All Chapters of フルダイブMMOで現実改変できる『箱庭』アプリの話: Chapter 1 - Chapter 10

18 Chapters

第二話「ジュリアン」

 セーラ達がオルドの元へ向かった数刻後。  村外れにある墓場の土が突如盛り上がり、地中から一人の死者が這い出した。  それはアンデッドとして蘇ったアレフであった。 ユートピア創造の実験システム"箱庭"の開発者の一人であるジュリアンは、死亡しているアレフとして箱庭に転移した。  と言っても彼は創造主たるプレイヤー、どのような厄災も起こせるし、いかなる傷病に対してもほぼ無敵である、チートキャラクターとしてこの世界に存在する。  箱庭のシステム設定やイベントプログラミングなどを行った開発者は他にもいるが、彼らは致命的なバグを恐れてキャラクターを引き上げ、世界の外から監視をしていた。 しかし、ジュリアンにはある目的と使命感があった。  彼の身体がノイズのように歪み、異端者オルドの潜む塔の最上層へと転移した。  突然現れたアレフを見て、一同は歓喜の声を上げる。 「!?」 「アレフ…アレフなの?」 「ははっ、お前! やはり生きていたのか!」 「ああ。こんなナリだがな」  アレフは自嘲のように肩を竦めた。  その外見はもはや人間とは言いがたかった。肌は灰色に枯れ、眼窩は薄暗く沈み、衣服は墓土に汚れている。  それでも、笑みだけはかつてのままだった。「気にするな。どう見たってゾンビのアレフじゃないか」  カイが冗談めかして言うが、場の空気は凍っていた。 「久しぶりだな…みんな、それにセーラ。随分と感じが変わったが……」  アレフことジュリアンはボロボロの衣服と、ところどころ禿げた髪や皮膚を恥ずかしげに掻いた。 「う、うん」  セーラは複雑な面持ちで曖昧に頷く。その瞳の奥には、わずかな違和感が揺れていた。 「お前が魔物の父を滅ぼしたんだな」 「オルド様や神様の力を借りてやっと倒したんだよ」    会話を聞きながらオルドは警戒していた。  目の前の男がアレフなどでは無いことを直感で見抜いていた。  安寧を取り戻した世界を塔から見下ろしノートパソコンの内部データと重ね合わせると、今はやはり魔物はもう存在していない。しかし高い知能を持つ野生動物やドラゴンやエルフといった種族は残っていた。  だが、このアレフの姿をしたアンデッドはそのいずれでもない、恐らくは……。 塔の上層から見下ろす箱庭の地形データを、オルドは頭の中に重ね合わせる
last updateLast Updated : 2025-11-06
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第三話「人格を持たぬ死者」

 塔の最上階。  夜気のような沈黙の中で、甲冑の侍たちが円陣を組み、無音のまま刀を抜いた。誰ひとりとして息をしていない。その存在は、生きているというより稼働していると表現すべきだった。 セーラは静かに羽を広げた。  黄金の光が溢れ、部屋全体が微かに震える。「誰も死なせない。死なせないんだから」  その言葉と同時に四枚の翼が風を生み、侍たちを弾き飛ばした。光の奔流は暴力的でありながら、どこか悲しみに満ちていた。 オルドはその羽根で宙に浮いてセーラの戦いを俯瞰していた。その視線の端で、アレフが小さく笑う。  アレフは吹き飛ばされた侍のひとりに手をかざし、短いコードを唱えた。 再起動命令:身体強化モジュールを展開。目標、オルド。 侍の眼に赤い光が灯り、信じ難い跳躍でオルドへと斬りかかる。 一閃。 刃が閃き、オルドの片翼が根元から断たれた。白い羽が雪のように舞い落ちる。「うぐっ……!」   バランスを保てず上空から落下していくオルド。 それを眺めてアレフは呟く。 「私は何でも知っているんだ。お前の本当の名前がオルドなんかじゃない事も……。我が友よ」 「まさか…お前は」  オルドは地面に着地して体勢を立て直す。 「この世界ではアレフだ、そしてお前はオルド…」 「自ら降臨してくるとは、予想していなかった」  脂汗をかきながらニヤリと笑うオルド。  その落とされた片羽からはどくどくと流血していた。 「傷が痛むか。修復してやろうか」  眉をひそめてアレフが呟く。 状況をただ眺めていたマリア達は、二人の会話の内容よりもまずアレフが使った魔法に驚いた。  何故ならアレフは生粋の戦士職であり、魔法の類は一切使用できなかったからだ。 「カイ、アレフが魔法を使ったところなんて見たことある?」 「ないな。少なくとも生きている時は」 「どういうこと?」 「あのアレフ……何かおかしい」  セーラが訝しげに言った。 「ああ…」 「生き返って使えるようになったのかしら」 「そんな事あるの?」 「いや、そうは思えない」  カイは顎に指をやりながら思案していた。 「前にオレはオルドさんが持っているノートパソコンの中の、妙なアプリを見せてもらったんだ」 「それで強くなれるかもって言ってたわね」 「結局、その仕組みは分からなかったが
last updateLast Updated : 2025-11-06
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第四話「ディストピアの番人」

