All Chapters of 乙女ゲームのヒロインに転生しました。でも、私男性恐怖症なんですけど…。: Chapter 111 - Chapter 120

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第十九話④ ※※※(夢子視点)

昨日。陸から連絡が来た。 あいつ、携帯持ってからやたらと遊びに誘ってくるけど、私そこまで暇じゃないんだけど…。 王子の為に、華菜ちゃんと防壁作らないといけないし、やること一杯で忙しいのに…。 とは言ってもなぁ…。 はぁと私は大きくため息をつく。 行かない訳にはいかない。 何せ、王子を誘ったって、王子も来るって言うんだもの。 あいつは…もうっ! 王子が男が苦手だって知ってる癖にっ!しかも優しいから断れないって事も知ってる癖にっ! なのに遊園地に誘うとか質が悪過ぎるでしょっ! 絶対絶対殴らなきゃいけないっ! それに…犬太が来るってメールに書いていた。 一度ちゃんと話をしてやってって。 ……私としては話をしてるつもりだったんだけどね。ずっと。 通じてなかっただけで。 そこってさ、重要じゃない?通じないってのがおかしくない? 私ちゃんと日本語話してたのに通じないってどう言う事っ!? 鏡の前で自分の姿を確かめる。 髪…どうしようかな?流石にツインテールはちょっとだし…。円は多分降ろしてくるよね?王子はどんな髪型で来るだろう? そうだ。ポニテにして王子のくれたシュシュでくくろう。 ブラシを手に持って髪を整えて結い上げる。 王子の作ってくれたシュシュ。着けて行ったら王子喜んでくれるかな? …うん。バッチリ。 遊園地だし、動きやすい恰好の方が良いよね。レースのついたデニムのショートパンツとニーハイ。上はだぼっとしたパーカートレーナー。 鞄もリュック系にしたし。…準備は出来た、かな? 今何時?…9時、かぁ。そろそろ行こうかな。 部屋を出て居間の方へ行って来ますと声をかけて、靴を履いて外へ出る。 足を遊園地へと向けて進ませながら頭は別の事を考えていた。 犬太と話す、か。 以前、王子には即答したけれど。 本当は犬太に好意を持った事がない訳じゃない。 実際は少し、彼の事をいいなと思った時がある。 確かに彼が私が施設出身だから優しくしろと言った所為でクラスの空気が一気に変わって友達が出来なくなった。 でもそれは犬太が計算してやったことじゃない。 あいつの脳味噌がそんな計算を出来る訳がない。 あいつはあいつなりに本当に私を想って、私の為にそう言ってくれていた。その証拠に犬太は小学生時代ずっと私の側にいてくれた。 クラスが
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第二十話① 巳華院綺麗

(助けてっ!お母さんっ!お母さぁんっ!!)闇の中に写し出される『私』の姿。 数多くの男に襲われた『私』の姿。 どれだけ抵抗しても『私』は一度も逃げ出す事が出来ない。―――「あぁ…幸せだ…。私は貴女を抱いている時だけ幸福感を得る事が出来る」声が、感触が、息遣いが。 『私』に伝わり、恐怖と拒絶、嫌悪。 様々なおぞましさが私に襲い掛かる。(いやっ!いやぁっ!!)いつも『私』の側には誰もいない。 『私』を助けてくれる者は誰もいない。 最後の最後は絶望が『私』の心を覆い尽くす。 その絶望が『私』の頬を濡らす。 それを男達は嬉しそうに舐めとる。―――「うん?泣いてるの?…綺麗な涙だねぇ。君を形作る全てが美しい…」もう、嫌…。 感情なんていらない。 こんな辛いだけの、苦しいだけの人生なら。 もう二度と生まれなくていい。『…美鈴…』それでも、【今】は初めて幸福だったの。 美鈴は優しい家族と会えて。 美鈴は頼もしい友人達を得て。 美鈴はとてもとても幸福だったのだ。 だから、…生きていたい。死にたくないの。(助けて助けて助けて…)闇の中。 映像が浮かんでは消えて浮かんでは消える、…ここで…こんな場所で…。 自分の姿さえ見えやしないこの闇の中で…。泣いた所で頬が濡れたりする訳がない。 助けがくるはずもない。 でも、助けて欲しい。 …心の中で何度も、ただ助けて欲しくて、『助けて』とそれだけを願った。 すると…。『…美鈴…』ほわりと柔らかい光に包まれた気がした。 体がある訳でもないのに温かい。 そう…思えた。そして私の名を呼ぶ声がする…。『美鈴。大丈夫。ほら、手をこちらに伸ばして…』(え…?)『思い出さなくていい。まだ、思い出さなくていい。…忘れなさい。忘れてていい。…大丈夫。ほら…おいで』(助けて、くれるの…?)『美鈴。…おいで。今度は絶対に幸せにするから…』誰の声だろう? でも…凄く安心出来る声。 藁にもすがる思いで私はその光へと手を伸ばす。 その伸ばした手は温かくて力強い力に握り返された。 ※※※ ゆっくりと閉じていた目を開くと。 「美鈴っ!!」 「わっ!?」 鼻がぶつかりそうな距離でママのドアップが視界に入って心臓バックバク。 「良かったっ。良かったわっ、無事でっ。美鈴っ!」 「
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第二十話② ※※※(綺麗視点)

