Lahat ng Kabanata ng 手遅れの愛、妻と子を失った社長: Kabanata 731 - Kabanata 740

816 Kabanata

第731話

柚香は少し迷った末、考えを巡らせてから口を開いた。「今、気分はどう?」「いいから、言ってみて」遥真は落ち着いた様子で、長い指を組んで膝の前に置いていた。「どんなことでも受け止められる。俺の打たれ強さがどれくらいか、君が一番よく知ってるだろ?」一番よく知っているからこそ、こんなことを聞いたのだ。以前、遥真は父親が約束を守らなかったことがあって以来、今もなお、約束を頑なに貫いている。もし、すべてを知ったら……「ほかのことなら、確かにあなたは打たれ強いと思う」柚香は、遥真がいろいろと考える時間を十分に与えながら続けた。「でも、今回のことをあなたが受け止められるかどうかは分からない。今までのどんなことよりも、あなたへの影響は大きいと思う。修司さんが私に見せた、あの写真以上に」遥真が顔を上げた。黒い瞳は、さっきよりもさらに深く沈んでいるように見えた。数秒の沈黙。そして、何かに気づいたように口を開く。「あのことと関係があるのか?」はっきりとは言わなかったが、柚香には分かった。「うん」「話して」声の調子は変わらなかった。けれど柚香は、遥真の指がわずかに強く握り込まれたことに気づいた。「この話が本当かどうかは、まだ分からない。修司さんから聞いたの」柚香は、それでも彼に伝えることにした。「千景のことは、あなたのお父さんが仕組んだ可能性が高い。彼が飛び降りたのは……」そこまで言ったところで、柚香の胸に不安がよぎった。遥真が口を開く。「俺のせい?」柚香は黙った。遥真の瞳が、さらに深くなる。「具体的に何があった?」「修司さんが言うには、千景が飛び降りる前に、お父さんが彼に会いに行っていたらしいの。話していた内容は、あなたに関することだったって」柚香は、自分の口からその残酷な真実を伝えた。「急いで俺を呼んで、修司からの電話にも出るなって言ったのは……あいつから聞いたら、俺が耐えられないと思ったから?」遥真はそのことを正面から考えようとはせず、むしろ柚香へと話を向けた。柚香は唇をきゅっと結んだ。遥真の声が低くなる。「今の君が本当はどう思ってるのか、教えて。今の俺には、それが大事なんだ」柚香は認めた。「……うん」「ありがとう」柚香は、お礼なんていらなかった。ただ、このことを乗り越えて、彼が無事
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第732話

康平はすぐにドアを閉め直した。「?」後からついてきた慎吾は、わけが分からないという顔をした。康平が急かす。「ほら、行くぞ行くぞ」慎吾は真顔で言った。「まだ社長に話してないだろ」「お嬢様は今、すごく大事な用事があるんだ。邪魔しないほうがいい」康平は二人の仲が進展したのだと勘違いしていた。「修司さんには、外で少し待っててもらえばいい」「?」慎吾の無表情な顔に、疑問符が浮かんだ。すごく大事な用事?青葉医療に誰かが大口の出資をするのか?それとも、また新しいプロジェクトでも始まったのか?「ぼーっとしてないで、行くぞ」康平が慎吾を軽く引っ張った。慎吾は思わず書斎の中へ目を向ける。ちょうどそのとき。書斎のドアが開き、黒のロングコートを着た遥真が出てきた。端正で気品のある顔には、何の感情も浮かんでいない。「これが、君の言ってた『すごく大事な用事』か?」慎吾が尋ねた。「お嬢様の身の安全に関わることだぞ。すごく大事なことに決まってるだろ」康平は大真面目に答えた。「この前、お嬢様を助けたのは誰だった?遥真さんが来てくれなかったら、俺たち二人だけじゃ、お嬢様を連れてあそこから出られなかったんだからな」慎吾は真顔で言った。「それも、君が弱すぎるからだろ」康平「……」慎吾「ちゃんと鍛えろって言われてるのに、全然やらないし」康平「俺は技術担当なんだよ」二人は、今の空気にはまったくそぐわない言い合いを始めた。遥真は二人の前まで歩いてきて足を止めると、黒い瞳を二人に向けた。「しばらくの間、柚香のことを頼む。何か必要なことがあれば、蒼海市の人脈や資源は好きに使っていい」「任せてください。お嬢様を守るのが俺たちの仕事ですから」康平が答える。慎吾も相変わらず無表情のまま、「はい」と答えた。「それと、しばらくは黒崎家と神崎家の動きに注意してくれ」遥真はできるだけ細かく伝えようとした。「それから、久瀬家も」康平と慎吾が同時に黙った。二人は顔を見合わせ、すぐに察した。「分かりました」遥真はまだ何か言おうとしたが、説明が足りなかったら困ると思い、結局ひと言だけ付け加えた。「残りは俺がまとめて、あとで資料にして送る」二人が頷く。遥真も頷き、そのまま立ち去ろうとした。「それと……」康平は、外で待っているもう
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第733話

