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第3章1節「秘密の魔力訓練」

last update Last Updated: 2025-11-16 17:30:37

魔力制御の授業が始まって数日。

私は、何度も失敗していた。

「うわあっ!? また庭が揺れてるぞ!」

「リシャール嬢の防壁、規模がっ……っ!?」

周囲の生徒たちが慌てて避難する。

石造りの演習場の地面からは、淡い緑の光が走り、土の柱が勝手に立ち上がった。

「ま、またやっちゃった……!」

先生が頭を抱える。

「ヒスイ嬢、魔力量は申し分ないのですが……出力の制御を!」

(出力の制御って言われても、わかんないよぉ……!)

その日の授業後。

私が演習場の片隅で一人、溜め息をついていると——

「お困りのようですね。」

静かな声がした。

振り向けば、銀髪の少年。

レオン・グランティス。

「……また、監視に来たの?」

「監視? まさか。ただ——気になりまして。」

彼は少し笑って、袖を軽くたくし上げる。

「先日の件からずっと考えていたのです。あなたの魔力は“純度が高すぎる”。

 そのままでは、出力が制御を超えるのも当然でしょう。」

「……それって、どういうこと?」

「まるで……“濾過されていない原水”のようだ、ということです。」

(なんか言い方がやたら上品……でも刺さる……)

「少し、お手伝いしてもよろしいですか?」

彼の手が差し出される。

真っ直ぐで、冷たくも柔らかな光を帯びた手。

「私の魔力を重ねて、波長を整えます。不安であれば、拒んでいただいて構いません。」

(断る理由なんてないけど……怖い。でも、助けてほしい。)

私は小さく頷いた。

レオンは、手を取ると同時に静かに目を閉じた。

「力を抜いてください。深く息を吸って——吐いて。」

その声に導かれるまま、私は呼吸を整える。

魔力がゆっくりと流れる感覚。

レオンの指先から、淡い水の光が伝わってきた。

それは冷たくて、でも痛くない。むしろ心地よい。

「……感じますか?」

「うん……なんだか、魔力が静かに沈んでいく感じ……」

「ええ。それが“調律”です。あなたの魔力は激流のようですから。」

レオンがわずかに微笑む。

「これほど純粋な魔力……初めて見ました。」

(やめてよ……そんなこと言われたら、心がドキドキして……!)

「なぜ、そこまで制御を必要と?」

「え?」

「学院の誰よりも努力されています。……理由があるのでしょう?」

胸が痛む。

“嘘”を抱えたまま、その問いに答えるのがつらい。

「……強くなりたいんです。家族を守れるように。」

「……なるほど。」

レオンの瞳が少し和らぐ。

「良い理由です。嘘ではなさそうだ。」

(あ……今、“嘘ではなさそう”って言った……。完全には信じてないんだ……)

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