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第2章2節「貴族学園と転生履歴書」

last update Last Updated: 2025-11-07 02:18:41

午前の授業は「魔力波長測定」。

学院でもっとも緊張する時間だ。

(母さまの封印石がある限り、検出されないはず……!)

「ヒスイ・リシャール嬢、前へ。」

足元の赤い絨毯を踏みしめながら、私は魔導具の前に立つ。

透明な水晶に手をかざすと、淡い光が広がった。

ピピッ……

「三転生、土属性。波長安定――よく制御されていますね。」

先生の言葉に、心の底から安堵する。

(よかった……! 本当に、よかった……!)

だが、席へ戻る途中。

ふと視線を感じて振り向くと、ひとりの少年がこちらを見ていた。

銀髪に淡い青の瞳。凛とした立ち姿。

冷ややか、けれどどこか静かな光を宿している。

(……きれいなひと。)

彼は目が合った瞬間、静かに本へ視線を戻した。

昼休み。

学院の中庭にある白亜の食堂――専属シェフが腕を振るうビュッフェで、貴族生徒たちは優雅に昼食を取る。

煌びやかな銀食器、香ばしいローストとスープの香り。

私はリリアと共に、控えめに皿を取って席に着いた。

「ヒスイさん、お肉はもう少し取ってもいいのよ。育ち盛りなんだから」

「い、いえ、十分です……」

(貴族の食事って、量より雰囲気が勝つんだね……)

スープを口に運ぼうとした瞬間、背後から落ち着いた声がした。

「失礼、少々お時間をよろしいでしょうか。」

振り向くと、先ほどの銀髪の少年が立っていた。

制服の襟に刺繍された紋章――王家直属の監察局家系、グランティス家。

「あなたは……」

「レオン・グランティスと申します。水属性、四転生です。」

その言葉の響きは柔らかく、丁寧。だが、その瞳は真剣だった。

「リシャール嬢。先ほどの魔力波長測定について――少々、気になる点がありまして。」

心臓が一気に冷たくなる。

(ま、まずい……!)

「気になる点……ですか?」

「はい。あなたの波長、瞬間的に“転生痕不明”の反応を示しました。すぐに安定しましたが、通常の三転生者では起こり得ない現象です。」

(やばいやばいやばい!!)

「そ、それは……きっと測定器の誤作動では……?」

「……可能性としては、ございますね。」

レオンは柔らかく微笑む。

けれどその眼差しは、まるで心の奥まで見透かしてくるようだった。

リリアがすっと間に入る。

「レオン様。初日に令嬢を問いただすのは、少々無作法ではございません?」

「申し訳ありません。無礼をお許しください。ただ――好奇心を抑えられなかっただけです。」

「……好奇心、ですか?」

「ええ。あなたの魔力は、とても澄んでいた。まるで“初めて世界に触れた光”のように。」

(“初めて”……!?)

まるで、私の正体を知っているみたいな言い方。

レオンは軽く会釈し、静かに去っていった。

その背中を見送りながら、私は深く息を吐いた。

(ばれてはいない……よね?)

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