「どうして俺に黙って残業代の話をしてるんですか?」康平が突然現れ、表情豊かに言った。「俺も混ぜてくださいよ」「下に行ったんじゃなかったの?」柚香が尋ねる。「二人とも車で行っちゃいました」康平は、金持ち兄弟がぶつかり合うところを面白がって見たかったのに、残念ながら見られなかった。「たぶん、場所を変えて話すつもりなんでしょう」柚香は「そう」とだけ返し、それ以上は何も言わなかった。それからしばらく、彼女はどうにも上の空だった。頭の中では、遥真がどれほど大きな影響を受けているのか、そればかりが気になって仕方がない。さっきは表情も声も、何もかもいつも通りに見えた。けれど、柚香は遥真のことをあまりにもよく知っている。だからこそ、あの落ち着いた態度が、自分を安心させるために無理して保っていたものだと、はっきり感じ取っていた。考えれば考えるほど、胸の中はかき乱されていく。そんな彼女の不安を断ち切ったのは、時也からの電話だった。「時也さん……」電話に出た柚香の声は、沈んでいた。「今、どうなってる?」帰り際の彼女の言葉がずっと気になっていた時也は、心配そうに尋ねた。「遥真は修司さんと会ったのか?あのことについて、何か話したのか?」「会ったよ」時也は一瞬言葉を止め、隣にいる凛音へ目を向けた。柚香は二人に余計な憶測をさせないよう、自分から話した。「二人が会う前に、私から遥真に話したの」「君……」時也の胸がざわつき、どうしても心配になってしまう。「遥真はどんな反応だった?」「表面上はすごく落ち着いてた。ごく普通のことを聞かされたみたいに」柚香は冷静に説明した。「さっき修司さんと一緒に出ていった。たぶん、ちゃんと事情を聞くつもりなんだと思う」「君は行かなかったのか?」柚香はスマホを握る手に力を込めた。「行かなかった」電話の向こうが沈黙する。時也は、遥真がこの件を受け止めるのがどれだけ難しいか知っているくせに、どうしてそばにいて支えてやらないんだ、と言いたかった。けれど、ふと考え直す。今の柚香と遥真には、もう何の法的な関係もない。そう考えれば、彼女がついて行かないのはむしろ当然だった。「二人が出て行ってから、もうすぐ三十分になる」柚香は何を言えばいいのかわからず、今わかっていることだけを伝えた。「今の遥真
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第734話

