All Chapters of あざとい女に夫も息子も夢中!兄たちが出動!: Chapter 421 - Chapter 430

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第421話

「そんな昔の話、なんで今さらするんだよ」気まずすぎるだろうと健吾は思った。しかし、香織はそんな彼をよそに続けた。「言いたいのはね、あなたは幼稚園の頃にはもう、『ママなんかいらない』なんて言ったら傷つくって分かってたでしょ。でも、浩くんはその言葉が母親を傷つけるなんて思ってもいない。それどころか、他の女の人を母親にしようと行動まで起こしたの。彼にとっては、それは間違いじゃなくて、正しい選択だったのよ。つまり、心の底から杏奈さんという母親はどうでもいい存在だってこと。一度あることは二度あるのよ。もしここで情けをかけて許してしまったら、また裏切られることになるに決まっているのに、杏奈さんがそんなに馬鹿だと思う?」香織の言葉は、もっともだった。しかし、健吾が心配していたのは、まさに杏奈が一度でも情に流されてしまうことだった。話はここまでにして、香織はそれ以上何も言わなかった。服を整えて立ち上がり、健吾の肩をポンと叩いた。「杏奈さんはあなたが思うほど、弱くないわよ」そう言うと、彼女は行ってしまった。健吾はソファに座り、しばらく香織の言葉を噛みしめていた。そして、やはり自分が直接見張って、浩が杏奈にあまり近づかないようにしなければならないと、そう思った。一方、健吾がそんな心配をしているなんて、杏奈は知らなかった。もし知っていたら、彼女はきっと健吾の頭をこじ開けて、中身がどうなってるのか確かめたくなっただろう。それにデザインコンテストを間近に控え、杏奈は他のことに構っている暇はなかった。浩のことも、とっくに頭の片隅に追いやっていた。だから、健吾がどんどん自分にべったりになっていることにも、気づかなかった。逆に睦月は、健吾がまた朝早くからアトリエに来て杏奈にまとわりついているのを見て、からかうように言った。「健吾さん、忙しいはずなのに、最近いつも私たちのアトリエに顔を出してきて、会社は大丈夫なんですか?」睦月の意味深な視線を受けて、杏奈は最近の健吾が、確かに頻繁に来すぎていることにようやく気づいた。彼女は手を止め、いつでも喉が渇いた時に飲めるようにお茶を持ってそばにいる男を見つめた。「最近、暇なの?」その言葉に、健吾は不満そうな顔をした。「俺は暇な時しか、あなたに会いに来ないってことか?」「そうじゃ
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第422話

杏奈はとっさにバッグで殴りかかろうとした。でも、その手は横から伸びてきた手に掴まれた。「私よ」杏奈が目を向けると、そこにいたのは汐梨だった。「白石さん?どうしてあなたがここに?」汐梨はおしゃれなロングワンピースを着て、長い髪を肩までおろして、大きなサングラスで顔のほとんどが隠れていた。そのサングラスは、克哉が彼女に贈ったものだ。杏奈も、わずかに見えている顔の下半分だけで、よく汐梨だと気づけたものだ。「私に何か用事?」汐梨はサングラスを外して杏奈を見つめた。その瞳には、何かを懇願するかのような色が浮かんでいた。「お願い、ちょっと助けてほしいの」女子トイレにまで逃げ込んでくるなんて。杏奈は、彼女がストーカーまがいのファンに追われているのだと思った。「もしかしてストーカー?私がなんとかしてあげるから」汐梨は首を横に振った。「ストーカーじゃないの」「え、じゃあ誰?」「克哉さんよ」杏奈は言葉を失った。兄って、女の子へのアプローチ下手すぎでしょ。こんなに時間がたっても、まだ汐梨に避けられてるなんて。「何かあったの?」しかし汐梨は何も言わず、ただ杏奈の腕を掴んで、真っ黒な瞳で、助けを求めるように彼女を見つめた。「お願い、助けてくれる?どうなの?」そう言われ、杏奈は探るように尋ねた。「兄さんは、何か許されないようなことでもしたの?」「同じ女同士でしょ。私のこの状況を見て見ぬふりなんてしないで」それには杏奈はもう、ため息をつくしかなかった。彼女は聞いた。「兄さんは外にいるの?」汐梨はうなずいた。「わかった。私があとで出て彼を引き止めておくから、そのすきに逃げて」汐梨はOKサインを作った。それから杏奈は用を足してから、外へ出た。だが、モールのフロアをぐるりと見渡したが、克哉の姿は見当たらなかった。一方、健吾はいつの間にか乃々香にアイスを買ってあげたようで、トイレの外のベンチで二人、おとなしく彼女を待っていた。杏奈が出てくるのを見ると、健吾は乃々香のことなど気にせず、立ち上がって彼女の元へ歩み寄った。「この子のお父さんに電話して、彼女を迎えに来させようか?」杏奈は、健吾の目にうんざりした色が浮かんでいるのを見てとった。さっきまで健吾と乃々香は仲良くや
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第423話

