All Chapters of あざとい女に夫も息子も夢中!兄たちが出動!: Chapter 441 - Chapter 450

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第441話

しかし、健吾はいたずらっぽく、杏奈を行かせまいとした。「誰か来たみたい、離して」それでも健吾は離さなかった。彼は瞬きで、自分の口を塞ぐ杏奈の手をどかすように合図した。そんな彼に杏奈は根負けして、先に手を離した。すると、健吾は杏奈をさらに強く抱きしめると、低い声で耳元でささやいた。「今夜は一緒にいてほしい」彼の声は甘く、抗えない魅力があったから、それを聞いた杏奈は、自分の顔が真っ赤になっているのがわかった。もし昔の自分なら、こんなことを言われたら間違いなく平手打ちをしていたはずだ。でも、相手は健吾だ。彼となら、どうなってもいいとさえ思っていた。もともと自分だって堅い考えをもっているわけじゃないし、もう大人なんだから、それなりの欲だってある。そう思って杏奈は少し黙り込んだ。けれど、健吾はもう待ちきれないようだった。杏奈の指を一本だけ絡めとると、健吾は彼女の肩に顔をうずめてすり寄った。まるで子犬みたいにしょんぼりした様子で。「最近、仕事が忙しくて全然会ってくれなかっただろ。その埋め合わせをしてくれないと」健吾がそう甘えてくる時の破壊力は、そこら辺の女の子よりもずっと強力なのだ。そして、外から近づいてくる足音がドアのすぐそばまで来ているのに気づいて、杏奈は慌てて言った。「わかった、約束するわ」すると健吾の切れ長の目が、喜びで一層きらめいた。その後睦月がノックしてからオフィスに入った時は、部屋が薄暗くて、ソファに二人が座っていることしか分からなかった。でも、二人の間にはかなりの距離があった。「なんで電気つけないんですか?」睦月はそう言って部屋の電気をつけた。ずっと暗い場所にいたせいで、急な強い光に杏奈と健吾は思わず目を閉じた。その時、睦月は二人の服が少し乱れていることに気がついた。うそでしょ。ここ、オフィスなのに……自分たちが外にいる間に、この二人、中で何を……自分がいた国はオープンだけど、まさかおしとやかそうに見える杏奈まで、こんなに大胆だったなんて。睦月はわざとらしく咳払いをすると、申し訳なさそうなふりをした。「お邪魔しちゃいましたか?」彼女がそう言うと、そんなおちゃらけた睦月の視線を感じて、杏奈は自分の名誉が地に落ちたと思った。最近、アトリエがとても忙しかった
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第442話

健吾は杏奈の視線に、背筋がゾクッとした。「どうしたんだ?」杏奈はフンと鼻を鳴らした。「まさか、あの頃からこうなるって分かってたなんてね。たいした自信家よね」健吾は、杏奈が冗談を言っているのが分かった。彼はニヤニヤしながら杏奈を抱きしめると、ボサボサの髪を首筋にすり寄せた。まるで甘えている大型犬みたいだった。「自信じゃないさ。俺がタチの悪い男だからだよ。絶対あなたを落としてみせると心に決めてるからな」だってその考えは杏奈が、竜也との離婚を考え始めた頃から。あの時から健吾はまるで、闇に潜んで獲物をじっと狙う獅子のようだった。その甲斐あって、彼はついに杏奈を手に入れたのだ。それを聞いて杏奈は呆然と、自分の肩にもたれかかる健吾を横目で見た。甘えるような口調で、こんなにも強い独占欲を口にするなんて。以前の自分だったら、きっとこの男をものすごく警戒しただろう。なのに、今の自分は健吾に対して全く怖気づいていないのだ。彼が自分を傷つけることは絶対にないと、分かっていたから。そう思って、杏奈は肩に乗せられた頭を軽く押した。「はいはい、お酒臭い。この家にはちみつある?はちみつ入りの水を入れてきてあげるから」それから健吾は、杏奈についてキッチンへ行った。確かにお酒の匂いはしたが、午後に翼と少し飲んだだけで、酔ってはいない。それにアトリエで仮眠したら、もうすっかり酔いは醒めているのだ。冷蔵庫には食べ物があった。新鮮な果物や野菜がぎっしり詰まっているのだ。それを見た杏奈は彼に尋ねた。「最近、ここに住んでるの?」健吾は首を横に振った。「今日からだよ」じゃあ、こんなにたくさんの果物や野菜を用意してるのは……まさかこれも、彼の計画のうち?すると健吾は、子犬のように無邪気な瞳でまばたきをしながら、杏奈を見つめた。それを見て杏奈はすべてを察した。自分はずっと、この男の手のひらの上で転がされていたようだ。このままではだめだ。いつか、主導権を握らなきゃ。それから、健吾はご飯を作ったあと、杏奈が夕飯を食べていないと知ると、甘えていた健吾の表情は一変し、凍てついたように険しい顔で彼女を叱った。一方で叱られた杏奈はつま先を見つめながら、素直に聞いていたそして、キッチンへ向かおうとした杏奈を、健吾は
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第443話

