Todos los capítulos de 手遅れの愛、妻と子を失った社長: Capítulo 741 - Capítulo 750

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第741話

「じゃあ、承輝のことはどうするんですか?」執事が心配そうに尋ねた。「海外にいれば追われる身になるし、帰国すれば死刑になります」「別のところから手を打つしかない。遥真が調べ上げたあの資料を、別の人間に押しつけられないか探ってみるしかないな」常和は今も頭を抱えていた。「まったく、あの承輝は何を考えているんだ。俺に面倒ばかり持ち込んできおって」執事はため息をついた。しばらく考えた末、尋ねた。「本当に株を柚香に渡すつもりはないんですか?」「まるで俺に決める権利があるみたいな言い方だな」常和は今度ばかりは取り繕うことなく、率直に言った。「昭彦がこのところ何をしているか、君も見ていただろう。あいつが何をするかなんて、俺には止めようがない。それに、あの連中はみんなあいつの言うことを聞く」「それなら、柚香があんなふうに常和様に口を利けたのも、そこを頼りにしていたからかもしれませんね」執事が探るように言った。常和は眉を上げた。「さっきは、あの娘の言葉は本心だと言っていなかったか?」「もし、演技がうまかっただけだとしたら?」執事は答えた。常和は鼻で笑った。「昭彦と安江の子供が、そんなに演技上手だと思うか?」あの二人は、思い通りにならなければすぐ無茶をするような性格だ。そんな二人から、柚香のような優しい娘が生まれたこと自体、十分珍しいことだ。やはり、承輝のことは別の手を考えるしかない。「頼んでおいた相手には連絡したか?」常和が尋ねる。「連絡しました」執事が答えた。「向こうからは、ここ二、三日のうちに人を寄こして調べるとのことです」常和は重たく、複雑な気持ちで言った。「来る人間が頼りになるといいがな。安江が会社に不正アクセスして、あの資料を手に入れたことさえ突き止められれば、まだ話をひっくり返せる余地はある」ただ、安江のような人間が、そんな簡単に証拠を残すだろうか。柚香はそんな話がされていることなど何も知らず、レストランを出ると、慎吾と康平に付き添われて車に乗り込んだ。中へ入る前とほとんど変わらない彼女の表情を見て、何よりも噂話が好きな康平が尋ねた。「常和さんと何を話してたんですか?」柚香は車のシートに寄りかかりながら答えた。「承輝を助けてほしいって」康平はすぐに聞き返した。「で、条件は?」柚香は淡々と言った。「昭彦さ
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第742話

柚香「……」慎吾「……」二人とも、もう康平と話す気にはなれなかった。これで、柚香はもう誰も自分のところへ来ることはないだろうと思っていた。何しろ、黒崎家で最も年長の常和と直接話をしたのだ。ところが、月曜日に会社へ出勤すると、柚香はまた呼び出された。出社してすぐ、皆に仕事の指示を出し終えたところで、受付の人がやって来て、来客があると伝えた。「会いますか?」慎吾が尋ねると、柚香は淡々と言った。「行ってみる」ここは会社だ。まさか、堂々と人を襲うような真似をする人はいないだろう。二人が応接室へ向かうと、中には華やかな服装をした中年の女性が座っていた。顔を見た瞬間、柚香の頭には、以前母から渡された資料が浮かんだ。石川涼子(いしかわ りょうこ)。承輝の妻で、奏汰の母親だ。「あなたは?」柚香はあえて知らないふりをした。「来たのね」声を聞いて振り向いた涼子は、泣き腫らした目をしていた。「私は石川涼子。承輝の妻よ」柚香は彼女の向かいに腰を下ろし、軽くうなずいてから、淡々と尋ねた。「私に何の用ですか?」ドサッ!涼子は突然、柚香の隣で跪いた。涙が止めどなくこぼれ落ちる。「お願い。承輝の命だけは助けて。彼があなたに酷いことをしたのは分かってる。あなたがあのことでどれだけ傷ついたのかも分かってる。だから、その分は私が償う。お願いだから、彼を死なせないで」柚香は慎吾に目を向けた。慎吾はすぐに意図を察し、ためらうことなく涼子を床から引き起こした。「話があるなら、普通に話してください」柚香は彼女の行動に少し居心地の悪さを覚えた。「もう昔とは違うんですから、何かあるたびに土下座しないでください」「承輝の命を助けてくれるなら、一生土下座したって構わない」そう言うなり、涼子はまた床に跪こうとした。全身に力を込めて、何とか下へしゃがみ込もうとする。けれど、慎吾の力には敵わなかった。結局、土下座することはできなかった。柚香は冷静に彼女を見つめた。そして、あまりにも理性的で、かえって冷たく聞こえる言葉を口にした。「一生土下座されたって、私には何の得もないです。それどころか、私が人を力で押さえつけるような人間だと思われるだけですよ」「じゃあ、私はどうすればいいの?あなたが言うことなら何でもする」涼子の目には、まだ涙が
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第743話

