All Chapters of 乙女ゲームのヒロインに転生しました。でも、私男性恐怖症なんですけど…。: Chapter 141 - Chapter 150

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第三十三話③ ※※※

頬を、頭を、撫でる温もりを感じて、ふと目を開く。カーテンから差し込む光の眩しさと、それを背に私のすぐ横で微笑む鴇お兄ちゃんの顔。手を伸ばして、鴇お兄ちゃんの首に抱き付いて。「おはよう、鴇お兄ちゃん」微笑みながら言った。すると鴇お兄ちゃんも幸せそうに目を細めて、「あぁ、おはよう。美鈴」と答えてくれた。どちらからともなくキスを交わして、幸せな微睡みを堪能する。「鴇お兄ちゃん。パジャマ、着せてくれたんだ?」「上だけな。俺も下だけ履いてる。抱き合ってるから寒くはないだろ?」「うん。寒くはないけど…」「?、どうした?」微睡みの雰囲気を壊してしまうから、言うのを躊躇ってしまうんだけど…。うん。気になるから覚悟を決めて聞いてしまおう。「鴇お兄ちゃん。ここ、どこ?」「ホテル」「うふふ。さくっと返事が返ってきたけど、私の求めた答えじゃない気がするのー。えーっと、ラブがつく方の?」「いや?普通のホテルだが?」うん。それは何となく想像はついてた。けど一応確かめたの。ラブではないほう、なんだよね。うん。気付いてたよ。でもね、鴇お兄ちゃん。「めっちゃ高そうっ!」両手で顔を覆う。まさかの高級ホテルっ!ベッドがデカいっ!シーツの質が違うっ!部屋が広いっ!しかも天蓋がついてるっ!「高そうって、お前、気にするのはそこなのか?」「むっ…。だって、私は鴇お兄ちゃんと一緒にいられればどこだっていいもの」すりっと鴇お兄ちゃんの肩に額を擦り付ける。「……あんまり可愛いこと言うな。我慢出来なくなる」「昨日あれだけしたのにっ!?」「あれだけって。二回だけだろ?」「じゅ、十分でしょ?」「いや。正直言って足りない」鴇お兄ちゃんの腕が私の体を抱き寄せる。はわわわっ!?な、何か話を逸らさないとっ!じゃないと、鴇お兄ちゃんが暴走しちゃうっ!昨日が初めてだったんだし、これ以上は流石にきついっ。って言うか、そうだよ。思い出した。「はいっ、鴇お兄ちゃんっ」元気に挙手。「なんだ?」鴇お兄ちゃんのエロモード回避成功っ!「き、昨日さ?丘の展望台で、その…」「ん?…あぁ。成程。大丈夫だ。貸切にしたって言っただろ?」「や、それでも、あの…」い、色々あるじゃん?痕跡とか色々…。もごもごと口ごもっていると、鴇お兄ちゃんがふっと苦笑して私の額にキスをした。
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第三十三話④ ※※※(鴇視点)

母は強しと昔から言うが。正直ここまで強いものとは思わなかった。まさか、美鈴本人が囮になると言いだす程の強さを娘に与えるなんてな…。確かに美鈴が囮になるのが一番、解決には早い方法だ。あくまでも前世の流れとゲームの流れを汲んで動いていますと、相手にそう思わせ、新たに転生した転生体の記憶を消し、最後に都貴静流の美鈴に対する記憶を消すのが一番だ。その為の薬の依頼は既に未と新田に依頼済みだ。だが…本来ならこの作戦を使うつもりはなかった。美鈴が怖がる。勿論大前提としてそれもある。だがそれ以上に、【俺が】嫌だったんだ。美鈴に都貴の野郎が近寄るだけで許せない。当然だろう?俺は幾度となく都貴に美鈴を殺されて来たんだから…。それに、俺は今まで散々俺の腕の中で美鈴を失って来たんだ。だから、今度こそ美鈴をどろどろに甘やかしてやりたい。もっと言うなら、自分の腕の中に閉じ込めて他の男を視界にいれさせず、ただただ美鈴だけに愛されたいし、愛したい。だが、そんな事は不可能だって解っている。だからせめて、「美鈴…俺は…」危険な目にあわせたくない。そう言おうとしたのだが、「鴇。…男なら戦おうとする惚れた女ごと守れるようになりなさい。助けやすい女を助けるのではなく、戦おうとする女を全力で守れるような男になりなさい。…漢気を見せなさい」美鈴を止めようとした俺を佳織母さんはバッサリと斬りつけた。母さん。…貴女の親友の佳織母さんは、貴女以上に強い女性だったようだ。「やっぱり、ママは私の理想の女性像だよ」ニコニコと笑う美鈴は可愛いが、出来ればアレの半分くらいで頼む…。きっとこれ以上は俺が何を言っても無駄だろう。なら、美鈴を守れるような完璧な作戦を立てるしかない。「まずは普通通りに日々を過ごすのが良いわね」「だな。美鈴の側にいつも通り誰かしら付いてて貰った方が良い。その指輪も残念だが外して何処かにしまっておいてくれ」「いいえ。それは駄目よ、鴇」「なんでだ?」「相手をもう少し焦らせといた方が、冷静な判断力を奪う為にも良いわ。今回は私の存在の所為で少し違うと思わせておきましょう。その証拠が鴇と恋人同士になったその指輪」「成程。逆に俺のものだと見せつける訳か」「それである意味ゲームの流れに添わせていると思わせることも出来るわ」等々話し合いを繰り返す。そこから導き出され
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第三十三話⑤  ※※※