「柚香の立場になって考えたことはある?」凛音が口を開いた。時也は眉を寄せた。何を考えろというのか。「遥真が柚香を助けたのは、一つには過去のことを償いたかったから。もう一つは、柚香を取り戻したかったからよ」凛音は淡々と話した。「でも、柚香は遥真に何も求めてない。それどころか、以前のことで今もわだかまりを抱えてる。なのに、どうしてあなたの頼みを聞かなきゃいけないの?」「彼女は……」時也は言葉を濁した。「自分で飼っていた蛇に噛まれたとして、その蛇があとになって野生の蛇に囲まれていたら、助けに行く?」凛音がたとえ話をした。「それは違うだろ」時也は反論した。「違うわ。でも、そんなに大きな違いはない」凛音が言わなかったのは、柚香が遥真に手を差し伸べて立ち直らせたら、その先には、遥真が何としてでも柚香との復縁を求めてくる未来が待っているかもしれないということだった。柚香が遥真を立ち直らせられなければ、それは遥真にとってこの件が、かつての約束と同じくらい重いものだということになる。そうなれば、過去に受けた傷をもう一度えぐられるようなものだ。どちらに転んでも、柚香が望んでいる未来ではない。「遥真に元気になってほしくないのか?」時也が聞き返した。「立ち直れないなら、死んでもらうしかないでしょ」凛音は遥真の頑固さも、一度決めたことを曲げない性格も理解している。だからといって、彼がこのままずっと苦しみ続けるのを黙って見ているつもりもなかった。時也は一瞬言葉を失った。唇を引き結び、それから言った。「もういい。僕たちも様子を見に行こう」「行きたいなら一人で行けば」凛音はまたいつもの気だるげな様子に戻り、パソコンを持って立ち上がった。「師匠のところで、まだ片付けないといけないことがあるの」「さっきの僕の言い方、気に障ったか?」時也は少し申し訳なさそうにした。「考えすぎ」凛音はそれ以上その場に留まらず、車のドアを開けて降りた。時也は複雑そうな顔で彼女を見送り、何か言いかけたが、結局口にはしなかった。ドアが閉まった瞬間、彼は自分の頬を一発叩いた。遥真のために凛音を怒らせるなんて、自分は何を考えてるんだ!凛音の言う通りだ。遥真だって男なんだ。このことでいつまでも自分自身を苦しめ続けるなんて、あまりに
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第735話

「自分のために、ちゃんと休む時間は取ってるから」柚香はいたって冷静だった。体が何よりの資本だと分かっているからこそ、そう言うのだ。「ちゃんと頑張らなきゃ、みんなが目指してる年収二千万円だって実現できないでしょ」慎吾「それもそうですね」康平「じゃあ、あと二時間くらい残業を増やしてみたらどうです?」柚香は二人をちらっと見ただけで、何も言わなかった。二人は察して、そそくさと退散した。階下まで降りてから、二人は改めてこの話を始めた。康平は庭をのんびり歩きながら言った。「お嬢様がこうしてるのって、絶対、遥真さんの影響を受けたくないからだよな」「そんなの見れば分かるだろ」慎吾が言う。「短期間なら、せいぜい精神的に疲れるくらいで、体に大きな影響はない」康平は本気で柚香のことを心配していた。「でも、これが長期間続いたら、間違いなく体を壊すぞ」慎吾は彼を見た。「だから、君の提案はかなりいいと思う」康平はきょとんとした。「どの提案?」慎吾「もっと残業を増やすってやつ」康平「?」康平は慎吾の顔を何度も見た。「君、そんなやつだったのかよ」顎を撫でながら慎吾を呆れたように見つめる。その目はまるでろくでもない男を見るようだ。「お嬢様は、毎日ほんの数時間しか休めないようなスケジュールなんだぞ?そこからさらに二時間増やしたら、過労で倒れるんじゃないか?」「俺がそんな人間に見えるか?」慎吾は、自分がそんなふうに誤解されたことに不満そうだった。康平は彼をじっと見た。どう見てもそうだろ、と言わんばかりの顔だ。「俺が言った『残業』っていうのは、仕事の量を増やすって意味じゃない。スケジュールを組み直して、他の仕事の時間を減らし、毎日一時間は運動する時間を作るんだ」慎吾は冷静に説明した。「体力をきちんと維持できてこそ、今みたいな状況から受ける影響を少しでも減らせる」「結局、年収二千万円が欲しいってことだろ」康平はわざと意地悪く言った。「お嬢様が倒れるまで働かせても、自分だけは絶対に損したくないんだな」慎吾「俺は二十四時間、社長について仕事する。君はできるのか?」康平「当たり前だろ」慎吾「残業代はいらない」康平も張り合うように言った。「俺だっていらない」慎吾は続けた。「それに、俺の給料は半分でいいって
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第736話

