All Chapters of 二人の彼女がいる理由: Chapter 11 - Chapter 20

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第11話 誕生日会

 由紀はキッチンに入り、母親の裕子に言った。「お母さん、友達の分も夕飯をお願い」「わかったわ」と裕子。「範経はベッドで寝てるから、食事を別にして」と由紀。「具合が悪いの?」と裕子。「疲れてたみたい。ぐっすり寝てるわ。それから、みんな泊まるから、あと三人分、お布団を出して」と由紀。「それでどうなったの」と裕子。「範経は家出をしないし転校もしない。うまく話がまとまったわ」と由紀。「よかった。安心したわ」と裕子。 キッチンでの会話を隣のダイニングルームで聞いていた祥子が言った。「由紀、話を端折りすぎじゃね?」「いいのよ。お母さんを心配させてどうするの?」と由紀。「それもそうだな」と祥子。「玲子はどうするの? 泊まっていくでしょ」と由紀。「もちろんよ。こんなに楽しいお誕生日会は初めてだわ!」と玲子。「お前、本当に動じないよな」と祥子。 由紀と祥子、玲子は母親の裕子が用意した夕飯をダイニングルームで食べた。「おいしかった。お腹いっぱいだわ」と玲子。「範経はまだ寝てるかな」と祥子。「どうかしら」と由紀。「部屋にもどりましょう」「私たちがいて、うるさくないかしら」と玲子。「大丈夫よ。範経は布団さえあれば、どんな場所でも寝られるから」と由紀。「それに、あいつが目を覚ましたとき、私たちがいた方が安心するだろ。ご飯も食べさせないといけないし」と祥子。「そうね」と玲子。「順番にお風呂に入って頂戴。私が範経を見てるから」と由紀。「着替えを持ってくればよかったわ」と玲子。「私のを貸してあげる。祥子は?」と由紀。「私は寝間着を持ってきてるよ。範経と寝るつもりだったから」と祥子。「残念ね、今日は私が範経に添い寝するわ」と由紀。「まあ仕方ないか。今日の作戦を立てたのは由紀だから」と祥子。「由紀ちゃんって本当は怖い女だったのね。計画的に男の子を縛って拉致しようとするなんて。知らなかったわ」と玲子。「拉致が目的じゃないわよ。説得するためにお芝居で縛っただけよ。勘違いしないで!」と由紀。「だけど迫真だったわ。範経君をひっぱたいて、押し倒して、縛り上げてからのラブシーンなんて。ああ、思い出してもドキドキする」と玲子。「変な表現しないでちょうだい。そんないやらしいことしてないわよ!」と由紀。「由紀ちゃんが範経君の体にしがみついたとき、両足でも
last updateLast Updated : 2025-11-21
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第12話 祥子の家

 翌日の日曜日に範経たちは由紀の家を出て、祥子の家に向かった。玲子は祥子の家の前で言った。「祥子ちゃんの家って豪邸なのね」「うちは成金なんだ」と祥子。「でも、お嬢様でしょう?」と玲子。「違うよ。子供の頃は貧乏だったんだ。父親が事業に失敗して、破産したから」と祥子。「そうだったの。ごめんなさい」と玲子。「いや、気にしてないよ。あの頃はあたし、太ってみすぼらしくてよく苛められたわ。汚いブタの子って」と祥子。「ひどいわ。でも祥子がいじめにあうなんて想像もつかない。こんなに強そうなのに」と玲子。「範経が仕向けたんだ。周りを煽って私が戦わざるを得ないようにした。そしてあたしは立ち上がったの」と祥子。「範経君が戦ったんじゃないの?」と玲子。「こいつは傍観者のふりしてた。許せなかったな」と祥子。「祥子ちゃんが暴れまわって、それはすごかったんだ。横から手出しなんてできなかったよ」と範経。「あれからだれも祥子を苛めなくなったわ」と由紀。「でもだれもあたしに話しかけなくなった。範経以外は」と祥子。「ぼくは由紀ちゃんと祥子ちゃんしか友達がいなかったから」と範経。「範経が祥子に勉強を教えたのよ」と由紀。「物覚えが悪くて先生すら迷惑がってたのにね。それであたし、頑張ったの。成績が上がった。自信がついた。そして運動も始めた」と祥子。「いい話だわ」と玲子。「自信を持ち始めた祥子はかっこよかったわ」と由紀。「それからあたし、心に誓ったの。このちっちゃい範経をあたしのものにするって」と祥子。「強いわ、祥子ちゃんって」と玲子。「何、言ってるんだ。他人事だと思って」と範経。「一途な思いがすてきよ。応援するわ」と玲子。「玲子って話が分かるな。好きになってきた」と由紀。「うれしいわ」と玲子。 祥子は玄関のドアを開けて家に入った。「ただいま。お母さん、友達を連れてきたわ」 祥子の母の真理子が玄関で出迎えた。「範経君、来てくれたのね、待ってたのよ。それに由紀ちゃんと新しいお友達?」「こんにちは、おばさん。おじゃまします」と由紀。「滝沢玲子といいます」と玲子がお辞儀をした。「いらっしゃい。ゆっくりしていってね。範経君、また家出するの?」と真理子。「しないことになった。そのかわり家で何日か監禁することにしたよ」と祥子。「なんでそんなひどいことす
last updateLast Updated : 2025-11-21
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第13話 欠席

