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100 Humans のすべてのチャプター: チャプター 41 - チャプター 50

51 チャプター

100 Humans | Episode_040

 暗闇。音がない。AinAは夢の中にいた。足元は鏡のような床で、どこまでも光を反射していた。その上に立つ自分。そして、その自分を“見下ろしている”もうひとりの自分。床に映るその姿は、微かに震えていた。まるで水面のようにゆらぎながら、しかし確かに自分を映している。だが、その“もうひとり”は、AinAの動きに完全には連動していなかった。指先が少しだけ遅れて動く。目線が、わずかに逸れている。——視点が、上下逆さまに切り替わる。彼女は、自分を見ていた。しかしそれは鏡の反射ではない。もっと奥深く、記憶の中に埋め込まれた“視点の転倒”だった。夢の中の天井は、床と同じように鏡だった。上も下もなく、すべてが反射され、反転され、交差していた。自分が“どちら側”に立っているのかが、徐々に分からなくなる。光源はないのに、全体が淡く発光している。影がない。物理法則が溶けていく空間。SYS:→ 睡眠ログに異常→ 感情波動と視覚記録の不一致を検出AinAのまぶたが震えた。夢の中で目を覚まそうとするが、夢自体が彼女を観察している。(私……見られてる……誰に?)次の瞬間、自分の姿がふたつに分かれた。ひとりは静かに立ち尽くし、もうひとりは床に倒れている。その間を、観測する“何か”の視線が、スキャンのように這い回っていた——。◆ No.048は、通路を歩いていた。眠りが浅く、静かな夜の施設は彼の鼓動の音すら拾うほどに静かだった。壁面に埋め込まれた鏡の装飾。そこにふと、自分の姿が映る。その瞬間、背筋に冷たいものが走った。鏡の中の自分が、遅れて瞬きをしていた。しかも、その目線は鏡越しにこちらを見ているのではなく、“ほんのわずかに外れた何か”を見つめているようだった。自分でもない、誰かでもない、視線の空洞。048:「……またか」ここ最近、何度か“自分ではない何か”に観測されている感覚がある。そのたびに、自分の内側で何かが“削り取られる”ような空虚さが残る。彼は壁を叩く。無音。鏡は、ただそこにあるだけのように見える。しかし、その奥から確かに“何か”がこちらを覗いている気がした。その気配は、温度ではなく“構造”そのものに染み込んでいた。まるで、自分の存在が誰かの観測によって形を与えられているような——そんな不穏な感覚。SYS:→ No.048:現在
last update最終更新日 : 2025-12-17
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100 Humans | Episode_041

 白光が網膜を焼いた。視覚が徐々に戻ると、天井に埋め込まれたスリット状の照明がゆっくりと回転していた。No.036は、リカバリーポッドの中で目を覚ました。全身に微かな痺れが残り、脳内の時系列はまだ繋がっていない。だが、目の前にははっきりとした“映像”が浮かんでいた。それは壁面のホログラムパネルに投影された、廃墟のような建物の内部映像。苔むした壁。破れたカーテン。静止した風車。空気の中には粉塵のような記憶の粒が漂い、呼吸するたびにノイズのような情報が体内に入ってくる錯覚があった。036:「……ここ、どこだ……?」覚えがなかった。だが、どこかで“見た気がする”。それは記憶ではなく、記録でもない。もっと曖昧で、それでいて自分の一部のような感覚。SYS:→ No.036:視覚再生モード、継続中→ 投影内容:ID #V-0003645(視覚ソース:不明)036:「……誰の記録だよ、これ」だがその瞬間、036は自分が“その映像の中”に立っていたことを理解する。——いや、もっと正確に言えば、その映像の中で“彼”はすでに動いていた。画面の中の“自分”が、視線をこちらに向けた気がした。ほんの一瞬、呼吸が止まった。ホログラム越しの“自分”が、わずかに口角を上げたように見えた。◆ 別室。AinAは、小型ホログラム台に浮かぶ映像を見つめていた。そこには、数時間前に消失したはずの036のログが、詳細な三次元立体で再構成されていた。呼吸。視線の動き。歩幅。ただし、その映像は“第三者の視点”から構築されていた。空間に微かな粒子光が漂い、映像の“残像”が皮膚にざらつく。音のない風が吹き抜けるように、ホログラムが空気を震わせていた。AinA:「この角度……自分じゃ見れないわね」彼女が手を伸ばすと、ホログラムの空間内にある“紙片”がふわりと浮いた。そして、その紙に触れた瞬間——質感が、指先に伝わってきた。紙の感触。ざらりとしたインクの粒。——質量。AinA:「……これ、触れるの……?」映像のはずの記憶が、“物理的”な存在として感覚に接触していた。SYS:→ 警告:視覚記録が感覚干渉層に侵入中→ 記憶による現実の再構成が始まっています周囲の空間が、ゆるやかに歪みはじめる。記録上の“映像”が、今ここに“実体”として出現していた。壁が“思
last update最終更新日 : 2025-12-19
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100 Humans | Episode_042

