Lahat ng Kabanata ng フルダイブMMOで現実改変できる『箱庭』アプリの話: Kabanata 31 - Kabanata 40

80 Kabanata

第二十九話「打倒、開発者」

 よく晴れた青空の下、一行は氷漬けにされたスルトの前に到着した。 路上の真ん中に聳え立つ、巨大な氷の棺。 今のカイには圧倒的に魔力が足らず、やはり解呪は出来なかった。「生きてるの?」「悪魔の生命力なら…」「術者はカイかと思ったけど」 唐突にパトラが呟いた。ハデスの幹部、超上級悪魔の洞察力は甘くなかった。「違うわね。あなた程度の魔力で兄は封じ込められないはず」「あぁ(ふぅ…)」「カイはね、箱庭っていう…」「マリア待て」「箱庭? それは何なの?」「この世界のことだよ」 セーラが代わって説明する。彼女には何となく感じることができた。この世界を見つめるもう一つの世界の存在を。「まさか、そんなのあり得ない」 パトラは驚きを隠せず否定した。「オレ達は試されてる」 かぶりを振るカイ。「それでも、あなた達は世界を守るために戦うんだね」「もちろん」 セーラが即答する。「ね、カイ、マリア」「あ、うんまぁ…」「パトラちゃんはやっぱりあっち側?」 マリアが悲しそうに訊ねる。「わたしは中立かな、戦いよりもアイテム集めのほうが好き」「じゃあ一緒にオリュンポス山に行こ!」 一緒にいる口実ができたことをマリアは素直に喜んだ。「まずは生き延びた神様に会わなきゃ」 自らを鼓舞するようにセーラは言った。 ◆ 冥界の万魔殿に住まう堕天使ルシフェルは、六対十二枚の羽根をたたみ、漆黒のテーブルに向かって筆を取った。 そして、半紙に一気に文字を書き上げた。『宇宙創造』 達筆であった。「貼っておけ、マモン」「へぁっ!」 人間の身体に二つの黒いカラスの頭を持つ『強欲』の悪魔マモンは、半紙を受け取ると、粘着性の唾をつけて壁に貼り付けた。「私はこの世界を作り変える」 ルシフェルは尊大な態度で語った。そして墨汁に筆を浸し、もう一筆書いた。『打倒開発者』「貼っておけ、マモン」「へあっ」 マモンは命じられるまま壁に半紙を貼り付けた。ドクドクと蠢く肉壁はまるで生きているようであった。 そこに金の冠を腰部に結びつけた美しい女魔オノケリスが話に混ざってくる。「ルシフェル様、開発者とは何者でしょうか」「我々にとって最大の敵だ」「天界の神々よりも強力なのですか……」「あんなものは前座や」「ですが、まだ二神が生存してお
last updateHuling Na-update : 2025-11-21
Magbasa pa

第三十話「レイエス」

 オリュンポス山の中腹にあるコキノピロス村。 元は石造りの家々が立ち並ぶ美麗な村であったが、神と魔神の烈しい戦いの末、あちこちの建物が酷く倒壊していた。 セーラたち一行が到着した時には、生き延びたオリュンポス十二神のアレスとアポロンは、悪魔の追撃によって既に亡き者にされていた。二人とも見せしめのため十字に磔にされ、見るも無惨な姿で屠られていた。「くっ…遅かった……」 悔しそうにセーラが呟く。 物陰に潜みながらセーラ達を見つけたマモンは、パトラが上級悪魔だとすぐに気づくが、自分の部隊以外の悪魔に対する仲間意識は希薄であった。 落ち葉がひゅぅぅっと音を立てて風に舞う中で、セーラは父ハデスの気配を感じ取った。遥か上空を見上げると復活したハデスと思しき黒球が、他の星々と同じくらいの大きさの点として存在し、地上の様子をゆったりと監視していた。「もしやセーラ様ですか?」「誰!」 セーラが急いで振り返ると、そこには地元民と思われる軽装の少年がいた。「噂に聞き及んでおります。世界を救ってくださった天使セーラ様ですね…僕の名前はレイエスと言います」 戦士然としたその村人はまず自己紹介をした。「この神聖な村は、山頂に向かう途中の悪魔どもに蹴散らされて、ほぼ全滅してしまったようです、僕が旅から戻ったらこの有様で……」 物音が殆どせず、辺りは静寂に包まれていた。「手負いであったアポロン様、アレス様も……僕は…戦いたかった」 拳を握り締めるレイエス。「セーラ様、悪魔と戦うつもりでしたら、僕も助太刀いたします。これでも偽勇者と呼ばれるほどには腕に自信があります……フッ」 そう言うとレイエスは、物陰に隠れながら会話を盗み聞きしているマモンのほうに視線を向ける、と同時にダッシュして飛びかかり、剣で敵の身体を斬りつけると優雅に着地しポーズを決めた。「へがぁぁっ」 胸部を斜めに斬られたマモンは、傷口を手で押さえながら遠くに飛び退いた。押さえた傷はすぐに治癒されていく。「カラスの悪魔!? あんなところに隠れて」 マリアが驚く。「本隊はもう引き上げたかな。ここには数匹いるだけ」 パトラが淡々と言った。「左様ですね、でも僕たちが組めば、数匹の悪魔くらいすぐに退治できますよ」「あのカラス以外の、他の悪魔はどこよ?」「あそこだ!」 カイが示した方向には、竜
last updateHuling Na-update : 2025-11-26
Magbasa pa

