All Chapters of フルダイブMMOで現実改変できる『箱庭』アプリの話: Chapter 11 - Chapter 20

21 Chapters

Another Storys①「ライナス」

 ジュリアンはどちらかと言うと物静かで真面目な青年であった。 ソロとは大学時代からの友人で、授業そっちのけで新しいアプリの開発に励んでいた。「お前が作ったこのハクスラ、なかなか面白いよ」 ソロが単純に褒めると、「まだ改良の余地があると思わないか」 と、返すジュリアン。 幼き頃から親友と呼べる存在がいなかったジュリアンにとっては、ソロとの何気ない日々が楽しかった。 箱庭システムの開発計画に賛同し、集まった有志は数多くいたが、最終的に残ったのは彼ら以外たった三人であった。 そして、その三人もそれぞれ仕事や勉学に居場所を移し、アプリの運営からは一歩引いていた。 実質、箱庭アプリの管理はジュリアンの担当となり、有事の際はレポートにまとめて他のメンバーに通達していた。 三人は年齢も離れており職業や性格も千差万別で、彼らは箱庭の情報だけ得て危険は避け、裏であれこれ実験をして楽しんでいるようにジュリアンには思えた。 そのため、ジュリアンは箱庭運営の過程で全知全能の唯一神の存在を設定した。 それは箱庭内において万能の、まさしく神様のはずであった。 しかしバーチャルの唯一神は期待通りには機能せず、箱庭はユートピアとはほど遠い世界となり、リセットを繰り返した。(ジュリアンの精神は次第に病んでいった。) 最近、箱庭にあるトラップが仕掛けられているのをジュリアンは発見した。 ジュリアンはその行為を行っている人物の正体をなかなか特定できずにいたが、ついに突き止めた。 人物の名前はライナス。 アプリ開発に最後まで残った、他の三人のうちの一人で、ジュリアンとは親ほど歳が離れた労働者の男であった。 ライナスは箱庭内の、あるキャラクターを改造して独立して行動させ、世界をディストピアに導いていた。 そのキャラクターとは、世界を裏から操らんとする存在であり、データ上の名前はハデスとなっていた……。
last updateLast Updated : 2025-11-11
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第十一話「禁呪」

「セーラ逃げて! とても嫌な予感がするの!」(あたしはこんな予言めいた事しかできない……でも結構当たるのよ) マリアが叫んだその刹那、(悪魔の肉唇よ 汝が贄を食らい尽くせ……!)「まとめて死になさい」 パトラが悪しき禁呪の詠唱をようやく終える。« 膨狂餓飢地獄 » 強大な結界がセーラたちの上空に出現し、その周りを囲み収縮していく。 内部の空間は地獄の餓鬼界に繋がり、黒い汚泥まみれのおぞましき餓鬼たちが肉を喰らいに這い出て来る。«« ヴァ・レーンティン »»  その時、太い光弾が今まさにセーラとマリアを飲み込んだ餓鬼球に向かって発射された。 光弾はレーザーのように餓鬼球を貫通し、球は半分に欠けてドロリと地面に流れ落ちた。「オルド…様…?」 大地に降りたセーラは身体の汚泥を拭いながら、辺りを見回す。 しかし光弾が放たれた方向には何も見当たらなかった。 結界が割れた内部からは、夥しい数の餓鬼がわらわらと溢れ出てきた。「おいおい、あんなものが地上に」「ぁ……」 パトラはちょっと焦りながら唇を触った。「だから禁呪はやめろと、どうすんだあの数」 スルトが苦い顔をして後ずさる。「知らない。知らないわ」 気味悪そうに首を振るとパトラは炎衝を纏い、その場から飛び去ってしまった。「オッ、オイィ」 スルトも巨大な鴉の翼を背中から生やし後を追う。「地獄の存在が」 マリアが唖然としながら青ざめて呟く。「地上の生物に取って代わる……」「どうして! やっとの思いで魔導師や怪物を倒したのに、また世界は」 セーラは泣き叫びながら、天使の黄金虫という炸裂光線を餓鬼どもに放つが焼け石に水であった。 地獄の餓鬼は際限なく湧き出てくる。「また世界は、闇に閉ざされるの!?」「……餓鬼が出てくる地獄道の穴を堰き止めろ」 ずんぐりとした風体の男が背後からセーラの丸い尻に向かって声を掛けた。「天使の光気を使ってな。……ふむふむ」 男は素っ裸のセーラの全身を下から上まで舐め上げるように観察している。「だ、誰! ドワーフさん?」 セーラは急に恥ずかしくなり、四枚の羽根で体を包み込み大事な部分を急いで隠した。「ワシはオルドという天使の長に会うためここまでやって来たのだが、どうやら不在のようだな」「あの人は今ここには
last updateLast Updated : 2025-11-11
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第十二話「箱庭を愛した男」