―――ドスッ。「おうっ!?」鏡が私の横腹にぶつかって、その隙に円君と白鳥総帥が走り去っていった。 何故あんなに全力で走る必要が? 何か見てはいけないものでも見たのか…? 「ふむ…。私の筋肉の美しさに耐え切れなかったかな?」 「なんでだよっ!巳華院だっけ?あんたが円ちゃんの服を剥いだから美鈴ちゃんは円ちゃんをつれて逃げたんだよっ!」 「何故?」 「何故と言うかっ!?この場面でっ!?」 「私は下心などなく、ただ円君の筋肉を確かめようと」 「そもそも普通は女子の服を剥いで筋肉を確かめようとしないからっ!!」 「そうなのか?」 「そうなのっ!!」 「そうなのか。だが筋肉を確認すると言うのは人生に置いてかなり重要な検分事項で」 「それ、君だけだからっ」 ふむ。…成程。私だけか。そう言えばダディとマミィが外で絶対にやってはいけないと再三言っていたのが筋肉確認をするな、だったな。 「女の子の服を剥ぐとか。しかも僕と美鈴ちゃんがいるってのに…。美鈴ちゃんの言うように最低だね」 「…………最低?」 「最低」 私がか?こんなに美しい筋肉を持った私がか? 否。私が最低なんてことはないっ!そもそも、他の奴に私の事をどうこう言われる筋合いは…はて? 「君は一体誰だい?」 「…今聞くんだ。…言わなきゃ分からないとか、ほんと何なの」 額に手を当ててやれやれと軽く頭を振る目の前の筋肉レベル29の男子。 因みに筋肉レベルは私がMAXである。当然だ。筋肉レベルとは美しさも兼ね備えなければならない。「僕の名前は」―――ガララッ。「おい、優兎」 「あれ?樹先輩?」 おおっ!?樹総帥ではないかっ!?彼の筋肉レベルは素晴らしいっ!50はあるっ!MAXが100で平均値が30なのでかなりのレベルであるっ!!顔のレベルもかなり高いっ!! 「今、美鈴が向井を小脇に抱えて走って行ったが。一体何があった?美鈴の方から俺に触れてきたかと思ったら、上着だけ奪い去って、茫然としてる向井に着せてまた駆け抜けて行ったぞ。なんなら舌打ちまでしてくれやがった」 「あぁ…。実は…」 筋肉レベル29男子は樹総帥に近寄ると何かを耳打ちした。 目の前で内緒話とは。気になるではないか。 これは私も耳を澄ますしかないな。 「……何してるの?」 「ふむ。私も内緒話に参加しよう
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第二十話③ ※※※(円視点)