第三十一話「排除すべき者」

 ルシフェルは、排除すべき敵=箱庭開発者が、どのようにこの世界に存在しているか、ある種の目星を付けていた。 現存する開発者は恐らく四人、うち三人は確認している、一人は未確認、そして、五人目は死んだ、ここで特筆すべきは魂もろとも消失した事、これは箱庭内では決して死なないはずの開発者が、"リアル・プレーン"(元の世界、現世)と同じように死滅した事を意味する、つまり無敵に思える開発者にも弱点はある、キャラクターと同じレベルにまで落ちる条件が、例えば、自ら死を選ぶとか、"特殊な呪文"(コード)を詠唱する、とか、他には……、何にしろ我々が取るべき行動は開発者の身柄を捉えることだ、そして長期の拷問などで条件や方法の手がかり足がかりを吐かせる、とにかくまずはセーラを捉えよ… ルシフェルは玉座に座ったまま、宙を見上げた。 ◆ オリュンポス山の中腹、コキノピロス村では戦闘が続いていた。 その中で悪魔パトラの力は抜きん出ていた。「へやへァッ(強敵にして難敵)」「へぶらッ(格が違う)」 パトラは地の精霊に働きかけ、鋭く尖った岩塊を地面からいくつも屹立させた。マモンとアスモデウスは完全には避けきれず、腕や脚に岩が突き刺さり、一瞬間、身体の自由を奪われた。 そこにレイエスが剣撃を入れる。 特殊な剣捌きで二匹の悪魔を切り刻み、スタッとスマートに着地、ニコッと笑ってポーズを決める。「へヤッへァ…!(駄目だ撤退するぞ)」 マモンは素早い動作で魔法陣を描き、アスモデウスを連れて悪魔版、跳空間転移(ディメンショナル・リープ)で戦いの場から姿を消した。「逃がしたか」 レイエスが戦闘の構えを解く。「わたし達の出番が無かった。ありがとう」 セーラがレイエスの戦闘技術を褒めてお礼を言うと、突然、彼の態度が変わった。「ミシェル、戻ってこい」 セーラにその言葉を投げた直後、レイエスは煙のように跡形もなく消えた。あとには色鮮やかな蝶が二匹、飛び回っているだけであった。「消えた……、魔法ではなく、純粋に消えたね。どんなスキルだろう」 無表情を崩さずにパトラが言った。「セーラが…ミシェルって?」「ダニーさんの話に出てきた、行方不明の開発者だな」 カイは眉間に皺を寄せて何かを思案していた。「……」 セーラはすぐに返事が出来なかった。(キャラクターの決められた言動、二人
last updateHuling Na-update : 2025-11-27
Magbasa pa

