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All Chapters of 白無垢の呪恋唄: Chapter 21 - Chapter 30

56 Chapters

第21話 家族の異変(古塚弓弦side)

 古塚弓弦は、何も見えはしない暗闇の中に再び入れられた。もう何度目か、朝昼夜の3食の食事以外は外に出ることが許されず、顔を洗うことも風呂に入ることもできずに何日も過ごしている。  当初は当然反発心も持っていたが、自身の髪の毛や体から漂う酸っぱい臭い、祠と呼ばれる狭い部屋から漂うカビ臭さにも慣れた頃にはもう考える気力を失っていた。  肉や魚が入っていない味気のない料理を毎食食べ、毎日同じ黒袴を着て、毎日暗闇で過ごす。眠っては起きて、起きてはまた眠り、同じことを繰り返すだけの時間が過ぎるなかで、気がつけばというよりも気がつかないままに時間の感覚も失われていた。  ただただ長い暗闇の中を過ごしている。今、目を開けているのか閉じているのかさえ弓弦は判別がつかなくなっていた。  抵抗していた最初の頃は、「成人の儀」とは何か、なぜ結婚式で着るような黒い袴を着なければいけないのか、その目的と手段について何度も何度も祖父や祖母、そして母親に問いただした。ところが、返ってくるのは無言の訴えだった。  一度激昂して小さなちゃぶ台を両手で思い切り叩いたことがある。お椀や皿が木の床へと落ちて汚れる。それでも3人とも怒るなんてことはなく、まるで感情が無くなったかのように無表情で弓弦を6つの瞳がただただ見つめていた。母親がたまにする「遠い目」だった。  弓弦はその目に見つめられて心が冷たくなっていくのを感じていた。何も言葉は浮かばなかった。正確に言えば、口から声を発することさえ怖かった。何も言えないでいると、祖母は急に立ち上がった。落ちた食器を片付け床を丁寧に拭くと、また同じ料理を弓弦の目の前に置く。そして、じっと見つめるのだ。弓弦が仕方なく箸を取り、食べ始めてようやく視線は外された。砂のような味の料理を無理くり胃袋に流し込んだことを覚えている。  異常だと感じた。異常だと思っていた。  祖父も祖母も今まで一度だってそんな目を弓弦に向けることなどなかった。滅
last updateLast Updated : 2026-02-11
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第22話 求める声

 暗闇の部屋は今日も動かない。以前弓弦が聞いた母親の話によると、300年前から修繕、修理、今で言うリフォームをしながら続いているらしい屋敷は少し強い風でも吹けば揺れるような脆い屋根と壁だった。しかし、地下に石壁を積んで造られたこの部屋だけは全く揺れることがない。  だから今日も、外からの音は聴こえなかった。  古塚家がこの地において、代々村役を務めていた由緒正しい家筋であることは、母親から何度か聞かされていた。そうは言っても特別何か思ったこともなく、この旧家に来たところで今にも崩れそうなボロボロの家だと感じただけに過ぎない。  旧家の周辺は昔はそれなりに人もいたのであろうが、どこも掘っ立て小屋のような寂れた空き家しかなく、村に現存している家屋は10軒ほどしかなかった。しかもその内の1軒であるこの屋敷は、広さこそ誇れるかもしれないがポツンと離れた丘の上に淋しく建てられている。  暗闇の中から聴こえてくるのは、自分の息遣いと動く度に擦れる服の音くらいだった。弓弦は、もうくたびれてしまったようにだらりと両腕を冷たい木の板の上に投げ出し、背中を石壁に預けていた。まるで暗闇に吸い込まれるように。  明らかに異常だった。だが、異常を知らせるにも隣近所に家があるわけではない。屋敷のある坂を下っていけば家々はあるが、信用できる人たちなのかすら弓弦には判断できなかった。  友達に連絡したところで理解はしてくれまい。唯一頼れるのは、家で帰りを待っている妹──美月だけだった。 (……み……つき……み、つき……みつき……) 「……美月」  目から涙が溢《こぼ》れてくる。自分とは違って気の強い真っ直ぐな瞳が暗闇の中に浮かんできた。止まったはずの思考が動き出せば、救いを求める心とは裏腹に絶望色が押し寄せる。どこまでも、どこまでも深い暗闇が弓弦の心を支配していた。  屋敷に着い
last updateLast Updated : 2026-02-13
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第23話 奇妙な音

