Lahat ng Kabanata ng フルダイブMMOで現実改変できる『箱庭』アプリの話: Kabanata 51 - Kabanata 60

80 Kabanata

第四十八話 「黒き虹」

 二刀流の侍オルドは、魔神の長ルキフゲの地の技『土竜爪』を避けながら走り抜け、本体の胸部をX印に切り裂いた。「キュワァァァァア!!」 ぎょろついた目にロバの足と尾が生えた異形の魔神は、裂かれた傷口から緑色の血を吹き、奇声を上げながら仰向けに倒れた。  邪神サトゥルヌスに扮したジュリアンは、白髪白眼の少年魔神アガリアレプトを『アダマスの鎌』で腰から真っ二つに両断した。羽織っていた悪魔を模したコートが裂かれ、アガリアレプトは声もなく膝から落ちた。「なんと歯ごたえのない…」 フード付きの赤いローブを纏うリッチのネビロスは、上位悪魔を一体召喚した。呼び出されたアークデーモンは巨大な体躯にコウモリのような大きな翼を持ち、禍々しい赤と紫の体色、手足には鋭い鉤爪が生えている。 カイがタナトスのプレッシャーを振り切り、詠唱なしの氷結魔法をアークデーモンに放つ。« 氷烈破撃(タンカード) » アークデーモンの身体に氷の飛礫を使ったマジック・ミサイルが放たれ、氷塊は命中すると爆発し、鋭利な破片となって飛散した。しかし、アークデーモンの硬い皮膚にはダメージが薄く、襲い来る鉤爪にカイは腕を切り裂かれ負傷した。更なる追撃に反射的に身を守るカイだったが、肘辺りにあるアザから高熱ガスが大量に吹き出しアークデーモンを丸焦げにした。「サンキュ~不気味な痣よ…ハァハァ」「逃げろ、死ぬぞ」 アザが超低音ボイスで喋る。「馬鹿言うな、ここからがオレの見せ場!」« 神の癒し手+ » マリアの援護でカイの負傷した腕の傷が回復する。「二人でなら!」 マリアが進み出てカイと共に、少し離れた場所にいるネビロス本体を追う。(二人とも意思が強い) その精神力に感心しながら、パトラは呪文の詠唱を終える。(吐け爆炎 我が導きに従い アバドンの地より来たれ)« 螺導熱灼地獄(ゼルト・カテドラル) » タナトスに向かって超高温熱線が螺旋状に放出される。タナトスはむぐぐぐと力を込めてシールドを展開し耐える。 アグラトが激しい真空波でパトラを攻撃、しかし、こちらもシールドによって全て弾かれる。 パトラは次の呪文の詠唱を始めるが、タナトスが先に死の術を発動させる。『イグエラトス、死滅せよ』 黒き虹の光がパトラに放射される。光はシールドをすり抜け本体へ、髑髏の死神
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第四十九話 「リセット」

「タナトスの部隊が破れたと…」 悪魔の皇帝ルシフェルは信じられないといった面持ちで肩を落とした。「六大魔神も全滅です」 オノケリスが冷静に報告する。「して、敵の詳細は」「はい、敵は五名の少数部隊ですが、邪神と女魔がおり、また人間の侍も常人ならざる強さ、もう八層に降りた頃かと」「あそこはベルゼブブとアスタロトに守らせているが…あいつらもいい加減だからな…」「一つ問題がありまして、鬼神の如き強さの女魔はハデス様の元部下です」「なるほど…ハデス、どう考える」「あやつは、もはや、我らの、敵、として、挑んでくる、であろう」「そうか、あと何度も言うが言葉を区切るな」「あれは、人間の、愛を、受けすぎた…フッ」 仕方のない奴だとハデスは自嘲気味に笑った。「流されぬ、為には、殺して、しまわなければ」 ハデスはルーテの時のことを思い出していた。 ヒュプノスの手による深い眠りから未だ目覚めぬセーラは、後ろ手に手枷を繋がれたまま黒革のソファの上で、う~~ん…と寝返りを打つ。「しかし…よく寝てるな」 ルシフェルは呆れて呟いた。「ルーテが少し顔を出したきりで、開発者ミシェルは一向に現れずか」「何かショックでも与えますか、お尻を叩いたり…」 オノケリスは躾の為によく下級悪魔をスパンキングしていた。「この天使の優しい眠りをただ見守っている我々だが…どうするか。起こすか」「私ならば彼女の眠りの中に入って呼びかける事ができます、ご許可をいただきたく」 ヒュプノスが進言する。「試してみてくれ」「では……」 ヒュプノスは目を閉じるとその身体から幽体が分離し、眠っているセーラの体内に入っていく。 荒涼とした寒々しい大地に一人の若い女性が立っていた。 セーラやルーテの容姿とは違いショートヘアで瞳は黒色だった。「…………」 女は一点を見つめてボーッとしていた。「汝は、誰だ?」 ヒュプノスが声をかけると、女はハッと気づく。「わたしは…………ミシェル」 溜めに溜めてミシェルは名乗った。「わたしは、この箱庭を作った…わたしのせい」 その先の言葉は口をパクパクするだけで出てこない。「リセット…リセットしなきゃ…」 ミシェルはうわ言のように繰り返す。「リセットとは?」「うぅぅっ!!」 突如、強い頭痛を起こしてミシェルはしゃがみ込んだ。「
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第五十話 「支配者たる精霊」

