All Chapters of 黒薔薇の魔女~さよなら皆さん。今宵、私はここを出て行きます: Chapter 51 - Chapter 60

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50 ※殺戮の幕開け ⑤ (残虐シーン注意)

「あら? ジークハルト様……私を魔女と呼ぶのはもうやめたのですか?」血に飢えた狼の背中を撫でながらジークハルトを見た。「そ、そうだよ。君は魔女なんかじゃない。僕の愛する婚約者のフィーネだよ」青白い顔に無理に笑みを浮かべるジークハルト。彼の手のひらを返したかのような態度に、途端に叔父達から非難の声が上がる。「ジークハルト! フィーネに媚びを売って自分だけ助かるつもりなの!?」「酷いです! 私を愛していると何度も言って下さったではありませんか!」「貴様が一番フィーネを嫌悪していただろうが!」「うるさい! 黙れ! フィーネの両親の命を奪い、この城と財産を奪ったのはお前たちアドラー家だろう!? 俺は無関係だ!」そしてそこから狼と骸骨の集団を前に、4人の激しい口論が始まった。本当に人間と言う者は、なんと醜いエゴの塊なのだろう。私は半ば呆れて口論を続ける叔父達とジークハルトを見つめていたが……ついにジークハルトが叔父達を一喝した。「うるさい! お前たちのいざこざに俺を巻き込むな!」そしてさらに強張った笑みを張りつかせながら私を見る。「フィーネ。やっぱヘルマよりフィーネの方がずっと魅力的だ。君を愛している……。今までの僕はどうかしていたんだよ。だから……僕だけはどうか見逃してくれないだろうか……?」もうこれ以上ジークハルトの戯言を聞いていたくは無かった。「ジークハルト様」「な、何だい?」その狼狽ぶりから未だに私に対する嫌悪感を持っているのは明らかだった。「……本当に私をまだ愛していらっしゃるのですか?」「勿論だよ!」即答するジークハルト。「嘘よ! そう言って1人だけ助かろうとしているのよ!」ヘルマが叫ぶ。「うるさい! 黙れ!」パーン!ついにジークハルトはヘルマに平手打ちした。「ジ、ジークハルト様……?」ヘルマは頬を押さえながらジークハルトを見る。「お前らいい加減にしろ! 俺を巻き込むな!」ジークハルトは激怒すると、再び私を見つめて笑みを浮かべる。本当に……私は人を見る目が無かった。こんな男の何所が良かったのだろう?「ジークハルト様……先程貴方は私を愛していると仰いましたね? 本当ですか?」「本当に決まっているじゃないか……」震えながら返事をしている様子が手に取る様に分った。「そうですか……。ですが……私はもう貴方を
last updateLast Updated : 2025-12-10
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51 ※殺戮の幕開け ⑥ (残虐シーン注意)

「ギャアアアア―――ッ!」部屋の中にはヘルマの断末魔の叫びが響き渡っている。しかし2匹の狼達はヘルマの絶叫を物ともせずに身体の上にのしかかり喰い散らかしてく。部屋の中はますます血の匂いが濃くなっていく。「ウ、ウゲッ!」真っ青だった叔父が突如体を背けて嘔吐している。自分の娘が生きながら喰われてる様はさぞかし気持ち悪くなったのだろう。「……」やがてヘルマのうめき声すら聞こえなくなった。ヘルマの身体は狼の下敷きになっているのでどのような状況になっているかは私からは見えなかったが、もう殆ど喰い散らかされているに違いない。部屋の中は狼が血をすする音と、咀嚼音だけが響き渡る。そして残りの狼たちは口からヨダレをダラダラと垂らしながら怯える3人を睨み付けている。もはや狼たちにとっては叔父達は単なる餌としての認識しかないのだろう。「ガウッ!!」ついに食事を終えた2匹の狼は顔を上げて後ろへ下がった。するとそこには血だまりの中にヘルマの骨と化したものが転がっていた、まだあちこちには肉片やヘルマの着ていた服の切れ端が落ちている。するとそれを目にした途端、叔母が叫び出し……大声で笑いだした。「あぁ……う、嘘よ……ぉっ! こんなの嘘だわぁ……ッ! アハハハハハ…ッ!」「く、狂った……!」ジークハルトが叔母を見て叫んだ。「キャハハハハハハハッ! アーハッハッハッ……ッ!」髪を振り乱し、天井を仰ぎながら笑う姿は狂女そのものだった。でもそれは無理ないことだろう。自分の娘が生きながら狼に喰われ、さらに自分達も同じ目にこれから遭わされるのだから狂うのは当然かもしれない。「アハハハハハハハハッ! ヒーヒッヒッヒッ!」狂った叔母の笑い声に触発されてか、今までお預けを食らっていた2匹の狼が叔母に襲い掛かった。「ガルルルルルルルッ!」しかし、狂った人間は痛みも感じないのだろうか? 叔母は血しぶきを上げながら狼たちに腕や足を喰いちぎられているのに悲鳴を上げずに笑い続けていた。その光景はまさに地獄絵図だ。叔父もジークハルトもなすすべも無く叔母が無残に喰われていく様を呆然と見ている。彼等にはもう逃げる気力すら残されていないのだろう。そこで私は骸骨たちに命じた。「貴方達はこの城の宝を全てかき集めて来なさい」骸骨たちは無言で頷くとカタカタと骨を鳴らしながら出ていく。叔母は相変わらず
last updateLast Updated : 2025-12-11
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52 ※殺戮の幕開け ⑦ (残虐シーン注意)

