All Chapters of 別の形で会い直した宿敵が結婚を迫って来たんだが: Chapter 11 - Chapter 20

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追い剥ぎ

 そして、一時間は経っただろうか。かご半分ぐらいの薬草が集まってきた。草むしりなんて初めてやったが、慣れてくると宝探しみたいで楽しい。「さて、次はあっちの方に……」 言いかけた瞬間。マルクエンは何かの気配を感じた。「やっぱこの男の鎧が一番上物そうだ」 女の声が聞こえる。マルクエンは何事かとそちらの方向を見る。「おい、兄ちゃんよ。その身ぐるみ全部置いていってもらおうか?」「お前は……、追い剥ぎか?」 自分より年がいくつか下の女を見てマルクエンが言う。「そーだ。草集めなんてしてる下級の冒険者じゃ私に勝てないよ」 そう言って女は剣を引き抜く。だが、マルクエンは少しも動じず剣を抜こうともしない。「どうした? 恐くて動けなくなったか?」「いや、私は不器用でな。剣を持つと手加減が出来ないんだ」 その言葉は女の逆鱗に触れた。「野郎、ぶっ殺してやる!!」 剣を握り走り来る女。構え方走り方を見て、なるほど確かに剣の腕はそこそこありそうだとマルクエンは思った。 だが、斬りかかった瞬間。マルクエンはさっと避け、女の手を掴んで投げ飛ばし、剣を奪い取った。「があっ!!」 地面に激突し、声を上げる女。だが、次の瞬間。「今です! 姉御!」 声を上げると森の中から雷の魔法がマルクエン目掛けて飛んできた。飛び退いて躱し、攻撃された方向を見る。「手下が世話になったわね」 そこから出てきたのは魔導書を持つ長い黒髪の女だった。青いアイシャドウとそれと同じ色の唇をしたゴスメイク。その出で立ちを見て一発でマルクエンは分かった。「黒魔術師か」「ご名答ね」 そう言いながら火の玉をいくつも発射する黒魔術師。マルクエンは剣でそれらを切り捨てた。「なっ!!」 明らかに初心冒険者の動きではないそれを見て黒魔術師は驚く。「小癪な!」 次は極太の氷柱を打ち出す。 しかし、マルクエンに届く前に剣で弾かれてしまった。「あなたは!? 一体何者!?」 そんな事を言う黒魔術師に向かってマルクエンは走り、一気に覆いかぶさり組み伏せ、短刀を首に近付けた。「降伏してもらおうか」 そう言うと、黒魔術師は観念したように言う。「殺すなら殺して」「姉御!!」 その時だった。騒ぎを聞きつけたラミッタ達がマルクエンの元へとやって来た。「宿敵!! 何かあったの……、って」 黒魔
last updateLast Updated : 2025-11-05
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遅めのランチ

 薬草集めは途中トラブルもあったが、無事に終わり、昼過ぎには冒険者ギルドへと戻る事ができた。「お疲れ様でした。検品が終わり次第、報奨金をお渡ししますね」 受付嬢にそう言われ、ギルド併設の食堂に四人は座る。「さーて、昼飯を無くした人のお陰でお腹すいたわね」「ぐっ、すまない」 マルクエンは大きな体を縮こませて謝罪した。「そんな!! 謝らないで下さい」 シヘンがオロオロして声を掛ける。「ご飯は宿敵の奢りね」 ラミッタが片目を閉じて言うと、更にマルクエンは申し訳無さそうな顔をした。「その、私は一文無しだ……」「っかー、情けないわね」 食事代は後で返すと払ってもらったマルクエン。空きっ腹に濃い味付けの料理が染みる。「おまたせしました! 買い取り額は三万七千エンです」 マルクエンは今更ながらこの国では通貨の名前が『エン』である事を知った。何か自分の名前と似ているなと思う。「報酬は山分けね」 ラミッタは言って九千と少しのエンを分配する。「さて、疲れてなけりゃまだクエストを受けたいんだけど」 ちらりとシヘンを見るラミッタ。少し疲れが顔に出ていた。「あ、あの、私なら大丈夫ですよ!!」「シヘン。無理をしないで。出来ないことは出来ないって正直に言わないと、命を落とすわよ」「あっ、はい……。すみません」 ラミッタの言う事は正論だ。マルクエンも今回は口を出さずにしておく事にした。「私と宿敵で何か実績になりそうなクエストをやるわ。ケイはどう?」「私は稼げるなら何でもいいっスよ」 そう笑ってケイは返す。「それじゃお次は……。これでいいか、動物狩り」 ラミッタが選んだのは猪や鹿から、うさぎといった食べられる動物の狩りだ。 宿で一足先に休んでいたシヘンは、いつの間にか眠ってしまっていた。起きて紅茶の用意をしていると、ドアが開く。「おまたせー」 ケイが笑顔で部屋に入ってくる。その後ろにはラミッタも居た。「いやー、ラミッタさんが動物狩るのが上手いのなんのでさー」「訓練で取って食べていたからね」 そんな二人の会話を聞いてクスクスと笑うシヘン。いつか足を引っ張らない程度に強くなりたいなと考えていた。 街で過ごして一週間が経った。草むしりに荷物の運搬といった雑用感漂うクエストを黙々とこなすマルクエン達。 そんな中、山奥まで護衛というクエス
last updateLast Updated : 2025-11-06
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再会のシチ

