Lahat ng Kabanata ng 手遅れの愛、妻と子を失った社長: Kabanata 791 - Kabanata 800

814 Kabanata

第791話

メッセージを送ると、すぐに相手から電話がかかってきた。康平はすぐに電話に出た。「誰が作ったの?」向こうから、すぐに問いが返ってくる。「安江様の弟子、神代凛音です」康平は答えた。「ちょっと見せて」隊長は単刀直入だったが、声にはどこか気だるげで軽い調子が混じっていた。「ちょうど今、暇してるところだから」「電話番号を一つ送りました」康平はメッセージを送り、続けて説明した。「凛音がこの人のために、追跡を回避するシステムを作ったんです。今日中にこの人の居場所を特定できたら、つまり、そのシステムを破ったってことですよ」電話の向こうから、カチャカチャと何かを操作する音が聞こえてきた。しばらくして。隊長が少し驚いたように「あれ?」と声を漏らした。康平は運転しながら、口元に笑みを浮かべた。「思ってたより手強いでしょう?」「安江おばさんの弟子、なかなかやるじゃん」隊長はキーボードを叩きながら、パソコンの画面を食い入るように見ていた。康平「!」「ちょっと試してみる。結果が出たら連絡する」隊長はそう言うと、電話を切った。「安江おばさん?」柚香が不思議そうに聞いた。それなりに親しい間柄でもなければ、母親のことをそんな呼び方はしない。母がこんな人と知り合いだったなんて、柚香は知らなかった。「ゴホン」康平は、まさかこんなに早く関係を知られるとは思っていなかった。バックミラーを一度見てから、ようやく口を開く。「隊長の師匠が、昔安江様と知り合いだったんだ。二人はかなり親しい間柄だったらしいです」柚香は少し記憶をたどったが、母からそんな話を聞いたことはない。「もし隊長でも調べられなかったら、あとは勘で場所を探すしかないですね」康平は前を見ながら言った。柚香は「うん」と答えた。そしてスマホを取り出し、凛音にメッセージを送り、雅人名義の資産や不動産について調べてもらった。五分もしないうちに、凛音から一つの資料が送られてきた。柚香が受け取ると、すぐに凛音から電話がかかってきた。柚香がお礼を言うと、凛音は単刀直入に尋ねる。「これって、遥真の今いる場所を探すため?」「うん」柚香は隠さなかった。「遥真の性格なら、たとえ見つけて会いに行ったところで、素直に喜んだりしないよ。きっと冷たいことを言って、『余計なことするな
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第792話

柚香「ここだと思う」康平「ここだと思います」二人は声を揃えて言った途端、動きを止め、思わず顔を見合わせた。まさか、二人とも同じ場所を選ぶとは思わなかった。「せっかく息ぴったりで同じ場所を選んだんですから、最初はここから行きましょう」康平は相変わらず軽い口調で、場の空気を重くしない。「遥真さんの性格を考えれば、もし本当にここにいるなら、周辺にはきっと見張りを置いてるはずです」柚香は頷いた。その意見には納得できた。遥真は何をするにも用心深い。「お嬢様」康平の視線が柚香の履いているハイヒールに向く。「このあと、少し歩いてもらうことになるかもしれません」柚香が気にしているのは、ただ一つだった。「遥真の見張りを避けられる?」「俺だって、何年も隊長についてきたんですよ」自分が甘く見られたと思ったのか、康平は少し不満そうだった。「こっそり入り込むくらい、どうってことないです」「分かった」柚香は安心した。二人はすぐに出発した。二十分後、監視カメラもなく、人通りの少ない場所に車を停めた。少し離れたところに建つ別荘を見ながら、柚香は自信が持てずにいた。遥真が本当にここにいるのかは分からない。ここを選んだのも、ただ直感に頼っただけだった。同じ頃。遥真は部屋に座り、目の前に並べられた大量の調査資料に目を通していた。「社長」恭介がドアを開けて入ってくると、いつものように柚香について分かっていることをすべて報告した。「慎吾と康平は柚苑に戻りました。それから、柚香さんを連れて水沢家の本宅のほうへ向かっています」遥真は眉をわずかに寄せた。恭介は途中の道路で撮影された映像を何本か差し出した。「修司さんの人間が、ずっと二人を尾行しています」「修司は?」遥真の目が少し険しくなる。「一時間ほど前に柚苑を出て家に戻ってから、今まで一歩も外に出ていません」恭介は答えた。遥真は手の中のスマホを指先で弄びながら、重い空気をまとっていた。数秒ほど経ってから、ようやく口を開く。「千尋のほうはどうなってる?」恭介は答えた。「すべて準備できています」「そうか」恭介「……?」それだけ?柚香は修司の人間に尾行されている。もし修司が柚香に手を出したら、社長だって板挟みになるんじゃないのか?「ほかに何かあるか?」遥
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第793話