 翌朝の教室で由紀と祥子、玲子は顔をそろえた。「お誕生日会、最高だったわ。二人ともありがとう!」と玲子。「お前、分かってるのか? 週末のことしゃべったらただじゃおかないからな」と祥子。「安心して。私、決めたの。あなたたち二人を応援するって」と玲子。「それは心強いわ」と由紀。「それにしても、範経が学校に来てないのに、だれも気にしてない」と祥子。「そうね。予定通り、このまま何日か様子を見ましょう」と由紀。「秘密を共有するって、なんて甘美な気持ちがするんでしょう!」と玲子。  範経が欠席を始めてから十日がたった。昼休みに由紀と祥子と玲子は連れ立って歩き、渡り廊下に出た。「盗撮が再開したね」と祥子が言った。「犯人たちがしびれを切らしたのね」と由紀。「これで範経の冤罪が証明できる」と祥子。「まだ何もしちゃだめよ」と由紀。「わかってる」と祥子。「範経君が休んでることを、だれも気にしてないのね。ご両親は心配じゃないのかしら」と玲子。「家出はしょっちゅうだからね。そのうち戻ってくると思ってるんだろう」と祥子。「それに、範経の両親は別居中なのよ」と由紀。「だからって放っておくなんてひどいわ」と玲子。「三年生の姉がいるけど、どうしてるんだろう」と祥子。「ひょっとして、あの美人で有名な塚原美登里先輩って、範経君のお姉さんなの?」と玲子。「そうだよ。盗撮騒ぎのせいで、学校で声をかけるどころか、家でもシカトしてるって範経が言ってたな」と祥子。「冷たい女なのよ。以前はひどいブラコンだったけど」と由紀。「範経には悪いけど、あたしとしては邪魔者が一人減ってうれしいよ」と祥子。「なんかドロドロしてすてき!」と玲子。  その日の放課後に学校内で噂が広まった。「校長先生が警察に捜査を依頼したらしいわよ」と玲子。「範経が犯人じゃないとわかって、外部の犯行だとようやく気が付いたんだろう」と祥子。「生徒が犯人だったら、高校の評判が落ちちゃうものね」と由紀。「先生方が範経君に嫌がらせをしてたのって、そんな理由だったの?」と玲子。「そうだよ、犯人を追い出してしまえば、盗撮が終わる。そして事件をうやむやにできる」と祥子。「ひどいわ」と玲子。「だから範経は転校したくなかったんだ。濡れ衣を着たままじゃ気持ち悪いから」と祥子。
last updateLast Updated : 2025-11-22
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第14話 美登里

