Todos los capítulos de 手遅れの愛、妻と子を失った社長: Capítulo 751 - Capítulo 760

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第751話

「俺はどっちの味方でもない。ただ、柚香を敵に回したらどんな代償を払うことになるのか、教えてやってるだけだ」蓮司は表情を変えずに言った。「どうするかは、君たちで決めろ」涼介は片手をポケットに入れたまま、二歩ほど彼に近づいた。「お兄さんはずっと、俺とお父さんが何を企んでるのか知ってたのか?」蓮司は目を上げた。「どう思う?」いろいろと口を出さなかったのは、涼介たちがたいしたことをできるとは思っていなかったからだ。仮に何かを仕掛けたとしても、遥真が後始末をしてくれると思っていた。だが今、遥真は京原市に戻っている。そうなると、何かをするにもリスクはずっと高くなる。「遥真は今、蒼海市にはいない。お兄さんが何も言わなければ、俺たちが何をしたところで、確かな証拠がなければあいつだって俺たちをどうすることもできない」涼介は腹を割って話した。「それともお兄さんは、あいつらの味方なのか?」「承輝がどうなったか、忘れたのか?」蓮司は忠告するように言った。「調べたよ。常和さんが危険な状態から連れ戻したんだろ」涼介は遥真を恐れていたが、承輝の件を知って、遥真を少し過大評価していたのではないかと思い始めていた。「つまり、あいつは無事ってことだ」蓮司は一言だけ返した。「もう少し詳しく調べてみろ」涼介は眉を寄せた。「どういう意味だ?」蓮司は実の弟だからこそ、一語一語噛みしめるように告げた。「承輝に待っている結末は、一つしかない」涼介「どんな結末だ?」蓮司「死だ」涼介「……は?」涼介はほとんど反射的に言い返した。「ありえないだろ。もう常和さんが海外から連れ戻したんだ。遥真がどれだけ横暴でも、黒崎家の目の前で人を殺すなんてできるわけがない」「遥真はやらない。だが、法律がある」蓮司がここまで話すのは珍しかった。「君の会社も、君が関わったことも、何から何まで一切やましいところがないと断言できるか?調べられても、何一つ手がかりが出てこないと言い切れるか?」できない。それが涼介の最初の答えだった。会社を経営している以上、百パーセント何の問題もないなんてことはありえない。せいぜい、帳簿をどれだけきれいに作っているかの違いだ。遥真の人脈と手腕、そして能力があれば、そうしたものや、彼らが裏でやってきたことを洗い出すのは簡単だ。「承輝にあん
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第752話

「許すかどうかは重要じゃないです」柚香はそこにこだわってはいなかった。考え方はもっと冷静だった。「おじいちゃんは、自分がやりたいと思ったことをやればいいんですよ。あとは天に任せればいいんです」結果に思い悩むくらいなら、後悔を残さないほうがいい。世の中には答えの出ないこともたくさんある。できる限りのことをやり切れば、それでいいのだ。「その通りだな」和雄は、何かが吹っ切れたように言った。「二日ほどしたら、そっちに引っ越して一緒に暮らすことにする」柚香は固まった。え?和雄はすっかり自分の世界に入り込んでいた。「これまであの子にしてしまったことを、全部埋め合わせる。受け取るかどうかはあの子の自由だ。俺が渡すかどうかは、俺が決めることだからな」柚香の頭が二秒ほど真っ白になった。そんなつもりで言ったわけじゃないんだけど……「ちょっと待ってろ。物を取ってくる」和雄は急に肩の荷が下りたように言った。部屋へ向かいながら、和雄の頭に浮かんだのは、安江のそばで図々しいほど堂々としている昭彦の姿だった。あれほど安江を傷つけたあの男でさえ、今は安江のそばにいる。それなのに、自分は父親として非を認め、謝り、できる限りの償いをしようとしているのだから、居場所の一つくらいあってもいいはずだ。しばらくして。和雄が戻ってきて、さっきよりずっと大きな檀木の箱を柚香に差し出した。柚香は不思議そうに箱を見た。「これは?」「そっちの家に置いてもらうための贈り物だ」和雄は以前のように迷うことなく、さらりと言った。「お母さんに渡してくれ。これだけあれば、そっちに一か月置いてもらえるかって聞いてみてくれ」柚香は年季の入った箱を見つめ、頷いた。二人はさらに三十分ほど話をしてから、柚香は帰ることにした。柚香が玄関を出たばかりのところで、和雄が呼び止めた。「柚香」柚香が振り返る。「はい?」「昔のことは、もう調べなくていい」和雄はふいにそう言った。「青葉医療をしっかりやって、一日も早く課題を終わらせて、お母さんの本来の持ち分を取り戻す。それが一番大事なことだ」柚香は足を止めた。すぐに、和雄が何を指しているのか気づいた。「あの件……本当に、あの人たちがわざとやったんですか?」「毎年の健康診断では何の問題もなかった体に、突然あんなことが
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第753話

