Lahat ng Kabanata ng 手遅れの愛、妻と子を失った社長: Kabanata 761 - Kabanata 770

814 Kabanata

第761話

「撮影場所のことなんて、私みたいな脇役には口出しできないよ」千尋は先ほどと変わらない口調で言った。「もし撮影が蒼海市で行われることになったとしても、私だけ『ここでは撮影しません』なんて言えるわけじゃないし」「私がなんとかする」修司は千尋の手を握った。千尋は表向きは素直に頷いた。蒼海市で撮影できるなら、それに越したことはない。けれど、無理なら無理で仕方がない。撮影に入ってしまえば、修司も四六時中自分のスマホを監視することはできなくなる。チャットアプリは彼のタブレットにもログインされていて、いつでもチェックできる状態だ。さすがにスマホのSMSまでリアルタイムで把握することはできないだろう。「不満か?」修司は眼鏡の奥から千尋を見つめたが、その目からは何を考えているのか読み取れない。「私、そんなにわがままな人に見える?」千尋は穏やかな態度を崩さなかった。「ただ、あなたが動いたら、私たちの関係を誰かに知られないかなって思っただけ」「大丈夫だ」修司はこういうことには昔から慎重だった。「私と主演の二人に関係があるんじゃないかと疑われることはあっても、君みたいな脇役の女優まで疑う人間はいない」千尋は胸の内に湧いた感情を押し込め、いつもの作り笑いを浮かべた。「それならよかった!」二人はそれぞれ別の思惑を抱えていて、どちらも相手に対して本気ではなかった。ただ違うのは、一人は自分の欲望を満たすためなら手段を選ばず、もう一人はここから逃げ出すために必死になっていることだ。二時間後。二人は「用事」を済ませた。修司は隣で目を閉じて眠っている千尋を見つめた。胸の奥にぽっかり空いた穴は、これで満たされるどころか、かえって虚しさと寂しさが増していた。遥真が女のためなら何もかも投げ出すような生き方をしているのは、馬鹿げているし、どうかしている。それなのに今この瞬間、修司はそんな遥真が羨ましかった。離れていても、遥真と柚香は互いを気にかけている。二人には、ともに大切に思う子供がいる。そして、遥真には愛のためなら何もかも捨てられるほどの勇気がある。同じように大人しく従順で、男に養われ、そばにいるだけで相手を心地よくさせる女。それなのに、柚香が遥真を想う気持ちは、千尋が自分に向けてくれるものよりはるかに深い。自分はいったい何が足
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第762話

柚香はスマホを手に取って時間を確認した。まだ午前一時を少し過ぎたくらいだった。隣で陽翔がすやすや眠っているのを見て、布団をそっとかけ直すと、柚香は起き上がってベランダに出た。しばらく冷たい風に当たっていると、その冷たさが肌に染み込み、ようやく胸に残っていた不安も、先ほどまでの動揺も少しずつ収まっていった。それから二日が経った。ちょうど月曜日だ。柚香が仕事を片付けて家に戻ると、凛音があることを告げた。「承輝が戻ってきたわ」柚香は水を注ごうとしていた手を止めた。だが、ほんの一瞬でいつもの表情に戻った。「戻ってきたならちょうどいい。前のことには、まだちゃんとけじめをつけてないから」「その機会は、たぶんないわよ」凛音は少しからかうように口元を緩めた。柚香は不思議そうな顔をする。「?」凛音は遥真が手を打っていたことを彼女に伝えた。「遥真は前もって手を回して、承輝の犯罪の証拠を警察に渡していたの。だから本人が戻ってきたら、すぐに逮捕できるようになってる」柚香は少し目を上げた。遥真が何か手を打っていたことは知っていた。けれど、二日前に話し合いが決裂したあとも、その手配を取り消していなかったとは思わなかった。「お嬢様」慎吾が入ってきて、柚香の思考を遮った。相変わらず機械のように淡々とした口調だった。「黒崎家の常和さんがお見えです。お嬢様に話があるそうです」柚香はきっぱり断った。「会わない」もう、誰かの顔色をうかがう必要はなかった。以前は相手が年長者ということもあって、何事にも礼を尽くして接してきた。けれど前回、あれだけのことがあったのに、常和は「取り返しのつかない傷を負わせたわけじゃない。ちゃんと元気に暮らしている」という理由だけで、承輝がしたことをすべて水に流してほしいと言ってきた。そのとき、柚香はもう、常和がどんな人なのかをはっきり理解した。黒崎家の立場からすれば、承輝のために口添えをしたいと思うのは当然なのかもしれない。でも、そんな頼み方があるだろうか。「一度、会ってみてもいいんじゃない?」凛音がそう提案した。柚香は納得できない様子で彼女を見る。「おそらく、承輝を連れて、謝罪に来たんだと思う」凛音はそう推測した。「あとでリビングの監視カメラをつけておいて。話している途中で揉めたとしても
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第763話

