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All Chapters of 白無垢の呪恋唄: Chapter 31 - Chapter 40

56 Chapters

第31話 兄からのメッセージ

 乃愛は、嬉しそうに笑顔をこぼすと寝起きで乱れたままの髪の毛を直しながら電話に出る。 「先輩! ……はい、うん……」  乃愛の会話を聞いていて、美月は胸を撫で下ろした。電話先の相手は、本当に東條先輩のようだ。 「えっ? 今からですか……わかりました大丈夫です。すぐに向かいます」  電話を切ると乃愛は立ち上がり、鼻歌をうたいながら廊下に向かうドアを開けた。 「ちょっと待って……乃愛、どこに行くの?」 「先輩のとこ。近くのコンビニに来てるみたいだから、ちょっと行ってくるね」  乃愛が廊下へと出て、後ろ手に扉を閉められたため、慌てて美月はその後を追った。 「待って! 乃愛!」 「どうしたの? みーちゃん、ちょっと行ってくるだけだよ」 「どうしたのって……」  何か様子が変だった。もうすでに靴を履こうとしているが、電話を切ってからずっと乃愛の顔は美月の方を向かない。 「それに! 暗闇が怖いんじゃなかったの!? 外はもう真っ暗だよ!」  外灯の明かりはもちろんあるだろう。他の住宅の窓からも光が漏れているに違いない。 (でも、さっきまであんなに怖がっていたのに!) 「大丈夫。先輩がいるから怖くないよ」 「乃愛っ! ま──」  目の前で玄関の扉が閉ざされる。急いで靴を履こうとした美月の耳にスマホの通知音が届いた。  美月はリビングに走って戻りカウンターテーブルから、スマホを引ったくるようにして取ると画面を開いた。届いたメッセージを見
last updateLast Updated : 2026-03-03
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第32話 真黒の空間

 前を向いて顔を上げる。乃愛が外へ出ていって一分も経たないうちに後を追いかけたつもりだったが、暗闇の中にはもう乃愛の背中も見えなかった。  美月は名前を呼ぼうと、口を大きく開けた。何度も何度も叫ぶように乃愛の名前を呼ぶが、返事が返ってくることはなかった。 (乃愛は近くのコンビニに行くって言ってた……走れば5分くらいのところだけど)  胸騒ぎがしていた。本当に東條先輩はコンビニで待っているのか。そもそも、電話を掛けてきたのは本当に東條先輩だったのか。  乃愛の身に異変が起こったということは、先輩にも同じ異変が起こっていてもおかしくない。それなのに、夜中に乃愛をわざわざ外に呼び出すだろうか。 (電話が掛かってきてすぐ乃愛の様子はおかしくなった)  異様に暗闇を怖がっていたのに。何かの気配を気にしていたのに。 (もし、白無垢の女が暗闇でしか動けないなら乃愛を誘き寄せるために電話した……?)  美月は自嘲気味に笑った。  どこかで自分がそんなこと起こるわけがないと思っている。やっぱり、偶然か気のせいだと感じていた。  乃愛の異変も、兄のメッセージも、先輩の失踪も、白無垢の女も、白無垢の恋唄も、SNSも、全部が全部嘘で自分を騙すためのドッキリなのかもしれないと、冷静な頭は訴えている。 (じゃあ、この胸騒ぎはなんなの? 耳鳴りは? 頭痛は? 動機は? 震えは?)  体と心がバラバラに動いているのを実感して、美月は立ち止まると一度目を閉じた。  耳を両手で塞ぐと何度か深呼吸をして息を整える。  左手に弓を携え、右手で矢を引く。イメージだ。
last updateLast Updated : 2026-03-04
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第33話 遭遇