期末テストの結果は、まぁまぁってとこか? 白鳥先生から返却されたテスト用紙を受け取って一先ず予想通りの点数にホッとする。 「さて、明日から夏休みな訳だが。まぁ、言う必要もないとは思うが、休みだと思ってあんまりはっちゃけた行動をしないように。それから逆にだらだらと部屋で過ごす事も無いようにな。分かったか、花崎」 「えっ!?どうして私っ!?」 「お前はほっとけば一日中パソコンを弄ってそうだからな」 「…否定出来ないのが辛い…」 華菜と白鳥先生のやりとりが面白くてクラスで笑いが起きる。 「んじゃ、そう言う事でHR終わりっ。気を付けて帰れよー。また夏休み明けにな」 言いながら白鳥先生は出て行った。 さて、と。アタシは家庭科部室に行こうかな。 今日は王子と皆でお菓子を作ってお喋りする予定だしな。 「あ、円ー。家庭科部室行くんでしょー。私も一緒に行っていい?」 「勿論」 「では私もご一緒しても宜しいですか?」 イチと桃がアタシの側に来るのを立ち上がって鞄を持ちながら待つ。 隣に来たのを確認してアタシは歩きだした。真ん中にイチを置いて左側にアタシ、右側に桃がいる。 「……ねぇ、円。私ね、この前のストーカーについて華菜ちゃんと色々探りを入れてみたの」 イチの発言に驚きつつも、先を促す。 「あのストーカー。どうやらあの時絡んできたあの女いたじゃん?あれの弟らしいよ」 「弟?って事は星ノ茶の?」 「うん。現生徒会長の弟って事になるね。確か…小学一年生…とか言ってたかな?」 「小学一年?嘘だろ?そんな風には見えなかったよ。少なく見ても小学高学年。そうでないとあんな話し方やあんな手紙を書けるとは思えない」 「私もそう思うんだけど。でも、事実なんだよ。こっそりとだけど華菜ちゃんとお葬式の光景を覗いてきたし」 「……信じられないね」 「うん」 「信じられないと言えば王子の記憶もそうだね」 「でも、王子のあの様子を思えば覚えてなくても当然だよね」 「アタシもそうは思う。思うけど…兄さん達の話によると、王子はストーカーの部分だけを忘れてるらしい。アタシもそれとなく聞いてみたけど、やっぱりその部分だけ忘れてるんだ」 「…防衛本能って説はありませんの?」 今まで沈黙を保っていた桃が口を開く。 「なくは、ないんだろうけど…」 「王子のお兄さ
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第二十一話① 近江虎太郎

パチパチパチッ。 大歓声の中、私と樹先輩は優雅に一礼する。 …これでどうにか、巳華院家の面目は保てたかな? 銃声が軽いって事と銃弾の跡がないから空砲だって直ぐに分かったし、何かしらサプライズなんだろうなって理解した。 何よりこれゲーム内で巳華院くんのイベントとしてあったから命に害はないだろうってことも知っていた。 逆に実弾が入ってたのが予想外だったんだよね。 猪塚先輩がかばってくれたから私は怪我しなくて済んだけど…。でも実弾が入ってたのはどうして? それとも実はゲームでも実弾が入ってたとか? うぅ~ん…。記憶が曖昧だ。フィルターがかかってるから? ううん。言っといてなんだけどそれは違うって断言出来る。多分普通に記憶がない、覚えてないんだと思う。 イベントのスチルは覚えてるの。色々キャラクターの配置とかはおかしかったけど間違いはないと思う。 でも会話の殆どが記憶にない。だとしたらそれの理由は単純明快。『スキップ』したから。乙女ゲーマーなら誰しも経験した事がある。絶対あるよ。 フルコンプを目指し、興味のないキャラクターをクリアする為にプレイはするものの、やっぱり興味は起きなくて会話のスキップをしてしまうって事。 巳華院くんを攻略する頃にはもう攻略キャラクターの半分以上は攻略してて。しかも好みじゃなくて。物凄いスキップを多用してた気がするの。 だから記憶になくても仕方ない。だって読んでないんだもの。 …イベントと言えば、本来なら来月に樹先輩の強制イベントが起きるはずだったんだよね。これはもう起きない事は知ってるんだけど。何故って?だって小学1年の時に起きちゃったもん。 そう、あの爆弾テロに巻き込まれた『襲撃』ってタイトルのイベントだ。それが本来八月に発生するはずのイベントだったんだけど、もう発生してしまっているから…来月、八月に発生する筈のイベントはもうない。 あぁ、でも花火とか遊園地のお化け屋敷とか八月にしか行けないデートスポットがあったりはするけどね。それはあくまでデートで大きなイベントではないから。 あ、勿論、私はどこにも行かないで家にいます。そして家族皆でバーベキューとかするんですっ! うふふふ…。毎年恒例だもんっ!今年も皆で美味しいお肉食べるんだーっ♪ 「…美鈴。おい、美鈴?」 トントンと背中を叩かれて、顔を覗き込
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第二十一話② ※※※(虎太郎視点)

