All Chapters of 別の形で会い直した宿敵が結婚を迫って来たんだが: Chapter 21 - Chapter 30

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夜食

 その夜、マルクエンはふと目が覚める。 時計を見ると、深夜二時。変な時間に起きてしまったなと思った。 再び寝ようと思ったが、妙に目が冴えている。「何だか腹も減ってきたな……」 気が付くと、腹も減っていた。カーテンを空けて外を見ると、まだ街なかには灯りが点っている。「何か食べるか」 腹が膨れれば眠くもなるだろうと、小さく呟きながら考えた。 服を着替え、マルクエンは宿屋の外へと出ていった。 暗い夜空から星が落ちて来たように、点々と明るい街。何処か食べ物が売っていないか、食べられる店は無いかと辺りをぶらつく。「あ、もしかして昼間のおにーさん?」 そう言って駆け寄ってきたのは、童顔の美人。昼間、胸に名刺を挟んでマルクエンに抜き取らせたサキュバスだ。「あなたは昼間の……?」 マルクエンがそこまで言うと、サキュバスは何と抱きついてきた。「お兄さん覚えていてくれたんだー!!!」「なっ、ちょっ、ちょっと!?」 動揺するマルクエン。サキュバスの女は離れると次は手を握ってくる。「お兄さん、今度こそ時間大丈夫だよね?」 胸元を強調しながら、下から見上げてくるサキュバス。思わず視線を逸してマルクエンは誘惑に打ち勝つ。「す、すみません。今は食べ物屋を探していまして……」「あー、それだったらウチの店はピッタリ!! ウチの店は料理にも拘っているから!」「で、ですがその……」 そう言えばとマルクエンは兵士が言っていた事を思い出していた。こういった店で女の子が客引きをしている所ではボッタクリに会いやすいと。「安心してー、ウチの店は一時間飲み放題で三千エンぽっきり!! 何とお通し代込!! ただ、料理は一品頼んでもらいますけどねー」 サキュバスは胸を張って言った。 だが、マルクエンはあまり乗り気になれない。「三千エン!? 料理を食べるだけにしては高いような……」「そんな事ないですよー? むしろウチの店は良心的な価格設定ですよー」 手を引かれてマルクエンは路地裏まで連れて行かれる。「ウチの店はここ!!」 案内されたのは、大きくて綺羅びやかな店だった。ガラス越しに灯りが、ゆらゆらと光っている。 されるがままに店の中へと入ってしまったマルクエン。「いらっしゃいませー!!」 女の子やボーイが笑顔で出迎えて
last updateLast Updated : 2025-11-15
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サキュバスに代わってお仕置きよ!

「お嬢ちゃんが今夜『イイコト』してくれるなら許してやろうかなー?」 巨漢に言われスミレは恐怖する。「何だその顔。サキュバスなんて、そんぐらいしか取り柄がねーだろうがよ!!」「おい、スミレさんに謝れ」 マルクエンは険しい顔で怒鳴りつける。「お前が喧嘩で勝てたら何でもしてやるよ」 そう言って外へ出ていく男達。マルクエンはその後を付いて行く。 店の外で男達とマルクエンは対峙した。「かかってきな、大馬鹿野郎」 巨漢は手をクイクイと引いてマルクエンを挑発する。「そうか、それじゃ」 マルクエンは走って一気に距離を詰めた。その速さに巨漢はギョッとする。 取り巻きの一人の腹を殴り、そのまま別の一人も蹴り飛ばし、あっという間に制圧した。「後はお前だけだ」「ふん、面白え」 巨漢は強がっていたが、内心焦っている。 殴り掛かられた拳をさっと避けて、カウンター気味に裏拳で巨漢の顔を殴る。大きな体が宙を舞い、飛んでいった。 スミレやボーイはその様子を見てぽかんとしている。あっという間に三人の男は地面に倒れた。「すごい……」 思わずそう口にすると同時に、男達は短剣やナイフを取り出して立ち上がる。「この野郎、舐めやがって!!」「マルクエンさん逃げて!! 治安維持部隊はまだなの!?」 スミレの言葉にも、男達にも、マルクエンは動じない。 一人の男が魔法の詠唱を始め、火の玉が飛んできた。それと同じくして別の男と、巨漢が短剣を持ち走ってくる。「死に晒せ!!」 もうダメかと集まってきた見物人達は思ったが、マルクエンは火の玉を最小限の動きで全部避けて、男達を返り討ちとばかりに蹴り飛ばした。「少し、お仕置きが必要か?」 倒れる巨漢の両腕を後ろにねじり上げて捻る。「いだ、いただ!!!」「悪い腕だな、貰っておくか」 このままでは本気で折られると思った巨漢は命乞いを始めた。「悪かった、俺が悪かった!!!」「謝る相手が違うな」 マルクエンはそう言いながらスミレの方を向かせる。「悪かった!! 悪かった!!!」「マルクエンさん!! 私はもう大丈夫だから!!」 スミレが言うと、マルクエンは両腕を解放してやった。「ひぃー」と言いながら男達は何処かへ逃げていく。「マルクエンさん!!」 スミレはマルクエンに駆け寄って抱きついた。柔らかい感触が
last updateLast Updated : 2025-11-16
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海に入ろう!