「ふぅ…何とか終わったね」 セーラ達は地獄の餓鬼どもの処理を終え、木陰で麦茶を飲んで休んでいた。「ドワーフのおっさん凄かったなぁ」 特殊な浄化術で四人の中で一番たくさんの餓鬼を地獄へ送り返したのは、セーラに声をかけたドワーフの男であった。 彼は決められた役割と行動を終えると、口調も態度もがらりと変わり、自らをダニーと名乗った。 自分は箱庭の開発初期メンバーの一人であり、39歳で音楽教師をしているという。 カイは箱庭の操作方法をここぞとばかりにダニーに問い詰めたが、「リセットやアップロードという基本操作が出来なくなるという致命的なエラーを吐いた前例はこれまでになく、全く原因不明で我々開発者にも出来ることは少ない。修復出来ない以上、プレイヤーが箱庭システムを使ってやれることはさらに殆ど何もない。バグを利用したプレイやデータの閲覧ぐらいか」 と何とも残念な回答であった。「今回は久しぶりにジュリアンから箱庭の異常事態の知らせを聞いて来た。なるほど確かに異常だ、ソフトがここまで壊れたのは初めての事態だろう」 ダニーはアメリカ人がよくやるようなオーバーアクションで天を仰いだ。「他の二人はレポートを見てもいないかもしれない。ちゃんと読んだのは、招集に集まるのは、いつもボクとジュリアンだけだ。あと、たまにソロ。」 箱庭内では時間の流れが速く、何度も違った人生を試すことができる。 しかし権限を持った者の中に逸脱した行動や悪用をする存在がいると、これはもう何が正しいか間違いなのかも曖昧となり、混乱だけが支配する世界となる。「ジュリアンはいい奴だったが変わってしまった」「ソロは自己中心的な男で、壊れた箱庭が起こすバグで何か企んでいると聞いた」「ライナスはこの世でもっとも残酷で悪質な悪戯をする犯罪者だ」「それともう一人、箱庭の良心と呼ぶべき人がいた。ミシェルという女性だが、ライナスの操り人形のように彼に言われるがまま作業をし、ルーテという天使の担当を最後に今は消息不明だ。生きているか死んでいるか、ライナスとどんな関係だったのかも謎のまま…どうでもいい事だが」 ダニーはこの箱庭世界で何度も色んなキャラクターに転移していたらしい。 ジュリアンにもそういう時期があったそうだ。 通常、箱庭内で命を落とせばすぐに別のキャラクターへと転生する。 オルドのよう
last updateLast Updated : 2025-11-11
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第十三話「断罪決行」