「フィーネッ! き、貴様……。この悪魔! よくもパメラとバルバラを!」叔父は叫ぶと私を睨みつけてきた。「その台詞を叔父様が言うのですか? 私が何も知らないとでも? 叔父様は人を雇ってお父様とお母様を殺しましたよね? 本当なら私も一緒に乗る筈だった馬車に細工をして」「な、何だって!? 何故その話をお前が知っているのだ! まさかジークハルト! お前が喋ったのか!?」叔父は血走った目でジークハルトを振り返った。「そんな話俺がするはずはないだろう!」ジークハルトは髪を振り乱しながら叔父に反論する。「大体あんたがあの魔女を殺し損ねたからこのような目に遭ったのだろう! あの時、本当に部屋に殺し屋を差し向けたのか!?」「あの時……?」一体何のことだろう?「ああ! 確かに殺し屋を雇った! なのにフィーネは死んでいなかった! 代わりに殺し屋が姿を消していた……そうか! お前が返り討ちにしたのだな!?」叔父が私を指さす。「私には何のことか分りませんが……一つだけ分りました。つまり、あなた方は何度も私を殺そうとしてきたと言うことがね……」私は狼の背にそっと触れた。「もう話はここまででいいでしょう? この子たちもいい加減飢えを満たしたいでしょうし」まだお預けをくらっている4匹の狼たちは先程から威嚇の唸り声をあげ、耳まで避けた口からは牙が光り、口元からは涎がダラダラと垂れている。「ヒ……」叔父が真っ青な顔で震えた。「魔女……我々も生きながら狼の餌にするつもりか……?」ジークハルトは怒りと激しい恐怖の為か、すっかり人相が変わってしまった姿で尋ねる。「ええ。当然ではありませんか。私の受けた痛みや苦しみを、その身体で味わいながら死んで逝って下さいな」ニッコリ笑う。するとジークハルトは不敵な笑みを浮かべた。「ハハハ……本当に貴様は……身も心も醜い魔女に成り下がったのだな……」「そうでしょうか? ジークハルト様、貴方の方が余程私の目には身も心も醜く見えますが?」するとジークハルトは叫んだ。「黙れ魔女! 貴様の思惑通り死んでなるものか! 狼に生きながら喰われる位なら……自ら命を絶つ!」言うや否や腰にさしていた剣を抜き、自分の喉元を切りつけようとした瞬間――「あなた達! 行きなさい!」私は4匹の狼に命じた。すると狼達は床を蹴り、一瞬でジークハル
last updateLast Updated : 2025-12-12
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53 ※私はフィーネ。全てを終わらす者 (残虐シーン注意)

