All Chapters of あざとい女に夫も息子も夢中!兄たちが出動!: Chapter 431 - Chapter 440

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第431話

6番の作品は、さっき大絶賛されていたあのドレスだ。観客もとても印象に残っていたので、そのドレスが受賞したと発表されても、誰もが納得していた。でも、真奈美の言葉は、まるでそのドレスが杏奈のデザインではないとでも言いたげだった。真奈美がこう何度もいちゃもんをつけてくるので、主催者である翼も、さすがに少し腹を立てていた。彼は、竜也の方を振り返った。「中川社長、あなたの連れがうちのコンテストで何度も騒ぎを起こしているんですけど、どうにかしてもらえませんか?」竜也は翼からとやかく言われるのは気に入らなかったが、真奈美の態度は、確かに目に余るものがあった。なぜ今まで、真奈美がこんなに杏奈を目の敵にしていたことに気づかなかったのだろうか。今日だって真奈美は、証拠もないのに、何度も杏奈を陥れようとしているのが見え見えだ。そしてコンテストの閉幕直前になっても、またこんな騒ぎを起こすなんて。どう見てもわざとやっているとしか思えない。そう思うと竜也は真奈美の方を向き、怒りを押し殺した声で言った。「真奈美、会場で騒ぎを起こすな」「私が騒ぎを?」真奈美は竜也が杏奈を庇うのが、とにかく気に入らなかった。「竜也さん、あなたは私を信じないで、あの女を信じるってわけ?」そう言って真奈美は竜也の言葉を無視した。それどころか数歩前に進み、観客の方へ向き直った。「皆さん、聞いてください。今日、私は控え室でこの女がデザインした服を見ました。それは黒いレースのトップスとスカートで、6番のあの綺麗なドレスじゃありませんでした。さっき私が控え室で服はダサいって言ったのを、彼女はきっと根に持ったんですよ。だから橋本社長とのコネを使って、どこかのデザイナーの作品を横取りしたに違いありません。そしてそのデザイナーには、どこからか適当なドレスを押し付けて、手柄を奪ったんです」真奈美の声はよく通り、会場中に響き渡った。さらにそう言い終わると、真奈美は杏奈の方を振り返った。「お姉さん、私たち、何年も一緒に暮らしてきたじゃない。あなたがどんな人間か、私はよく分かってる。今のあなたは何一つ持っていない。運良く橋本社長の彼女になれたけど、本当の実力がなければ橋本家ではやっていけないものね。だから、こんな手を使って有名になって、橋本社長にふさわしい女になろう
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第432話

だが、潤平がそう言うと、真奈美は逆に少し慌て始めた。もし調査の結果、本当にあのドレスが杏奈のデザインだったなら、自分はこんな大勢の前で彼女に泥を塗ったことになる。全国放送の番組だから、そんなことになったら面子が丸潰れになるだろう。ここに来て、真奈美は今になってようやく事の重大さに気づき、少し後悔し始めた。調査には時間がかかるので、授賞式はいったん中止となった。そして、中継は打ち切られた。翼は怒りを抑えきれず、真奈美の方を振り返った。「久保さん、よく聞いてください。もし調査の結果、あなたが鈴木さんを貶めたとわかったら、このコンテストで生じた損害は、すべてあなたに賠償してもらいますから」そんな中健吾は立ち上がるとステージへ歩み寄り、壇上から降りてくるところだった杏奈に手を差し伸べて支えた。彼はさりげなく、こう付け加えた。「そして、俺の彼女を貶めた件もだ。俺は執念深いんでね。もし調査の結果、お前の主張がすべて嘘だと分かったら、名誉棄損で訴えさせてもらう。安心しろ、橋本グループの法務部はプロ揃いだ」健吾の声は穏やかだったが、どこか冷たいものがこもっていた。それを聞いて、真奈美の背筋を、冷たいものが駆け上った。しかし、彼女はすぐに気を取り直した。この人たちは、ただ自分にプレッシャーをかけているんだ。今日、控え室で杏奈のドレスを見たけど、モデルが着ているものとは全然違ったんだから。杏奈がデザイナーになってまだ数ヶ月よ?それなのに、6番みたいな素晴らしいドレスが作れるわけがないじゃない。絶対に誰かが、杏奈の不正に手を貸しているに違いない。あの調査員たちが杏奈のアトリエに行ったところで、どうせ何も出てきやしない。そこまで考えると、真奈美はだいぶ落ち着きを取り戻した。彼女は杏奈を軽蔑するように一瞥すると言った。「自分の言動には責任を持ちます。でも、もしこの女が間違いを犯したのなら、主催者の皆さん、橋本社長のメンツを立てて彼女を庇ったりしないでいただきたいです」この期に及んで、真奈美はまだ杏奈が悪いと決めつけていた。竜也ですら、彼女はもう救いようがないと思った。すると観客がまだ席を立っていない中、竜也が何か言おうとしたが、一人の調査員が会場に入ってきて、まっすぐ彼の前に立った。「中川さん、あ
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第433話