 セーラの《智天使の羽ばたき》が放たれた瞬間、光は音を追い越して塔の空気を震わせた。  侍たちは壁際まで吹き飛び、鎧が軋み、意識を失った者たちは静寂に沈む。  だが、一人だけが立ち上がった。  刀身が冷たい光を返し、虚ろな眼に微かな生の炎が宿る。  侍はジュリアンの命令があるまでは微動だにせず、無表情な目に刀身だけがキラリと光った。  恐らく刀も魔法で強化されているのであろう。  命令ではなくコードで動く、魂を模したプログラム。「お前が秘密裏に行ってきた改変に私が気づかないとでも思ったか?」  ジュリアンは悲しげにオルドに告げた。 「オルド…私の目的に協力しろ。さもなくば…ここで死ね」 「目的、だと……?」  その問いには答えずジュリアンは再び侍を操るコードを唱え始めた。「させるかよ!」  カイは結氷の呪文をアレフに唱えた。  鋭利な氷の刃がアレフの無意識に纏うシールドにより弾かれる。 「魔法が、効かない!?」 「アレフの纏うオーラが強すぎて、治癒の魔法をかけるために近づくことすら出来ない!」  マリアが泣きっ面で叫ぶ。 「わたしが行く!」  全裸にタオル一枚のセーラが天使の鉞を手に取る。 「待つんだっ、セーラ」  オルドが制する。 「何故!? オルド様……殺されるわ!」 「お前の身が、危険だ」 「どうして…」  涙ぐむセーラ。 血が滴る羽根の付け根を片手で抑えて止血を試みるオルド。 「その出血量、さぞ痛かろう」  ジュリアンは憐れむようにオルドに声をかけた。 「お前は間違っている」 「な、何が」 「箱庭の世界では理想郷など決して実現しない。結末は常に暗黒の世界しか無いのだ」  ジュリアンが両手をかざすと、見る見るうちにオルドの失った片羽根が再生していく。 「はぁはぁ…目的とは何だ」  オルドはすぐさま訊いた。  ジュリアンはざんばらの前髪をかき分けながら答えた。 「お前の行動は邪魔なんだ。現世に戻り、我々と再び箱庭のプログラムを組み直せ、そして」  ジュリアンはセーラを一瞥する。 「あの異端の天使、セーラを消すことだ。あれは私たち創始者の力すら脅かす」 「馬鹿な…それに私はここが気に入っている。戻る気はない」 「ソロ……私は君を信じていた」  オルドにとってそれは懐かしい名であ
last updateLast Updated : 2025-11-06
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第五話「パトラの憂鬱」

「……どうかしてる、わたしは」 パトラは紺碧の海のような濃い青色の瞳で、鏡の中の自分を見つめていた。肩までの巻き髪がゆるやかに揺れ、少女とは思えぬ怜悧な光を宿している。 かつて彼女は魔族の幹部ヘドロスライムと呼ばれた存在であった。大戦の果てにエンシェントドラゴンを討ち滅ぼし、転生の秘宝を奪ったが人間として蘇った瞬間に傷が開き、命を落とした。 ※前作 第十六章「ヘドロの末路」参照。 その後、魔法都市パルマノーバの名門パムル家に長女として転生。富裕な家の娘として何不自由なく暮らしてはいたが、彼女の心には前世の残響、やり切れぬ憎悪と悲しみが残っていた。「だけど……わたしの中にどうしても消えない"何か"がある」 両親からパトラと名付けられた彼女は前世の記憶を断片的にしか持たなかった。 幼い頃から魔法の才を発揮したパトラは、十四歳にして魔法の専門学でトップクラスの成績を修めた。 将来は宮廷魔術師を目指すよう親からは勧められたが、彼女はそんなものに興味は無かった。 両親はパトラの才能を認めつつも、不可解な言動が目立つ故にその精神の不安定さを懸念していた。「お兄ちゃん」 広い中庭の中央で剣術の鍛錬をしている兄、スルトに声をかけるパトラ。「なんだパトラ。また前世だかの話か?」 スルトは上半身裸で額に汗しながら、木刀の素振りを行っていた。 スルトもまた、魔物の父に取り込まれ絶命した後、記憶を失いパムル家の長男として、パトラより四年ほど早く今世に転生していた。「知らん知らん。兄ちゃんは忙しいんだ」 スルトは面倒くさそうに片手を振って、パトラを追い払う。「お兄ちゃん、わたし世界を周ろうと思うの」 意を決したようにパトラは告げた。「世界を? 旅にでも出るのか?」「はい」「お前の事だから、従者も連れずたった一人で行くつもりだろ」「必要ないから」「というかお前はまだ14歳だろ。父さん達には話したのか?」「ちょっと行って帰ってくるだけだよ」「駄目だ。いくらお前が強くとも女子供の一人旅なんて……」「大丈夫、わたしには全てを焼き尽くす爆炎の魔法があるんですから」「コールドの魔法を使う奴だっているだろ。仕方ないな…俺も行ってやるよ」「いいの?」「ちょうど暇だし、腕試しもしたいしな」 スルトは鍛え上げられた大胸筋を震わせながら言った。「なに
last updateLast Updated : 2025-11-11
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第六話「乱入」

