All Chapters of 幽霊聖女は騎士公爵の愛で生きる : Chapter 41 - Chapter 50

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41

グレイブの悲痛な声に、レティーシャは目をパチパチと瞬かせる。「執事長、逆ですよ。閣下のほうが離婚したい……」「坊ちゃまがそんなことを⁉」「……“坊ちゃま”?」可愛らしい呼び名に、レティーシャが首を傾げる。「私は坊ちゃまの小さな頃からウィンスロープ邸にいまして、坊ちゃまのおしめも換えたことがあります」「まあ、そうなのですね」「とても手際が悪うございましたけれど」胸を張るグレイブに、ソフィアがツッコミを入れる。その仲の良さにレティーシャが笑う。「とても元気な赤ちゃんだったのでしょうね」「その通りでございます。私は坊ちゃまたち三兄弟の乳母で、アレク坊ちゃまがご当主様になられたときに侍女長に……いえ、それはどうでもよくて」聞き上手のレティーシャのせいで、話が横にそれていた「旦那様が、離婚したいと言ったのですか?」ソフィアの言葉に「そうだった」とグレイブも我に返り、二人そろってレティーシャに詰め寄る。「いいえ、まだ言われていませんわ」「「まだ?」」「王命で結婚した上に、聖女の力で治ったと思われているのでしょうから言い出しにくいのではないでしょうか」「そんなことはなはず……いえ、それよりも。奥様はどうして旦那様が離縁を望んでいると?」「なんとなく」「なんとなく?」「なんとなくそういうのは肌で感じると、本にありましたわ」それは恋愛上級者のテクニックである。グレイブとソフィアは同時にそう思ったが、流石にそうとは言えない。そして三人の侍女とレダからの「うまくやってくださいね」という圧がつらい。「奥様、旦那様に想い人は……城、にはいません」ここで「想い人はいない」といったのち、明日にでもアレックスが「ずっと好きだった」などと告白した矛盾が生じる。そのための方向転換。急過ぎて、なんか変になった。「まあ、それではどこかのご令嬢? もしかして市井にいらっしゃるの?」「グレイブ、それは本当ですか⁉」レティーシャは楽しそうに声を弾ませ、ソフィアが驚いた声を上げる。なんだか余計ややこしくなったことにグレイブは後悔した。「と、とにかく旦那様が城にいるのは純粋に仕事が理由です」「家に帰りたくなくてお城にいるのではありませんの?」「どんな誤解ですか、帰りたくないなんてとんでもない!」グレイブは全力で否定した。「旦那様にお
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この頃、アレックスは貴族会議に出席しようとしていた。アレックスが議場に入ると、その場にいた貴族たちの驚いた目が一斉にアレックスに向いた。「これは……珍獣扱い?」「うるさいぞ、ロイ」ロイはグレイブの息子である。将来的にはグレイブの跡を継いでウィンスロープの執事長になる予定であったロイは、執事養成学校を優秀な成績で卒業し、学校長の頼みで学校に残って教鞭をとっていた。アレックスの危篤時には、ロイは学校をやめてウィンスロープに戻ることを考えた。しかし父グレイブと、なにより主人であるアレックスから「中途半端に仕事を投げ出すな」と言われて学校に残った。アレックスの結婚も、アレックスの回復も、ロイは学校で知ることとなったが後悔していない。しかし先日、そのアレックスから「仕事が溜まり過ぎ、奥さんとの時間が取れないから戻ってこい」と言われた。中途半端に仕事を投げ出すなという御高説はどうした。あの大嫌いだった婚約者と何があった。ロイは戸惑い、パニックを起こし、落ち着くとそれら全ては好奇心になった。それでも、ちゃんと引継ぎをしたロイは偉い。ウィンスロープに戻り、レティーシャを見てすぐにロイは気づいた。別人じゃん。その後アレックスとグレイブから事の次第を聞き、いまに至るというわけである。「そういえば、貴族会議は初参加でしたよね」「参加は任意だからな」「給料泥棒って言われません?」