All Chapters of 別の形で会い直した宿敵が結婚を迫って来たんだが: Chapter 31 - Chapter 40

46 Chapters

箱の中身は

 魔人の襲撃により『ルカラカ』の街で足止めを食らっているマルクエン達。 軍や勇者の到着も大幅に遅れているとの事だ。 今日もマルクエンは一人で街の外に置かれた魔物の出てくる箱を見に行く。 いつもと同じ、何の動きも無かった。 その箱の回りでは、防護用の柵を設置している所だ。 申し訳程度だが、無いよりは良いだろう。 そんなマルクエンを見つめる影があった。「今日こそ奴を下僕にするわよ」「ガッテンです。姉御!!」 黒魔道士シチ・ヘプターと、その手下だ。「また会ったわね!! マルクエン!!」「なっ、貴様はシチ・ヘプター!?」 名前を呼ばれたことにゾクゾクとするシチだったが、顔に出さないように言い放つ。「いい加減に私の下僕になりなさい!!」「ちょうど良かった、探していたんだ」「ふえっ!?」 マルクエンに探していたと言われ、変な声の出るシチ。「な、ななな、何かしら? とうとう私の下僕になるか、覚悟でもで、出来たのかしら?」「いや、そうではないが……」 マルクエンは頭を搔いて否定する。「その、聞きたいことがあるんだ」「な、何かしら?」 頬を紅潮させながらも、シチは冷静を装う。「この箱についてなんだが」「はこ、そう箱ね……。って箱!?」「あぁ、そうだ」 思っていた質問とだいぶ違うものにシチは段々と不機嫌になる。「魔人が残していった箱で、どういう訳か魔物が中から出てくるんだ」「魔人が……?」 マルクエンはシチにこれまでの経緯をざっくりと説明した。「なるほど、その『クラム』と『ミネス』って魔人がこれを置いていったと」「あぁ、黒魔術に詳しいシチなら何か知っているかと思ってな」 うーんとシチは悩む。「主に暗殺に使われている魔物の転送陣なら知っているけど……。それの応用型かしらね」「転送?」「そう、近くの魔物を利用したり、用意したりして、目的の場所に転送するの」 うーんとマルクエンは考える。「と、いう事は……。近くの魔物を予め倒しておけば、転送される事も無いと?」「まだ仮説にしか過ぎないわ。魔人だからもっと別の方法をとっているかもしれないし……」 少し自信なさげに話すシチ。そんな彼女を真っ直ぐに見据えてマルクエンは礼を言う。「だが、そういう魔法があることを知れて良かった。ありがとう、シチ」 礼を言わ
last updateLast Updated : 2025-11-26
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VS翼竜

「あの竜はどうすれば良い!? ラミッタ!!」「そんなの私も知らないわよ!!」 二人は魔物達を殲滅しながら空をちらりと見る。 竜は上空を旋回しているだけだが、いつこちらに来るとも分からない。「街に向かったら危険ね、注意を引き付けるわ。宿敵、覚悟は良いかしら?」「おう!!」 マルクエンが返事をすると同時に、ラミッタは宙に向かって極太の氷柱を打ち出した。 竜が怯み、氷柱が片翼を貫いた。飛行能力を失い、地面へと落ちる。 両足で立ち上がり、咆哮をする翼竜を見据えてマルクエンは走った。 相手が吐き出す火の玉を剣で薙ぎ払い、速さを緩めることの無いまま突っ込んだ。 筋力強化魔法を最大にして剣を頭に叩きつける。 翼竜は頭が縦に真っ二つになり、絶命した。 それを見た冒険者たちは歓声を上げるでもなく、ただただ圧倒的な戦いにぽかんとしていた。「案外、翼竜って大したことないのね。私一人でも充分だったかしら」 マルクエンの近くに走ってきたラミッタが言う。「あぁ、そうかもしれんな」 そう言葉を交わすと、ラミッタは魔物を斬りに、マルクエンは箱を壊して回る。 マルクエンが箱を壊し終わるのと、周りの魔物を殲滅したのは、ほぼ同時だった。「やっと、終わったんですか……?」 戦いに参加していたシヘンは疲れ果て、杖を支えにその場に座り込んでしまう。「はぁはぁ、きっつかったー……」 ケイもそんな事を言いしゃがみこんだ。 翼竜との戦いから二日後、ようやく街に軍の配備が出来たらしい。「此度のご活躍。流石です」 冒険者ギルドでマルクエン達はギルドマスターと向かい合っていた。 マルクエン達は『竜殺しのパーティ』として、称賛され、同時に恐れられる。「いえ、軍も配備出来ましたし。私達は旅を続けたいと思うのですが」 マルクエンの言葉に、ギルドマスターは目を伏せる。「魔王討伐……。でしたか」「えぇ」 本来であれば応援をしたいところだが、魔王討伐とは死を意味する様なものだ。 とても「頑張ってください」と送り出すことなど出来ない。「今回の件は、それこそAランクの冒険者の活躍に匹敵しますが。私に出来るのはマルクエンさんとラミッタさんのランクをCに上げることぐらいです」 冒険者が飛び級でランクを上げるには、ギルドの本部で特別な許可がいる。「ありがとうございます。充分
last updateLast Updated : 2025-11-27
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金属禁止!