柚香は腑に落ちなかった。このことは、前から予想していたんじゃないの?今さら何を慌てることがあるの?「遥真が父親に何を言われたのかは分からない。ただ、帰るとき、あまり機嫌がよくなかった」時也は今でも、遥真から向けられた、誰も寄せつけないような冷たい目をはっきり覚えていた。幼い頃から今まで、遥真があんな顔をするのを見ることはほとんどなかった。まして、自分に向けられるなんてなおさらだ。柚香は余計な心配をするつもりはなかった。「分かった」時也は探るように尋ねた。「それで、君は……」「慎吾と康平に交代で見張ってもらう」柚香は淡々と言った。「うちには近づけさせない」時也「……は?」時也の頭の中は、疑問符だらけになった。まさか、こんな答えが返ってくるとは思ってもいなかった。「ほかに用がないなら、切るね」柚香はこれ以上話すつもりはなかった。「これからは、あの人のことを私に報告しなくていい。私は感情の受け皿じゃないし、アフターサービスの窓口でもないから」「君、本当にあいつが実家で何を言われたのか、何をされたのか気にならないのか?」時也は、それでも柚香がここまで冷たくなれることが信じられなかった。本来なら、遥真は昨夜、実家に食事に行くはずだった。ところが会社の用事で今日の昼までずれ込み、ようやく帰ったと思ったら、一時間もしないうちにひどく機嫌を悪くして出てきた。父親の雅人には手を出さなかった。修司にも何もしなかった。何もせず、そのまま蒼海市へ向かった。何のために柚香を訪ねるのか、時也には分からなかった。もし、ずっと隠していた過去を柚香に知られたことを気にしているのなら、怒りをぶつける相手は自分のはずだ。それなのに、すれ違ったときも、あの近寄りがたい冷たい目を向けただけで、それ以上は一度も自分を見なかった。まるで、ただの他人であるかのように。「気にならない」柚香はそれだけ言うと、電話を切った。時也は、自分は生まれつき人のことを心配してばかりなのかもしれないと思った。すぐに蒼海市行きの航空券を一枚取り、飛行機に乗る前に凛音と遥真へそれぞれメッセージを送った。飛行機の中で、遥真はポケットに入れたスマホには手を伸ばさなかった。頭の中に浮かんでいたのは、昼に実家へ戻り、雅人と話したときのこと。そして、雅人に言われたあの言葉だった。「あの女がお
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第754話