 オルド達は万魔殿 八層へと続く階段を慎重に降り、重厚な扉を押し開けて中に入った。フロア内は強烈な腐臭と便臭が混ざったような酷い臭いが充満しており、カブト虫サイズの大きな蝿が大量に飛び回っていた。「うわっ」 まとわりついてくる蝿を振り払うカイ。「いやぁぁ気持ち悪いぃぃ臭いぃぃぃ」 マリアが激しく嫌がる。 闇の奥から見えてきたのは妖艶な女の姿であった。 うふふ、と微笑みながら女が片手を上げ合図すると、蝿どもは一斉に女の周りに集まり、そして消えた、と言うより体内に入っていった、いや吸収されたと言うべきか。こんな事ができるのは、箱庭アプリで確かめなくともわかる、あの女が蝿の王ベルゼブブだ。夥しい量のカブトムシ大の蝿が全て、一人の華奢な女の体内に取り込まれていく様は、あまりに奇妙で信じ難い光景だった。 更に奥に待ち受ける悪魔の大公爵アスタロトは今回は竜に騎乗しておらず、手に毒蛇の鞭を持ち、背中には一対の白い羽根が生えていて堕天使だとわかる。顔立ちは醜悪で口から常に毒の息を撒き散らし、その息は非常に濃い便臭がした。フロア全体を包むアンモニア臭の元はこのアスタロトである。「臭ぇよぉぉ」 泣きが入るカイ。 妖艶な女の姿をとっているベルゼブブは、自身の代名詞ともいえる 『死蠅の葬列』の術を唱えた。 即死耐性を持ったパトラの魔法の盾内でマリア(とカイ)は難を逃れ、オルドとジュリアンもそれぞれ状態異常には高い耐性を備えていた。 ベルゼブブは女の姿から本来の巨大な蝿に戻り、全ステータスを下げるデバフ効果がある反地球の術を放つ。「こいつは私が引き受けた」 邪神サトゥルヌスことジュリアンがデバフを打ち消し前に立つ。 更に追撃するベルゼブブは『破壊の光』の全体攻撃を繰り出す。ジュリアンはポセイドンの威光でそれを相殺し、消えない炎でベルゼブブを燃やし尽くさんとする。蝿の王はブィーンと大きな羽音を立てて天井付近を飛び回り、燃え盛る炎を滑るように回避、一進一退の攻防が続く。 アスタロトは毒蛇の鞭を振り回しながら、口から毒の息と悪臭を放ち、空間そのものを爛れさせる。「こっちは、毒か、うぅっ」 オルドが頭を押さえて呻く。その隙にアスタロトの鞭がオルドの二刀に巻き付く。瞬間オルドは鞭を切り裂いて脱出
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第五十一話 「眠りの神」

