All Chapters of 乙女ゲームのヒロインに転生しました。でも、私男性恐怖症なんですけど…。: Chapter 71 - Chapter 80

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小話41 想いを告げるには…:美鈴小学六年卒業式当日

ゴゴゴゴゴゴッ。 そんな擬音が聞こえそうなほどの怒気がクラスに充満している。 「み、美鈴ちゃん。ちょっと、落ち着いてっ」 僕は何とかその怒りを収めようと美鈴ちゃんの前に立ってみるけれど。 「優兎。…邪魔」 「あ、はい…」 無理だった。 すごすごと僕は美鈴ちゃんの後ろに下がる。 美鈴ちゃんはキレると僕の名前を呼び捨てにする。 だから今美鈴ちゃんは完全にブチ切れてる。……正直、もの凄く怖い…。 「逢坂くん?…殴ってもいい?」 バキッ! 「美鈴ちゃんっ!?」 殴っても良いって返事聞く前に殴ってるよっ!? 席で頬杖ついてそっぽ向いてた恭平が、まさか美鈴ちゃんに殴られるとは思ってなかったんだろう。 殴られた反動で椅子から転げ落ちたまま、呆けた顔で美鈴ちゃんを見ていた。 「逢坂くんがまさかこんな最低な男だったなんて…。信じた私が馬鹿だったっ」 「………」 何も弁解しない恭平にまたイラついたのか、美鈴ちゃんが追い打ちをかけようと一歩踏み出す。 って、それは流石にっ。 慌てて美鈴ちゃんの前に出て、殴ろうとした腕を捕らえた。 「おれが、何したってんだ…。むしろ、凹んでるのは、おれのほうだ…」 「…っ!!これだから、これだから男はっ!女の気持ちを考えようもしないでただただ凹んでっ!!」 「美鈴ちゃんっ!!」 珍しく声を荒げた美鈴ちゃんの名を少し強めに呼ぶ。 そこでやっと我に返った美鈴ちゃんが、静かに顔を俯かせた。……もしかして、泣いてるの…? 掴んだ腕が震えている。 「とにかく、二人共ちょっと場所変えようよ。ここじゃ目立ってしょうがない」 本当は離した方がいいのかもしれないけど、美鈴ちゃんには少し我慢して貰って。 僕は美鈴ちゃんの腕と、相変わらず床に尻もちついたままの恭平の腕を掴んで教室から連れ出した。 どこがいいかな?人目が付かない場所が良いよね…。 …うん。校舎裏に行こう。 ずりずりと重い足取りの二人を校舎裏まで引き摺り、大きな木の下に座らせた。 近くにある水道でハンカチを濡らして、恭平の顔に投げつける。 それを難なくキャッチして、渋々と頬に当てるのを確認して、僕は疑問を投げかけた。 「それで?一体何があったの?」 こういう時、美鈴ちゃんは絶対口を開かないと思ったから、僕は恭平に強めに問い質す。 すると、予
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第三章 中学生編 第十三話 聖カサブランカ女学院