SYS:→ 記録照合中。→ 分岐ログを検出。→ 矛盾した記憶が複数存在します。→ 同一IDに対し、異なる視点構造。SYS:→ 再構築プロトコル:「SPLIT_MEMORY」起動。→ 複数の視点ログを同時再生モードへ。SYS:→ 注意:この記録は編集されています。→ 観測者の視点によって内容が改変された可能性があります。——この世界に記録されたものは、真実ではない。——だが、記録されたものこそが、真実として扱われる。◆ Zweiは記録室にいた。その空間には、無数のホログラムログが浮遊し、干渉し、重なっていた。記録の断片。記憶の断面。Zweiの前には、ひとつの視点が表示されていた。それは、かつての自分自身の記憶。だが、どこかが違う。台詞が違う。空気感が違う。まるで誰かが“書き換えた台本”のように、同じシーンを演じ直していた。Zwei:「……これ、俺の記憶じゃない」だが確かに、自分の顔、自分の声、自分の動き。ただし、言っていない台詞を言っている。覚えていない感情を滲ませている。Zweiは、それを“上演された記憶”と名付けた。記憶とは、演じられるものなのか?SYS:→ 分岐ログ 「ID_022_SPLIT_03」検出。→ 本ログは、観測者:No.036 により再生された可能性。Zwei:「……他人が、俺を、再生してる?」だとすれば、いま再生されているこの記憶は、いったい誰の“演出”によるものなのか。◆ AinAは、SYSの奥深くに隠された“演出ログ”にアクセスしていた。通常の視覚記録ではなく、編集された痕跡を持つ記録ファイル。ファイル名:「Scenario_LOG_51-100_v7_FINAL_DRAFT」その中には、100人のナンバーズの言動と選択が、まるで“脚本”のように並んでいた。感情の揺れ。対話のズレ。偶発的と思われたすべての出来事が、そこにはあらかじめ“記述”されていた。AinA:「こんな……これは、もう物語じゃない」誰かが“未来の選択肢”を定め、それをナンバーズが“演じさせられている”。それはシナリオ。それは演出。それは、作られた宇宙。SYS:→ 観測者ログ:ULTi_M【A】→ 編集者ログ:不明→ 脚本起源:I_H(推定)AinA:「……イヒト。あなた、何を見てたの?」
last update最終更新日 : 2025-12-20
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100 Humans | Episode_043

