Lahat ng Kabanata ng 手遅れの愛、妻と子を失った社長: Kabanata 771 - Kabanata 780

814 Kabanata

第771話

「何事も絶対に不可能とは限らない」涼介は今、とても冷静だった。「一つ、ずっとお父さんに言ってなかったことがある。この前、お父さんに言われておじいちゃんに会いに行ったとき、俺、お兄さんにも会ったんだ」「蓮司に?」拓海は眉をひそめた。涼介は頷いた。拓海の胸に、嫌な予感がよぎる。「俺たちの計画を話したのか?」「話してない」涼介はいたって冷静だった。どうすれば父親が考えを改めるのかも分かっている。「でも、蓮司には気づかれた。それで、もしこのことで遥真に狙われるようになっても、自分は助けないって念を押された」「口ではそう言っただけだ」拓海はそう言って、わずかに表情を緩めた。「本当に見捨てるわけじゃない」涼介は、父親が楽観的すぎると思った。「もし、本当に見捨てられたら?」拓海の顔色が曇った。今日の涼介はいったいどうしたというのか。さっきから何かにつけて水を差してくる。承輝のことで、そこまで怖くなったのか?「お兄さんは昔から、お父さんやお母さんとはあまり親しくないだろ」涼介は家族の利益を守りたいと思っていた。だが、その利益のために家族の命まで危険にさらすくらいなら、そんなものはいらない。「お兄さんとお父さんたちの間に何があったのか、俺には分からない。でも、お兄さんが俺にあんなことを言った時は、本気だった」「怖くなったのか!」拓海の声に怒気が混じった。「そうだよ」涼介はあっさり認めた。「お父さんに危険な目に遭ってほしくない。俺だって、この家がバラバラになるのは嫌だ。前に俺が修司と話をしに行ったこと、覚えてるだろ?」拓海の顔はますます険しくなり、我慢も限界に近づいていた。「覚えてる」「その時、俺は修司に、遥真を一緒に潰すために手を組もうって持ちかけた。あいつが欲しがってるものを手に入れるのを手伝うってな」あの時のことは今でもはっきり覚えている。「修司は最後まで礼儀正しく接してくれたけど、明らかに俺を見下してる目をしてた」自分という人間を見下していたわけじゃない。自分ごときが遥真を相手にしようとしていること自体を、無謀だと思っていたのだ。食事の席が終わる時、修司はこんなことまで言っていた。「俺の弟は気性が荒い。兄の俺ですらあいつには敵わない。少しでも平穏に暮らしたいなら、あいつを敵に回さないほうがいい」あのとき涼介
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第772話

だからこそ、拓海は株を手放したくなかった。柚香に渡してしまえば、間違いなく自分を狙い撃ちしてくる。自分の部下を切って、柚香側の人間に入れ替えるに決まっている。「でも、もう一つ考えてみてほしい」涼介は頭の中を整理しながら、冷静に続けた。「もしお父さんが株を柚香に渡したら、おじいちゃんはきっとお父さんを見直す。遺産を分けるときだって、お父さんの取り分が減ることはないと思う」拓海は言葉を失った。祖父が持っているほかの証券会社やIT企業の株、それにさまざまな不動産。全部合わせれば、確かに途方もない額になる。「少し考えさせてくれ」「ゆっくり考えて」涼介はそれ以上口を挟まず、席を立った。「俺はおじいちゃんのところへ行ってくる」拓海は引き止めなかった。承輝の件は、拓海にとってかなり大きな衝撃だった。もともと涼介を呼んだのも、柚香を狙っていることを拓哉に擦りつけるための計画を考えさせるつもりだったからだ。計画は賢すぎてもいけないし、あからさまでもいけない。何しろ、拓哉はそこまで頭が切れるわけではない。それがまさか、こんな話になるとは思わなかった。涼介が実家に着くと、ちょうど拓哉と鉢合わせした。いつも通り謙虚で穏やかな様子の拓哉は、涼介に声をかけた。「おじいちゃんに会いに来たのか?」涼介は軽く頭を下げた。「おじさん」「柚香の最初の案件の入金はもう済んだんだろ?何か計画はあるのか?」拓哉が気にしているのは、そのことだけだった。「何のことを言ってるのか、俺にはわからないが……」「君たちが裏で何か企んでるのは知ってる。言いたくないなら、おじさんも無理には聞かない」拓哉は思っていた。拓海の性格を考えれば、柚香に株を渡すなんて、まずあり得ない。涼介はそれ以上何も言わず、二、三言葉を交わしただけで、そのまま和雄のいる部屋へ向かった。部屋に入った途端、和雄と執事の会話が聞こえてきた。「もう二日も経つのに、なんで柚香から電話がかかってこないんだ?」執事は答えた。「おそらく、和雄様に気を遣っているのではないでしょうか」和雄はわざと怒ったような顔をした。「もういい、もういい!縁起でもないことを言うな。あれだけのものを渡したんだ。安江だって、昔は私たちが仲良くしていた頃のことを思い出してくれるに決まっている」「
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第773話