「答えは決まったか? ソロよ」「お前の思い通りにはならないさ」「そうか……」 三又の鉾から眩いばかりの光が放たれ、オルドに照射される。 オルドは絶対障壁の呪文を唱えるが、魔法とは原理の異なるポセイドンの威光には効果がなかった。 そして光を浴びたオルドの全身は鈍色に変わった。「こっこの光は」「君は天使ではなくなり、ただの人間となる…」 見るとオルドの背からは羽根が消え、法衣を着た修行僧のような容姿になっていた。「な、何これ!? 私の美しい天使のアバターを返してくれ!」「さぁこれで天使の特殊能力は使えないぞ」 ジュリアンはそのまま三叉の鉾をオルドの胸に突き刺した。「ぐはっ」 心臓の辺りを鉾で貫かれたオルドは、ゴボゴボと口から血を吐いた。「ジュリ……アン、貴様…本当に」「オルド様!」 セーラ達が泣き叫ぶ声が遠くに聞こえる。「せ…せっかくアバターでイケメンになって、天使長とかいってNPCの可愛い天使たちを集めてイチャイチャして、地上の様子を映画みたいに楽しんで、ちょこちょこ悪戯したりして……私の理想郷だったのに」「オルドさん! 死ぬな!」 カイらしき男の声が駆け寄ってくる。「その前にあのアプリの操作方法を教えてくれ!」「……」(人の死に際にそんな事しか言えないのか…カイよ)「右クリ…ック……左を…押しながら、右クリッ…ク……」 それが天使長オルドの最期の言葉となった。「左を押しながら? マウスの左クリックと右クリックを同時に? 押すとどうなる?」 オルドは既に事切れており、その死に顔は苦悶に満ちていた。「おい…オルドさん! それだけじゃよく分からないよ」 カイの頭にはオルドを蘇生させるという発想はなく、アプリでマリアをあれこれする事しか無かった。「箱庭は君たちのような創造物が、気軽に扱っていい代物ではない」 ジュリアンがつかつかと近づいてくる。「アレフ、オ、オレ達は仲間じゃないか。マジで忘れちまったのか?」「残念だが、アレフというキャラクターはもうこの世界に存在しない」「キャラクターだと…?」「さあ、どきたまえ。私はソロの魂を完全に封印しなければならない」 そう言うとジュリアンは倒れているオルドに再びポセイドンの鉾を翳した。 激しい光の明滅とともにオルドの死体は悔しげな表情でその場から消滅していく。
last updateLast Updated : 2025-11-11
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第七話「迷える者」

