(ここは、どこ?)丸太がむき出しの天井をぼんやりと見ていて、ハッと気づいた。ここは、スフィア邸の裏山に離れの小屋。レティーシャがウィンスロープ邸にいくまで暮らしていた小屋だった。何代か前のスフィア伯爵が趣味で作った小屋で、レティーシャはここで育った。(でも何か少し違和感が……そうだわ。ドモはどこかしら?)頼りになる精霊を探そうとしたとき、タッタッタッと軽い足音が聞こえてきた。レティーシャが振り返ると、見覚えのある女の子がいた。(……私?)少女は見覚えのあるワンピースを着ていた。まだ継ぎ接ぎがなくきれいな状態だ。乳母がこれを作ってくれたのは、レティーシャの記憶では六歳くらいの頃だった。(夢を、見ているのね)精神干渉。ある聖女の手記に、暗号めいた形で残されていた秘技だ。人の体には寿命という限界がある。聖女は怪我や病気を治せても、寿命をどうこうすることはできない。死は必ず訪れる。だから、体は限界だけど心は生きたいという人に聖女は夢を見させる。見るのは、その人が最も幸せだったときの夢。自由に動かせる体を持ち、苦しみも痛みもなかった頃のこと。またこんな風に……「また」と思った瞬間、人は生を捨てて死を選ぶ。 (私はまた死にたいって思ってしまったのね)あの暗号を紐解けるのは、この『しあわせな夢』を見たことのある聖女のみ。つまり、死にたいと思った聖女だけが、この死と隣り合わせの『死合わせな夢』を見ることができる。レティーシャがこの夢を見たのは、過去に二回ある。(この私はなにも知らない。私が幸せだったとき)最初は、いま夢に見ているこの六歳のとき。六歳のレティーシャは山小屋の中を駆け回っている。レティーシャがしばらく眺めていると、それに飽きたのか、六歳のレティーシャは小屋を出て庭を走り回りはじめた。山小屋は柵で囲まれていて、ここから出てはいけないとレティーシャは乳母たちに厳しく言われていた。今のレティーシャから見れば箱庭のような小さな庭。でも、当時のレティーシャにとってはこの箱庭が全て。全てだったから、ここが箱庭と気づかずレティーシャは幸せだった。 パキッ雑木林のほうから音がして、レティーシャはそちらを見た。そこには、六歳のラシャータがいた。(そう……この日初めて私
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