一方でそれを聞いた竜也の顔色は、さらに険しくなった。すると杏奈は真奈美と竜也を交互に見た。二人の仲は、前に自慢していたほど良くはないみたいだと思った。そこで、杏奈の視線に気づいた健吾は、不機嫌そうに彼女の顎を掴み、無理やり自分の方を向かせた。「なに見てんだよ?」隣の健吾がやきもちを焼いているのを感じて、杏奈はぱちぱちと瞬きをしながら言った。「私の彼氏を見てるのよ。本当にかっこいい!」その一言で健吾はまた機嫌を直した。そして彼は杏奈を連れて、コンテスト会場を後にした。そして帰り際に彼はそう言い残した。「調査には時間がかかるでしょうけど、主催者側には俺の彼女の潔白を証明してもらいたいです」金田服飾が主催する今回のデザインコンテストは、真奈美が騒ぎを起こしたせいで、すっかり信頼を失ってしまった。コンテストの公平性そのものが問われる事態となった。こうしてコンテスト会場では、慌ただしく解散となってしまい、授賞式は、調査結果が出てから改めて行われることになった。一方、睦月は、調査員と一緒にアトリエへと戻った。そして、杏奈は健吾に連れられて、主催者が用意した控え室へ向かった。表向きは、あらぬ疑いをかけられないようにするためだ。こうして控え室は、健吾と杏奈の二人きりだった。ドアを閉めるなり、健吾は杏奈をぐっと抱き寄せた。そして、彼女の顔を覗き込み、頬を軽くつねって問い詰めた。「あなたは、さっき中川って男のこと三回見たろ」杏奈は、頬に触れる指にはほとんど力が入っていないのを感じながらも、信じられないという顔で健吾を見た。「まさか、そんなくだらないこと気にしていたの?」自分が竜也を何回見たかを数えるなんて?「くだらなくない。ただ、あなたがあいつを見るのが気に入らないだけだ」杏奈は健吾の手を払いのけ、彼を見上げた。「じゃあ、金田社長を見るのは?」「俺以外の男を見るのは、誰であろうと気に入らない」その言葉には、やきもちの響きがあった。でも、健吾の真剣な表情を見ると、杏奈は彼が本気で言っているようにも思えた。すると彼女は、警戒するように健吾を見た。「もしかしてあなたは小説に出てくるヤンデレのようなところがあるの?他の男の人と話すのもダメ?次は、私をどこかに閉じ込めるつもりだったりして?
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第434話

