All Chapters of 黒薔薇の魔女~さよなら皆さん。今宵、私はここを出て行きます: Chapter 71 - Chapter 80

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<魔女の弾く鎮魂歌> 悲劇の魔女、フィーネ 6

 アドラー城跡地へ辿り着いたのは午後1時を回っていた。林の近くに車を停めるとすぐに機材を車から降ろした。「とりあえず東西南北の方向に定点観測用カメラを取り付けておくか……」それにしても不気味な場所だ。昨日は始めてこの場所にやってきたことで浮かれていたが、ガイドやホテルマンの態度、そして何より俺にこの情報を持ち込んできたデイブの反応。そして極めつけは先程『メイソン』地区で目撃した不気味な光景が目に焼き付いているせいで、俺の身体には鳥肌が立っていた。「カメラを仕掛けたら一刻も早くこの場を立ち去ろう……。よし、このあたりでいいかな……」そしてカメラを覗き込んだ途端……。「!!」とんでも無い光景を目にしてしまった。何とカメラの中には無惨にも獣か何かに食い荒らされたかのような恐ろしい遺体が転がっている光景が写り込んでいたのだ。「うわああああっ!!」情けないくらい大きな悲鳴をあげて、思わずカメラから目をそらした。「え……?」しかし、そこには何も無い……ただ鬱蒼と雑草が生えているただの荒れ地が眼前にあるだけだった。「な、何なんだ……い、今の光景は……」しかし、もう一度カメラを覗き込む気にはなれなかった。風が強まってきたのだろうか……木々がザワザワとざわめき、雲行きが怪しくなってくると益々不気味な気配が濃くなっていく。「……くっ!」恐怖を押し殺し、残りのカメラを設置すると画像を確認することも無く、逃げるようにその場を後にして車に乗り込んだ。「ふ〜……」シートベルトを閉めてバックミラーを覗いた時……。「うああああああっ!!」またしても絶叫してしまった。何故ならバックミラー越しに、恐ろしい亡者たちの姿が映り込んでいたからだ。両腕がなかったり、目玉もくり抜かれたり……。身体中の肉が剥ぎ取られて内臓がむき出しになっている亡者がこちらに向かって近づいている。「くそっ!」車のキーを回し、ハンドルを握りしめて思い切りアクセルを踏む込むと車は急発進して走り出した。一刻も早くこの場を去らなければ……。恐怖で全身を震わせながら、俺はアドラー城跡地から逃げ出した―― **** 2時間程、車を走らせ続け……ようやく賑やかな町に出てきた。「良かった……。無事に戻ってこれて……」安堵のため息をつくと、近くのガソリンスタンドへ寄った。そこで給油を済ませ
last updateLast Updated : 2026-01-03
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<魔女の弾く鎮魂歌> 悲劇の魔女、フィーネ 7

 気休めにしかならないかもしれないが、一縷の望みを託して俺は教会にやってきた。町中にある店に挟まれた小さな教会は、屋根の上に十字架が無ければ教会とは気付かずに素通りしてしまうような佇まいだった。「……あまり期待は出来ないが、気休めにはなるかもしれないからな……」呟くと、扉を開けて教会の中へと足を踏み入れた。「ふ~ん……中は一応教会の様だな……」建物は外見は狭そうに見えたが、意外と奥行きのある室内だった。入り口から入るとすぐ目の前には礼拝用木製ベンチが通路を挟むように左右前後に並んでいる。一案奥には祭壇に十字架、オルガンもあった。すると、祭壇の奥にある扉から初老の神父が現れ、近付きながら声をかけてきた。「お祈りですかな?」「ええ。まぁそんなものですが……」「それは信心深いことですな。神に祈りを捧げるのは素晴らしいことで……」しかし、次の瞬間神父の顔が青ざめた。「あ、あなた……一体何者ですか!? な、何故教会にそのような汚れをもちこんだのですか!」神父は俺を指さした。その身体はガタガタと震えている。「え? やっぱり俺に何か憑りつかれているのが見えているんですね!?」すると神父は首から下げたロザリオのネックレスを握りしめながら頷く。「と、当然です……と言うか、それ程の悪霊が憑りついていれば神力の無い者でも、勘が鋭ければある程度は分りますよ……」そして神父は祭壇の方へ向かって歩いて行く。一体何をするつもりなのだろう?訝しんでいると、神父がこちらを振り向いた。右手にはロザリオのネックレスを手にしている。「と、取りあえず……こちらのネックレスをお渡しいたします」「ありがとうございます」ロザリオに手を伸ばした途端……。ブッゴトン!小さな音を立ててロザリオを繋げていたチェーンが外れて、ロザリオは床の上に落ちてしまった。「あ、すみません!」慌てて拾い上げようと、ロザリオに触れようとした時……。「熱!」ロザリオがまるで熱を持っているかのように熱く、触れることが出来なかった。「な、何でこんなに熱く感じるんだ……?」俺は自分の右手を見つめて呟いた時、神父が口を開いた。「い、一体……貴方は何をしたのですか?」その声は何所か非難めいていた。「え? 何をって……?」「い、いいですか……? ロザリオが熱くて触れられないというのは
last updateLast Updated : 2026-01-04
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<魔女の弾く鎮魂歌> 悲劇の魔女、フィーネ 8

