「無理ですわ!」父伯爵が言ったことは、無茶を通り越して無謀な話。レティーシャは反射的に、「はい」以外で答えてしまった。 パアンッレティーシャの視界がグルっと回った。壁が見えて、頬がジンッと熱くなる。「口答えをするんじゃないわよ」痛みに滲むレティーシャの視界で、ラシャータがまた手を振り上げていた。また、叩かれる。レティーシャは目を瞑り、痛みに備えて体を強張らせた。叩かれることには慣れてはいるけれど、痛いものは痛い。「ラシャータ、それにケガをさせるな」「……なぜ?」父伯爵に止められたラシャータの声は不満気だった。「初夜の床で、傷があるからと騒がれたら迷惑だ」父伯爵の言葉に、ラシャータはキャハハッと笑った。「新床なんてないわ。新郎は腐りかけて、ベッドから起きあがることもできないんだもの」(……腐り、かけている?)ラシャータの言うことが本当なら、自分の婚約者が腐りかけていることのどこに愉快さがあるのか。どこに笑う要素があるのか。レティーシャには分からなかった。ラシャータに対して不快な気持ちを隠せなかったが、レティーシャの眉間に寄った皺をラシャータは恐怖と誤解した。ラシャータの顔が愉悦に歪む。 「アレク様、魔物に呪われたの」「そんなになるまで、どうして……」「だって、醜かったのだもの」呆気らかんとした、悪びれのないラシャータに、レティーシャは唖然とする。「アレク様の全身は真っ黒で、臭くて、近寄りたくもなかったの。あれはもう、アレク様じゃないわ。怪物よ。怪物と結婚するなんて、私は絶対に嫌!」「それでは、治癒は……」「するわけないじゃない、気持ち悪い!」ラシャータは自分を守るように、自分の腕を自分の体に回した。(それなら……いえ、分からない。治癒を命じるなら、分かる。それなのに、なぜ公爵閣下と結婚する必要があるのかしら)「んもう、お父様のせいよ。お父様が陛下に、治癒力を最大限に発揮するには『伴侶』になる必要がある、なんて言うから」「仕方がないだろう。お前が治癒を拒んだなどと言えるわけがない。それに、こう言えばで王命でお前がウィンスロープ公爵夫人になれる、そう思ったから」「結婚したかったのは、アレク様が怪物になる前の話。おっそいのよ、お父様は」膨れるラシャータと、それを宥める父伯爵のやり取りで、レティーシャは王
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