 海皇ポセイドンはその肉体を箱庭界に顕現させた。 正体は元々箱庭に設定され眠っていたポセイドン神に転移し、もてる全ての魔法装備でその身を包み、神器の鉾を手に再び箱庭内に降臨した暴走ジュリアンであった。 ジュリアンは機能の多くがエラーとなった箱庭アプリのせいで、システム側から制御できなくなった全ての悪を自分の手で削除する使命感を持った。 自身が神になったつもりで裁きを断行する決意を固めていた。 悪魔どもは片っ端から街を荒らし回っていたので、居場所はすぐに分かった。 混沌の魔導師とも合流しており、街を占拠し住人を狩りながら、あの天魔複合した異形の怪物とはまた別の所業を進めていた。 ジュリアンは奴らを始末してから、ライナスの痕跡も見つけ次第、潰して消去していくつもりであった。「神は常に冷酷非情に、悪を断罪する」 そして最後はあの四つ羽根の天使セーラとそれを加護する神を、自らが設定した神をこの手で…。 準備、装備、手段はあらゆるものを用意した。 負けるはずが無かった。私は真の神となった、この箱庭での海皇ポセイドンとして、相応しい力を持ち、行使できる。冥府の神ハデスとはいえ所詮はNPC、この力で抑えられぬはずはなかった。 ゆったりと歩き空間をワープしてジュリアンは現地に到着した。「ん? 誰だ貴様は」 がらんどうの鎧戦士たちを従えて街を暴れ回るスルトは、地獄の八本足の馬スレイプニルを手に入れ、黄金ではなく黒い甲冑で身を包んでいた。「神器…あいつ。やっぱり生きてた」 パトラは魔法使いらしからぬ踊り子のような薄い生地の服を身に纏い、家屋の二階から突き出た木板の上にちょこんと座っていた。「混沌の魔導師、消えてもらうぞ」 スルトらを差し置いて魔導師に目を向けるジュリアン。「外の者よ……我は不滅、我の意志とは無関係にな」 魔導師は不気味な二重音声で答える。「やはり、お前たちは危険だな」 ジュリアンが見下して言う。「旦那、あの武器には異常なパワーがある、神器ってやつだ」 云うや否やスルトはスレイプニルで更にスピードを増し海皇に斬り込む。 ジュリアンは神器ポセイドンの鉾を胸の位置で回転させ、天に翳すよりも素早く多方面にその威光が照射される。「まずい!」 スルトが事態を察知するも今度は間に合わない。 ジュリアンの全ての挙動はマジックアイテ
last updateLast Updated : 2025-11-11
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第十四話「冥府の神」

 セーラは街の惨状を見渡した。「これは……あなたがやったの?」 あちこちの建物から硝煙や粉塵が立ち昇り、血塗れで倒れている人々の山。「この街は悪魔どもに占拠されていた、私がそいつらを退治したのだよ」 セーラは警戒して答えない。ジュリアンの目が殺気に満ちていたからだ。「そして退治しなければならないエラーがまた一人」 ジュリアンは神器の鉾を構えた。「その武器は、アレフの時の!」 天使のフル装備を纏ったセーラは肩に鉞を担いだ。 彼女の周りには銀河に流れる星雲のごとく何匹もの光虫が集って飛んでいる。 その時、地獄の底から響き渡るような低い呻き声と、気も狂わんばかりの金切り声が重なって同時に聞こえた。(我は、不滅、なり……)「何っ!? この薄気味悪い声!」 セーラは思わず耳を塞いだ。 カイとマリアを置いてきて良かった。常人ならば耳にするだけで生気を吸い取られる。 声の主はポセイドンの威光によって退化させられ、胴体を引き裂かれた混沌の魔導師であった。 その肉体は崩壊と同時に、直ちに再生を始めていた。 顔半分と全身を再生しながら、フラフラと立ち上がる魔導師、そして他の特級悪魔二人も……。 ジュリアンは僅かな感情の乱れから、額に一筋の汗を流した。「死神め……」 セーラの手によってその魂を消滅させたはずの老いた魔導師は、転生ではなく再生をして蘇ったのだ。 彼奴の設定は、死の国を統治する冥府の神ハデス、超再生は考えられない事では無かった。「しかし……こんな短時間で…」 混沌の魔導師……初めはライナスがボスイベントとして操作していたが、度重なる改造の先で自我を持ち、修正不可のバグとしてそのまま放置された。 結果、このキャラクターは箱庭世界における冥界の王として、悪魔どもを率いるようになっていった。 幾度もシミュレーションを繰り返して造られる箱庭、その輪廻に内側から気づく存在は極めて稀だが、この、世界の遺物のようなバグに拠るならば、或いは……。「冥界の王よ…! 貴様はこの私が滅してやるぞ、何度でもな!」 ジュリアンは落ち着きを取り戻すように怒声を発した。 そして、第2ラウンドが始まる。(気の遠くなるほど、数多の生と死を繰り返してきた……我はこの無限の連鎖をまさに呪いと呼ぶ。 この呪われし魂を浄化するため、あらゆる手段を講じ、太古
last updateLast Updated : 2025-11-11
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第十五話「カイ、諦めきれない」