 ラミッタと共にマルクエンは部屋に入り、荷物と鎧を置くと、ふうっと息を吐く。「私は温泉に入ろうと思う。ラミッタはどうするんだ?」「そうね、私も行こうと思ってたわ」 剣と肩当てを外してラミッタは早々に部屋を出ようとしていた。 マルクエンもその後を追い、浴場の前まで来た。シヘンとケイはまだ居ないようだ。「ラミッタさーんおまたせっスー」 しばらくして、ケイがそう言いながらやって来た。後ろにはシヘンも付いてきている。「それじゃ私達は行くけど、女湯覗いたら殺すわよ宿敵」「なっ!! そんな事するわけ無いだろ!!」 ラミッタさんはマルクエンさんにあたりが強いなーっとケイは思いながら女湯の脱衣所に消える。 マルクエンは一人男湯に入ると、混雑する時間帯で無かったからだろうか、一人貸し切りの状態だった。 よく体を洗い、マルクエンは内風呂へと入る。「くぅーっ……」 程よい熱さの湯に思わず声が漏れた。体の中に染み渡る気持ちだ。 一方で女湯はと言うと、ラミッタ達も服を脱いでいた。 ラミッタは黒を基調とした服を脱ぐと、白い肌が映える。シヘンはそれよりも更に白く、長いブロンドヘアを結って後ろでまとめた。 ケイは健康的な褐色の肌を晒し、赤みがかった銀髪のウルフカットをかきあげる。 脱衣所の扉を開くと湯けむりが出迎えて来た。体を洗い終えると、温泉へと入る。「あぁー、生き返るっスね!!」 ケイが思わずそう言う。ラミッタは目を閉じて温もりを感じていた。「本当、良いですね」 湯のせいか、シヘンは頬が紅潮していた。そんな彼女の胸の膨らみにラミッタは目が行っていた。 ラミッタも小さい訳では無いが、見比べると遥かに大きい。なに食べたらあんなになるのと心の中で思う。「おっ、露天風呂もあるみたいっスよ! 行ってきますね!」 露天風呂と聞いて、ラミッタも湯から上がり言う。「私も行くわ」 時を同じくして、マルクエンも露天風呂へと向かっていた。そんな彼を遠くから見つめる影がある。「見付けたわ、下僕候補」 マルクエンを襲った盗賊、黒魔術師のシチ・ヘプターと手下だった。夜に溶け込む黒髪と青色のゴスメイクをしている。「姉御! 相手は隙だらけですよ!」 のんびり湯に浸かっているマルクエンを見て手下が言う。「えぇ、そうね。これはあの男を分からせる為よ、決して覗きじゃな
last updateLast Updated : 2025-11-07
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尋ね人