 マルバスの魔法陣では、瀕死のアグラトの治療が行われていた。 しかし身体のあらゆる箇所が破裂した傷は深く広範囲すぎて、いかにマルバスの神秘的な治癒能力でも即座に回復とはいかなかった。「アグラト」 タナトスは声をかけたが、アグラトの意識はなかった。 くそっ…タナトスは自分の浅はかさを悔いた。アグラトは戦闘前に覚悟を決めていたのだ、このタナトスの盾になると……。「私のミスだ」「大丈夫です。一命は取り留めました」 マルバスは額から流れる汗をハンカチで拭いながら治療を続ける。「しかしアグラト様がここまでやられるとは、敵は相当な強者ですな」「ハデス様の元幹部らしい」「なるほど…ん? ハデス様の部隊は二名の悪魔がいたはず…もう一人は」「ハデス様の部隊が襲った村にいた人間の魔法で、決して溶けない氷の結晶獄に封じられたようだ」「なんと、そんな人間が存在するとは」「人間の中には、チートブーストした輩がいる。それを可能にするアプリケーションプログラムがあるようだ」「それは…その現象は次元を超えたもの…」 マルバスには心当たりがあるようであった。「んん……」 アグラトが失った意識を取り戻す。「大丈夫か、アグラト」 タナトスが声をかける。「タナトス様、ご無事で…良かった」「馬鹿者、何故あのようなことを、私を庇う必要など」「ごめんなさい、お付きに守られたなんて、格好つかないですよね」「そんな事は良いのだ、私の落ち度だ、共に居れば危険はないと言った私の」 タナトスは後悔と自責の念で謝罪をした。「謝らないでください、わたくしが勝手にやったこと……マルバスさんも、ありがとうございます」 アグラトは自身を責めるタナトスに気を遣い、治療を続けるマルバスに礼を言う。「いえいえ、こんな治癒能力しか能が無いもので、どうも」 マルバスは獅子の鬣(たてがみ)をポリポリと掻き、アグラトの治療を続ける。「敵は八層でベルゼブブとアスタロトを相手に戦っているようだ、この最下層の真上で……あいつらが敗れるのは想像がつかんが、万が一がある、私も出陣せねば」 タナトスはアグラトが治療されている間に、自身の再生能力で損傷した漆黒の片翼を回復させていた。「行かないで、タナトス様、傍に居てください」 アグラトがタナトスを止めたのは寂しさ心細さもあるが、行けばタナト
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第五十二話 「夢幻に落ちよ、その身体朽ちるまで」

 眠っているセーラの胸元へヒュプノスの幽体が入る。 小鳥たちの穏やかな調べ、草花を揺らす柔らかな風、陽光が金糸のように降り注ぐ天界をイメージした大地や、冥界に流れる川「コキュートス」の畔に、墓標のように枯れ木が一本あるだけの荒廃した場所まで、浮遊しながらミシェルを探し回るヒュプノス。だが彼女は見つからず、そこにルーテの声が聞こえてくる。(ミシェルは混乱している、そっとしておいて、眠りの神様) ルーテは優しく柔らかく言った。(ミシェルはわたし、わたしはセーラ、もうすぐ一つになる) それは三人の人格は近いうち一つに統合される、つまり切り離せなくなるということを示唆している、とヒュプノスは判断した。「ルーテ、いやミシェル、汝が望む世界を見せてやろう」 ヒュプノスは自身の前にそっと両手を構えた。見えない瓶を包み込むように、指先をわずかに丸めて空間を掬い取る。その中に色鮮やかなまるで地球儀のような球体が出来上がる。(セトプス・クルセダス…) 夢の世界で更に夢を見せてミシェルに箱庭の核心を喋らせようと呪文を唱え始めるヒュプノス。 ……ミシェルが人格を統合して現実に箱庭のアプリを手にしてしまえば即リセットされる可能性がある、そのため、ルシフェルの言う彼女の人格に負荷を与えて崩壊させたり、あるいは全面に押し出すのは極めて危険、ならば、このままセーラの中に永久に封じるまでだ。「箱庭で転生できなくする合言葉を持つのだな、汝らは」(それは自分自身で念じないと効果がないわ……)「ではやはり世界のほうをリセットするのか」(リセットは複数の開発者の承認がいる、わたし一人ではできない……)「ミシェル、確かに汝は危うすぎる」 ヒュプノスは念じた。「汝には永遠の夢の世界を与えよう」 胸の前に作り出した小さく色鮮やかな地球に、ミシェルの幽体が吸い込まれていく。« 命の源よ、夢幻に落ちよ » ───これでもうミシェルは目覚めることはない、セーラの心の奥の奥底で眠り続ける、その母体が朽ちるまで……。 ◆「ブブブブブッ」 八層では、ジュリアンの炎を纏った拳が、飛び回るベルゼブブの胴体を貫通し反対側へと抜けた。灼け爛れた傷口の風穴から、粘液が滝のように滴り落ちる。巨大な蝿の王の本体がボトリと床に落ち、消えない炎がその全身を覆い内蔵を焼く。再生力で回復しては焼かれ
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第五十三話 「死相」

