Alle Kapitel von あざとい女に夫も息子も夢中!兄たちが出動!: Kapitel 321 – Kapitel 330

366 Kapitel

第321話

「番組より君の方が大事に決まってるだろ?俺はただお見舞いに来たかっただけだ」杏奈も、ずっとライブ配信を追いかけていたから、克哉は汐梨と無事にペアが組めて、番組では仲が良さそうに見えたと思ったけど……どうして今は、こんなに落ち込んでいるんだろう?そう思って、杏奈は、啓太と目配せした。彼女は克哉に尋ねた。「どうしたの?彼女へのアプローチ、うまくいってないとか?」「それどころじゃないよ!」すると、克哉は、杏奈にそう聞かれるのを待っていたみたいだった。彼は椅子を持ってくると、ベッドのそばに腰掛けた。その目は少し怒っているようでもあり、助けを求めているようでもあった。「この前あげたサングラス、彼女がよく着けてるからプレゼントを気に入ってくれたんだと思ったんだ。それでどうなったと思う?」杏奈は少し考えて、探るように言った。「彼女、そのサングラスしか持ってなかったとか?」それを聞いて、克哉は固まって、不満そうな顔で杏奈を見た。「なんで分かったんだよ?」「その表情を見てたら、あなたが思ってるのとは違うんだろうなって。だから、そっちの方向で推測してみただけ」杏奈は笑って説明した。すると、克哉の表情はさっきよりずっと暗かった。彼はうなだれていて、テレビで見る自信満々のトップ俳優の姿とは全然違っていた。杏奈は、そんな克哉の肩をポンと叩いた。「女の子を口説くには辛抱強くする必要があるのよ。まあ、諦めるなら、今の話は聞かなかったことにして」「誰が諦めるって言った!」克哉はムキになった。「やっと彼女を見つけられたんだ。諦めるなんて、絶対にありえない!たかがサングラス一つで何だって言うんだ?ただの話題作りだろ?見てろよ、今は見せかけでもそのうち現実に変えてやるからな!」その突然のやる気に、杏奈と啓太は二人とも驚いてしまった。そして、そう言い終えると、克哉は杏奈の肩をポンと叩いた。「杏奈、ここ数日はお見舞いに来られないけど、君が元気になったら、彼女を連れて会いに来るからな!」それから、克哉が大股で病室から出ていく姿を見送りながら、杏奈は、彼がお見舞いに来ないからといって、自分をないがしろにしているとは思わなかった。むしろ、克哉と汐梨の間に何があったのか、ますます気になってきた。彼女は啓太に尋ねた。「
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第322話

一方、真奈美は逃げるようにホテルへ戻った。そして、ホテルに入った途端、竜也と鉢合わせした。竜也は彼女のただならぬ様子を見て、眉間にしわを寄せた。「どこへ行ってたんだ?今夜、京市に戻るから準備しろって言っただろ。荷造りは終わったのか?」だが真奈美はまだドキマギしていたので、竜也の顔を見ると、思わず彼の胸に飛び込んだ。竜也は一瞬、きょとんとした。そして、腕の中で彼女が震えるのを感じて、彼はやはり抱きしめ返してあげると、声を少し和らげて聞いた。「一体、何があったんだ?」一方、真奈美は竜也の胸の中で首を横に振った。「竜也さん、今すぐ帰ろう。それで、戻ったらすぐに結婚しよう、ね?」「結婚」という言葉を聞いて、竜也は思わず眉をひそめた。「真奈美、言っただろ……」「おじいさんの喪に服すとか、そんなことで誤魔化さないで!式は挙げなくても、先に入籍はできるじゃない。それともまだお姉さんのことが吹っ切れていないの?」「真奈美!」真奈美が突然ヒステリックに叫んだので、竜也は不快になった。いつもは聞き分けのいい彼女が、急にわがままになったように感じたのだ。竜也はそういうのが嫌いだった。しかし、竜也にきつく言われて、真奈美は急に泣き出してしまった。「竜也さん、ひどい!私と関係を持ったくせに、責任を取るって言ったじゃない!なのに結婚の話になると、あれこれ言い訳して……責任取りたくないならはっきり言ってよ。私だってあなたにこだわるつもりなんてないんだから!」竜也は口を開きかけたが、真奈美の訴えに、何も言い返せなかった。竜也がなかなか答えないので、真奈美は彼の腕を強く振り払った。「もう分かったわ。もう、二度とあなたの前に現れないから!私たち、もう終わりにしよう!」そう言って、真奈美は背を向けて、その場を去ろうとした。しかし、竜也は少し焦っていた。彼はとっさに真奈美の手を掴んだ。「真奈美……んっ……」竜也が何かを言う前に、真奈美がその勢いを利用して向き直り、彼の唇を奪った。すると、竜也は、思わず彼女を突き放そうとした。しかし真奈美は、さらにきつく体を押し付けた。彼女が何かをしたようで、すぐに竜也の情欲に火がついてしまったのだ。こうして、服が一つ、また一つと床に散らばり、すでに乱れていた部屋を、
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第323話