そう言われたが杏奈は、健吾の意図をすぐに察してしまうような物分かりのいい女にはなりたくなかった。でも、どうしても考えてしまうと体が反応してしまい、健吾の大胆すぎる発言にびっくりして、彼女は食べていたうどんが喉につかえ、激しくむせてしまった。それを見て健吾は、急いで杏奈に水を渡した。自分の発言がどれだけとんでもないものか、まるで分かっていないようだった。「ゆっくり食べろよ。そんなに慌てることないのに」そう言って健吾はティッシュを一枚取って、杏奈の口元を拭いてあげた。しかし、杏奈は、もううどんを食べる気になれなかった。彼女は恨めしそうに健吾を睨みつけたが、当の本人は、何の自覚もないかのように、無邪気に瞬きをするだけだった。それどころか、ご機嫌をとるように果物の盛り合わせを杏奈の前に差し出した。「食後の果物だよ」すると杏奈は、やけくそ気味にフォークでブルーベリーを刺して、口に放り込んだ。食事を終えると、杏奈は消化を促すためにリビングをぐるぐると歩き回った。一方、健吾は、シャワーを浴びに行った。寝室のドアは開いたままで、バスルームからシャワーの音が聞こえてくる。その水音は、杏奈の耳にも届いた。すると彼女は、思わず健吾の体のことを想像してしまったのだった。健吾は見た目こそ細身だが、脱いだらすごいことを杏奈は知っていた。抱きしめられた時にこっそり触れたことがあるけど、彼の腹筋はくっきりと割れていて、触り心地もすごく良かった。そう考えているうちに、杏奈の頬が少し熱くなった。そしてこれから起こることを想像すると、期待と恥ずかしさが入り混じった気持ちになった。でも、逃げるつもりはなかった。突然、窓の外から雨音が聞こえてきた。杏奈は、ふと窓際に歩み寄った。20階の部屋から見下ろせば、N市の街並みが一望できる。雨に濡れた街は、まるで霧のベールをまとっているかのようだ。N市の雨は、本当にいきなり降ってくる。何の兆しもないままに。杏奈がそんな感傷に浸っていると、不意に、腰をがっしりとした腕に抱かれ、男は彼女の左肩にこつんと頭を乗せてきたのだ。シャワーを浴びたばかりの健吾の体からは、ボディーソープの香りがした。湯気と彼の熱気が混ざり合って、杏奈の顔にかかり、杏奈の胸は段々と高鳴っていった。「
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第444話