第三十二話 「合流」

「レイエスの中身は開発者の一人だったという事か…ダニーさんの話では、似た名前にライナスってのがいたな」  ダニーを思い出しながらカイが言った。 「戻ってこい…って、その人と知り合いなの? セーラの本当の名前はミシェルなの?」  矢継ぎ早に質問するマリア。 「ごめん、わたしにもはっきりとは分からなくて…色々混乱してる」  セーラは申し訳なさそうに謝った。 「セーラは別世界から来た存在なんだ?」  パトラがあけすけに訊く。 「遠い世界の記憶が断片的にある…けど…うーん」 「あまり考えすぎても良くない、分からないものは仕方ないさ。己の信じた道を全力で進むだけだ」  カイは気を遣って話題を変えた。 「これからの悪魔との戦いは生半可な力と覚悟では乗り切れないかもしれない、まぁそれは今までもそうだったが…」 「今の戦力じゃ悪魔の本隊に狙われたら瞬殺されるよ、三人とも」  パトラが悪意なく煽る。 「んぐ……」  カイは反論できなかった。  そしてせっかく皆に救われた命を再び投げ出すことになりかねない、箱庭アプリのバグにその身を投じる事も考えていた。  ◆  オルドの塔跡地、隠し地下室にて。  オルドことソロは箱庭アプリの画面を眺めて危機感に震えていた。  冥府の神ハデスが蘇った、それに伴いセーラやルーテの記憶を戻している。  そして、一気に追加された万魔殿のデータ。  悪魔どもを束ねる首魁、堕天使ルシフェルに仕える魔神や悪魔の数が多すぎる、個々のステータスが高すぎる、こちら側の戦力がどうしたって足りず、数の上でも歯が立たない。事実、地上最強であった天空神ゼウス率いるオリュンポス十二神までもが悪魔の軍団に全滅させられたのだ。  そして何よりやばくてまずいのは、このルシフェルが箱庭の存在に気づき、私たち開発者が死する方法を半ば突き止めていることであった。今はまだ自由に箱庭のキャラクターに転移でき、現世に戻る機能も作動するが、これらが箱庭世界に転移後、何らかの不具合で麻痺やパンクしたならば……。  ジュリアンは気づいているだろうか? バグカイに敗れてから、とんと音沙汰がないが、バグった仕組みでも分析しているのかもしれない。もはやそんな余裕や猶予は無いというのに。 ソロは
last updateHuling Na-update : 2025-11-30
Magbasa pa

第三十三話 「人為的エラー」

 高価そうな抽象画の油絵や二対のシーサーが迎えてくれる小洒落た玄関を上がり、ソロは二階にあるジュリアンの自室へと通された。「あの時はすまなかったな」  階段を登る途中で、ジュリアンは謝罪した。 「あそこまですれば、きっと君はこちらに引き上げると思ったんだ」 部屋は白と黒を基調にしたごく平凡な作りで、豪華な家具や壁紙などの飾り気は一切なく、だだっ広い空間にベッドとデスクとアクリルケースがあるだけの殺風景なものであった。「相変わらず何もない部屋だなー」 ジュリアン本人は自身をミニマリストと語り、アクリルケースには謎の宇宙生物シリーズというフィギュアがたくさん並べてあった。近くのゲームセンターのクレーンゲームで集めていると言う。  回転するオフィスチェアにジュリアンが腰掛け、ソロはカーペットに座布団もなくそのまま座った。「懐かしいな、大学時代を思い出す」  椅子でゆっくり回りながらジュリアンが言う。 「ダニーが死んだ事を知ったよ、私は彼を尊敬していたからとても残念だ」 「それで泣いてたのね」 「いやいや。あれは君に会えて感動したからだよ」 「恨んでるんじゃなかったか? 箱庭の運営から逃げた私を」 「状況が変わった、君とセーラの事はひとまず保留だ」  ジュリアンが椅子で回る速度が速まる。「ジュリアン、今後の箱庭のこと何か考えてるか」  機を見てソロが切り出す。 「どうやってもアプリの不具合は修正できない、もはや解体して一から作り直さないと……」  ジュリアンが低いトーンで答える。 「万魔殿のことは、気づいてるよな」 「流れを見るに悪魔の一括追加は、自然に沸いたというよりもこちら側の誰かの仕業だろう。その誰かはバグの影響が少なく、私たちのような制限もなく、自由に、いや正常に多くの機能を使えているようだ。更に他からアクセスできないよう何らかのプロテクトをかけている」 「プロテクト…人為的なエラーだったのか」 「それしか説明がつかない、そして、それを解く方法がどうしても見つからないんだ」  ジュリアンは回るのをやめて嘆息した。 「言っておくがワシではないぞ」 「私や君の仕業でないとしたら、残るはライナスとミシェル、或いは彼らから権限を与えられた第三者…」 「ライナス
last updateHuling Na-update : 2025-11-30
Magbasa pa