前に戻ってきたとき、柚香は和雄から預かった箱を母に渡し、伝言を伝えた。あのとき母はそれほど気に留めず、「部屋に置いておいて」と言ったきり、それ以上は何もしなかった。そのため、今になっても柚香はまだ答えを知らない。「嫌よ」安江は淡々と言った。まるで過去に未練などないようだった。柚香は頷き、通話ボタンをスライドさせて電話に出ると、そのままスピーカーに切り替えた。電話がつながると、和雄の優しい声がスマホから聞こえてきた。「柚香、おじいちゃんが忙しいところ邪魔してないか?」柚香は穏やかに答えた。「大丈夫です」「それならよかった」和雄はほっと息をつき、続けておそるおそる尋ねた。「この前、俺が頼んだこと……どうだった?」「神崎家の本宅のほうが、ここの庭よりずっと手入れが行き届いてます。おじいちゃんは、やっぱりあちらで暮らしたほうがいいと思います」柚香は少し黙ってから口を開いた。あまりにもはっきり断るのは気が引けて、わざと遠回しに伝えたのだ。和雄「……」執事が小さく咳払いをした。その言葉が何を意味しているのか、誰にでも分かった。和雄は、あの厚かましい昭彦を思い出し、自分も真似してみることにした。「安江に断られたのか?」柚香は「はい」と答えた。和雄はさらに尋ねた。「今、君は安江と一緒にいるのか?」柚香は安江に目を向けた。母の目を見て、その意図を察すると答えた。「いますよ」「安江に代わってくれ」和雄は落ち着いた口調で言ったが、実際には椅子を握る手に無意識に力が入り、全身から緊張が滲み出ていた。「少し話したい」柚香はスマホを安江の前に置いた。安江は相変わらず冷たい態度だった。「何?」「安江、俺が柚香に渡した箱、まだ見てないんだろ?」和雄は、自分の娘がここまであっさり断るとは信じられなかった。安江は正直に答えた。「見てない」「一度だけでいいから見てくれ」「興味ない」和雄は娘が頑固なのを知っていた。だが、自分も負けないくらい頑固だ。「一度だけでいい。見たうえで、それでも俺をここに住まわせたくないっていうなら、もう何も言わない。約束する」安江の表情が、一瞬だけ揺らいだ。かつては堅苦しくて厳しかった父が、いつからこんなふうになったのだろう。「……お願いできないか?」和雄がここまで変わ
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第774話