杏奈は、もう少しだけベッドでまどろんでから、ゆっくりと起き上がった。この時間なら健吾はもう会社に行っているだろうと思っていた。でも、服を着て部屋から出ると、リビングで仕事をしている彼の姿が目に入った。杏奈が出てきたのに気づくと、健吾はパソコンを置き、幸せそうな笑顔を浮かべて彼女のそばに歩み寄った。そして、彼は杏奈の手を取り、その唇にそっとキスをした。「よく眠れた?」そんな意味ありげな言い方に、杏奈は耳を赤くして、顔をそむけながら話題を変えた。「お腹すいたんだけど、何か食べるものある?」「もちろん。もうとっくに準備してあるよ。あなたが起きたらすぐ食べられるようにね」健吾はとっくに食事の準備を済ませていた。杏奈が目を覚ましたら、すぐに温かいものを食べられるように。一方杏奈は気だるい自分をよそに、活き活きとした顔をしている健吾を見て、なんだかちょっと理不尽に思えた。なんでこういうことの後は、男の人はいつも元気いっぱいなんだろう。いっぱい頑張ったのは彼のほうなのに。そう思っていると、健吾はすでにおかずを何品かと味噌汁を用意していて、杏奈の目の前に置いてあげていたのだった。「アトリエの方には、もう俺から休むって連絡しておいたよ。だから今日は行かなくていい」それを聞いて杏奈は、ぴたりと手を止めて健吾を見た。「あのさ、私がそこのオーナーなんだから、そもそも誰かに休む許可をもらう必要はないとは思わなかったの?」健吾は首をかしげた。「でも、秘書には連絡しておかないとだめなんじゃないの?」「秘書なんていないわよ」「ああ」と健吾は声を漏らした。彼は、睦月が杏奈の秘書なのだとばかり思っていた。自分は仕事を休む時でも洋介に一言連絡するので、健吾はよかれと思って睦月に連絡してしまったのだ。一方杏奈は、噂好きの睦月が健吾から休みを取るという電話を受けたら、どんなことを想像するか目に浮かぶようだった。そう考えると、杏奈はなんだかどうしようもない気持ちになった。ふと見ると、健吾がパソコンを抱えて向かいの席に座っていたので、思わず聞いた。「あなたはもう食べたの?」健吾はうなずいた。「あなたも早くたべな、付き添っててあげるから」それから杏奈は、健吾にスマホを取ってくれるよう頼んだ。ダイニングテーブルで
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第445話

「俺が何年も待ち焦がれた女なんだ。まだ俺が独り占めしていたいのに、ガキなんかに横取りされてたまるか!」それを聞いて香織は、思わず健吾を叩こうと追いかけた。しかし、本当のところ、健吾は杏奈に二度と出産の苦しみを味わわせたくなかったのだ。彼女が浩を産んだ時は大変な難産で、出血多量で命を落としかけたにも関わらず、生まれた子は恩知らずだったから。杏奈がまたあんな苦しい思いをするくらいなら、一生子供ができなくたっていいとさえ健吾は思ったくらいだった。だが、それはまだ先の話だ。今、彼が考えるべきなのは、まず第一歩となる入籍のことだった。入籍の前には、プロポーズをしなくてはならない。プロポーズをするからには、杏奈の気持ちを先に知っておきたかった。もし彼女の心の準備ができていないのなら、大げさなプロポーズでプレッシャーをかけるようなことはしたくなかったのだ。一方食事を終えた杏奈は、健吾がダイニングテーブルに片肘をつき、うつむいて考え事をしているようだったので、彼を邪魔しないように、そっと空いた食器を片付け始めた。「置いといていいよ」ぼうっとしていた健吾だったが、体勢はそのままに視線だけを上げて、優しさを込めながらも有無を言わせぬ声で、杏奈に言った。すると杏奈は、ぴたりと動きを止めた。彼女は自分の手元に視線を落とした。「あなたがご飯を作ってくれたんだから、洗い物は私がするわ。役割分担よ、問題ないでしょ?」「ちっ、キッチンには入るなって言っただろう。分かってくれないのかな?」健吾は立ち上がると杏奈のそばに寄り、彼女の手から食器を取り上げた。そして、そのまま杏奈の寝ぐせのついた髪をくしゃっと撫でたあと、彼は少し屈んで杏奈の顔を覗き込み、その輝くような漆黒の瞳で彼女を見つめた。「これからは家事一切、あなたはやらなくていい。あなたは俺のお姫様なんだから」その言葉に杏奈の胸は、じんと熱くなった。健吾にこんなに大事にされるなんて、想像もしていなかった。まるで、自分はこうして大切にされるのが当たり前の存在であるかのようだ。杏奈は手を伸ばして健吾の首に回し、甘える子猫のように彼の肩に顔をうずめてすり寄せた。「健吾さん、どうしてそんなに優しいの……」彼女は心から感動していた。一方健吾は、杏奈からの積極的なス
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第446話