「この子の言うこと、でたらめですよ。私のスマホであなたの写真を見たことがあるだけですから」すると、受付の子はすぐに口を尖らせた。「松浦さん、ひどいじゃないですか!鈴木さんの前で、デキる子だっていいとこ見せたかったのに」「ダメ」そう言われて、受付の子はがっくりと肩を落として、持ち場に戻っていった。それを見て杏奈は笑いながら睦月に目を向けて言った。「あなたみたいな、可愛い子を雇ったんですね」「私を可愛いなんて言わないでくださいよ。私はクールな女なんですから!」それを聞いて、杏奈はくすっと笑った。一方、啓太は電話に出ると、用事で届け物をしに行くことになった。「すぐに戻るから、ここで待っててくれ」「分かったわ。いってらっしゃい」啓太がいなくなると、睦月は笑いながら杏奈に視線を向けて、そのまん丸な瞳で、杏奈の顔をじっと見つめた。N市に来てからの杏奈は、たっぷりの愛情に包まれているおかげか、顔色もよくて、京市にいた頃よりもずっと元気そうに見えたのだ。そう思って、睦月は感慨深げに言った。「これからが、本当の人生の始まりって感じですね」杏奈は、彼女が言わんとしていることがよく分からなかった。だが、睦月はそれ以上続けずに、またすぐに話を変えて言った。「そう、この前教えてもらったデザイナーですけど、もう連絡してみました。二人ともまだ無名ですが、経験豊富でセンスもあるみたいです。試しにデザインを頼んだら、ちょうど一人が今日持ってくることになっています。あなたも見てみてくださいね」杏奈はうなずいた。すると、睦月の言葉が終わるか終わらないかのうちに、メガネをかけた中年男性が店の入口に姿を現した。受付の子が睦月に言った。「松浦さん、藤田さんが来ました!」「あの人ですよ。ちょっとここで待っていてください」睦月は杏奈にそう言うと、急いで藤田崇介(ふじた たかゆき)のもとへ歩いていった。そして、遠くで睦月は崇介と何か話した後、彼をこちらへ連れてきて座らせた。崇介は40歳くらいで、整った顔立ちをしていた。ただ、その目にはどこか孤高のプライドが宿っているように見えた。いかにも芸術家といった雰囲気だ。彼は杏奈を一瞥すると、手に持っていた丁寧に包まれたデザイン画を睦月に手渡した。睦月はすぐに包みを開け
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第324話