「まぁまぁ、せっかく海に来たんですし、海に入ってみませんッスか?」 ケイの提案にマルクエンの顔は明るくなった。「そうね、今から出発しても日が暮れちゃうし。ま、まぁ、たまには息抜きも良いんじゃないかしら?」 ラミッタは腕を組んでソワソワしながら言う。「じゃあ決まりっスね!」 ルンルン気分のマルクエンを連れて、一行は海へと向かことになる。「おぉ、これは!!」 砂浜の見える距離まで近付くと、興奮気味にマルクエンは言った。「凄い!! これ全部砂と水なんですか!?」「そうッスねー」 ケイが言った後、シヘンもクスクスと笑う。「綺麗ですね」「えぇ、本当に……」 感嘆しているマルクエンを連れて、ケイは海の家へと歩いていく。「ここで水着が借りられるッスねー」 料金を払い、男女別の更衣室へと向かうマルクエンとラミッタ達。 マルクエンはなんてこと無い青色の海パンに履き替えて外に出た。 憧れの砂浜に一歩踏み出すと、サラサラとした感触が出迎えてくれる。「マルクエンさーん!!」 こちらに小走りで来るケイ。健康的な褐色の肌が白いビキニの水着で映える。 その後ろではシヘンが恥ずかしそうにモジモジとしていた。「あの、へ、変じゃありませんか?」「いいえ、お似合いですよ」 変どころか、フリル付きの明るい緑色の水着はシヘンにとても似合っている。彼女の大きな胸が更に強調されていた。 マルクエンの素直な感想に、シヘンは顔が赤くなる。「あれ、ラミッタは?」 ラミッタの姿が見えない事を不思議に思うマルクエン。「ラミッタさーん!! 大丈夫ッスよー!」 ケイの声を聞いて更衣室の出口からゆっくりと出てくるラミッタ。 真っ赤なビキニを身に纏いながら、普段の威勢の良さは何処へやらとモジモジしている。 彼女はマルクエンによって頬に付けられた傷跡以外にも、手や足に古い切り傷があった。「何よ……」 ラミッタをじっと見るマルクエン。「あーもう! こんな傷だらけの体なんて見ても仕方ないでしょ!?」「いや、ラミッタも似合っているなと思ってな」「なっ!!」 マルクエンに言われ、ビキニと同じぐらい顔を赤くするラミッタ。「もう、こっち見ないで!! このド変態卑猥野郎!!」 胸元を隠してラミッタが言う。マルクエンはハハハと笑いながらも、あの時ラミッタの胸を貫いた大き
last updateLast Updated : 2025-11-17
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魔人の気配

 マルクエン達が海を堪能している頃、あの奇術師の魔人が誰かと話をしている。「ミネス、お前はコンソを殺った例の転生者達を倒すつもりがあるのか!?」 奇術師をミネスと呼ぶ男は苛立っていた。「まぁまぁ、そう言わないでよクラム! 何も殺すだけが倒すってわけじゃないよ?」 ミネスはあっけらかんとした感じで続ける。「ボクはあの子達を気に入っているんだ。魔王様だって、出来れば仲間にした方が良いと思っているよ、きっと!」 その言葉に納得がいかないのは、クラムという魔人の男だ。「オレは俺のやり方でやらせて貰う。どんな手を使おうが倒してしまえばいい」「あー、それじゃ新しく出来たボクのおもちゃを使ってみる?」 ミネスが指を鳴らすと、手のひらに小さな箱が現れた。「何だそれは」 クラムはよく分からないまま、それを差し出される。「きっとクラムも気に入ってくれると思うよ?」 魔人達の会合が行われているなんて知らずに、海で遊び疲れて眠ってしまうマルクエン。 日に焼けたせいか、肌がピリピリとする。 この世界が大変なことは分かるが、海は楽しかったなと思い返していた。 翌日、ホテルのロビーに向かうと、ラミッタ達が先に待っている。「遅い、宿敵!!」「いや、悪い悪い。でも集合時間前じゃないか?」「ふふっ、おはようございますマルクエンさん」「おはよザーッス!!」 そんな会話が終わると、シヘンがマルクエンの元へと歩み寄った。「マルクエンさん、日焼け痛くないですか?」「えっ? あぁ、多少ひりひりしますね」「手をお借りして良いですか?」 シヘンに言われ、何をするのだろうと思ったが、素直に手を差し出す。彼女の柔らかな手が触れる。「リフレッシュ!!」 その言葉と共に、日焼けの痛みが飛んでいく。「お、おぉ!! 凄いですシヘンさん!!」 目を丸くしてマルクエンは言った。「私、これだけは得意なんですよ」 はにかんでシヘンは話すと、ラミッタが立ち上がる。「それじゃ出発するわよ」 名残惜しそうに海に背を向け、マルクエン達は街を後にした。「それでラミッタ。次は何処へ行くんだ?」「周辺の地図は買っておいたわ。今度はこの近くの街を経由して、大きな街に行くわよ」 地図を広げてラミッタが言う。なるほどなとマルクエンは後に付いていくことにする。 