「それじゃあ、鴇お兄ちゃん。行ってくるね」「あぁ、気を付けろよ」「うんっ」どちらからともなく、顔を近づけてキスをする。……大学の校門前だって事は解ってるよ?解ってるけど…。鴇お兄ちゃんと作戦会議をした翌日。鴇お兄ちゃんは大学まで送ってくれた。送ってくれた、んだけど…。『美鈴。ほらこっちに来い』『なぁに?鴇お兄ちゃん』『男避けのキスさせろ』とか言いながらキスを仕掛けてきたのです。流石に大学の前でそれはっ!って断固拒否ったら、『なら、家の中でなら良いよな?』とその翌日に、まだ寝惚けてベッドの上で目を擦ってる私にキスをして、首筋にキスマークまでつける始末。これはあかんっ!鴇お兄ちゃんってこんなだっけっ?鷹村先輩の頃はストイックだったような…?でもね、でもね…こんな鴇お兄ちゃんが可愛いなって、キスして貰えて幸せだなって思ってる私もいて…。あぁ、うん。もうどうしようもないよね。分かってる。だからね、いっそこうなったら受け入れちゃおうって思って。鴇お兄ちゃんとキスして、大学の敷地内に入っていく。鴇お兄ちゃんは私が敷地内に入って誰かしらと合流したのを確認してから職場へと向かう。「……なんてゆーか」「本当なら衝撃受けなきゃいけない所だけど」「美鈴ちゃんと鴇さんだと普通に、あ、くっついたんだ、で終わっちゃうよね」「だな」円と風間くん、華菜ちゃんと逢坂くんが何やら四人でヒソヒソと話している。ごめんね、聞こえてる。だってもう目の前にいるんだもん。私達は並んで校舎の中へと入っていく。「あーあ。美鈴ちゃんもとうとう男のモノ、かぁ。憎いっ!」「華菜アンタ、自分なんてもっと早い段階で男のモノになってるじゃないか」「それはそれっ!憎いっ!」「でもさぁ、円。私だって、未だに逢坂くんマジ殺してぇっ、ってなる時あるよ?」「し、白鳥。それは冗談だよな?な?」「……さーてと。それじゃあ円。武蔵先生のお見舞いに行く日どり決めようか」「うおーいっ!白鳥っ!?白鳥ぃっ!?」「…やだ、素敵すぎ、美鈴ちゃん」一つ言っておこう。七割は本気であるっ!だって、だって華菜ちゃんって逢坂くんといる時、ほんとにほんっとーにっ!可愛いんだよっ!……殺意芽生えるでしょ?だから仕方ないと思うんだ。うん。まだ講義の時間ではないからと私達は空き教室に向かい、いつもの様に
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第三十三話⑥ ※※※