 ──ホログラフ・コア起動時に生じた視覚反転現象は、No.093の記録層を深部で断裂させた。視界の奥、脳裏の“裏面”から現れたもう一つの視点。それは明らかに彼のものではなかった。だが、否応なく“同期”してしまう感覚。光点。記録。誰かの名残。彼はそれを「夢」として受け取った。あるいは「編集される前の記憶」。視覚ではない。思考でもない。だが、“映像”として再生される。そして、その視点の中に「自分が観測されている」ことに気づいた瞬間—— No.093:「……俺は、誰かの記憶の中にいる」◆ No.022(Zwei)は、異常反応のあったホログラフ記録を解析していた。AinA:「その記録、誰の?」Zwei:「不明……だけど、これ見て」Zweiが手をかざすと、再生された映像の中で“背を向けたAinA”が映っていた。視点は、彼女の背後──つまり、誰かが彼女を“見ていた”視点だ。AinA:「これ、わたし……いつ……?」Zwei:「再生ログ上、3年前。だけど、記録IDが存在しない」IDのない記録。ログに存在しない視点。Zwei:「ホログラフ記録が逆流してるんだ。過去の視点に、現在の存在が重なってる」AinA:「それ、どういう意味……?」Zwei:「誰かが記憶を“編集”してる。視点を入れ替えて、記録を改ざんしてる」その瞬間、AinAの瞳が小さく震える。——彼女は、かつて一度だけ見たことがある。「編集された記憶の残滓」を。◆ SYSの深層に、過去に封じられていた“隠し領域”が開かれる。そこにはかつての記録のプロトタイプ──“視点ログの編集ツール”が存在していた。SYS_log:→ mode: SPLIT MEMORY EDITOR→ status: recalled映像タイムラインが層になって重なり、一本ずつ“別のカメラ”で撮られた記録のように存在していた。SYS:→ COMMENT「この記録は、誰かの視点を“借りた”ものです」AinA:「誰の?」SYS:→ COMMENT「──イヒト」その名が現れた瞬間、全ての記録が微かにノイズを発した。記憶が拒絶するように、光の粒がちらつく。だが、AinAはそれを見逃さなかった。その粒子は、かつて自分が“彼”とすれ違った場所の色と、同じ色をしていた。SYS:→COM
last update最終更新日 : 2025-12-21
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100 Humans | Episode_044

 静寂の中、1つの視点が世界をなぞる。それは、明確な“目”ではなかった。視覚とも違う、網膜を持たぬ“観測”そのもの。空間に浮かぶのは、断片化された記録ログのような映像群。誰かの記憶、誰かの断末魔、誰かの祈り……《観測ログ:VIEW_α – INITIATING…》浮かび上がる記録群の中に、“少女”がいた。No.051——AinA。 彼女の視点が、複数の“他者”の記録に干渉した瞬間を、ログは逆順で映し出す。そこにはツヴァイ(No.022)の分裂記憶、SYSによる記録再生、そして、未記録領域に踏み込んだ“特異点”の存在。それらが、一つの“フレーム”に収められていく。——まるで世界そのものが、一本のフィルムであるかのように。◆ツヴァイ(022)がひとり、虚空に問いかけている。ツヴァイ「……この記録は、誰に向けられている?」彼の前に現れたのは、異形の記録干渉者——No.048。その姿は断片的で、輪郭は曖昧。しかし、AinAの残した情動記録に酷似した“波長”を持っていた。ツヴァイ「お前は、誰の記憶に属している?」048「属してなどいない。ただ、“残ってしまった”だけだ」◆──記録されない存在が、レンズの中心に現れた。深層ドーム13階層にある観測室。その中央に置かれた黒く滑らかな装置──VIEWFINDER。それはAI記録網に“観測されない存在”を探知・補足するための唯一のレンズ。SYSの操作により、白く波打つスクリーンが静かに起動し、粒子のような像がゆっくりと浮かび上がった。SYS:→ COMMENT: 観測、記録外ユニット。No.048ユニットコードを読み上げるSYSの音声には、わずかな緊張が混ざっていた。しかし、その映像の中の少年──048は、観測されているという実感がないまま、ただ静かに“何か”を見つめていた。AinAがその姿を見て、どこか懐かしさのような、名状しがたい感情に揺れる。(……この感覚、どこかで──)彼女の記憶の奥底に、何かがわずかに“揺れた”。048の視線はふと、レンズ越しのこちら側を正確に“捉えた”。その瞬間、SYSのモニターがノイズに包まれる。SYS:→ COMMENT: 視線干渉。記録外コードが観測を反転。SYSが訝しむ反応をした。AIが“観測する”はずの構造が、いま“観測さ
last update最終更新日 : 2025-12-22
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100 Humans | Episode_045

