本棚の中の本は特にこれと言って大した内容の本は無かった。あるのは小説や経営書や哲学書……どれも今の私にとっては必要のないものだった。「特にこれと言った変わった本は無さそうね……」そして最後に残った本を手に取り、気が付いた。「これは日記帳だわ……」一体誰の日記帳なのだろう? 裏を返してみると、グレンと言う名が記載されていた。やはり……この日記はグレン伯爵の物だったのだ……。ハードカバーの表紙の日記帳はかなり年季ものだった。何故ならページはすっかり黄ばみ、乾ききってカサついていた。私はそっとページを開いた。日記の年代は727年から記されていた。727年と言えば、この部屋に置かれた肖像画も同じ年だ。そして26歳と記されていた。「それでは……この日記をつけ始めたのは26歳の時からなのね……」私は日記を読み始めた――****727年6月1日 ついに我妻シモーヌが初の第一子となる男児を出産した。子供が生まれてくるまでは髪の色が心配だった。もしも自分と同じ黒髪だったら? 自分と同じように世間から恐れられてしまうのではないか? 迫害されてしまうのではないだろうか。そのことを思うと恐怖でしか無かった。だが生まれて来た子供は妻によく似た美しい金の髪を持つ赤子だった。それがどれだけ嬉しかったか……。今まで子供を持つことを拒んでいた自分は何と愚かだったのだろう。元々アドラー家は代々金の髪を持って生まれて来るのが普通なのだ。私の様に突然変異で黒髪を持って生まれてくることは殆ど無いのだから。愛しい我が子を胸に抱き、初めて父親になった喜びを胸に抱きしめた―― その後の日記には些細な日常が書かれていた。グレン伯爵は息子の名をアントニオと名付け、とてもかわいがっている様子が日記で読み取れた。「……」私は暫くの間、グレン伯爵の日記を読んでいたが……あるページで手を止めた。「え……?」そこには恐ろしい記述がされていた。727年10月30日10月28日……この日、我妻シモーヌが領民達の手によって殺害された。理由は「悪魔の伯爵」と呼ばれた私の子供を殺そうとした領民達から息子を守る為だった。私がいけなかった。この日は国王陛下の謁見の為に護衛の兵士を引き連れて城を開けてしまった。この城には私を良く思わない親族が送り込んだ密偵が潜んでいたのだ。密偵は城を開城し、そこへ領
Last Updated : 2025-11-30 Read more