武蔵先生のお見舞いに行って、一か月が過ぎた。 武蔵先生についての情報は特に変化はなく、変化したと言えば鴇お兄ちゃんが家を出た事くらい。 ストーカーにストーリー通りに進んでますよ、ヒロイン補正がかかってますよと知らしめる為に敢えて家を出た。 とは言っても、鴇お兄ちゃんが今暮らしてるのは、昔鴇お兄ちゃん達が暮らしていたマンションの一室。要するに誠パパがママと再婚する前に住んでた家だ。 誠パパはいつかの為にとずっと管理してたんだよね。何度か改装とか建て直しとかあったらしいけど、契約は継続していた。たまに誠パパが家に帰れない時はそこに泊まってたりしてるから暮らす分には全く不自由ない。 強いて言うなら。 「鴇お兄ちゃん、ご飯出来たよー」 「あぁ、今行く」 鴇お兄ちゃん、万能そうに見えて料理だけは出来ない。だからご飯が外食になってしまうのが辛いってぼやいてたのを聞いて、私は土日だけこうやって泊りに来るようになった。 「美鈴。この前の案件なんだが…」 「ふみ?あれは先方の案を通すって事で解決したんじゃないの?」 「その先方が寄越した書類に一か所だけおかしな場所があってな」 テーブルの上に出来上がった料理を置いて、エプロンのポケットに入れて置いたタオルで手を拭いて。ソファに座る鴇お兄ちゃんの側に駆け寄る。 ひょいっと鴇お兄ちゃんの肩越しに書類を覗き込む。契約書だね。提携条件と詳細の…1つめ…はオッケ。知ってる内容だね。…2も、オッケ。…3…3?この会社との条件は二つだけだった筈だ。 「…気づかれないとでも思ったのかな?」 「だろうな。見ろ、美鈴。一番下の協賛の所」 「協賛…?えっと…都貴…?」 私と鴇お兄ちゃんの二人の額に怒りマークが浮かぶ。 「この前の、美鈴にした仕打ちを棚上げして、更にこんな条件を持ってくるか」 「………本気で提携、打ち切っちゃおっか♪」 もう、やっちゃおうっ♪ 大丈夫。下で働く真っ当な社員の皆様は白鳥財閥が回収いたしますからっ♪ 「…都貴静流との対決が済んだらそれもいいかもな。今は動向を探る為にもそれは避けたい」 「それも、そっか」 むぅ…残念。 「じゃあ、とりあえずその書類は話し合った条件ではないので、改めて契約書を提出するか、提携は無かったことにするかの二択でお願い」 「了解」 鴇お兄ちゃんが書類に付
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第三十三話⑦ ※※※(鴇視点)

メールアプリの着信音が響き俺は直ぐに携帯を取り出し、アプリを開いた。 美鈴からの連絡で、今日サークルの飲み会に参加するとだけ書かれている。 美鈴、お前サークルなんて入ってたか?聞いた覚えないんだが…。っと待てよ?急にそう言い出すって事は、だ。 一つの答えに辿り着き、俺はとうとう来たかと覚悟を決める。美鈴が囮になると言うのはもう決まっていた話だ。だから、我慢しなくてはいけない。 それに男性恐怖症を克服した美鈴ならば、そこらの男なんて敵じゃない。例えサークルの飲み会が都貴の罠でなくても美鈴はどうにか対処出来るだろう。 「それは、分かってるんだけどな…」 心配するなってのが無理な話だ。愛してる女が男に狙われてるってだけでも腹が立つ。これは当然の心境だろう。 戦いの準備だけは、しておくか。 俺は席を立ち、金山と真珠に仕事を任せ、一旦家へ帰る事にした。その理由は単純で、佳織母さんと共に状況把握する為だ。 家へと帰り、リビングのドアを開けると、 「あら、鴇。お帰りなさい」 「鴇兄、お帰り~」 何故かまったりとお茶を楽しむ佳織母さんと優兎がいた。 「優兎。お前、どうして今ここに?」 留学行ってた筈だよな? 不思議に思って問いかけると、優兎からあっさりと。 「さっさと学べる事学んで帰って来ちゃった」 と答えが帰って来た。 「とは言っても、来月になったらまた、違う講義があるからまたあっちに戻るけどね」 成程。気合で帰って来た訳か。これはきっと建前で、本当は美鈴に会いに帰って来たんだろうがな。 しかし、優兎がいるとなると、佳織母さんに報告は難しい、か。佳織母さん、締め切りの催促から逃げる為に携帯を放置してるからな。 仕方ない。 「佳織母さん、これ、パス」 「はい?」 ポケットから携帯を取り出し画面を開いて佳織母さんに投げ渡す。 それを難なく受け取り、画面を見て佳織母さんが顔を顰めた。 「え?鴇兄。一体何書いてるの?それ」 目の前でこんなやりとりされると当然気になるだろう。優兎が首を傾げる。だが、本当の事を言う訳にはいかない。それを察した佳織母さんが口を開く。 「……鴇。確か締め切りは明後日って…」 そう来るか。思わず笑いそうになるのを、俺はいつも通りに受け応える。 「急遽早まったんだと。美鈴が編集からそう指示受けて伝え忘れて
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最終話 ∞に咲き誇る美しき鈴の華