 一度戻った意識はここはどこなんだ、と問う。自分は何でここにいるのか、と問う。ぐるぐると廻る思考はやがて暗闇に溶けていき、カラフルな色彩をぐちゃぐちゃに黒の絵の具で塗り潰されたように支離滅裂になっていく。  目、目、目、目。音、音、音、音。闇、闇、闇、闇──。  呼吸が荒くなる、息が乱れ、頭が朦朧としていく。  弓弦の目に映っていたのは、美月の瞳だった。意志の宿る目。真っ直ぐに自分を見る目。おかえり、と告げた美月は誕生日だからと告げてリビングから見えるオープンキッチンへ戻っていった。机に座ると、桶に入れられた酢飯からつん、と酸っぱい匂いが漂ってくる。美月は、いつもの手慣れた手付きで小気味よい音を立てて刺身を切っていた。 「弓弦」  自分を呼ぶ声がして振り返れば、いつの間にか母親が向かいの席に座っていた。体が緊張で強張る。 「誕生日おめでとう。弓弦、明日から田舎へ帰りましょう」  包丁の音が止まった。美月の方を見れば眉間にシワを寄せて怒っているかのような戸惑っているかのような微妙な表情を浮かべていた。 「弓弦」  肩が上がる。また振り向けば、自分ではなくどこか違うところを見ている瞳と目が合った。 「弓弦」  冷厳な声が迫る。冷や汗で背中が濡れて全身の筋肉が縮こまるのが自分でもわかる。逆らえない声、逆らってはいけない目だ。  もう一度美月へ視線を送る。その目が見開いた。  美月だったはずの存在がいつの間にか母親に置きかわり、包丁を自身の首に突きつけていた。母親は宙を見るような目で、そのまま自身の首を──。 *  ポタ、ポタ、と何かが垂れてくる音で
last updateLast Updated : 2026-02-16
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第24話 壊れた人形のように

 その何かは、ひたすらに書いている。擦れているのは、おそらく弓弦が座っている木の板のはずで。その音が現れるのは、何かが垂れた直後。  這い回る蟲のように猛烈な勢いで木の板が擦れる音がして、ふっと音が消える。  またしばらくして垂れた音の後に蟲の音が現れる。この繰り返しだ。  単純な音の繰り返し、同じ行為の繰り返しとわかっていても弓弦の身震いが止まることはなかった。  音を生じているものは自然現象ではない。得体の知れない何かだ。  暗闇の中、姿は見えずともそれは確かにそこにいる。  見えないはずなのに、確かに気配が、呼吸が自分の目の前にあり、針に刺された標本の蟲のように文字通り冷たい壁に釘付けにされて動けなかった。  自分の呼吸の音も気になり、弓弦は小刻みに揺れ続ける手を慎重に動かすと口と鼻を覆った。生唾が喉の奥に溜まっていく。飲み込むことすらもできなかった。  それは、おそらくすぐ側にいる存在に気付いていない。ひたすらに、ただひたすらに同じ行為を繰り返しているだけ。階段から祖父の足音が聞こえてくれば、何事もなかったかのように音はすべて消え去り、弓弦の口から長い息が漏れる。  弓弦はその長い暗闇の時間を音を出さずに過ごすしかなかった。冷水を浴びたような寒さに身を凍えさせながら。  それは何なのかと弓弦は考える。成人の儀、「遠い目」、黒袴、何かが垂れる音に何かを書く音。頭を巡らせれば巡らせるほど、絡まった糸のように考えがまとまらなくなっていく。  感じるのは変わらず、自分の置かれた状況がただ異常だということだけだった。  弓弦は恐る恐る頭をもたげた。口にやっていた手を耳朶《じだ》を塞ぐようにもう一度移動させる。  音が、消えてい
last updateLast Updated : 2026-02-24
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第25話 暗闇を歩く女(古塚美月side)