「どうしたら、承輝を助けてもらえるの?」涼子はなおも柚香と話し合った。「時間を巻き戻して。私が神崎家を出るとき、彼が私にあんなことをしなかったことにしてください」柚香は答えた。「それができるなら、彼を助けます」涼子の目に浮かんでいた希望が、一瞬にして消えた。慎吾が彼女を連れて出ていった。応接室はすぐに静まり返った。柚香はそこに座ったまま、こめかみを揉んだ。頭の中がひどくごちゃごちゃしている気がした。ここしばらく、あまりにもいろいろなことが起きすぎて、何か大事なことを見落としているような気がしてならなかった。「受付に一言伝えておいたほうがいいんじゃないですか?これからは予約のない人は入れないようにするとか」慎吾は涼子を送り出して戻ってくると、心配そうに言った。「もし毎日のように黒崎家の人間が来たら、どうします?」「いいよ。別にあの人たちだって、そんなに暇じゃないでしょ」柚香は言った。黒崎家は曲がりなりにも蒼海市の四大名家の一つだ。さすがに毎日のようにここへ押しかけるほど、体面を捨てられるわけではない。来た人には受付で名前を書いてもらえば、それでいい。幸い、その後は一日中、誰にも邪魔されなかった。退勤間際、プロダクトマネージャーがこれからの仕事について報告に来た。「仕事は各チームのリーダーに細かく振り分けてあります。今月中には基礎モジュールまで完成できる予定です。こちらが計画表なので、ご確認ください」柚香は真剣に目を通した。それぞれのシステムの細かい機能まで明確に分けられていて、チーム同士の連携についても細かく書かれている。「この通りに進めて」柚香は彼に返した。「しばらく私は会社に来ないから、何かあったらいつでも電話して」プロダクトマネージャーはすぐに了承した。話が終わると、柚香はそのまま帰った。青葉医療は、母の株を取り戻すために受けている課題にすぎない。本当に向き合わなければならないのは神崎グループそのものと、株を買い戻したあと、それをどう運営していくかという問題だった。少し前、柚香は神崎グループの規模や主要人物の資料を頭に叩き込み、神崎グループ傘下の事業の構成や運営方法も把握した。さらに、それぞれの子会社についても一通り調べていた。これからは、自分自身を経営者として鍛えていかなければなら
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第744話