コンコン。 ドアをノックする音が聞こえた。今顔を動かせないから返事だけすると、鏡越しにドアが開くのが見えた。 「お邪魔しまーすっ」 えーっと…動いても平気かな? やっぱり鏡越しでメイクをしてくれているスタッフの方に視線だけで問うと、にっこり笑って頷いてくれた。 あ、やっと動いて良いんだ。 ゆっくりと回転する椅子ごと振り返ると、そこには華菜ちゃんと四聖の皆が立っていた。 「ふわぁっ…王子、超きれー…」 「こらこら。イチ。スカートを握りしめたら駄目だって。これから王子の為に歌うんだろ?」 「しゃ、写真撮ろうっ、王子っ」 「愛奈さん。それはカメラではなくポーチですわ」 皆滅茶苦茶動転してる。これから一番緊張するのは私なのに。 真っ白なウェディングドレスを纏って、ヴァージンロードを歩くのだから。 「皆、来てくれてありがとう」 この喜びが伝わる様にと、満面の笑顔でお礼とお出迎えをする。頭は下げられないからね。 「美鈴ちゃん…」 華菜ちゃんがゆっくりと歩み寄ってくれて、そっと手を握られる。 「美鈴ちゃん、おめでとうっ」 「ありがとう、華菜ちゃん。ごめんね、華菜ちゃんより先に」 「そんなの気にしなくていいのっ!それに恭くん、ずっと優兎くんの所で研修やら何やらで追われてて、私も私で覚える事一杯で、式なんて正直やってらんなかったしっ!」 「うん。でも…」 私より先に婚約して結婚までしてるのに式をする時間をあげられないなんて…。 華菜ちゃんは私の秘書となる為に今勉強の真っ最中。それでも鴇お兄ちゃんの見立てによれば、あと数か月で私の秘書としてやっていけるらしい。相変わらず凄いのです。私の親友は。あ、でも、華菜ちゃんが休みたいと言ったらいつでも休ませるつもりではいたんだよ?うちは決してブラックではないので。定時出勤定時退勤は絶対なのです。無理な仕事を回すような上司は…ねっ!勿論上司にだって限界はあるから、部下と上司がきちんと助け合って補える関係が理想です。残業だって一緒にやって一緒に上がれるのが良い。そもそも忘れがちだけれど私達まだ大学生だし、大体経営と言うのは…。 「王子。本当に綺麗だね」 おっといけない。経営論を脳内で爆発させてしまった。意識を戻して、 「円…。ありがとう」 円に素直にお礼を言う。すると桃とユメも祝福してくれた。そし
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小話54 後日談その1(ブーケトス)

「へ?マジ?」 「マジらしいで。鴇がさっき嬉し泣きしとったんもその所為やて」 「うーわー。鴇と姫ちゃんの子供かー。どんだけパーフェクトな子が生まれるんだろうねー?」 「産まれて直ぐに二か国語マスターとか?」 「ははっ。あり得そうで怖いわー」 俺達三人が披露宴会場であるホテルのガーデンのテーブル席で笑い合っていると、 『お次はブーケトスですっ!独身女性の皆様。独身男性の皆様。何でもいいので集まって下さい』 おい、司会者。何でもいいって何だ。 普通は独身女性のみじゃないのか? あぁ、でもブーケトスは独身女をさらし者にする、とか七海が言ってたような気がするな。 ガーデンの舞台を見ると姫がわくわくと楽しそうに籠を持っている。……籠?そこはブーケじゃないのか? しかもその籠を鴇が取り上げた。何やら言い合いをしている。姫はだいぶ不満そうだ。 まぁ、良いか。舞台の前に俺達友人枠の人間はほぼ集まった。男性もって言ってたからな。 『それではブーケトスのルールを説明致します』 ルール説明? ちょっと待て。普通に花嫁が投げてそれをキャッチするんじゃないのか? おい。何かラケット渡されたんだけど…。テニスラケットくらいの大きさでネットの代わりに布が張られている。触ってみるにトランポリンに貼られてるような感じの布だ。 で?これは一体? 更にざるが渡される。いや、だからな?この状況は一体何なんだ? 『今から花嫁さん…は、花婿さんの反対にあった為、代わりに花婿さんが沢山のブーケを投げます。それをラケットで上手い事跳ね返して、渡されたざるに入れて下さい。いち早く5種類あるブーケを全部ざるに入れた方が勝者です。優勝賞品は白鳥財閥が提供出来る物であれば何でもだそうです!例えば、次の結婚式の会場予約、会場費用』 「本気で行くよ、コタ」 「了解です」 「ケン、頑張ろうっ」 「おうっ!」 「まーくん。私頑張るっ!」 「そうか。なら私も頑張るよ、夢芽」 「やりましょうっ、ダーリンっ!」 「勿論だ、ハニーッ!」 姫の友達連中のはりきりようが半端ない。 『例えば、花婿の部下の男性を紹介するとか』 「よし。死ぬ気で行くわ」 「絶対捕まえるっ」 「あかん…。お姉達が殺る気や…」 『例えば、花嫁が手料理を振る舞うとか』 「これは負けられない戦いだな
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小話55 後日談その2(子供)