外はいつの間にか大雨になっていた。雨が一定のリズムで地面を叩き、静まり返った部屋とは対照的な音を響かせている。遥真は彼女の前に温かい水を置くと、穏やかな声で尋ねた。「夕飯は食べた?」柚香「食べた」遥真「この二日、誰かに嫌なことされたりしなかった?」柚香「されてない」遥真「仕事、疲れてないか?」彼はずっと、どうでもいいようなことばかり尋ねていた。柚香は時間を無駄にするつもりはなかった。単刀直入に切り出す。「私に用があるんじゃないの?話して。私、このあと帰ってやることがあるから」遥真は黙り込んだ。飛行機の中で、彼は何を聞くべきかずっと考えていた。柚香からどんな答えが返ってきたら、自分はどう反応するのかも考えた。けれど、いざその時が来ると、急に怖くなった。聞きたくない答えが返ってくるのが怖かった。何より愛している人に、一番鋭い刃を心臓に突き立てられることが怖かった。「何もないなら、私もう帰るね」柚香が立ち上がる。「俺が入院してる間、時也は君に何を話した?」遥真はまず、雅人の話が本当なのか確かめたかった。「あなたの過去」柚香は感情のない機械のように、淡々と話した。「子どもの頃、雅人があなたにどんなことをしていたのか。あなたと友人の間にあったことも、全部聞いた」遥真の手が、少しずつ強く握り締められる。「それで?」柚香は静かに彼を見つめた。「それだけよ」「あの時、君は俺を恨んでた。それなのに、どうして病院に残って俺の世話をした?」「一つは、時也と条件を交換したから。私が残る代わりに、これから私が困った時は力を貸すって約束してくれた」柚香は何一つ隠さなかった。「もう一つは、あなたの過去が気の毒だったから」遥真のまとっていた空気が、少しずつ冷えていく。周囲の空気まで一気に張り詰めた。柚香にも、彼の機嫌が急激に悪くなっているのがはっきり分かった。「どうして」彼女を見る遥真の目には、抑え込むような感情が滲んでいた。柚香は何を聞かれているのか分かっていたが、答えなかった。「君も知ってるだろ。俺が一番嫌いなのは、同情されることや、憐れに思われることだ」遥真は必死に感情を抑えていた。本当に彼女と決裂したくはなかった。「君には、俺のことなんて気にかけず、放っておいてほしかった」「じゃあ、ここ最近あなたに
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第755話

二人の話し合いは、結局うまくいかなかった。柚香は遥真の心のわだかまりを解いてあげようとした。これ以上このことに囚われて、どんどん苦しんでほしくなかった。けれど遥真はあまりにも頑固だった。あの出来事が起きてから今まで、ずっと自分自身を縛りつけているほどに。彼が背負っているものはあまりにも重く、その重さは、彼に自分が犯した「過ち」を片時も忘れさせてくれなかった。「心配なら、俺たちもここに残って、一緒に付き合いますよ」傘を差した康平が柚香の隣に立ち、中の様子をちらりと見た。「何があったのかは分かりませんけど、今のお嬢様、つらそうですから」つらい……のだろうか。ただ、胸が苦しくて仕方なかった。まるで胸の奥を虫にずっとかじられているようだ。遥真をあの出来事から救い出してあげたい。なのに彼は、そのことに囚われるあまり、自分自身まで捨ててしまいそうになっている。だから自分が何を言っても、彼の胸にナイフを突き刺しているような気がした。最後に彼が口にした言葉も、そうだった。「柚香、もう俺のところに来ないでくれ」「君の心配も気遣いも、俺にとっては鋭いナイフみたいなものなんだ。何度も過去のことを思い出してしまう。千景は俺のせいで死んだ。あいつが死んだあとまで、あいつのことを利用して君の愛を手に入れるなんて、俺にはできない。もう帰ってくれ。こんな夜中に君をここまで連れてきてしまって、ごめん」柚香は喉を一度鳴らした。目にはもう、こみ上げるものが浮かんでいた。そんな彼女の沈んだ様子を見て、康平が声をかけようとした、そのときだった。柚香が先に口を開いた。「ちょっと中に入ってくる」そう言うと、雨の中へ飛び出し、遠くに明かりの灯る建物へ向かって走っていった。その瞬間の柚香は、離婚をめぐる嫌なことも、遥真から受けた冷たさも、何もかも忘れていた。ただ、自分にたくさんの愛をくれた人が今、壊れそうなほど苦しんでいて、自分の支えを必要としている。それだけが分かっていた。周りがどう思うかなんて、どうでもよかった。ただ最後に、もう一度だけ彼を抱きしめたかった。「バン!」再びドアが開いた。全身ずぶ濡れになった柚香が入口に立っている。その目はまっすぐソファに座る遥真を捉え、大きな声で彼の名前を呼んだ。「遥真!」遥真は弾かれたように顔を上げ
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第756話