 山菜や川魚といった山の幸で作られた夕食を済ますと、すっかり夜になった。「それじゃ、おやすみ」 部屋の前でラミッタは別部屋の二人に言う。「はい。おやすみなさいラミッタさん。マルクエンさん」「それじゃお疲れっしたー」 ラミッタは部屋の中に入る。許すとは言われたが、マルクエンはまだ気まずい空気を感じていた。「私は寝るけど、ベッドに近付いたら殺すから」「なんて言うか、すまない……」 マルクエンは隣のベッドに横になり、布団をかぶる。 そして、何事もなく夜は明け、朝になった。目覚まし時計の石が音を立て、マルクエンは起き上がる。「うーん。朝か」 思い切り伸びをしてベッドから降りた。一つ隣のベッドに寝ていたラミッタはまだ目を覚まさないみたいだ。「ラミッタ、朝だぞー」 すうすうと寝息を立てる彼女の顔を見て、マルクエンは思う。 鬼の魔剣士と言われ恐れられてたラミッタが、まるで年相応の女の子みたいに思える。 黙っていれば、性格がおしとやかだったら、言い寄ってくる男の一人でも居るだろうにと。「ラミッター、起きてくれー」 軽く布団をめくると、インナーがめくれ上がってお腹周りが丸出しになっていた。「うーん」 うなされながらラミッタは横になったまま、マルクエンを見た。顔が近い。「おはよう、ラミッタ」「しゅ、宿敵!!」 思わず上半身を起こし、指をさす。「なっ、ベッドに近付いたら殺すって言ったでしょ!?」「すまない、時間だが起きなかったのでな」 その後もマルクエンは小言を言われたが、苦笑いして返しつつ装備を整えた。「おはようございますッスー」「おはようございます!」 先に宿の出口で待っていたケイとシヘンがマルクエン達に言う。挨拶を返し終えると山奥を後にした。「それじゃ街へ帰りましょう」 そう言ってラミッタは歩き始める。その後を付いていき、山を下っている一行を見つめる者が居た。「あの人達がコンソを倒したって本当かなー?」 トーラの街を襲った魔人『コンソ』の名を口にする女がひとり。 長いくすんだ金髪にシルクハットを被り、まるでサーカスの奇術師のような格好をしている。「まぁ、聞いてみれば分かるか」 そう呟いて、道の横からヒョイッと女は飛び出した。「こんにちはー」 友好的な挨拶をされたが、山に似つかわしくない、奇術師の格好をした女
last updateLast Updated : 2025-11-07
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定番のスライム

「あー、もう! 私も行ける所まで付いていくっスよ!」「ケイさんもありがとう。心強いです」 フッとマルクエンは笑って言う。 街へ帰ると、冒険者ギルドへ向かい、報酬を受け取る。 奇術師の魔人と出会ってから一週間が経った。草むしりや軽い魔物の討伐をし、マルクエンは晴れてDランクの冒険者へ昇格する。「それじゃ、Dランクになった宿敵に乾杯」 その日はギルドで酒を飲み、一日を終えた。といってもマルクエンはまたミルクだったが。 翌日、早速Dランク以上のクエストを受注する。増殖したスライムの討伐だ。「街から2キロ先の洞窟で、スライムが異常発生しているらしい」 ラミッタが言うと、マルクエンはポツリと言葉を溢す。「スライムか……」「何だ、不満かしら宿敵?」「いや、そんな事はない」 スライムと言えど、大量に居れば辺りの草木を根こそぎ食べるし、動物や人間さえも体内に取り入れ消化しようとする。「久しぶりに戦うなー、スライム」 ケイは手を頭の後ろで組んで話す。そんなこんなで目的の地までたどり着いた。「私と宿敵で一気に倒しても良いけど、修行がてらシヘンとケイに任せるわ」「はい! 頑張ります!」「よっしゃ、いっちょやりますか!」 二人共やる気は十分のようだ。剣を引き抜いてケイはスライム目掛けて走る。 スライムは体の中心にある核を潰せば死ぬ。その核を一撃で両断した。「やるじゃないケイ」「あざッス!」 シヘンもスライムに狙いを付けて雷の魔法を打ち込んだ。直撃すると、ブルブルと震え飛び散る。「シヘンもナイスよ」「ありがとうございます!」 そんな感じでスライムを倒していたが、それを遠くから見つめる不穏な影があった。「ふーん、面白そうな事やってるじゃん」 奇術師の魔人だ。空を飛んで千里眼を使い、マルクエン達を観察している。「でも、簡単すぎるみたいだね、もっと面白くしてあげよっかな?」 指をパチンと鳴らすと、スライム達の下から光が溢れ出す。「な、何だ!?」 驚くマルクエン。ラミッタは魔法が使われたことを察知し、振り返り空を見た。「あの時の!!」 ラミッタも千里眼を使い遠くを見る。奇術師の魔人がニコニコと手を降ってこちらを見下ろしていた。「なっ、何すかこれ!?」 スライムは先ほどとは比べ物にならない速さで動き、あっという間にケイを取り囲む
last updateLast Updated : 2025-11-08
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パシリ