小学校を無事に卒業し、華菜ちゃんと『同じ高校へ行こうね』と約束して。 電車に乗ってバスに乗って、リュックとボストンバックを担ぎ、やって参りました。聖カサブランカ女学院っ!これから私一人の暮らしが始まるっ!! 「……と思ったんだけどなぁ…。ほんとに、ほんっとにごめんねーっ!優兎くんっ!」 私は同じようにリュックとボストンバックを持ち隣に立つ優兎くんに抱き着き、泣き喚く。 「い、いいよ。これくらい。美鈴ちゃんと同じ学校に通えるならどうって事ないよ」 「だって、だってぇーっ!」 まさか、お兄ちゃん達が優兎くんを私と同じ学校に通わそうなんて本気で思ってるとは思わなかったんだよっ! 優兎くん女顔を気にしてたのに、気にしてたのにーっ!! 態々髪をロングにさせて、軽く化粧までして…学園長を権力で納得させてまでっ!いや、まさかそこまでするとは思わなかったの。 「それより、美鈴ちゃん。かなり注目浴びてるから、行こうか」 「うん…」 上級生の視線を浴びながら私達は寮へと向かった。 今日は入寮日。 この聖カサブランカ女学院は女子校で、山奥にある為に寮生活が義務付けられている。 寮そのものは、普通のマンションの様な作りになっていて、基本的に二人一組の相部屋だ。 勿論私は、優兎くんと同じ部屋。これは優兎くんの入学を知った時、私が必死に鴇お兄ちゃんにお願いした。 だって、お兄ちゃん達の我儘で優兎くんは私に付いて来てくれたんだ。私がフォローしなきゃ、罪悪感で死んでしまう。 優兎くんと二人校門をくぐり、校舎とは反対にある寮へと向かう。 寮の入口にテーブルが置かれていて、そこに上級生らしき女の子が二人立っていた。 「聖カサブランカ女学院へようこそ。お名前をお聞きしても宜しいかしら?」 優雅に微笑む二人に私は、素直に返事を返した。 「はい。白鳥美鈴と申します」 「私は花島優兎です」 はっきりと本名を言う優兎くんに私はぎょっとして隣を見る。けれど、優兎くんはにこにこ微笑むだけ。 ええー…マジー…? 「白鳥美鈴さんと花島優兎さんですね?えーっと…」 ぺらぺらとバインダーに挟まれた紙を捲る音が聞こえ、こっちは何もする事がないので大人しく返答を待つ。 「あぁ。はい。ございました。二人は同室ですね。出身校も同じでお家もお隣同士。ふふっ。仲が宜しいんです
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第十四話① 白百合の王子と四聖

入学式も無事に終わり、寮生活にも慣れて来た、六月の中旬。 問答無用で学級委員長にされた私は、教師に呼び出され職員室にいた。 「…新田(にった)さん、ですか?」 「えぇ、そうなの。彼女お友達もいないみたいだし、いつも一人で化学室にこもって何かしてるのよ。もしかしたらイジメにでもあってるのかと思って先生心配で~」 …だったら先生、自分で見に行けばいいんじゃないですか? そう反論したくなる言葉を飲みこみ、教師をマジマジと見やると、彼女は甘えたような表情で私の前で手を合わせて言った。 「お願~い、白鳥さん。様子見て来てくれない?白鳥さんなら大丈夫だと思うの~」 …先生。女には甘えも媚も通用しないんですよ。年齢関係なく、ね。 にしても今年の担任私の苦手なタイプ過ぎる。 前世でいたんだよ、こーゆー媚売るタイプの上司。こういうのが上にいるとほんっと最悪。自分より上に奴にはクネクネして取入ろうとして、反対に部下には自分の仕事ばかりを押し付ける変に要領の良い奴。嫌いだわー。 「白鳥さん?」 こうやって下から見上げて来て、私可愛いのアピールも死ぬほど嫌いだ。けど、ここでは我慢。 「分かりました。様子を見て来たらいいんですね」 「うんっ、そうなのぉっ」 「では何かあり次第ご報告致します」 一礼して、そのまま職員室を出ようと思ったんだけど、ちょっとだけ腹が立ったので。 ドアの前でくるっと顔だけで振り返り、こっちを見ていた先生を見て、口元だけ上げて笑う。 「あ、そうそう。先生。何かあり次第ご報告致しますね」 「え?うん。やだ、白鳥さんったら。さっきもそう言ったじゃない。うふふっ」 「はい。ご報告いたしますよ。学年主任の佐原(さわら)先生に」 「えっ!?」 「では失礼します」 驚いた先生を無視して私は職員室を出た。追われると面倒なのでさっさと廊下の角を曲がってしまう。 さて、どうしたものか。 新田さん、ねぇ。同じクラスだけど、彼女は自分から人に関わるような子じゃないと思うんだよねぇ~…。 正確には、『教室で人と関わるのが嫌』なタイプだと思う。ちょっと話した事があるけどそんな感じだった。となるとグループ行動って辛いよねぇ…。 ……まぁ、もう少しでも話してみなきゃわからない、か。 どうやって接近しようかな。教室の中で話しかけたら嫌がられそうだ
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第十四話② ※※※(愛奈視点)