「そんなはずはない。外で待ってたけど、彼女が出てくるところは見ていないんだ」すると杏奈は、まるでストーカーを見るような目で、なんとも言えない表情で克哉を見た。克哉は自分の言い方に誤解を招くところがあったと気づいたのか、言い方を変えて説明した。「彼女とちょっと喧嘩してね。デパートで買い物してたら、急に走って行っちゃったんだ」そう言う彼の声は、どこか切なげだった。「どんな喧嘩をしたら、そんなに避けられるの?」克哉は答えた。「汐梨さんは、今度ドラマに出るんだけど、主役に決まってたんだ。でも監督が急に心変わりして、聞いたこともないような無名の子に役を取られちゃってさ。だから俺が鈴木グループの力で監督に話をつけてやろうとしたら、怒られたんだ」杏奈は少し驚いた。彼女が知る限り、克哉は芸能界に入ってから今まで、一度も鈴木家のコネに頼らず、ずっと自分の力だけでやってきたはずだった。売れない頃はエキストラばかりだったし、ルックスに恵まれていたにもかかわらず、多くの先輩俳優から嫌がらせを受けたこともあったそうだ。そんな苦労を乗り越えて今の地位を築いたのだから、もう実家の力なんて必要ないはずなのに。まさか汐梨のために、初めて実家のコネを使おうとするなんて。杏奈は尋ねた。「お兄さん、業界ではそれなりに名が知れてるでしょ。あなたが口を利いてもダメだったの?」その話になると、克哉の目に珍しく険しい光が宿った。「このドラマのスポンサーに問題があるんだ。監督は大物で、普通はスポンサーの言いなりになるような人じゃない。なのに今回は、なぜか考えを変えたらしい。調べてみたら、どこか大きな財閥が裏で手を引いているようだ」克哉は、その人物が竜也だということを突き止めていた。だが、あのクズ男の名前を出して、杏奈を悲しませたくはなかった。一方、杏奈は考え込んだ。克哉はそれ以上追及されるのを恐れたのか、焦ったように言った。「なあ、汐梨さんは本当に中にいないのか?もう一度入って探してきてくれないかな?」杏奈は少し困ってしまった。でも、汐梨とはもう約束してしまったのだ。彼女はただ、じっと兄を見つめた。そして乃々香を克哉の隣に預けると、杏奈は再び女子トイレへと入っていった。すると汐梨は、やはりまだ中にいた。杏奈は彼女に尋ねた。「本当に、
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第424話