 その頃、オルドの塔 跡地では… カイは"箱庭システムで世界を自由に動かす"という野心を諦めきれなかった。 閉ざされた箱庭内の一キャラクターに過ぎない自分が、開発者と同じ次元に立つなど到底不可能な夢物語、しかしその片鱗を知る事ができたこの幸運をどうしても逃したくなかった。 どうにかしてシステムのアップロード機能だけは復活させるために、自分が出来ることを考える。 自分は主に氷系の魔法とその他少しの一般魔法を使えることしか取り柄がない。 情報源としては開発者の五人が最も有益なはずだが、オルドとダニーの他には接点は見込めなかった。「無理なのか…オレが一廉の存在になるのは、どだい無理な話なのかマリア…」 箱庭のメイン画面をマウスでいじりまくるカイ。 今やこのオルド専用の箱庭アプリはカイだけが自由に触れる。チャンスなんだ……。 マリアは丸椅子に腰掛け、むっちりした脚を組んで頬杖をつきながらカイの後ろ姿を眺めていた。「ねぇ…カイ。だから無理だよ。ダニーさんが言ってたでしょ」「オルドさんはこの状態でちょいちょい世界の改変を行っていたらしいんだ、開発者の権限なのか分からないが可能性は残されてるはずだ」「そんなこと言ったって、ずーっと何も起きないじゃーん、もう諦めてセーラのとこ行こうよ」「セーラは今どこに?」「空を飛び回って悪魔を探してる」「なら邪魔しちゃ悪い……」「ねーえ暇ー」 カイは何となくマリアのデータをダウンロードしてみるが、相変わらず記号の羅列が分からない。 これを読める人物がいればまた違うのだが……。 ふとカイは思い出す。 以前にオルドから、術者の命を触媒にして全ての仲間を甦らせる最強の回復呪文があると聞いた。 魔法とは原理が違うのだろうが、個人の何かと引き換えにアップロードを一つくらい出来ないものだろうか。「何とか…何とかしてオレも」 焦るカイ。「いいじゃないの。カイはカイでしょ」「……」 慰められて涙ぐんでしまうカイであった。「苦戦してまちゅねカイ」 「その声は! ちょっとかなり幼いがオルドさん??」 カイが振り返るとそこにはエンゼルマークのような幼児の天使が誇らしげに立っていた。「やっとここまで育ちまちた」「オルド様なの!? そんなに可愛くなって……」「あいつに魂を消滅させられたんじゃ」「わつぃが
last updateLast Updated : 2025-11-11
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第十六話「娘」

 セーラは戦っている混沌の魔導師、いや、冥王ハデスの痩せ衰えた薄暗い姿をじっと見つめた。 みすぼらしい黒頭巾と装束姿で、ジュリアンの鉾に身体を砕かれては再生し暗黒魔法や腐蝕魔法を唱えている。 しかし海神に対して効果は薄く、再び蹴散らされては再生し、切れ切れの衣がまるでボロ雑巾のようで哀れに思えてくる。 ハデスの体は細く骨ばっていて、よく観ると前歯も何本か無く、それで素早く動いているのが余計に哀愁を誘った。 闘いの趨勢は明らかにジュリアンに傾いているように思えたが、終わりは見えなかった。 あの落ちぶれたヨボヨボの老人が自分の父だと、あれほど葛藤しながら乗り越えたものをまた……自分はかつてあの父をズタズタに滅ぼしてその事を吹っ切ったはず、今さら情も無い、はず……。 セーラは母親の存在をあらためて考えてみる。 天魔融合体の内部には多くの天使たちが肉もそのままに眠っており、その中に自分とそっくりの顔をした天使がいて、自分の血縁、いやその天使から別れた一部が自分であると、直感したのだった。 先の大戦中、セーラはこの天使ルーテの記憶をも一部思い出せた。更にルーテと共存する女性の思いや苦悩も……。ルーテはそういった二重思考をする天使であった。『ガギィィィン!!』 気づくとセーラはハデスを攻撃するジュリアンの鉾を、天使の鉞で受け止めていた。「何のつもりだ、堕ちたか? 天使セーラ」 ジュリアンは薄く笑みを浮かべた。「あれ? わたし……」 その背後からハデスは呪文を唱える。« 業禍炸烈衝 » 腐蝕弾が対象を襲う。 セーラ諸共、ジュリアンを攻撃するハデス。 ジュリアンは纏っている魔法の篭手で弾を振り払い無効化する。 飛び退いて腐蝕弾を躱すセーラにスルトが斬りかかり、パトラの無詠唱マジックミサイルが放たれる。 加護する光虫のヴェールが悪魔の攻撃を寄せ付けず、セーラは後方に着地する。「お前達は、天使を、やれ」 ハデスが二人の悪魔に命じる。 セーラのことをただの"天使"と呼び、まるで過去を忘れているかのようであった。(ボケちゃったのかしら……) セーラは少し心配になった。 命令するな、と言いながらここは従うスルト。パトラは不思議そうにハデスに目をやった。「待ってお兄ちゃん」「っと、なんだ」「この戦い、誰かの干渉を受
last updateLast Updated : 2025-11-11
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第十七話「ゲーミングマウス」