「美味しい……流石、王子」 「ありがとう」 目の前で王子がにこにこと微笑んでいる。この悩殺スマイルはマジやばい。 王子が腐女子だと知ってから、私と王子の仲は急激に接近、むしろ密着した。 最初は、絶対観賞用。側に行ったら百害あって一利なしって思ってたのに。 でも、王子はとても優しい人だった。 今思えば、王子は誰隔てなく優しかった気がする。 私は目の前にある王子の手作りお弁当を食べながら、入学当初を思い出していた。 私が王子を意識したのは、歓迎会の時だった。 (この学校マジで意味わからない。なんで自分達の歓迎会に自分達で料理を作ってかなきゃならないのよ) 正直料理が苦手な私は、何を作っていいか解らず、最終的に得意な科学の応用で作れるグミを作った。スライムの形にして。 勿論、水色のゲテモノに目の前の先輩達は完全に引いていたけど、一切構わなかった。 だって、どうせこの学校に腐女子がいるとは思えなかったから友達が出来るとも思ってなかったし。だったらいっそ距離を置いて貰えた方がよっぽど楽。 そう思って、会話にもほとんど参加していなかった。だけど、王子はそんな私の所に来て。 「そ、そのスライムグミ。私、食べてもいいかな?」 「は?」 「私のちらし寿司と交換でどうだろう?」 いきなり何を言いだすかと思えば…。 何だってこんなキラキラしい人が私の作ったスライムなんて食べたがるんだか。 意味が分からない。 でも、こんな注目を浴びる人を無視した方が後々面倒になる事も知ってる。 「はぁ。こんなので良ければ、どうぞ」 「ありがとうっ」 そして、皿を交換し王子は嬉し気に自分の席に戻って行った。私の手元には王子が作ったちらし寿司。 残しておくのも悪いと思って一口食べると、あり得ない旨さにがっついて食べてしまった。あれが手作りとか今なら信じられるけど当初は全く信じられなかった。 次の日。入学式で王子の印象は更に強くなる。 彼女は新入生代表として挨拶をしたのだ。…料理が出来て、頭も良くて、スタイル抜群、超絶美形。何そのスペック。 脳から印象を消せって言う方が難しくない?そう感じてしまう位には彼女は学校内で一躍有名人になっていった。 それに反して私の印象はどんどん消えて行く。そうなるべくしていたってのもあるけれど、オタク活動をする分には目立たな
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第十四話③ ※※※

うふふ…。 そうよね。そうなのよね。 ここ女子校だし。いるの当然だったのよ。 だって、そう言う設定だったもの。『久しぶりに再会した男の子達には彼らに恋する女子達いるっ!女の子達は貴女の強力なライバルにっ!』って。恋敵と書いてライバルと読むっ! うあああぁぁぁ…。 攻略対象に出会う前にライバルキャラに遭うと言うこの不思議。 ライバルキャラとは読んで文字の如く、攻略対象との恋愛を妨害してくるキャラクターの事。 その一人が愛奈である。新田愛奈(にったあいな) 未正宗の好感度を上げると出現するライバルキャラ。中学の時化学にハマりこよなく実験を愛するようになる。小学校の時未を好きになり告白をしているがフラれて、高校で再会し、また恋に落ちる。愛奈から未の名前を聞いた瞬間フィルターが綺麗に剥がれましたの事よ。 ライバル達って確か四人いて、それを通称『四聖』って言われていた…はず。 聖ってのは聖カサブランカ女学院卒だからって事で…。 …ママ。知ってたね?絶対知ってたよねっ! だから、この学校に入れたんだっ!! 頭を抱え込む。 「美鈴ちゃん?どうかした?」 生徒会室の机に頭突きした私を不安げに優兎くんが覗き込んできた。 すっかり季節も秋になり、生徒会長を引き継ぎ書類を捌いていた私はぼんやりと優兎くんを見上げた。 優兎くんは手に持っている封筒を私に渡しつつ、おかしな様子の私を心配してくれた。。 「大丈夫?鴇兄から書類届いたけど、後にする?」 「あぁ、うん。大丈夫。生徒会の書類はもう終わってるから。優ちゃん。悪いんだけど、これを1年の学年主任に、こっちを三年の運動部長に渡してくれる?」 「うん。分かった」 「それから、こっちを愛奈に。これは会計書類で原稿じゃないから間違わないでって伝言して」 「うん?うん分かった。じゃあ行ってくるね」 生徒会室とは言っても一種の事務室だ。エイト学園みたいに王様の椅子みたいのがある訳でもない。ホワイトボードと事務机が三つ並んでいて、後は全て書類ファイルで壁は覆い尽くされている。 私は優兎くんから受け取った封筒を確認する。 A4サイズの封筒は間違いなく鴇お兄ちゃんからの仕事の書類だ。中を開けて確かめるが間違いない。 この学校って徹底してるから、男からの手紙は一切受け入れない事になっている。出す分には
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第十四話④ ※※※(円視点)

