おい! 早く来い! 掃除しに行くぞ!」「は、はい……」「全く……使えない奴だ」フットマンは吐き捨てるように言うと中庭へと向かって行った。「……申し訳ございません、フィーネ様……」ユリアンが頭を下げてきた。「え? 何を謝るの? 貴方は何も悪くないじゃない」「ですが……フィーネ様にあの様な口を聞く相手に何も言い返せませんでした。……彼は私よりも先輩なので……」「いいのよ。新
last update最終更新日 : 2025-11-04
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15 婚約者の不在

 本館の城には大勢の使用人達が集まって大掃除をしていた。その中には離れで働く使用人たちの姿もある。まさに全員が集められている。本当にユリアンが言った言葉通りだった。……酷い。叔父様……。叔父はここに使用人全員を集めて、突然大掃除を始めさせたのだ。私の手伝いをさせない為に。一刻も早く叔父の元へ向かって問い詰めなければ。きっとジークハルトも叔父と一緒にいるはず。私の話を聞けば、驚いて叔父を叱責して本館へ移る為に使用人を手伝いに寄越してくれるはずだ。****「こ、ここね……」ハアハアと息を切らせながら叔父が占拠しているお父様の執務室の前にやってきた。ここへ来るまでに何人もの使用人たちにすれ違ったが、彼らは皆冷たい視線を投げつけるか無視するかのどちらかだった。大丈夫、私はまだ耐えられる……。後1ヶ月我慢すれば私は18歳の成人を迎える。そうすれば正式にこの城の女城主となって、更には愛するジークハルトと結婚することが出来るのだから。深呼吸すると部屋の扉をノックした。――コンコン「……誰だ?」「私です。フィーネです」「な、何だと!? フィーネだと!?」部屋の中で叔父の焦り声が聞こえる。「入りますね」「ま、待て!」しかし私は構わずドアノブに手を掛けて扉を開けた。カチャリと扉を開くと、そこには書類の束が書斎机の上にあり、叔父がかき集めている姿が目に入った。「な、なんだ! 誰が入って良いと許可を与えた!?」叔父は顔を真っ赤にさせながら引き出しの中にバサバサと書類をしまっていく。その様子はまるで私の目には触れさせたくないと言わんばかりの勢いだ。「叔父様、それを言うならそっくりそのままお言葉をお返しします。叔父様は誰の許可でお父様の書斎に入っているのですか? ここは城主が使う部屋です。私は叔父様にこの部屋を使用する許可を与えておりませんが?」「うぬぬ……な、何と生意気な娘なのだ。誰の為にこの城に住んでやっていると思っているのだ?」「私は一度もその様な事は頼んではおりません。それにお忘れでしょうが来月には私は18歳……成人となり、ここの女城主になれます。そうなれば叔父様達をこの城から追い出すことが出来るのですよ?」「フィーネッ! お、お前……本気で言っているのか!?」叔父は目を見開き、私に怒鳴りつけた。しかし、私は少しも怖くない。何故なら
last update最終更新日 : 2025-11-05
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16 叔父の言い分

「え? 帰った!?」「ああ、そうだ。この執務室についてすぐのことだった」「そ、そんな…」いくら急ぎの用事だからと言って、半月ぶりに婚約者に会えたのに? 私に何一つ声をかけずに……帰った……?すると、叔父がニヤリと笑みを浮かべた。「まぁ、彼も18歳になって、自覚が湧いたのではないか? 良いではないか。どうせ今年中に2人は結婚するのだろう? そうなれば嫌でもずっと一緒に暮らしていけるのだから」「私がジークハルト様をイヤになることなど決してありません」叔父の言い方が気に入らず、強い口調で言い返す。「それよりも、何故使用人たちに大掃除をさせているのですか? 私がここへ戻る為の手伝いを寄越してくれる約束では無かったのですか?」「ああ……そのことだが、やはりフィーネをここへ戻すには見違えた様に綺麗にした場所で迎えたいではないか。だからお前の為に大掃除をさせているのだよ?」妙に恩着せがましい言い方をする。「私は一度もそのようなお願いはしておりません。大掃除など必要ありません。一刻も早く手伝いを離れに寄越して下さい。すぐにここへ移りたいのです」「それはならぬ。私はいわばお前の親代わりのような者だ。明日、必ずフィーネを移してやる。今夜一杯は離れにいてくれ、頼む」叔父が頭を下げてきた。何故叔父はここまで私を離れに留まらせようとするのだろうか? しかし、使用人を寄越してくれなければ私はどうすることも出来ない。「分かりました……。明日は必ず使用人を手伝いに寄越してくれるのですね?」「ああ。そうだ。約束しよう」叔父はやけに愛想笑いをしながら私を見る。その様子に訝しみながら頷いた。「……分かりました。約束は必ず守って頂きますから」「分かってるよ、勿論だ」それならもうここに用は無い。それどころか、叔父と同じ空気をこれ以上吸うことに我慢出来なかった。「では離れに戻ります」「ああ、気をつけてな」「……? はい、では失礼対します」叔父の言葉に違和感を抱きながらも、頭を下げると執務室を後にした。****「ジークハルト様…」離れに戻りながら、ポツリと愛しい婚約者の名を口にした。どうせ今日離れに移動することが出来なかったのなら、片付けなどやめて彼と一緒に過ごせばよかった。せっかく半月ぶりに会えたというのに。 お父様とお母様が生きていた頃はとても幸せだ
last update最終更新日 : 2025-11-06
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17 衝撃の夜

