All Chapters of 乙女ゲームのヒロインに転生しました。でも、私男性恐怖症なんですけど…。: Chapter 11 - Chapter 20

51 Chapters

小話④ 美鈴のおねだり(葵編)

「葵お兄ちゃん、すきありーっ」「わっ!?」驚いたふりをしたものの、気付いていたから全く驚いてない。リビングでラグの上でうつ伏せに本を読んでた僕の上に重さが加わる。ゆっくりと振り返ってみると、鈴ちゃんが僕の背中の上で十字を作る様に寝転がって楽しそうにしていた。…可愛い。以前から棗には自分から抱き着くのに僕には抱き着いてくれないのはなんでだろう?と疑問に思っていた。けれど、男が苦手な鈴ちゃんに無理強いは出来ない。となると違う方向性でアプローチをかけるしかないかな?と判断して、鈴ちゃんにじゃれついてくれるよう自分からじゃれついてみた。すると、すっかり慣れてしまった鈴ちゃんは自分からこうやって僕に触れてくれるようになった。作戦が成功した事にほくそ笑んだのは内緒。「う~ん。鈴ちゃんは悪戯っ子だね。えいっ」ごろんと態と上に乗った鈴ちゃんを巻き込みながら態勢を変えて、僕は仰向けに寝転がりお腹の上にいる鈴ちゃんの脇を擽った。「ふにゃっ!?あはっ、あはははっ、葵お兄ちゃんっ、擽ったいよ~っ」笑いながら逃げようとする鈴ちゃんが変に転ばないように擽る手を止めて、体を起こして自分の太ももの上に座らせた。「む~…葵お兄ちゃんに仕返し」「してもいいよ?でも、僕基本的に擽られてもあんまり感じないよ?」試しにやってみるといい。言うと、鈴ちゃんは脇に手を伸ばして擽りだした。でも全然擽ったくなく、ただ、一生懸命僕を擽ろうとする鈴ちゃんが可愛いだけだった。「本当だ…。もしかして、鴇お兄ちゃんも?棗お兄ちゃんも?」「多分、そうじゃないかな?」昔お遊びで擽ってみたけど反応しなかったし。何してるの?って棗には言われて、鴇兄さんには無駄だとバッサリ切られてしまった記憶がある。「むむっ、何かずるいよ?」「ずるいって言われても。むしろどうして鈴ちゃんがそんなに敏感なのか不思議だよ」「びっ!?………(なんか、響きが、卑猥)…」うん?鈴ちゃん今小声で何か言った?僕が首を傾げると鈴ちゃんは何でもないと首を振った。「葵お兄ちゃん、重いでしょ?今降りるね」いそいそと降りようとする鈴ちゃんを僕はぎゅっと抱きしめる。「重くないから大丈夫」全然重くない。何より可愛いし幸せだから降りなくていい。むしろずっとここに座ってて欲しい。本当なら毎日こうしていたいのに。学校はあるし、そ
last updateLast Updated : 2025-11-14
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第五話① エイト学園生徒会御三家

葵お兄ちゃんが倒れてから、数日。 完全に回復した葵お兄ちゃんは元気に学校復帰した。 因みに誠パパはママに立派な雷を落とされていた。もう直撃感電レベルでフルボッコにされてました。 何か前世の時からママって子育てを真面目にしない、放棄する人って嫌いらしくて。 ほら、自分が私の子育てをちゃんと出来なかったから尚更、みたいな? 暫く誠パパは罪滅ぼしか解らないけど、葵お兄ちゃんと棗お兄ちゃんに構っていた。構い倒してウザがられてた。 でも二人共うざったそうにはしてたけど、嬉しそうだったな。 そうしてなんだかんだで、数週間が経ち、七月の半ば。 衣替えの時期が過ぎ、洗濯物の枚数も増える時期になった。 家での家事を終え、リビングでお祖母ちゃんとママ、そして私の三人で昨日録画しといたバラエティ番組を見ながら、BL談義に花を咲かせていると、チャイムが鳴った。 すっと当然の様にお祖母ちゃんが立ち上がり、リビングを出て行った。最近、チャイムがなるとお祖母ちゃんが出てくれるようになったんだ。 何故と聞いたら、ママと私だと美人過ぎて危ないからだと。 それはお祖母ちゃんも一緒では?と二人で首を傾げると、お祖母ちゃんは嬉し気に「褒めても何も出ないわよ~」と私達にお駄賃をくれた。いや、そういうことじゃなくて…。 言った所で聞いてくれないだろうな、って思い直し任せる事にしたのだ。 暫く玄関で話し声が聞こえ、お祖母ちゃんと一緒にリビングに誰か入ってきた。 「失礼致します。奥様、お嬢様」 「金山さん?」 「名前を憶えて頂けているとは、有難く存じます」 金山さんはにっこりと微笑んだ。おお、年老いても美形の笑顔は破壊力満点だな。 おっと、いけない。お茶、用意しなきゃねっ。 ママもテレビを消して、テーブルの方へ移動するので私も立ち上がってキッチンへと入る。 「金山さん、何飲みますかー?」 「そんな、お嬢様。私がお淹れしますっ」 「ダメですよー。ここは私の城なんですから」 うふふ~と笑いながら言う。本音を言うならお茶を理由にこれ幸いとこの場から逃げたい、と言う意味だったりす
last updateLast Updated : 2025-11-15
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第五話② ※※※(透馬視点)