「あ……貴女は昨夜の……」その女性は今日も真っ黒のワンピース姿に黒いパンプスを履いていた。腰よりも長い漆黒の髪は光沢を帯び、本当に美しかった。「あの……少し、お話よろしいでしょうか?」彼女は外見だけでは無く、その声もとても美しかった――****2人で近くのカフェに入った。窓際の一番奥のボックス席に座り、コーヒーを頼むとすぐ彼女に話しかけた。「それにしても嬉しいです。まさか貴女の方から声を掛けてくれるなんて夢のようです」すると、彼女は怪訝そうに首を傾げた。「あの……私を御存じなのでしょうか?」「ええ、実は昨夜偶然入ったレストランで貴女のピアノ演奏を聴いたのです。あまりにも美しい音色だったので、どうしても貴女のことが知りたくてウェイターに頼んでお話を聞かせていただきたかったのですが……。実は俺はルポライターで取材をさせて頂きたかったのです。けれど生憎貴女に断られてしまったと」「あ……もしかしてそれは貴方だったのですか? それは申し訳ございませんでした」彼女が頭を下げた時――「お待たせいたしました」俺と彼女の前にウェイターがコーヒーを運んできた。そして2人の前にカップを置くと「ごゆっくりどうぞ」と頭を下げて去って行った。さっそく運ばれてきたコーヒーを2人で飲むと、再び尋ねた。「俺は、ユリウス・リチャードソンと言います。貴女の名前も教えていただけますか?」「名前……ですか? 私は……フィオーネ。フィオーネ・アドラーと申します」何故か、彼女はまるで俺を値踏みするかのような視線で名前を名乗った。だが……。「ハハハハハ……それにしても凄い偶然ですね~。この国に残る伝説の魔女と名前がとても似ているし、それにアドラーだなんて……」「……別にアドラーと言う名字は……早々珍しくもありませんから」そんな俺の様子を彼女は黙って見ている。その姿を見れば見る程に、もし万一あの伝説の魔女が存在していたとすると、彼女のような姿だったのではないだろうかと錯覚をしてしまいそうになる。「あ、あの……? 何か……?」「ユリウスさん」不意にフィオーネが俺の名を呼んだ。「はい」「何か……お困りのことがあったのではありませんか?」「え?」突然の質問に戸惑った。ただでさえ、いきなり声をかけられただけでも驚いているのに、ましてや俺がつい先ほど神父から見捨てら
last updateLast Updated : 2026-01-05
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<魔女の弾く鎮魂歌> 悲劇の魔女、フィーネ 9