「騎士の仕事のほうで給料以上の働きはしている。それに、議会は多数決制だからな。結局はまあ、スフィア伯爵の意向にそったほうに決まる」「まあ、そうですね」「そんなところに少数派の俺が参加しても、いろいろ無駄じゃないか」アレックスの言葉に、何人もの貴族派の貴族が気まずそうに顔をそらした。「ウィンスロープ公爵!」元気のよい声に呼ばれてみれば、グロッタ侯爵だった。グロッタ領とウィンスロープ領は隣り合わせ。昔からいろいろ協力し合ってきた間柄だ。つまり、仲良し。アレックスは空いていた彼の隣の席に座った。「まさか議会でお会いするとはのう」(お?)グロッタの呼び水に、アレックスは彼が周りの貴族の好奇心を満たしてやるつもりなのだと悟った。「妻の実家がこの議会に何か議案を出したようでしてね、どんなものかと聞きにきました」「なるほど」「それにしても、しばらく寝込んでいる
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「サラッと終わらせるはずだったんでしょうけど……議長、困ってますね」「それがルールだ、俺の知ったことではない」議場のあちこちで貴族たちがヒソヒソ話す。今までだったら、聖女派が聖女の力を匂わせて黙らせてきた。しかし、アレックスのケガの件で貴族たちの認識はがらりと変わった。いままでは、いざというとき自分たちは治癒力で助けてもらえると思っていた。だから彼らは聖女を支持してきた。しかし、アレックスが怪我をしたとき聖女は治癒力を使うのを渋った。アレックスは国防の要。さらに、聖女自身が婚約者になることを渇望した男。そんなアレックスでさえ治療を渋られた。それなら、自分たちは?アレックス程の価値はないことは分かっている。治療を受けるには何を差し出せばいい?どんな代償を払えばいい?国家のために戦い続けただけでも足りない代償。聖女は、自分を助けないかもしれない。聖女の愚行が不信をよび、不信感が聖女信仰に影を落としていった。 「そもそも、スフィア伯爵はなぜ成人女性をわざわざ養女に迎える?」「王子妃の座を狙うにしても、第一王子と第二王子には既に婚約者がいる。末っ子の第四王子はまだ十歳にもならないというのに」元聖女派の貴族たちの言葉。元仲間の裏切りに、聖女派の貴族が反論する。「彼女は亡くなった聖女レティーシャにそっくりだそうですよ」「亡き娘の面影がある女性を養女に迎えたい、そんな伯爵の気持ちをご理解なさってはいかがです?」 (亡くなった聖女レティーシャ、ね)アレックスはこぶしを強く握り、レティーシャは生きていると叫びたい気持ちを抑える。「聖女レティーシャの面影を求めるなら、ラシャータ様がいるではないか」「左様。幼い頃ではありましたが、あの二人はそっくりだった」「似ていると言っても所詮は他人ではないか」聖女派に一矢と、国王派の勢いも増す。そんな中で、グロッタ侯爵が大きく咳ばらいをした。その威厳のある音に、議場が静まり返る。「議長、この議題については慎重に話し合う必要がありますぞ」「グロッタ侯爵……」議長は苛立っていた。アレックスだけでも厄介なのに、そんな気持ちが彼の顔に現れていた。「いや、あくまでも可能性なのだが……スフィア伯爵は、その女性と懇ろな関係なのではないか?」(攻めるな、グロッタ侯爵)グロッタ侯爵はアレック
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議会を終えて騎士団長室に戻り、ロイの用意した紅茶で一息つく。ロイのいれる紅茶は相変わらず美味いなと、アレックスは思った。(レティーシャにも飲ませてやりたいな)アレックスが命じれば、今すぐにでもロイは屋敷に戻ってレティーシャのために紅茶を入れるだろう。しかし、自分が会えないのにロイが会いにいくのは不公平だから、アレックスはそんな指示は出さない。 「スフィア伯爵が迎えようとしていた養女、ラシャータ嬢ですよね?」「隠れていることに飽きたのだろうな」「浅はかですね」アレックスの調べでは、スフィア伯爵夫妻とラシャータは領地の山の中にある山荘で暮らしている。