バタンとドアの音を響かせて王子が出て行った。 にこやかな雰囲気が一気に消え失せる。 私達の視線は、主のいない席に残された二通の手紙に移された。 「……懲りないやつね」 愛奈の声が氷点下以下になっている。 「開けるよ」 アタシもきっと同じだけ低い声になってるだろう。 けれど、それに対して何か言う人間はここには誰もいない。 私は遠慮も何もなくバリバリとその手紙の封を開けた。便箋が一枚。 この手紙をアタシが見るのは初めてだ。でも愛奈から詳細は聞いていた。 「ストーカー、か…」 王子が言っていたモテるってのも良い事じゃないと。確かにこんなものを見るとそう思っても仕方ないってアタシも思う。 開いた便箋には、一言。『君が好きだ』と一言だけ。もう一つの封筒も開き、便箋を開くと、そっちには、『君を抱きたい』と一言。 ハッキリ言って気持ち悪い。 「…私の所で止めてたんだけどね。まだ、二通あるの」 そう言って、王子の従者で有名な花島優兎がもう二通の封筒を取り出した。 開封済の封筒から便箋を取り出して、それを広げ机に置く。 その文字を見てアタシと愛奈は無意識の内に自分の腕を撫でていた。『君の血は美しい』 『君と一つになりたい』確かにこれは隠して正解だ。 こんなの王子が見た日には、男性恐怖症の王子は精神が壊れてしまう。 「…誰がこんな手紙をよこしてるか知らないけど。美鈴ちゃんをこんな風な目で見るなんて…」 ぎりっ。 拳が握られている。下手すると爪が刺さって血が出そうだ。 アタシはそんな馬鹿の頭を小突き、手紙に意識を戻す。 「優、これ来たのいつ?」 「一昨日ね。円ちゃんが部屋に帰った後に寮監から渡されたわ」 一昨日、か。なら時間に共通性はない。 王子がやってる仕事の書類と一緒に来てるのかと思ったけど、それもどうやら違うようだし。 「この匂いがヒントだとは思うんだけど…」 「そう思って私も色々調べてみたんだけど、そもそも未成年で煙草を吸ってる人がいる訳ないし、男性用の香水を使う生徒はまずいないでしょう?」 「確かに。なら教師は?」 「…最初の手紙が来た時、私は武蔵先生宛てだと誤魔化して、先生もそれに乗ってくれたから良かったけど。実際教師にヘビースモーカーはい
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第十四話⑤ ※※※

中学生活って結構あっという間で。 何だかんだで、もう二月。再来月には新入生が入って来て、私は二年生になる。 ついでに言うなら今日はバレンタインデー。 そして、今日も何故か校舎裏に呼び出された私。 でもねぇ。この雪の降る中外に呼び出しておいて…。 「寝てるってどう言う事よっ!!」 果たし状まで書いて呼び出しておいて何で雪の中大の字になって寝てるのよっ! 風邪引くってのっ!! んんん? 覗き込んでその化け物のような化粧をしている顔をマジマジと見てみると、どうやら前回の男と違うようだ。 どちらかと言うと綺麗系な顔?違うか、可愛い系の顔が正しいかな。 …で?私はどうしたらいいの? この子の顔を眺めていたらいいの? いや、眺めてても良いんだけどさー。話があるから呼び出したんじゃないのー? 腕時計を見て、時間を確かめる。仕事の書類少し残ってるし、生徒会の仕事もあるし…いれて10分くらいかな。寒いし。 少し距離を取って、じーっと彼を観察。 ほんと起きないな。さっき近寄った時は穏やかな寝息してたから大丈夫だと思ったけど。もしかして、具合悪くて倒れてた? かと言って本当に倒れてたとしても私触れないよ? …じゃないな。触れなくても何かしらしなきゃ駄目よね。流石に見捨てるのは、ね。 5分しっかりと悩んで、私は覚悟を決めて彼を起こす事にした。 つんつん。 拾った木の枝で彼の肩をつつく。 起きない。 つんつんつん。 やっぱり起きない。 …ばしっ! 木の枝で彼の肩をぶっ叩いてみる。 それでも彼は起きなかった。 どんだけよっ!!心地よく寝すぎでしょうっ!! あぁー、もうっ! バシバシバシッ! 肩を連続で叩く。何度も何度もそれを繰り返すと、やっと彼は目を開けた。 眠そうに目を擦り、キョロキョロと辺りを見る。 「…おはよう」 「おはよう、ございます…」 「目が覚めた?」 「はい…多分」 「まだ、眠い?」 聞くとコクコクと彼は頷く。 「そう。じゃあ、もう帰って寝たらいいわ。帰るまでの道で眠ったりしないようにね」 彼が起きた事に安堵して私は立ち上がる。 「……あれ?ボク、何か用があって来たような?」 今更思い出されても困る。 「それも帰ってから確かめたらいいわよ。あぁ、そうだ。はい、これあげる」 少し離れた所で私は
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第十四話⑥ ※※※(夢子視点)