すると、杏奈は何も言わず、克哉が自分で考えるのを待った。克哉も杏奈が自分を騙すはずがないと思い直し、しばらく考えてからそのことを受け入れることにした。すると、彼はがっくりと肩を落とした。「あんなこと、彼女に言うんじゃなかったな……」克哉はひどく後悔していた。実を言うと杏奈は、克哉と汐梨がどうやって知り合ったのか、少し気になっていた。というか、どうしてそこまで汐梨に夢中になったんだろう?杏奈から見れば、最初の頃の汐梨は克哉とそんなに親しそうには見えなかったからだ。でも、今はそんなことを気にしている場合じゃなかった。杏奈は健吾の方を見た。すると健吾が口を開いた。「福田社長がもうすぐ、この子を迎えに来る」福田潤平(ふくだ じゅんぺい)の名前を聞いて、そばにいた二人がじっと健吾を見た。「なんでパパに電話したの?」「彼が来るんですか?」乃々香と克哉は、同時に声を上げた。そして乃々香は急いで杏奈のそばに駆け寄ると、その手を取った。「お姉ちゃん、パパに迎えに来させないで!帰りたくない!」克哉も眉をひそめて杏奈を見た。「杏奈、どうして福田家の人間と関わることになったんだ?」仕方なく、杏奈は克哉に、あの日の出来事をかいつまんで話した。克哉は話を聞いて、今さらながらぞっとした。「なんでそんなことがあったのに、俺たちに言わないんだ?たった一人で犯人に立ち向かうなんて!怪我はしてないのか?」杏奈は首を横に振った。「怪我はしてないから、安心して」だが、克哉は不満げに彼女を見た。「これからは何かあったら、まず俺たちに言え。一人で抱え込むな」そう言って、克哉の瞳には、心からの心配が滲んでいた。杏奈はその気持ちが嬉しかった。鈴木家に戻ってからも、兄たちはいつも自分に言い聞かせてくれた。自分の後ろには兄たちがいる、何があっても一人で背負う必要はない。一方健吾は、そんな二人の絆の深さを見せつけられるのが面白くなかった。彼は杏奈の隣に歩み寄ると、空いていた方の手を握った。「俺もいる。だから何かあったら、まず俺に言え」それを聞いて、今度は克哉が不満そうに健吾を睨みつけた。「なんであなたがいつも出てくるんですか?」そう言われて健吾は彼を軽く一瞥した。その落ち着いた瞳には、かすかな挑発の色が
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第425話

だが、潤平は乃々香の手を引くと、何気なく杏奈に視線を向け、少し冷たい口調で言った。「これは我が家の問題ですので、鈴木さんにご心配いただく必要はありません。この前助けてもらったし、今まで乃々香もご迷惑をおかけしましたから。本日の買い物はすべてこちらで支払わせていただきます」そう言って潤平は杏奈に軽く会釈すると、乃々香の手を引いてその場を去った。それから潤平の秘書が進み出てくると、杏奈に名刺を一枚手渡した。「鈴木さん、このショッピングモールのほとんどの店は福田グループの傘下にあります。この名刺をお使いになれば、お支払いは不要ですので、ご自由にお買い物ください」そう言うと、彼も立ち去った。克哉はカッとなったのか、杏奈の手から名刺を奪い取ると、そばにあったゴミ箱に投げ捨てた。「杏奈が、よその男の金を使う必要はない」彼はそう言うと、ブラックカードを取り出して杏奈に渡した。「今日の買い物は俺が全部出すから、楽しんでこい」それから克哉は杏奈の頭をポンと撫でて、その場を去っていった。ブラックカードを手に、杏奈はその場に立ち尽くした。なんだか呆れてしまうように感じた。いったい何を張り合っているんだろう。すると今度は健吾が、杏奈の手からそのブラックカードを抜き取り、彼女のバッグにしまい込んだ。「まるで俺が甲斐性なしみたいじゃないか。他の男の金は使うな。俺のを使え」健吾はそう言うと、杏奈の腰を抱き寄せ、ブランドショップの方へ歩き出した。そう言われ杏奈は、さらに呆れてしまった。そして彼らが去った後、ようやく汐梨がトイレから出てきた。「本当、話が長すぎよ」そう呟きながら彼女はサングラスをかけると、そそくさと近くのエレベーターホールへ向かい、エレベーターに乗ってショッピングモールを後にした。……そして何日かあと、デザインコンテストはいよいよ始まった。杏奈は自分でデザインしたドレスを持ってバックステージの控え室へ向かい、担当のモデルと合流した。モデルは顔立ちが整っていて、スタイルも抜群だった。杏奈は初めて彼女に会った時、その美しさに数秒間、立ち尽くしてしまったほどだ。どうやら今回のショーは、主催者側もかなり力を入れているらしい。まさか、国際的なスーパーモデルまで呼んでくるなんて。だが、モデルが着替えて
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第426話