すると、崇介はさらに顔をしかめた。彼は睦月を指さし、「一体、どっちがオーナーですか?」と言った。睦月は、杏奈を指差した。「彼女がオーナーで、私は株主、今は採用を担当しています」それを聞いて、崇介は鼻を鳴らした。「採用担当の方が、専門外にもかかわらず、俺のデザインにあれこれ口出しするなんて、本当によくそんなことが言えますね」そんな崇介の遠慮のない物言いに、睦月の顔はみるみるうちに青ざめていった。睦月は短気なほうだ。今にも怒鳴りつけようとしたが、杏奈がそっと彼女の手首を掴み、落ち着かせるように目配せした。「私に任せてください」睦月はそれでようやく胸の怒りを抑え、崇介をキッと睨みつけてから、受付の方へ歩いて行った。崇介は向き直り、手に持っていたデザイン画を杏奈に差し出した。「あなたがオーナーなら、さっきの専門外の方とは話が違いますよね?このドレスは、ここ最近で一番の出来です。レトロな雰囲気のラインを基調にして、色使いにも俺なりの考えがあります……」崇介は自分のデザイン画について語る時、自信に満ち溢れ、その説明は理路整然としていた。まるで自分の作品が世界一だとでも言いたげな様子だった。しかし、杏奈はデザイン画を受け取ると、まず崇介に自己紹介をした。「藤田さん、こんにちは。まず自己紹介をさせてください。私は鈴木杏奈、デザイナーです。この仕事を始めてまだ日は浅いですが、京市のデザインコンペで優勝した経験もあります。師匠は著名なデザイナーの池田正人さんで、金田服飾ブランドとも何度かお仕事をご一緒させていただきました」杏奈の経歴を聞いて、崇介の目が輝いた。正人のことは知っていた。すごいデザイナーだ。それに金田服飾は国内外で超有名なブランドでもある。その一瞬で彼は、杏奈に敬意を抱くようになった。一方、杏奈はデザイン画にじっくりと目を通し、それから崇介に返した。「このデザイン画を拝見しただけで、藤田さんの確かな実力が伝わってきます。この道、もう20年ほどになりますか?」崇介は驚いて杏奈を見た。「さすがお目が高いですね!ええ、今年でちょうど20年目になります。正直に言うと、最初は趣味がこうじてこの業界に入りました。これまでも色々なブランドでチーフデザイナーを務めてきましたが、ブランドの仕事というのは疲
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第325話

それで、崇介が杏奈に不満を言おうとしたちょうどその時、彼女の方が先に口を開いた。「それに、もう一つ理由がありますわ。あなたはしばらく服のデザインをしていなかったでしょう?ブランクのせいで、せっかくの才能が少し錆びついて、ひらめきも減ってしまっていますよ」それを聞いて、崇介の顔色が一瞬で変わった。杏奈は続けた。「焦って反論する必要はないですよ」彼女はもう一度デザイン画を手に取ると、崇介の方に見えるように持ち上げた。スカートの裾の部分を指さした。「このデザイン画を見てください。ウエストのドレープで、ドレス本体にアシンメトリーな動きを出しているのに、裾がこんなに綺麗に揃ってしまっていますよね?これでは、本来の自由で軽快なデザインが、一気に退屈なものに見えてしまいますよね?もう少し考えてみてください。もし裾を斜めにカットして、アシンメトリーなデザインにしたら、もっと良くなると思いませんか?」杏奈の口調はとても穏やかで、崇介に話しかけるときも、感情的になることはなかった。そう言われ、崇介は黙って、自分の作品をじっと見つめていた。顔には、怒っているような様子はまったくなかった。しばらくの沈黙の後、彼はふーっと長いため息をついた。「あなたの言う通りです……このデザインを仕上げたときから、自分でもどこか違和感があったんです。今、あなたに指摘されて、やっとその理由が分かりました」杏奈はデザイン画を崇介に返した。「私の言ったことは当たっていますか?」崇介は頷いた。「はい、当たっています」それを聞いて杏奈は、少し離れた場所にいた睦月を指さした。「彼女も私と同じデザイナーで、とても才能があります。さっき彼女が言おうとしていたことも、今私があなたに指摘したことと同じです。どうすればいいか、もうわかりますよね?」崇介の顔は青くなったり白くなったりした。そして、彼は歯を食いしばりながら言った。「わかりました」崇介は席を立つと、睦月の前まで歩いていき、真剣な面持ちで頭を下げた。「松浦さん、申し訳ありません。さっきは俺が思い上がっていて、あなたに失礼な態度をとりました。心からお詫びします」そう言われ、睦月は驚いて崇介を見つめた。彼女は少しむっとしていたが、崇介の突然の謝罪に、すっかり面食らってしまった。一体、
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第326話