まして、それが遥真が千景のことで柚香に背負わせた苦しみなら、なおさらだった。柚香が上に上がる頃には、遥真も自分の屋敷に着いていた。遥真と修司は、どちらも何も言わず、示し合わせたように中へ入っていった。遥真は修司を屋敷には連れて行かず、屋敷の隣にある別棟へ向かった。大きな窓の前に立ち、外に広がる緑を眺めながら言った。「何の取引をしたい?」修司から届いていたメッセージは、戻ってくる途中で見ていた。「君が柚香のところへ行ったのは、彼女に呼ばれたからか?それとも、自分から用があって会いに行ったのか?」修司はまだ、遥真が柚香のところへ行ったのが偶然なのか、それとも柚香に呼ばれたのか、判断がついていなかった。「君が口を出すことじゃない」遥真の表情は淡々としていて、よそよそしかった。柚香の前にいるときとはまるで違う。「それしか言うことがないなら、そこが出口だ。帰ってくれ」修司は遥真の隣まで歩いてきた。「会社の経営権を私に渡せ。そうしたら、千景が本当に飛び降りた理由を教えてやる」遥真は何も言わなかった。その場に漂う空気も、ひどく静かだった。「柚香から、私と話した内容は全部聞いてるはずだ」帰るときの遥真の表情を思い出しながら、修司はそう推測した。「君が経営権を渡してくれれば、私が知っていることを全部話す」「それは俺に頼んでるのか?」遥真はゆっくりと窓際の椅子まで歩いていき、腰を下ろした。その全身から、上に立つ者特有の威圧感が滲み出ている。修司は焦る様子もなく言った。「頼んでるのは、君のほうじゃないのか?」遥真は冷たく返した。「君に、俺が頼む必要がある?」修司はわずかに眉を寄せた。「切り札を出すのが早すぎたな」遥真は平然とした口調で言った。まるで、このことが自分に何の影響も与えていないかのようだ。「とはいえ、こんな大事な手がかりを柚香に教えてくれたことには礼を言う。おかげで、あのときからずっと引っかかっていたことを、どこから調べればいいのか見えてきた」修司の眼鏡の奥の目に、険しい色が浮かんだ。まさか遥真がこんな反応をするとは思っていなかった。普通なら、自分が何を知っているのか聞いてくるはずだ。「君が知ってることは、お父さんも知ってる」遥真は修司の考えを見透かしたように、はっきりと言った。「だったら、わざわざ君に聞く
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第737話

「こんなことをすれば、株主総会でいつでも社長を解任できるんだぞ」修司は続けた。遥真は脅しなど意に介さなかった。「どうぞ」修司は彼をじっと見つめた。なぜここまで何も気にしないのか、修司には理解できなかった。権力と金は、ほとんどの人間が追い求めるものだ。どれだけ多くの人間が、それを手に入れるために必死になって争っていることか。それなのに、遥真にとってはいつでも手放せる程度のものらしい。「家からも追い出されるぞ」修司はさらに脅した。「うん」修司は本当に彼のことが分からなかった。名家にとって何より大切なのは、家の名や家柄だ。こんなことまでして、本当に頭がおかしくなったのか?「俺は君とは違う。そんなもの、あってもなくても別にどうってことない」遥真は、簡単に何かに縛られるような人間ではなかった。「久瀬家から外されたって、自分で新しい道を切り開けばいい。久瀬グループがなくなったって、自分で会社を立ち上げればいい」彼はこれまで、久瀬グループの社長だとか、久瀬家の後継者だとか、そんな肩書きに執着したことは一度もなかった。そんなものはいずれ自分から手放すことになると分かっていた。自分の頭と力がある限り、どこへ行ったって成功できる。久瀬家など、彼にとっては一番最後に選ぶ程度のものだった。この考えを修司が知ったら、きっと怒りでたまらないだろう。自分が何よりも大切にし、手に入れたいと願っているものが、遥真にとっては取るに足らないものなのだから。「ほかに用がないなら、もう帰ってくれ」遥真はこれ以上、修司と話すつもりはなかった。「お父さんが柚香と陽翔を使って、君を脅してくるとは思わないのか?」修司は、遥真があまりにも無謀だと思った。「あのときお父さんの権限を奪って、何もできないようにしたとしても、あの人とあの連中との付き合いまで消えたわけじゃない。本当に柚香に手を出されたら、君が駆けつける頃には手遅れになるぞ」「君、そんな頭の回り方をする人間じゃなかっただろ」遥真は言った。修司は表情を変えなかった。「どういう意味だ」遥真は顔を上げ、修司と目を合わせた。「修司、君は焦ってる」修司の切れ長の目は深い闇をたたえていた。ほとんど感情を見せないその顔からは、何を考えているのか読み取れない。「俺がお父さんを潰すために久瀬家も久瀬グル
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第738話