第三十四話 「三つ巴」

 万魔殿に逃げ帰ったマモンとアスモデウスは、ルシフェルからのお叱りを免れた。二神を屠るという最低限の命令と役目は確かに果たしたからである。 しかし、あのパトラとかいう悪魔の情報は聞いていなかった。どの上位悪魔の部隊に属するのか…むしろ、あれ自体がもう魔神クラスの強さではないか、とさえマモンは思うのであった。  しかし戦いの中で、パトラの中に悪魔らしく欲深い一面がある事をマモンは目敏く見抜いていた。『強欲』の二つ名の本分を発揮する時だ。「へやァヘヤラ。(悪魔パトラの処置はわたくしめにお任せを)」 「へるぁら(あとは雑魚ですから)」「よかろう、ただしセーラという天使だけは生け捕りにするように」  ルシフェルは玉座に深く腰掛けて念を押した。「ぅへぁっ!(承知!)」  ルシフェルの秘書的な役目を担う女魔オノケリスは、オリュンポスの戦いで強奪した神器や魔道器、レア・超レアアイテムを整理、管理していた。「マモン様、これをお持ちください」  オノケリスは、『パンドラの空き壺』というマジックアイテムをマモンに手渡した。 「生かしたまま捕獲するのに最適なアイテムでございます」  壺は手の平に収まるほど小さく装飾もなく、パッと見フィルムケースか香水の小瓶のようであった。「アスモデウス様にはこちらを。対象の動きを一瞬止められる魔槍『ロムルス』、捕縛の際にお使いください」  鮮やかな緋色をしたその槍を受け取ったアスモデウスは、へぶらっと掛け声と共に試し突きをした。更に調子に乗り、へぶラららららららッ! と連突きをする。 「ルシフェル様」  声の主は背に黒光りする大きな羽根を二枚持ち、吸い込まれそうな闇深い色の装束で身を包んでいた。 「このタナトスにも出陣の許可を」  死の神タナトスはルシフェルの玉座に進み出て膝をついた。 「例の天使たちとの戦いにおいて、復活されたハデス様が戦場に来ておりました」 「そのようだな」 「恐らくはこの万魔殿の場所が分からず地上を彷徨っておられるかと」 「道順を覚えられんのか」 「案内がてら天使長オルドの情報を引き出して参ります、奴をよく知っている者がおりますゆえ」 「アグラトと申します。オルドとは旧知の縁がございます」  頭部にコオロギのような二本の細い触
last updateHuling Na-update : 2025-11-30
Magbasa pa

第三十五話 「強欲の悪魔」

 ドズゥゥンと地獄の竜が着地する轟音が響き渡り、悪魔どもはコキノピロス村に着いた。  マモンは辺りを見回すがセーラ達パーティの姿は見当たらない。「へやヘァ(建物を探すぞ)」 「へぶるるァ(手間を取らせやがって)」 マモンとアスモデウスは村にある建物の残骸を片っ端から破壊していった。  暴虐の限りを尽くせと命じられた暗黒竜も、長い尻尾を振り回して村のあらゆる物を広範囲に蹴散らした。  一方、死の神タナトスは悪魔アグラトと共に上空まで上りハデスの黒球を見つけていた。  タナトスの主である冥府の神ハデスは球の中でスヤスヤと眠っていた。 「ハデス様、ハデス様」  タナトスが黒球の中にずぶずぶと手を入れハデスの身体を揺する。 「んー、誰だ…我を、起こす、ものは……」 「ハデス様、タナトスでごさいます」 「最近、寝ても、寝ても、眠いのだ」 「万魔殿をお探しで?」 「うむ、ルシフェルが、目覚めた、ようでな」 「場所はお分かりですか? わたくしがご案内いたします」 「おお、そうか、ちょうど、探して、いたのだ」 「途中少し寄り道をしますが…アグラト、行くぞ」  タナトスは二本の触角が魅惑的な女悪魔アグラトを連れ、地上で暴れている悪魔に声をかけた。 「マモンにアスモデウスよ、そちらは頼んだぞ」  タナトスとアグラトは介護をするようにハデスの黒球を両側から支えて、一足先にコキノピロス村から飛び去った。「へやへぁ(行ったか)」  セーラたちは凍ったスルトの棺のそば、比較的損傷の少ない無人宿屋の二階で夜を過ごしていた。カイはベッドに倒れ込むように眠り、セーラはソファでうたた寝しており、マリアとパトラは備え付けのパジャマに着替えて一緒のベッドで眠っていた。 パトラが最初に悪魔の来襲に気づく。 「……!! また来たか…しつっこい」「へぶぁ!(おらぁ!)」  アスモデウスが宿屋の出入口ドアを蹴破る。「何だ何だ!?」  カイがベッドから飛び起きる。 「この前の悪魔だわ……一階フロントね」  眠い目を擦りながらセーラが示す。 「ふぁーあ…まだ夜明け前じゃないの」  マリアは時計を見ながら長い髪を一つに結び、パジャマから法衣に着替える。 セーラとカイが一階の広間に駆け降りると、見覚えのあ
last updateHuling Na-update : 2025-11-30
Magbasa pa