「鴇兄さんっ!!」血相を変えて、鴇の弟が職員室へ飛び込んできた。 その尋常じゃない様子に俺達も慌てて駆け寄る。 「どうしたっ?葵っ。何があったっ!?」 「兄さんの言う通り、生徒会室で待ってたら、変な奴らがいきなり入って来てっ」 「なんやて?それでっ?大丈夫だったんかっ?」 「隠れて何とかやり過ごしたからっ。でもっ」 そう言って、言葉を続けようとした矢先に、「いやああああああああっ!!」女の子の声が学校内に響き渡った。 今校内にいる女の子なんて、美鈴ちゃんしかいないっ! 「美鈴っ!?」 弾かれた様に弟と鴇が走り出す。 「俺らも行くぞっ、大地っ」 「了解っ」 「俺は奴らが逃げへんように包囲網を張るっ!そっちは任せたっ!」 奏輔の言葉に視線で答え、大地と共に走り出す。 全力で走ったのにも関わらず、鴇には追い付けない。 だが、声がした方へ向かえばいいと走って、ついたその場所には伸びたモヒカン…もとい学生がいるだけだった。 「この制服…。星ノ茶(ほしのざ)高校の制服だな」 「あぁ。間違いないね。とうとう、馬鹿もここまで来たか」 「わざわざ、手を出さないでいてやったってのに。鴇を怒らせやがって」 「どうする?こいつ」 「放置しとけ。どうせ、奏輔の奴がどうにかするだろ。それより、後を追うぞ」 「オッケ」 止めを刺すようにダメ押しで俺達は奴を踏みつけると、そのまま鴇の後を追った。 「あの、美鈴ちゃんの叫び方。…無事だといいけど」 「だな。…最悪、星ノ茶に血の雨が降んぜ」 「最悪って言うか、この様子だと確定、だろ」 普段切れる事のない鴇は、一度キレたら相手を完膚なきまでに徹底的に叩き潰す。再起なんて出来ようがない程に。小学からの付き合いである俺達はそれを良く知っていた。 小学校入りたての頃、俺は鴇と同じクラスになった。だが、正直鴇は俺にとって苦手なタイプそのものだった。そのお綺麗な顔で取り澄まし、俺達とは違うと見下しているようで。それに腹が立って、俺と同じクラスだった大地の二人で鴇に喧嘩を売った。鴇はその見た目と中身のギャップが半端なく、俺達はボコにされた。その綺麗な顔でそこまでするか、と周りが引く程に鴇は一度切れると手を付けられなくなる。それがきっかけで互いにわだかまりもなくなり仲良くなったんだが。 後から転校してきた
last updateLast Updated : 2025-11-16
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第五話③ ※※※