「どうやって説得しろっていうんだよ」恭介はさっきのことを思い出し、複雑そうに言った。「今の社長は、親友のためにけじめをつけさせることしか頭にない。それ以外のことなんて、もう何も入らないんだ」健太はさらに問いかけた。「じゃあ、柚香さんのことも、もう放っておくってこと?」恭介はしばらく黙ってから、口を開いた。「そう」「柚香さん!?」地下から上がってきた大輔の声が、突然響いた。驚きを隠せない様子で、「どうしてここにいるんですか!?」と声を上げる。恭介「!!!」健太「!!!」二人の体が一瞬固まった。反射的に玄関のほうを見ると、そこにはコートを羽織った柚香と、黒いカジュアルウェア姿の康平が立っていた。「ゆ、柚香さん?」恭介は本人だとわかった瞬間、頭の中が真っ白になった。そして、さっき健太と話していた内容を思い出す。「その……私たち、さっき……」何と言えばいいのか、分からなかった。どうしてここにいるのかと聞いても、探してここまで来たのは明らかだ。さっきの話を取り繕おうにも、今の社長がこれ以上関わるつもりがないのも事実だった。「おかしいなあ」大輔は正直者で、柚香と康平の周りを何度もぐるぐる回った。「別荘の周りには社長が見張りを配置してるんですよ。中に入ってきたら、絶対に気づかれるはずなのに」「康平が連れてきてくれたの」柚香がそう説明すると、全員の視線が康平に集まった。彼の素性は彼らもある程度知っている。よく考えれば、康平が柚香を連れて見張りの目をかいくぐってきたとしても、別に不思議ではなかった。「遥真は?」柚香は彼らを見つめて尋ねた。「ここにいるの?」ここへ来る前は、正直そこまで期待していなかった。もし誰もいなければ、次の場所を探せばいいと思っていた。けれど中に入ってから、何か所も隠れて見張っている人間を見つけたことで、柚香と康平はここで間違いないと確信した。ただ、遥真も雅人も姿を見せない。それだけが、柚香にはどうしても気がかりだった。「社長は……」恭介と健太は顔を見合わせ、言うべきかどうか迷った。話せば社長の命令に背くことになる。かといって、何も言わないのも後味が悪い。「雅人さんもここにいるの?」柚香がさらに尋ねた。「柚香さん、ここで起きていることはあなたには関係ありません」恭介は散々迷
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第794話