「こっち見んな!! ド変態卑猥野郎!!」「あ、いや、すまん」 マルクエンはラミッタから目を逸らして奇術師を見る。「ねーお二人さん。僕の仲間になってよ」「お断りするわ」「うーん。それだと……」 奇術師はあどけない笑顔を捨ててギロリと睨む。「ここで死んでもらうかもね」 懐から取り出したトランプを投げる奇術師。マルクエンは一歩前に出て剣で弾くと、重い衝撃を感じた。「トランプ投げて戦う奴が本当にいるとはね」 ラミッタが足で地面を強く踏むと、魔力が走り、奇術師の足元から土の槍が飛び出る。「あははっ、やるぅー!!」 ひらりひらりとそれらを躱し、奇術師は楽しそうだった。「それじゃこっちもお返し」 色とりどりのボールを取り出し、ジャグリングを始める。「マーダージャグリング!!」 一番高く上がった赤い玉から炎の玉が吹き出てマルクエンを襲う。「っく!!」 魔法耐性のある大剣でそれを打ち返すが、今度は黄色の玉が高く上がり、そこから雷の矢が放たれた。「宿敵!! こっちに来て!!」 声のした方へ走ると、ラミッタはタタンと地面を踏んで土壁を作った。そこに雷の矢が突き刺さる。 緑色の玉からは風の刃が、水色の玉からは水の刃が生まれ、こちらへ向かってきた。 ケイはスライムの粘液まみれで、シヘンは二人を案じて戦いを見ていたが。「轟け!! 雷よ!!」 少しでも二人を助けたくて、呪文を詠唱し、奇術師に攻撃を加えた。「こんな弱い魔法が効くわけ無いじゃん」 なんと、奇術師はシヘンの飛ばした雷の矢を手で掴んで、投げ返した。「危ない!!」 マルクエンは叫んで、自らの身体を盾にし、雷を受け止める。鼻の奥に焦げた嫌なニオイが充満した。「マルクエンさん!!」「宿敵!!」 そんな様子を見て奇術師は両手を顔の横に上げて言う。「なーんかしらけちゃったなー、またねー」「マルクエンさん!! 大丈夫ですか!?」 駆け寄るシヘン。それよりも先にマルクエンは立ち上がっていた。「えぇ、鎧には魔法耐性があるので平気です」「良かった……」 ホッと安心するシヘン。「宿敵なら平気よ。殺そうと思っても中々殺せる奴じゃないわ」 左腕で破れかけの服を抑えながらラミッタが言う。その後ろでケイが叫んでいた。「あのー!! 私もどうにかして欲しいッス!!!」 マ
last updateLast Updated : 2025-11-09
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フリフリの服

「ここが冒険者向けの服屋ね」 先程マルクエンが向かった服屋に比べ、少々地味な店だ。 店内に入ると、地味な色の服と、防具が並んでいる。ラミッタはいつも着ているような黒色の服を手に取った。「ラミッタは黒が好きなのか?」「別に好きってわけじゃないけど、汚れが目立たないし、暗闇に紛れる事もできるからね」「そうなのか」 そこでふとマルクエンは思ったことを尋ねてみる。「それじゃ、ラミッタが本当に好きな色って何だ?」 質問され、照れくさそうにラミッタは小さい声で答えた。「赤とか、ピンクとか、それ系の色……」「ほー、そうだったのか」 マルクエンはなるほどと声を出す。「何よ、そういうのが似合うキャラじゃないってのは知ってるわよ!!」「いや、似合うとは思うぞ」「なっ!!」 ラミッタは本日何度目か分からない赤面をする。そんな会話を聞いていたのか、店主がぬっと現れた。「ありますぜ、旦那。ピンクでフリフリの服」「おわっ、ビックリした」 手をすりながら店主は話し続ける。「異国の魔法使いの服なんですがね、珍しいモンがあるんですわ」「本当ですか?」「ちょ、ちょっと待ってよ!! 私は魔剣士で魔法使いじゃない!!」「まぁまぁ、着るだけならタダ! いや、むしろモデルとして写し絵の魔法を取らせてくれたら、その服お値引きしますぜ?」 値引きと言われ、ラミッタの心が動く。「ラミッタ、着てみたらどうだ? 案外、気に入るかもしれんぞ」「わ、わかった。わかったわよ」 そう言ってラミッタは試着室へと案内され、店主の女房が服を着るのを手伝った。「え、こんなフリフリなの恥ずかしいわよ!?」「そんな事ありませんよ、お客様お似合いですよー?」 そんな声が中から聞こえる。「はーい、出来たー。それじゃ開けますねー」「ちょっ、ちょっと待って!! 心の準備が……」 試着室のドアが開けられると、ピンクを基調とし、肩やスカートには白いフリフリが付いたドレス姿のラミッタが居た。「おー、ラミッタ似合ってるぞ」 マルクエンは思ったままの事を言う。ラミッタは恥ずかしさで頭がぐるぐるとしていた。「あ、あぁ……」「おぉ、素晴らしい!! あっしが見込んだ通りだ!! ささ、こちらで写し絵を」 色んな角度から写し絵を作られるラミッタ。いつもの威勢の良さはどこへやら。人形のように大
last updateLast Updated : 2025-11-10
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引っこ抜かれて