母上の言葉をきちんと聞いておけばよかった…。 なんて今更思っても後の祭りでござる…。 母上の丸薬により、拙者の丸薬の効果は打ち消された。しかし拙者達は海に落ち、しかも流れが急な所に落ちた所為で水の抵抗に抗えずに小洞窟に流れ着いてしまった。 ザバリッと岩場に体を乗り上げて…、 「ほら、つかまりなさいよ」 乗り上げたかったのに、拙者の体力は限界で。桃お嬢様のご友人である新田殿が先に上がって拙者を引き上げてくれた。 すると、横からザバッと勢いよく顔が現れた。 「…くそっ!だいぶ流されたなっ…おい、美鈴っ!」 白鳥先生の腕の中には白鳥殿がぐったりと凭れかかっている。 「……ちっ、まず陸に上がって体を温めるぞっ。新田、近江、手伝えっ」 「分かったっ。って言うか、あんた早く立ちなさいよっ」 「う、うむっ」 人一人抱えていると言うのに、あっさりと岩の上に乗り上がった白鳥先生に驚きつつ、拙者と新田殿はせめて火を起こせる場所にと移動する白鳥先生の後を追った。 「海に落ちた所為で携帯もアウトだな。美鈴の携帯は…持ってないか。携帯を携帯しないでどうするんだ、全く。お前らはどうだ?防水だったりしないか?」 「私のはアウトです。うんともすんとも言わない」 「拙者は携帯を使ってないでござる」 「そうか…。ならやっぱり火を起こす必要があるな。助けは真珠が呼びに行けばすぐに捜索態勢に入るだろうが…。新田。悪いが美鈴の服を絞ってやってくれるか?流石に俺達は出来ないから。勿論、お前もちゃんと服から水気を絞っておけよ」 「はい」 「近江。あっちで俺達も服を絞るぞ」 流石と言うべきか。的確な指示を出し白鳥先生は移動して、手早くジャージの上着を脱いで絞って着込む。 「この時期だ。風邪引く事はないと思うが、それでも念には念を入れておく必要がある。洞窟の中ってのは冷えるものだからな」 拙者が白鳥先生の行動を見ていたのは疑いの眼差しではなかったのでござるが…不審に思ったと勘違いされているようで説明をしてくれたでござる。 別に先生の行動に疑問を覚えた訳じゃないでござる。 と言うことも出来たでござるが、行動を起こした方が説得力があるだろうと拙者は来ていた体操服の上着を脱いで、きっちりと絞る。念の為にボトムの方も脱いで絞ってしまう。 その後もう一度その服を着込んで、さっ
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第二十一話③ ※※※(桃視点)

「……愛奈さん?」 目を覚まして隣に寝ている筈のその姿を探します。 ベッドにその姿がありません。 一体どう言う事でしょう?お散歩でしょうか? 今何時です? 部屋の中にある時計を探して、ベッドサイドにある時計を見ると、朝の六時半。 …………六時半? 「こんな早い時間に愛奈さんがいないなんて…」 そんな事あり得るでしょうか…? 毎日肩を揺すって声をかけなければ起きない愛奈さんが? 寝起き最悪の愛奈さんが? 「あり得ません」 そっとベッドから降りて、毛布が剥がれた状態で維持されている隣のベッドへ近寄り、愛奈さんが寝ていたであろう位置に手をおいてみる。 シーツはひんやりとしていた。 季節柄そんなに直ぐに冷える訳がないのに、こんなにひんやりしていると言う事は…起きてだいぶ時間が経っていると言う事。 「何処へ行ってしまわれたのでしょう?」 ただ外へ遊びに行っているだけならばいいのですが…。 もし何かあったのだとしたら…? 何故でしょう…とても嫌な予感がします。 部屋の鍵は…置いてありますね。 と言う事は、愛奈さんは戻り次第私にドアを開けて貰うつもりでいたと言う事ですわ。 念の為に部屋の中を見て回るがどこにもいないし気配はない。 これはやはり外に探しに行った方が良さそうですね。 体操服を着て、髪に櫛を通して手早く準備を整えて、鍵を持ち部屋を出ようとすると、ドンドンとドアが叩かれた。 もしかして愛奈さんが帰ってきたのでしょうか? 急ぎドアを開けると、そこには華菜さんの姿があった。 「桃ちゃんっ!やっぱり起きてたっ!!美鈴ちゃん、知らないっ!?」 「王子、ですか?いえ、見ておりませんが…もしかして、王子もいらっしゃらないのですか?」 「そうなのっ!…待って。桃ちゃん、そう言うって事は、…愛奈ちゃんもいない?」 「はい」 私が頷くと、華菜さんはその大きな目をキリキリと吊り上げた。 「愛奈ちゃんも一緒にいないとなると、また話が変わってくるよ。…先生達の所に行こう。美鈴ちゃんがいないんだもの。絶対何かあるっ」 その自信は付き合いの長さから来ているのか、それとも王子に何かがあると言うのか。 解りませんが、ついて行く事に否はない。 私は部屋に鍵をかけて、華菜さんと共に白鳥先生の部屋へと向かった。 白鳥先生の部屋の前に着くと
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第二十二話① 未正宗

