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転生してないのって私だけ?!- 無転生令嬢のヒミツ、バレたら人生終了!? -
転生してないのって私だけ?!- 無転生令嬢のヒミツ、バレたら人生終了!? -
Author: 衣川ととな

第1章1節「家族の秘密」

last update Last Updated: 2025-11-07 02:17:52

この世界では、生まれた瞬間に「あなたは何転生目ですか?」と聞かれるのが当たり前だ。

転生してない人なんて、誰もいない――そう、誰も。

……はずだった。

でも私は、たぶんこの国でたったひとりの「例外」。

そう、無転生。

前世なんて、夢の中でも見たことがない。

みんなが“前の人生での経験”を話して盛り上がるたび、笑って合わせるのが私の特技になっていた。

「ヒスイ、また“前世で風を操った”って言ってたな」

兄のフェルスパーが、にやにやしながら言った。

今日もお茶の時間から容赦がない。

「う、うん! あの時は空飛ぶ魔獣と戦って――」

「土属性のくせに?」

「……」

終わった。

兄は楽しそうに笑ってカップを置く。

「そんなに焦らなくてもいいだろ。俺だって最初の転生の時は上手く思い出せなかった。」

「そ、そうなの?」

「嘘つけ」

テーブルの端で母が紅茶を注ぎながら小さく笑う。

「ヒスイ、もう少し設定を練っておきなさい。貴族は“前世の話”で交渉することもあるのよ。」

設定、ね。

……これ、もう芝居だよね?

その日の午後、私は兄と一緒に魔法の訓練をしていた。

「今日は防壁の練習な。土の魔法で構築してみろ」

「う、うん!」

両手をかざして地面に意識を向ける。

足の下で何かが動く。温かい――?

「……あれ?」

次の瞬間、地面がぼこっと盛り上がり、庭がぐらりと揺れた。

石の柱があちこちから突き出して、兄が慌てて飛び退く。

「おい!? ヒスイ、やめろ!」

「止まんない! 止まんないーっ!」

轟音とともに地面が一斉に光り出し、咲き乱れる――

淡い緑の結晶の花が、庭一面に。

兄が目を見開く。

「……おまえ、今の、どんな魔法式で……?」

「わかんない……私、ただ防壁を……」

そこに母が駆けつけた。

「何が――ヒスイ!? この魔力……!」

彼女の瞳が一瞬で真剣になる。

「フェルスパー、ヒスイを押さえて!」

「わかった!」

母が掌をかざし、淡い水の光がヒスイを包む。

それは、魔力測定の魔法。

淡い光が一瞬だけ弾け、次の瞬間、母の顔色が変わった。

「……転生の痕跡が、ない?」

「え?」

「そんな、あり得ない……」

兄も黙り込む。

私は震える声で言った。

「お母さま、どういう……こと……?」

母はゆっくりと私を見つめて、呟いた。

「ヒスイ……あなた、転生していないのね。」

心臓がきゅっと掴まれる。

息が、できない。

「わ、私、どうなるの……? 王都に連れていかれる? 処刑されちゃうの?」

「誰がそんなことを言った!」

ドンッと音を立てて扉が開き、父が入ってきた。

炎のような髪、厳つい顔――でもその目には怒りではなく、焦りが宿っていた。

母が静かに告げる。

「この子……無転生よ。」

沈黙。

長い、息を呑むような沈黙のあと、父は私に近づいて、無言で抱きしめた。

「誰にも言うな。……この秘密は、家族だけのものだ。」

その腕の力強さに、涙がこぼれた。

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