last updateLast Updated : 2025-11-18
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契約!

 ケイとシヘンは緊張して座っていた。マルクエンも若干同じ気持ちだったが、ラミッタは堂々としている。「私はこの街の冒険者ギルドのギルドマスターです。あなた方にご確認をしたいことがあるのですが……」「はい、何でしょうか?」 マルクエンが返事をすると、ギルドマスターは話し続けた。「先程、前線で戦っていたお二人、あなたとそちらの魔剣士の方は本当にDランクの冒険者なのでしょうか?」 どう答えようかマルクエンが考えていると、ラミッタが口を開く。「そいつと私は確かにDランクの冒険者ですが、遠くの地で傭兵をやっていました」「なるほど……。それで……」 ギルドマスターは納得したのか、していないのか、といった感じだ。「この街の兵士長です。まずは感謝を申し上げる。そして、お願いをしたいことがあるのですが」「私に出来ることでしたら」 そうマルクエンが言うと、「それでは」と兵士長は話し始めた。「恐らく魔人であるあの者が、またいつ街を襲うとも分かりません。軍を要請する間、この街を守っていただけないだろうか?」 マルクエンはラミッタに視線を飛ばす。軽く頷くのを見て返事をした。「えぇ、分かりました」「感謝します」 話が纏まり、議長がマルクエン達に提案をする。「軍が来るまで長期の滞在になるやもしれません。宿屋ではなく、街にある空き家をご用意致しますので、そこでしばらく滞在して頂けないでしょうか?」 ふむ、と思うマルクエン。悪い提案ではない。 だが、答えたのはラミッタだった。「分かりました」「ありがとうございます。最低限の家具はご用意しておりますが、他に必要な物がありましたら、こちらをお使い下さい」 手渡されたのは、ずっしりと重い袋だった。中には恐らく金が詰まっているのだろう。「では、何かありましたら、ありがたく使わせて頂きます」 ラミッタが受け取ると、ギルドマスターが話す。「もちろん、こちらとは別に、ギルドから報酬もご用意させて頂きますので」「承知しました」 マルクエンの言葉を聞いて、対面の男達は立ち上がる。「お話は以上になります。どうかよろしくお願い致します」 頭を下げる議長を見て、マルクエン達も礼を返し、部屋を出ていった。「あー、何だか緊張したッス!」「うん、私も」 一言も喋れなかったシヘンとケイはそんな事を言
last updateLast Updated : 2025-11-19
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酔っぱラミッタ

 一気に出るシャワーのお湯がシヘンを襲う。「きゃっ!!」「あ、あぁ!! すまないシヘンさん!!」 慌ててマルクエンはレバーを戻す。 シヘンは魔術師の白い服を着ていたので、濡れて透けてしまった。「いえ、大丈夫です」 そう言ってこちらを振り向くシヘン。次の瞬間、マルクエンは驚愕する。 透けた服の向こう側に、シヘンの下着が見えてしまっていた。「あっ」 それに気付いたシヘンは顔を赤くしてしばらく硬直していたが。「キャー!!」 叫んで胸元を隠し、うずくまるシヘン。騒ぎを聞きつけてラミッタとケイがやって来た。「どうしたの!?」「大変だ!! シヘンさんが濡れてしまった!!」「濡れてしまった!? 何やってんのよド変態卑猥野郎!!」 浴室に飛び込むラミッタ。全身ずぶ濡れで服が透け、しゃがみ込んでいるシヘンが目に入る。