それから、崇介が部屋を出ていくと、睦月は杏奈のほうを向いた。「どうやって彼を説得して、謝らせたんですか?あの人、すっごくプライドが高そうじゃないですか。いつかお客さんにキレたりしないか心配ですよ」杏奈はにこりと笑った。「今は他に選択肢もありませんからね。彼は経験豊富ですし、生活のためにも働かざるを得ないはずですよ。どんなにプライドが高い人でも、生活がかかっていたら大人しくなるものです。しばらく様子を見ましょう」すると、睦月は黙ってうなずいた。そして、もう一人の採用候補の課題の結果は明日にならないと分からない。それで、睦月は杏奈に、明日もお店に来るように言った。杏奈はうなずいた。しばらくして、啓太が杏奈を迎えに来た。彼はなんだか興奮した様子で、杏奈にゴシップを話し始めた。「杏奈、俺がさっき豪さんに書類を届けに行ったんだけどさ、何を見たと思う?」啓太の目はキラキラと輝いていて、面白いものを見つけてきたという顔をしていた。杏奈は不思議そうな顔で彼を見た。啓太は得意げに話し出した。「さっき豪さんに書類を持っていったんだけどさ、オフィスに入った途端、なんと雫さんが豪さんの膝の上に座ってたんだよ。豪さんは顔を真っ赤にしちゃってさ」すると、杏奈は面白い話に食いつくように、目を輝かせて啓太を見た。「それで?二人の邪魔をしちゃった後はどうなったの?」「そしたら、豪さんが慌てて雫さんを突き放したんだよ」啓太は声をひそめて杏奈に顔を近づけ、続けた。「でも、豪さんは照れ隠しなのか逆ギレしてきてさ。俺に当たり散らすんだ。雫さんは隣でクスクス笑ってるし。それに書類を渡すとき、彼の口の端に口紅がついてるのが見えちゃったんだよね」杏奈は「へぇー」と、意味ありげに声を伸ばした。そんな面白い場面、どうして自分は見逃しちゃったんだろう?さっき、啓太と一緒に豪のところに行けばよかった。しくじった。そう思って夜、豪が家に帰ってくると、杏奈と啓太がニヤニヤしながら彼を見ていた。すると豪は、啓太がきっとあれこれ付け加えて杏奈に昼間のことを話したのだろうと、すぐに察した。しかし、可愛い妹に怒るわけにもいかず、彼は冷たい視線を啓太に向けた。「今期のレース場の利益、半分俺によこせ」「なんでだよ!」啓太はすぐに慌
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第327話

杏奈と睦月は、芹香がとても誠実で、この仕事を心から愛している才能ある人材だと、意見が一致した。こうして、芹香は「アトリエ・シリン」の一員になった。その日は、ひんやりと曇っていた。厚い雲に覆われて、N市全体がどんよりとした空気に包まれているのだった。アトリエは、最近オーダーが増えていた。だからデザイナーもスタッフも、みんなてんてこ舞いだった。しかし杏奈だけがオフィスで、決済レポートを見ながら物思いにふけっていた。そこへ芹香がドアをノックして入ってきた。「杏奈さん、ちょっとお客さんの要望を見てもらえませんか?いまいち理解できなくて」でも杏奈はぼーっとしていて、芹香の声が聞こえていなかったようだった。芹香は不思議に思って、杏奈のデスクまで歩み寄った。そして目の前で手を振って見せた。「杏奈さん?」すると杏奈は、やっと我に返った。彼女は芹香を見て、「どうしたの?」と尋ねた。芹香はもう一度、さっきの用件を伝えた。杏奈は芹香からスマホを受け取って、顧客の要望に目を通した。それから、その顧客のインスタを開いて、ざっと投稿を見てから芹香に言った。「このお客さん、近いうちにお宮参りをする予定があるようね。昔のインスタを見ると、お金持ちの奥様みたいね。控えめで目立たない服がいいって言ってるから、上品な方向で考えればいいわ。そしてお宮参りにふさわしく慎ましくもありながら、奥様方に見合うように気品があるものにするといいわ」それを聞いて、芹香はぱっと顔を輝かせた。「なるほど、わかりました!ありがとうございます、杏奈さん!」それから、杏奈は芹香にスマホを返した。一方、芹香はスマホを持って部屋を出ようとしたが、数歩歩いたところで、また振り返った。「杏奈さん、何か悩みごとでもあるんですか?なんだか最近、元気がないみたいですけど」そう言われ、杏奈は思わず自分の顔に触れた。「そんなに顔に出てた?」芹香はこくりと頷いた。そして彼女は近くにあった椅子を引き寄せると、杏奈の正面に座った。「私、大学の時、心理学を専攻してたんです。カウンセラーのアシスタントみたいな経験もあるんですよ。よかったら、話してみませんか?何か相談に乗れるかもしれませんよ」それを聞いて、杏奈は目の前の、きらきらと輝く芹香の瞳を見つめ
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第328話