柚香が顔を上げた。ちょうど二人の視線がぶつかった。その瞬間、空気が静まり返った。恭介は二人に話があるのだと察し、康平と健太に目配せして、そっとその場を離れようとした。「誰が君たちに、彼女を中へ入れろと言った?」一瞬呆気に取られた遥真だったが、すぐにいつもの淡々とした態度に戻った。「誰かに入れてもらったんじゃない。私が自分で入ってきたの」柚香は遥真の視線をまっすぐ受け止め、よそよそしい態度に気づいた。「あなたが会いに来てくれないなら、私から来るしかないでしょ」遥真の心が、わずかに揺れた。柚香は彼をまっすぐ見て言った。「話したいことがあるの」「俺たちの間に、話すことなんてない」遥真は全身から、人を寄せつけない冷たい空気を漂わせていた。柚香はそのまま彼のほうへ歩いていった。遥真の横を通り過ぎるときも何も言わず、そのまま階段を上っていった。残された者たちは、息をするのもためらうほど緊張していた。しばらくして。遥真は振り返り、柚香のあとを追って階段を上っていった。やがて二階からドアの閉まる音が聞こえると、恭介と健太はようやく張りつめていた気持ちを緩めた。「元夫婦が会って話してるだけだろ。なんでそんなにビクビクしてるんだ?」康平は何事にも動じない性格で、半分冗談めかして言った。「遥真だって、まさか本気で君たちに何かするわけじゃないだろ」「それはそうだけど……社長が怒ったときは、やっぱり怖いんだよ」健太はまだ気が抜けない様子だった。「でも、どうして社長がここにいるって分かったんだ?」恭介は少し不思議そうに尋ねた。雅人は人知れずここへ移された。そのため遥真は、わざと別の場所に、かなり細かく調べなければ見つからないような手がかりを残していた。他の人間の注意をそちらへ向け、ここに辿り着かせないためだ。「ここが一番、人を隠すのに向いてるからな。万が一バレても、すぐに別の場所へ移せる」康平は答えた。周辺の道路には監視カメラがなく、分かれ道も多い。自分が同じことをするなら、ここを選ぶ。「でも、さっきは水沢家の本宅のほうへ向かってたんじゃないか?」恭介は部下から入ってきた情報をもとに言った。「十分前までは、あの車はずっとそっちへ向かってたはずなんだけど……」そこまで言ったところで、恭介はふと
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第795話

康平はきっぱりと言った。「俺は心配しないよ」恭介と健太は、そろって康平を見る。どうしてそこまで言い切れるのか分からない、といった様子だった。「喧嘩になろうがなるまいが、本当に困るのは遥真さんのほうだけだ」康平は事情をよく分かっていた。「お嬢様がここへ来たのだって、昔の情と、陽翔の父親だからって理由で、少し説得してみようと思っただけだ。もし説得できなかったとしても、お嬢様には何の損もない」何しろ、お嬢様は今、幸せで穏やかな生活を送っている。本当に話がまとまらなかったのなら、それはただ、遥真にはまだ乗り越えなければならない試練が残っているということだ。その頃、二階では沈黙が続いていた。ドアが閉まってから、二人は長いこと何も話さず、そこに座っていた。一人はさっきのこともあって、今は口を開きたくない。もう一人は、口を開けばきっと言い争いになると分かっている。時間だけが、少しずつ過ぎていく。十分経ったようにも、まだ数十秒しか経っていないようにも感じられた。重苦しい空気の中、遥真は柚香に視線を向け、よそよそしく淡々と言った。「俺を探しに来るなって言っただろ?」「あなたが、どうでもいい人のために自分を犠牲にするのを見たくないの」柚香は、自分がここへ来た理由を伝えた。「俺のことは放っておけ。今の生活を大切にしていればいい」遥真は柚香を見つめた。「ほかに用がないなら、恭介に送らせる」柚香は尋ねた。「雅人さんをどうするつもり?」遥真は答えなかった。「まず問い詰めて、もし認めたら法に従って裁かせる。認めなかったら、自分のやり方で友達の仇を取るつもり?」柚香は、遥真の考えを口にした。「そして、あなた自身のやり方っていうのは、雅人さんを自分の手で友達の家族のところへ送ることなんでしょ?」遥真の表情は変わらなかった。「もう話は終わった?」柚香は遥真を見つめた。「そんなことをして、本当に意味があるの?」「意味があるかどうかじゃない」遥真の口調は冷静で、淡々としていた。「誰だって、自分が犯した過ちの代償は払わなきゃいけない。法律で裁けないなら、俺がやる」「そうする自分を、義理堅くて格好いいと思ってる?」柚香は、普段は冷静で落ち着いている遥真の中に、こんなにも子供っぽい一面があるとは思わなかった。「千景が今のあなたを
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第796話