「何これ、結界が張られているわ」 ラミッタは言って、洞窟前の看板に書かれている注意書きに目を通す。「『これより先、水神様の祠により、金属の持ち込みを禁ずる』ですって」「どういう事だ?」 状況が飲み込めないマルクエンだったが、そこにシヘンが説明を入れる。「もしかしたら、条件付きダンジョンなのかもしれません」「条件付き?」 ラミッタが聞き返すと、シヘンは頷いて答えた。「はい。天然のものと、魔人が作るものがあるのですが。ダンジョン自体が結界で覆われ、ある一定の制限が課されます」 ふーんと言ってラミッタは銅貨を取り出し、洞窟内に放り投げる。 すると、銅貨はみるみる内に腐食し始め、ボロボロになった。「やっかいね」「結界の解除は出来ないのか?」 マルクエンが聞くと、ラミッタは首を横に振る。「こんな巨大な結界相手じゃ無理ね」 そう言うと、ラミッタはカチャカチャと防具を外し始めた。「ほら、ボサッと見ていないで、さっさと金属を外す!!」「!! あ、あぁ」 マルクエンもそれに習って鎧を脱ぎ始める。シヘンとケイも同じだ。 ベルトの代わりに紐を通し、縛り上げる。全員の準備が整った。「マルクエンさん。足、痛くありませんか?」 靴まで金属を使っていたマルクエンは素足だ。「えぇ、皮膚硬化の魔法を使っているので問題はありません」 身軽になったマルクエンは微笑んで返す。「せめて木刀の一本でもあれば良かったんだけど、仕方ないわね。行くわよ」「おう!!」 洞窟内に入ると、ひんやりとした空気が身を包んだ。 ラミッタが照明弾を打ち上げてくれた為に、視界には困らない。「あら、神様のステキな歓迎かしら?」 洞窟には魔物が巣食っていた。ラミッタが皮肉交じりに言うと、狼型の魔物がマルクエン達を取り囲む。 ラミッタは雷の槍を作り出して投げる。一匹を貫き、刺さった場所から地面に電気が流れた。 シヘンも雷を打ち出して魔物を牽制する。そんな中、すり抜けた一匹が飛びかかってきた。「オラァ!!」 マルクエンは拳で殴りつけ、それを屠る。「くー!! 私何も出来ないッス!! じれったいっス!!」 武器を持たず、魔法もそこまで使えないケイは後ろで大人しくしていた。「大丈夫、私に任せてケイ!!」 シヘンはケイを守りながら、雷と火の魔法を打ち
last updateLast Updated : 2025-11-28
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住民を救え!