「あの城にはフィーネ・アドラーと言う当時17歳だった娘が住んでおりました。彼女には優しい両親がおりましたが馬車事故で亡くなり、代わりに叔父家族が城に乗り込んできたのです」目の前の女性……フィオーネは妙に具体的な話を始めた。「フィーネには愛する婚約者がいましたが……彼は髪の毛の黒いフィーネを嫌悪していたのです。フィーネは魔女に違いないとして。そして叔父家族の娘といつしか恋仲になり、挙句に彼女を邪魔に思う叔父家族と共謀してフィーネを殺害しようとしたのです」その話は衝撃だった。俺の知る処では婚約者に裏切られたフィーネが悲しみと嫉妬に狂い、魔女となって城中の者を虐殺したと聞かされていたからだ。「愛する人の裏切りと……魔女と罵られ、何度も殺されそうになったフィーネの怒りと絶望は凄まじく、ついに本物の魔女へとフィーネを生まれ変わらせたのです」淡々と話をするフィオーネ。しかし、その瞳は悲し気に震えていた。……本当に、なんて美しい女性なのだろう……。俺は目の前の彼女から目が離せなくなっていた。「そして満月の夜……1人、城を離れたフィーネは森の中で飢えた狼の群れを手なずけ、彼らと共に城を目指したのです……」飢えた狼……? まさか……?先程から俺の背後では何者かの気配が強まっている。背筋がゾワゾワし、鳥肌が立っていた。「フィーネは狼を城に放ち……城中の者達を生きたまま狼の餌にしたのです」「!」あまりの衝撃的な話に俺は言葉を失った。そ、そんな……生きたまま狼に食べられたのか……? その事を想像するだけで気分が悪くなってくる。だが、そんな死に方をしたとなると……。「それでは狼に生きながら喰い殺された人々の恐怖と苦しみは……相当のものだったでしょうね……」「ええ、そうです。床と言わず壁にも天井にも彼らの血しぶきが飛び、美しかった城はあっという間に惨劇の城と化したのです。」フィオーネはまるでその光景を見て来たかのように詳しく語る。聞いているこちらの胸が悪くなってくる程だ。「成程……ですがそのような死に方では当然彼らは浮かばれないでしょうね……」お俺はすっかり冷めてしまったコーヒーを口に入れようとし……黒い液体に顔面を食いちぎられたような形相の化物が写り込んでいる姿を目にしてしまった。「ヒッ!!」ガチャンッ!!乱暴にコーヒーカップをソーサーの上に置い
last updateLast Updated : 2026-01-06
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<魔女の弾く鎮魂歌> 悲劇の魔女、フィーネ 10

「……はい、分りました。……ご連絡ありがとうございました。……失礼いたします」電話を切り、ため息をつくとフィオーネが尋ねてきた。「何かあったのですね?」「え、ええ……。実は昨日アドラー城まで案内してくれた観光ガイドの男性が先程、職場の倉庫で……首を吊って自殺を図ったそうです。それでスマホの着歴から直前に俺と話をしていたことが分り、連絡を入れてきたのです。何か心当たりは無いか聞かれましたけど……」フィオーネはじっと俺をみつめている。「……何も分りませんと……答えてしまいました……」「そうですか……」ポツリと呟くフィオーネ。「だ、だってそうでしょう? いくらアドラー城のあった場所を訪れたからって……それくらいで人が簡単に死ぬはずないじゃありませんか。大体足を踏み入れただけで呪われるのだとしたら、何故俺は今も無事でいられているんです? 彼は俺の様に城の跡地には行っていないのに……」何故か目の前の彼女に無言で責められているような気持になり、必死になって言い訳をした。言い訳……? そうか……。「すみません。こんなの所詮言い訳に過ぎませんよね? 俺が彼をアドラー城に案内させたから、彼は何らかの呪いを受けて自ら命を絶った……そういうことなのでしょうね……」罪悪感で一杯になった。「ユリウスさん」「はい」「恐らく、ガイドの方が自殺をしたのは、単にアドラー城跡地に貴方を案内しただけだからでは無いと思います。他に何らかの理由があったはずです。例えば……彼の先祖が魔女フィーネの怒りに触れる行動を取っていたから……そうは思いませんか?」「え……?」「彼がこの町でガイドを務めていたのなら、恐らく長年に渡り、この土地に住んでいたのでしょう。そう考えると、その方の先祖がかつてフィーネの逆鱗に触れることをしてしまった。だから彼は呪いを受けて自殺をしてしまった……」そこまで言うとフィオーネはコーヒーを口にした。「それって……?」「はい、確かにアドラー城で呪いを受けたのは間違いないでしょうが、理由はあの場所に行ったことでは無く、彼がフィーネの逆鱗に触れた者の血を引いていたからなのです。その為貴方はあの場所に行っても無事だったのです」「フィオーネさん……」「だから、そんなに気に病まなくてもいいと思います。ガイドの方がお亡くなりになったのは御気の毒ですが……ユリ
last updateLast Updated : 2026-01-07
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<魔女の弾く鎮魂歌> 悲劇の魔女、フィーネ 11

