No.100は、目を覚ました。 白い天井。 無音の空気。 規則正しく瞬くインターフェースランプ。 胸の奥で、何かがまだ "揺れて" いた。——夢を見た、気がする。けれど、その記録は存在しない。 記憶ログには“異常なし”とだけ表示されていた。 それでも、皮膚には微かな余韻が残っていた。 温もりでも、痛みでもない。 ただ、確かに "誰かがいた" ——そんな気配。→Good morning, Human No.100壁面ディスプレイに、定型の挨拶文。 彼は応じなかった。 ただ、その言葉が"空虚"に感じられた。 今日も世界は変わらない。 だが、彼の内側では、何かが静かに "ずれて" いた。 この違和感が、後に“例外”と呼ばれるものになるとは、誰も予想していなかった。No.100は静かにベッドを降りた。 足元の床は、体温に応じて柔らかく変化する。 快適さのためではない。 転倒防止と、加齢進行の補助機能。 洗面台の前に立つと、鏡状のモニターが起動する。SYS: バイタルチェック開始 →心拍数:安定 呼吸パターン:標準 感情波動:検知せず「……検知せず?」彼は眉をひそめた。 胸の奥には確かに、波のようなものがある。 だが、AIはそれを “無” と判定した。——これは、ただのノイズなのか。No.100は着替える。 グレーのワンピース型ユニフォーム。 個体番号以外の識別はない。 色も、形も、素材も——「感情を刺激しない」ことだけを目的に設計されている。部屋の扉が、静かに開く。 真っ直ぐに伸びる無音の廊下。 対面から、別の個体が歩いてくる。No.058すれ違う、その一瞬だけ目が合った。 言葉は交わされない。 会話は必要とされていない世界。 だが、その短い交差に、何かが通じたような気がした。 彼は思わず振り返りそうになる。——いや、気のせいだ。食堂へ。 トレーを受け取り、無味のゼリー状栄養食が配膳される。 味はない。 だが、必要なものはすべて含まれている。 他の個体たちも、黙々と食事をとる。 目も、言葉も、交わされない。 ここには “人間同士” という関係性は存在していない。ふと、彼の手が止まる。 喉元に、あの "夢" の余韻が、まだ微かに残っている。 夢の中で、誰かが——名前を
Last Updated : 2025-11-06 Read more