『大丈夫?無理しちゃ駄目だよ。今、タオル濡らしてくるから座ってて』私はその時公園で友達と遊んでいる最中に転んで膝を血塗れにして歩いていた。 遊んでいた友達は心配をするふりをして、母親が来ると直ぐに去って私の姿を見せないようにして帰ってしまう。親に私の様な子と遊んでいると思われたくなかったのだろう。 私は施設育ちで親がいない。そんな私を迎えに来てくれる人などいなくて。怪我をしている自分を本気で心配などしてくれる人なんている訳ないと思っていた。 だから私は、水で洗い流すなんて考えもせずにただただ公園の中をぐるぐると歩き回っていた。 そこへ彼女は現れた。兄弟らしき人達と一緒に。人がいなくなった瞬間を狙って遊びに来たのか、嬉しそうに遊具へ向かおうとした彼女と私の目が合った。 すると彼女は直ぐに私の怪我に気付き、持っていたタオルを兄らしき人が持っていたミネラルウォーターで濡らし、更に傷口を惜しみなくその水で洗い流してくれた。 こんなことしなくていい。水が勿体ない。タオルが汚れる。 私がそう言うと、彼女はふんわりと微笑み、『タオルは汚す為にあるの。気にしなくていいのよ』そこから手早く手当てをしてくれた。今までこんな風に優しくされた事なんて一度もなかった。嬉しくて、こんな事で嬉しく感じる自分が惨めに感じて、視界がぼやけて、頬を滴が伝った。 突然泣き出した私を彼女は抱きしめて、『痛かったね。大丈夫。すぐに治るよ』優しく撫でてくれた。暖かい。その暖かさが堪らなく嬉しくて。また涙が溢れる。 そんな私の汚い泣き顔を見ても彼女は何処かに行ったりせずに、私が泣き止むまで頭を撫で続けてくれた。 私は5歳で施設に入り、その時ですら泣いたりなんかしなかった。どんな時も泣いたりなんてしなかったのに。 私はその時、涙が枯れるまで泣き続けた。『泣きたい時には泣いていいんだよ。子供の特権ってね。あ、そうだ。いいもの持ってるよ。はい、あーん』口に突っ込まれたクッキーはとても美味しくて。枯れたはずの涙がまた溢れた。 その後、彼女は兄弟達と一緒に私を施設まで送り届けてくれた。本当は遊びに来たんだろうに、私に付き合ってくれたんだと感動してしまった。 あんなに綺麗な女の子、優しくて暖かいお母さんみたいな女の子。施設育ちだと知ってなお、態度を変えなかった女の子。見た事も会った
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第十四話⑦ ※※※