弟の考えていることが、どうしても分からないことが多い。今もそうだ。どうして理性を失わずにいられたのか、自分には分からない。普通なら、戻ってきてすぐ父のもとへ行って、あの時のことを問いただすのではないか……「柚香のほうは、何か手を打っておかなくていいんですか?」秘書は雅人から修司に任された仕事を知っていたため、自然と彼の負担を減らそうとした。「ちょうど遥真さんは蒼海市にいませんし、恭介たちも一緒に戻ってきています」修司は眉間を指で揉んだ。「しばらく彼女には手を出すな」遥真が戻ってきた以上、父と衝突するのは避けられない。そのときになれば、父親の関心は自分の利益と家全体のことに向くはずだ。柚香のことまで気にかけている余裕は、しばらくなくなる。そうなれば、自分まで責任を問われることはない。その後の二日間、遥真はいつもどおり久瀬グループに出社した。感情的になることも、変わった行動をすることもなく、まるで蒼海市へ出張に行って帰ってきただけのようだった。そして金曜日。遥真が久瀬グループに着くと、恭介がすぐに報告した。「社長、雅人さんから伝言です。今夜は本宅に戻って食事をするように、と」遥真は淡々と答えた。「分かった」恭介が尋ねる。「大輔と健太も一緒に呼びますか?」「いい。食事をするだけだ。まだ大げさにするようなことじゃない」修司と話したあと、遥真にはすぐに京原市へ戻って雅人を問いただしたいという衝動があった。もし何も話さないのなら、閉じ込めてでも一つずつ聞き出すつもりだった。だが、柚香のことも、陽翔のことも考えた。あの頃のように、何も考えず自分の気持ちだけで動くわけにはいかない。久瀬グループも今は安定していて、自分の気持ちだけで好き勝手に動けば、周りにも影響を及ぼすことになる。だからこそ、軽率に動かず、よく考えてから行動しなければならなかった。同じ頃、柚香のところにも和雄から食事の誘いが届いていた。電話越しに和雄から気遣う言葉をかけられ、柚香はもうすっかり元気になったと伝えた。「それならよかった」和雄はようやく少し安心したようだった。声には隠しきれないほどの心配がにじんでいる。「今回のことは、俺から黒崎家にきちんと話をつける。もしあちらが承輝を処分するつもりがないのなら、俺が自分のやり方で、君のた
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第745話

「柚香に会いに来てほしいなら、そう言えばいいだろ。なんで事の話なんかするんだよ」蓮司が和雄を心配しているのは本当だが、口が悪いのも本当だった。「彼女も大人なんだから、忙しいに決まってるだろ」和雄は奥歯をぎりっと噛みしめた。このガキ、一発ぶん殴ってやりたい。「おじいちゃんが病気になって、どこにも行けなくて退屈だから、君に会いたいんだって。来てほしいって言ってたよ」蓮司は和雄のスマホを手に取り、そのまま柚香に伝えた。「もし忙しいなら無理しなくていい。時間ができたときに来ればいいから」「この前まで元気だったじゃないですか?」柚香が尋ねた。「どこが悪いんですか?酷いんですか?」「たいしたことない。二日ほど点滴を受けたら、だいぶよくなった」蓮司は詳しいことまでは言わなかった。柚香の眉間に、自然と心配そうな色が浮かんだ。和雄は慌ててスマホを取り返し、柚香に気を遣わせまいとした。「ちょっと天気の変化に気づかなくて、風邪を引いただけだ。たいしたことはない。君は自分の用事を優先しなさい。気にしなくていい」「明日の午後、少し遅くなりますけど伺います」柚香は、和雄が自分のことを何かと気にかけてくれていることを考えると、明日は顔を見に行くことにした。「点滴が終わったら、ちゃんと暖かくしていてください。もう冷えないようにしてくださいね」和雄はたちまち嬉しそうな顔になった。「おう、分かった」柚香は小さく「うん」と返した。まだそれほど親しいわけではないから、どんな言葉をかければいいのか分からなかった。言葉にするより、行動で示すほうが柚香には向いていた。電話が切れると、和雄の笑顔はすっと消えた。隣に座る蓮司を、不機嫌そうに睨みつける。「誰がそんな余計なことを言えって言った?」「おじいちゃんが」「俺がいつそんなこと言った」「おじいちゃんの目がそう言ってた」蓮司は容赦なく見抜いた。「素直に頼むのが恥ずかしいのは分かってる。礼なんていらないよ」「……」和雄は黙り込んだ。ますます怒りがこみ上げてくる。蓮司は黒々とした目を祖父に向け、念を押した。「医者から、むやみに怒ったり興奮したりするなって言われてるだろ。今回どうして体調を崩したのか、忘れたわけじゃないよな」それを聞いた和雄はおとなしくなった。まさか自分の体が、ここま
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第746話