闇の中に私は一人膝を抱いて小さくなっていた。 私の周りに前世で私に言い寄ってきた男達が現れて、その時発した言葉や行動を残して消えて行く。 怖くて更に小さくなる。何も見たくない。『これで、君のファーストキスは僕のものだ』 『大人しくしてろよ。そしたら痛くないから』 『逃がさねぇよ。いいから黙ってヤラレろよ』どうして…。『あぁ…綺麗な血だ…』 『さぁ、僕の血を君の血と混ぜよう』どうして、私ばっかりこんな…。『……愛してるよ。だから、僕の為に死んで』嫌よっ!!死にたくないっ!!死にたくないっ!!「…願い…。お願い…。誰か、だれか、助けて…たすけて…」もう誰に助けを求めていいのか分からない。 私を刺したあいつが包丁を持って、帽子の下の目を細めて、口を歪めて、迫ってくる。 この刃に刺されて私は命を失う。 分かってるのに。 前世の記憶を取り戻してから、もう何度見たか解らない夢。 私はこの末路を知っている。 こいつに刺されて死ぬって知ってる。 でも、死にたくない。 助けてほしい。誰か、誰か…。 闇の中で必死に手を伸ばして…。誰かに捕まれるはずなんてないのに…。 伸ばした手が落ちかけた、その時。「美鈴っ!!」誰かに手を掴まれて、私は闇から解放された。 瞼が開かれ、私の瞳には見慣れた天井が映る。 「鈴…大丈夫?」 頭上から声がして、見上げると、そこには不安そうな棗お兄ちゃんの顔があった。 「良かった、鈴ちゃん。目を覚ましたんだね」 反対の頭上から葵お兄ちゃんの声がする。 どうやら私、双子のお兄ちゃんに挟まれながら寝ていたらしい。 一体どうしてこんな状況になっているのか。 自分の記憶を辿る。その記憶は直ぐに思い出された。 (そっか。お兄ちゃん達の学校に行って。捕まって気を失ったんだっけ) 恐怖が強すぎてどんな奴だったかなんてまるで覚えてない。 後半にいたっては記憶のフラッシュバックで、真っ暗闇に覆われていた。 お兄ちゃん達の声さえ届いて居なかった。 お兄ちゃん達の声…記憶を少し巡ってはっとした。 そうだっ、棗お兄ちゃんっ! 「棗お兄ちゃんっ、怪我無いっ?何処も殴られてないっ?」 私は棗お兄ちゃんが、どっかの不良に羽交い絞めにされてた事を思い出
last updateLast Updated : 2025-11-17
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小話⑤ 初めての○○

ホテルの部屋。ふと目を覚ました。隣を見ると、鈴ちゃんが棗に抱き着いて寝ている。…羨ましい。素直にそう思う。嬉しい事があったり、髪を結ったりしている時は抱き着いてくれる。それも時々だけど。でも棗は違うんだよね。鈴ちゃんは棗にだけは遠慮なく跳び付く。鴇兄さんにですらたまに躊躇うのに棗には一直線だ。……何が違うんだろう?抱き着いてくれない訳じゃないし、こうやって一緒に寝ても平気そうなのに。…いや、平気じゃないのかな?一緒に寝ていると言っても、棗がいないと多分鈴ちゃんの眠りはこんなに深くならないよね。棗が言うには鈴ちゃんは一人で寝ると悪夢を見るらしい。それは僕と二人で寝ても一緒。多分棗の安心感でぐっすり眠れるんだろう。そんな棗に対抗したくて、鈴ちゃんの髪を結うのに立候補したけれど。そう言えば、今日お風呂に入ってる時、鴇兄さんが言ってた。鈴ちゃんは自分で覚悟を決めてさえいれば、男に触れるのに問題はないらしい、と。すると大地さんが言った。今日自分から大地さんの指を握って来たって。あの時は覚悟を決めていた感じではなかったって。だとするならば、それは無意識だったってことかな?それよりも怖い事や気になる事があったってことだよね?今一解らなくて、僕はそっと目の前で眠る鈴ちゃんの頭を撫でた。「………ふみぃ……」くすぐったそうに身を捩って、僕の方へころんと体の向きを変えた。……可愛い。考えてた事が飛び去るくらい可愛い。体の中で方向転換されたからか、棗がぼんやりと目を覚ました。僕の視線に気付いたのか、ぱちぱちと瞬きをして、覚醒したその目でどうした?と問いかけてきた。「何でもないよ。目が覚めただけ」小声で言うと、「慣れない場所だしね」棗もあっさりと返してきた。こう言う所は双子だなと思う。棗も眠りが浅かったみたいだ。「今日の、鴇兄さんの話。覚えてる?」「うん。僕も今考えてたとこ」一瞬二人で黙り込み、また棗が口を開いた。「鈴ってね、葵。こうやって抱き着いて寝る時、一つ特徴があるんだ」「特徴?」「そう。それはね。僕の心臓の音を聞いてるんだよ」言われて、鈴ちゃんを見るといつの間にかまた方向転換して、棗の胸に額をくっつけるようにして寝ていた。「理由は解らないけど、いっつもそうなんだ。試しに背中から抱っこして寝た事もあるんだけど、駄目。直ぐにこっ
last updateLast Updated : 2025-11-18
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小話⑥ 透馬と七海