 腰の辺りを土壁でガッチリと固定されたシチは、出ようと飛び出ている上半身の腕を伸ばし、手で土壁を押すが、びくともしない。 シチは手から攻撃魔法を出そうとするが、魔力が吸い取らるのかうまく発動が出来ず。同じ様に捉えられた手下も土壁から抜けずにいた。「さーて、後は首を落とすだけね」「ひっ」 小さくシチは悲鳴を上げた。剣を手にラミッタが一歩一歩こちらへやって来る。「その辺で勘弁してやれラミッタ」 マルクエンの言葉に振り返る。そしてはぁっとため息を付いた。「宿敵、甘いわね。コイツは温泉宿であなたを吹き飛ばしたのよ?」 それを聞いてマルクエンはその時の事を思い出して目を逸らす。「まぁ、それはそうだが。でも許してやってくれ」 ラミッタはシチ達をチラリと見て、剣を鞘に納める。「首無しの死体を引っ張っていくのも面倒だしね」 その言葉に思わずシヘンも安堵した。目の前で人の首が刎ねられるのは見たことが無いので心臓がバクバクとしていたのだ。「あの土も解除してやってくれないか?」「私に命令しないで宿敵」 口ではそう言いながらもラミッタはまた地面を強く踏んだ。そして首を傾げる。「あれ、おかしいわね」 再度、足で踏むが、土壁が壊れる気配は無い。「あの女の魔力が加わってガッチガチになっちゃったかも」「何っ!?」「もしかしてこれ、引っ張り出すしか無いっスかね」 そう言われてマルクエンは頭をかきながらシチの元へと向かう。「ラミッタ、そっちのちっこい子を頼む」「誰がちっこいだ!!」 手下の女はギャーギャー怒っていたが、マルクエンは、ハハッと笑って土壁の後ろに回り、シチの下半身側へと立った。「引き抜けないかやってみる。触っても良いか?」 そう言われ、シチは赤面する。「し、仕方ないわね!! 下僕、特別に私の体に触れることを許可するわ!!」「そりゃどうも」「あのっ、そのっ、や、優しくしてよね」 シチの腰の辺りを掴んでマルクエンは力を込めて引っ張った。やむを得ず、尻にマルクエンの腰が当たる。「い、痛い痛い!!」「す、すまない。痛かったか?」 思わずマルクエンは手を離した。「大丈夫、もっと強くして」「あぁ、分かった」 またも力を込めて引っ張るマルクエン。シチは涙目になりながら歯を食いしばって耐えていた。「あ、ちょっと動いたのが分
last updateLast Updated : 2025-11-11
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勇者さん