そして、調査の結果、アトリエ・シリンから明らかに杏奈のデザインである証拠が見つかった。それによって、例のドレスが杏奈のデザインだと証明されたのだ。そして、主催者側も公式的にネットで声明を発表し、杏奈の作品は全て彼女自身の創作であり、盗作の事実はない、として、今回のコンテストに不公平な点があれば、いつでも意見を受け付けると締めくくったのだ。さらに、公式ツイッターの投稿の最後には、杏奈の作品が添えられていた。モダンな和風テイストのドレス。淡いグリーンのチュールに、クリームイエローの小花が散りばめられている。ウエストには細いレザーベルトが巻かれていて、ロマンチックな中にどこか自由な雰囲気が漂っていた。あっという間に、公式ツイッターのコメント欄には、たくさんの人たちからこのドレスを絶賛する声が殺到した。【やばい!これ、まさに私が夢見てたドレスじゃない?販売ページのリンクはまだ?もう売ってるの?給料もらったばっかりで使い道に困ってたのに!】【最高!これで国内のレディースファッションも、まだ捨てたもんじゃないと思えるわ!】【このドレス、今年一番欲しいアイテムだわ。最新のスマホなんかより、ぜんぜん魅力的!】【このデザイナーさん知ってるよ。彼女のアトリエは『アトリエ・シリン』だよ。今はまだネット販売はしてないみたいだけど、腕利きのデザイナーさんが、要望に合わせて一点一点デザインしてくれるんだって。しかも、お値段も手ごろらしいよ】【アトリエ・シリンだね、覚えたわ。これからきっと注文殺到するから、期待しているわよ!】【アトリエ・シリンの服って、どれもすごく個性的だよ。鈴木さんはそのアトリエのオーナーなんだから、盗作なんかして自分の店の評判を落とすわけないじゃん】【絶対誰かが嫉妬して、いちゃもんつけたんでしょ。でも残念でした。彼女には本物の才能があったってわけね!】……こうしてネット上は、この話題で大いに盛り上がった。最近のレディースファッションが、なんだかイマイチパッとしない中、好みの服が買えなくて不満を募らせていた人たちの心は、杏奈の作品の登場で一気に満たされた。アトリエ・シリンが、その気持ちに完全に応えてくれたのだ。するとみんな、こぞって、アトリエ・シリンの公式ラインアカウントを友達追加し始めた。もともと忙しかった
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第435話

しかし、竜也がとっくに真奈美のために工作していたおかげで、ネットで彼女がどれだけ叩かれても、決定的な証拠は上がってこなかった。ただ、真奈美の評判は完全に地に落ちてしまったのも事実なのだ。そして家に戻ると、竜也は初めて真奈美に怒りをぶつけた。「お前はもっと慎重な人間だったはずだ。なぜあんな場所で杏奈に喧嘩を売ったんだ?お前の評判が落ちただけじゃない。中川グループの支社がN市でようやく軌道に乗り始めたのに、この一件で面倒なことが山積みだ。いつからそんな風になってしまったんだ?」竜也は、明らかに激昂していた。彼は顔を真っ青にして、真奈美を一方的にまくしたてた。もともと納得がいっていなかった真奈美は、竜也に責められて、たちまち涙をこぼした。彼女は竜也をにらみつけて叫んだ。「あなたが私に怒鳴るのは、お姉さんのためでしょ?私がお姉さんに楯突いたから、彼女を可哀想に思って、それで躍起になって私の粗探しをしてるんでしょ!」「真奈美、この件は杏奈とは関係ない。悪いのはお前だ!まだ分からないのか?」だが真奈美には竜也が杏奈をかばうように聞こえたからさらにカッとなった。「竜也さん!やっぱりあなたはまだあの女のことが忘れられないのね。私との結婚をずっと先延ばしにしているのも、心の中で彼女を思っているからでしょ。今回N市に来て、あの女に何度か会ってから、あなたは人が変わったみたい。彼女を見る目つきも、愛情に溢れているようだったし。もうとっくに彼女を好きになったんじゃないの?」だが、そう言われた竜也は真奈美を冷ややかに見つめたまま、最後の質問には答えなかった。それどころか、口の端を上げて、あざけるように笑った。「コンテストの会場で、俺との結婚を二度も否定したのはどっちだ?結婚したくないのは、お前の方じゃないのか?」そう言われて、真奈美は少しバツが悪くなった。しかし、彼女は自分が悪いとは思っていなかった。もうすぐドラマの撮影に入るのに、結婚が公になればキャリアに傷がつくからだ。それに、竜也だって何度も結婚を先延ばしにしてきた。明らかに、自分と結婚したくないのだろう。今こうして責めてくるのは、完全に責任転嫁だ。そう思うと彼女は更に怒鳴った。「話をそらさないでよ。あなたがまだお姉さんを忘れられないのは分かってるんだから。これから
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第436話