背中にふかふかの感触。 これは…もしかして、もしかするのかな?ベッドですよね? 私実は倒れた事、覚えてるんです。 バスで帰る間際だったので、ホテルに逆戻りの可能性よりは、きっと家に帰りついている可能性の方が高い事でしょう。 うふふ…怖くて目が開けらんないわー。 唐突に訪れた眠気。 あれって、何でだろうって思ってたけど原因は、近江くんが投げつけた丸薬かなぁ? けどこんなイベントあったかなぁ? 近江くんとのイベントって確か二年目にある勉強合宿で起きるんじゃなかったっけー? …いや、そんな事より。 今何時だろう? 私、目を開けたらまた視界全開にママの顔が待ってるのかと思うと、そして下手するとお説教が待っているかと思うと怖くて目が開けらんない。 さて、どうしよう。 いっそこのままもう一度眠ってしまおうか…。 「………鈴。起きてるね?」 あ、ダメだ。 隣に棗お兄ちゃんがいる。きっといつもの様に一緒に寝てくれてたんだ。 だから悪夢を見ないで済んでたんだ。爆睡出来た訳だ。そんな棗お兄ちゃんに起きてる事がバレた訳だから、起きないと、だね。 私はゆっくりと目を開いた。 そこは既に薄暗く、夜になっている事が解る。 って事は私が倒れたのは朝だから、結構な時間が経っている、と。 薄暗い部屋に目が慣れて、視界に天井がしっかりと映る。 見慣れた私の部屋の天井に、やっぱり帰って来てたのかと納得する。 「調子はどう?」 「寝過ぎて体がギシギシ言ってる、かな?」 「そっか。それは仕方ないね。地面に倒れて怪我をしなかっただけ良かったと思わなきゃ」 それはそうだ。 誰が助けてくれたか解らないけど、しっかりと頷く。 「棗お兄ちゃん、今何時?」 「今?」 棗お兄ちゃんは私を抱きしめつつ、携帯を弄ってたみたいで。 腕枕してくれていた腕を少し動かして、私の頭越しに多分スマホを動かしてる。 「っと…六時半ってとこかな?」 「AM?」 「いや、PM」 念の為に確認したら、やっぱり午後だったみたい。 「鈴。佳織母さんが起きたら教えろって言ってたから、僕一旦起きるね。水分持ってきてあげるからちゃんと部屋で待ってるんだよ?」 「うん。分かった」 頭を撫でられる。 棗お兄ちゃんはそれに安心したように微笑んでベッドを降りると部屋を出て行った。
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第二十二話② ※※※(正宗視点)