第三十六話 「彼らが死する方法」

「へぶるるぁぁ(二度失敗した)」 アスモデウスは覚悟を決めていた。「へやぶらァぶら(恩赦はないだろう)」 戻っても殺されるだけならば最後、全力で貴様らを葬るのみ!「へばぶへぶらぁ(貴様らなど己一人で十分だ)」« 暗黒磁流禍(タキオン) » 闇属性の波動、暗黒磁流が竜に跨ったアスモデウスの身体から放出され辺りを包んだ。 アスモデウスの怒号で広範囲に炎を吹く地獄の竜。「うわちゃちゃ」 カイ、マリア、パトラは四方に飛んで炎を避ける。「でやぁぁぁ!!」 セーラが空に大きく飛び上がり、そこから急降下して、アスモデウスの牛、人間、羊の三つの脳天に天使の鉞を打ち下ろした。「へぶっ、へぶっ、へぶるぉぉ……」 三つの頭を粉砕されたアスモデウスは、竜からずり落ち、静かに事切れた。そして主を失った暗黒竜は奇声をあげ飛び去っていった。「敵ながら潔し。そのレア武器はオレが貰おう」 カイは地面に転がった緋色の魔槍ロムルスを拾い上げる。「あんたは殆ど何もしてないでしょ」 パトラが毒づく。「終わったわね」 セーラは額の汗をハンカチで拭いながら言った。「でも、あの悪魔たち、セーラを封じ込めようとしてた…」 マリアが心配そうに訊いた。「アイテムは破壊したけど、どうもボスは半悪魔のセーラが必要みたいね」「まさか、セーラの悪魔の要素は全て取り除かれたはず……痛つつ…」 カイは突然、片腕に痛みを感じた。しばらく何も感じなかった鱗粉タトゥの部分が疼く。タトゥは口を開き、低い声で言葉を発した。「悪魔の王は世界の開発者を欲している」「うわっ、喋った!!」「キモっ! 何それ」「分からない、声に聞き覚えもない」「開発者を……」 セーラは何故かズキっと胸が傷み、強い不安を覚えた。 一方、オルドの塔地下室では…「オルドがいない……この世界の中心を放置してどこへ…」 アグラトは触角をせわしなく動かして訝しんだ。「タナトス様、オルドは逃亡したようです」「マモン達の波動も消えている。死んだな」 タナトスは死を司る神。生者の波動を感じることができる。「ひとまず万魔殿に戻るか、いやアグラト、奴が潜んでいそうな場所は他にあるか?」「近隣の街や村にはたまに立ち寄っていたようですが」「一応回ってみるか、優先して行きたい場所はあるか」「いえ特には…タナトス様
last updateHuling Na-update : 2025-11-30
Magbasa pa