「身の周りは使用人に任せているようだが、監視している者によれば三人とも閉じこもっていることに飽きてイライラしているらしい」「自業自得でしょうに……ん? 隠れるのはラシャータ嬢だけでいいのでは?」「ラシャータがそんなこと許すはずがないだろう……あの家族は権力も資産もラシャータに依存しているから、ラシャータが駄目だと言えば逆らわない」レティーシャがウィンスロープ邸から出ない限り、ラシャータが表舞台に出るには二つの方法しかない。一つは、レティーシャの存在を明らかにする。しかしこの方法の場合、伯爵と夫人は重罪に処されて断頭台行きは確実。もう一つは、ラシャータを別人にする。ただ別人にするのは簡単。しかし、ラシャータがこれまで通り貴族令嬢の扱いを受けたいなら、その別人をスフィア家の養女に迎え入れなければならない。 「アレックス団長」制服を着た騎士がきて、家から早馬がきて入門許可を求めているとアレックスに報告する。(書類の決裁か? しばらく公爵邸で仕事をしていないからな)「ロイ、手続きを頼む」「分かりました」ロイが部屋を出て行って、一人きりになるとアレックスはイスの上で姿勢を崩した。―――ウィン。レティーシャの、甘やかな声が頭に浮かぶ。「くそっ」どうしても考えてしまう。レティーシャが愛しているという、ウィンストンという男のこと。アレックスはスフィア伯爵邸に放っている者に、追加として『ウィンストンという名前の男』の情報を集めさせた。その結果、スフィア邸にはウィンストンという名前の男が老若男女あわせて二十一人もいた。使用人、多過ぎる。アレックスはその中から、十八歳
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アレックスに会いにいくと決めて支度をしたものの、レティーシャは大事なことを忘れていた。馬車恐怖症。「王城は目と鼻の先ですから。お天気もいいですし、歩いていくのはどうでしょう」「そうしましょう」だから、レダが出してくれた助け船に乗った。そして馬車問題が片付いたいま、初めての街歩きにワクワクしていた。「奥様、この道を渡りますよ」レダの言葉に頷いて、目の前の大きな道を横断する。ウィンスロープ公爵家の騎士たちが、レティーシャから百メートルほど離れたところで上下線を止めていたから、馬車どころか人っ子一人通らなかった。「レダ卿、お城にはどうやっていくのかしら」「奥様、ここがもう城です」「え?」公爵邸に庭を歩いて正門を抜け、目の前の大きな道を渡っただけ。「街は? 市場とかは、どこかしら?」「市場は、あっちのほうですね。あの門よりこっちは城の敷地になります」あの門というのはいま潜った門。道を渡る前、この大きな門をみて「立派な門だわ」と思ったことをレティーシャは覚えていた。「あの……奥様? どうなさいましたか?」「お店を見て回れるかと思っていたので……少し、残念で……」なんだ、というようにレダが笑う。「それでしたら、帰りは遠回りして帰りましょう」レダの提案にレティーシャの気持ちが一気に浮き立つ。「そうだ。街歩きは、閣下を誘ってみてください。騎士の仕事には城下の巡回もありますし、場所と時間に制限があるかもしれませんが、閣下と一緒に街にいけるかもしれませんよ」「まあ、私からお誘いして大丈夫かしら。 閣下は、どんなお顔をなさるかしら」「大丈夫ですよ」その顔は自分も見てみたいとレダが思っていると、大きな建物に着いた。レダ以外の騎士はここで待機になる。「早馬で先ぶれを出したので、ここで誰かが待っているはずなのですが……」「レダ」誰かがレダの名前を呼び、レティーシャがそちらを見ると「まあ」と思わず声が出た。そこにいたのはアレックスとは違った魅力のある壮年の男だった。「近衛騎士団の団長殿です」「とても素敵な方ですね」普通の騎士服の何倍も煌びやかな近衛騎士の制服も似合い、「花のある」とい言葉がとても似合っていた。「こんな爺に嬉しい言葉をありがとうございます。ロドリゴ・ドノバースと申します」「物語に出てきそうな素敵な騎士様で、吃驚し