あぁ…やっと終わった…。 大学を卒業し、初恋の相手である美鈴も嫁にいき、どうしようもない切なさが込み上げて俺は海外に営業修行に出た。 傷心を癒す為に仕事に没頭していたら、あっという間に三年が過ぎていた。成人してからの月日の流れの速さに驚くばかりだ。がそのお陰で、今なら失恋の痛みも笑い飛ばせる位にはなっていると思う。 やっと普通に美鈴に会えるだろう。そう思って美鈴に会う為に帰国して、今こうして土産物を買いに駅に来ている訳だが…、さて、何にするか。 多分あいつの好みは変わってないだろう。間違いなくご当地の物が良い筈だ。 …タイミング良く全国の駅弁フェアをやってる事だし、これを買って行く事にするか。 適当に駅弁を買いこんで、迎えに来ている銀川の車に乗りこむ。 …懐かしいな。この辺りも。 三年しか離れていないのに、こうも懐かしく感じるものか? …ん?あれは…。 「銀川。止めろ。あの店に寄る」 「かしこまりました」 ケーキ屋。調度いい。土産に駅弁だけってのもおかしいからな。 車を降りて、銀川にここからは歩いて行くことを告げ、先に帰らせる。 店に入って適当にケーキを見繕って、店員に見送られ外に出ると、目の前に何故か子供が二人立っていた。 大きめのパーカーを深く被っている為顔が見えない。 「この人かな?」 「だと思うよ」 「でもパパは頭が良いって言ってた」 「でもママは気のせいだって言ってた」 ……相手にしない方が良さそうだ。何故か知らないが俺の勘がそう告げている。 白鳥家に向かって歩きだすと、 「あ、行っちゃうよ?」 「追い掛けよう」 「あれってお土産かな?」 「あんな綺麗な顔してるのに駅弁?馬鹿なの?」 こいつら…。好き勝手言いやがって…。と言うか何で追ってくる? いっそ撒くか?…それは流石に駄目か。そもそもこいつら何なんだ?まさか迷子か?迷子になりそうな感じではなさそうなんだが? 商店街側の公園に着いた。 …まだ追ってくる。流石にこれ以上連れ回すのは駄目だろうな。もしケーキ屋の側に家があるなら、下手すると俺が誘拐したと騒がれかねない。 「お前ら、いつまで付いてくる気だ」 振り返って言うと、子供二人は立ち止まって互いに顔を見合わせた。 「…もしかしてこのオジサン。まだ気付いてない?」 「やっぱりママが言ってた
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小話56 後日談その3(『輝け青春エイト学園高等部』と『無限』①)