「開発者のマウスにゃ」 ミニオルドは衣服のポケットから秘密道具を取り出した。「そ、そのマウスは」「これを使わんとアップはできにゃい」 オルドは自慢げに、何の変哲もない白いワイヤレスマウスをカイの眼前に突きつけた。(なんてことだ、今までのオレの苦悩はいったい)「例えばこのハデス、不幸の元凶がもう復活ちている」 オルドは持参のマウスを操作してキャラクターデータのファイルを開く。「混沌の魔導師…ダニーさんも言っていた」「ダニーが来たんでちか?」「話すと少々長くなりますが…」「後でゆっくり聞きまつ。他言ちないように」(他にも箱庭に転移しているプレイヤーが残っているかもしれないからな……) そう独り言を呟いたオルドの声音は、ふざけるのを少し控えた真面目なものに変わっていた。「このハデスとセーラには深い因縁がある」「オルドさん、普通に喋れるんじゃないすか」「あー、ごほん、わつぃが今できることはかなり制限されている。アプリを使って弄れるのは個人の、ごく最近の記憶、強制できるのは直近の些細な行動のみでちゅ。でもハデスは果てしなく永く生きているからね、とりあえず奴の中のセーラに関する記憶はほぼ消去できるはずだ。何かと邪魔であろう」 話しながらオルドは完全に以前の口調に戻っていた。 消去→保存→元に戻す(アップロード) …… …… …… …… …… …… …… …… 転送完了。「これで奴の記憶からセーラに関わる情報があらかた消えたはずだ」「マジすか、こんなあっさりと…、オルドさん、他にオレ達に優位になるような改変はできますか? 悪魔の属性を中立に変えるとか」「昔はそれもできただろうが、アプリの機能が正常でない今は無理だな」「カイがむちゃくちゃ強くなるのは?」 マリアが口を挟む。「それは、別人にでもならぬ限り無理だ」「何らかの要因で能力ステータスの数値が大きく増えたり変わったりとかあり得ませんか」「ふむ、そういったバグも稀には起きるが、予測不可能だからな、ひたすら待つしかないだろう」 ──そして、三人はあれこれ可能性を探って、小一時間ほど話し合った。(オルドは全てを説明はしなかった) 期待した効果がすぐに望めそうもない事を理解したカイが肩を落としていると、室内に強烈な魔気が発生し、パトラが到着した。「
last updateLast Updated : 2025-11-11
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第十八話「世界を巡る」