 塔を登ってきた者たちをひと目見て、ジュリアンは彼らが魔属の転生者であると即座に見抜いた。 しかも一般のモブモンスターではない、飛びきり上級レベルの怪物が転生した存在だった。 しかし、様子からして、恐らく過去の記憶を引き継いではいないように見えた。「何だあいつら……?」 怪しむカイ。「子供…でも強い魔力を感じる」「隣の女の子、可愛いわねぇ……」 冷静に分析するセーラの隣で、マリアは妖しい声音で呟いた。 警戒する謎の訪問者にジュリアンが声をかける。「この塔の主……が、たった今死んだので私がその代理だ」「な、何を言うの!」 セーラが憤る。「おいそこの二人! オルドさんを殺したのはその男だぞ! 騙されるな!」 カイが慌てて叫ぶ。「やっぱりあの子、可愛い……」 マリアはパトラの事だけをじっと見つめていた。「君たちがここへ来た目的はわかる」 ジュリアンはカイ達の横やりに気を留めず続ける。「君たちは来るべくしてここへ導かれた。知りたいことは全て答えてやろう。例えば君たちが今の姿で生まれる以前はどんな存在だったのか……とか」 一息にジュリアンが語りかける。 スルトは剣の柄を握ったまま警戒を解かず聞いていたが、図星をつかれたパトラは動揺した。「お兄ちゃん…」 パトラが兄に話しかける。「気をつけろ。あれは人じゃない」 スルトはついに白金色の剣を背から抜いた。「君たちの記憶をこの私が呼び戻してやろう」「えっ?」 思いがけない提案にパトラの心は揺らいだ。「今の平穏な生活は無くなるが、それでも」「そんな話は、お前を信用できてからだな」 剣を構えたスルトは言葉を被せるようにそう吐き捨てた。 ジュリアンの一連の言葉を聞いてセーラの直感が働いた。(あの二人は…本当に魔族なのかもしれない)「アレフ! いえジュリアン! あなたはこの世界を再びめちゃくちゃにするために来たというの!?」 ジュリアンは悲しげな目でセーラのほうをチラリと見た。「真実を語るまでだ……」「創造物だか何だか知らないけど、この世界はゲームじゃない、わたしたちはみんな必死で生きてるの!」 セーラのその言葉には答えず目を閉じるジュリアン。「どうやらどっちが悪者か、決まったな」 スルトが快活に言った。「天使のほうに加勢するぜ、パトラ」「……」「どうした
last updateLast Updated : 2025-11-11
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第八話「三人」

 ジュリアンは神器の一つである三叉の鉾を天に翳した。 させじと超スピードでジュリアンの懐に入るスルト。 鉾と剣がかち合い火花が爆ぜる。 一方、パトラは小さな体を震わせて混乱していた。 ──わたしが…悪魔? ──嘘。 パトラは迷いを振り切るように長い呪文の詠唱を始めた。 カイは後方から防御魔法の呪印を床に施していた。 彼はまずマリアの安全を優先した。 そのマリアは苦悩するパトラに見惚れている…。 セーラは四枚の翼で天高く飛び上がり、無数の光線をジュリアンに向けて放つ。 しかしジュリアンのシールド、と言うよりもその皮膚組織がことごとくその攻撃を弾く。 カイが呪印を描き終わると、マリアとの周囲に氷の結界が張られた。« 守護の魔法円 »「マリア、この中にいれば大抵の衝撃には耐えられる。外には出るなよ」「あの子……苦しそうだった。どうしたのかしら」「マリアよ、聞いてくれ」 そうこうしているうちに、パトラが呪文の詠唱を終える。 瞬間、ジュリアンを包む空気中の水分が蒸発し出した。(シュウゥゥゥ……)「うおおっおい! 俺もいるんだぞ!」 スルトが素早く飛び退く。« 灼熱爆霊!!!» ジュリアンの纏うシールドを火と地の精霊たちが掻き破り、その周囲が超高熱に包まれる。「こっ、この呪文は……(パァン!)」 云うや否やジュリアンの肉体は急速に変質、分解され、塵のレベルにまでバラバラに砕け散った。(ズドォォォンッ!!!) さらに熱エネルギーが臨界点を突破し一気に大爆発を起こす。 激しい衝撃と風圧で塔がガラガラと瓦解していく。 天高く聳えていたオルドの巨大な塔は完全に崩壊した。 セーラ達はみな生きてはいたが、瓦礫の山に埋もれてしまっていた。 その中には首だけ再生しているジュリアンもいた。「人間の依代では防ぎきれなかったな」 ジュリアンは眉根を寄せて危惧した。「あの少女もセーラ同様、危険な存在になる」(とはいえ元は悪魔となり得た魂だが…) 「またしても余計な……レポートを書かねば、他の三人に」 ジュリアンはそう呟きながら溶けるように姿を消した。 カイたちもそれぞれ動き出していた。「おいパトラ! 俺まで殺す気かよ」 埃を払いながらスルトが文句を言う。「……」 パトラは体育座りをしたまま答えない
last updateLast Updated : 2025-11-11
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第九話「永遠の闇の中で」