 女は、暗闇でもよくわかる真っ白な服を着ていた。顔はわからないが乱れた長い髪の毛が生暖かい風に揺られている。  白無垢の女。違うとは思えなかった。否定しようにも、美月はどうしても否定することはできなかった。  あまりにも異様だからだ。  背は人並みだが腕と脚は枯木のように細く、何よりも身体のどこかしらが常に蠕動する蛇のように動いている。すぐに人間の動きではない、と美月は直感した。  乃愛は動けないでいた。まさに、金縛りにあったという表現がピッタリとくるように。  美月も乃愛と場所を入れ替えていれば同じように体が硬直していただろうことが容易に想像できる。  乃愛が間にいるから、白無垢の女を直視することは避けられたが、もし忽然と目の前に姿を現したのだったら、体がどんな反応を示すか想像したくもなかった。 「乃愛!!」  もう一度、走りながら親友の名を叫ぶ。気づいているのかいないのかすらわからないほどに、反応が見られない。  コンビニの煌々とした光と洞穴のような不気味な暗闇のコントラストが美月の瞳にことの異質さを浮かび上がらせる。  左右に揺れながらひっそりと確実に白無垢の女は乃愛へと近付いていっていた。 『呪《まじな》いをした者には不可解なことが起こるらしい。結ばれた2人の前に、何か妙な者が現れるらしいんだ。なんでも、白い服を着た、女だとか』 『加護さんと森久保さんはその化物に遭遇して行方不明になったんじゃないかと──』  歯を食いしばり必死に走りながら、美月の脳裏には二俣との電話の会話が浮かび上がっていた。 (呪いによって、加護先輩と森久保先輩は行方不明になった? 行方不明とはどういうこ
last updateLast Updated : 2026-03-05
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第34話 髪の毛

(なっ……? えっ……?)  首筋に氷を入れられたような寒気が走る。目眩が起きそうなほどの強烈な耳鳴りが頭の中を響き、胸の辺りから嘔気が襲ってくる。  歯を食いしばると、美月は止まりそうになる足を前へと踏み出しがむしゃらに走り始めた。 (とにかく明るいところへ!)  その一心だった。  髪に纏わりつくように荒い息遣いが聞こえるが、美月は絶対に後ろを振り向かないと決めて足を前へと動かし続ける。  光のあるところへ行けばきっとなんとかなる──美月がそう祈るような思いでコンビニの自動ドアの前へ立つと、反射したガラスが薄っすらと自分の姿を映し出していた。  首に髪の毛が絡みついている。もちろん、自分の髪の毛ではない。後ろから糸のように伸びている細く長い髪の毛だった。  声を上げようとしたそのときには、扉は開き蛍光灯の光に満ちたコンビニの中へと美月は入り込んでいた。  即座に後ろを振り向いても誰もいない。白無垢の女は影すらも残さず跡形もなく消えてしまった。 「いらっしゃいませ~」  眠そうな間延びした店員の声と店内に流れる音楽が張り裂けそうなほどに収縮を繰り返す心臓の音を和らげてくれた。  きゃあ、と隣から小さな悲鳴が上がる。 「乃愛っ! どうしたの? 大丈夫──」 「か、髪……み、みーちゃんの髪が……」 「え……」 (私の髪……?)
last updateLast Updated : 2026-03-06
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第35話 広がる噂

 今どきまず見ないようなオカルト記事だ。美月は乃愛から引ったくるように雑誌を渡してもらうと、文字を追った。  「白無垢の恋唄」「白無垢の呪い」「白無垢の化け物」──数行読んだ程度でこの記事が何を書こうとしているのか美月には手に取るようにわかった。  この数日の間に自分が体験したこと、乃愛の身に起こったこと、そうして今まさに遭遇した怪異。「白無垢の女」にまつわる噂が、まことしやかに掲載されているのだ。  記事はもちろん噂で終わっている。SNSを検索して出てきた情報をそれらしく順序立てて書いているに過ぎない。  今に至るまで何度も流行してきた都市伝説の一種として、何も知らない読者は処理するに違いない。もしくは本当に起こったかもしれないこととして、一時の恐怖を味わうのかもしれない。  だが。  パンッと美月は勢いよく雑誌を閉じた。放心したような表情のまま元あった場所に戻す。 「最悪だ……」  美月はデニムパンツのポケットからスマホを出すと素早く画面を連打してSNSのアプリを開いた。  案の定、ユーザーの投稿件数の多い「トレンド」に「白無垢の恋唄」が載っている。さらにタップすれば今見た雑誌のことや体験談、噂、戯言などあらゆる言葉が書き込まれていた。  中にはインフルエンサーらしき利用者の名前もちらほらとあり、その投稿が瞬く間にどんどんと拡散している。 「これ……どうして?」  肩越しに画面を見ていた乃愛が何かが喉奥に引っかかったような声で呟いた。 「雑誌の影響だよ、ほら、これ見て」  画面をスクロールさせると今美月が読んだ記事と同じものがネット記事として上がっていた。記事の投稿も同じようにユ
last updateLast Updated : 2026-03-07
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第36話 暗闇の絶望