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46

ロドリゴのエスコートで庭園を奥に進む。バラのアーチの前に、彼と同じ近衛騎士団の制服を着た騎士たちが立っていた。「こちらです」「ここは……特別な場所ではないのですか?」ここだけ騎士が立っている。「確かにここは特別な場所ですが、夫人なら大丈夫です」何の根拠も示されない『大丈夫』だが、優しい瞳にそれを信じることができた。レティーシャはアーチを潜る。生垣の細いスキマを抜けて中に入ると、そこはバラの生垣で囲まれた小さな庭だった。レティーシャの想像より小さい。でもどこか落ち着くここの雰囲気にレティーシャの体から力が抜けた。 庭にはガゼボがあった。その中にあるテーブルの上には何冊かの本があるのが見える。誰かがいた痕跡。ここは誰かの秘密の花園らしい。「花のない時期で物寂しいですが、時期になったらピンクのバラが満開になります」レティーシャは周りを見渡す。どれもバラの木だった。「それは見事な光景なので、バラの時期にアレックス坊やと来てみてください……なにか?」「ドノバース卿はなぜ公爵様を『坊や』とお呼びになるのですか?」ああ、とロドリゴは笑う。「アレックスが先代国王陛下の娘、国王陛下の姉君の息子であることはご存知ですか?」「はい」「アレックスは叔父にあたる国王陛下のことが大好きで、よく陛下のもとに遊びにきていたんですよ。必然的に俺は陛下とアレックスのお守りをすることになったんです」「そうだったのですね」「子どものときのアレックスはそれはもう可愛くて、あの頃は陛下も俺たちも常にポケットに飴を入れていて、坊やの気を引こうと必死になりましたよ」「公爵様にもそんな時期があったのですね」それからロドリゴは、アレックスの幼い頃の話をいろいろレティーシャに話してくれた。初めて聞くアレックスの幼い頃の話にレティーシャは夢中になった。(最後のおねしょが六歳だったということまで、聞いてよかったのかしら……)プライベートを深掘りし過ぎたのではないかと、レティーシャは悩んだ。「そう言えば、礼がまだでしたね。アレックスを助けてくれてありがとうございます」「団長様?」深く頭を下げる団長の肩は震えていた。「あいつの死んだ父親は、俺の友だちもあったんです」「ああ……」「あいつの忘れ形見にまで先に逝かれたら……」「閣下……お顔をあげてください
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「そんなに急ぐと、転びますよ」「転ぶかっ!」公爵邸からの使いはグレイブが寄越したもので、これからレティーシャが城に来るというものだった。戻ってきたロイからそれを聞き、急ぎの仕事を片付けてアレックスは城の受付に向かっている。「……まだ、来ていないか?」キョロキョロと周りを見渡したアレックスが、間に合ったと肩の力を抜いたとき、ロイがレダを発見した。「あれ、レダ卿ではありませんか?」「いや、しかしうちの馬車がないぞ」「歩いてきたんじゃないですか? ウィンスロープ邸、城の目と鼻の先ですし」馬車の用意のほうが時間がかかるというロイの言葉に、アレックスは納得した。しかしまた、眉間にしわを寄せる。「彼女はどこだ?」「そういえば、いないですね」「まさか、一人にしたのか?」「それは、レダ卿に聞いてくださいよ」レダのほうもアレックスに気づいた。そしてアレックスの問いに、レティーシャはロドリゴといると伝えた。「ロドリゴのおっさんと?」(嫌な予感がする)「これは……いまごろ奥様にあること無いことを言っているのでしょうね」ロイの言葉に、レダが頷く。「閣下に女遊びを教えたのは近衛騎士団長様ですものね」「レダ、それが分かっていてなぜ彼女を一緒に行かせた」 アレックスが急いで庭にいくと、バラ園からレティーシャが出てくるところだった。(あそこは限られた者しかいけない陛下の花園……なぜレティーシャを?)レティーシャがアレックスに気づいた。「閣下!」