 スマホの音量を上げる。音は何も聞こえてこない。変わらず何も見えない暗闇が画面に映され続けている。  本当に再生されているのか気になり、美月の指が画面をタップすると動画の下に出る赤いバーが進んでいて、動画は間違いなく再生されていることがわかった。  5分ほどの動画だった。じっと固唾をのんで画面を注視する。 (仮にもし、白無垢の女が現れたとして。どうやって行方不明なんかになるのか……)  あり得ないモノを見たショックで寝込んでしまうのか、白無垢の女にどこかへ連れて行かれるのか、美月は考えられる可能性を頭の中で巡らせた。  動画はまだ暗闇を映し続ける。 (というか、普通に悪戯の可能性だってあるよね。噂を知っていれば、暗いところにいって白無垢を着た人を映せばそれっぽく見えるわけだし)  だが、美月がもう一つ気になっていたのはこの投稿に誰も反応をしていなかったことだ。  AIやフェイク映像だとすれば、誰かが「イタズラだ」などとコメントしていてもいいはずなのだが、投稿には一件もコメントがなかっただけではなく投稿を評価するいくつかのボタンも全く押されていなかった。 (ホンモノ? ニセモノ? わからない……あっ……)  急に動画を見ていると気持ち悪くなるような激しいノイズが起こった。  美月は片手で頭を擦る。 (何これ!? 頭が痛い!)  ノイズに合わせるようにまた耳鳴りが増幅されていく。比例するように頭痛も酷くなっていき、美月はスマホをテーブルの上に置いた。  両手で頭を強くおさえながら、動画を見続ける。  ノイズが消えて暗闇の中に忽然と現れたのは、白い
last updateLast Updated : 2026-02-27
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第26話 突然の通知音

 美月の視線が弁当箱へ移った。突然、椅子から立ち上がると、美月は口をおさえたままトイレへと駆け込み、そして吐いた。  中のものを全て吐き出すと、頭痛も耳鳴りも収まり、気持ちがわずかに楽になる。 (今見たのは何? ホンモノなの?)  トイレの外から通知音が鳴る。メッセージアプリの通知音だった。  美月は荒い息をしながら立ち上がると、水を流してリビングへと戻る。  通知をタップするとアプリが開き、トーク画面へと移動する。如月乃愛の名前とともに送られてきたメッセージは──。 〈みーちゃん! あのおまじないやっちゃったんだけど、何か、何か変なの!〉    スマホが手から滑り落ち、床へと転がる。 「そんな! 乃愛!」  「白無垢の恋唄」を試した? なんで、どうして?  スマホを拾い上げようとした美月の脳裏に昨日の乃愛との会話が思い出される。 『乃愛だって、あれでしょ? 誰か気になる人がいるからこの呪い知ったんじゃないの?』 『……違うもん』 『東條《とうじょう》先輩?』 『う……』 『なななんで! みーちゃんが先輩の名前知ってるの!?』 『それは、兄さんといつも一緒にいるから。そう言えば、最近兄さんと話すとき、乃愛がぎこちなくしてたなぁ、と思って。……好きなんだ?』 『でもっ! 私はこのまじない使わないよっ! だって、なんかズルいもん』 「……ああ言ってたのになんで!?」  スマホを拾うと、素
last updateLast Updated : 2026-02-27
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第27話 奇妙な合流