「もう大丈夫だから安心して」 少女の頭に手を置いてラミッタは微笑む。 シヘンとケイは緑色の臓器を持って家々を回った。 ラミッタは勝手に宿屋のベッドを拝借し、マルクエンを寝かせる。「すまないな、ラミッタ」「何回目よそれ。なに弱気になってんのよ」 心配そうな表情を隠しきれずにラミッタが言う。「宿敵、水でも飲みなさい」「あぁ、すまん」 上半身を起こし、ラミッタに水を飲まされるマルクエン。「ラミッタ。まさかお前に看病され、命を救われるとはな」「大げさよ」 ラミッタは照れくさそうにそっぽを向く。「全部回ってきたッスよ!!」「ありがとう。これで良くなればいいんだけど……」 一時間が経っただろうか、マルクエンは体のしびれとダルさが段々と取れてきた事を感じ取っていた。 そこから更に時間が経ち、夜になる頃にはすっかり元気になっていく。 住民達も、魚の解毒が効いたらしく、フラフラとだが動けるようになっていた。 宿屋の店主と妻がマルクエンの部屋に訪ねてくる。「あなた方が助けてくださったのですね……」「いえ、勝手に部屋を使ってしまい申し訳ない」 マルクエンがすまなそうに言うと、店主は目の前で手を降った。「とんでもない!! あなた方は命の恩人です!!!」「おねーちゃん!! ありがとう!!」 少女も駆け寄ってきてラミッタに礼を言う。「と、言うわけで。上流の祠に魚の魔物が巣食っていました」 その後、集まった住民達にシヘンが事情を話した。「なんとも……。水神様の怒りだと思っていましたが……」「だが、本来であれば。あの祠は魔物が近付くことさえできないはずです」 それを聞いたラミッタがうーんと思考を巡らせる。「結界が弱まっているか、それとも誰かが仕組んだか……」 それを聞いて住民はどよめく。「何か怨まれるような事、心当たりはありませんか?」 ラミッタに聞かれるも、住民には誰も心当たりなど無かった。「い、いえ。私達は旅人の方向けに商売をしている小さな集落ですし、そんな覚えは……」「そうよね……」 ラミッタもうーんと悩んでしまった。「魔人や魔王の手先が何かしたのかしらね」「近くの街でも魔人が出たと聞いています。なんでも、竜まで出てきたとか……」 武器屋の男が言うと、マルクエンはうんうんと頷く。「えぇ、あの竜は大変で
last updateLast Updated : 2025-11-29
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あわあわのお風呂

「何か着替えはあるのかしら?」「そこにクローゼットはあるみたいだが」 二人はその中を開けてみる。「えっ、なにこれは……」 服は確かに沢山あった。 だが、それが逆に問題だ。「何だ、メイドさんの服に……。看護師の服?」 様々な職業の服が置いてある。理由は分からない。「どういう事なのかしら?」「私にも分からん」 マルクエンは珍しい服を手に取ってみる。説明書きも添えられていた。「東の国の神官が着る服らしいぞ! 随分と派手だなぁ」 白い上着と赤色のスカート。確かに派手だ。「ちょっと待って! 何この服!! スケスケじゃない!!」 着たら確実に肌が見えてしまう服もあった。「一応普通のバスローブもあるみたいだが?」「嫌よ!! 普通に持ってきた服を着るわよ!!」 ラミッタは服を掴んで風呂場に消えて行ってしまう。 マルクエンはソファに座ると、ウトウトと寝てしまった。 風呂に入る前にシャワーを浴びるラミッタ。 今日も濃い一日だったなと思い返しながら、汚れと疲れを洗い流す。 泡だらけの風呂に意を決して入ってみた。シュワシュワと泡が消える感触が不思議だ。「ふぅー……」 心地よい温かさをラミッタは堪能していた。 しばらくし、そろそろいい時間かと風呂を上がる。シャワーで泡を流し、いつもの服に着替える。「宿敵ー、上がったわよ」 返事は無い。部屋を見渡すと、ソファで寝てしまっているマルクエンが居た。「宿敵?」 近付いても起きる様子がない。無防備だなとラミッタは思う。「起きなさい!!」 揺さぶると、マルクエンは目を覚ました。「あ、あぁ、寝てしまっていた」「どうしたの? まだ調子でも悪いの?」 そう言って覗き込むラミッタの、いつものツンツンとした態度とは逆の対応にマルクエンは驚く。「なんだ、心配してくれているのか?」 そう聞くと、風呂上がりで火照っているラミッタは更に顔を赤くする。「なっ、ちがっ、部屋で死なれたら嫌なだけ!!」「そうか」 フフッとマルクエンは笑って立ち上がる。「それじゃ、私も風呂に入るかな」 シャワーを済まし、風呂へと入るマルクエン。 泡だらけの風呂という未体験の物に機嫌が良かった。「ふぅー……」 湯船に沈むと、心地よさに息を吐き、顔を湯でバチャバチャと洗い直す。 そんな時だった。ふと、こ
last updateLast Updated : 2025-11-30
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おねんね