「アンタ!! 本当に何してるのよド変態卑猥野郎!!」「す、すまない!!」「良いから出ていけ!!」 ラミッタはマルクエンを浴室から追い出した。 そのままの流れでシヘンはシャワーを浴びて出てくる。「シヘンさん! 申し訳なかった!!」「い、いえ、大丈夫ですから……」 何となく会話がぎこちない。最後にマルクエンが浴室へと消えていった。 天井からお湯が降ってくるのは初めての体験だったが、中々心地よいものだった。 石鹸を使い、体の隅々まで洗い、タオルでよく拭いてから浴室を後にする。「初めてのシャワーはどうだったッスか?」「えぇ、不思議な感覚でしたが、スッキリしますね」 ケイの質問にマルクエンはそう答えた。 その後、四人はソファーや椅子に座り、くつろぐ。ケイとラミッタは酒を飲んでいた。 魔石を照明に使っているので、夜なのに部屋の中は昼のような明るさだ。「この家、必要最低限の家具は確かにあるけど、もっとお皿とかコップが欲しいわね」「そうですねー」 ラミッタの言葉にシヘンも相槌を打つ。「明日、あのふざけた箱を調べて、その後に買い物でもしようかしら」 この家は、元々冒険者ギルドで使われていた物らしく、家自体は立派だが、街外れに建っていた。 だが、魔人の残した箱に近いので、いつでも異変があれば駆けつけられる。「そうだな、私はそろそろ休もうと思う」「おやすみなさい、マルクエンさん」「おやすみッスー!」「おこちゃまは
last updateLast Updated : 2025-11-20
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 マルクエンは冒険者ギルドで鉄製の大鎚を借りる。 重さ数十キロにも及ぶそれを軽々と片手で持ち運ぶのは、流石と言った所だろうか。「さて、着いたわね」 魔人の残した箱の前まで来るとラミッタが言う。「さぁ宿敵! ぶっ壊しちゃいなさい!!」「おう!!」 マルクエンはありったけの力を込めて箱に大鎚を叩きつけた。 ガインっと物凄い音が鳴り響くも、箱はビクともしない。 二度三度と叩くも、箱に傷ひとつ付けることが叶わなかった。「この箱、硬い!!」 マルクエンがそう口にする。ラミッタは何かを考えていた。「でも、魔物が出てきた時はあっさりと壊せたわ。何か条件があるのかしら」「謎ッスねー……」 うーんと皆で悩む中、ラミッタは思いついた仮説を披露する。「多分だけど、魔物が出てくる時しか破壊できない……、かもしれないわね」「可能性はあるな」 マルクエンはラミッタの意見を支持した。「宿敵、箱を押して動かしてみて」「あぁ、分かった!」 ラミッタに言われ、マルクエンは馬鹿力で箱を押す。 しかし、ほんの少しも動かない。「壊せない、動かせない。ってことは、待つしか無いって所かしら」「あぁ」「まー、悩んでいても仕方ないわ。その時まで街でゆっくり暮らしましょう」 ラミッタは箱に背を向けて歩き始めた。その後をマルクエン達も付いていく。 ギルドに大鎚を返すと、マルクエン達は街なかを歩いた。「何か欲しい物があったら買い物しちゃいましょう。せっかくお金も貰ったんだし」「それじゃ、私は食べ物や、生活の消耗品なんかを買ってきますね!」「お、私は荷物持ちしてくるッスー」 シヘンとケイは買い物に出かける。残されるマルクエンとラミッタ。「それじゃ宿敵。私達も何か家で必要な物でも買うわよ」「うーん、特にこれと言って必要な物が無いのだが……」「ありまくりよ!!」「具体的に何が必要なんだ?」 マルクエンが不思議がって聞くと、ラミッタは答える。「必要なものは必要なものよ!! 街の中を見ていたら気付くわよ」「そういうものなのか?」 マルクエンとラミッタは街を歩く。ラミッタは雑貨屋の前で足を止めた。「そうね、ここでも見ていきましょう」「あぁ、分かった」 二人は店の中へと入っていく。食器類や消耗品などが売っていた。「いらっしゃいませー! 何
last updateLast Updated : 2025-11-21
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屋台でもどうでしょう?