康平は車窓越しに、明かりの灯った建物へ目を向けた。「あとでお嬢様が出てきても、何も聞くな。何も言うな。黙ってろ」慎吾は何か言おうとしたが、康平の複雑な表情を見て、口をつぐんだ。恋愛のことなら、自分より康平のほうがよく分かっている。ここは、言う通りにしよう。一方その頃。時也は柚香と遥真に連絡がつかず、柚香の家を訪ねて凛音に会った。顔を合わせるなり、挨拶もせずに本題を切り出した。「柚香がどこにいるか、知ってるか?」「遥真と一緒に出ていったわ」凛音が答える。時也の表情が曇った。遥真を立ち直らせられるのは、柚香しかいないことを、時也はよく分かっている。だが、二人がうまく話し合えなければ、決裂してしまう可能性もある。遥真は、一度こうと決めたら、何を言ってもなかなか考えを変えない。「二人とも大人なんだから、あなたが何から何まで心配する必要はないわ」凛音には、時也よりもよく見えていた。「恋愛のことは、周りが口を出さないほうがいい。結果がどうなっても、あなたは干渉しないで」「でも、千景のことは……まだ雅人から真実を聞いてない」時也が一番心配しているのは、そのことだった。修司が言っていたことの九割は、本当なのだろう。もし遥真と柚香がうまく話し合えなかったら、あの受け入れがたい真実を、遥真は一人でどうやって乗り越えるのか。これまで雅人がしたことまで自分の責任として背負い込み、そのせいで何年も約束に縛られてきた。もし雅人の口から、千景が自分のために亡くなったのだと知ったら、遥真はきっと壊れてしまう。「誰にだって、自分で乗り越えなきゃいけないものがあるのよ」凛音は淡々としていた。「彼だって例外じゃないわ」「凛音……」時也は何か言いかけて、口を閉ざした。凛音は言った。「自分で向き合うようにさせればいい。もし本当に耐えられなくなったとしても、死にそうになったときに病院へ運んであげれば十分。それ以外は、何も手を出さないで」時也はひどく迷った。遥真自身が、自分で答えを見つけなければならないことは分かっている。だが、修司はずっと機会を狙っている。もし遥真がこの問題にかかりきりになっている隙に、修司が権力を奪いに動いたらどうする?「修司がわざと追い詰めてきたら?」それでも、時也は尋ねた。「それも彼の家の問題よ。あな
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第757話

外ではいつの間にか土砂降りの雨がやみ、辺りはしんと静まり返っていた。二人は言葉を交わすことなく、ただ黙っていた。どれほど時間が経ったのか分からない。一分だったような気もするし、何時間も経ったような気もした。柚香は椅子から立ち上がると、もう一度彼を抱きしめた。そして腕を離すと、彼に一言だけ告げた。しばらくして。遥真は彼女を車のところまで送った。車のドアのそばに立つ彼女を見つめながら、遥真はそれまでの感情も優しさもすべて消し去り、よそよそしい表情を浮かべた。「今度出ていったら、もう戻ってくるな。俺は君の同情もいらないし、施しもいらない」「分かった」柚香は静かに受け止めた。康平は思わず眉をひそめた。二人は、いったい何を話したんだ?遥真の瞳の奥には、すべての感情が隠されていた。「前を向いて進め。振り返るな」遥真は柚香に言った。遥真はどうしても雅人に、千景のことで代償を払わせるつもりだった。これから自分が歩む道は、どこまでも暗い。一方、柚香がいるのは光の中だ。そんな彼女を、自分から泥沼に引きずり込むわけにはいかない。「あなたもね。前を向いて進んで。振り返らないで」柚香も同じ言葉を彼に返した。そして車に乗り込んだ。ドアが閉まり、車が走り出す。遠ざかっていく車を見つめながら、遥真は両脇に垂らした手を少しずつ強く握りしめた。胸は締めつけられるように苦しくなり、息をするのさえつらいほどだ。しばらくして、遥真は恭介にメッセージを送った。「京原市に戻る」恭介からはすぐに返事が来た。「専用機の手配はすでに済んでいます」遥真と柚香は、結局それぞれ別の道を歩むことになった。一人は決められた道を進んで家へ帰り、もう一人は人生の別の道へと踏み出していく。帰る途中、柚香は窓際の席に座り、ぼんやりと外を眺めていた。その目には焦点がなく、頭の中は真っ白だった。自分が何をしているのかさえ、分からない。慎吾は振り返ってちらりと柚香を見ると、康平に目配せした。――社長が落ち込んでる。どうする?康平は真剣に運転しながら、ちらりと慎吾に視線を返した。――見なかったことにしろ。「……」慎吾はなおも視線を向ける。――何か面白い話でもしてあげる?康平はわずかに眉を動かした。――お前の話、本当に面白いの
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第758話