 真夜中――ふと何故か突然私は目が覚めた。何処からか風が吹いている気配を感じたからだ。ゆっくり起き上がると、バルコニーへ続く窓が大きく開け放たれ、レースのカーテンが風で揺れている。空には大きな満月が浮かび、部屋の中が青白く照らし出されていた。「え……? 何故窓が開いてるの……?」するとすぐ近くで男の声が聞こえた。「何だ、起きたのか? そのまま大人しく寝ていれば良かったものを」「え!?」驚きで振り返ると、そこにはマント姿に口元をスカーフで隠した黒ずくめの人物が立っていた。そして手には短刀が握られている、「だ、だ、誰!?」「俺か? 俺はある人物からあんたを殺すように言われて雇われた者だよ」その言葉に衝撃が走る。「え……? わ、私を殺しに……!?」そんな……!「う、嘘でしょう……?」ガタガタ震えながら男を見た。「嘘なんかついてどうする? ちゃんーんと依賴料も貰っているんだ。まぁはした金だけどな。あんたみたいなお嬢様、造作なく殺せるからだろう?」「な、何ですって……?」そんな……お金で殺し屋を雇うなんて……!「だ、誰……? だ、誰が私を殺そうとしてるの……?」震えながら尋ねると男は肩をすくめた。「あいにく、それだけは絶対言えないな……恨むなら俺ではなくあんたを雇った人間を恨むんだな!」そして男は短刀を振りかざした。「いやあああ!」とっさにベッドの上に置かれたクッションを構えて目を閉じた。次の瞬間――ザクッ!!何かが突き刺さる音が聞こえた。「チッ!」男の舌打ちが聞こえたので恐る恐る目を開けると、そこにはクッションにざっくりと突き刺さったナイフを握りしめていた男が立っていた。「くそ!」男は忌々しげ私からクッションを奪って放り投げた。「キャアッ!」ベッドから急いで降りて逃げようと背を向けた時……。ガッ!いきなり両手で首を閉められた。「グッ!」途端に呼吸が出来なくなる。男は私の首をギリギリとしめつけてくる。「へへ……悪いな……あんたに生きていられると困る人間たちがいるんだよ……ここで死んでくれ」「あ……」苦しい……痛い……息が出来ない……誰が私を殺そうとしているの……?いや……死にたくない……生きたい……こ、こんなところで死んでたまるものですか……!すると次の瞬間――突然自分の身体が焼けるよう
last update最終更新日 : 2025-11-07
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18 震える叔父  