 警察が捜査を始めてから二日後の放課後に、玲子が言った。「噂で聞いたけど、犯人が捕まったそうよ。犯人は地元のチンピラだったらしいわ」「本当!」と由紀。「何人かの生徒が協力してたらしいけど、内密に処理されるって」と玲子。「よく知ってるな」と祥子。「わたし、噂話が大好きだから」と玲子。「あなたたち、ちょっといいかしら」と一人の女子生徒が声をかけた。「美登里先輩!」と玲子。「何かご用かしら」と由紀。「弟の範経を探してるの。何か知ってたら教えてもらえないかしら」と美登里。「何も知りません」と祥子。「そんなはずないわ。家出の前日まで、あなたたちと話してたそうじゃない」と美登里。「お姉さんだって話してたんでしょ。仲良し姉弟なんだから」と祥子。「そんな意地悪言わないで。私、謝りたいの。私が悪かったって。お願いよ」と美登里。「犯人じゃないことが分かったから、謝りたいっていうことですか?」と由紀。「そんな意味じゃないわ」と美登里。「辛いときに何もしてあげなかったくせに」と祥子。「そうよ、だから謝りたいの」と美登里。「知らないわ。私たちなら、彼が犯人だったとしても一緒にいるわ」と由紀。「やっぱり知ってるのね。お願いだから……。実は私たちの両親の離婚が決まって、範経の親権を父親が持つことになったの。このままだと、私たちが会えないまま範経は父親の家に行ってしまうわ。だからその前に謝らせて。お願いよ、お願いだから教えて!」と美登里。「その話、本当ですか!」と由紀。「本当よ。私はこんなつまらない嘘をつかないわ」と美登里。「連絡を取ってみます。うまくいったら連絡します」と祥子。「ありがとう。本当にありがとう」と言って、美登里は立ち去った。 …… 「大変なことになったよ。結局、範経が転校してしまうなんて。せっかく独占できると思ったのに」と祥子。「父親の家は遠いの?」と玲子。「ああ、最近わざわざ県外に家を買ったそうだよ」と祥子。「早く範経君に連絡してあげたほうがいいわね」と玲子。「かわいそうな範経。もう盗撮事件なんて問題じゃなくなったわ。祥子、範経に電話をして、駅前の商店街を歩かせて。私は美登里先輩に駅に行くように伝えるから」と由紀。「あーあ、これで夢の同棲生活は終わりか」と祥子。「由紀って優しいのね。少しぐらい意地悪するのかと思ったわ」
last updateLast Updated : 2025-11-22
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第15話 商店街

 範経は、高校の最寄り駅前の商店街で出くわした、姉の美登里にすばやく腕をつかまれた。「範経! なんで家出なんてしたのよ!」と美登里が言った。「居づらかったからにきまってるだろ」と範経。「心配したのよ!」と美登里。「嘘つけ。口もきいてくれなかったくせに」と範経。「本当よ。眠れなくて痩せたわ。それに犯人が捕まったから、もう気にしなくていいのよ」と美登里。「ぼくの疑いが晴れたから探しに来たの?」と範経。「違うわ。すごく心配したんだから。あれからずっとあんたのこと探して周ってたのよ!」と美登里。「でもぼくのこと疑ってたんだろ」と範経。「ちょっとびっくりしただけよ。あんたの勉強机の引き出しのこともあるし」と美登里。「え、勝手に見たの! 男子の引き出しを開けたら、いろいろ入ってるにきまってるだろ。ひどい……」と範経。「だってかわいい弟のこと、心配になるじゃない。変な趣味に走ってないかって」と美登里。「余計なお世話だよ!」と範経。「あんた、見かけによらずちょっとSよね」と美登里。「誰にも言ってないだろうな?」と範経。「そんなこと、母さんも|明《めい》と|圭《けい》も知ってるわよ。ときどきあんたの部屋で出くわしてたから」と美登里。「本当なの? もう帰れない。絶対帰れないよ」と範経。「母さん、母モノがないってショック受けてたわよ。姉モノはあるのに。うふふ」と美登里。「ふざけるなよ!」と範経。「みんなあんたのことが好きなのよ!」と美登里。「誰も僕のこと、信用してなかったじゃないか。誰も味方してくれなくて。ひとりぼっちで。他にどうすりゃよかったんだよ」と範経。「ごめんなさい。あんたを一人にするつもりはなかったの。謝るから。本当に謝るから。だからお願い、帰ってきて。私が居場所を作ってあげる。家でも学校でも。信用して。お願いだから」と美登里。「でも僕なんて……。もうほっといてよ」と範経。「もしこのまま行こうとしたら、あんたにしがみついて泣き叫ぶわ」と美登里。「脅すの?」と範経。「何があっても、あんたを連れ戻すって決めたの。私はもう、なりふりなんて構わないから」と美登里。「わかったよ……」と範経。「ああ、よかった……。大好きよ、範経」と美登里。
last updateLast Updated : 2025-11-23
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第16話 圭と明