一方、注文が急激に増えたせいで、5人だけのアトリエでは、明らかにこの注文数をさばききれないでいた。そこで、杏奈と睦月は、すぐにスタッフを増やすことを決め、準備に取り掛かった。睦月は主に人材の募集を担当し、杏奈はもっと広いアトリエを探して移転先を決めることになった。ちょうどその時、健吾がやってきた。杏奈は彼を捕まえて、自分の運転手役をさせた。「うちの杏奈ちゃんも、成長したじゃないか」だが、杏奈は甘ったるい言葉にはまったく動じなかった。むしろ自分のどこが成長したのか、分かっていなかったようだ。「彼氏をこき使うことを覚えただろ」そう言われ杏奈は呆れた。今までだって、健吾を運転手代わりにしたことは何度もあったのに。そう思って、杏奈は健吾の言葉を適当にあしらったあと、連絡を取っていた不動産屋にメッセージを送った。一方、健吾は彼女が忙しいのを見て、それ以上からかうのをやめた。杏奈に言われた住所の通り、ここから3キロほど離れたオフィスビルに着いた。オフィスビルはここ数年で建てられたもので、橋本グループも出資していた。杏奈はもちろんそんなことは知らずにいたが、健吾もただビルを見上げて、何も言わなかった。そして、不動産屋は杏奈をワンフロア空いている16階に案内した。そして、不動産屋がフロアの半分を借りることもできると杏奈に説明しているのを聞いて、健吾がとうとう口を挟んだ。「ワンフロア全部借りちゃえよ。あなたのアトリエがこのまま小さい規模で終わるわけない。全部借りたほうが便利だって」でも、杏奈は少し迷っていた。ワンフロアとなると今のアトリエの十数倍の広さになる。スタッフを増やすといっても、急にそんなに大勢は雇えない。全部借りるのは、少しもったいない気がした。だが、健吾は隣にある二つのオフィスを指さした。「ここをパターン室にすればいいじゃないか。デザイナー一人ひとりに個室があれば、集中できて効率も上がる。自分の力をしっかり発揮できるはずだろ」それを聞いて杏奈は、健吾の様子が少しおかしいと感じた。彼の言っていることには一理あるけど、でもそこまでする必要はないからだ。静かな環境が必要なのはデザインを考える時だけで、型紙を作る作業にはいらない。杏奈は健吾をそばに引き寄せて、「どうしてワンフロ
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第437話

「汐梨さんのこと、どうするつもりですか?」「それはあなたの出方次第ですよ」健吾が口元にうっすらと笑みを浮かべる。その色気のある瞳に宿る悪意を見て、克哉は背筋が寒くなった。すると、彼は警戒心をあらわにして、健吾を睨みつけた。「何をするつもりですか?」そこで、健吾はパンと手を叩いた。すると個室のドアが開けられ、それぞれ雰囲気の違う美女たちが数人入ってきた。健吾は克哉を指差して言った。「こちらは、かの有名な大スターの鈴木克哉さんだ。せいぜい、ご奉仕してあげて」健吾がそう言い終えると、克哉の顔色が変わった。一方、女たちは一斉に克哉の周りに群がり、彼の顔をうれしそうにのぞき込んだ。「本物の鈴木さんですね!サインしてくれませんか?写真はまずいでしょうから、やめときますけど」「何を言っているんですか?鈴木さんご本人から声がかかったのですから、今さらスキャンダルなんて気にしても仕方ないですよ。鈴木さん、私たちがたっぷりご奉仕しますからね」すると克哉は、女たちが体に触れてくる前に、冷たい表情で席を立った。その氷のように冷たい視線で一瞥されると、美女たちは凍りつき、一歩も前に進めなくなった。そして克哉はまた、健吾に冷ややかな視線を向けた。「これはどういうつもりですか!」「別に?あなたに、ちょっとリラックスしてもらおうと思っただけですよ」健吾はスマホをポケットにしまうと、殴りかかりたくなるような憎たらしい笑みを克哉に向けた。それには、さすがに克哉も我慢の限界だった。拳を振り上げ、健吾に殴りかかった。すると健吾は、すっと身をかわした。一方、ただならぬ雰囲気を察した女たちは、とばっちりを恐れて、そそくさと個室から出て行った。「この男、今日こそあなたをぶちのめす!よくも俺をはめやがったな!杏奈には、もう一生あなたと口をきくなって言ってやる!」一方、健吾は彼の攻撃を軽々とかわしながら、落ち着き払った声で言った。「杏奈さんは、俺がこうすることを知ったら感謝してくれるはずですよ」「ふざけるな!そんな手慣れた様子で女を呼ぶなんて、いつもここで遊んでるんだろう?あなたがどんな男か、杏奈に全部ばらしてやる。俺がいる限り、杏奈はあなたにやらん!」「結婚するのは俺と杏奈さんです。後から出てきたあなたが意見するの
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第438話