その言葉を聞いて、柚香はようやく、遥真が本気で決意を固めているのだと分かった。「このあと、君は蒼海市に帰れ。俺は京原市にいる」遥真は柚香との間に一線を引くように言った。「必要がなければ、もう会わなくていい」「あなたがどうしてもそうするなら、私も一緒にいる」柚香は自分の意思をはっきり伝えた。これまで、いろんなことを遥真が自分に付き添ってきた。だから今回は、自分が遥真に付き添いたいと思った。「必要ない」遥真は迷うことなく拒んだ。表情一つ変わらない。「俺のことは俺が片をつける。千景のことにも、他の人間が関わる必要はない」「じゃあ、最後の一線を越えないって約束してくれるなら、あなたと復縁するって言ったら?」柚香はふと、一つの答えを知りたくなった。それは、自分の決断を左右するかもしれない答えだった。「それでも断る?」遥真が考えている最後の一手。それは、雅人を千景の家族のもとへ送ることだった。雅人が憎むべき人間なのは確かだ。けれど、遥真のやり方はあまりにも過激で、極端すぎる。遥真の瞳が揺れた。唇が、きゅっと一文字に結ばれる。彼は長いこと黙っていた。外が少しずつ暗くなっていくほど、長い沈黙だった。普段の遥真なら、たとえ柚香が本気で復縁を望んでいるわけではないと分かっていても、迷わず受け入れていただろう。柚香がその言葉を口にしたということは、これまでのすべてを手放し、自分によって抱えた恐怖や不安を乗り越えて、もう一度自分を受け入れようとしているということだから。でも、今は……このすべてを、手放すことができなかった。水沢家と千景が雅人のせいであんなことになったと知った以上、彼らのために必ずけじめをつけなければならない。それに、水沢がいなくても柚香は幸せになれる。今は母親と昭彦がそばにいて、陽翔もいる。「もう決めた?」柚香は、彼に考える時間を十分に与えた。「これを言うのは、これが最後。そして、これっきりだから」「君は本心から俺と復縁したいわけじゃない」遥真はようやく口を開いた。自分の気持ちを優先して、答えを直接口にすることはしなかった。「俺は君の同情なんていらない。哀れまれるのも御免だ」「いつもそればっかり言うけど、結局あなたも受け入れてたじゃない」柚香は容赦なく言い返した。いくら優しく言っても聞く耳を
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第797話

「帰れ」遥真は視線を逸らすと、突然、ひどく冷たい態度を取った。「あなたは?」柚香は尋ねた。「俺のことに、君みたいな元妻が口を出す必要はない」遥真は初めて、柚香に対してきつい言葉を口にした。さっきの問いかけで、柚香が自分を選ぶとはっきり言わなかったことが、引っかかっていた。「こんなときまで意地張るの?」柚香は遥真のことをよく分かっている。だから、今の言葉がただの意地だということも分かっていた。遥真の目が、まるで知らない人を見るように冷たくなる。「自分を買いかぶりすぎじゃないか?」「本当にそんな言い方をするつもり?」「どう言えばいい?」柚香は真剣な顔で言った。「私はあなたと一緒に問題を解決するために来たの。それなのに、これ以上そんな嫌味な言い方をするなら、私は迷わず帰る。あなたが私を遠ざけようとしたことに、何か理由があったとしても」遥真はまた黙り込んだ。真っ黒な瞳が柚香に向けられ、唇がきゅっと結ばれる。「私がどんな性格か、あなたなら分かってるでしょ」柚香の言葉には迷いがなかった。いつもより、経営者としての強さが滲んでいる。「あなたが私を突き放すなら、私は本当に帰るよ」「帰りたければ帰れ」遥真の目には、少しの感情も浮かんでいなかった。「誰も止めない」柚香は立ち上がった。「本当に?」「本当だ」「後悔しない?」遥真の手が無意識に強く握りしめられる。それでも口から出るのは、彼女を追い返す言葉だった。「そんなに言うってことは、本当に俺と復縁したいのか?」柚香はもう遥真を見なかった。スマホを手に取ると、そのまま部屋を出ていった。すれ違った瞬間、遥真は反射的に手を伸ばして彼女を引き止めようとした。けれど指を開いたところで、思い直したように手を引っ込めた。カチャ――ドアが勢いよく開く。そしてすぐに、「バタン」と閉じる音が響いた。柚香はあっさりと出ていった。遥真にも、柚香が怒っていることは分かっていた。それでも今回は、彼女を追いかけて機嫌を取るわけにはいかなかった。雅人の件では証拠が見つからない。彼を罪に問う唯一の方法は、本人が警察に出頭することだ。だが、相手は雅人だ。何よりも面子と権力を重んじる雅人が罪を認めに行くはずがない。だから雅人が出頭しない以上、自分が千景の家族のためにけ
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第798話