承輝は眉間にしわを寄せ、声もさっきより少しかすれていた。「信じないのか?」常和は、承輝のほうを見ようともしなかった。遥真のことを部下に調べさせて以来、この話を信じてはいなかった。「遥真は俺の秘書になりすまして、女を一人連れて、柚香のボディーガードと一緒に俺のところへ来たんだ」承輝はそのとき何があったのかを説明した。わざわざ電話までしたのに、なぜ信じてもらえないのか分からなかった。「まず俺を水浸しにして、そのあと俺のボディーガードを寝返らせて襲わせて……」「もういい!」常和の声が突然低くなった。承輝の表情はますます険しくなる。なぜ兄が信じてくれないのか、理解できなかった。これだけの証拠が目の前にあるのだから、遥真が海外へ行った記録があるか調べればすぐに分かるはずだ。「俺が君の考えていることを知らないとでも思っているのか?」常和は険しい顔で言った。「君が海外で女を囲っていることも、資産を移していることも、全部知っている」承輝「……?」いつ自分が海外で女を囲った?いつ資産を移した?常和は承輝を見つめ、一言ずつ言い聞かせた。「俺だけじゃない。奏汰も涼子も知っている。命が惜しくて、少しでも穏やかな老後を過ごしたいなら、俺の言う通りにしろ」承輝の頭の中は疑問符だらけだった。何が起きているのか、さっぱり分からない。「あとで柚香にきちんと謝れ」常和は、もうそれに賭けるしかなかった。「土下座して頭を下げようが、泣いて謝ろうが、とにかく柚香に許してもらえ。そうしなければ、君を待っているのは死だけだ」「脅かすなよ」承輝はそんな話を信じるはずもなかった。空港からここへ連れてこられたばかりで、この間に何が起きたのかすら知らない。「仮に俺があの件をやった証拠を遥真に掴まれたとしても、せいぜい三、四年、長くても五年くらいだろ」まさか死刑だなんて。この常和は柚香の機嫌を取るためなら、本当に何でも言うらしい。常和はそれ以上話さず、遥真から渡された封筒を承輝に差し出した。「自分で見ろ」承輝は受け取ると、怪訝そうに封筒を開けた。そして中身を見た瞬間、瞳が大きく揺れた。資料を握る手に、思わず力が入る。「これは遥真が俺に渡したものだ」常和が説明した。「柚香の件について、俺に納得のいく形でけじめをつけろと言
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第764話