「点滴ももうほとんど終わってるし、俺は先に会社へ戻るよ」蓮司は立ち上がった。これ以上この話をするつもりはないらしい。「明日の昼飯が終わったら、俺が柚香を迎えに行く」和雄は不満そうな顔をした。「もう少しくらい、俺の相手をしてくれてもいいだろ」蓮司は淡々と答えた。「隼人を呼び戻すよ」「それはいい」和雄は即答した。「あいつはずっとべらべらしゃべって、ハエみたいにうるさいからな」「おじいちゃん、今の言い方はひどくない?」隼人の軽い声が、突然聞こえてきた。相変わらずどこかヤンチャな雰囲気をまとっている。「俺がハエなら、おじいちゃんは何なんだよ」蓮司「……」和雄「……」「そんなに俺に会いたくないなら、もしかして、お兄さんに嫁を探せって言ってるじいちゃんみたいに、今度は俺に『おばあちゃんを探せ』って言われるのが怖いのか?」隼人は祖父の隣に腰を下ろした。ゆったりした口調が、聞いているだけで自然と気持ちを和ませる。和雄は隼人を一言叱った。だが、隼人は懲りずにまたからかい始めた。二人が楽しそうに話しているのを見て、蓮司はもう口を挟むつもりはなかった。帰る前に、隼人に一言だけ言った。「おじいちゃんの点滴が終わるまで見ててくれ」隼人が顔を上げる。「お兄さんは一緒にいないの?」「いや。用事がある」「彼女探し?」蓮司「……」蓮司は冷たい目を隼人に向けた。「最近、暇なのか?」「暇じゃないよ」隼人は片手で頬杖をつき、少し首を傾けた。「おじいちゃんから任された仕事で忙しいんだ」蓮司「?」仕事?蓮司が聞き返すより先に、隼人は口元をわずかに上げて答えた。「お兄さんの彼女探しっていうSランク任務」蓮司は今度こそ本当に帰っていった。もう彼らと一言も話すつもりはないらしい。祖父のところへ来るたび、彼女を作れだの、お見合いしろだのと言われる。毎回同じことばかりで、いい加減うんざりだ。「いつ俺が君に、あいつの彼女を探せって頼んだ」和雄は怒ったふりをして隼人を睨んだ。「何でもかんでも俺を盾にするんじゃない」「兄の結婚のことは、もう急かさないほうがいいよ」隼人は隣にあったりんごを手に取り、少し不器用な手つきで皮をむき始めた。「すぐに嫁を連れて帰ってくるか、一生独身か。たぶん、そのどっちかだから」和雄は途
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第747話

「君のおじいちゃんって、普段は病院嫌いだろ?今回はどうして二日も点滴してるんだ?」拓海は隣にいる涼介に、感情の読み取れない声で尋ねた。「お兄さんが無理やり受けさせたんだ」涼介はごく自然に答えた。「おじいちゃんもお兄さんには逆らえなくて、仕方なく言うことを聞いたんだよ」拓海は何も言わなかった。涼介が横目で拓海を見る。「お父さんはおじいちゃんのところへ行かないの?お父さんと言い争ったせいで、あんなことになったんだし」「今は行かない」拓海は視線を戻した。その表情からは、何を考えているのかまるで読み取れない。「俺が顔を出したら、ここ二日の点滴が無駄になる。もう少し気持ちが落ち着いてからだ」「それもそうだね」涼介はそれ以上、その話には触れなかった。すると、拓海が涼介に言った。「君は顔を出してこい。蓮司も隼人も行ってるんだ。君まで行かないのはまずいだろ」涼介は頷いた。「分かった」拓海は「ああ」とだけ答え、それ以上何も言わずに背を向けた。まだ二歩ほどしか進んでいないところで、涼介に呼び止められた。「お父さん」拓海が振り返る。「おじいちゃんが倒れたのって、お父さんの仕業?」涼介はそう尋ねながら、拓海の目をじっと見つめていた。少しでも怪しい様子を見逃さないように。拓海の眉間にわずかな疑問が浮かぶ。「何の話だ?」「いや、何でもない」涼介はそれ以上追及しなかった。「おじいちゃんもあまり体が丈夫じゃないんだから、これからは何かあっても、ちゃんと話し合ってよ。前みたいにムキにならないでさ」「この前のことは偶然だ。あいつが柚香のことをあそこまで気にしてるとは思わなかった」拓海におかしな様子はない。「これからは気をつける」涼介は「うん」と答えた。拓海が促す。「ほら、行ってこい」涼介はそれ以上何も言わず、和雄のいるほうへ向かった。涼介が隼人の隣に座っているのを見届けてから、拓海は本宅をあとにした。その顔は、瞬く間に険しくなった。……その日の昼。柚香が昼食を食べ終えると、ちょうど蓮司がやって来た。相変わらず無口で、その整った顔はまるで凍りついたままのように、少しも表情が緩まない。柚香が口を開こうとするより先に、蓮司が言った。「用事があるなら先に済ませて。終わったら一緒に本宅へ行こう」「私一人で行けますよ」柚香が言
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第748話

