「撮影場所のことなんて、私みたいな脇役には口出しできないよ」千尋は先ほどと変わらない口調で言った。「もし撮影が蒼海市で行われることになったとしても、私だけ『ここでは撮影しません』なんて言えるわけじゃないし」「私がなんとかする」修司は千尋の手を握った。千尋は表向きは素直に頷いた。蒼海市で撮影できるなら、それに越したことはない。けれど、無理なら無理で仕方がない。撮影に入ってしまえば、修司も四六時中自分のスマホを監視することはできなくなる。チャットアプリは彼のタブレットにもログインされていて、いつでもチェックできる状態だ。さすがにスマホのSMSまでリアルタイムで把握することはできないだろう。「不満か?」修司は眼鏡の奥から千尋を見つめたが、その目からは何を考えているのか読み取れない。「私、そんなにわがままな人に見える?」千尋は穏やかな態度を崩さなかった。「ただ、あなたが動いたら、私たちの関係を誰かに知られないかなって思っただけ」「大丈夫だ」修司はこういうことには昔から慎重だった。「私と主演の二人に関係があるんじゃないかと疑われることはあっても、君みたいな脇役の女優まで疑う人間はいない」千尋は胸の内に湧いた感情を押し込め、いつもの作り笑いを浮かべた。「それならよかった!」二人はそれぞれ別の思惑を抱えていて、どちらも相手に対して本気ではなかった。ただ違うのは、一人は自分の欲望を満たすためなら手段を選ばず、もう一人はここから逃げ出すために必死になっていることだ。二時間後。二人は「用事」を済ませた。修司は隣で目を閉じて眠っている千尋を見つめた。胸の奥にぽっかり空いた穴は、これで満たされるどころか、かえって虚しさと寂しさが増していた。遥真が女のためなら何もかも投げ出すような生き方をしているのは、馬鹿げているし、どうかしている。それなのに今この瞬間、修司はそんな遥真が羨ましかった。離れていても、遥真と柚香は互いを気にかけている。二人には、ともに大切に思う子供がいる。そして、遥真には愛のためなら何もかも捨てられるほどの勇気がある。同じように大人しく従順で、男に養われ、そばにいるだけで相手を心地よくさせる女。それなのに、柚香が遥真を想う気持ちは、千尋が自分に向けてくれるものよりはるかに深い。自分はいったい何が足
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