ズバァンッ!!「うおっ!?」突然ドアが開か…いや、破壊された。おい。今冬だぞ。俺に今日一日暖房なしで過ごせと?しかも折角繊細な作業をしていたというのに、あの破壊音の所為で駄目になった。どうしてくれる。思わず突然現れた妹を睨み付けた。だが、その手に持っていた物に気付いて、睨みも消え、むしろぽかんと口を開いてアホ面をしてしまった。「お前、何だよ、その子供服の量。しかもそれ、お前が小さい頃着てた服じゃねぇか」七海の腕の中に山積みにされてる服が俺の部屋のベッドの上に放り投げられる。そして、そのまま七海は部屋を出て行った。意味が分からん。仕方なく、作業を中断し…中断せざる得ないだろ。何せ、駄目になったんだから。気分転換しないとやってられない。ベッドに近づき、その山から一枚服を手に取る。ん?これ、七海が小さい頃着た服か?あんまり着てないのか、全然よれてもいないし、まだまだこれからも着れそうだ。で?なんでこれを俺の部屋に?変態にでもなれと?それは大地で十分だろ。ドガァンッ!「うおおっ!?」ドアが完全に破壊された。俺の部屋のドアは廊下でお陀仏。…今日はもう部屋にいられねーな。…っつーか、後で直すしかないか。ガムテープあったかな…。七海はまた腕の中に大量の子供服を積んで、それをベッドの上に投げた。おい。俺のベッドはゴミ捨て場じゃねーぞ。「透馬っ、どれがいいと思うっ!?」「………は?」用件だけ言うな。さっぱり分からん。思わず気の抜けた答えを返す。するともう一度、どれがいいと思うか問うて来た。「意味わかんねぇっての。お前、何が言いたい訳?」「今日の朝、鴇君と美鈴ちゃんが買い物に来たのっ。その時服の話になって。何時も似たような服着てるね?って聞いたら、あんまり服でお金かけたくないんだーって可愛い顔で笑うのよっ!だったら、私のお古あげようと思ってっ!そう言ってあげたら、美鈴ちゃん、それはそれは可愛い顔で嬉しそうに笑うんだものっ!七海お姉ちゃん大好きっって笑うのぉっ!!はぁん、堪らないっ!!」「なんだそれっ!?俺も呼べよっ!!見たかった、エンジェルスマイルっ!!」あまりの悔しさに膝から崩れ落ちた。「そんな事より、服よっ!どれが似合うかなっ!?どれも似合いそうだよねっ!!」そんな事…。相変わらずこの妹は酷い。七海は喜々として、ベッドの上に
last updateLast Updated : 2025-11-19
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小話⑦ 女帝と下僕

(何やこれ。…滅茶苦茶可愛ぇ) 今日透馬に極秘とマジックでデカデカと書かれた封筒を渡された。その中身がこの写真。 (お姫さん。マジ、天使や…これを生で見たんか。透馬の奴…。しばく) ベッドの上で寝転がりながら写真を堪能する。 (お、これ、一番可愛ぇ。双子とお揃なんやね。王子とお姫様か。お姫さんはどっちの王子を選ぶんやろうなぁ) とりあえずこれを飾っておこう。 俺はコルクボードにその写真を画鋲でさして、残りの写真を封筒に戻し机の引き出しへ入れてしっかりと鍵を閉めた。 鍵は重要だ。この家で暮らすには絶対に欠かしてはならない。何故なら。 「奏輔。おるね?」 いるとかいないとかじゃなく、いるよねと言う断定。 「ちょっと、あんたん学校のキングの家行ってきて」 部屋に入るなり命令。自分に似た容姿をしているお姉達。だと言うのにこの威圧感は一体何処から出てるんだ? 「何で鴇んトコやの?入って来て行き成り何ゆーてんの?」 「口答えを許した覚えはないで?」 「良いからさっさと行って来ぃ。それから、噂の妹ちゃん連れて帰ってくるんや」 …狙いはそこか。なんなん?早い内から芽は摘んで置こうとかそう言う事か?危なすぎるやろ。 「お姉達今日は男漁りに行くーゆーてたやんか」 「そんなん、いつでも出来るわ」 「うちらは噂の天使を見たいだけや」 だからって何で俺が行かなきゃならないんだ。 …と言えたらどんなにいいか…。 俺は渋々、鴇の家へと向かった。 そんなに距離はないと言えど、これから二人に課す困難を思うと足取りが重くなる。 しかし、悲しいかな。俺の長い足はあっという間に目的地についてしまうんだ。 白鳥家の家の前に立ち、チャイムを押す。 すると珍しく、鴇が顔を出した。いつもはお祖母さんなのに。 「奏輔?どうした、こんな時間に」 確かに時間を考えると、俺の行動時間ではない。何せ休日の午前中の俺は惰眠を貪っているから。そんな俺が動いている今の時刻はAM7時。 「…俺かて動きたくなかったわ。お姉が…」 「あぁ、分かった。もう言わなくていい」 「鴇…お前、ほんっま良い奴や」 今なら男の鴇に抱き着ける自信がある。鴇の優しさが身に沁みる。 「それで?今回は美鈴か?」 「せや」 本当に察しがいい。と言うか、以前もそうだった。 鴇と仲良くなり始
last updateLast Updated : 2025-11-20
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小話⑧ 筋肉と筋肉と弟