「セーラといったな。なるほど…立派な羽根だ」「元…悪魔とはどういう意味? わたし達の敵なの?」 そう言うとセーラは唇をきゅっときつく結んだ。「言葉の通りだ。あいつと剣を交わした時に俺には分かった」 スルトは全てを諦めたような冷笑を浮かべた。 そして背を向けているパトラの元へ歩み寄る。 パトラは体育座りのまま、瓦礫が散乱する床を見つめていた。「パトラ、天使どもと俺たちは仇同士だ。遠い過去から、太古の昔から、何千何億年と争ってきた。それでも未だに決着は着いていない」 何をやってきたんだろうな、とスルトは笑った。 先程セーラに向けた複雑な感情は、もう彼の心の内から消えていた。「わかるか、この意味が。俺たちの使命は永劫に戦い続けることだ」 ヒソヒソと声を潜めて話すスルト。「関係ないよ。わたしは今のこの人生で幸福を手にしたいだけ、わたし我儘なの」(──そう、わたしが本当に欲しいものは、この世界。全てが欲しい。)「欲深いな、パトラ、いや……」「パトラでいいよ、お兄ちゃん」 寂しげに小さく笑うパトラ。「お兄ちゃん、ね…それにしても、文献に伝承されるような悪魔が実在したとは」 スルトが話題を変える。「あの男は悪魔だったの? 神器を持っていた」「戦いの最中、あいつの記憶が流れ込んできてな、意図して強制的に伝えたのかもしれないが」 スルトはうんざりした顔で続けた。「あれは、心を閉ざしてずっと闇の中で生き続けた存在だ」「あの男、もしかして……」 あれこれ想像を巡らせるパトラ。「何にしろ、お前が終わらせてやったわけだ」「そうね」 そう言うと、パトラはすくっと立ち上がった。(あれで死んだとは思えないけど…)「さぁてそんじゃ、まず一人目の天使を殺すか」 スルトがあっけらかんと言い放つ。「お前たち運が悪かったな、天使と揃って死んでもらうぞ」「くそっ、戦いは免れないか」 カイが舌打ちする。「待って! どうしても殺しあわなきゃいけないの!?」 セーラが叫んだ。「そうよね…あの子だけは仲間になってくれないかな」 マリアはパトラと親しくなる事を諦めきれない。「命乞いは無駄だ。お互いにな」 スルトの非情な言葉を黙って聞いていたカイはふと閃いた。(箱庭アプリで奴らの属性を変えられないだろうか?) オルドの今際の言葉、右クリッ
last updateLast Updated : 2025-11-11
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第十話「右クリックメニュー」

「あうぅッ!」 セーラは激痛に耐えながら飛ばされた右腕を見上げた。 今は神の光虫の加護がないため、マリアのヒールと自らの再生力に頼るしかなかった。「きゃああセーラ!!」 少し離れたところからマリアが叫び、急いで回復呪文をセーラにかける。 血飛沫がスルトの身体にかかり、その部分が蒸発し湯気が立ちのぼる。 戦況を見て攻撃呪文の詠唱を始めるパトラ。 スルトは体勢を崩しているセーラに向けて第二の攻撃を繰り出す。 複数の斬撃が収束しセーラの胸部を狙う。 セーラはバスローブを使って闘牛士がムレタを扱うように舞ってその攻撃をいなす。 突如駆け出すカイ、地下室へ向かう。「すまない! セーラ、考えがある!」(えぇっカイ、どこへ……) セーラが唖然とする。「逃がすかよ!」 スルトは偑刀していた脇差を取り出し、両手武器を使った遠距離攻撃を行おうとする。 それを阻止しようとセーラが聖光気を纏った左手で手刀を繰り出し、スルトはやむなく応戦する。 セーラの右腕は既に止血され、その断面からは小さな手が生えてきていた。« 怒血熾焔衝 » パトラが火炎の呪文を発動する。 複数の火柱がセーラの周囲に立ちのぼり、対象を焼き尽くさんと燃え盛る。「今度はこっち!?」 セーラは羽根で身体を包み込み超高熱に耐える。「ふん…! 耐火したか」 パトラは苛立ちながら、禍々しき瘴気を発する第二の呪文の詠唱を始めた。「禁呪か! やめておけパトラ!」 スルトが制する禁呪とは、呪文の制御を誤ると、物質界に膨大な負の影響を及ぼす可能性がある危険な呪文であった。「二対一なんて卑怯よ!」 マリアはヒーラーであり、できる事が限られている自分を嘆いた。◆ 一方、オルドの地下室に辿り着いたカイ。 暗い部屋の中でノートパソコン起動の青白い光がカイの顔を照らす。「アレフ…まずアレフの項目を」「dead」「やはり、あいつはもう……」「いや、今はそんなことより、えぇと、左を押しながら右クリック…」 連打すると、以前は反応しなかった右クリックメニューが出現した。"保存""元に戻す"「保存って何だ、保存してどうなる?」 とりあえず適当に村人を選択して"保存"をクリックするカイ。 データがコピーされデスクトップ上にダウンロードされる。
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