「そうなってほしくないって言ったら嘘になる。でも、それはずっとずっと先の話だよ」陽翔は柚香に本音を打ち明けた。声には嬉しそうな響きと、ちょっとしたいたずらっぽさが混じっていた。「今はそれより、パパがママを必死に追いかけるところを見ていたい」柚香は尋ねた。「どうして?」陽翔は答えた。「ママとパパが僕が生まれる前に何があったのか、気になるから」両親が恋をしていた頃の話を知りたい。パパが、こんなに素敵なママをどうやって振り向かせたのか知りたい。柚香の胸がふっと柔らかくなった。「京原市に行って、パパのそばにいてあげたい?」「やだ」陽翔はきっぱり断った。「僕が行ったら、パパは自分が辛いことを隠して、僕には元気なところだけ見せようとすると思う。そんなふうに無理してほしくない」柚香は陽翔を抱きしめた。陽翔は、二人にとって天使のような、優しい子だ。 同じ頃、久瀬家の本宅。遥真が出ていってから、すでに数時間が経っていた。雅人は庭に座り、頭上には真っ暗な夜空が広がっていた。隣に座る修司を見ながら、重い表情で尋ねる。「今回は、遥真と柚香は本当に決裂すると思うか?」修司は雅人の湯呑みにお茶を注いだ。「おそらく、そこまではいかないだろう」雅人は眉をひそめた。そこまでいかない?「遥真はプライドが高く、この件をかなり気にしている」修司は焦る様子もなく続けた。「でも、柚香は長年ずっと彼が想い続けてきた女性だ。せいぜい彼女と距離を置くくらいで、本当に縁を切ることまではしないだろう」「決裂しなければ、どうやって財産と陽翔の親権を取り戻す?」雅人の顔色は悪かった。「それはむしろ、今は一番重要ではない」そう言いながら、修司は湯呑みを雅人の前に置いた。穏やかな表情には、ほとんど動揺が見られない。「お父さんが考えるべきなのは、千景のことをどう遥真に説明するか」雅人は冷たく言った。「何を説明するっていうんだ。あいつが自分で飛び降りたんだ。まさか俺のせいにするわけじゃあるまい」「これだけ時間が経ってから、遥真がそのことを聞いてきたんだ。何かを耳にしたか、証拠を手に入れた可能性が高いだろう」修司は淡々と続けた。「遥真の性格は、お父さんもよくわかってるよね」雅人はしばらく黙り込んだ。あのことを知っているのは、自分だけだ。遥真の母
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第759話