一方、健吾が杏奈からメッセージを受け取ったのは、黒幕の手がかりを掴んで現場へ向かっている最中だった。彼の目の下には隈ができていたけど、スマホに届いた杏奈からの短いメッセージを見て、その表情は一気に和らいだ。すると、健吾は深く考えもせず、杏奈に返信した。【仕事は順調だ。待っててくれ】杏奈は、健吾からすぐに返信が来るとは思っていなかった。健吾からの返信を見た瞬間、彼女は少しぽかんとしてしまった。そして【待っててくれ】という言葉に、杏奈の胸はドキッとした。すると、彼女は平静を装って返信した。【気をつけてね】片や、健吾はそれを見て口元に笑みを浮かべた。ここ数日の疲れが、すっかり消えていくようだった。そして彼は、東国での仕事をさっさと片付けて、早く杏奈に会いに帰ろうと心に決めた。それに、今回はN市に戻ったら、きっといい知らせが待っている。そんな強い予感がしていたから。こうして、二人は短い言葉を交わした。健吾は相変わらず厚かましく、出発前に言ったことを忘れるなよと杏奈に念を押した。それから、杏奈が最近どうしているか尋ねた。やり取りを終える頃には、彼が乗っていた車は目的地に着いていた。スマホをしまった健吾の顔から、さっきまでの優しさはすっかり消え去っていた。まるでさっき杏奈と話していたのが別人のように、その表情は冷たく、凍えるようなオーラを放っていた。その時、健吾がいるのは、東国で最も栄えていると同時に、最も落差がある地区だった。ボロボロなプレハブが外側を取り囲み、その中心には煌びやかな古い城のような建物がそびえ立っていた。そこで貧しさで痩せこけた人々が、無表情に振り返り、ギラギラとした目で健吾の方を見た。まるで彼からの施しを待っているかのようだった。健吾は、警戒心を滲ませた目で辺りを見回した。「1時間経っても俺が出てこなかったら、計画通りに動け」すると、運転席に座っていた男が頷いた。それから健吾はその煌びやかな建物に向かって歩き出した。革靴がぬかるんだ地面にめり込み、泥水を跳ね上げた。周りで座ったり立ったりしていたボロ服の人々は、健吾が煌びやかな建物に入るのを見送っていた。一方中の人は、すでに彼を待ち構えていた。「橋本さん、お待ちしておりました」ボディーガ
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第329話