 絶対零度(アク・シーズ)の呪文がジュリアンを、轟雷(テスラ)の呪文がオルドを、ハデスによる腐蝕呪文(アシッド・ロウ)がカイを、そして天上の魔法、光神白宴鉄槌(フェビュラス・グレリアン)がパトラを襲う。 消えないはずの炎を纏うサトゥルヌスことジュリアンだったが、その自信が仇となり絶対零度の呪文を真正面で受けて全身凍結されてしまう。 二刀流オルドは超弩級の落雷を頭上一点から受けて丸焦げに、カイは腐蝕呪文を躱しきれず片腕を腐らせた。 パトラもルシフェルの天上呪文にいともあっさりとシールドを突き破られ、胸部に光の鉄槌をスタンプされ軽い体が吹き飛び、壁に叩きつけられた。 マリアがヒールをかける間も与えず、ルシフェルの追撃魔法が来る。ルシフェルは呪文のダウンタイムが極めて短いという特質をも持っていた。« 黄金光聖竜 » 二体の魔神の首は呪文発動後に再封印され、ルシフェル単身による光属性の黄金竜が、オルド達全員に放射される。オルドは丸焦げの身体に追い討ちをかけられ複数の金竜に咬みつくされる。 ジュリアンは光線状の竜複数に突っ込んで来られ凍った全身を砕かれた。 カイは痣の高熱ガスで対抗するが、黄金の竜はそれすらものともせずにカイの片腕の痣ごと吹き飛ばす。 パトラは胸部を押さえ口の端からは血を流しながらシールド展開、だが魔のシールドは天の攻撃に弱く、魔法無効化率が30%まで落ちる。そのため聖竜の大量光撃を防ぎきれずドスドスと二箇所、肩と脚に大穴を空けられ食い千切られた。「フフフハハハハ! どうした、タナトスやベルゼブブを倒した勢いは」 ルシフェルは哄笑する。 パトラがフラつきながら、無詠唱の呪文をルシフェルに向けて放つ。« 怒空炎砲撃 » 物質化レベルまで圧縮した闇の炎球を作り出し、放たれた炎球は進路上の物体に砲弾が命中したかのような穴を穿ちつつ進む。 しかし、暗黒魔法はルシフェルの魔のシールドに阻まれ完全に弾かれる。天と魔の両属性を持つ堕天使ルシフェルはこれまでの敵とはレヴェルが違った。 ジュリアンが倒れ、オルドも丸焦げで動かない。パーティーの要であるパトラはあばら骨がいくつか折れ、肩や脚に空いた大穴を再生中で、ハァハァと息を切らしながら、やっと立っている状態であった。(このままでは全滅する…! あの
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第五十四話 「覚醒の天使」

(ズズズズドゴオォォォォォンンンッッッ!!!) パトラの呪文によって作り出された閉鎖空間内に凝縮された核爆流を受け、ルシフェルの黄金の羽根が四方に散る。 ルシフェルは核の直撃は退けたものの、十二枚の翼のうち六枚が焼け落ち、焦げた羽根がゆらりと宙を舞う。黒い硝煙が上昇し、徐々にルシフェルの姿を顕にする。「クックッ…さすがはハデスの元幹部、凄まじい呪文の威力だ…まさに鬼神の如き…」 ルシフェルは天より堕ちた燐光の亡霊のような不気味さで呟いた。「まさか……あれを耐え切るなんて」 パトラは血を吐きながら万策尽きた、という表情で床にへたりこんだ。 カイは腐敗し失った片腕を庇い、焦燥に満ちた瞳で戦場を見渡す。手に持つ痣はもはや口を開かない。 そこに階上の層から、再生したベルゼブブとアスタロトの二柱の魔王が、冥府の瘴気を吸い上げながら降りてくる。アスタロトが吐くアンモニア口臭が全員の鼻を突く。 更に黒い硝煙の裂け目から、タナトスの影がゆっくりと現れた。死の神の足取りは静かで、だがその存在が空気を震わせた。 「………逃げるしかねぇ」 魔の支配者五体全員と対峙したカイは絶望する。「カイ……逃げられるの……?」 マリアの声は掠れ、灯すヒールの光が揺れる。「それか、オルドさんたちが……復活するまで、時間を稼ぐ……!」 カイは震える声で言った。その表情に浮かぶのは決意ではなく、諦念の中の小さな希望。 パトラは唇を噛み、貫かれた腹部を押さえて微かに笑う。「そんな時間、貰えると思う……?」 その笑みは、美しくも哀しい、終焉を覚悟した微笑であった。 背後のジュリアンとオルドはまだ動かない。 開発者の二人はあまりに強烈な衝撃を受けたせいで、現実への再転移が不完全のまま止まっていた。 彼らの魂は仮死状態、箱庭システムが必死に再接続しようと頑張って働いている。二人ともパトラの魔法やジュリアンの鉾でそれを経験していた。箱庭内で死ぬと開発者であっても半分気絶したままフリーズする間があり、膨大な量のプログラム処理に時間を要するのであった。  一方その頃───。 死闘が繰り広げられているコロッセオから離れた片隅の一室。 薄闇の中で、手枷で後ろ手に繋がれたセーラは「ふわぁ~あ」と目を開けた。「わたしは…」「お目覚めかい」「あなたは…?」
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第五十五話 「魔窟の祈り」