「や、やめろっ! 頼む……っ! 許してくれーっ!! ギャーッ!! あ、あっちへ行ってくれ! フィーネッ!! 助けてくれっ!!」「こ、この……魔女め……っ!! グアアアアアアーッ! よ、よせーっ!! やめろっ! 俺を……喰うなーっ!!」狼の下敷きにされた2人の痛みと苦しみ……そして恐怖の絶叫は止むことはない。2人とも私の魔力で心臓が無事な限り、死ぬことは無い。なので未だに意識を失うことも無く、泣き叫び続けている。「フフフ……まだまだ叫ぶ元気がありそうですね。心臓が止まる最後の時まで苦しみ抜いて死んで下さい」「痛い痛い痛いっ!! ギャーッ!!」「た、頼むっ!! いっそ……いっそ殺してくれーっ!」叔父とジークハルトの絶叫が響き渡る。断末魔の叫びを上げ続けていた2人はやがて声を発する事も出来なくなった。恐らく発声器官を喰い破られたのだろう。今や狼の牙を立てる音や咀嚼音……血をすする音しか聞こえなくなった。叔父とジークハルトの耳には私の声は届かないだろうが……今も狼に喰われ続けている2人に私は語った。「あなた方の死を見届けた後……私はこの城を燃やし、無に返します。私の名はFine(フィーネ)。全てを終わらす者……。アドラー家はこれでもう終わりです」やがて全てを喰らいつくしたのだろう。2匹の狼達が私の方を振り向き、ゆっくりと近づいてくると足元にひれ伏した。「どう? お前たち……。飢えはもう満たされたかしら?」私は2匹の狼達の背中を撫でると、彼等は嬉しそうに尻尾を振る。「さて、叔父様とジークハルト様はどうなったかしら……」血まみれの床に転がる骸骨を確認する為に私は近付き……笑みを浮かべてジークハルトと叔父の骸骨を見下ろした。するとそこにはまだドクドクと脈打つ2つの心臓が血溜まりの床の上に落ちていた。彼等は心臓だけになってもまだ生きていたのだ。「フフフ……上出来よ。よくやったわ」私は2匹の狼達を見て笑みを浮かべた。「叔父様、ジークハルト様……最期は私の手で貴方達の息の根を止めてあげますね?」そして指先から燃え盛る火の玉を作り出した。「炎よ……この醜い欲にまみれた彼等を燃やし尽くし……全てを無に返しなさい」そして迷うこと無く、未だにうごめく2人の心臓目掛けて火の玉をげつけた。ボッ!!あっという間に燃え盛る炎に包まれる2つの心臓。そしてそ
last updateLast Updated : 2025-12-13
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54 せめて最期は……

 月明りで青白く照らされた城の廊下は血にまみれていた。城の内部はむせかえるような血の匂いが充満し、血だまりの中には無数の骸骨が転がっている。ピチャッピチャッ……  そんな血の海の中を私は1人、フラフラと歩いていた。目指す場所はかつて父と母の3人で同じ時間を共に過ごしたお気に入りの広間……。そこで私と母は2人で並んでピアノを弾き、父がその音色を楽しんだ。思い出の広間――ガチャ……広間の扉を開けて、中へ入るとその空間だけは何所も荒らされた形跡も無く、惨劇の跡も無かった。「フフフ……この部屋だけは……醜い血で汚されることは無かったのね……」私はピアノの前に座り、鍵盤の蓋を開けた。ポロン……叔父家族がこの城に乗り込み、私が離れへ追いやられていた間にピアノの調律は狂っていた。ヘルマはピアノが弾けなかったので誰も気にかけてはくれなかったのだ。「このままでは弾けないわね……」 私は魔力を使って、ピアノの調律を戻すとすぐにピアノを弾き始めた。最初は父が大好きだったピアノ曲。今や誰も聞く人がいない城の中で、ただ1人私はここでピアノを弾き続ける。自分の最期を迎えるその時まで……。 彼等に対する復讐を計画した時から、最期はこの城と共に一緒に燃えて朽ち果てようと決めていたのだ。 いくら直接手を下さなかったとはいえ、私は狼たちを使って数多の人々を残虐に殺してしまった。もはや私のような大罪人は生きていてはいけない。だからここで……この城と運命を共にして死ぬつもりだ。 魔女と化し、このうえない残虐な方法で大量殺人を行った私は父と母のいる神の身許に行くことは絶対出来ないだろう。それならせめて両親と楽しい日々を過ごしたこの城で自分の人生を終わりにしたい。家族3人で幸せな時を過ごしたこの部屋で大好きなピアノを弾きながら……。 父の好きだったピアノを弾き終えた頃には大分城の中に火の手が回ってきていた。窓から城の向かい側の塔が見えるが、既に真っ赤な炎に包まれている。「後2曲位は弾けるかしら?」次に母が大好きだったピアノ曲を弾き始める。そしてピアノを弾きながらふと思った。そう言えば、ジークハルトは一度も私のピアノの演奏を聞いたことは無かった。「貴方の為にピアノを演奏したい」といくら私が言っても彼はいつもやんわりと断っていた。今にして思えば魔女の私が弾くピアノの演奏など
last updateLast Updated : 2025-12-14
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55 現れた人