 約束の時間までもう少しとなる。結局、ギルド内で聞き込みをしても有力な情報が集まらなかった。 逆に、マルクエン達は何処から来たのか、Dランクという噂は本当なのか? 魔人を追い払ったのは本当なのかと質問攻めに会ってしまう。「マルクエンさん、兵士長様がお見えになられましたー!」 ミウが声を掛けてきて、正直助かったとマルクエン達は思った。 そのまま会議室へと呼ばれ、ギルドマスター、兵士長と対面する形で椅子に座る。「皆様、ご足労いただきありがとうございます」 兵士長が頭を下げ、マルクエン達も礼を返す。「さて、早速本題に入らせて頂きたいのですが、軍隊が到着するのが大幅に遅れる見込みでして……」 ラミッタはそんな事だろうと思っていたが、マルクエンは驚いて理由を尋ねる。「それは……。どういったご事情でしょうか?」「はい、どうやら各地で魔人の目撃情報が相次ぎ、また、この街に置かれた箱の様な物も設置されているようです」「そんな……」 シヘンは思わず言葉が漏れ出た。うーんと唸るマルクエン。「困りましたね……」「応援を要請しましたが、ここは王都からも遠く、各地での騒動が終わり次第という形になりそうです」 それを聞いて、ラミッタが話し始める。「要するに、私達だけであの箱をどうにかしなくてはいけないと?」「はい、申し訳ありませんが……」「私達ギルドも、勇者マスカル様に連絡を取り付けてみたのですが、別の町の箱を対応中との事でした」 勇者マスカルの名を聞いて、あぁと思い出したマルクエン。あの一緒に食事をした男だ。「冒険者ギルド、この街の駐在兵、治安維持部隊で連携して街を守っていく方針ではありますが……」「あの箱や魔人の事はお任せ下さい」 マルクエンの言葉に兵士長は安堵した。「あなた方がいらっしゃるなら、本当に心強い」 話し合いが終わり、マルクエン達はギルドを出た。「あんな安請け合いして良かったの? 宿敵」「放っておけないだろう? それに、魔人が向こうからやって来るならば、話は早い」「まぁ、そうね」 そんな事を言って4人は街をぶらつく。昼が近いので腹も減ってきた。「お昼近いですし、何処かで食べていきませんか?」「そうね、そうしようかしら」 ケイの提案にラミッタは同意する。「あの屋台通りなんてどうっスか? 前から気になってたんスよ!」
last updateLast Updated : 2025-11-23
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居場所は良い場所

 マルクエンは大剣を振るって、魔物をまとめて斬る。ラミッタは一匹一匹確実に斬り、突き刺し、薙ぎ払う。 圧倒的な強さで魔物を蹴散らす二人、応援に来た者たちも、その戦いに見惚れながら魔物と対峙した。 そんな時、ラミッタは遠くからの気配を察知して空を見上げる。 空を猛スピードで飛んでやって来たのは魔人『クラム』と女らしき奇術師の魔人だった。 彼等は二人の上で話し合いを始める。「やはり、転生者相手では、こんなオモチャ遊びにすらならんか」「もー、せっかくボクが作ったって言うのに酷い言い方!! でもまぁ、確かにちょっと物足りなかったみたいだね」「貴様達は!!」 マルクエンは剣を二人に向けて叫んだ。「降りてきなさい!! メッタ斬りにしてあげるわ」 ラミッタが言いながら魔法を天空に放つ。「まー、そう焦んないで」 奇術師の魔人は分厚い魔法の防御壁で下からの攻撃をすべて防ぐ。「そうそう、いい加減に自己紹介しておこうか? ボクの名は『ミネス』だよ! よろしくねっ」 ウィンクをしてそう名乗る奇術師の魔人もとい、ミネス。「あら、ご丁寧な自己紹介どうも。それじゃ死ね!!」 ラミッタは風魔法で飛び上がり、剣に炎を纏わせると、赤く光るそれは、元の5倍ほどの長さになる。 