 帰宅した範経はリビングルームに入り、ソファーに座った。双子の妹の圭と明が部屋に入ってきた。「あ、お兄ちゃんが帰ってきた!」と圭。「横に座っていい?」と明。「なんでそんなにひっついて座るの? しかも両側に」と範経。「だって寂しかったから家出したんでしょ。私たちがずっと一緒にいてあげる」と圭。「私たちは信じてたよ。お兄ちゃんが犯人じゃないって」と明。「二人も知ってたの?」と範経。「うん。中学校でも噂になってたよ。同級生を盗撮してる写真おたくって」と圭。「お兄ちゃんは有名人だよ」と明。「ぼくは写真おたくじゃななくて、カメラマニアだよ」と範経。「私たち、心配したのよ」と圭。「なんで何も言わずにいなくなったの?」と明。「ごめん」と範経。「お兄ちゃん、私たちのこと、どう思ってるの?」と圭。「え?」と範経。「私たちのこと、女の子として接したい? それとも妹のままがいい?」と明。「どういうこと?」と範経。「答えて!」と圭と明。「お前たちは妹だろ、いままでもこれからも」と範経。「どんな妹?」と明。「かわいい妹だよ」と範経。「本当に?」と圭。「私たちのこと好き?」と明。「大好きだよ、もちろん」と範経。「もう家出しない?」と圭。「ああ」と範経。「じゃあ約束して、ずっと一緒にいるって」と明。「ああ、ずっと一緒にいるよ」と範経。「会えないときは、連絡してくれる?」と圭。「わかったよ」と範経。「毎日だからね。絶対だからね」と明。「わかった」と範経。 父の幸一がリビングルームのドアを開けた。「お前、帰っていたのか?」「あ、父さん」と範経。「ちょっとこちらに来てくれ。話したいことがある」と父。 ダイニングテーブルの椅子に幸一と範経が向かい合わせに座った。「父さんと母さんは離婚することにした。というか一昨日離婚した。お前の家出中で悪かったんだがな。それから母さんは急な出張中で今日は帰ってこない」と幸一。 範経は絶句した。「それで、美登里と恵と明は母さんが引き取って、お前は私が引き取ることになった。最初は寛子がお前も連れて行くつもりだったのだが、例の盗撮事件の犯人がお前だと思い込んで気が変わったらしい」と幸一。「え……」と範経。「結局犯人はお前じゃなかったんだが、離婚の手続きは済んでしまった。お前はど
last updateLast Updated : 2025-11-23
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第17話 新しい家族

 父の幸一の新居に着いたのは夜中だった。幸一はガレージに車を止め、幸一と範経は車を降りた。 幸一は新しく家族になる内縁の妻と彼女の連れ子に範経を紹介した。「こいつが息子の範経だ。よろしく頼む。こちらが内縁の妻の恵子と娘の麗華ちゃんだ。」「よろしくお願いします」と範経が頭を下げた。「結局、盗撮犯じゃなかったのね。心配して損しちゃった。いじめて追い出すつもりだったのよ。あなたの部屋は玄関横のクローゼット。荷物を適当に入れておいたわ」と恵子。「やっぱりそういう扱いなんですね」と範経。「仕方ないだろ。家出して逃げた時点でお前の負けだ。反省しろ」と幸一。「そんな不条理な」と範経。「腰抜けには当然の扱いだ。屋根があるだけありがたいと思え」と幸一。「引き出しのコレクションを見せてもらったわ。あなたシスコンなのね。ぎりぎり合格よ。麗華がいるから、ロリコンなら出て行ってもらうつもりだったけど」と恵子。「喜んでいいのかな……」と範経。「麗華、範経兄さんに挨拶しなさい」と恵子。「はじめまして、麗華です」と麗華。「ところで、範経。転入届を出しておいたから明日から高校へ行け。ここから歩いて通学できる場所にある。制服も用意しておいた。明日だけは車で送ってやる」と幸一。「え、転校するの?」と範経。「当然だろ。二百キロも離れた高校にどうやって通うんだ。お前の学力ならどこの高校でも問題ないだろ」と幸一。「そういう問題じゃなくて、挨拶とか色々……」と範経。「前の学校の先生方は厄介払いができてうれしそうだったぞ。ろくに友達もいなかったそうじゃないか」と幸一。「いや、それは盗撮の嫌疑をかけられていたからで……」と範経。「負け犬に弁解の余地はない」と幸一。 範経はため息をついた。
last updateLast Updated : 2025-11-24
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第18話 実母寛子