 美月には理解できなかった。なんでそんなことをしようとするのか。望んだって、焦がれたって振り向いてくれない人はいる。(どんなに手を伸ばしても、たとえ叫んだって視線に入ることさえ許されないことだってあるんだから) 電話先の乃愛に気づかれないように自嘲気味に笑う。──いつか別れるかもしれない、いなくなってしまうかもしれない相手の心を呪いまで使って振り向かせようとするなんて無駄だよ。(……でも、とにかく今は乃愛を助けないと……!)「乃愛! 今どこらへん?」「今っ、曲がり角曲がればみーちゃんの家まで一直線のとこ──いたっ! みーちゃん!」 交差点の車道を挟んで遠くで手を振る乃愛の姿があった。学校に用事でもあったのか制服姿のままだ。美月も手を上げて名前を呼ぼうとした。「乃愛っ! えっ……?」 美月には乃愛の姿が二重に見えていた。写真を撮ったときにブレてしまったときのように、横断歩道の前で跳ねる乃愛の身体が歪んで見える。(乃愛……?)「どうしたの、みーちゃん……だぁぃじょうぶ?」「ひっ!?」 思わず声を上げてしまった。スマホを耳から離す。途中までは乃愛だったはずの声が、くぐもった低い声に変わった。(なにこれ…………) 信号が青になり、乃愛の足音が近づき美月の横に並んだ。躊躇いがちに見上げた顔は、乃愛のそのままの顔だった。「み、みーちゃん……大丈夫?」「あぁ、大丈夫。それより、早くウチに行こう! 話はそのあと聞くから」 美月は乃愛に気持ちを悟られないように、苦笑いを浮かべた。 家に入ったものの、乃愛の様子は奇妙だった。 ソファに座っていても常に周りを気にしているかのように横を向いたり、後ろを振り返ったりしていてまるで落ち着きがない。 家に着くなり、乃愛は2階も含めて全ての部屋の明かりをつけてと言った。理由を問いただすも詳しく話してはくれず、美月は言われるがままに明かりをつける。その間、乃愛は、すべての部屋のカーテンを閉めた。 まるで暗がりをなくすように。 明かりをつけ終わると、乃愛はクッションを抱きかかえてソファに座り、周りを確認する以外はずっと震えていた。 美月は乃愛の様子を注意深く窺いながらもお湯を沸かし、2つのマグカップにそれぞれコーヒーの粉とティーパックとを入れていた。 お湯が沸騰する。火を止める際に自分の手も震えているこ
last updateLast Updated : 2026-03-01
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第28話 乃愛の身に起こったこと

 わからない。だけど、異常な、異質なことが起きているのは間違いない。  SNSで見ていただけの世界が、噂に過ぎなかったはずの呪いが、今現実に起こっている奇妙な感覚に美月は鳥肌が立っていた。 「……乃愛……?」  ソファの前に置かれた木製の小さなテーブルにカップを置いていく。乃愛が紅茶で美月がコーヒーだ。  テーブルの上には画面を伏せたままの乃愛のスマホが置かれていた。 「よかったら、飲んで。少しは気が楽になるかもしれない」  と言っても、飲めそうにもないことは正面から乃愛の表情を見ればすぐにわかった。視点は話している美月の方にはなく、見るからに恐怖に怯え忙しなく動き回っている。 (こんな様子の乃愛、初めてだ。本当に、本当にあの呪いはホンモノっていうこと?)  美月は熱いコーヒーを啜った。でも、まだそうと決まったわけではない。噂を知った乃愛が信じ込んでしまってありもしないことに怯えているだけの可能性だってある。と、美月は唇をなめると乃愛に質問することにした。 「乃愛。……こっち向いて、乃愛!」  強く呼びかけたことでようやく乃愛の目が美月の方へ向いた。 「みーちゃん……ごめん、ごめんなさい。私、わた、し……」  クッションを掴んで泣き出してしまう。美月はすぐに乃愛の横に座ると肩を抱きながら背中を撫でた。いつかの過去に同じようにこうして慰めていたことを思い出しながら。 (だけど、今は状況が違う。どうしても早く乃愛から話を聞かないといけない。ただの気のせいならそれでいい。だけど万が一、本当に万
last updateLast Updated : 2026-03-01
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第29話 虫に浸食される身体(古塚弓弦side)