「ふっ……」承輝は突然、すべての希望を失った。常和はわけが分からないといった顔で彼を見た。「何を笑ってるんだ」「もう無理だ」承輝は急に冷静になった。ここ最近ずっと抱えていた恐怖も不安も、この瞬間にはすべて消えていた。「頭を地面に擦りつけて謝ったところで、遥真は俺を許さない」あの男は、受けた恨みを決して忘れない。情け容赦のない男だ。常和は、また何か言おうとした。すると承輝は、いたって穏やかな口調で続けた。「信じるかどうかは好きにしろ。俺は財産を移してなんかいない。ましてや海外に女を囲ってもいない。全部、遥真が俺に仕返しするために仕組んだことだ」常和は怒りで胸を大きく上下させた。こんな状況になってまで、まだくだらないことを言っている。「でも、言ってたことは間違ってない。俺は一度、中に入ってみたほうがいい」承輝の目の奥には、暗い光が浮かんでいた。「今まで俺が柚香にしたことを、ちゃんと謝る」最後の言葉だけ、ひどく強調していた。常和は、その口調にどこか引っかかるものを感じた。だが、承輝が自分の言うことを聞く気になったのなら、それでいいと深くは考えなかった。きちんと柚香に謝るつもりなら、たとえ柚香が許さなかったとしても、以前ほど怒ることはないだろう。もう少し時間を置いてから、自分と涼子で彼女に話をすればいい。そのうち柚香も気持ちが和らいで、今回のことを水に流してくれるかもしれない。そんなことを考えていると、慎吾が門を開けた。常和と承輝が車から降りると、康平と慎吾が二人を連れてリビングへ入った。「お嬢様」康平は自然に柚香のそばに立った。「常和さんと承輝さんがお見えになりました」柚香と凛音は同時に顔を上げた。柚香の姿を目にした瞬間、承輝の瞳には隠しきれない憎しみが浮かんだ。――全部、こいつのせいだ。こいつさえいなければ、自分がこんな目に遭うこともなかった。このクソ女、安江と一緒に死ねばいい。承輝の感情の変化に、慎吾と康平はすぐに気づいた。二人は何も言わず、柚香のそばへさらに一歩近づいた。ここに承輝が来ると知った時点で、二人は柚香から片時も離れないと決めていた。以前、あれほど手の込んだ罠を仕掛けて柚香を陥れた男が、今さら素直に頭を下げられるとは思えないのだ。「急に来てしまっ
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第765話

「君がどう思うかは関係ない。だが、俺はこれまで自分が犯した愚かな行いについて、きちんと謝らなければならない」承輝はすべての感情を押し込め、落ち着いた声でそう言った。「事故を仕組んで人を雇って殺そうとしたことを、『愚かな行い』の一言で済ませるわけにはいかないでしょう」康平が柚香に代わって言った。承輝は康平と目を合わせた。「要求があるなら、何でも言ってくれ」柚香が口を開いた。「警察に自首して、自分がやったことを一から十まで全部話してください。あとは裁判所の判断に任せます。それが私の要求ですよ」「承輝が君の言う通りにしたら、遥真と安江にも他のことは追及しないよう説得してくれるのか?」常和は単刀直入に尋ねた。柚香は答えた。「全部話してくれるなら、私はそれ以上追及しません」その「全部」という二文字を、柚香ははっきりと口にした。常和も承輝も、その意味を理解していた。柚香が求めているのは、承輝に警察へ自首して殺人を依頼したことを話させるだけではない。これまでに犯した経済犯罪や密輸に関わることまで、すべて自分の口から明かせということだ。それでは、自分の命をあらかじめ警察に差し出すのと何が違う。「とはいえ、彼は君のおじいさんにあたるんだ。家族の人間なんだから、少しくらい大目に見てやることはできないのか?」常和は、柚香に一歩も引くつもりがないのを見て、少し不安になった。「常和さん、冗談はやめてください」柚香は黒崎家に対して、これっぽっちも好意を持っていなかった。「私は橘川家の人間です。黒崎家とは何の関係もありません」何度も自分のところへ来るくせに、本気で自分のしたことを悔やんだことなど、一度もない。そんな家族に、これ以上不愉快な思いをさせられる筋合いはない。常和は眉間に深い皺を寄せた。「お兄さん、俺のために口を出さなくていい。これまでのことは、俺が愚かだった。俺が間違っていた」承輝には、感情の揺れがまったくなかった。淡々とした口調で続ける。「柚香が俺に死んでほしいと思うのも当然だ」「いやいや、そこは訂正してもらいますよ」康平がすぐに言い直した。「うちのお嬢様が死んでほしいと思ってるんじゃありません。あなたがやったことを、法律が見逃してくれないだけです。お嬢様に変な罪をなすりつけないでください」慎吾も頷いた。「その通
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第766話