「それなら、千尋が今どういう状況にいるのかを蓮司に伝えよう」このところ、遥真はかなり多くのことを把握していた。それでも恭介は心配だった。修司は決して甘い相手ではない。雅人もかなり手強い。もし二人が本当に手を組んだら、社長もかなり苦しい立場に追い込まれるだろう。だが、遥真はそんなことをまったく気にしていなかった。あらかじめ考えていた細かなことをいくつか康平と慎吾との三人のグループチャットに送って、柚香を守る際にはできるだけ気を配るよう伝えた。康平がそれを受け取ったとき、ちょうど慎吾と話をしていた。突然そのメッセージを目にして、なんとも妙な気分になり、思わず聞いた。【……ずいぶん細かいですね?】遥真【できるだけ、万が一のことが起きないように】慎吾【なんだか、後のことを託してるみたいですね】康平【そうですね】遥真【……】グループチャットが数秒間、静まり返った。そのあと、遥真からボイスメッセージが届いた。「少しくらい、俺の無事を願ってくれてもいいんじゃないか?」「どうか、すべてうまくいきますように」康平には何が起きているのか分からなかった。それでも、こんな大事な時期に、遥真が柚香のことをいったん置いて京原市へ戻るほどなのだから、よほど重要なことなのだろうと思った。「承輝の件は啓介に任せてある」遥真はさらに言った。「啓介が戻ってきたとき、俺がまだ家のことを片付け終えてなかったら、啓介が君たちと話をつける」康平もすぐにボイスメッセージで答えた。「問題ないです」遥真から、それ以上返事はなかった。慎吾はまだ、三人のグループチャットに流れているメッセージを眺めていた。「俺、やっぱり遥真さんのこの言い方も、この一連の動きも、どうしても後のことを託してるようにしか思えないんだよな」慎吾は康平に言った。「蒼海市の人脈も全部話をつけてある。俺たちがその人脈を使って悪さするかもしれないのに、よく平気だよな?」康平はあっさり答えた。「心配してないんだろ」慎吾「なんで?」康平「俺たち、彼に素性を洗いざらい調べられたんだぞ。今さら何を心配するんだよ」慎吾「……」確かにその通りだ。だが、それでも気になることはある。「でも、どうやって俺たちの正体を調べたんだ?隊長は、外からじゃ調べられないって言ってたのに」
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第739話