…何かが落ちている。 学校の廊下の中心に、点々と…。あれは一体何だ? 首を傾げて、腰を曲げてまじまじとその玉を見る。 「おい、未。お前、何してんだ?」 何をしていると聞かれて、私がそれに答える義理はあるだろうか。 そもそもこいつは誰だ? ……答える必要性は、感じないな。 それより、私は自分の足下にあるこのビー玉サイズの玉が気になる。 さっき廊下を駆け抜けて行った覆面男が落としていったようだ。しかも一定間隔で数個。 ざっと見るだけでも落とされたその玉全てが成分の違う玉だと言うのが分かる。 ……早くこれの成分を分析してみたい。 しかし、これはどうやら一緒に保管しては駄目なようだ。ポケットに入れて歩きたい所だが、…少しくっつけるだけで互いに化学反応を起こしかねない。 一つずつハンカチで包んで、真っ直ぐ私の研究室へ急ぐ。 「って、ガン無視かよーっ!未、聞こえてないのかよーっ!」 「……?」 あぁ、忘れていた。 と言うか、追ってきていたのか。 「……………私に何の用だ?」 「何の用って、お前の動きが怪し過ぎたから声かけたんだよ。だっておかしいだろ。数歩進んでしゃがみこんで数歩進んでしゃがみこんで。かと思ったら無表情でダッシュ。明らかに不審者だぞ、お前」 不審者…? ……確かに私の行動は傍から見たら不審者だな。 だが、それをこいつに説明する必要はあるのか? 下手に干渉されても迷惑なだけだ。 「私の行動が不信感をもたらしたなら悪かった。…これでいいか?ならば失礼する」 「いや、フシンカンって何だ?ってそうじゃねぇっ!あ、何処行くんだっ!?なぁっ!?」 「ケーンっ?どしたーっ?」 遠くから女の声がした気がするが、まぁ関係ない。 ぐいっ。 ぐい? ……何故私はこいつに腕を掴まれている? そして何故私は引っ張られているんだ? 「ケン?そいつ、誰?友達?って何だ、未か」 何で私の名前を知っている? この女は誰だ? 「円ー?」 更に増えた。 女がもう一人。…またドキツイピンク色の髪だな。 「あれ?未さん?…と、なんだ、犬太じゃん」 三人が三人共私の名前を知っている。何故だ?面識があったとは…。 「この前の合宿と体育祭の時に何度か顔を合わせてはいたけれど、自己紹介がまだだったね。アタシの名前は向井円だよ」 「…
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第二十二話③ ※※※(愛奈視点)

「婿?婿ー?ねぇ、コター?」 「………」 「?」 虎太郎が壁に向かって何かずっと呟いている。 ………何の忍術使ってるか解らないけど虎太郎の周辺が、日中だと言うのに暗くなっていて正直気持ち悪い。 一体今度は何に悩んでいるやら。 虎太郎はどうやら細かい事に悩みやすい性格をしているようだ。 ……分からなくもないけどね。細かい事を気にしてしまうのは私も一緒だし。 一緒に並んで歩くって、宣言までしたんだから信じて悩みの一つや二つ言ってくれてもいいのに。 それでも自分だけで解決しようと、考える姿勢を私はそんなに嫌っていない。 因みに今私と虎太郎は、虎太郎が隠れ家と称した学校の一角、図書準備室へ来ていた。 男と二人、狭い密室空間に来るのはどうなの?って思われそうだけど、特に問題なし。だって、婿だし。婿と認めているのか?と聞かれたら素直に認めていると答える自信もある。 その証拠に今日の休み時間にさらした醜態の一部にて、私はこう叫んでいた。未の事を、『好きだった』と。ちゃんと過去形で答えていた。まぁ、ちょっと…いやだいぶ感情が昂って泣き喚いた気がしないでもないけど。 でもしょうがないじゃない。 虎太郎にあえてやっと心が落ち着く恋が出来るようになったのかと思ってたのに、あいつが急に現れるから…。 っと、違う違うっ。今はあいつの事より虎太郎の事よ。 足を少し早めて虎太郎の下へ行き、膝を抱えて丸くなっている虎太郎の背中へ私はおんぶお化けよろしく抱き着いた。 「ッ!?」 「むーこ。何落ち込んでんのー?」 首に腕を回しぎゅっと抱きしめる。 すると虎太郎は顔を真っ赤にして慌て始めた。 嫁になることを認めてから、虎太郎は私の前でだけは覆面をとってくれるようになったから、真っ赤になっているのが一目瞭然。 「よ、嫁っ、はしたないでござるよっ」 「婿が相手なんだから良いでしょ。それより何悩んで落ち込んでるの?婿が落ち込むと余計に面倒なんだからさっさと話しなさいよ」 「嫁……。感動的なセリフでござるが、途中何やら更に落ち込みそうな事も言われた気がするでござる」 「気の所為よ、気の所為。で?どうしたの?」 改めて虎太郎に尋ねると、覚悟を決めたのか虎太郎は首に回った私の腕にそっと振れて握った。 「嫁。その…聞きたい事がござる」 「何?」 「あの、
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