「二つ目。この件を報道しないでほしい。俺の行動が、あの親子の生活に影響するのは避けたい」その言葉を聞き終えると、常和の表情が険しくなった。それでも彼は迷うことなく口を開いた。「分かった。問題ない」柚香の表情は少しも変わらなかった。こんなことを承輝が自分から言い出すなんて、信じられない。この男が土壇場で本当に考えるのは、自分の身を守ることだけだ。今このタイミングでこんなことを言うのも、こちらの警戒心を解くために決まっている。「そんな話、信じるわけないでしょう」康平は面白がるように口を挟んだ。「犬と猫が子供を作れるって言われたほうが、まだ信じられますね。あなたが家族のことを考える人間だなんて、絶対に信じません」「本当に自分の子供のことを考えてるなら、一方では奏汰を公的な組織に放り込もうとしながら、裏ではあんなに違法なことをしてたわけないでしょう」凛音は容赦なく承輝の嘘を暴いた。慎吾も頷いた。「そうです」承輝は腹を立てる様子もなかった。「今の俺が何を言っても、君たちが信じないことは分かってる。時間が経てば、すべて分かる」常和には、その言葉も態度もすっかり本物に思えた。常和にとって、道を踏み外した人間が心を入れ替えることほど、喜ばしいことはない。承輝が自分の間違いに気づいて、本気で改めようとしているのなら、まだ遅くはない。「あなたが証明するのを待ってます」柚香も、もちろん信じてはいなかった。「康平、慎吾。お帰りいただいて」二人はすぐに前へ出た。承輝が顔を上げる。「待ってくれ」その場にいた全員の視線が、彼に集まった。承輝が柚香に向かって二歩ほど歩き出す。だが、三歩目を踏み出す前に、康平と慎吾がすぐさま彼の前に立ちはだかった。進むのを阻むだけでなく、柚香の姿まで見えないようにする。「ただ、柚香にちゃんと謝りたいだけだ」承輝は一言一言、噛みしめるように言った。「謝ったら、そのまま自首する」「うちのお嬢様、耳はちゃんと聞こえてますから」康平は腕を組み、少しふざけたような口調で言った。「さっきの場所に立ったまま話しても、ちゃんと聞こえますよ」以前、柚香を襲った前例がある。そんな男を、お嬢様のそばに近づけるわけにはいかない。悪巧みをしているのは、見え透いている。もしかしたら、隙を見てお嬢
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第767話

「そんな……ありえない……」承輝は、目の前の光景を信じられない様子で見つめた。あまりにも短い距離だった。それなのに、あまりにも速かった。普通の人間に、あの刃を受け止められるはずがない。常和も驚きを隠せず、顔にはまだ動揺が残っていた。「君!なんて馬鹿なことをしたんだ!」承輝を助けるために、どう頭を下げて頼めばいいかまで考えていた。そのためなら、人に借りを作ることさえ厭わなかった。それなのに、まさかこんなことになるとは。「俺がこんなことをするのは、そんなにおかしいか?」承輝はすべてをぶちまけるように、常和を睨みつけた。「お兄さんが会社の経営権を息子に渡したから、俺はこんな惨めな立場になったんだろうが!」「会社の経営権は、取締役たちの投票で決まった。俺が勝手に決めたわけじゃない」まさか二十年以上経った今でも、まだそのことを根に持っているとは思わなかった。「自分の力不足を恨むんだな」「力不足、ね」承輝は笑った。常和は眉をひそめる。「じゃあ、どうして君が先代の黒崎グループを任されることになった?」承輝は一歩ずつ常和に近づいていく。「俺たち二人を比べたら、どう考えたって俺のほうが能力は上だろ。それなのに、どうしてお兄さんが選ばれた?ただ、お兄さんのほうが俺より二十年近く早く生まれたからか?」常和は、言いかけた言葉を失った。策を巡らせることなら、承輝のほうが上だった。だが、会社を長く続けていくことに関しては、自分のほうがずっと上だった。「今さらそんなことを言っても仕方がない」承輝の目つきが、ふっと険しくなる。「だったら、昔俺から奪ったものを、今度は返してもらう」そう言い終わると同時に、承輝は突然、常和の目の前まで迫り、ナイフを常和の首元に突きつけた。海外で追われていた一件のあと、帰国して真っ先に用意させたのがこのナイフだった。何かあったときに備えるためだ。「何をするつもりだ!」常和の顔に、初めて明らかな焦りが浮かんだ。柚香の目にも緊張が走った。まさか、こんな展開になるとは思っていなかった。「心配するな」康平が柚香に声をかけ、外へ視線を向けた。「何も起きない」「もうすぐ死ぬ身だ。何だってやれるさ」承輝は常和を押さえつけながら、最初から自分の目的を見失ってはいなかった。「今すぐ昭彦に電話しろ。俺に専用
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第768話