「私、こういうの苦手なの。人見知りだし」隊長は言った。康平は口元を引きつらせた。「初日に俺たちの隊員全員を叱り飛ばした人が、人見知りですか?」隊長はしみじみと言った。「そうよ。こんなか弱くて繊細な女の子が、どうして知らない人に会いに行けるの?」康平は言葉を失った。昼に食べたものまで吐き出しそうだった。そんな康平を救ってくれたのは、慎吾からの電話だった。「はいはい、好きなだけ繊細ぶっててください。慎吾から用事です。じゃあ切りますね」「京原市のほうはもう大丈夫」康平が電話を切ったあと、柚香が口を開いた。「明日の朝一番で蒼海市に戻れるよ」「遥真さんのこと、まだ片付いてないでしょう?」康平が言う。「それはあの人の問題だから」柚香は、自分で言ったことを最後まで貫くつもりだった。「あの人が自分で解決するよ」康平は何か言いかけたが、結局、先に慎吾からの電話に出た。続きは戻ってから、ゆっくり話すつもりだった。三十分後。二人は慎吾と合流した。乗ってきた車も路肩に停め、専門の業者に連絡して引き取ってもらった。慎吾はまず柚香に挨拶してから、助手席でだらしなく座っている康平を見た。「遥真さん、見つかった?」「戻ってから話す」康平は、今の柚香がこの話をあまりしたがっていないことを分かっていた。慎吾もそれ以上は聞かなかった。柚苑に着いた頃には、夜の七時を少し過ぎていた。執事はすでに豪華な夕食を用意させていた。食事中、柚苑の使用人たちは何度も柚香に視線を向けていた。柚香が遥真を見つけたのか、気になって仕方がないのが見て取れる。けれど柚香は話すつもりなどまったくなく、食事を終えるとそのまま二階へ上がっていった。明らかに元気のない柚香を見て、慎吾は夕食を終えると康平を庭へ連れ出して尋ねた。「遥真さん、見つからなかったのか?」康平は二階を見上げ、これまでのことを話した。「二人が具体的に何を話したのかは知らない。でも、うまくいかなかったのは間違いない」康平は続けた。「お嬢様は明日の朝一番で蒼海市に戻るって言ってる。京原市のことはもう放っておくつもりみたいだ」「じゃあ、蒼海市に帰ろう」慎吾は即答した。康平は目を丸くした。「……?」少し意外そうに尋ねる。「二人の仲を取り持とうとは思わないのか?」慎吾は
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第799話