「大丈夫ですか?」柚香の胸がきゅっと締まった。 「まあ、大丈夫だ」蓮司の口調は相変わらず淡々としていた。「このあと安静にして、あまり腹を立てなければ大したことにはならない。着いたら、君からも少し説得してくれると助かる」柚香は「はい」と答えた。蓮司自身、どうしてこんな気持ちになるのか分からなかった。ただ、朝に祖父が口にした「俺がいつか死んだら」という言葉が、なぜかずっと胸に引っかかっている。そのせいか、いつもより口数も多くなった。「おじいちゃんは、君のことを本当に大事にしてる」柚香は「分かってます」と答えた。「今回、おじいちゃんがあんなに怒ったのは、君がこんな目に遭ったのが、俺のお父さんとおじさんの仕業だと思ったからだ」蓮司は続けた。「お父さんが認めなかったから、二人で言い争いになった」柚香は目を見開いた。そんなことになっていたとは思わなかった。「できれば、着いたら『おじいちゃん』って呼んでやってほしい」そう言いながら、蓮司は柚香を見つめた。「その呼び方のほうが、何日も点滴を受けるより、よっぽど効くかもしれない」これまでずっと、祖父は体が丈夫だから大丈夫だと思っていた。けれど今回のことで、なぜか急に心配になった。柚香は唇をきゅっと結び、何も答えなかった。車はほどなくして神崎家に到着した。康平と慎吾はずっと二人の車の後ろについて、何かあればすぐ対応できるようにしていた。以前と同じように、柚香は和雄のためにいくつか手土産を用意した。柚香が訪ねていくと、和雄はちょうど顔なじみの老人二人と楽しそうに話していた。柚香の姿を見ると、皺の刻まれた顔に、隠しきれない喜びが浮かんだ。「柚香、来たのか!」「紹介しよう。こっちが俺の孫娘の柚香だ」「柚香、こっちは博之おじいちゃんと正志おじいちゃんだ」「博之おじいちゃん、正志おじいちゃん、こんにちは」柚香はにこやかに挨拶した。「おお、おお」池田正志(いけだ まさし)が嬉しそうに答えた。「和雄からさんざん話を聞いてたが、今日はようやく本人に会えたな」「私もおじいちゃんから、お二人のお話はよく聞いてます」柚香も今ではすっかり人付き合いにも慣れ、こういう社交辞令も自然に口から出てくる。「お二人とも囲碁がお上手で、字もとても綺麗だって言ってました」正志は目を
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第749話