「当ててみろ」康平は答えなかった。啓介は興味なさそうに言った。「興味ない」康平は顎を上げ、承輝を指差した。「こっちは興味あるだろ」「蒼海市警察署の藤堂啓介です。こちらは逮捕状です」啓介は淡々とした口調で逮捕状を取り出し、承輝に見せた。「あなたには、違法な資金集めによる詐欺や手形詐欺など、複数の容疑がかかっています。これより法律に基づいて逮捕します。こちらの指示に従い、無駄な抵抗はしないでください」「来るな!」承輝は、呆然としている間に自分が警察に囲まれていたことに気づき、声を荒らげた。「それ以上近づいたら、こいつを殺すぞ!」啓介は承輝の後ろにいる警察官に目配せした。承輝がこれで相手をひるませたと思った、その瞬間だった。刃物を握っていた手を、背後から素早くひねり上げられた。同時に、真正面に立っていた啓介も動いた。その動きはあまりにも速かった。五秒もかからないうちに、承輝の手には手錠がかけられていた。「さすが啓介隊長」康平は親指を立てた。「仕事が早いな」「あなたたちの隊長は、三日後に蒼海市へ来る」啓介の話し方は、慎吾と同じように抑揚がほとんどない。ただ一つ違うのは、啓介には表情の変化があることだ。「彼女から伝言を預かっている。まだ終わっていない任務があるなら、急いで片づけろ」康平「……」慎吾「……」「この人、俺たちの隊長と知り合いなのか?」慎吾は無表情のまま尋ねた。康平「聞いたことないな」慎吾「隊長の出張先は機密だろ。どうしてこいつが知ってるんだ?」康平「一つ、大胆な推測がある」慎吾「言ってみろよ」康平は、啓介のすっきりとした顔立ちと、光を弾くような白い肌を見ながら言った。「まさか、隊長が言ってた『顔だけはやたら綺麗なのに、感情がまるでない、幼なじみであり宿敵でもある男』って、こいつじゃないか?」慎吾「隊長は、幼なじみの宿敵について『俗世離れしているかのように淡々としていて、繊細な心の持ち主』って言ってた。目の前のこの人と、確かに少し似てる」康平「だろ?」康平が言うと、慎吾も頷いた。二人の会話を聞いていた啓介は、表情を変えることなく、淡々と一言だけ告げた。「撤収する」警察官たちは承輝を連れて、その場を後にした。外へ連れ出される間も、承輝はずっと喚き続けていた。
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第769話