一方、健吾は個室のドアを出ると、すぐに別の個室へ入った。個室では翼がすでに待っていた。潤平も一緒だ。健吾は部屋に入ると二人には目もくれず、自分のノートパソコンを取り出して、克哉のいる個室の監視カメラの映像を映し出した。すると画面の中では、汐梨が克哉の腕を掴んでいて、克哉は振り向いて汐梨を見た。そこで汐梨は淡々と言った。「克哉さん、あなたって裏では結構派手に遊んでるのね」それは疑問ではなく、確信に満ちた口調だった。それを言われ、克哉は頭が真っ白になった。彼は思わず反論した。「俺がいつ派手に遊んだって言うんだ?」濡れ衣を着せられて、克哉は焦りでどうにかなりそうだった。だが、汐梨は無表情で彼を見つめ、その美しい瞳に感情はなかったが、なぜか克哉の背筋を凍らせるような迫力があった。「それじゃ、さっき、個室で何をしていたの?」そこで克哉は思い出した。さっき女性たちに囲まれていた時、健吾の野郎がスマホを構えて写真を撮っていたことを。彼は、健吾が自分をここに連れてきた目的を、ほぼ瞬時に理解した。健吾は汐梨がここにいることを知っていて、彼女が自分を探しに来るように口実を作ったのだ。さっき健吾が撮った写真はきっと汐梨に送られて、何か脅し文句も添えられていたに違いない。例えば、彼女がここに来なければ写真をばらまいて、自分の評判をめちゃくちゃにしてやるとか。だから汐梨は、自分を心配してここに来てくれたのかもしれない。そう考えると、克哉の目に希望の光が宿った。そしてもはや健吾に腹を立てている場合ではないと思った彼は汐梨の手を掴むと、これでもかというスピードで説明を始めた。「橋本って男に嵌められたんだ!あいつに飲みに誘われてここに来たら、女の子を何人も呼んで俺に押し付けてきたんだよ。俺を破滅させる気なんだ!」そうだ、ここはきっぱりと健吾を切り捨てるのが、最善の方法だった。すると、画面を録画していた健吾の手が止まった。この部分を杏奈に見られたら、どんな言い訳も通用しないだろう。そう思って彼は目を細め、画面越しに克哉へ冷たい視線を送った。こいつは恩を仇で返すつもりなんだ。一方、汐梨は知らない番号から来たメッセージを思い出し、その脅迫めいた言葉を健吾と結びつけて考えると、彼女はもう、八割がた克哉の話を
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第439話