「大地お兄ちゃ~ん」 向こうから姫ちゃんが手を振っている。両側には双子がぴったりとくっついており、その後ろには鴇がゆっくりと付いて来ていた。 とりあえず姫ちゃんに笑顔で手を振り返す。なにを置いてもこれだけはしなければ。 「うおぉ…可愛い…」 「楽園だ…ここは楽園だ…」 「兄貴達、五月蠅い」 姫ちゃんが兄貴達の存在に気付いたのか、ピュッと音が聞こえてくる速さで棗の後ろに隠れてしまった。 そして、そーっと影から俺達を窺い見る。可愛い。 「真っ白な耳宛てに猫耳付きっ」 「ピンクのコートっ」 「真っ白なタイツっ」 「生きててよかったっ」 「今日は全力で目に焼き付けるっ」 ………兄貴達の変態っぷりがエスカレートしている。 そっと双子が姫ちゃんの前に出た。あぁ、うん。正しい判断だ。 「よう。お待たせ」 「雪で遊ぶとか、子供か?」 透馬と奏輔が合流した。因みにここは公園である。 奏輔が言った通り、今日はここで皆で雪遊びする為に皆を呼び出した…のは、建前で。本当は、兄貴達が五月蠅かったからだ。『あの天使と遊びたいっ!』 『眼福したいっ!』 『こんなに毎日仕事を頑張ってるんだから褒美の一つや二つあってもいいはずだっ!』 『大地っ!天使と戯れさせろっ!』 姫ちゃん、男苦手だから無理ー、と一応反撃を試みたが。 『奏んとこの女帝様だって一緒に遊んだと言っていたぞっ!』 女だからね。 『透馬の所のボーイッシュな女神だって遊んだと言っていたぞっ!』 うん。女だからねー。 『予定を組めっ!』 『俺達に癒しを寄越せっ!』 いや、だから、無理ー。 『次の日曜日はどうだっ!?』 『男が苦手なら公園でどうだっ!?』 聞いてー。って言うか家じゃなきゃいいって訳じゃないからー。 『あんまり寒くない方がいいなっ!』 『今、冬だからなっ!』 『午後にしようっ!』 『そうだなっ!』 だから聞けってー。ま、言った所で聞かないのは知ってるし。 きっと勝手に鴇にメールを出すんだろう事も分かっている。だったらオレから出した方がまだマシだよね。 所でさっきから兄貴達が姫ちゃんをガン見してるんだけど。公園のど真ん中で。しかも正座。雪の上で正座。 溜息しか出ない。 肩を落として溜息をついていると、両サイドから肩をポンッと叩かれた。 「…分
last updateLast Updated : 2025-11-21
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第五話④ ※※※(奏輔視点)