「これは個人的な仕事です」康平がすぐに説明した。「正式な任務とか、そういうのじゃないです」「じゃあ、二人が隊長に会ってから私に話して」柚香はあっさりと言った。康平と慎吾は頷いた。三人が話し終えたところで、リビングにまだ常和が座っていることに気づいた。常和は複雑そうで、申し訳なさそうな目で柚香を見ていたが、口を開いても一言も出てこなかった。しばらくして。ようやく柚香に声をかけた。「柚香……」柚香の態度は何も変わらない。「何でしょう?」「承輝があんなことをするなんて、俺は知らなかった」常和は本当に想像もしていなかったのだ。「すまなかった」「常和さんも大変だったでしょう」柚香は温かいお茶を一杯注いで差し出した。その口調はどこまでもよそよそしかった。「早めに帰って休んでください。承輝のことは、もう気にしなくていいです」常和は胸が詰まるような思いだった。もし承輝がここまで執念深い人間だと知っていたら、柚香を敵に回してまで彼を庇ったりはしなかった。せっかく少しずつ和らいでいた関係まで、こんなにこじらせることもなかった。「君が俺を恨んでいるのは分かっている」その瞬間の常和は、何歳も一気に老け込んだように見えた。「だが、君の父親は本当に君を大切に思っている。このところずっと、君のために俺と対立して、あちこちから証拠を集めて、君にきちんと説明しようとしていた。黒崎家に戻りたくないなら、それでもいい。だが、あいつとはちゃんとうまくやっていけないか?」ここまで来て、常和にはもう分かっていた。自分がこれまでしてきたことも、今していることも、あまりにも間違っていた。結末が決まってしまったのなら、せめて息子のためにできることをしてやろう。「他に用がなければ、もう帰って休んでください」柚香はその話題を避けた。「承輝が逮捕されたことは、もう黒崎家にも伝わっているはずです」常和は、柚香がそれ以上話すつもりがないことを察した。無理に話を続けようとはしなかった。「……分かった」「康平」柚香はいつものように淡々と指示を出した。「常和さんを送ってあげて」「送らなくていい」常和はさっきよりずっと疲れた顔をしていた。「車は外にある。自分で帰れる。今日は本当にすまなかった。まさか承輝が君にまで手を出すとは思わなかった」
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第770話

承輝の件が片付いたことで、黒崎家からこれ以上柚香を狙ってくる可能性は低いだろう。奏汰は典型的な遊び人で、陰で何か企むようなタイプでもない。表立った手なら、柚香も簡単に対処できる。ほかの人たちについては。常和が戻れば、おそらく片付けてくれるだろう。そうなると、残る危険は神崎家だけだ。承輝が警察に連行されてから三十分もしないうちに、神崎家にもその知らせが届いた。拓海は涼介を呼び、今回の件について話した。「承輝が逮捕されたっていうのは本当か?」「本当」涼介の顔からは、さっきまでの余裕が消えていた。「啓介本人が指揮を執っている」拓海は眉をひそめた。「この件を啓介が担当するとなると、厄介だな」啓介は蒼海市の名家・藤堂家の跡取りだ。藤堂家は四大名門には及ばないが、その地位は決して低くない。そのため、名家が絡む事件を扱う時でも、彼は一切手加減しない。ほかの相手なら、多少口を利いてもらったり、ツテを頼ったりすることもできる。だが、啓介にはそれが一切通用しない。あの男の頭にあるのは、法律と正義だけだ。「承輝が最終的にどうなるか、分かってるのか?」拓海が尋ねた。「判決が出るまでには、まだしばらくかかる」涼介が答える。「ただ、聞いた話では、承輝の罪状なら死刑になる可能性がかなり高い」拓海「?」拓海は理解できないという顔をした。「あいつがやったのは、せいぜい殺人未遂を依頼したくらいだろ?なんで死刑になる?」涼介は顔を上げ、薄い唇を開いた。「遥真が事前に承輝の犯罪の証拠を提出してた。具体的にどんな証拠なのかは、まだ分からない。でも警察にいる知り合いの話じゃ、罪状はかなり多いらしい。死刑は免れない可能性が高い」拓海の目が険しくなった。いろいろな可能性は考えていた。だが、まさか遥真が承輝をここまで追い詰められるとは思っていなかった。「お父さん」涼介は蓮司からあの話を聞いて以来、ずっと考えていた。「俺たち、もう柚香と争うのをやめないか?」拓海は涼介に目を向けた瞬間、表情をこわばらせた。「今、何て言った?」争うのをやめる?まさか、あれだけのものを全部ただで柚香に渡せというのか。あれは神崎家のものだ。どうして柚香に渡さなきゃならない。「承輝がどうなったか、お父さんも見ただろ。このまま争い続けたら、次
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