そう呟いて、克哉は、自分がなんて役立たずなんだとさえ思えた。監督の松本祐樹(まつもと ゆうき)のドラマは、主役が汐梨に決まったらしい。というのも、ここ数日、ネットで真奈美の悪い噂が広まりすぎたせいだ。たとえスポンサーの力があったとしても、ドラマを無事に放送するためには、もう彼女を主役にはできないだろう。それどころか、撮影に参加することさえ、もうできないかもしれない。嬉しい知らせではあったけど、汐梨が自分の助けを借りなかったことに、克哉は少し引っかかっていた。だけど、汐梨はプライドが高いんだ。仕事のことで、彼の足を引っ張りたくないと思っているのだろう。だから仕事を取ってくることに関して、彼女は克哉に口出しされたくなかった。「何ぶつぶつ言ってるの?」「何でもないよ!」克哉は笑顔を作って、汐梨を見た。「じゃあ、俺たち、仲直りってことでいい?」そう言われ汐梨は、つないでいる自分たちの手を見るように促した。「どうかしら?」克哉はとても喜んだ。ここ数日、心に漂っていた暗い気持ちが、こうして一気に晴れていったように思えた。一方健吾は、二人がキスをするのを見届けると、監視モニターの電源を切った。そして、映像の後半部分を切り取って杏奈に送った。杏奈は最近、目が回るほど忙しい。だから、健吾は彼女を少しでも楽しませて、喜ばせたかったのだ。そして、健吾の手が空いたのを見計らって、潤平が口を開いた。「橋本社長、俺を呼びつけておいて、自分はずっとパソコンとにらめっこなんて、あんまりじゃないですか?」それを聞いて健吾はパソコンを閉じると、ゆったりと背もたれに体を預けた。その気だるそうな様子は、何か大事な話があるようには見えなかった。「福田社長、呼んだのは他でもないです。ただ、少し話がしたかっただけですよ。そんなに緊張しないでください」潤平は、緊張などしていない、と言い返したかった。ただ、健吾が何をたくらんでいるのか、その腹の内が読めなかっただけだ。これまで、福田家と橋本家の提携は少なくない。むしろ、かなり密接な関係を築いてきた。橋本グループの唯一の跡取りである健吾とも、潤平は何度か顔を合わせていた。健吾は年齢に似合わない落ち着きを持ち、ビジネスの才能も恐ろしいほど優れていて、その手腕は強引で、洞察力も高かった
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第440話

それから潤平が帰っていくと、翼はゆっくりと健吾に視線を移した。「要するに俺は、あなたたちの口約束の証人にするためだけに、無理やり連れてこられたってことか?」その言葉に健吾は表情を変えずに頷いた。「自分の立ち位置が、よく分かってるじゃないか」それを聞いて翼は、こいつにさえ勝てるなら、今すぐ殴りかかってやったのに、と歯を食いしばった。一方。、杏奈が健吾からのメッセージに気づいたのは、仕事が終わった後だった。動画には、克哉と汐梨が仲直りした様子がはっきりと映っていた。杏奈はそれを見て、推しカップルが結ばれたのを見たような気になって、すごく嬉しく思えた。だからパターン室から出たところで、ちょうど健吾に返事をしようとしていた。すると、健吾がとっくに彼女のオフィスに来ていることに気づいた。彼はソファで眠っていた。外はもう暗くなっていた。オフィスの電気は消えていた。外から差し込む光で、ソファの肘掛けにもたれて眠る健吾が見えた。彼のふわふわした銀髪はいつもみたいに整えられてなくて、くしゃくしゃだ。そして整った目元は少し長めの前髪に隠れていて、銀色の髪が触れるたび、長くてカールしたまつ毛が微かに震えていた。それを見た杏奈は思わず抜き足差し足で近づくと、健吾の目の前でしゃがみこんだ。そして彼女は瞬きもせず、健吾の美しい寝顔に見入っていた。彫りの深い眉に、すっと通った鼻筋。透き通るような白い肌には何の欠点も見当たらない。まるで、名高い彫刻家が一生をかけて作り上げた完璧な芸術品のようだ。その横顔の半分に光が当たり、その姿はミステリアスな雰囲気を醸し出しているようで、杏奈は、思わず吸い寄せられたかのように指先を伸ばし、健吾のまつ毛にそっと触れた。なんで男の人のまつ毛がこんなに長いんだろう、と彼女は不思議に思った。よく見たら、肌なんて自分より綺麗じゃない?こっそりいい化粧品でも使ってるのかな。そう思いながらいつの間にか、杏奈の温かい指先は健吾のまつ毛から唇へと滑り落ちていた。そこで彼女はようやく我に返り、頬が少し赤くなった。手を引っ込めようとした瞬間、その指先をぱくりと口に含まれた。健吾がからかうように指先を軽く噛む。杏奈は慌てて手を引っ込め、顔を上げると、笑みをたたえた彼の色っぽい目と視線がかち合
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