 翌朝――「う〜ん……」眩しい太陽が顔に差し込み、目が覚めた。そして自分が冷たい床ので眠っていたことに気がついた。「え……? 何故、こんな床の上で眠っていたのかしら……?」ムクリと起き上がると何故か体中がズキズキと痛む。窓は大きく開け放たれ、レースのカーテンが風で揺れている。「窓が開いている…? 変ね……。昨夜は窓を閉めて寝たはずなのに……」いや、でも一番問題なのは私が床の上で眠っていたと言うことだ。何故この様な場所で眠っていたのか皆目分からなかった。ズキズキ痛む身体を無理に起こし、ポツリと呟いた。「とりあえず……湯浴みしましょう。そうすれば身体の痛みが少しは治まるかもしれないわ……」その時――バタバタと複数の足音がこちらへ向かって走ってくる音が聞こえた。そして……。ガチャッ!!乱暴に扉が開けられ、叔父が4人のフットマンたちを引き連れて突然部屋の中に入ってきた。「な、な、何だと!? フィーネッ!? そ、そんな馬鹿な……!」何故か叔父は私を見ると真っ青な顔で私を見ている。叔父の態度もそうだったが、いきなり部屋の中に入ってきたことが許せなかった。「叔父様! 何ですか!? いくら叔父様とは言え、ノックもなしに勝手に部屋に入って来るなんて失礼ではありませんか!?」しかし、叔父は顔を青ざめさせたまま返事をしない。「な、何故だ……何故フィーネがここに……?」「何故ここに? その台詞を叔父様が言うのですか? 私をこの部屋に追いやったのは叔父様ではないですか? それを今更何を仰るのです?」「だ、旦那様……」叔父の直ぐ側に立っていたフットマンが声をかけ、叔父がようやく我に返ったかのようハッとなると、私の方を見た。「あ、ああ……す、すまなかった。フィーネ。実はこんなに朝早く来たのは……そ、そのお前を……本館に移してあげようと思ってここへ来たのだよ? すぐに部屋を移ると良い。もう部屋の準備は整っているから」「そうですか。ならすぐに移動します。そこのフットマン達が私の荷物を運んでくれるのですよね?」「あ、ああ。その通りだ。お前たち、フィーネの荷運びをするのだ」叔父が命じた。「「「「はい!」」」」4人のフットマンは同時に返事をする。「そ、それでは……。フィーネ。一緒に行こうか?」「え? ええ」叔父の言葉に訝しげに思いながらも私は
last update最終更新日 : 2025-11-08
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19 怯える叔母

 叔父の後に続き、日の差し込む明るい廊下を自室目指して歩いていると丁度バルバラ夫人がこちらへ向かって歩いて来るところだった。「あら、あなた。どうでしたか? 離れの様子は……ヒッ!」叔父に話しかけてきた夫人は背後にいる私の姿に気付くと、何故か顔面蒼白になった。「叔母様? どうかされましたか?」声をかけると叔母は目を見開いて私を見つめ……歯をガチガチと鳴らして震え始めた。「な、何故フィーネがここにいるの……? いるはずがないのに……まさか、失敗……」え? 失敗? 一体どういう意味だろう?「この馬鹿! 軽々しく思ったことを何でも口にするでない!」突如叔父が叔母を強い口調で注意する。「知らない……私は何も知らないわ……」しかし、叔母は叔父の声が聞こえているのか、いないのか返事をしない。が……なぜか私を凝視している。何か用事でもあるのだろうか……?「叔母様?」私が再び声をかけると、叔母の肩がビクリと跳ねた「う、嘘よ……そんな……生きているはずが……?」「え?」今何て……?「いい加減にしないか! バルバラッ!」ついに叔父が叔母を怒鳴りつけた。「!」叔母の目に脅えが走り、次の瞬間叔母はバタバタと何所へともなく走り去ってしまった。「ま、全く……あいつときたら……」叔父はそんな様子の叔母を見て忌々し気にうなった。「あの……叔父様?」肩で息をする叔父に声をかけた。「な、何だ!?」怯えた様にこちらを振り向く叔父。「叔父様、今の叔母様の台詞は一体何ですか?」すると叔父は大きく首を振った。「知らん! わ、私は何も聞いておらん! そ、それよりも……今朝の朝食はき、期待してよいぞ? わ、私は厨房へ行ってお前の分の食事を部屋に運ぶように伝えて来る!」そして叔父はまるで私から逃げるかのように大股で歩き去って行った。「何なの……? 一体叔父様も叔母様も……」しかし、あの叔父夫婦が自ら私を避けてくれるのはありがたかった。離れから本館に移れたのは嬉しいが、叔父家族とは関わりたくなかったからだ。「この調子でヘルマにも偶然会わないことを祈らなくちゃね」そして再び私は1人、懐かしい自室へ向かって再び歩き始めた――****「フフ……懐かしいわ……」私は自分の部屋の扉の前に立つと感嘆のため息を漏らした。思えば半年前――両親は突然の馬車事故
last update最終更新日 : 2025-11-09
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