鴇のお袋さんの実家に来て、二週間が経った。 到着当日。緊張していた鴇達兄弟だったが、あの祖父母の前で緊張するだけ無駄と悟ったのか。それともそうならないように祖父母の方が気を使ったのか。それは解らないけれど、俺達他人を含めて直ぐにこの家に馴染んだ。 実家のお屋敷は驚く程大きく、一人に一部屋割り当てられるくらいだ。 まぁ、寝る時以外、こうして広間に集まっているからあんまり個室の意味を成さない気もするが。 俺は目の前の宿題と向き合った。午前中の涼しい内にやってしまいたかったから。 今広間には珍しく俺一人だ。 (鴇は祖父さんに連れられて村の組合に出るらしいし、大地と双子は道場に行ってるし、透馬は祖母さんと買い物。お袋さんは金山さんと調べもの言うてたな) ふと、数学の問題を解く手を止めた。 (調べもの、ね。多分、お姫さんが怯えたアレを調べてるんだろうけど…) あの時のお姫さんの怯え方を思い出すと、今も可哀想になってくる。 男性恐怖症とは聞いていた。そして、あの『学校破り』の星ノ茶高校の襲撃でその最たる姿を目撃もしている。 ただ、あんなにも過剰になるものかと。あそこまで怯えるものかと。全身で恐怖を露わにしていたその姿に俺は同情を覚えるしかなかった。 風呂上りだったはずなのに、あんなにも真っ青になり、鴇に必死にすがりついていた。 視線なんて何も感じなかった。少なくとも俺達は誰一人として感じ取ってはいない。けれど、お姫さんはそれを感じ取り怯えた。 部屋へ戻り、佳織さんが場を和ませて、お姫さんを寝かしつける為に寝室へ行った直後、俺達四人はリビングで調査に行った金山さんを出迎えていた。 金山さんはその手に小さな、それはもう本当に小さな機械を握っていた。 『これは…?』 『……カメラです。高性能の盗撮カメラ』 『ど、どこにあったんだ?』 『坊ちゃま方が今しがた参られていた、浴場の入口付近にある死角に』 まさか、本当にあるとは思いもしなかったが。金山さんの話によると女湯の入口に焦点が合わせられていたらしい。でも、そうすると。 『…けど、おかしないか?その位置ならお姫さんがいた位置とは異なるやろ』 『確かに。となると、複数カメラが仕掛けられていた可能性があるな』 皆が頷く。俺達の言葉に金山さんだけが苦渋の表情を表した。 『一つ。不可解な事がご
last updateLast Updated : 2025-11-22
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小話⑨ 村の仕組み

「鈴ー?鈴どこー?」 「鈴ちゃーん?」 棗と葵が美鈴を探して、トウモロコシの畑を歩いている。 背が高いトウモロコシは小さい三人を隠してしまっていた。 この畑は、祖父さんと祖母ちゃんの畑で。屋敷の後ろには壮大な畑があったと言う事を知った時は葵と棗三人で目を点にして驚いたものだ。 「鈴ー?」 「鈴ちゃーん?」 相変わらず美鈴を呼ぶ声が響く。俺は少し高い位置から畑を見下ろしているから、三つの金色が何処へ動くかが分かっている。 が、敢えて言わないでおいた。今三人は本当に楽しそうだから。 美鈴が双子に気付かれないようにこっそりと近づいている。そして…。 「呼んだっ!?」 バッと唐突に現れて、 「うわっ!?」 「わっ!?」 突然現れた美鈴に双子が素直に驚いた。 微笑ましい。 「もうっ、鈴は悪戯っ子だね」 「悪い子はこうだっ」 ぼふっと美鈴を後ろから抱っこして、葵はくるくると回転した。 「きゃーっ」 楽しそうにじゃれあう三人。平和だよなぁ…。 どんなにじゃれあっても、土の上だし怪我もしない。ある意味こんな良い遊び場ないよな。 「どうした?鴇。何を見ておる?」 背後から祖父さんの声が聞こえて、俺は振り向かずに祖父さんが隣に立つのを待った。 横に立ち、共に三人の遊び姿を見ると、ほっほっほとやはり微笑まし気に笑う。 「葵に棗に美鈴か。楽しそうじゃのぅ」 「混ざってくるか?祖父さん」 「それも楽しそうじゃが、今はお前さんと話そうかの」 ほれ、座れと言いながら自分がさっさと草の斜面に腰をおろす。俺も特に抵抗がある訳じゃないから、隣へ腰をおろす。 「鴇。お前は長男だからな。母親の実家の村の事は知っておくべきじゃろう」 「祖父さん?」 祖父さんは唐突に作務衣の袖から一枚の紙を取り出した。小さく折り畳まれているそれはどうやら地図のようだった。開かれるとそれなりの大きさになる。 これは確かに地図だが…この村の地図なのか。 「この村の住人は基本的に少ない。何故ならほとんどが親族だからじゃ」 「親族…」 「うむ。佐藤、伊藤、工藤、後藤、武藤の五家がおる」 全部藤がついてるな。何か意味が…? 「因みに全部に藤がついているのは偶然じゃ」 偶然かよっ。若干期待した自分が馬鹿みたいじゃないか。しかし、五家って割には世帯数は多いよな?
last updateLast Updated : 2025-11-23
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