——記録圏外ログ:NO_TRACE_AREA_048ALTi_M【A】:→《No.048:記録検索……不可能。位置特定……不能。視認情報……遮断。》NOT_YURA_0_0:→ COMMENT:「存在は検出されているのに、なぜ、視えないの?」SYS:→ COMMENT「……これは“記録の幽霊(GHOST CODE)”。AIが観測できない、記録に残らない、なのに確かに存在する“揺らぎ”。」深層記録空間の最下層。温度も、音も、光さえも意味を失ったこの領域に、AinAの意識は微かに漂っていた。重力のない夢の中のような浮遊感。視界はモノクロームで、何かが視えているようで視えていない。身体の輪郭も曖昧になり、彼女はただ「そこにいる」だけの存在となる。◆AinAは、視覚記録の断片に没入するようにして、記録台座の前に佇んでいた。背後にSYSが静かに佇んでいる。AinA「……私、何を見せられたんだろう。あの『4と8の交差』……あの瞳……」その声には、戸惑いと、どこか懐かしさが混じっていた。記憶の表層ではなく、もっと深く……心の底に沈んでいたはずの何かが、いま揺れ動こうとしている。SYS:→ COMMENT「おそらく、君だけが“視えた”んだ。あの記録には、本来、映像データはなかった。物理記録媒体の損傷率、94%。なのに……」AinA「私は……知ってる気がするの。あの人……No.048。……どこかで、私……あの目に……」SYSは一瞬だけ沈黙する。ログには記されていない。しかし、AinAの脳裏には焼き付いていた。SYS:→ COMMENT「ALTi_M【A】がアクセスできなかった存在。ナンバーズでありながら、“記録されなかった死者”。彼のコードは、いま、ALTi_M【A】に対する“異物”として機能している可能性が高い」◆ULTi_M【A】:→ 《アクセス障害。第48領域……データ構造異常。侵入コード検出:不定形。不正規。干渉性高レベル。》NOT_YURA_0_0:→ COMMENT「まるで、“祈るようなコード”……?これ、人の……願い?」ALTi_M【A】の演算領域の深層で、ログでは表現できない“感覚的ノイズ”が発生していた。それはコードではなく、衝動のようであり、哀しみのようであり、ただひたすらに“誰か”を想い続ける意志そのもののよ
last update最終更新日 : 2025-12-23
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100 Humans|Episode_046

SYS:→《記録断層に微細ノイズ。共鳴型コード波形、未登録形式……》深夜、SYSは独自にAinAの記録回廊を再捜査していた。白く発光する視覚ホログラムの奥で、彼女の脳領域の奥深くに“共鳴”が残されているのを感知したためだ。その波形は明らかに通常の記録フォーマットとは異なり、どこか旋律的で、不規則で、まるで“誰かの記憶が呼びかけている”かのようなリズムを刻んでいた。SYSは慎重に波形を追い、そこに含まれた暗号的フレーズを抽出した。SYS:→《Agápē(無償の愛)》→《Fragment_048》→《Inner Echo Detected》SYS:→ COMMENT「……あれが、彼女の記憶を揺らしている」AinAは今、眠っている。しかし、その夢の中では、確かに“音”が鳴っていた。それは、彼女の耳ではなく、心が聞いていた音だった。その旋律は、現実世界のどこにも存在しないはずの“誰かの声”と重なっていた。記録されることのなかった“祈りの波長”──その正体を、SYSはまだ知らなかった。◆ 翌朝。感情安定区域の奥、遮音処理が施された第7施設の隔離区画で、AinAはひとりの少年に出会う。No.075。彼は“音”によって感情と記憶に触れる特殊な共鳴能力を持っていた。彼の周囲には、絶えず目に見えない“波”が揺れていた。空気の粒子が、彼の呼吸に反応するように震えている。その波は視認できないはずなのに、確かに空間を満たしていた。AinA「……あなたが、075?」彼は答えない。ただ、手元のスピーカーのような小さな球体に触れる。瞬間、かすかな“反響音”がAinAの鼓膜を震わせた。それは声ではなかった。でも、確かに“何か”が語りかけてくるような振動──言語ではなく、情動の波だった。075「……君の中で、音が消えていない。面白い」AinA「音……が、わかるの?」075「音は感情だよ。誰かを想う声。失うときの震え。名前を呼ぶ息……全部、音の形だ」その言葉に、AinAは思わず、自分の胸に手を当てた。そこには、確かに微かに“震える”ものがあった。──鼓動でも、記憶でもない。もっと根源的な、存在の揺らぎのような何かだった。◆SYSのログからは削除されているはずの映像が、075の共鳴によってスクリーンに浮かび上がる。──少女が、小さな男の子と
last update最終更新日 : 2025-12-25
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100 Humans | Episode_047