第三十七話 「悪魔狩り」

 ジュリアンとソロはタッグを組んで、箱庭の未来と正義の名のもとに悪魔狩りを開始した。強力なステータスを持つキャラクターに転移して、箱庭界を跋扈する悪魔どもの殲滅を繰り返す、いわば無給の肉体労働に勤しんだ。ただあまりにも大量の悪魔を殺しすぎると、アプリ側のデータ更新が忙しくなり、システムに負荷がかかるため、以下のルールを設けた。①なるべく短時間で現代に戻る(バグやシステムダウンが起きて戻れなくなることが怖い)②同じ依代は二度続けて使わない(特定防止) これらを踏まえて転移のループを行う。 最初の悪魔狩りの際は気合いが入り、インド神話最強のヴィシュヌとシヴァで行った。今度はアスラ王とスサノオで行こう、など、キャラ選びを相談する時間は二人にとって楽しいものでもあった。 しかし悪魔の中にも中立であったり、友好的で殺すのを躊躇う者もいて、ジュリアンはその矛盾に葛藤することがあった。対してソロは躊躇なく公平に、淡々と悪魔を殺していった。「下級悪魔ども… キリがない。数万匹はいるだろう、体力と時間を削られる、アプリからなら一度に全削除できるものを……」 ジュリアンは口惜しげに愚痴をこぼしていた。  その頃、タナトスとアグラトのほうも、オルドの塔周辺にある街や村をしらみ潰しに回ったが、有力な情報は得られず疲弊していた。 二人は一番栄えている街のカフェに入って休憩することにした。「ここは繁華街ですねー」「この平和な街もいずれ我らが支配するようになる」 タナトスは冷たく無慈悲に言った。「しかしオルドめは一体どこへ行ったのか」「天界にいるのかもしれませんよ」「唯一神がいる場所か。どうやって行く?」「行き方はわたくしにもわかりません」「悪魔が入れぬよう結界が張ってあるそうだな」「タナトス様とご一緒なら、どこまでもお供します///(ポッ)」 そこに人間のウェイトレスが、タナトス達の注文した物を運んでくる。「生キャラメルアイスフラペチーノのお客様」 はい、と普通に手を上げるタナトス。「こちらメガいちごパフェになります」「はーい」 超巨大なパフェを前にアグラトは触角をピンッと立たせる。「よく食べるなアグラト」「久しぶりなんで、こういうの! タナトス様、この後どうします?」「万魔殿に戻るしかないようだな」「少しだけ服を見てもいいですか?」
last updateHuling Na-update : 2025-11-30
Magbasa pa

第三十八話 「鱗粉タトゥー」

 カイの右腕にある鱗粉のタトゥーに口が出現し、恐ろしく低い声ではあったが明瞭に言葉を喋った。「ぎゃあああああ」 取ってくれぇぇと叫びながら、カイは鱗粉の付いた肘のあたりを身体から遠ざけて走り回る。マリアも気持ち悪がりカイから逃げる。「あなたはだあれ?」 セーラがカイの痣に向かって優しく訊ねてみるが、痣は口を結んで返事をしない。「それは呪術(カース)の刻印ね。思い当たることはない?」 パトラはパニック状態のカイを宥めるように訊ねた。「天界の唯一神が特別に肉体を再生してくれたんだが、気づいたらこのシミというか痣ができていた」 カイは涙ながらに答える。「擦っても取れない、単なる蝶か蛾の鱗粉だと思っていたが…この前は痣から高熱のガスが噴出されたし」「鱗粉を触媒とした呪術、だね」 パトラが無情に断言する。「オルド様が何か言いかけてたから、知ってるんじゃないかな。いったん戻りましょうか」 セーラが話を纏めるように言った。「賛成~! 雪山は寒くて過酷だから嫌」 マリアが手を挙げる。「その前に…」 セーラ達はアポロンとアレスを十字の張り付けから解き、地面に埋めて墓を作った。 それから一行はいったんオルドの地下室に戻った。しかしオルドはおらず、八畳ほどの室内は、何者かに物色されたような形跡があった。箱庭アプリの入ったノートパソコンやマジックアイテムの類はなく、デスクには紙とペン、本棚の本は雑多にばらけていた。「誰かがここに来たのかも」 セーラは警戒して言った。「それで一緒にどこかへ行ったのかなオルドさん」 カイも異世界(アザー・プレーン)や転移など箱庭のシステムを詳しく知っているわけではなかった。「もしかして誘拐された?」 マリアは不穏な空気を感じとり、はっと口に手を当てる。「だとしたら居場所は万魔殿(パンデモニウム)ね」「パンデモニウム?」「ここが世界の中心であるように、冥界の中心にある悪魔の総本山が万魔殿だよ」 パトラは懐かしむように言った。「カイのその痣だけど…悪魔の刻印の一種だとすると、位置情報の送信や盗聴機能もあると考えないとね」 説明するパトラは心做しか嬉々として見えた。「そんな、じゃあ早く取らないと」「無理に切り落としたりすると呪いが発動するよ」「クソ…こんなちっこい痣が」「高熱ガスを吹いたのも宿主を
last updateHuling Na-update : 2025-11-30
Magbasa pa
PREV
1234568
I-scan ang code para mabasa sa App
DMCA.com Protection Status