柚香は部屋に戻ると、簡単にシャワーを浴びた。浴室から出ると、スマホに時也からの着信履歴が一件残っていることに気づいた。髪を乾かしてから、折り返し電話をかける。すぐに相手が出た。「休んでた?邪魔しちゃったかな」「まだ寝るには早いよ」柚香はガラスの引き戸を開け、床から天井まである大きな窓の前に立った。「どうしたの?」「いや、たいした用じゃないんだけど。遥真の居場所、何か分かった?」時也は一日中探し回っていたせいで、かなり焦っていた。「いろんなところを探したけど、全然見つからないんだ」「会ったよ」「!!!」時也は驚いた。慌てて尋ねる。「どこにいる?話はどうだった?」「久瀬家の本宅から南東へ三キロくらいのところ」柚香は淡々と答えた。「あとで住所を送るね」時也は数秒、黙り込んだ。もし柚香と遥真が話し合ってうまくいっていたのなら、わざわざ自分に住所を教える必要なんてない。「遥真が、君の言うことを聞かなかった?」「誰の言うことも聞く気がないみたい」柚香は事実をそのまま伝えた。「雅人さんのことは、もう何があっても自分のやり方でやるつもりだよ。時也も説得しに行かないほうがいい」「でも……」時也は言葉を濁した。「行ったら、修司さんの人間に見つかるよ」柚香は事情を隠さず、すべて時也に話した。あとは時也自身がどうするか決めればいい。「遥真が意地を張って突っ走るなら、もう好きにさせるしかないよ」時也はまだ何か言いたそうだった。けれど、柚香が遥真を見つけ出したうえ、説得までしに行ったのだ。そこまでしてくれた彼女に、これ以上何かを求める資格はない。「じゃあ、これからどうするつもり?」「蒼海市に帰る」柚香はもう決めていた。言うべきことは、すべて伝えた。そのために、今までなら絶対にしなかったほど大きな譲歩までした。それでも遥真は聞き入れなかった。なら、もうこれ以上は関わらない。凛音が言っていたように、本人が感情に任せて突っ走りたいのなら、好きにさせればいい。何か起きたとしても、自分で責任を負えばいい。人は誰だって、自分の意地やわがままの代償を、自分で背負わなければならない。それに。修司が欲しいのは、ただ権力だけだ。「それもいいと思う」今回は時也も、柚香の決断に口を挟まなかった。「帰った
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第800話

「帰ってきた?」修司は二階から降りてくると、冷えて少し赤くなった千尋の顔を見て、気遣うように尋ねた。「今日はずいぶん遅かったな。何かあったのか?」「主演二人の調子が悪くて、何度かNGが出ちゃって」千尋はバッグを置きながら、首に巻いていた白いマフラーを外した。「気づいたら二時間以上も遅くなってた」修司は彼女の耳元にかかった髪をそっと整えた。「一つ、君が知りたいと思っていることがある」千尋はいつものように大人しく振る舞った。「何?」「柚香が京原市に来ている」修司の温かな指先が耳元から頬へと滑り、その視線は白い肌にほんのり赤みが差した彼女の頬から離れなかった。「弟に会いに来たの?」千尋はごく自然に尋ねた。修司は彼女の表情を少しも見逃さない。「ああ」千尋は頷いた。それ以上は何も聞かなかった。「君、ずっと柚香に会いたがっていただろ?」修司はさらに彼女との距離を縮めた。「こんなに近くにいるのに、話してみたいとは思わないのか?」「私、柚香とはそんなに親しくないから」千尋はあくまで自然に答え、少しもボロを出さなかった。「いきなり会いに行ったら、失礼かなって」「そうか?」修司は言った。千尋は「うん」と頷いた。「それならいい」修司は彼女の顔から手を離した。口調は穏やかだったが、そこには釘を刺すような響きがあった。「前に言っておいたことを、忘れたのかと思ったよ」「そんなことないよ」千尋は彼の機嫌を損ねないよう、聞こえのいい言葉を返した。「あなたの言ったことは、全部ちゃんと覚えてるよ」修司はそれ以上何も言わなかった。千尋が演技をしていることくらい、彼には分かっている。それでも、彼女が大人しく自分のそばにいるつもりなら、一生演じ続けてくれても構わなかった。「来週から撮影で別の街に行くの」千尋は正面からぶつかりたくなかったので、どうでもいい話を修司に伝えた。「たぶん、毎日は帰ってこられないと思う」「いいよ」修司はまったく気にしていなかった。「君の心がここにあるなら、それでいい」来週には、父親の件もほぼ片がつく。そうすれば、この後始末もきれいに済ませられる。それに、千尋についても。彼女の身の回りにいるボディーガードもアシスタントも、すべて自分の人間だ。だから、彼女が裏で何か企んでいるはずもない。彼女の命綱は自分の
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