 重い鍵盤の音に混じり、部屋時折ガラス窓が割れる音がこの部屋に響いてくる。私は黙ってピアノを引き続けた。脳裏によぎるのはこの城で大好きな父と母と幸せに暮らした懐かしい日々。親切な使用人たちに囲まれ、伯爵令嬢として何不自由なく、永遠にこの幸せが続くのだと信じて止まなかったあの頃はもう二度と帰ってくることはない。お父様……お母様……こんなことになってごめんなさい。この城を守ることが出来ませんでした。大勢の人を殺戮し、この手を血で汚してしまいました。私は死んでもお2人の元に逝くことは出来ないでしょう。恐らく私が死んだ後、この魂は地獄に落ちてしまうでしょう。親不孝な娘をお許しください……。その時――「……ネ様ー!」何処かで誰かが私の名を叫んでいる気がした。でもきっと気の所為に決まっている。それとも地獄からの死者が私を呼んでいるのだろうか……?「……ネ様ー! フィーネ様! 何処ですか!?「え?」はっきり私の名を呼ぶ声が聞こえ、ピアノを弾く手を止めた。あの声は……? まさか……そんなはずは……。その時――「フィーネ様! お願いです! 返事をして下さい!」「そ、そんな馬鹿な……」その声は私が逃したはずのユリアンの声だった。まさか……こんな燃え盛る炎の中、私を探しに戻ってきたのだろうか?「フィーネ様ー !う!」ユリアンの苦しげな声が聞こえた。「ユリアン!?」席から立ち上がると、広間の扉が勢いよく開かれた。「フィーネ様!」「ユ、ユリアン……?」広間に飛び込んできたユリアンの身体は金色の光に包まれていた。「フィーネ様……!」ユリアンは駆け寄ってくると、無言で私を強く抱きしめてきた。「良かった……。まだ……無事で……本当に……」ユリアンは泣いているのだろうか? 肩を震わせ、私のことを力強く抱きしめてくる。「ユリアン……な、何故ここに……? それにその光る身体は……?」するとユリアンはますます私を強く抱きしめてきた。「そんな話はこの城を出た後にいくらでも聞きます……。早く一緒に逃げましょう!」「駄目よ! 行ける訳無いでしょう!? 私はこの城と一緒に死ぬのだから!」「そんなの駄目です!」ユリアンは叫んだ。「ユ、ユリアン……」するとユリアンは私から少しだけ身体を離し、両頬に触れた。「死んでは駄目です! 貴女は死んではいけ
last updateLast Updated : 2025-12-15
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56 目にした惨劇

 冷たい風が頬を撫で、私は呻き声をあげながらゆっくり目を開けた。「う……」「目が覚めましたか!?」すると私の瞳にこちらをじっと見下ろすユリアンの姿が目に写った。「ユ、ユリアン……ここは……?」視線だけを動かし、私は自分が草むらの上に横たわっていたことに気がついた。周囲は木々に囲まれている。「ここは城から少し離れた場所にある湖の近くの林の中です」「え……?」身体をゆっくり起こそうとすると、ユリアンが手を差し伸べてきた。「手をお貸しします」「ありがとう……」ユリアンの手を借り、ゆっくり起き上がった私は城を振り返った。視線のずっと先には夜空の中、真っ赤に燃え盛る城の姿が遠くに見え、湖面にもその姿が映し出されている。城から吹き上がる炎は天高く伸び、黒い煙を上げていた。余程火の勢いが強いのだろう。風にのってここまで焦げた匂いが漂ってくる。「……よく燃えているわね。この分だと全て燃え尽くすまでに時間はそうかからないかもしれないわね……」ポツリと小さく呟いた。「フィーネ様……」ユリアンは私をじっと見つめている。「……ユリアン」「はい、フィーネ様」「何故私を助けに来たの? どうしてあのまま……あの城で死なせてくれなかったの……?」つい、ユリアンを責めるような言い方をしてしまう。だって大量虐殺と言う大罪を犯した私はこの世に生きていてはならないのに。思い出の沢山つまったあの城と共に朽ち果てようと思っていたのに……。「どうしても……フィーネ様に死んでほしくはなかったからです」「何故なのユリアン。私を助けに城に戻ったのなら目にしたはずでしょう? あの城の惨劇を……。血に塗れたあの城。無数に転がる骸骨の山を……私が何をしたのか貴方に教えてあげましょうか?」「狼達が……あの城を襲い、人々を食べ尽くした……違いますか?」「え……? な、何故それを……? ま、まさか……何処かで見ていたの!?」心優しいユリアンには私が狼を使って残虐な殺人を犯している光景を見られたくは無かったのに……!「いいえ、見てはおりません。ただ……フィーネ様から頂いた馬車で城へ戻る途中、狼の大群に遭遇したのです。彼等の毛は血に染まっていました」「……」私は俯いたまま、黙ってユリアンの話を聞いていた。「あの大群を目にした時、命の危機を感じました。ひょっとすると襲われる
last updateLast Updated : 2025-12-17
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57 ユリアンの正体