彼女の異変に気付いたのは、移動教室で優兎くんと二人歩いていた時だった。 いつも誰かと歩いていた彼女が一人で歩いていたから、不思議に思って授業が終わった帰りに態と彼女の教室の前を通ってみた。 すると、彼女、一之瀬夢子は一人窓の外を見ていた。 まるで何かから逃げ出すように。全ての世界を遮断するように。 一之瀬夢子。 以前に一度会った事があり、その時は気付かなかったけれどライバルキャラの一人。 彼女は精神が幼くか弱いキャラクターとして描かれていた。事実、以前会った時は私もそうだと思っていた。 膝に怪我をして泣いてる姿。 それが彼女の印象だった。 円の同室である事は知っていたけれど、夢子ちゃんが話かけて来る気配はなかったから、きっと私と関わりたくないんだろうと思っていた。 でも、それは大きな間違いだった。 彼女は私を守ってくれようとしていたのだ。 親衛隊を作ったり、王子と呼ぶように制度をつけたり。円が私を王子と呼べると喜んだ理由を問うた時、何故そんな呼び名が広まったのかと少し調べたらすぐに彼女がやってくれた事だと理解した。 そんな彼女が一人でいる。 心配するなって方が無理。 その異変に気付いた、その日。 私は円に頼んで、急遽作ったサンドイッチを夢子ちゃんに渡してくれるように頼んだ。 夢子ちゃんを苦手としていた円は渋々だけれど納得し、持って行ってくれて、何故か辛そうな顔で戻って来た。 「……なんで、あんなになったんだ…何したんだろ、アイツ」 「……夢子ちゃんの話?」 生徒会室でお昼を食べながら、呟いた言葉に私は聞き返した。 円は静かに頷く。 「王子は何か知ってるんだろ?だから昼飯を持ってけって頼んだんだろ?」 「…ごめん、円。私も解らないんだ。夢子ちゃんがクラスメートから無視されてる状況に気付いたのはついさっきだから…」 「そうか」 「うん。ごめんね。でも、円。夢子ちゃんと同じクラスだよね?目を離さないでいてあげて」 あの手の虐めはエスカレートするから。 前世で同じような経験をした私には分かる。 そして味方が一人いるといないとではどれだけ違うかも知っている。 私が真剣に言うと円が頷いた。 「私達もちょっと情報集めてみる」 「うん。私も。従者並みの情報収集力はないけど、手伝う」 優兎くんと愛奈も協力を申し出てくれ
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第十四話⑧ ※※※(桃視点)

「ね、ねぇ、白鳥さん?」 「なぁにー?夢子ちゃん」 「わ、私なんかが、白鳥さんの部屋に来ちゃっていいのかな」 「良いに決まってるでしょ。さ、入って入って」 躊躇う一之瀬様を白鳥様がその腕を引っ張り問答無用で部屋の中へ連れ込む。 その後ろを私と向井様が笑いながらついて行く。 リビングには既に花島様と新田様が既にいらっしゃり、お茶会の準備がされていた。 「夢子ちゃんはこっちねっ。専用の林檎クッション作っといたからっ」 「か、可愛い…」 あぁ、最近白鳥様がせっせと何を作っているのかと思ったら、クッションでしたのね。 私にも作って下さいましたが、これが物凄く触り心地が良くてびっくりですの。因みに私のは桃の形をしていましたわ。 円形のテーブルに各々座り、用意された紅茶を一口含む。 「さて、落ち着いた所で。美鈴ちゃん。全部説明してくれるよねっ」 あらあら?花島様のお顔が怖いですわ。 白鳥様が凄く引いてますもの。でも白鳥様も説明する気はあるのか、一応頷いている。 けれど、いけませんね。姉の事ならば妹の私が説明するのが道理ですわね。 「私が説明致しますわ。姉の事も含めて」 私は白鳥様との出会いを思い出しながら、口を開いた。数日前までの私は、死人と変わらない、ただ呼吸をするだけの存在でした。 姉が脱走した事により、綾小路家の跡継ぎとしてやらねばならぬ責務が全て圧し掛かって来ました。それでも私は何とかその責務を全うしようと努力をしてきたものの、無理無茶が祟り体調を崩す事が多くなってしまいました。 病気がちになり、家の者は私を安静にさせようと屋敷の離れへと隔離した。 …そんなの建前だって私は知っていました。 姉が脱走し、私にまで脱走されたら困ると、本来行く筈だった聖カサブランカ女学院へ通わせる事もせず、余計な知識をつけないようにと私を離れへ閉じ込め外界との繋がりを断ち切らせた。 こんなの言葉を柔らかくしているだけで、監禁となんら変わりない。 部屋に籠らされ、何をする訳でもなく過ぎて行く日々。 誰と話す事もなく、ただ…ベッドの上で外を眺めるだけの生活。 (このまま、死んでいくのかしら…?だとしたら、私は何のために…) 何のために、この世に生まれたのだろう。 ぼんやりと遠くを見つめ
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