冬の寂しい庭に、突然花が咲いたかのような可愛らしいレティーシャの笑顔。それを向けられたことに、アレックスの気分があがる。「もしかして、お待たせしてしまいましたか?」「いま来たところだ。庭はどうだった?」「ロドリゴ様が案内してくださって、とても楽しかったです」「ロドリゴ様?」「はい、閣下。ロドリゴ様には、さきほど名前呼びを許していただきました」レティーシャは嬉しそうにアレックスに報告した。しかしアレックスは「閣下」。「あー、そう」「閣下?」レティーシャが首を傾げる横で、ロドリゴが肩を震わせて笑っている。「夫人、アレックス坊やも名前で呼んでほしいんですよ」「なっ……」「妻が夫を名前で呼ぶのは、信頼の証でもありますからね」ロドリゴがにっこりと笑うと、レティーシャは素
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「違うのです、ロドリゴ様。アレックス様に会いたくて、私が皆さんにお願いして連れてきていただいたのです」「え? そうなのか?」アレックスの言葉に、レティーシャはうっすら頬を染める。「それに、気になることもありましたし」「気になること?」レティーシャはアレックスを見上げて、眉をしかめた。そんな顔もやっぱり可愛いとアレックスは思った。「しばらくお会いできていなかったから……」レティーシャの顔がふにゃりと緩んだ。そして、レティーシャはアレックスの顔に手を伸ばす……が、届かない。「アレックス様、背が高過ぎるので少ししゃがんでくださいませ」「「え?」」レティーシャの言葉に驚いたのはアレックスだけではなかった。ロドリゴも驚いた。「おじさん、お邪魔虫みたいだから……」そう言って、ロドリゴは足早に庭を出ていく。「ロドリゴ様?」そんなロドリゴに、レティーシャはキョトンとしている。そのキョトンとした顔で、アレックスは察した。(あ、これ、違う。おっさん、誤解……いや、俺も誤解したけど。この顔、絶対に誤解。口づけとかじゃないから、絶対違うから……それはない、よな)「アレックス様、しゃがんでいただかないと目が見えません」「……やっぱり」「“やっぱり”?」「なんでもない」アレックスはため息を吐いて腰をかがめ、レティーシャと目線を合わせる。「目は複雑な器官だとお医者様も言っていたではありませんか」「ああ」「無理はいけませんわ」「反省している」「痛みはありますか? 私は見えますか?」レティーシャの言葉にアレックスは噴き出す。「こういうときは指を立てて何本か聞くんじゃないか?」「そうですわね」レティーシャはアレックスの言うことを素直にきいて、アレックスの前に指を二本突き出す。「二本」「問題なさそうですわ」ホッとしたレティーシャは「ふふふ」と声を出して笑う。「何かおかしいか?」「眠っていらっしゃるときはアレックス様の御顔を近くで見ておりましたが、こうして目を開けていらっしゃるのは初めてで……」(他人が聞いたら、一緒に寝ているのか誤解しそうな言葉選び……)「とても綺麗な目ですわ。ルビーのようにお美しくて……そしていま、ここには私しか映っておりませんの」レティーシャの目が、うっとりとする。「それがとても贅沢な感じがして……
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「まあ、ここが騎士様たちが訓練する場所ですか」落ちた株をあげるべく、アレックスはレティーシャを騎士団の訓練場に案内した。レティーシャは小説から学んだことを言っただけで何も気にしないが、なんかいけないことをした気分のアレックスとロイのもやもや感はなかなか晴れない。 訓練場では騎士たちが鍛錬をしていた。彼らはアレックスを見ていつも通り顔を固くしたあと、『あれ?』という顔をして隣に立っているレティーシャをガン見する。(ソフィアはラシャータに見えるように化粧を施したようだが……雰囲気がなあ)「あの方が猫千匹被っても、この善良かつ清楚な感じにはなりませんよね」「猫百万匹でも全然足りませんよ」ロイとレダのヒソヒソ話に同意したいところだが、残念ながらこの二人の話は解決策にはならない。