すると、社員食堂の片隅から、パンッ、と鋭い音が響いた。すると、テーブルを囲んでいた数人の社員が、驚いて振り向いた周りの視線に気づき、慌てて手を振った。「ちょっと話してただけ!なんでもないから、みんな気にしないで」それから、企画部で澪を快く思っていない社員たちがまた、一つのテーブルに集まって噂話を始めた。彼女にコネがあることはみんな知っていた。でも、まさか橋本家の義理の娘だとは誰も知らなかったのだ。「前はさ、千葉が毎日、社長のオフィスに入り浸ってたじゃない?だからみんな、社長を誘惑しようとしてるんだって噂してたの。まさか橋本家の義理の娘だったなんてね。それじゃ誘惑も何もないわよ!同じ戸籍に入ってるんでしょ?それって倫理的にいけないんじゃないの?」「いや、戸籍は別かもしれないよ。秘書課の子に聞いたんだけど、前に社長の彼女が会社に来たとき、千葉がその彼女に突っかかったんだって。でも、社長はちゃんと自分の彼女の方を庇ったらしいわ」「うわぁ、かわいそう。彼女がいるってわかっててちょっかい出すなんて。哀れだけど、自業自得よね」「本当よ。前はチーフデザイナーっていう肩書きを笠に着て、企画の相談だって言って社長に会いにいってたけど、社長は相手にもしてなかったじゃない。それでもめげずに毎回アタックしてさ。今じゃただのデザイナーに降格だし、会長も戻ったし。彼女の目論見も全部パーね」……男女間のゴシップは、会社での格好の噂話のネタだった。ちょうど機嫌が悪かった澪は、昼食をとりに社員食堂へ来た。まさか、そこで自分の噂を耳にするなんて思ってもみなかった。怒りにまかせて、彼女は熱いコーヒーの入ったカップを手に取ると、噂をしていた社員たちの元へ歩み寄り、その中身を彼らにぶちまけた。「ああっ!」コーヒーは熱々だった。かけられた社員たちは顔を押さえ、痛みに甲高い悲鳴を上げた。「千葉さん、何するのよ!」すると、周りで食事をしていた社員たちが集まってきて、救急車を呼ぶ人、仲裁に入る人で、食堂は騒然となった。「このクズどもが!陰でコソコソ私の悪口ばっかり言って!その減らず口を、今に引き裂いてやるからな!」いつもの澪なら、こんな場所で感情を爆発させるなんてことは、絶対にありえなかった。でも、ここ何日もずっと気分が沈んでいたところに、
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第447話

澪は膝の上の両手を固く握りしめた。杏奈の名前を聞いただけで、彼女の瞳には憎しみが宿ったのだった。杏奈さえいなければ、健吾は自分にこれほど冷たくすることはなかったのに。今では業界で顔も上げられず、生活はめちゃくちゃ。健吾にも嫌われてしまって、何もかも、全部杏奈のせいだ。そう考えると彼女はどうしても恨まずにはいられなかった。「憎んでいません」それでも、茂を前にして彼女は従順な態度でそう答えた。それを聞いて茂は何も言わず、ただじっと彼女を見つめていたが、やがて静かに口を開いた。「人事部で退職手続きをしてくれ」澪は信じられないといった様子で顔を上げた。「おじさん、どうしてですか?」「君は仕事の能力に欠けるし、感情の起伏も激しい。安心しろ、さっきの社員たちも慰謝料を支払った上で減給処分にする。君だけを罰するわけじゃない」「どうしてですか?」茂の決断に澪は冷静ではいられなかった。自分の噂をしていた人たちは減給だけなのに、自分は橋本グループから追い出されてしまうなんて。なんでよ。「澪ちゃん、どんな感情があれど、我々橋本家は最後まで君の面倒を見るつもりだ。妻も君のことを気に入っているし、申し訳ない気持ちでいる。だから今までの君の小細工は見て見ぬふりをしてきた。しかし、俺の息子と、息子の婚約者を脅かすというなら話は別だ。恩知らずと言われようと、俺の家族を傷つけることは許さない。わかるか?」茂の視線に、澪は背筋が凍る思いだった。兄が健吾を助けた恩も、もう通用しないっていうの?すると澪は鼻で笑った。「兄さんは馬鹿ですよ!あの時、健吾さんなんか助けなければよかったのに!」彼女はそう言い捨てるのが精一杯で、オフィスを飛び出していった。澪が去った後、洋介が入ってきた。「会長、千葉さんの件ですが……」茂は静かに言った。「健吾には言わなくていい」洋介は承知したと、急いで頷いた。社長の元で働くのも怖いが、感情を一切見せない会長の方がずっとやりづらい。それに、会長は社長よりもずっと容赦ない気がする。……一方、澪が会社を出たところで、訪ねてきた真奈美とばったり会った。澪は真奈美とは知り合いでもなく、数回しか顔を合わせたことがない。それに今は機嫌が最悪だったから、澪は彼女を避けて通り過ぎようとした。
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第448話