「それなら分かるでしょう? 私がどんな人間か……いえ、私はもう人間ではないわ。血に塗れた魔女になったのよ」するとユリアンは首を振る。「私にもフィーネ様がどの様な人なのか分かっています。寂しがり屋で……人一倍繊細な女性だと言う事が」「私は少しも繊細なんかじゃないわ……。復讐の為なら平気で残虐な手段で人を殺める血に飢えた残忍な魔女なのよ……」「だったら……何故、そんなに悲しげに泣くのですか?」「え……?」「御自分で気付いていなかったのですか? 泣いているということを…」ユリアンは私の涙を指ですくい取った。そんな……私……泣いていたの……?私は顔を伏せた。「お願い……。ユリアン。もう私のことは放っておいて。貴方はこの地を去ってちょうだい。自分の国へ帰るなり、自由に何処へでも好きな所へ行っていいのよ? 貴方に渡した宝石……お金に換えればかなりの額になるはずだから当面お金に困ることはないはずよ。もうアドラー家は完全に終わってしまったのだから……」だけど、最後にアドラー家の城主として領民達にこの城の宝を分けてあげることが出来た。これ位のことしか皆にしてあげる事が出来なかったけれども……領主亡き後も、この土地を守って貰いたい……。それが私の願いだった。「フィーネ様。貴女がこの地を去るように仰るなら去りますが……その代わりフィーネ様も一緒です。私は貴女の側を二度と離れるつもりはありませんから」真剣な瞳で私を見つめてくるユリアンの言葉に耳を疑った。「な、何を言っているの? ユリアン……貴方、正気なの? 私がどんな大罪を犯したのか知っているのでしょう?」「貴女はただ、飢えた狼を城に招き入れただけです。狼達が城の人々を襲ったのは飢えを満たす為の彼等の意思です。フィーネ様が責任を感じることは何もありません」「違うわ! 私が……狼達を操って城の人達を……そして叔父様達やジークハルトを……!」するとユリアンの腕が伸びてきて、気付けば彼の胸に抱きしめられていた。「いいえ。彼等には罰が下っただけです。貴女を苦しめた罰が……」「ユ、ユリアン……」「それにアドラー家がこのような結果になってしまったのは……全て私達のせいなのです。グレン・アドラー伯爵を不幸な目に遭わせてしまったのも……」え? 一体どういう意味なの……?「い、今……何て言ったの? どうしてユリ
last updateLast Updated : 2025-12-18
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58 ユリアンの告白

