若い男が一人、高級そうなスーツを着て、人に囲まれながら中へ入ってきた。片手をポケットに突っ込み、周りを気ままに見回している。その全身からは、強い自信と余裕がにじみ出ていた。そばにいる連中は、へつらうような笑みを浮かべている。「高橋さん、こちらへどうぞ」「本日の周年イベントにお越しいただけるなんて、原栄ゲームにとってこの上ない光栄です」「藤原社長も間もなく到着いたします」「連絡もせずに来て、迷惑にならないか心配だったけどね」そう言いながらも、その口調にはまったく遠慮が感じられない。周囲の人間は次々と持ち上げ、口々にお世辞を並べた。黒田部長はずっとその様子を見ていたが、男の顔をはっきり確認すると、ふと柚香と絵理に視線を向ける。「なんか見覚えない?あの人、高橋グループの社長の一人息子、高橋桐也にちょっと似てる気がするんだけど」柚香は思わず手に力を込めた。――似ているんじゃない。本人だ。あの男は普段から遊び歩いてばかりで、プライドだけは高いくせに実力が伴わない、典型的なドラ息子だ。原栄ゲームのような会社なんて、同じ規模のものが二つあっても目にも入らないだろう。それなのに、どうしてここに……胸の奥に、嫌な予感がふっと浮かぶ。まるで、自分を狙って来たような気がしてならない。「絵理お姉さん、ちょっと上に行ってきます。夜のステージの準備がありますので」適当な理由をつけて、その場を離れる。あの男とは関わりたくなかった。もし遥真との関係をばらされたら、面倒なことになる。「うん、行ってきて」柚香が去った直後、黒田部長はすぐに高橋桐也(たかはし きりや)の注意を引き寄せた。満面の笑みで近づき、やけに馴れ馴れしく声をかける。「高橋さん!こんなところでお会いできるなんて思いませんでした」声のほうへ目を向けた桐也は、見知らぬ顔だと分かると相手にする気もなかったが、視線を戻しかけた瞬間、黒田部長の後ろで足早に去っていく人影が目に入った。――あの後ろ姿、どこかで見たような?「今の、誰?」顎を軽く上げて黒田部長に尋ねる。黒田部長はその視線を追い、にこやかに答えた。「うちの部署の原画担当、橘川柚香です」桐也はくすっと笑った。――柚香、か。「高橋さんにお会いできて本当に光栄です、以前……」黒田部長は話を
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