「あの……」モデルが口を開こうとしたけど、真奈美はそれを無視して、一方的に話を続けた。彼女はモデルが着ている服をあざ笑うように一瞥してから、杏奈に視線を向けた。「お姉さん、その程度の腕でコンテストに出るなんて、恥をさらしに来たようなものね。あなたレベルじゃステージに立つまでもないわ。恥をかく前に、さっさと棄権したら?」それを聞いてモデルは、この服は杏奈がデザインしたものではないと説明しようとしたが、杏奈は彼女に向かって首を横に振った。真奈美に説明したところで聞きやしないし、時間の無駄だ。杏奈は真奈美を見て、冷静に言った。「私が出場するかどうかは、あなたには関係ないことよ。今すぐ出て行って。うちのモデルの邪魔をしないで」だが、真奈美は鼻で笑うと、杏奈の前に歩み寄った。「橋本社長と付き合ってるからって、この世界でうまくやっていけると思ったら大間違いよ?デザイナーねぇ……実力もないのにコネだけじゃ、賞なんて取れるわけないじゃない。あとでみんなの前でどんな恥をかくか、楽しみにしてるわ」そう言い捨てて、真奈美は控え室から出ていった。一方で、杏奈はもう彼女を気にも留めず、モデルの方を振り向いた。「ごめんなさい、本番の服はもうすぐ届きますから。それまでこれを着ていてください」今日、杏奈は会場に来るときにミスをして、違う服を持ってきてしまったのだ。この服は先日、クライアント用に作ったサンプルだった。モデルがきれいだから試着してみたいと言い、本番の服が届くまでまだ時間があったので、杏奈はそれを許可したのだ。それを聞いてモデルは手を振って、大丈夫だと伝えた。「鈴木さんのアトリエがデザインする服は、本当に個性的ですね。この服も、一見普通に見えるけど独特の魅力があります。たくさんのハイブランドの服を着てきましたけど、あなたのアトリエの服は本当に特別だと思います」モデルに褒められて、杏奈はとても嬉しくなった。「じゃあ、このショーが終わったら連絡先を交換しましょう。今度、プライベートの服も作らせてくださいね」「ぜひ!」これで新しいクライアントができそうで、杏奈は喜んだ。そこへ睦月が息を切らしながらようやく服を届けに来ると、いきなり杏奈の首に腕を回してヘッドロックをかけ、怒鳴りつけた。「こんな大事な時に、服を間違
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第427話

それを聞いて睦月はぶるっと体を震わせた。「もう、見てられないですよ!」杏奈は健吾の隣に座り、彼の服装をじっくりと見て、ふむ、と頷いた。「これじゃ、私が若い彼氏を囲っているとでも思われそうね」すると、健吾は杏奈の手を取り、雰囲気を一瞬で和らげると、席をずらして、もっと杏奈に体を寄せた。「いや、そんなことはないさ」健吾の声は優しく、まるで大型犬のように杏奈の手を握って甘えた。睦月はいつもあてられてばかりだが、もう慣れたものだった。一方、竜也の後ろに座っていた真奈美は、顔を横に向けると、健吾と杏奈がいちゃいちゃしているのが見えた。健吾はサングラスをかけていたが、真奈美はすぐに彼だとわかった。以前は橋本家の運転手だと勘違いしていたが、本当は橋本家唯一の後継者なのだ。そんな幸せそうな笑顔を浮かべる杏奈の顔を見て、真奈美はとても面白くなかった。彼女はぐっと拳を握りしめ、ショーが始まる前に席を立つと、杏奈と健吾の前に歩み寄った。「こちらが、かの有名な橋本社長でいらっしゃいますか?以前、京市でお見かけしましたが、その時は橋本社長だと存じ上げず、大変失礼いたしました。どうかお気になさらないでくださいね」真奈美の声はわざとらしく大きく、前の席に座っていた人たちもそれを聞いて、面白がって目を向けてきた。だが、健吾はサングラスをかけたまま、顔を上げることすらしなかった。無視された真奈美はむっとすると、今度は杏奈の方に顔を向けた。「このコンテストには橋本グループも出資なさっているとか。久保さんは出場者で、しかも橋本社長の恋人。それなら、もう優勝はあなたのものってことかしら?」これは明らかに、もし杏奈が優勝しても、それはコネを使った結果だと、皆に言いふらしているようなものだった。すると後ろの席から、ひそひそと話し声が聞こえてきた。「久保さん?誰のこと?ニュースで見たけど、橋本社長の恋人の苗字は鈴木じゃなかった?ほら、前に橋本社長と座ってるあの人」「ニュースが名前を間違えたのかもな。でも橋本社長が出資してるなら、このショーの優勝はたぶん彼女で決まりだろう」「えー、じゃあ見に来た意味ないじゃん」「いや、でも橋本グループってそんなに力があるのか?公式のコンテストに堂々と人をねじ込めるなんて」「ありえない話でも
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第428話