 何度目かの夢を見ていた。  夢の中では、家に学校に旧家にと、いる場所はバラバラだったが、必ず側には妹と母親の姿があった。  3人は何らかの会話を交わし、笑い声を上げて、手を叩き、互いの体を触れ合い、そして決まって母親の「遠い目」が現れる。  どこを見ているのかわからない、ずっと見ていると不安な気持ちが増してくるあの目だ。  夢から現実へと戻り、目を覚ますのはその後だった。  ──何かが滴り落ちる音が変わらず暗闇の中で響いている。  が、弓弦はまるで聞こえていないかのように背中を壁にもたれかけると足も手も投げ出して、じっと暗闇の中を見つめていた。  どこを、と定められた一箇所があるわけではない。  すっかり色を無くしたその瞳は、どことも言えぬ宙をぼんやりと眺めていた。あるいは、もう暗闇に囚われてしまい、ただただ暗闇の底を見つめ続けているのかもしれない。  弓弦は、もう長いことずっと静止し続けていた。一度、上階の祖父が定刻通りに足音を鳴らして訪れたが、その目は煌々と輝く灯りや祖父の姿を追うこともしなかった。  様子を見た祖父が何も言わずすぐにその場を立ち去ったときも、眼球はピクリとも揺れ動くことはなかった。  幾度か。滴る音を吸い込むように音の主が現れる。  相も変わらず一心不乱に何かを書き綴った後に、歓喜か驚愕か、あるいはもっと別の何かなのか。  埋め尽くされるように蟲に覆われたその表情からはわからないが、口──と思われる場所からは空気が漏れ、群がる蟲と蟲の間のわずかな空洞から声を発していた。  強風に揺らめく蝋燭の火のように、か細くすぐにでも消えてしまいそうな震えた声。あるいは、蟲
last updateLast Updated : 2026-03-02
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第30話 スマホの着信音(古塚美月 side)

 乃愛は、相変わらず眠り続けていた。 ほとんど微動だにしない様子が気になり、何度か美月は顔をのぞきに行ったが、疲れているのかあまり眠れていないのか穏やかな寝息を立てて眠っている。 美月は、乃愛の体にタオルケットを掛けるとスマホをチェックした。時刻は19時。家の外は夕陽がとっくに落ちて夜に囲まれていることだろう。(変わったことは特にない。たぶん。私には今のところ) リビングの灯りはもちろんのこと、キッチンも廊下も階段も全ての灯りをつけっぱなしにした家の中をぐるりと見回した。いつも通りの自宅、いつも通りの部屋だ。 美月はそのままキッチンへ向かうと、シンクの中に入れたままの弁当箱を洗い、食事の準備を始めた。(先輩の件もまだ連絡が来ていないから、見つかっていないんだろうか。さすがに昨日の夜からこの時間まで行方がわからないということは、何かがあったと思うしかない。……兄さんも、本当に連絡来ないし) もしかして──包丁を動かす手が止まった。 一つの嫌な可能性が頭に浮かび、美月はミニカウンターテーブルの上に置き、レシピを開いていたスマホを取るとSNSを確認する。(兄さんのアカウントは……あった) 猫のイラストが書かれたアカウントを開く。アカウント名は全てアルファベットでYuzuruだ。 指で画面をなぞっていくが、最新の投稿は3日前の誕生日に投稿したものだった。 美月が手作りしたチョコレートケーキの写真と〈今日、18歳の誕生日を迎えました〉とだけの簡素な一文が載っている。それ以前の投稿も何気ない日常のことを投稿しているだけだった。 まだ作り途中だったレシピのアプリを開きカウンターテーブルに戻すと、美月は料理を続ける。 兄が誰かと付き合っているとか、好きな人がいるとか、そういう噂話を聞いたことはなかった。 直接聞くことはもちろんない。でも、同じ高校に通っていれば嫌でも耳に入ってくるものだと思うが、そういう気配も全くなかった。(それに兄さんも、たぶん私と同じ) この家に育ったのだから誰かを好きになる気持ちなんてわからない。 スマホの着信音が鳴った。聞こえてきたのは、美月のではなくソファからだ。 その音で、びっくりしたように乃愛は起き上がると、スマホを手に取った。「先輩だ! みーちゃん、先輩から電話がかかってきた!」
last updateLast Updated : 2026-03-02
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