芹香は、杏奈の車椅子を担いで階段を降りた。外は土砂降りの雨で、あたりは真っ暗だった。睦月は眉をひそめた。「啓太さんは迎えに来ないのですか?」杏奈は言った。「今日は克哉さんが迎えに来てくれます。でも、道が混んでるのかもしれません」「克哉さん?」それを聞いた芹香は、突然甲高い声を上げた。彼女は勢いよく杏奈のそばにしゃがみこむと、キラキラした目で顔をのぞきこんだ。「もしかして、あの鈴木克哉さん?歌って踊れて、演技もできるトップ俳優のことですか?」その声は、興奮のあまり震えていた。杏奈は、その様子を見て、まるでアイドルに会ったファンのようだなと思った。「あなた克哉さんのファンなの?」そう聞かれて芹香は、何度も激しく頷いた。「ガチファンです!」彼女は少し気持ちを落ち着かせると、あることに思い至った。「どうして克哉さんがあなたを迎えに来るんですか?二人とも同じ『鈴木』って苗字だけど、まさか……」すると隣で睦月が、さらりと言った。「兄妹よ。血の繋がった、本当の兄妹」「ええっ!」その芹香の叫び声は、外の雷鳴よりも大きく響いた。杏奈は思わず耳を塞いだ。実は彼女も克哉のファンだったけど、それでも初めて会った時は芹香ほど大騒ぎはしなかった。「私って、もしかして選ばれし者ですか?まさか克哉さんの妹さんと同僚になれるなんて!ううん、彼の妹さんのお店で働けるなんて!」芹香は、突然杏奈の手を握りしめ、真剣な顔で言った。「杏奈さん、安心してください!私は身を粉にして働きます!今期の売上、三倍にしてみせますから!だから、後で克哉さんとツーショット撮らせてもらえませんか?」そう言われて、杏奈は笑って答えた。「兄さんに聞いてみるね。もし彼が嫌だって言っても、無理やり連れてきて一緒に撮らせてあげるから、それでどう?」そう言われ芹香は、さらに熱い眼差しで杏奈を見つめた。「杏奈さん、このご恩は一生忘れません!ついていきます!」すると、杏奈と睦月は、思わず笑ってしまった。そんな話をしているうちに、いつの間にか店の前に黒い車が一台停まっていた。ボディーガードのような男が、傘を差してこちらへやって来た。「鈴木さんですね。鈴木社長が急なご用事でお見えになれず、代わりに私が迎えに参りました」すると
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第330話

杏奈は、今年が自分の厄年なんじゃないかと思っていた。だって、一年で三回も拉致されるなんて。しかも今回は、自分から車に乗ってしまったのだ。バックミラーに映った人影が、不気味に笑ったのを見た途端、杏奈の意識はもうろうとし始めた。その時になって彼女はようやく、車内に漂うこの嗅ぎなれない香りが、人を眠らせるものだと気づいた。でも、気づくのが遅すぎた。わずか2秒後、彼女は完全に意識を失ってしまったのだ。次に目が覚めた時。周りから、ポタ、ポタ、と水滴が落ちる音が聞こえてきた。杏奈がゆっくり目を開けると、心臓を強く押さえつけられているかのような息苦しさを感じた。空気は湿っぽく、遠くで雷の音が響いている。吹きさらしの風が、彼女の薄着の体を激しく揺さぶった。そこは、風に吹き荒らされている工業廃墟だった。外は深い霧に包まれていて、かろうじて自然の景色が見えるだけで、風に揺れる雨で濡れた木の枝が、まるで亡霊のように、今にも襲いかかってきそうだった。杏奈は風を避けようとうつむいた。何度か息を吸うと少し落ち着いたけど、体は思わず寒さで震えたのだ。そして椅子に縛られているから、身動き一つとれずにいた。ピッ、ピッ……冷たい風と大雨の中、杏奈は奇妙な音を耳にした。自分の腹部に目をやると、なんとそこには爆弾が巻き付けられていた。彼女は恐怖に目を見開き、信じられない思いでその光景を見つめた。「助けて、誰かいませんか!」そう叫んだが杏奈の声は、吹き荒れる嵐の音にかき消された。犯人は現れず、彼女はたった一人で死の恐怖に直面していた。一方、その様子をモニターで見ていた健吾の両目は、真っ赤に血走っていた。彼はバークの襟首を掴み、獣のような目で睨みつけた。「よくも彼女に手を出したな!」バークはにやつきながら健吾の手を掴み、引き離そうとした。しかし、健吾は逆に力を込めて襟首を締め上げると、バークは途端に息ができなくなった。「橋……橋本社長、こんな状況で、俺に手を出すつもりですか?」バークは笑っていたが、その目は毒がついたように、健吾と目を合わせて離れなかった。そして周りの暗がりから、屈強な男たちが次々と姿を現し、彼らの手には、それぞれ銃が握られていた。その間もう一人の男は、にやにやしながら健吾を見ていた
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