「この地図は世界に隠されている秘宝を魔法で全て網羅してるの」「交渉のつもり?」 マリアが広げた魔法の地図をひょいと覗き込むパトラ。「バカね、悪魔は欲しいものは奪うのよ」 レアなマジックアイテムに心惹かれ、パトラはその地図を手に取って詳しく見たくなった。「ねぇ、一緒に旅をしない?」 マリアが思い切って誘いの声をかける。 ドキッとしたパトラは伸ばしかけた手を慌てて引っ込めた。(ほら、これをこうして……)「そこの二人っ! コソコソ何してるの!」「わっ」 アプリを使って記憶の一部を消すか、直近行動の強制、こちらへの攻撃を辞めさせようとしていたオルド達だったが、すぐにパトラにバレてしまった。 パトラは男どもを御すると再びマリアと話し始めた。「死ぬのが怖いんだね。分かるよ、わたしも人間だった時は怖かった」「仲良くなりたいほうが強いかなぁ。だってあなた角も羽も尻尾もないし、普通の可愛い女の子じゃないの」「騙されちゃ駄目だマリア! 悪魔は人間に化けるのが上手い、少女の姿の本体はきっとグロテスクな化け物だぞ! 大蛇みたいな!」「うるさいなー、あのヒョロガリ…」 外野の声にイラッとするパトラ。「パトラちゃん、広すぎるこの世界を、自分の目で色々見たいと思わない?」 マリアはパトラに歩み寄って手を繋ごうとした。「この印の数が、全て未知の世界……」 パトラは魔法の地図に興味津々であった。地図を見ながらパトラは迷った。そしてこの女の言葉にも。「待て! 不用意に近づくと危険だマリア!」(女はいいとして、あいつは殺そうかな) パトラは片手に魔力を込めて、カイのほうへ向き直った。「く、来るか」「待ってよパトラちゃん」 後ろから止めるマリアに何故か後ろ髪を引かれるパトラ。「……いいわ、この地図をくれるなら見逃してあげる。魔導師に悪戯したことも」「えっ、いいのか、あいつの仲間じゃないのか」「わたしにとっては大したことでもない、それにもっと楽しそうな遊びを教えてくれたしね」 パトラは静かに微笑みマリアから地図を受け取る。「じゃあね、マリア、これありがとね」「一人で行っちゃうの?」 魔法の地図を手にしたパトラはマリアを連れてはいかず一人、炎衝飛行の呪文を唱え飛び去っていった。「旅立ったか。さすがマリア。上手くやったな、あの
last updateLast Updated : 2025-11-11
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第十九話「外法」

「そうか、ダニーは自ら消滅を選んだか……」「でもまた転生できるんでしょ?」 ミニオルドの落胆の言葉に明るく返すマリア。「アプリにはダニーさんの名前が残っていなくて」 カイはずっと気になっていた事を話した。「彼はきっと次の器を指定しなかった、我々は選ぶことができる、転生する先を」「となるとダニーさんは箱庭内でそのまま…まさか」「リスク前提なんだ、箱庭への転移は。それを行うプレイヤーは殆ど居なくなった。物質的に消えるのだ、命が」 カイは恐る恐るもう一つ告白をした。 ステータスをバグらせようと、自分のデータを開いたままアプリを強制終了させたり、他にも色んな無茶な操作をしていた、その悪影響が箱庭界に出ていないか、と。「そんなやり方では恐らく何も影響しないから安心しろ」 そう言ってオルドは少々沈黙した。「カイ………そんなに強くなりたいか、どうしても」「なりたいっす」「話していなかった方法が一つある。箱庭は地球を模した星として生きている、前に話したな、命を触媒にした回復魔法のことを。それは箱庭システムにも当てはまる。お前の推測は半分当たっている、生体エネルギーつまり肉体と魂を、命そのものをアプリに転送すれば、箱庭の壊れたシステムを甦らせ、エラーの修復を可能にするかもしれない。もちろん命懸けのこの方法はまだ誰も試してはいない」「……」「命を全て捧げずとも個人のステータス改変くらいなら、生体エネルギーを大幅に使えば起こせるかもしれんな。通常のやり方とは違う、アップロードを必要としない外法、当然バグる可能性は大きい。ステが数値化できないものになったり、減ったり初期化したり、最悪、奇形な化け物になったりする覚悟がいる。ただしこの博打の成功例が全くないわけではない」「やります、オレ」 カイは即答した。「生体エネルギーって…死なないのよね?」 心配そうにマリアが確認する。「そこは加減する、だが結果は運次第だ」「目を閉じ脱力しろ」 早速オルドは開発者のマウスを操作して、カイの腕に浮き出たUSB端子口とノートパソコンを専用ケーブルで繋ぐ。 カイの元々血色の悪い顔色がみるみる土色になり、頬はげっそり痩けて萎み、目には赤黒いクマが深く刻まれていく。栗色の髪は全て白髪となり、縮んだ身体を包むローブがだるだるになった。 呪術など
last updateLast Updated : 2025-11-11
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