 コロッセオへ通じる崩れかけた回廊。 セーラはヒュプノスと煙の残り香を背に、ゆっくりと歩を進めた。床に散る瓦礫。吹き荒れる瘴気。「……みんな、生きていて」 言葉は独り言のように零れ落ち、風に溶けた。 セーラの足元を抜ける風はまるで死の囁きのようであり、その一歩は祈りにも似ていた。 そうして辿り着いた先は臭かった。 闇の裂け目から溢れ出る、腐敗と大便の臭気、吐き気を催すほどの悪臭がセーラを襲う。「くっさぁ…何この臭い」「セーラ……!」 マリアが驚きと安堵の入り混じった声を上げる。「みんな! マリア! カイ! パトラさん! 良かった」 その傍らには、オルドとジュリアンが倒れ込み、息を潜めている。生きていた。皆、生き延びていた。「でもオルド様とそのお友達さんは倒れたまま…」「セーラ、戦況は最悪だぜ…」 カイが千切れた片腕を押さえながら、血に濡れた唇で言った。 裸身だったセーラは箱庭の唯一神の加護を受け、淡い光を放つ天使の装束をまとっていた。その身体を守るのは、神属性の光虫たち、土星の環のように周囲を旋回する神聖の護り。「ルーテ、目覚めた、か」 ハデスが声をかける。その周りにはルシフェルを始めとした悪魔の支配者たる五魔王が揃っていた。(オルド様たちは一人も倒せずにやられたの…?)「セーラ! 一人では無理よ!」 マリアが叫ぶ。 パトラは大怪我の再生に集中しながら、天魔セーラ…やっと来たか…と呟く。「それでも、やらなきゃ」 セーラは右手を掲げ、聖なる光を集束させる。空気が震え、矢の形を取る光の粒が生まれた。(銀嶺より来たりて、我が敵を浄化せよ!)« 聖神弓閃光矢(ゲオル・レイ・ボウ) » セーラは、パトラに焼かれた羽根を再生中のルシフェルを狙うが、超スピードで放たれた光の矢がその身に達する直前、ルシフェルは片手であっさりとそれを掴んだ。「どうした、こんなものか」 ルシフェルは落胆したように冷たく言い放った。 マリアの癒手(ヒール)を受けながらその攻防を眺めるカイ。(いいぞ、セーラ、その戦略だ、倒せなくていい、オルドさん達が戻るのを待て、距離を取って攻撃して時間を稼ぐんだ)「まだまだっ!」 セーラは更に神聖魔術を詠唱する。(我がうちなる神の導きにのみ、我は従う)« 乾坤聖爆光弾(ワイート・クルスト) » あら
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第五十六話 「観測者」