それを防御壁に叩きつけた。壁には大きな亀裂が入る。「うへぇー、やるー!!」 ミネスはそんな事を言ってジャグリングを始めた。「マーダージャグリング!!」 落下し、地面に戻ってきたラミッタは大声で叫ぶ。「この前も思ったけど、その技名ダサいわよ!!」「なっ、キミ、言っちゃいけないこと言ったな!!」「多少の自覚はあったのか?」 マルクエンにも言われ、ミネスは顔を赤くする。「ミネス。ふざけているなら俺が行くぞ」 魔人クラムが言うとミネスは待っててと制止した。「今日はコイツだ!!」 赤い玉を空に放り投げると、それが数百に分裂して地表に火の玉となって降り注ぐ。「っ!! まずい!! みんな逃げろ!!」 ちょうどマルクエンが振り返って戦う者たちに叫んだ時、シヘンとケイの姿が目に入った。 彼女達も戦っていたのだ。まずいとマルクエンはそちらへ走る。「仕方ないわね、ちょっと疲れるけどやってやるわ!!」 ラミッタは右手を地面に置いてありったけ魔力を込めた。 すると、巨大な防御壁が空を飛び
last updateLast Updated : 2025-11-24
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ラミッタの過去は

 話は魔人について、これからの方針についてだった。 やはり各地で魔人の脅威があり、マルクエン達には可能であれば、まだ街に居て欲しいと言われた。 それを了承し、四人は仮の宿を案内された。 部屋が空いていなく、四つベッドが置かれている部屋で我慢してくれとの事だ。 四人は部屋のソファや椅子に座っていたが、会話が無い。「なぁ、ラミッタ」 最初に沈黙を破ったのはマルクエンだった。「さっきの戦いで、私は冷静さを失うお前を見た。あんな事は私との戦いでも見たことが無い」「なによ、私だって怒ることぐらいあるわよ」 紅茶を啜りながらラミッタは目も合わさずに言う。「確か『居場所を奪うやつは許さない』って言っていたな」「なんでそんな事覚えているのよ。ド変態卑猥野郎」 少し恥ずかしそうに、言葉尻をすぼめてラミッタは言った。「ラミッタ、私はお前について何も知らないことばかりだ。もし大丈夫なら聞かせて貰えないか? あそこまで怒った理由を」「私の過去なんて聞いてもつまらないわよ」「それでも知りたいんだ」 シヘンとケイはそのやり取りを黙って見ていた。「私の過去、結構複雑よ、話したらお涙頂戴、同情頂戴って感じに聞こえて嫌なんだけど」 そしてまた沈黙。しばらくしてラミッタが話し始める。「わかったわよ。少しだけ話すわ」 観念したのか、ラミッタは過去を少し語ることにした。「私ね、赤ん坊の頃、孤児院の前に捨てられていたの。大量の金貨と一緒にね」「そうだったのか……」 マルクエンは真剣な眼差しでラミッタを見つめる。「それでさ、私は孤児院で問題児に育ったの。これでも昔から喧嘩は強くて年上の男も泣かしていたわ」「ラミッタらしいな」 フフッとマルクエンは微笑んだ。「食事もオモチャも、奪おうとする奴は許さなかった。馬鹿にしてくる奴もね。私は小さい頃から自分を守るために戦っていたわ」 ふうーっとラミッタは息を吐く。「その内、孤児院の先生にも疎まれて、私は13歳の頃に出ていったわ」「そこからはいろんな街を放浪してたわ。お金は盗賊や女だからって襲おうとする輩を返り討ちにして奪ったわ」「ある日、街で喧嘩して大暴れした時、兵士まで出てきて捕まったの」 ふとラミッタは遠くを見つめ、話し続ける。「そこに、たまたま居たスフィン将軍に目を付けられてね、牢獄行き
last updateLast Updated : 2025-11-25
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