 2人で喫茶店を出て、雑踏の中を歩いているとフィオーネが口を開いた。「ユリウスさん、日が沈む頃には怨霊の力が強くなります。今日の日没は18時半です。その時に昨夜のレストランの前で待ち合わせをしましょう」「え? ええ」まさか俺と食事を……? まるでデート気分の様になって浮かれたが、すぐにその言葉は打ち消された。「私は今夜もあの店でピアノの演奏があるのです」「あ……そうなのですか……」何だ、仕事か……。少しだけ落胆した気持ちになりながらも尋ねた。「フィオーネさんはこれからどうするのです? もし何も予定が無ければ一緒に食事でもしませんか? お互いにお昼を食べ損なってしまいましたからね」しかしフィオーネは首を振った。「……申し訳ありませんが、私はこれから仕事があるのです」「え? 仕事って……ああ、昼間もレストランでピアノの演奏でもあるのですか?」「いいえ。占いの仕事をしております」「え!? 占い師!?」その言葉に驚いた。「占い師がどうかしましたか?」「い、いえ。その……あまりにも貴女に合っているなと思って。その何と言うか……貴女の黒く長い髪や、青い瞳は神秘的で……」まるで魔女フィーネが現存していれば、彼女のような姿ではないだろうか……?いつしかそんなことを考えていた。「どうしましたか? ユリウスさん」「あ……い、え。何でもありません。では本日18時半にあのレストランの前で待っています」「はい、よろしくお願いします」「では……失礼しますね」そして俺はフィオーネに背を向けた時――「ユリウスさん」不意に声をかけられた。「はい?」まさか……気が変わって俺と食事を……?期待に胸を膨らませ、笑みを浮かべながらフィオーネを見た。しかし、彼女の口から出たのは期待していた言葉では無かった。「危険ですから、絶対にもうお1人でアドラー城へは行かないで下さいね」フィオーネの目は真剣だった。「は、はい。分りました」「ならいいです。それでは後程」フィオーネは頭を下げると、背を向けて雑踏の中へと消えて行った。「……」少しだけフィオーネが立ち去る後姿を見届けていたが……。「部屋に戻るか……」ホテルへ足を向けた――****「参ったな……カメラの映像を取りにアドラー城跡地へ行きたかったのに。あんなことになるのが始めから分っていれば
last updateLast Updated : 2026-01-08
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<魔女の弾く鎮魂歌> 悲劇の魔女、フィーネ 12

「まずは『メイソン地区』について調べてみるか……」早速地名と住所、他にキーワードをいくつか打ち込んでみた。するといくつかの検索結果が表示された。その中の1つの結果に目を止めた。「うん? これは……」『グレン・アドラー伯爵の悲劇』という検索結果に興味を引かれた。「グレン・アドラー伯爵か……そんな人物がいたのか? ……今から450年以上も昔の人物のようだな……」そして俺はグレン・アドラー伯爵についての検索結果を表示させた――****「成程……そういうことか……」グレン・アドラー伯爵が最初の悲劇だったのか。しかし、まさか『メイソン地区』に住んでいた者たちが、アドラー伯爵の不在時に城中の者達を殺害したとは……。「自分が守ってきた領民達に大切な人々を殺害されたのがきっかけでグレン伯爵は全ての領民達を殺害したのか……ということは魔女フィーネの時代よりも前に既にあの土地一帯は呪われたていたということになるな……」ひょっとしてフィーネが魔女になってしまったのはあの場所にとどまっていた怨霊のせいなのかもしれない……。「俺は……とんでも無い場所に足を踏み入れていたんだな……」再び背筋に悪寒のような物を感じつつ、次は魔女フィーネについて調べてみることにした。ここは『リーヴァ』だからな……。ひょっとするとより詳しく調べることが出来るかもしれない。何と言っても魔女フィーネの生まれた場所なのだから。「あ、あったぞ。魔女フィーネのことについて書かれているな……。どれどれ……」早速そこのサイトに飛んだ――*****「ううぅ……読むんじゃなかった……しかし、ここに書かれているのは本当のことなのか……?」そこには何故、フィーネが魔女となったのかを記した詳しい経緯と、自分を裏切った者たちをどの様に殺害したのかが詳しく記されていた。『満月の夜に野生の狼の群れを操り、城に招き入れ城中の者たちを全員生きたまま狼の餌にした。そして特に強い恨みを持っていた婚約者と叔父には絶対に途中で息絶えぬように心臓に魔法を掛け、彼等は骨になるまで生きたまま狼に喰らいつくされた』「この話……。本当なのだろうか? 大体こんなことが分るのは魔女本人であるフィーネにしか分らない事実だし……恐らく作り話ではあるのだろうが……」しかし、俺は想像してしまった。生きながら狼たちに身体を喰いちぎられ
last updateLast Updated : 2026-01-10
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<魔女の弾く鎮魂歌> 悲劇の魔女、フィーネ 13