(距離をとらせるしかないだろう)「レダ、彼女と一緒に観覧席の一番上に。防御幕を張ることを忘れるなよ」「一番上だと、閣下の姿がマッチ棒ですよ?」「……中段くらいでいい」 レティーシャがレダと共に離れていくと、アレックスは騎士たちのほうに向かう。「団長、あの美人は愛人ですか?」「城に愛人なんて連れてくるわけないだろう、妻だ」「え、それならあれが悪女ラ……」「わっ、この馬鹿!」若い新人騎士の口を周囲の騎士たちが必死にふさいだが、残念ながらアレックスの耳に入った。「す、すみません」「いや、気にしていない」その『悪女』はラシャータに対する評価だからレティーシャには関係ない。だからアレックスは気にしなかったのだが、周りは誤解した。特にアレックスがラシャータを嫌っていること知っていた騎士たちは、ラシャータが我侭を言ってここまで来たのだと誤解した。「団長。今夜あたり花街にくり出そうと話ていたのですが、一緒にどうですか?」「団長に会いたいって声をそこかしこで聞きましたよ」妻帯者を妻の前で花街に誘う先輩騎士たちに若手は驚いた。「ちょっと、先輩……」「いいんだよ。お互い様だし、なんなら夫人のほうがお盛んだ」「閣下よりお盛んって……そんな感じに見えないですが……」「化粧の力だろう。今日の化粧係はうまいな、清楚に見える」「……俺もころりと転がるかも」「お前ではいろいろ足りないだろう。聞いた話じゃあ『一晩中』らしいからな」「一晩中……」「あんな……激しくした
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50

訓練場を出たあと、レティーシャは騎士団長に与えらえる部屋に案内された。ロイのいれた美味しい紅茶で一息つきながら、帰り支度を始めたアレックスにレティーシャは首を傾げる。「アレックス様、今日はもお仕事は終わりですの?」「残っているのは明日以降に片付ければ大丈夫だからな。一緒に帰ろう」アレックスの言葉に、レティーシャの胸に希望が湧く。でも、勇気がなくて。 トンッそんなレティーシャの背中をレダが押した。「ア、アレックス様にお願いしたいことが……」「お願い?」アレックスが、首を傾げる。その顔は驚いている。(でも、嫌がってはいらっしゃらない)「一緒に、お散歩……あの、街でお散歩を、いたしませんか?」レティーシャの言葉に、アレックスはきょとんとする。意外なことを言われた。そんな目にレティーシャは恥ずかしくなった。「も、申しわけありません。アレックス様と街を歩けたら楽しいだろうと思ってしまって」「……ぐっ」何かが詰まる音がしたと思ったら、アレックスが激しく咳き込んだ。「た、体調が悪いのでしたら直ぐにお屋敷にっ! レダ卿……」「大丈夫です。深呼吸して、水の一杯でも飲めば治まります」その言葉通り、深呼吸したアレックスはロイから水を渡されていた。それをアレックスは一気に飲み干して、「大丈夫」と笑ってレティーシャを安心させた。「街を散歩しようか」「いいのですか?」「ああ、もちろんだ。誘ってくれるなんて、とても嬉しいよ」アレックスが了承してくれたことに、レティーシャの気持ちがぽんっと弾む。「だが、その姿では少々目立つな」「あ……」「変化の魔法は、使えるか?」(使える……といったら、この目の色のことがバレてしまうのではないかしら)レティーシャが悩んでいると、ロイがため息を吐いた。「主は変化の魔法がお得意なのですから、ちゃちゃっと奥様にかければいいじゃありませんか」「まあ……」「もしあれなら、私が施しても……」「それなら、俺がやる」そう言うが早いか、アレックスはレティーシャの髪に触れた。瞬く間に銀色の髪が、ティーカップの中のミルクティのような色になる。「お見事」と手を叩くロイを、レティーシャは見る。「変化の魔法は、ロイ様もお使いになれますの?」レティーシャの疑問を、ロイは笑って肯定する。「魔力もあまり使いませんし
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