「嫌よ」安江の態度は少しも変わらなかった。和雄は思わず涼介と執事に目を向けた。ここまできっぱり断られたのは、これが人生で初めてだった。それでも、気まずさを感じるどころか、自分が娘を深く傷つけてしまったからこそ、こんな結果になったのだと気づいた。もし傷がここまで深くなければ、安江の性格なら、とっくに許してくれていたはずだ。「俺は君と柚香と一緒に暮らしたい」和雄はさらに厚かましく頼んだ。「条件を言ってくれ」安江はもう話すつもりもなかった。「どんな条件を出されても無理。切るわね」そう言った安江は、本当にそのまま電話を切った。プツッ――通話が途切れた。柚香は母の決断に口を挟まなかった。箱の中から一つずつ品物を取り出して眺めていた。そこに詰まった昔の思い出を目にするほど、いつも以上に胸が痛んだ。「昔は、二人とも本当に仲がよかったんだね」安江はあっさり認めた。「ええ。あの人は私のことを『俺の自慢の娘』って言ってたわ」「いつから変わったの?」「あなたのおばあちゃんが亡くなった翌年」安江は、その頃のことをはっきり覚えていた。「周りの人たちの言葉で、あの人の考えが変わっていったの。私のことを自慢するたびに、『娘がどれだけ優秀でも何になる。どうせ将来は嫁に行くんだ』って言われて……それで、だんだん考え方がおかしくなって、周りの意見にも耳を貸さなくなった」柚香は母を抱きしめた。だからだったのだ。幼い頃から、母が自分に一番言ってきたのは「ちゃんと勉強しなさい」だった。それだけでなく、一人でも生きていけるように、さまざまな力を身につけさせてくれた。命の危険につながるかもしれないからと、金融や経営だけは学ばせなかった。それ以外は、何をしたいと言っても、母は全力で応援してくれた。乗馬、騎射、ダイビング……柚香がやりたいと思ったことは、何でもやらせてくれた。「私はもう大丈夫」安江は、それほど感情を揺らすこともなかった。もう、いろんなことを乗り越えてきたのだ。「蒼海市を出たばかりの頃は、確かにつらかった。でも、あなたが生まれてからは、そんなことを考えてる暇もなくなった。あなたはお母さんに、たくさんの幸せをくれたのよ」柚香は母を抱きしめたまま、笑った。「お母さんも、私にたくさんの幸せと自信をくれたよ」柚
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第775話

「今日のお母さんの機嫌はどうだ?」和雄は杖をつきながら歩き、まるで悪いことをして叱られるのを怖がっている子どものように、おそるおそる尋ねた。「いつも通りですよ」柚香は正直に答えた。「お母さんはもともと、あまり感情を表に出さないですから」和雄は頷いた。「そうだな。もし何かで機嫌を悪くするようなことがあったら、とっくに手を出してるか」柚香はそれ以上何も言わず、和雄と一緒に中へ向かった。二人が庭まで来たところで、ちょうど外へ出てきた安江と鉢合わせした。安江が口を開くより先に、和雄が言った。「玄関の前で柚香に会ったから、一緒に入ってきたんだ」「後ろの荷物は誰の?」安江の視線が、ボディーガードたちの持っているスーツケースに向いた。和雄は反射的に答えた。「柚香のだ」「?」柚香は首を傾げた。その場にいた全員も同じ顔をした。和雄自身も、さすがにこの言い訳では通らないと気づいたらしい。すぐに別の理由を考えた。「執事のだ。これからしばらく娘のところで過ごすらしくてな。ちょうど帰り道だったから、ついでに俺をここまで送ってくれたんだ」安江はスーツケースのブランドをちらりと見た。こんな高級ブランドのものを、執事は昔から好んで買うような人ではない。執事「私のです」安江「……」和雄は安江が何も言わないのを見ると、すぐに歩く速度を上げて中へ向かった。少しでも遅れたら、追い返されるかもしれないと思ったのだ。柚香は、まだ足元がおぼつかない和雄の姿を見て、慌てて声をかけた。「おじいちゃん、ゆっくり歩いてください。医者も、足はちゃんと休ませないとって言ってたでしょう……」「大丈夫だ」和雄はすぐに答え、柚香に止められる隙を与えなかった。「もうすっかり治った」和雄が足早にリビングへ入っていくのを見て、皆は思わず黙り込んだ。執事はボディーガードたちが持っているスーツケースをちらっと見てから、言いにくそうに尋ねた。「お嬢様、こちらの荷物も中へ運んでよろしいでしょうか?」安江は短く答えた。「ええ」ほかの者はさておき、この執事は、昔から安江のことをずっと気にかけてくれていたほどなくして、皆がリビングに集まった。期待を込めた目でこちらを見つめる老人を前にしても、安江は少しも動じず、淡々と尋ねた。「和雄さん、今日は何の用?」
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第776話