「な、何を言ってるんだ宿敵!!!」 顔をこちらに向けないまま言うラミッタ。「ほ、ほら、ベッドは大きいだろう? 二人で寝ても大丈夫な広さだ!!」「だ、だからってあんたねぇ!!」 振り返ったラミッタの顔は真っ赤だった。「私はラミッタをソファに寝かせたくないんだ、嫌なら俺がソファに寝る」「何言ってんのよ!! 勝ったのはアンタよ!! アンタがベッドで寝なさいよ!!」「いや、私はソファで」「あーもう、わかったわよ!!」 ベッドにスタスタと歩いて行き、座るラミッタ。「端っこ!! 背中合わせ!!! こっち向いたら刺す!!!! オッケー!?」「ははは。わかったわかった」 大きなベッドの両端に二人は寝転がり、布団を被る。 ラミッタが魔法石の明かりを消すと、部屋は真っ暗になった。 すぐ隣にはラミッタが寝ている。その事実にマルクエンまでドキドキとしてしまっていた。「ねぇ、宿敵。寝た?」 横になり、10分ぐらいしてラミッタが話し始める。「いや、寝ていない」「何だか寝付けないわね」 二人共、目が冴えて眠れないでいた。「何ていうか、こちらの世界に来てからラミッタに助けてもらってばっかりだな」「そうね、感謝しなさい」「あぁ、しているさ」 しばらく沈黙。「あのな、お前の顔を見る度に思ってしまう事があるんだ」「な、何よ……」「顔の傷。こちらの世界の治癒魔法なら消せるんだろ? やはり、どこかで雇って消してもらったらどうだ?」「別にいいわよ」 背中合わせのまま、ラミッタは布団を引き上げて顔を隠す。「私は魔剣士よ、傷なんて気にしていたらやっていられないわ」「そうかもしれんが、いい顔がもったいないぞ」「なっ!!!」 また沈黙する二人。今度はマルクエンが声を掛けてみる。「ラミッタ、寝たか?」「寝た!!!」 ハハハとマルクエンは笑い、何だか安堵してしまい眠気が襲ってきた。 真夜中だが、マルクエンはトイレに行きたくなり、目が覚める。 何だか隣に温かいものを感じた。 薄明かりを付けて目を向けてみると、ラミッタが近くまでやって来ており、こちらを向いて寝息を立てている。「なっ、ラミッタ!?」 彼女の緋色の唇、サラサラとした茶色の髪、そして何故か甘い匂い。 じっと見つめてしまったマルクエンだったが、ハッとし上体を起こす。「このままじゃ起
last updateLast Updated : 2025-12-01
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結界を直そう

「見えてきたな、あそこだ」 マルクエンが指差す先には件の祠があった。「ふーん、あそこが水の神様が居る祠ってわけね」 シチが遠目に眺めて言う。祠の入り口までたどり着くと、シチは何やら辺りを見回し、壁に手を当てる。「なるほどね、金属を急速に腐食させる……。水の神様と呼ばれるにふさわしい効果だわ」「何か分かったか?」 マルクエンが尋ねるとシチは答えた。「多分、条件付きダンジョンなのでしょうけど、金属を腐食させる結界は正常だわ」「じゃあ、何で魔物が居たのよ」 ラミッタが片目を開けて言う。「本来であれば、魔物除けの結界も作動しているはずだわ。その結界が書き換えられているみたいね」 シチの言葉にシヘンは少し考えてから発言した。「やはり、魔人の仕業なのでしょうか?」「恐らくはね、魔人か、その部下か」「直す方法は無いのか?」 マルクエンの言葉にシチは軽く答える。「あるわ、この祠の中に入ってまた結界を作動させれば良いのよ」「そうか、それじゃ早速行くか」「また金属を脱ぐの? 面倒くさいわね……」 ラミッタは文句を言いながらも金属のプレートと剣を外した。マルクエン達も各々金属を手放し、祠の中へと入って行く。 今回は魔物もおらず、簡単に最深部へと辿り着くことができた。「あぁ、この社の中だわ」 シチは祀られている社を開けて、中に手をかざす。「5分もあれば書き直せるわ」「流石だなシチ」 マルクエンに褒められ、顔を赤くするシチ。「姉御なら、こんな事ぐらい朝飯前だぜ!!!」 シチの代わりに得意げにしていたのは手下だ。 しばらく沈黙が続き、シチがふぅっと息を吐く。「終わったわ、これで低級の魔物は近寄れないはずよ」「そうか、ありがとうシチ」「べ、別に、金貨のためよ!!」 シチは赤い顔を悟られないようにそっぽを向いた。「それじゃ、こんなジメジメした所からさっさと出ましょう」 ラミッタは罰当たりな事を言って出口へ向かおうとする。 その時だった。嫌な魔力を感じ取り、ラミッタの顔が険しくなる。「お出迎えが来たようね」「何っ!?」 駆け出すラミッタに続いてマルクエンも走り出す。「ちょっ、待ってくださいよ!!」 ケイとシヘンも後を追いかけ、取り残されたシチと手下。「なになに!? 何なのよ!!」 祠の出口に近付くと、眩しい
last updateLast Updated : 2025-12-07
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知る者