 冷たい蛍光灯の下、静かな研究室で、ライナスがリセットの「承認ログ」を解析して立ち上がる。 その瞳は星々のように冷たく輝き、ガワだけは人間の形をしている。 少し離れた席では、ミシェルがパソコンに向かい黙々と作業を続けていた。 紙コップのコーヒーを一口飲み、肘をついて両目を押さえながらため息をつく。 何かに迷っているのか、それとも単なる疲労か、彼女の指先は動きを止めていた。「……ミシェル、どうした?」 ライナスはミシェルの席まで歩み寄り、立ったまま問いかける。「何を恐れている? 箱庭のリセットか、それとも自らの死をか」 ミシェルは黙してライナスを見つめた。「あるいは、"同じ選択を繰り返す世界"を、か?」 ライナスは疲れきったミシェルの頬を、掬うように指先で触れた。「君の"慈悲"は、あまりに人間的だ。だがそれはシステムを壊す。システムが造った理想を、腐らせる」「あなたは、守りたいのね。でも、私は……」「守りたい? 違うよ」 ライナスは首を傾げ、囁いた。「俺は観たいんだ。君が、何度目で絶望するかを」 その声は祈りのように穏やかだった。しかし、聞く者の心を切り裂くほどに冷たい。「……私はあなたの望む答えじゃないほうを選ぶわ。何度でも」 ミシェルは頬に触れるライナスの手をゆっくり払い除けた。 部屋は温度を失い、静寂が降りる。エアコンのブーンという音が、昔の夏休みの夜を思い出させる。「そうかい」 ライナスは寂しげに笑い、それ以上何も語らなかった。 それは痛みとも愉悦ともつかぬ、断末魔に似た微笑であった。 ◆ 万魔殿から命からがら逃げ延びたセーラたちは、オルドの地下室に身を寄せていた。 室内には焦げた金属と血の匂いが微かに残り、誰もが無言で椅子に腰を下ろしている。「……天界に侵攻した悪魔王たち、今どの辺まで行ってるか」 オルドが箱庭アプリで確認し、顔をしかめた。「半分……いや、もう中層に入った。時間がない」「負けると分かっていても行く。天界の人々を助けに」 セーラの声は震えていたが、その瞳には恐怖を受け入れてなお前に進もうとする、静かな覚悟が宿っていた。「天界の上に"神界"がある」 オルドが詳しい説明を始める。 ノートパソコンの画面に、魔導の地図が浮かび上がった。そこには神界への通路、《ヘルメスの階梯》と呼ばれる
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第五十七話 「滅びゆく天」

 数時間前。天界外郭「白亜の大回廊」 能天使(パワーズ)や力天使(ヴァーチャーズ)など主に武力に特化した天使がわらわらいる階層に一人の黒騎士がいた。 黒騎士スルトは最初から八本脚の軍馬スレイプニルと一体化し、深紅の長い角が二本生えた本気モードで駆け、天使たちをその輝剣(ジョワユーズ)で片っ端から斬り捨てて行った。「オラオラどんどん来い! どんどん!」 長い期間氷の棺内にいたスルトは、ルシフェルによって封印を強制解呪された。スルトは寒さにブルブルと震えながら、ルシフェルとハデスの前に膝をつき感謝と礼を言ったことを思い出していた。ちょうど天界に侵攻するタイミングで自分の力を必要とされたことがスルトには誇らしかった。 スルトは活き活きと天使たちを片付けていく。凄まじきスピードと剣の斬れ味、パトラ同様ハデス隊の幹部の地力は伊達ではなかった。 ルシフェル達は外郭に構える全ての天使をいとも簡単に捻り屠り、天界中層へと向かう。「……ミカエル」 中層には下級天使群の他にルシフェルのかつての兄弟ミカエルを筆頭としたアークエンジェル四大天使が守護している。 登るとそこは白く輝く大地が緩やかに広がっていた。遠くには“天之書庫(セレスティアル・アーカイヴ)”と呼ばれる巨大な塔がそびえ、天使たちがその回廊を行き交いながら、神々の意志や宇宙の理を記録している。湖のような光の泉では、翼を浸して過去の記憶を洗い流す者もいる。そんな平穏が、足音一つで踏みにじられようとしていた。「よくここまで来たな、堕落した兄弟よ」 ルシフェルを待ち構えていたミカエルが大仰に言った。その目には怒りと、ほんの少しの哀れみが浮かんでいた。 ミカエル、ガブリエル、ウリエル、ラファエル。四大天使が直接中層の門を封じた。彼らの力は他のアークエンジェルとは次元が違い、中でもミカエルは最強格で"中層の頂"と呼ばれている。彼は「神意を媒介する上位存在」よりも戦闘に最適化された個体である。 しかし……、今回のルシフェル達は圧倒的な強さであった。四大天使のうち三人はタナトスやベルゼブブの手にかかりウリエル、ラファエル、ガブリエルと相次いで散る。最後にミカエルだけが残り、ルシフェルと相対した。「やってくれたな…だがルシフェル、お前だけはこの私の手で必ず葬ってやるぞ…」 ミカエルは研ぎ澄まさ
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