 昨日のレストランに行ってみると、既に入口付近でフィオーネは静かに佇んでいた。「すみません、お待たせして」声をかけながら駆け寄ると、フィオーネは眉をひそめた。「あの……どうかされましたか?」「ユリウスさん……まさかアドラー城跡地へは行っておりませんよね?」「ええ、勿論です。行くわけないですよ」「そうですか? なら……何故また貴方に怨霊が憑りついているのでしょう?」「え!?」まさか……やっぱり、あの時の悪寒は俺の勘違いでは無かったのか?「その反応……何か心当たりがあるようですね?」「え、ええ……。実はネットで魔女フィーネに関するサイトと『メイソン地区』に関するサイトを調べてしまったのです……」チラリとフィオーネを見ると、そこには呆れた表情をした彼女が立っていた。「……申し訳ありません……どうしても部屋でじっとしていられなくて……」「仕方ないですね……。もうあまり時間もありませんから、取りあえずこのお守りを付けていて下さい」フィオーネは自分が首から下げているネックレスを外すと俺に手渡してきた。「え……? これを俺に……ですか?」「ええ、今は時間を掛けて貴方に憑りついている怨霊を払う余裕がありませんので」「そ、そうですか……申し訳ありません」フィオーネから借りたネックレスを早速付けてみると、驚くほどに身体が楽になった。「あ……これは……」するとフィオーネは言った。「顔色が良くなりましたね。良かったです。それでは私はピアノの演奏をしなければならないのでお店に入りますが……」「当然、俺も店に入ります。貴女の演奏が終わるまで待っていますから」「……分りました。では中へ入りましょう」そして俺とフィオーネは連れ立ってレストランへと入った――**** 今、彼女はスポットライトを浴びながらピアノの演奏をしていた。レストランの客たちは全員フィオーネの演奏にくぎ付けになっている。本当に……彼女は何と美しいのだろう……。俺は食事を取るのも忘れ、彼女の演奏に聞き入っていた。そして今夜の彼女はピアノ曲を3曲演奏すると、舞台を降りて行った―― レストランの外で俺はフィオーネが出て来るのを待っていた。彼女を待ちながら、ずっとあることを考えていた。フィオーネからは夜が一番危険だから一晩一緒に過ごすと言われたが……本当にそんなことをしてもい
last updateLast Updated : 2026-01-11
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<魔女の弾く鎮魂歌> 悲劇の魔女、フィーネ 14