「乃愛、大丈夫? 乃愛っ!」 「……みーちゃん」  震える声で美月の名前を呼びながら乃愛は顔を上げた。目の端に涙が溜まり、すぐにでも零れ落ちそうになっている。 「私、先輩に呼び出されてここへ来たの。だけど、先輩は? 先輩はどこ? ……あ、あのさ、あの、あの女の人……もしかして先輩の……とこ」  美月は息を呑んだ。後ずさりをして棚に当たり雑誌を落としそうになる。あまりにも異常なことが起きすぎて忘れていた。 (乃愛は東條先輩に呼ばれて来たんだ。でも、あのときの乃愛は様子がおかしかった。本当に東條先輩から電話が掛かってきたのか、確かめる必要がある)  美月もしゃがみ込むと乃愛と同じ目線に合わせる。雑誌を見ようとやってきたのか、大柄な男が二人の様子を見て眉間にシワを寄せると別の棚へと移動していった。 「……乃愛。本当に掛かってきた電話は東條先輩からだったの?」  これ以上乃愛を追い詰めないように腕の辺りを擦りながらゆっくりと優しく尋ねる。 「うん……先輩で……間違いないよ。だって、ほら」  乃愛がスマホを見せてきた。画面には東條先輩とのメッセージのやり取りが映っていて、乃愛が家を出た頃の着信時間も載っている。  美月は頷いた。確かに電話をしていたのは間違いない。だが、電話相手が本当に東條先輩なのかの確信はできない。 (別の相手の可能性もある。もしかしたら、乃愛を誘き寄せるためにあの化け物が──なんてことは流石にない、か?)  こうなってきた
last updateLast Updated : 2026-03-08
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第37話 赤い光(古塚弓弦 side)

 一本の赤い蝋の光が灯る。間をおいてまた一本、一本と襖で仕切られた部屋に蝋燭が灯っていく。  薄っすらと浮かぶ二つのシルエットは、背丈こそ違うものの成人に近い人のものだったが、影は一部が繋がり、時折角度によっては一つのシルエットに見えた。  連なる影はゆったりとした足取りで進み、やがて一番奥の蝋が照らす灯りの元で止まった。影は分かれ向かい合い、やがてまた一つになった。  淡い光が照らすのは二人の若者だった。そして、寄り添い合う二人は男女だった。  総髪の男は照れているのを隠すように曖昧な微笑みを浮かべている。凛とした光の宿る黒目は力強く、しかし奥の方に慈愛に満ちた優しさをたたえている。  対する女の髪は腰ほどまでに長く、男の瞳を見つめる視線には情熱が溢れていた。  男が手を伸ばすと、女はそっと腕を組む。男が歩めば女も足を前へと進める。今は二人しかいない部屋の中では畳を踏む音と二人のピタリと合わさった息遣い、それに静かに燃ゆる火の音しか聞こえなかった。  不意に、男は女の身体を抱き寄せた。赤い光に映し出された女の驚喜の表情は、一枚の絵のように美しかった。 *  ──火が燃える音が弓弦の混濁した意識をふっと浮かび上がらせた。揺れる視界と朦朧としたままの意識の中でまず感じたのは押し込められていた部屋が明るいということだった。 「うあっ……あっあっ」  言葉にすらできず感情をそのまま声に出して放出するとずっと浸かっていた暗闇に抵抗するように手、腕、足、脚と少しずつ体を前へ前へと動かしていく。  弓弦の沈んだ瞳に僅かに光が灯る。それは、上の部屋へと続く階段から漏れ出る赤い光だった。 
last updateLast Updated : 2026-03-09
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第38話 トンネル(古塚美月side)