だが、杏奈はそれ以上、深く考えなかった。一方で、健吾は続けた。「それで?俺が彼に賄賂を渡したとでも?」真奈美は唇を引き結んで、何も言わなかった。もちろん賄賂なんて渡していない。竜也と健吾は敵対関係にある。たとえ健吾が賄賂を渡そうとしても、竜也がそれを受け取るはずがないのだ。でも、もうここまで話を大きくしてしまった。今さら否定したら、自分が騒ぎ立てているだけだと認めることになってしまう。そう思って彼女は言った。「それはあなたたちの間の話でしょう。私に分かるわけないじゃないですか」すると、健吾は立ち上がり真奈美を避けて審査員たちの前へと歩いていった。審査員の中には、公的に招待されたベテランもいる。簡単に買収できるような人たちではなかった。健吾はサングラスを外し、丁寧な態度で審査員たちを見つめた。「俺は皆さんに賄賂を渡したりしましたか?ご心配なく。この様子は全部ライブ配信されてますから。もし俺が賄賂を渡したなら、思いっきりまばたきしてください。そうすれば、見ている人たちにもわかりますから」杏奈は健吾の言葉を聞いて、思わず笑ってしまった。もう、何がなんだか。すると、潤平は眉をひそめ、健吾に視線を向けた。「橋本社長、もうすぐ始まりますよ。ここで騒ぎを起こすのはやめてください」「騒ぎを起こしているつもりはありません。さっき、俺が彼女に高得点をつけさせるために、あなた方に賄賂を渡したって言いがかりをつけてきた人がいたからですよ。これは公式の権威あるコンテストです。俺のせいで、このコンテストの品位を落とすわけにはいきませんからね」健吾はそう言うと、竜也に視線を移した。「そうだよね、中川社長?」竜也は、さきほど真奈美が杏奈と健吾のところへ向かうのを見て、少し胸騒ぎがしていた。まさか、本当に面倒事を起こすとは。そんな状況で竜也の顔色は冴えなかった。彼自身、コネを使って審査員の席に座っているのだから。真奈美がコネの話を表沙汰にしたことで、もし健吾ではなく、自分に火の粉が飛んできたらどうするんだ?このバカめ。だが、竜也は表面上は平静を装い、健吾に視線を送った。「俺に何の関係がある?橋本社長とは親しい仲じゃない」「つまり、俺が中川社長に賄賂を渡した事実はない。そういうことだよね?」健吾が尋ねる
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第429話