「勇者様?」 ポカーンとする仲間の女魔法使い。勇者はスタスタと歩くと茶髪の女魔剣士に声を掛けた。「あの、先程お会いした者なのですが」「えっ?」 女魔剣士は思わず声が出て勇者の方を振り返る。「あ、申し遅れました。私は勇者をしておりますマスカルと申します」「それはどうも。あぁ、さっきの人ですね?」 覚えていてくれた事に勇者マスカルは心の中で狂喜乱舞していた。「えぇ。先程のことも何かの縁です。もしよろしければお話ができれば良いなと思いまして」「あ、あの、ラミッタさん。勇者マスカルって言ったらこの辺では有名な方ですよ!?」「勇者ねー、勇者。あまり良くは分からないけど」 天使の名はラミッタというのかとマスカルは思い、口にした。「ラミッタさんというのですね。良いお名前です」「はぁ、どうも」 相変わらず、つれない感じだが、勇者だと分かった瞬間言い寄ってくる女達よりもマスカルには魅力的に映った。「どうでしょう? 私がご馳走するのでお食事でも……」「おーい、ラミッター」 天使の名を呼ぶ不届きな男の声が聞こえる。そちらを見ると金髪のアホそうな顔をした男が居た。「遅いわ、宿敵」「悪い悪い、トイレが混み合っててな」 天使は相手を宿敵と呼んでいた。どういうことだとマスカルは思う。「あれ? そちらの方は?」「勇者様だってさ」「勇者!?」 天使を呼び捨てにするこの男にも勇者の凄さは分かるのだなと胸を張る。「どうも。勇者マスカルと申します」「あぁ、それはどうも。私はマルクエンです」 男の名前など、どうでも良かった。今はこの天使との関係性を知りたい。「おまたせっスー!! って、どういう状況?」 褐色肌の女は思わずそう言ってラミッタ、マスカル、シヘンを順に見た。「ちょっとよく分からないことになったわ」 ラミッタはため息を吐いて言う。持ってこられたお茶を見てマスカルは言い出す。「少し、一緒にお茶をしませんか?」「私は遠慮しておくわ」「シヘン。この人は?」 褐色肌の女はそう尋ねると、返事が出る。「勇者マスカルさんです」「ゆ、勇者マスカル!? 初めて見たっス!!」 マスカルは褐色肌の女に騒がれ、悪い気はしなかった。「どうも、こんにちは。お嬢さん」 爽やかな笑顔を向けて、すぐに視線をラミッタへと向ける。「皆さんは同じパーティの
last updateLast Updated : 2025-11-12
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マルクエンのセンス

「あ、あの、変じゃありませんか?」「いえ、とてもお似合いですよ」 マルクエンが真顔で言うもので、シヘンは思わず恥ずかしくなり、視線を逸らす。「後は宿敵の服ね」 ラミッタに連れられ、マルクエン達は街なかを歩く。「おっ、これ良いんじゃないか?」 足を止めるマルクエンはと、ある店のガラスケースを見ていた。シヘンはその先にある物を見て思わず笑う。「ふふっ、マルクエンさんも冗談をいうのですね」 そこには金ピカのスーツがあった。「本気なの宿敵?」 思わず引いてラミッタは言う。「え、良いじゃないか。金ピカでカッコいいぞ」 マルクエンさん本気だったんだとシヘンも笑うのをやめた。「あー、なんつーか……。マルクエンさんのセンスって独特っスね」 ケイも最大限オブラートに包んで言ってみる。ラミッタは小馬鹿にした顔でマルクエンに言った。「宿敵、あなたは今までの人生どうやって服を選んできたのかしら?」「うむ、小さい頃は使用人が、国に仕えてからは城のメイドさんが選んでくれていた」 マルクエンの言葉にラミッタは呆れる。「これだからボンボンのお坊ちゃまは」「よく居るっスよね、異性の服はちゃんと選べるのに、自分のとなると急にダメになる人……」 女性陣からダメ出しをされてマルクエンは衝撃を受けていた。「だ、ダメなのか!? こんなに金ピカなのに!?」「金ピカから離れろ!!」 店の前から離れていくラミッタの後を渋々マルクエンは追いかける。「まぁ、適当にこの店で良いわね」 適当と言う割には皆を連れ回していたラミッタだが、その店の中に入ってみた。「中々オシャレな店ッスねー」「そうでしょ? 私が選んだんだから!」「マルクエンさんの為に?」 ケイに言われ、ラミッタは赤面する。「別にっ! 一緒にいる奴がダッサイ格好されたら嫌なだけ!!」 女子組はマルクエンを放っておいて、アレが良いコッチが良いと服を選んでいた。当の本人は退屈そうだ。「それじゃ、これを試着してきて」「えっ? どうせ着るならこのまま買ったら良いんじゃないのか?」「絶対ダメ、服は試着して買うの!!」 そういうものなのかとマルクエンは試着室へと消えた。 しばらくして出てきたのは、茶色のズボンと白いワイシャツ、暗めのグレーのジャケットにループタイを付けたマルクエンだ。「おー、マルクエン
last updateLast Updated : 2025-11-13
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