「そんな昔の話、なんで今さらするんだよ」気まずすぎるだろうと健吾は思った。しかし、香織はそんな彼をよそに続けた。「言いたいのはね、あなたは幼稚園の頃にはもう、『ママなんかいらない』なんて言ったら傷つくって分かってたでしょ。でも、浩くんはその言葉が母親を傷つけるなんて思ってもいない。それどころか、他の女の人を母親にしようと行動まで起こしたの。彼にとっては、それは間違いじゃなくて、正しい選択だったのよ。つまり、心の底から杏奈さんという母親はどうでもいい存在だってこと。一度あることは二度あるのよ。もしここで情けをかけて許してしまったら、また裏切られることになるに決まっているのに、杏奈さんがそんなに馬鹿だと思う?」香織の言葉は、もっともだった。しかし、健吾が心配していたのは、まさに杏奈が一度でも情に流されてしまうことだった。話はここまでにして、香織はそれ以上何も言わなかった。服を整えて立ち上がり、健吾の肩をポンと叩いた。「杏奈さんはあなたが思うほど、弱くないわよ」そう言うと、彼女は行ってしまった。健吾はソファに座り、しばらく香織の言葉を噛みしめていた。そして、やはり自分が直接見張って、浩が杏奈にあまり近づかないようにしなければならないと、そう思った。一方、健吾がそんな心配をしているなんて、杏奈は知らなかった。もし知っていたら、彼女はきっと健吾の頭をこじ開けて、中身がどうなってるのか確かめたくなっただろう。それにデザインコンテストを間近に控え、杏奈は他のことに構っている暇はなかった。浩のことも、とっくに頭の片隅に追いやっていた。だから、健吾がどんどん自分にべったりになっていることにも、気づかなかった。逆に睦月は、健吾がまた朝早くからアトリエに来て杏奈にまとわりついているのを見て、からかうように言った。「健吾さん、忙しいはずなのに、最近いつも私たちのアトリエに顔を出してきて、会社は大丈夫なんですか?」睦月の意味深な視線を受けて、杏奈は最近の健吾が、確かに頻繁に来すぎていることにようやく気づいた。彼女は手を止め、いつでも喉が渇いた時に飲めるようにお茶を持ってそばにいる男を見つめた。「最近、暇なの?」その言葉に、健吾は不満そうな顔をした。「俺は暇な時しか、あなたに会いに来ないってことか?」「そうじゃ
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