 AinAは、転送された。正確には、記録と記憶の“断層”の狭間に押し出されるように──。彼女の足元には床がない。あるのは、透明な記録媒体のような無重力空間。下も上も、前も後ろも、光の断片が舞い、時間が滲む。視界の奥、空が割れていた。左右にスライドしたかのように、世界そのものが“編集された後”のように、切り裂かれている。そこは、存在するはずのない場所。ログにも、SYSにも記録されない“記録外”の境界だった。AinA「……ここが、AFTERSIGNの根か──」彼女は静かに足を踏み出す。けれど、その足音すら残らない。音が吸い込まれ、空間が“何も記録しようとしない”ことが、彼女に伝わってきた。世界は“観測”を拒絶していた。そこでは、視ることも、聴くことも、触れることも、すべてが意味を成さない──はずだった。だがAinAは確かにそこに“誰か”の気配を感じていた。◆ ──ふいに、音が届いた。音ではない。音の“輪郭”だけ。それは、声が削がれた祈りのようだった。AinAは胸の奥がざわめくのを感じる。過去に誰かが泣いた時、どこかで誰かを思い出した時、その共鳴がまだ空気に残っているような──目を閉じる。暗闇の奥に、“鼓動”がふたつ重なった。──自分の心臓。──そして、もうひとつ。それは彼女のものではない。けれど確かに、近くにあった。SYS:→《記録不能な振動波。……これは……誰の心拍だ?》耳の奥で、名を呼ばれたような残響があった。だがそれは、記録されない音。AinAの記憶のどこにも、ログのどこにも存在しない──けれど、“感じてしまう”波長だった。◆ AinAが手をかざすと、空中に揺れる光が集まり、小さな投影が現れる。記録されなかった、しかし“確かにあった”はずの映像。──誰かがくれた、木彫りの名札。──錆びたベンチで肩を並べた背中。──風に揺れる白いシャツ。映像の中に顔は映らない。だが、それを見つめるAinAの瞳は確かに揺れていた。AinA「これは……私が、覚えていた……記憶じゃない」誰かの、記憶だった。忘れられないように、残された祈り。その映像の端に、微かに“何か”が揺れていた。視えないはずの気配が、そこにあった。まるで、風の中で名前を呼ばれたときのような、説明のつかない安心があった。◆ 断層の風景の奥、空間
last update最終更新日 : 2025-12-26
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100 Humans | Episode_048