「ありがとう!」和雄はそう言うと、すぐに杖を手にして部屋へ向かった。二人がその場を離れると、柚香は少し意外そうに口を開いた。「お母さん」「何を言いたいのか分かってる」安江は、もう嫌なことを考えたくなかった。「あの人が住みたいなら、住ませればいい。私たちに迷惑をかけなければ、それでいいわ」柚香には分かっていた。母は、祖父が言った「人生の最後の時間」という言葉に心を動かされたのだ。たとえ過去に大きな衝突があったとしても。たとえ、今も解けていないわだかまりが残っていたとしても。それでも、血のつながりは母の決断や気持ちに影響を与えていた。かつて愛し、大切にして、心配してくれた人だからこそ、完全に冷たく突き放すことはできないのだ。一方、和雄はすっかり喜んでいた。ボディーガードたちが自分の荷物を部屋に運び込むのを見て、ずっと張り詰めていた気持ちがようやく落ち着いた。その直後、胸の奥からさらに強い罪悪感と後悔が込み上げてきた。あれほど多くの間違いを犯したのに、それでも安江は自分を受け入れてくれた。父親として、自分は果たすべき責任を果たせていなかったのに。「残りの荷物は、拓海様が昼頃に届けに来る予定です」執事が言った。「俺があのとき、君の忠告を聞いていれば、安江も柚香もこんなに苦しまずに済んだ」和雄は考えれば考えるほど後悔が募り、しまいには人生やり直しボタンが欲しいとまで思った。「二人との関係だって、こんなに遠いものにはならなかったのにな」「そういう話は、お嬢様本人にしたほうがいいですよ」執事は和雄にとって、まるで友人のような存在だ。和雄は頷いた。「その通りだな」執事は、二人の親子関係が以前ほど険悪ではなくなったのを見て、少しだけ安心した。「そういえば、安江と柚香は朝、何を食べるのが好きなんだ?」和雄は周りを見回しながら、真剣な顔で言った。「時間があるときに調べておいてくれ。分かったら、その料理が得意な料理人を探してくれないか。俺も習って、二人に作ってやりたい」執事「……」ボディーガードたち「……」和雄は不満そうな顔をした。「なんだ、その目は」「料理はやめておいたほうがいいでしょう。万が一、転んだり怪我をしたりしたら大変です」執事は念のためを考えて言った。「しばらくは、お嬢様に伝えたいことをちゃんと伝え
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第777話

拓海が当然、怖くないはずがない。だが、父を止めて行かせなければ、かえって反感を買うことも分かっていた。それより、父が行きたいと思っているときに支持してやり、いくつか注意点を伝えたほうが、むしろ好感を得られる。「娘の柚香が、もうすぐ神崎グループの二十パーセントの株を手に入れることを忘れるなよ」拓哉は真剣な顔で言った。「それで他の財産まで手に入れたら、神崎家じゃなくて橘川家になっちまうぞ!」拓海はごく自然に聞き返した。「橘川家になって何が悪い?」「……?」拓哉は信じられないものを見るような目で拓海を見た。冗談を言っているわけではなさそうだと分かると、もう取り繕う気にもならなかった。「君、頭おかしくなったのか?」「俺たちの母親だって、昔は苗字が橘川だっただろ」拓海は大真面目な顔で言った。その言葉からは、裏で何を考えているのかなど微塵も感じられない。「神崎だろうが橘川だろうが、俺にはどうでもいいことだ」拓哉は眉間にしわを寄せて拓海を見た。ほんの数日で、どうしてここまで人が変わってしまったのか理解できなかった。「俺の前でいい子ぶるなよ」拓哉は、あれほど利益に貪欲な拓海が、突然こんなに潔白な人間になるなんて信じていなかった。「君が何を考えてるかなんて、全部お見通しだ」「そうか。分かってるなら、何を聞きに来たんだ?」拓海は平然と言い返した。拓海の世代では、安江が頭一つ抜けていた。頭の回転も速く、あらゆる面でずば抜けた才能を持っていて、他の兄弟とは比べものにならないほどだった。その次が拓海だ。頭は悪くないが、そこまで切れるわけでもない。何かにつけて策略を使おうとはするが、緻密な計画を立てるだけの頭が足りず、結局は失敗することが多かった。そして拓哉に至っては、完全に後先考えず行動するタイプだ。「君、何か俺に隠してるだろ」拓哉は拓海と長年付き合ってきた。どんな人間なのかは、だいたい分かっている。「俺が知らないことを、何か知ってるんじゃないのか?」拓海は答えなかった。拓哉は両手を拓海の机についた。「拓海!」拓海は険しい顔で叱りつけた。「何をムキになってるんだ」「君が、柚香に株が渡っていくのを黙って見てるなんて、俺は絶対に信じない」この点だけは、拓哉も確信していた。「絶対、裏で何か企んでるだろ」拓海は相変わ
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第778話