「最近、黒崎家から何か連絡はあった?」凛音が尋ねた。「ないよ」柚香は正直に答えた。「連絡が来ても、特に用事なんてないと思う」凛音は、常和が何としてでも承輝を連れ戻そうと動いていることを考えたが、結局そのことを柚香には話さなかった。今さら話したところで、何の意味もない。その日の夕方。常和が人を寄こしてきた。柚香を呼び出し、話がしたいという。柚香は特に深く考えず、承輝が以前したことについて、事情を説明したいのだろうと思った。二人はレストランの個室で会うことになった。柚香が中に入ると、常和は年長者らしい気遣いを滲ませた目で彼女を見た。「来たか」「お待たせしてしまって、すみません」柚香は礼儀正しく答えた。「こっちへ座りなさい」常和はメニューを彼女に渡した。「何か食べたいものはあるか、見てみなさい」柚香は丁寧に受け取り、ざっと目を通すと、すぐに彼の前へ戻した。「私は何でも大丈夫です。好き嫌いもあまりないので、お任せします」そう言われ、常和は店員に任せて、おすすめ料理を一通り注文した。時間はゆっくりと過ぎていった。料理が次々と運ばれてくる。常和は、時折ちらりと柚香へ目を向けていた。柚香は気に留めるつもりはなかったが、それでも視線には気づいていた。箸を置き、穏やかに口を開く。「まだ、どうして私を呼んだのか聞いていませんけど」「実は、大したことじゃない。ただ、今の君の具合がどうなのか、ちょっと気になってな」常和は少しずつ本題へと話を進めた。「承輝のやったことは、さすがに度が過ぎていた。兄である俺が、あいつをちゃんと叱れなかったせいだ」「常和さんのせいではありません」柚香は当たり障りなく答えた。「彼ももういい大人です。自分で何かをしようとしたら、常和さんが止められるわけないでしょう」常和はため息をついた。柚香はそれ以上、何も言わなかった。常和が承輝のために口添えをしようとしていることは分かっていた。あの日のことを、柚香は詳しく知らない。遥真が黒崎家の人たちにどう説明したのかも分からなかった。ただ、翌朝の食卓の空気を思い返せば、何かがあったことくらいは察していた。「柚香」常和は、まるで覚悟を決めたように呼びかけた。柚香はどこまでも落ち着いていた。「はい」常和は彼女の顔を見つめた。黒く澄んだ、濁り
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第740話

柚香は、あの日の夜、母が「ちょっと出かけてくるから」と言っていたことを思い出した。まさか、私のために文句を言いに行ってくれていたのか?「私が生きていられるのは、私を大切に思ってくれる人たちが必死になってくれたからです」柚香は少し顔を上げ、常和をまっすぐ見た。「承輝が手加減してくれたからじゃありません」常和は、一瞬言葉を失った。まさか、こんなにはっきり断られるとは思っていなかった。少し前までは、あれほど礼儀正しく接していたではないか。「もし承輝が何も悪いことをしていなくて、本当に潔白だったなら、遥真と母がどれだけ彼を追い詰めようとしても、どうにもできません」柚香は続けた。「あなたが私を呼び出したということは、それだけ承輝が実際に罪を犯したということですよね」黒崎家の力をもってすれば、たとえ遥真が本気で承輝を追い詰めたとしても、常和が全力で庇えば、承輝の命くらいは助けられる。それができなかったということは、自分を殺そうと人を雇ったこと以外にも、承輝はたくさんの問題を起こしているということだ。「確かに、あいつは罪を犯した。だが、俺もあいつには生きていてほしいと思っている」常和は、とうとう本音を明かした。柚香はきっぱりと言った。「あなたが望んでいる答えを、私から出すことはできません」常和「もし俺が頼んだら?」柚香「法の前では、どんな事情も通用しないことくらい、私よりあなたのほうがよく分かっているはずです」常和の胸が、ずしりと重くなった。これまでずっと、柚香は見た目も穏やかで、性格も優しく、話の分かる娘だと思っていた。すぐに承諾してくれないだろうとは思っていた。それでも、自分が説得すれば、少なくとも一度は考えてくれるだろう。あるいは、自分に相応の見返りを求めてくるかもしれないと思っていた。「君は、俺が君の父親に株を譲らせるのを邪魔したら困らないのか?」常和は仕方なく、別の手に出た。「俺が妨害すれば、君の父親はこれからいろいろと面倒なことになる。そのときになれば、黒崎家の株を手に入れようとしても、すべて水の泡だ」柚香は穏やかなまま答えた。「私は、黒崎家の株が欲しいなんて一度も言っていません」常和の鋭い目が、わずかに揺れた。「ずっと、そちらが無理やり私に押しつけようとしているだけです」柚香は、容赦なく事実を口
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