「平和ね~」 「そりゃ、ママは子育てを全部私に回してるからねっ!」 美鈴がバタバタと洗濯物を持って走り回っている。 確かに佳織母さんはお茶を飲んでまったりしているから平和ではあるが…。 「鴇お兄ちゃんっ!ごめんだけど美鶴と千鶴、あやしといて~っ!」 美鈴から俺達の子を渡され、俺は素直に両手で可愛い娘達を抱っこしてあやす。 本当に俺達の子は可愛い。今になって双子達が幼い美鈴を可愛い可愛いと連呼する気持ちを痛いほど理解するとは。 「鴇。鷲も抱っこする?」 「佳織母さん。俺の腕は二本しかない」 「あら?情けないわね。誠さんも私も子供が何人いても同時に抱っこして来たわよ?」 「俺は人間だからな」 「そっかー。それは仕方ないわね」 そこで納得するのか。…いやこれはどう答えても佳織母さんに勝てる返答はなかったはずだ。俺の答えは間違いではない。 「そう言えば、鴇。貴方に聞きたい事があったのよ」 「うん?」 「貴方も前世の記憶を取り戻した経緯も、取り戻し方も私や澪との関係も色々分かったし、美鈴が幸せで私も今充~分幸せなんだけど。一つだけどうにも納得出来ない事があるのよ」 「納得出来ない事?」 「そう。それはね、『輝け青春☆エイト学園高等部』の事よ。貴方や誠さん達からはリョウイチが作った乙女ゲームだと聞いていた。でもね。その前身のゲーム『無限』の事も踏まえてどうにもこうもやっとすると言うか…」 「あぁ、成程な。佳織母さん達は全部の記憶がないからな」 俺は一つ一つ前世の前世、と言うように過去の記憶を掘り起こしていった。 そもそも、『輝け青春☆エイト学園高等部』も『無限』も前世でリョウイチさん。所謂『記憶の神』が俺達の前世の一つである現代日本で作り出されたゲームである。 だが、そこは佳織母さんも知っている所だ。 佳織母さんが気になっているのはきっとそこではないだろう。『何故、こうも俺達の行動が違うのか』恐らく気になっているのはここだ。 自分の記憶にあるゲームと俺達の性格や行動が違い過ぎる。それは何故か。佳織母さんや美鈴が違った行動をとっていたから。それもある。都貴静流がゲームの話を捻じ曲げたから?それもそう。 だが、一番の理由はこれだ。『それが一番最初の俺達だったから』なのだ。俺は遥か
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小話56 後日談その3(『輝け青春エイト学園高等部』と『無限』②)

美鈴と二人暮らしがすっかり普通になって一年が経った。すっかり美鈴も俺の家で暮らす事に慣れ、雨に濡れて飯を寄越せと言って来た時の切羽詰まった感もなくなっていた。「そろそろ美鈴ちゃんも一人暮らし考えた方がいいんじゃねーのぉ?」「男の一人や二人作りたいだろー?」「鴇もいい加減親父さんと話しいや」ある日、俺の家に透馬、大地、奏輔と集まって酒を飲んでいた時の事だ。リビングのソファに適当に座り、だらだら酒を飲みながら唐突に三人が言い始めた。「えぇー、一人暮らしー?んー…しても良いとは思うんだけどねー…」そう口籠りつつ美鈴はちらちらと俺に視線を寄越す。普通の女ならここは引き止めて欲しいとかそう言う合図だと直ぐに解るのだが、何故か美鈴はその普通の上を行く。アイツのアイコンタクトを受け取れた事はまずない。俺が首を傾げて答えると、ふんっと美鈴は鼻息を荒くしてそっぽ向いてしまった。「んー?もしかして、鴇が心配とかか?」「うぅん、違う」いともあっさりと答えるもんだな、美鈴っ!「じゃあ、なんだ?」「…ま、女には色々あるんだよ」再びあっさりと透馬をあしらった美鈴は、何故か少し悲し気な顔をしていた。けれどそれも一瞬の事で。次の瞬間にはすでに何時もの勝気な美鈴の表情に戻っていた。「大体、人に言ってる余裕あるの?三人共。顔はいいのにいまだ結婚も出来てないじゃん」「い、いいんだよっ、俺達はっ」「オレは振られたばっかー」「大地お前また振られてたんか?因みに俺はもう女には期待しとらん」酒を飲み、美鈴の作った料理をつまみに言いたい事を言い合う。そんな時、ふと思い至った。(そう言えば、美鈴に彼氏はいないのか?)と。「そもそも美鈴ちゃん、彼氏いないのー?」俺が思っていた事を大地が遠慮もなく美鈴に問いかける。「いたら、ここにいないわー」そして至極真っ当な答えが返って来た。「そりゃそうだっ」美鈴を含め四人で馬鹿笑いしてるのを眺めて酒を飲み、その日の飲み会はだらだらとしたまま幕を閉じた。翌日。二日酔いでボロボロの三人を見送り、俺は休みの為そのままベッドに戻ろうとしていると。「鴇お兄ちゃん。今日お休みでしょ?たまには一緒に買い物行こうよ」「あぁ?毎週一緒に行ってるだろ。何で今更」「いいじゃん、いいじゃん。買い物が無理なら私を大学に送ってくれるだけでい
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