「!!!」和雄、正志、博之の三人は、そろって固まった。柚香と慎吾、康平「?!」皆の顔には、驚きと疑問符が浮かんでいた。あまりにも意外な話に、誰もが驚きを隠せない。「でたらめを言うな!」正志が慌てて声を上げた。「朔也は小さい頃から恋愛経験だってあるんだ。湊人を好きになるなんて、ありえん」「俺が撮った動画がある。見るか?」蓮司はあまりにも落ち着き払っていた。正志と博之が顔を見合わせる。後者は険しい顔で、ひと言だけ言った。「見せろ」蓮司はスマホのロックを解除し、しばらく探してからようやくその動画を見つけた。再生ボタンを押してから正志と博之に差し出すと、スマホから二人の会話が流れてきた。朔也「こっち来い。俺にキスしろ……何逃げてんだよ」朔也「ノリ悪いな」湊人「消えろ」朔也「キスするだけだろ。服を脱がせるわけじゃあるまいし、そんなに嫌がることか?」画面の中では、朔也がふざけた様子で湊人を隅へ追い詰めている。一人は堂々と笑い、もう一人はあからさまに嫌そうな顔をしていた。肝心なところまで再生されそうになったところで、蓮司はすぐに動画を終了した。相変わらずの無表情で、淡々と言う。「この動画が本物か疑うなら、帰って朔也に聞いてみて。あいつ、何があっても認めないだろうけど」正志の顔色は最悪だった。それ以上に顔色がひどかったのは博之だ。正志を見る目は、今にも斬りかかりそうなほど険しい。「そんな目で見るな」正志はばつが悪そうにしながらも、強がって言った。心の中ではすでに、あの馬鹿孫をこっぴどく叱りつけていた。「おたくの湊人が本当に何かされたわけじゃないだろう」博之は鼻を鳴らすと、手を振ってその場を立ち去った。庭は一気に静かになった。噂話が気になって仕方ない和雄は、蓮司を見て尋ねる。「朔也は本当に湊人に気があるのか?」蓮司「……」「類は友を呼ぶって言うだろ」和雄は少し探るような、疑うような目を向けた。「まさか、君も……」その先は口にしなかったが、何を言いたいのかは誰にでも分かった。柚香は、さっき聞いた話から推測した。「さっきの動画って、たぶんいたずらか、ゲームに負けた罰ゲームなんじゃないですか?」和雄はまだ疑っている。「そうなのか?」蓮司「うん」和雄「じゃあ、どうして正志と博之に誤
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第750話

柚香は、彼の願いに応えた。「おじいちゃん」和雄は涙を浮かべながら笑った。「ああ!」「ちゃんと体を大事にしてください。そんな些細なことで腹を立てたり、無理したりしないでくださいね」柚香は心の中にあった警戒を少し解いた。「これからは、何度でも呼んであげますから」和雄は一瞬、言葉を失った。そして、柚香の気遣うような目を見て、少し複雑そうな顔をした。「君、全部知ってたのか」柚香は頷いた。「はい」「俺も君に何かあったと知ったのは、ほんの数日前だ。そうでなければ、すぐにでも黒崎家に話をつけに行っていた」和雄は申し訳なさそうに続けた。「本当なら、まず拓海と話をつけてから会いに行くつもりだったんだ。だが、まさかこんなに体が弱ってるとはな」蓮司がわざと隠していなければ、もっと早く知ることができたはずだった。それでも、結局のところ、祖父として柚香を気にかけてやれなかった自分が悪い。「蓮司さんも、おじいちゃんの体のことを考えてのことですから」柚香はそのことを特に気にしていなかった。「私のことだって、そんなに大したことじゃありませんから」和雄の胸には、ずっと罪悪感が残っていた。もしあのとき、周りの人間の言葉や偏見を信じていなければ、株は拓海の手に渡らなかった。拓海の手に渡らなければ、安江が神崎家を離れることもなく、柚香がこんな目に遭うこともなかった。考えれば考えるほど、あのときの自分が愚かだったと思えてくる。どうして周りの人間の言葉だけで、安江の価値を否定してしまったのだろう。その後、一時間以上にわたって、柚香は和雄と話をしていた。その様子を、祖父を訪ねてきた涼介が目にした。涼介は声をかけることなく、そのまま引き返して書斎へ向かい、蓮司を探した。「何か用か?」蓮司は誰に対しても淡々としていた。「柚香を連れてきたのは、お兄さんか?」涼介はいきなり本題に入った。蓮司は顔すら上げず、手元の仕事を黙々と片づけている。涼介の問いに答える気はなさそうだった。涼介は蓮司の性格をよく分かっていたので、単刀直入に聞いた。「株を彼女に渡すつもりなのか?」蓮司は手を止めた。その黒い瞳は、何年経っても溶けることのない氷のように冷たかった。「俺に用があるのは、その話だけか?」「お父さんが最近の君の行動をあまり快く思っていない
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