「大丈夫か?」 マルクエンは体を寄せてシチを支える。「怪我はそうでもないけど、血が足りないみたいね」 冷静を装いながらシチが言うと、マルクエンはシチの前で屈む。「良かったら背負っていくぞ」「し、仕方ないわね。偉大なる黒魔術師を背負う栄誉を与えるわ!!!」 いそいそとマルクエンに抱きつくシチ。ひんやりと冷たい体温が伝わる。 洞窟の外で金属の装備を回収し、マルクエン達は集落まで戻った。「おぉ、マルクエンさん!! 皆さん!! 祠の方はどうでしたか?」 宿屋の主人が出迎えてくれ、マルクエンは先程の出来事を話す。「結界は直りました。しかし、魔人の襲撃があり、シチが怪我をしてしまいました」「なっ、魔人ですか!? 大変だ、避難と治安維持部隊へ連絡を……」 焦る主人にラミッタが言う。「いえ、奴なら倒しましたので」「ま、魔人をですか!? し、信じられない……」「ともかく、この集落に当面の危険は無いと思われます。シチを休ませてやりたいのですが、宿は取れますか?」「そ、それはもちろんですが」 宿屋の一室へ通され、マルクエンはシチをベッドに降ろした。「運んでくれたことは褒めてあげるわ!!!」「あぁ、そうか」 マルクエンは笑顔で返す。「宿敵、私達は早く次の大きな街へ向かったほうが良いと思うわ」「どうしてだ、ラミッタ?」 シチの怪我の心配もあり、治るまでは面倒を見ていたいと思っていたマルクエンだったが、ラミッタの意見が気になる。「ねぇ、一つ聞いていいかしら?」 シチが突然、口を挟む。「あなた達、何者なのかしら? その強さと、魔人は転生者って言っていたけど……」 マルクエンとラミッタは顔を見合わせ、頷いた。「シチ、巻き込んでしまったし、信じられない話だろうが信じて欲しい」 マルクエン達はこの世界に来た生い立ちと、この世界での出来事をシチに説明する。「お前達が転生者だと? それじゃ『伝説のゆーしゃ』みたいじゃねーか!!」 話を聞いていた手下は、信じられないとばかりにそう言った。 無理もない、こんな話は信じろと言う方が難しい。「いや、私は信じるわ。その強さと、魔人が狙う理由に辻褄が合うもの」「姉御ぉ……」「信じてくれてありがとう」 マルクエンはふっと笑う。 そして、話を終えた所でラミッタが本題に入る。
last updateLast Updated : 2025-12-10
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ジャガへ