柚香はあっさり頷いた。「分かりました」涼介は続けて尋ねた。「神崎グループを見に行ってみるか?」「大丈夫です。これからいくらでも時間はありますから」柚香は涼介にあまりいい印象を持っていなかった。「それより、前におじさんに頼んで調べてもらったこと、どうなりましたか?」「分かったよ。承輝に情報を流していたのは、神崎家の警備員の一人だった」涼介は真面目な顔で答えた。その表情には、少し重苦しさが滲んでいる。「そいつがこっちの人間を買収していた。今回のことは、俺たちの管理が甘かったせいだ」その答えは、柚香が想像していたものとほとんど同じだった。適当な人間を一人、身代わりに立てたのだ。「心配しなくていい」涼介は、相変わらず優しい兄のような顔を保っていた。「こういうことをうやむやにするつもりはない。もう警察に任せてある。必ず納得してもらえるようにするよ」柚香は「ありがとうございます」とだけ答え、それ以上は何も言わなかった。これがただの形だけの対応だということは、よく分かっていた。……その日の午後。蓮司が和雄の残りの荷物を届けに来た頃、柚香のもとに隣の市の病院から電話が入った。内容は、二期プロジェクトについて一度話し合いたいので、柚香に来てもらいたいというものだった。条件が合えば、その場でもう新たに契約を結ぶことになるらしい。柚香は迷うことなく了承した。安江と陽翔に話をしてから、慎吾と康平に荷物をまとめるよう伝えた。「明日には戻ってこられますか?」珍しく康平がそんなことを尋ねた。「たぶん無理だと思う」こういうことには、柚香もすっかり慣れていた。「食事をしながらの打ち合わせで二日はかかると思う。それに、契約を結んだ後の仕事もあるし。何か用事でもあるの?」康平と慎吾は顔を見合わせた。柚香が理由を聞こうとした、そのとき。数日前、啓介が承輝を逮捕したときに言っていた言葉をふと思い出した。「あなたたちの隊長って、明日には戻ってくるよね?」柚香が尋ねた。「予定通りなら明日には戻ります」康平は隊長の容赦ないやり方を思い出し、少し身構えた。「でも、今回どこかの現場に出てるのかどうかも分からないし、俺たちも連絡が取れないんです」柚香はいたって落ち着いていた。「大丈夫。プロダクトマネージャーを連れて行けばいいから
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第779話