「そ、それ……どういうことなの……?」言いかけて、気付いた。彼が本当にこの国の王太子であるなら口調を改めなければならない。「あ、申し訳ございません。一体どういう意味なのでしょうか……?」再度、言い直して頭を垂れた。「顔を上げて下さい……フィーネ様」言われて、顔をあげるとユリアン王太子は悲しげな顔で私を見ている。「そのような言葉遣いをなさるのは、やめていただけませんか? どうか今までと同じ口調で話して下さい」「ですが貴方様がこの国の王太子様でいらっしゃるなら、ぞんざいな言葉を使うわけには参りません。それにユリアン王太子様も私のような者に丁寧な言葉遣いをされていらっしゃるではありませんか」すると突然ユリアン王太子の口調が変わる。「だったら、私は言葉遣いを改める。だからフィーネも今までと同じ話し方をして貰えないかい?」そして彼は私の右手を力強く握りしめてきた。「え、ええ……分ったわ……」頷くと、ユリアンに再度尋ねた。「貴方はさっき、グレン伯爵や両親が悲劇に見舞われたのは国王陛下に謁見する為だと話してくれたけど、それ位のことで責任を感じる必要はないわ。貴族が国王陛下に招かれるのは別に珍しいことでは無いでしょう?」「そのことなのだけど、アドラー家では何世代かおきに圧倒的魔力を持つ黒髪の赤子が生まれてきていたらしい。そして何か有事があった場合は彼らは王宮に呼び出され、その魔力で城や王族を守る役割を担ってきたんだ。そしてグレン伯爵もそうだった。あの頃は隣国との争いが絶えない時代だった……。そこで圧倒的な魔力と魔術の腕を買われ、グレン伯爵は城に呼び出された。彼はノイヴァンシュタイン王家の直属の宮廷魔術師として、絶大な魔力で国を守ってくれた素晴らしい人物だった。やがて彼の働きで国は平和になり、その功績を称えて、元々は子爵家だったアドラー家に伯爵の地位と褒美を与えて彼はこの地の領主になったのだが……領民達は彼を恐れたんだ」ユリアンは青ざめた顔で私を見た。「それはグレン伯爵が黒髪だったから……そうでしょう?」この世界には黒い髪を持って生まれてくる者は滅多にいない。そして黒髪を持つ者は大抵の場合、生まれながらに強い魔力を持っていた。その為にいわれなき迫害を受けてきたのだ。現に……私がそうだったように……。ユリアンは頷くと続けた。「新しく領主になった
last updateLast Updated : 2025-12-19
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59 ユリアンの秘密

「そんな……私はてっきり王宮に招かれたのは国王陛下が父に用事があるからだと思っていたのに、違ったのね? 本当は……呼ばれてたのは私だったってことなの……?」だけど私はその日、体調を崩してしまって王宮に行くことが出来なかった。代わりに父と母だけが馬車に乗り……事故が起きて2人は還らぬ人に……。「お……お父様……お母様……」私は顔を覆って泣き崩れた。「フィーネ……。ノイヴァンシュタイン家のせいで本当に申し訳ないことをしてしまった。だから私はフィーネの手助けがしたくてアドラー家のフットマンとしてこの屋敷にやってきたんだ……」ユリアンが私の髪にそっと触れながら声を振り絞る様に語り掛けてくる。「だ、だけど……両親が事故で死んだのは……やはり王宮は関係無いわ……だって事故に見せかけ両親を殺したのは……叔父なのだから……」「それでも……やはり間接的に関わっていることには変わらないよ。償いなんか出来るはずが無いことは分り切っていたけれど、それでも私はフィーネの力になりたくてここに来たんだ。けれど君に婚約者がいることを知り、私の出る幕では無いと思った。だから陰でそっと見守ろうと決めたのに……まさかジークハルトがあんな人間だとは思いもしなかった……!」ユリアンの声にはどこか怒りが込められているように感じられた。「いいのよ……私だって気付かなかったのだから。ユリアンが分るはずないわ……。だから、私は彼を……」愛されていると思っていたのに……ジークハルトは私を騙し、愛するふりをしていた。湖に落とされそうになったのは私の方なのに。ヘルマが逆に湖に落ちたところで、ついにジークハルトの本性が現れたのだ。 何度も魔女と罵った。そして私は本当の魔女になってしまった。彼に剣を胸で貫かれた時はもう心が痛むことも無くなっていた……。「フィーネ。私と一緒に行こう」「え……?」ユリアンの声に顔を上げると、そこには月明かりに照らされたユリアンが私に右手を差し出している。その顔には優し気な笑みが浮かんでいた。「行くって……一体何所へ……? まさか……ノイヴァンシュタイン王家へ行くつもりなの?」「勿論だよ」「だ…駄目よ! 行けるはずはないでしょう? 私は魔女なのよ? この長く黒い髪を見てちょうだい! この……腕に浮かんだ黒薔薇を見てよ!」今や私の黒髪は背丈をとうに超えた長さにな
last updateLast Updated : 2025-12-22
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