「フィオーネッ!」彼女に駆け寄り、抱き起すなりギョッとした。その顔色は余りにも青ざめていたからだ。「フィオーネ、しっかりして下さい」幾ら彼女をゆすってもまるきり反応が無い。「フィオーネ……」とにかく彼女を休ませてやらなければ……! 彼女を抱き上げるとタクシーを拾う為に路上へ出た――**** 幸い、流しのタクシーをすぐに止めることが出来た。運転手にドアを開けて貰い、自分の宿泊先のホテルまで連れて行ってもらうことにした。タクシーが走り始めると、すぐに隣に座らせたフィオーネの様子を伺った。ただでさえ、白かった彼女の肌は今は青白くなっている。微かに呼吸はしているものの、全く意識が戻る気配が無い。「お客様……病院に連れて行かれた方がよろしいのではないでしょうか?」タクシー運転手が心配そうに声をかけてきた。「病院……」口の中で小さく呟き、何故か俺は思った。多分、病院に連れて行ってもフィオーネの具合が良くなることはないだろうと。「いえ、取りあえずはホテルに連れて行って下さい。少し様子を見てから病院へ行くかどうか決めるので」「そうですか、分りました」俺の言葉に運転手は返事をした。そしてタクシーはそのま宿泊先のホテルへ向かった――****「ありがとうございました」ホテルに到着するとカードでタクシー代を支払い、フィオーネを抱きかかえて自分の滞在するホテルの中へと入った。そして空いているソファに彼女を座らせ、すぐフロントへと向かった。ルームキーを預かり、ついでに車椅子を借りて来るとフィオーネの元へ戻った。「フィオーネ……」呼びかけてみるも、やはり彼女は無反応だ。「仕方ないな……」フィオーネを抱き上げ、車椅子に座らせると自分の滞在している部屋へと向かった。  宿泊している部屋は5階だった。5階行のボタンを押してエレベーターが到着するのを待っている時にふと思った。ひょっとして、フィオーネの具合が悪いのは俺が彼女のネックレスをしているからではないだろうかと。そこでネックレスを外し、フィオーネの首にかけてやった。その瞬間、再び自分の背筋がヒヤリとする感覚を抱く。やはり、彼女のネックレスが今まで俺を怨霊から守っていたのかもしれない……。その時。軽い音と共に、目の前のエレベーターが1階に到着した。スーッと扉がゆっくり開かれた
last updateLast Updated : 2026-01-12
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<魔女の弾く鎮魂歌> 悲劇の魔女、フィーネ 15

 エレベーターに乗り込んだものの、先程一瞬見えた光景が脳裏に焼き付いて離れない。恨めし気な目でこちらを見つめる両腕の無い、腹の中が半分食いちぎられていた若い男。そして四肢がもげ、床の上に転がり、こちらをじっと見つめる中年の男……。血塗れの光景はとても幻覚とは思えない。その証拠に何となくこのエレベーター内には鉄のような匂いが充満し、気分が悪くなってくる。早く……早く、到着してくれ……!エレベーターの動きが妙に遅く感じる。たかだか5階なのに、到着するのに随分時間がかかっている気がする。その時。――ピチャンなにか生暖かいものが頭上をかすめて床の上に落ちた。「何だ?」何気なく足元を見て、悲鳴を上げそうになった。何と足元の床には血が飛び散っているのだ。「な、な、何だ……? こ、これは……」その時、頭上から得も言われぬ恐ろしい気配を感じた。恐る恐る天井を見上げ……。「ウワアアアアアッ!!」またもや悲鳴を上げてしまった。何と天井には先程俺が目にした2人の怨霊がへばりつき、こちらを恨めし気に見下ろしていのだ。そして恐ろしい声が頭の中に響いてきた。<フィーネ……よくも我らをこんな目に……><許さない……決して許さないぞ……魔女め……!>やめろ……やめてくれ……!耳を塞いでも頭の中に響いてくる声を消すことが出来ない。天井からはポタリポタリと生暖かい血が滴り、俺の身体を血で染めていく。もう駄目だ……このままでは恐怖で気が狂ってしまうかもしれない……。そう思った矢先。ポーン……エレベーターが5階に到着し、扉が開いた。「……!」気力を振り絞り、フィオーネを乗せた車いすのグリップを握りしめると廊下に走り出た。自分の部屋を目指して――――バンッ!!フィオーネを乗せた車いすを押して501号室の扉を開けて部屋に入ると、後ろ手に扉を閉めた。こんなことをしても無駄と思いつつ、ガチャガチャと部屋の鍵を掛けたところで俺の精神は限界に達した。安心してしまったせいだろう。フラフラとベッドに近付き、バタンとベッドに倒れ込むと、そのまま気を失ってしまった――****「う……」気付けばベッドの上に横たわっていた。部屋の中はテーブルランプのオレンジ色のぼんやりとした明かりで照らされている。「気が付きましたか?」直ぐそばで声が聞こえ、驚いて頭を動かした。す
last updateLast Updated : 2026-01-13
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