「どうしたんですか?」康平が柚香の様子がおかしいことに気づき、尋ねた。「何でもない」柚香は気持ちを押し込み、それ以上考えないことにした。「行こう。隣の市へ」さっきの男が話していたことの多くは事実なのだろう。だが、遥真は基本的に理性的な人間だ。たとえ雅人を監禁して答えを聞き出そうとしていたとしても、自分を危険な状況に追い込むような真似はしないはずだ。柚香はあらかじめ用意していた車に乗り込み、康平がエンジンをかけて空港を出た。車がどんどん遠ざかっていく中、先ほど柚香の横を通り過ぎた男が引き返してきた。そして一台の黒いロールスロイスの前に立つと、窓越しに中へ向かって笑いかけた。窓が下がる。そこから姿を見せたのは、物腰の柔らかそうな修司の顔だった。「ご指示いただいたことは、すべて済ませました」有名メディア企業の社長である佐伯康弘(さえき やすひろ)が報告した。「さっき電話したとき、あの女性がすぐそばにいて、話は全部聞いていました」修司は眼鏡の奥の目を少しも動かさなかった。「そうか」康弘は探るように尋ねた。「遥真さんは、本当に雅人さんを監禁したんですか?」修司がちらりと目を向ける。「余計なことを聞きました!」康弘はすぐに謝った。こういう超一流の名家の事情に、軽々しく首を突っ込んではいけないことは十分に分かっている。「この数日は、用がなければ京原市にいてくれ」修司は焦る様子もなく言い、長い指で車の窓枠を軽く叩いた。「発表する必要がある情報が出てきたら、こちらから連絡する」「分かりました」康弘はすぐに返事をした。互いに察しのいい人間同士だ。その言葉に込められた意味を、すぐに理解した。修司は目を上げる。「正式に発表するまでは、外で久瀬家について根も葉もない噂を流す人間が出ないようにしてほしい」その声には、有無を言わせない圧があった。「ご安心ください。先ほど、何も聞いていませんから」康弘はすぐに態度を示した。修司はそれ以上、彼を見ることはなかった。窓が上がり、外とのつながりを完全に断つ。助手席に座っていた秘書が、少し心配そうに尋ねた。「彼にこのことを知らせて、本当に問題は起きないでしょうか?」「起きない」修司は手の中のスマホを弄びながら答えた。の目は、どこまでも深く、何を考えているのか分からない。
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第780話

康平はすぐに察した。「遥真さんのことですか?」慎吾も頷いた。「遥真さんですね」「……」柚香の目元に、少し迷いが浮かんだ。「そんなに分かりやすかった?」「自分を傷つけた人のことなら、お嬢様はいつも相手にするのも面倒だって、放っておくでしょう」康平はしばらく一緒に過ごしてきたことで、柚香のことをよく分かっていた。「お嬢様をここまで悩ませて、迷わせるのは、遥真さんしかいません」一度愛したから、心配になる。一度傷つけられたから、ためらってしまう。人の心の複雑さが、そのまま表れていた。「そうです」慎吾もはっきり言った。康平は柚香に代わって決断し、もっともらしい理由まで用意した。「隣の市での仕事が終わったら京原市を通ることになりますよね。遥真さんがお嬢様に贈った別荘があるって聞きました。よかったら、俺たちも連れて行ってもらえませんか?一度見てみたいです」柚香は少し黙った。慎吾が振り返って柚香を見る。ほんの一瞬で、柚香にも二人がわざと自分を京原市へ行かせようとしていることが分かった。「いいよ」もう逃げるのをやめた。「ちょうど俺も慎吾も、京原市ではまだ遊んだことがないですし」康平は、何をするにも決断が早い。「そのときはお嬢様は自分の用事を済ませてください。俺たちは二人で京原市をあちこち見て回りますから」柚香は頷いた。三人はすぐに隣の市へ到着した。その日の夜、責任者と食事をしながら話し合い、康平が終始柚香の代わりに酒を飲んでくれたこともあって、双方の話し合いは和やかに進んだ。週末には二期プロジェクトのおおまかな内容を詰め、月曜日には契約を締結した。すべてが驚くほど順調に進んだ。すべての用事を終えると、三人は京原市へ向かった。再びこの懐かしい場所へ戻ってきた柚香の胸には、さまざまな思いが入り混じっていた。柚苑の門前に立ち、どこまでも広がる緑と、その奥に見える建物を眺めているうちに、心の中で一つの決意がはっきりしていった。「柚香さん!?」門番をしていた二人のボディガードのうち、一人がひと目で柚香だと気づいた。「戻ってきたんですね!」「早く早く、このことを執事に知らせよう」そのボディガードが、隣にいたもう一人の門番に声をかけた。「厨房にも、美味しいものを用意するよう伝えよう」「柚香さん、今回は何
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