そう言って澪は去っていった。残された真奈美は、ただ呆然と立ち尽くすばかりだった。そして燦燦と注ぐ太陽の光を浴びても、真奈美の凍える心が温まることはなかった。「鈴木杏奈」って。まさか、あの女が鈴木家の人間だったなんて。鈴木家には昔、行方知れずになった娘がいるって噂があった。ずっと探してたけど、見つからなかったらしい。その子が、女の子だった。年齢も、杏奈とちょうど同じくらいだ。まさか、杏奈が鈴木家の娘だったなんて。嘘よ。信じられない。あんな女が、名家の鈴木家の人間なわけがない。そう思いながら真奈美は、放心状態のまま家へと戻った。そこに竜也の姿はなかった。代わりに、浩がソファに座って、楽しそうにお菓子を食べながらテレビを見ていた。だけど浩のその愛らしい瞳は、少しも笑ってはいなかった。浩は、真奈美が入ってくるのに気づいた。だが、彼はちらっと一瞥しただけで、すぐに視線をテレビに戻してしまった。一方、浩の杏奈とそっくりな顔立ちを見て、真奈美の怒りは火が付いたように燃え上がった。彼女は浩に歩み寄ると、その手からお菓子を奪い取り、床に叩きつけた。「何、食べてるのよ!あなたの服もご飯も、全部うちのお金でしょ!贅沢をしたいなら、あなたの実の母親に引き取ってもらったらいいじゃない!」突然怒り出した真奈美に、浩は怯えてしまった。そして、まだ幼い浩の瞳は、みるみるうちに涙でいっぱいになった。だが、べそをかく彼を見て、真奈美はますます苛立った。「何泣いてるのよ!あなたのあの腑抜けの母親にそっくりで!役立たずね!」真奈美はよほど腹を立てていたのだろう。テーブルの上にあったお菓子を、手当たり次第に浩に向かって投げつけた。そして投げつけられたお菓子が体に当たり、浩はとうとう大声で泣き出してしまった。「意地悪!あなたなんか、まだパパと結婚してないじゃないか!出ていけ!」一方で、物音に気づいた一人の使用人が、慌てて駆け寄って浩をかばった。もう一人の使用人は、竜也に電話で知らせた。そして使用人たちに取り押さえられ、真奈美はようやく我に返った。彼女は血の気の引いた顔で浩を見つめた。「浩くん、ご、ごめん……ママはわざとじゃなくて、ただ……」「あなたなんか、僕のママじゃない!意地悪ババ
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第449話