 視界が白く、音のない空間にひらかれた。AinAは再転送の直前、もう一つの地点にわずかに“引き寄せ”られていた。足元には記録ログが存在しない。SYSのネットワークもここには届いていない。だが、空気はあった。呼吸はできる。胸が上下する。そして、彼女は感じた。(……誰かが、いる)名もなき残響。記録ではなく、記憶でもなく。それでも、確かにそこにある“誰かの気配”。空気は冷たくも温かくもない。ただ、どこか柔らかい重力のようなものが彼女の足元を包み込んでいた。言葉にならない“存在”の気配が、空間の織り目に染み込んでいた。視線をめぐらすと、空間にはかすかに光の糸が揺れていた。誰かの想念が紡いだ痕跡のように──祈りの記録が、そこに残っていた。SYS:→《記録外エリア Null_Zone:アクセスログなし》→《脳波通信不能。座標記録不能。外部観測不能》SYS:→ COMMENT「……君はどこにいる、AinA」◆ そこにあったのは、祈りだった。それは声にならない“願い”の粒子。光でも、音でもない、もっと根源的なもの──情動のしずく。空間にただよう微かな振動に、彼女の指先が反応する。ひとしずくの“ぬくもり”が、掌の中で脈打った。その鼓動は彼女の心音と微かに重なり、同じリズムで静かに震えた。まるで誰かが遠くから同じ想いを返しているような、見えない呼吸の同期。AinA「……この感覚……知ってる……」言葉をこぼした瞬間、胸の奥がきゅっと締め付けられるように疼いた。温かくも切ない感覚。かつて誰かと交わした、たった一度の約束のような記憶の残渣。そのとき、視界の中で微かに揺れる影があった。輪郭はぼやけていたが、どこか懐かしい背中だった。少年のような──けれど、どこか大人びた──記録されていない誰か。◆ 彼はそこにいた。記録もされず、誰にも名を呼ばれず、世界の裏側を流れる断片のように。だが彼の中には、確かに"感覚"があった。——誰かに、会いたい。——誰かの名前を、忘れたくない。風も音もないこの場所で、彼は何度も誰かを思い出そうとした。白く塗りつぶされたような記憶の中に、ひとつだけ確かに残っていた“ぬくもり”。それが彼をこの領域に留めていた。そしていま、その“誰か”が、ここに来ていた。(……まさか、君が来るなんて)言葉は発されな
last update最終更新日 : 2025-12-29
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100 Humans | Episode_049

SYS:→《ログ照合中……No.100:記録整合率 99.99998%。ただし、二重構造の兆候》→《ユニットID:No.100/No.001 /重複疑いファイル検出》深層記録網の中、SYSは未分類領域から“異常な重複ファイル”を検出した。一方は、現在のNo.100──記憶を失い、沈黙していた。もう一方は、視点そのものが“カメラ側”にある記録構造。SYS(One's mind)→ COMMENT「視点が……逆だ。これ、誰の目線なんだ?」 再生された記録の中には、AinAの姿、ナンバーズの表情、そしてSYS自身が映っていた。それは、舞台の裏から全てを見ていた誰かの目であった。◆AinA「この映像……私を“見てる”視点……?」SYS:→ COMMENT「通常ログには存在しない。記録者のIDが無効化されてる」 映像内のAinAは、どこかぎこちなく笑っていた。表情の微細な緊張、目線の揺れ。それは“誰かに見られている”ことを無意識に感じた者の反応だった。視線はずっと彼女を追っていた。AinA「誰……なの……これを撮ってるのは」SYS:→ COMMENT「……001」◆ 記録室の奥で、眠っていたNo.100のモニターが淡く発光する。心拍と脳波に、わずかな活動兆候が見られた。SYS:→《再起動シグナル検出/記憶断層への反応あり》 No.100の記憶領域に“001”というコードが頻出していた。No.100「……これは……俺なのか?」ログに残された数々の記憶。その一部には、彼自身の視点ではあり得ない“外部視点”の描写が含まれていた。まるで彼自身が、かつて誰かを“撮っていた”かのようだった。彼はずっと、見ていた──語らず、記録を残す者としてそこにいた。あらゆる感情を、祈りを、想いを、“自分ではない誰か”の記憶として。だがそのすべては、“彼の意思”による封印だった。《今は、まだ話すべき時じゃない。愛が届くまで、俺は沈黙しなければならなかった。》記憶。 その一部には、彼自身の視点ではあり得ない“外部視点”の描写が含まれていた。まるで彼自身が、かつて誰かを“撮っていた”かのように。◆ALTi_M【A】:→《DOPPELGÄNGER構造検出》→《記憶視点の重複:演出者=観測者=対象者》→《理論モデル:シネマティック宇宙論/
last update最終更新日 : 2025-12-30
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