……その時、翼が口を開いた。「もし久保さんが、このコンテストが不公平だと思われるのでしたら、然るべき機関に通報してください。ですが、まもなくショーが始まります。ここで騒ぎを起こすのはご遠慮いただけますか」こうして、矛先は真奈美に向けられた。そんな中真奈美は竜也に視線を送った。彼が助け舟を出してくれるかもしれないと期待したのだ。しかし、竜也は彼女に見向きもしなかった。逆にその視線は、観客席にいる杏奈に、何気なく向けられていた。真奈美はカッと頭に血がのぼり、健吾に向き直った。「橋本社長が今、不正を働いているとは言いません。でも、彼女さんの作品がいまいちだった時に、橋本社長が彼女をかばわないとは言い切れませんよね」すると、健吾は口元だけを歪めて笑った。「お前から見れば、この公式コンテストはそんなに甘いもんなのか?俺が一言口をきけば、彼女を優勝させられるとでも思ってんのか?」「さあ、どうでしょうね」「真奈美!」声の主は、竜也だった。真奈美はびくっとし、不満そうに竜也を見た。「席に戻って座っていろ」こんな場所で騒ぎを起こすなんてどういう神経をしているんだ?それに公式という言葉まで出ているのに、まだそれに食い下がるとは。後でどんな目に遭うか、分かっていないんだ。一方、真奈美は腹が立って仕方がなかったが、竜也に怖い顔で叱られては、もう何も言い返せず、彼女は、ただ健吾を睨みつけることしかできなかった。「橋本社長、せいぜい有言実行してくださいね。あとで彼女さんの作品が笑いものにされても、黙って見ていなさいよ」そう言い放つと、真奈美は自分の席に戻っていった。それから、健吾も自分の席に戻った。彼の表情は険しかった。杏奈は健吾が腹を立てているのだと思い、なだめるように言った。「もう、怒らないで」健吾は杏奈の手を握り返し、怒りをあらわにした。「あいつはあなたがコネを使ったなんてよく言える。俺がお膳立てしようとしてもあなたが断ったのに、とんだ言いがかりだ」「身の潔白は、いずれ証明されるわ。あんな人と張り合ったって仕方ないでしょ?」健吾は数秒黙り込むと、スマホを取り出してメッセージを打ち始めた。杏奈が何をしているのかと尋ねる。「俺の気分を損ねといて、いい思いをしようったってそうはさせな
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第430話

真奈美は観客席に座り、無表情でショーを眺めていた。心の中では、杏奈のデザインした服を着たモデルが登場した時、会場中が真実を知ることになると考えていた。そして杏奈は、不正で名声を手に入れようとするインチキデザイナーだということが世に知れ渡るだろう。彼女にデザイナーを名乗る資格なんてないんだ。「わあ!このドレス、すごく素敵!」「ほんと、すごく綺麗!さっきまでのモデルの衣装も素敵だと思ったけど、このドレスは並外れているよね!」「しかも、気づいた?これってフォーマルだけじゃなくて、普段のお出かけにも着られそう。着回し力も抜群じゃない!」「私、投票しちゃった。今日の最優秀賞は間違いなくこのドレスよ!」……ショーの途中だというのに、後ろの席からは次々と感嘆の声が聞こえてくる中、健吾は杏奈の手を握りしめ、彼女の耳元に顔を寄せて甘く囁いた。「ほら、みんなあなたの作品を絶賛してるよ」杏奈は不思議そうな顔で健吾を見つめた。「私がデザインした服、あなたに見せた覚えはないんだけど」確かに健吾は最近、アトリエに来ては自分にべったりだった。でも、仕事中は頑なに彼を締め出していたはずだ。だから健吾はほとんどをオフィスで過ごしていて、自分のデザインを見る機会なんてなかったはずなのに。すると、健吾はバツが悪そうに口元を歪めた。杏奈は、彼がこっそり覗き見したのだとすぐに察した。健吾を責めるつもりはなかったが、彼の子供っぽさには少し呆れてしまった。健吾はまるで甘えん坊の大型犬のように、杏奈の肩に頭を乗せた。人目も気にしない様子だ。「その作品を見た瞬間、優勝はあなただって確信したんだ」一方、人前でこれほど親密な態度をとられることに、杏奈は慣れていなかったから、彼女は少し身じろぎして、「人が見てるでしょ」と囁いた。「平気だよ。俺は恥ずかしくないから」そんな彼に、杏奈は呆れて言葉も出なかった。あなたのことなんて聞いてないんだけど……健吾に手を握られていたが、周りの視線はステージに集中しているようだったので、杏奈は彼の好きにさせておくことにした。一方、健吾は杏奈の肩に寄りかかったまま、とっくに外していたサングラスの奥の瞳で、審査員席に座る竜也を見据えた。すると。ちょうどこちらを見ていた竜也と、視線がかち合い、
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