「竜也さん、わざとじゃないの!浩くんが言うことを聞かなくて、私に悪口を言うから……それで思わず、お菓子を顔に投げちゃったの」浩は、竜也の大切な一人息子。だから、今はまだ機嫌を取っておくべき相手なのだ、そう思って彼女は言い訳をした。すると真奈美の言葉を聞いて、浩はカッと頭に血がのぼった。彼は顔を真っ赤にして叫んだ。「嘘つき!僕はあなたに話しかけてもない!部屋に入ってきた途端、僕のママは腑抜けだって言ったじゃないか!ママのところに行けとか、パパのお金を使う資格なんてないって言った!あなたは悪い女だ!」「違うの、竜也さん、子供の言うことなんて、信じちゃだめよ」その傍らで使用人たちも、浩が嘘つき呼ばわりされるのを見かねて、彼をかばおうと口を開いた。「あの、竜也様、私どもは先ほど、すぐ側でお掃除をしておりました。久保さんが入ってこられた時、浩様はテレビを見ていらっしゃいました。一方的に罵っていたのは、確かに久保さんのほうです」使用人が浩の肩を持つのを聞いて、真奈美は振り返り、彼らを睨みつけた。「あなたたち、全員クビにされたいの?」「真奈美」それを聞いて、竜也が冷たく彼女の名前を呼んだ。だがたったその一言だけなのに、真奈美の頭の中では、「終わった」という声が響いた。竜也の彼女を見る眼差しには、温度というものが全くなかった。その視線は、恐ろしいほど冷え切っていた。「浩は俺の息子だ。お前はこの子をどこへ追い出すつもりだ?」真奈美は竜也の視線に射抜かれて、恐怖で体が震えた。「竜也さん、私……浩くんを追い出そうなんて思ってないわ。私は……その……」もう、どう言い訳もできなかった。でも、竜也を失うわけにはいかない。自分にはもう、彼しかいなかったのだ。そう思って、涙をこぼしながら、真奈美は竜也の前に歩み寄り、彼の手を取ろうとした。しかし、竜也はさっと身をかわして、それを避けた。そんな状況に真奈美は、目に見えて怯んでいった。「竜也さん、ただ、ちょっと機嫌が悪かっただけなの。私が間違ってたわ、本当にごめん」そう言って彼女は浩に目を向けた。「浩くん、私が悪かったわ。イライラした感情を家に持ち帰るべきじゃなかった……私があなたのママになるんだから。これからはちゃんと可愛がるから、いいでしょ?」だが、浩は嫌悪感を隠さ
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第450話

一方竜也は、真奈美がまた杏奈と鈴木家の兄弟との関係について話すつもりだと思って、彼は眉間にしわを寄せ、真奈美の話に聞く耳を持たなかった。「外にお前の家を買ってやる。だから、もうここには住むな」以前は、真奈美は本当に浩のことが好きで、浩も彼女に懐いていると信じていた。でも、いつからか二人の間には溝ができて、今ではすっかり犬猿の仲だ。それどころか、真奈美は人目もはばからずに浩に手を上げるようになった。自分の見ていないところで、浩が彼女にどれほどいじめられていたかなんて、想像するだけでもぞっとした。片や、真奈美は唇を噛みしめ、竜也を見た。「私を追い出して、次は婚約破棄するつもりなんでしょ?」そう言われ竜也は一瞬耳を疑った。彼は真奈美の前に立つと、口元だけを歪めて彼女を見つめた。「結婚したいのか?」真奈美が、もちろんしたいわ、と答えようとした瞬間だった。竜也は彼女の言葉を待たずに続けた。「松本さんのドラマの主役は逃したが、お前が芸能界でやっていくつもりならチャンスはまだある。ネットの炎上が収まれば、また有名な監督の作品に出られる可能性だってあるんだ。本当に結婚したいのか?」すると、真奈美は黙り込んだ。彼女が芸能界で成功したいなら、結婚は足かせになる。でも結婚はしなくても、竜也という頼みの綱を手放すわけにはいかない。「ええ、したいわ!」そう思って、彼女はとりあえず今は頷いておいて、後でいくらでも引き延ばせばいいと思った。これは、竜也から学んだ手口だった。だが、それを聞いた竜也の目に、嫌悪の色が浮かんだ。かつて彼は、真奈美の自立した姿を讃えていた。彼女の仕事で輝く姿や、明るく堂々とした態度が好きだったんだ。でも今になって、そのすべてがただの演技だったと気づいた。しかも、自分の知らないところで杏奈を傷つけていた。そして今度は、自分の息子まで傷つけている。杏奈が一番自分を必要としていた数年間、自分は何も知らずに真奈美の味方をして、杏奈を傷つけたのだ。そのことを思うと、彼は胸がつっかえたようで、息苦しかった。そして竜也は真奈美の言葉には答えず、一言だけ残した。「引っ越しの手伝いを手配しておくよ」そう言って、彼は2階へ上がっていった。一方その場に残された真奈美は、そんな一
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