 トンネルの暗闇に自分の顔が映った。ごわごわのボブヘアのような髪型にはまだ慣れておらず、少し戸惑ってしまう。自分ではない誰かの顔を見ているようで、急に不安が襲ってきた。  美月は車窓から目を逸らすと画面を開いたままのスマホに視線を落とした。昨日の夜にメッセージが送られてきて以来、兄である弓弦からの連絡は途絶えたままだ。 「古塚さん、お兄さんから連絡は?」 「まだ、ありません」 「そうですか……」  ハンドルをしっかり握った弓道部顧問の二俣は横目で美月の様子を窺った。美月は、視線を感じながらも目を合わせることはせずじっとスマホの画面を見続けていた。  昨夜の出来事のあと、美月は乃愛を連れて一度自宅へと戻った。  乃愛の両親には美月から電話を掛けて家族が出掛けていないこと、なのに料理を作りすぎてしまったから乃愛に泊まりに来てもらって……、と事実と嘘を織り交ぜたような話をすると、両親はすぐに了承してくれた。  長年の付き合いだ。電話越しの声は少しも疑問を感じていないようだった。  乃愛の心身のことを考えれば、家に帰した方がよかったかもしれない。でも、ことはまだ終わっていない。  白無垢の化け物は、呪いを実行した者とされた者をつけ狙い行方不明にさせる。  加護と森久保の二人の先輩がいなくなったことから、それはきっと確かなことだった。 (違う。行方不明──というよりも、もうあれは──)  コンビニでの惨劇を思い出す。生々しい赤色は、まだ鮮明に目に焼き付いていた。  乃愛の想い人である東條先輩はあのあとすぐに救急車で運ばれていった。  その後のことは美月
last updateLast Updated : 2026-03-10
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第39話 兄の下、旧家へ

 長いトンネルが終わると、鮮やかなピンク色の桜の木々が目に飛び込んできた。街中にあるような規則的に植えられた桜とは違い、何者にも邪魔されることなく優雅に咲き誇り、そよ風に揺られている。  美月は画面を消すと後部座席の方へ顔を向けた。シートベルトを両手で握る乃愛は、流れる景色をぼんやりと眺めているように美月には見えた。 (いつもならきっと視線に気づいて笑顔を向けてくれるのに)  目を閉じると前へ向き直り、桜の木を視界に入れる。  家に帰る前も帰った後も、乃愛は涙を流すことはなかった。美月はきっと大泣きするだろうと覚悟していたが、ことはそれよりも深刻だった。 (人は本当に悲しいときには泣けないなんて嘘だと思っていたけど)  全ての電気をつけた部屋で乃愛がしきりに自分の頬を触っていることに気が付いた美月は、深く考えずに乃愛に「どうしたの?」と質問した。  返ってきたのは「表情がわからない」という答え。  泣いているのか笑っているのかわからない、と言う乃愛の顔からは何の感情も読み取れなかった。今、窓を見ていたのと同じようにぼんやりとした表情としか言い表せない。  美月はソファに座っていた乃愛の体を抱き締めるとすぐに腕を離し、それ以上何も言うこともすることもやめて考えることにした。  過ぎ去っていく桜の木々を目で追っていくと、もう一度トンネルに入った。無表情の自分の顔がまた暗闇から現れる。 (こんなとき、普通だったらどう感じるんだろう)  と、何度目かの疑問が頭をもたげた。あり得ないことが起こっている。そうでないとしても、日常とはかけ離れた異常事態だ。  普通なら喚いたり、慄《おのの》いたり、わけがわからなくなって混乱に陥るのではない
last updateLast Updated : 2026-03-11
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第40話 死後婚

 美月は横を向いた。運転する二俣の目は真剣そのものだった。  二俣はSNSに関して詳しくない。そうなると別のアプローチからの考えがあるのかもしれない。 「お願いします」 「うん、それじゃあ」  二俣は背筋を伸ばして座り直すと、少しくぐもった声で話し始めた。 「確か、これから向かう古塚さんのご実家は300年続く由緒ある家だって言ってたよね」 「そうです。昔、子どもの頃に兄と一緒に連れて行ってもらったときに母からそう聞かされました」  蝉《せみ》の音とともに美月の記憶が蘇ってくる。暑い日だったと記憶している。田舎へ行ったのはそのとき一度だけで、本当に珍しいことに兄と母の3人で旧家へと遊びに行ったのだった。  母が何かの拍子に昔話をしてくれた。300年前に建てられた家で何度も修繕ながら維持してきたこと。それから、村役を何代も務めてきた由緒ある家筋だということ。 (そう言えば、あのときお母さんは饒舌だった。普段はほとんど会話らしい会話もないのに)  美月は生気のない母親の顔を思い浮かべた。 (お母さんは絶対に兄さんと一緒にいる。ってことは、お母さんも化け物を見た……?) 「それで少し思ったんだけどね。……でも、これはそういう話もあるかもってことで全然関係ないことかもしれないけど」  急に自信がなさそうに声が小さくなる。美月は、構わず先を促した。  どんな些細なことでもいい、白無垢の呪いを脱する術に繋がれば。 「古塚さんは『死後婚』って知ってる?」 「しごこん……ですか?」 
last updateLast Updated : 2026-03-12
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