「お、流石はお二人さん。それ、ウチで一番良い大剣と魔剣士の剣だよ」 マルクエンの大剣は、鋼で作られており、値も張るが、丈夫なものだ。 元々使っていた剣より一回り小さいが、その点は仕方がないだろう。 ラミッタの方は魔力の伝導率が良く、剣に炎や電気を纏わせても問題が無い。 こちらも、元の剣よりは魔力の伝導率が低い。「外で振り回して貰っても構わないよ」「そうですか、では」 マルクエンは大剣を軽々と振り回し、縦に横にと素振りをする。 ラミッタも具合を確認するために、魔力を流しながら素振りした。「私はこの剣で良いわ」「あぁ、私もこれにしよう」 そう言って店に戻ると、店主に告げられる。「俺の見立てだと、その剣は暫くの間なら大丈夫だろうけど、いずれお兄さんの力に耐えきれなくなるね」「そうですか……」 マルクエンも薄々分かっていたが、どうしようかと悩む。「ここから西に良い鍛冶屋の街がある。『ジャガ』って言うんだ。余裕があったら寄って行っても良いかもね」「西へですか、わかりました。ありがとうございます」 何度か断ったのだが、料金はだいぶサービスしてもらい、マルクエン達は集落の人々に送り出されながら旅へと戻っていった。「それで『ジャガ』って街には行くんスか?」 ケイに尋ねられてマルクエンはうーんと唸る。「『ライオ』という大きな街で武器と魔人の情報を集めても良いのですが……」「ライオまでは歩いて二日半かかるわ、ジャガは今日中に着ける。途中魔人と戦いになって剣が折れても困るわよ?」「そうだな、寄るだけ寄ってみるか」 ラミッタに言われマルクエンは考えが纏まったようだ。 街道を歩き、しばらくすると分かれ道が現れ、看板によると、左の道へ行けばジャガらしい。 道中の魔物をシヘンとケイに任せ、四人は道を歩く。 日が暮れる前に街が見えてきた。鍛冶屋の街らしく、工房がそこら中にあり、煙突から煙が出ている。「おー、ジャガは初めて来ましたけど、まさに鍛冶屋の街って感じっスね」「そうですね」 マルクエンも関心して周りを見渡した。「この街にも冒険者ギルドってあるのかしら?」 ラミッタは案内用の看板を見て言う。「あ、ありますね!」 シヘンがギルドの文字を見つけた。ラミッタも場所を確認するため覗き込む。「えーっ
last updateLast Updated : 2025-12-13
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鉱脈の竜

「そんな竜を私達で倒せるかどうか……」 マルクエンは少し弱気に言う。「頼む、それに竜から素材が取れたら最強の剣を作ってやるよ!!」「最強の……、剣ですか?」 マルクエンが聞き返すと「あぁ」と言って得意げにサツマが話す。「俺の先々代の更に先々代と語り継がれているだけどな、鉱脈に現れる竜からは最高の金属が採れる。そいつを使えば絶対に折れない錆びない剣が出来るってよ!!」「ホントかしら?」 ラミッタは疑いの目線を向けるが、そんな事は気にしていないようだ。「そうさ!! 不謹慎かもしれねぇが、俺は竜が現れて感謝もしているんだ。俺の代で最高の剣が作れるかもしれねぇってよ!!」 ふむ、とマルクエンは顎に右手を当てて考える。「ラミッタ。どうする?」「まぁ、勇者を待つ間は暇だし、まずは様子だけでも見てみましょうか。期待はしないで頂きたいけどね」 二人の返事を聞いてバレイもサツマも顔を明るくした。 ギルドを出る頃にはすっかり日も沈んでしまった。勇者と竜討伐の件があるので、宿はギルド持ちで用意という高待遇だ。 この街で一番の宿に、マルクエンの一人部屋とラミッタ達の三人部屋が用意されていた。 ビュッフェ形式の夕飯を堪能すると、ラミッタの部屋に集まり、今後のことについて話す。「鉱脈に住む竜か、どんな奴なんだろうな」 マルクエンがポツリと言った。「一旦、敵を偵察してみるしか無いわね」 ラミッタはそう返した後にシヘンとケイの方を見る。「それで、あなた達はどうするの?」「わ、私は!! 付いていきます!!」 シヘンが緊張しながらも返事をした。 だが、ラミッタは彼女たちを見据えたまま語りかける。「竜との戦いだわ、あなた達を守りきれないかもしれない。命を落とす可能性もあるわ」「私はここまで来たんだから付いていくッスよ!!! 魔人と戦っているのに今更ッスよ!!」「そうね」 ケイの言葉を聞いてラミッタが、くすりと笑う。「それじゃ早速だけど、明日になったら偵察に行きましょ。ほら、さっさと出ていきなさい宿敵」 ラミッタは手でシッシッとマルクエンを部屋から追い払った。 翌日になり、朝食を済ますと、宿屋の外でラミッタはうーんと背筋を伸ばす。「それじゃ、ドラゴン見物と行きましょうか」 マルクエン達は荒れた山を目指して歩き始める。 二時間ほど歩くと、鉱
last updateLast Updated : 2025-12-14
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