雅人の表情は重く、瞳の奥に険しいものが走った。修司は急かさなかった。父には考える時間が必要だと分かっているのだ。「千景は自分で思い詰めて飛び降りた。俺には何の関係もない」雅人はしばらく黙ったあと、口を開いた。だが、本当のことは話さなかった。「どうしても俺に罪を着せたいっていうなら、久瀬グループの発展のために、邪魔になるものを一つ片づけただけだ」「それならいい」修司は少しも驚かなかった。自分の父親がどんな人間なのか、誰よりもよく分かっている。今回の話し合いで、父から真実を聞き出せるとも思っていなかった。人は追い詰められて初めて、すべてを吐き出す。そして、そのときこそが、自分と父が正式に交渉するときだ。雅人の方は落ち着かなかった。探るように尋ねる。「遥真がこのことで俺に何かしてくるんじゃないか?」「その可能性はある」「お前と朝倉家との縁談は、まだ完全には決まっていない」雅人はそれとなく話題を持ち出した。「この件と柚香のほうの話をうまく片づけてくれれば、お前が欲しがっている権限も、結婚相手を自分で選ぶ自由も、全部お前にやる」「ありがとう、お父さん」修司は、自分の野心を一切表に出さなかった。二人が話し終えた頃には、もう深夜になっていた。雅人は遥真が本当に自分に何か仕掛けてくるのではないかと心配し、修司に警護を増やすよう指示した。すべての話が終わり、修司が帰ろうとしたとき、雅人が彼を呼び止め、ふと思い出したように尋ねた。「そういえば」修司が足を止める。雅人は彼の目を見ながら口にした。「お前、前から家に住まわせているあの女のために、あの佐藤社長を怒らせたそうだな?」「大勢の前でお父さんの悪口を言っていたので、見ていられなくて少し懲らしめただけ」修司は慌てることなく、いつものように落ち着いていた。「たぶん根に持っていて、わざと陰で私の悪口を言いふらしているんだろう」冗談を言っているようには見えなかったため、雅人もそれ以上は追及しなかった。ただ、念を押すように言った。「弟は女のことで痛い目を見た。お前まで同じ失敗をするなよ」「何が大事なのかくらい、分かっている」修司は眼鏡を押し上げ、いつもの上品で穏やかな笑みを浮かべた。「ご心配なく」雅人も、それ以上口を出さなかった。修司くらいの年齢なら、女がいても何も
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第760話

「こんなあからさまな嘘を、私が信じると思う?」修司は千尋の顎を掴んでいた手を離した。冷たい目つきになり、周囲の空気まで一気に張り詰める。千尋は修司に甘えるように言った。「一度だけだから」修司は目をわずかに上げた。その瞬間、圧がさらに強くなる。「同じことを二度も言わせるな」「このドラマに出させてくれるなら、あなたの言うことなら何でも聞くから。お願い」千尋は修司の腕に抱きついた。その瞳はあまりにも澄んでいて、修司は一瞬だけ目を奪われた。だが、それもほんの一瞬だった。修司は千尋を連れて隣に腰を下ろし、危険な気配を漂わせながら彼女を包み込む。「そんなに女優の仕事がしたいのか?」「女優の仕事がしたいんじゃない。自分の力で少しお金を稼ぎたいの」千尋は修司の腕に手を回した。顔には素直そうな表情を浮かべ、胸の内にある憎しみと嫌悪をすべて隠していた。「あなたの誕生日まであと数か月でしょ?ちゃんとしたプレゼントを買ってあげたいの」修司は一瞬、言葉を失った。腕の中にいる千尋をじっと見つめる。淡い色のバスローブを身にまとい、長い髪を肩に流している。穏やかで優しく、聞き分けもいい。まさに、修司が好むタイプそのものだ。「私が、そんな話を信じると思うのか?」修司は信じなかった。「どうして信じないの?」千尋は本気でそう言っているような顔をした。「あなたは私にあんなによくしてくれてるんだから、私がプレゼントを贈りたいと思うのは普通でしょ?」「よくしてる?」修司は千尋の顎を指でなぞりながら、ゆっくりと言った。「さっき、妹を使ってお前を脅したばかりだぞ」「あなたは口では厳しいけど、本当は優しい人だから。妹のことだって、裏では人をつけて守ってくれてるんでしょ?」千尋は吐き気を堪えながら、心にもない言葉を並べた。「約束する。この一本だけ撮ったら、あなたの誕生日プレゼントを買うお金を稼いで、ちゃんと家にいるから」修司は千尋の髪を撫でた。「私が用意した人間を、付き人兼ボディガードにつける」「分かった」「台本をもらったら、私にも見せろ」「もちろん」千尋は素直に頷いた。修司の手が髪から腰へと滑り、その温かな手のひらが腰に触れる。「私を騙すな。もし騙したら、お前には耐えられない結果になる」「私がそんな恩知らずなこと
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