 高校の帰り道で突然手首をつかまれた。実母の寛子だった。「範経!」と寛子は叫んだ。「ちょっと、離してよ!」と範経。「いやよ! また逃げるつもりでしょ!」と寛子。「そうだよ」と範経。「今日は絶対に逃がさないわ!」と寛子。「迷惑だよ」と範経。「実の母親に向かって迷惑だなんてひどいわよ!」と寛子。「ひどいのはあんただろ」と範経。「ちゃんと説明するわ。話を聞いて!」と寛子。「いやだよ、今更」と範経。「分かってくれなければ離さないわ」と寛子。「何を分かれって言うんだよ!」と範経。「あなたのことが好きなの。愛してるわ」と寛子。「周りの人が誤解するだろ!」と範経。「私を捨てないで、お願い」と寛子。「ぼくを捨てたのはあんただろう!」と範経。「違うの! 驚いて何も考えられなくなってしまったのよ。知ってるでしょう。お母さんはすぐ取り乱してしまうから」と寛子。「取り乱したまま、弁護士を立てて離婚調停して財産分与と子供の親権を決めたんだ。大したもんだね」と範経。「なんでそんな意地悪言うのよ!」と寛子。「事実でしょ」と範経。「違うわ! あなたのことが大好きだから取り乱して判断を間違ってしまったのよ。だからこうして謝りに来たの」と寛子。「でも今更どうにもならないよ」と範経。「そんなことないわ。親権を取り戻すことはできるわ」と寛子。「でもぼくの生活はすっかり変わってしまったよ、元に戻すことなんてもう不可能だから」と範経。「継母にいじめられてるんでしょう?」と寛子。「それほどでもないよ。クローゼットで寝てるけど」と範経。「何よそれ! 虐待じゃないの! ちゃんとご飯を食べてるの?」と寛子。「それなりかな。共働きだから、たいてい自分で夕飯作ってるよ。妹の分も一緒に」と範経。「ひどいじゃない!」と寛子。「あんただってほとんど家にいなかっただろ。出張も多かったし」と範経。「ごめんなさい。高校には行ってるの?」と寛子。「一応ね。それなりに楽しくやってるよ。だからもういいんだ。別にお母さんのこと恨んでないよ。心配しないで」と範経。「違うわ! そんなことじゃないのよ! 私はあなたの実の母親なのよ。あなたと一緒にいてあなたの成長を見守る義務があるわ!」と寛子。「でもそれを放棄したでしょ。法的に」と範経。「そんな理屈、通らないわ! 私は生きた母
last updateLast Updated : 2025-11-25
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第19話 叔母真由美

 範経の叔母の真由美が、幸一の新居を訪ねてきた。「遊びに来たわよ」と真由美。「まあ入れ」と幸一。「久しぶりです、真由美さん」と内縁の妻の恵子。「範経、お前、本当にここに住んでるんだな」と真由美。「ええ、まあ」と範経。「兄貴、離婚したこと、なんですぐに教えてくれなかったんだ」と真由美。「なんで教えなきゃならん」と幸一。「兄妹だろ」と真由美。「何しに来たんだ?」と幸一。「兄の家に遊びに来るのに理由がいるのか?」と真由美。「目当ては範経だろ」と幸一。「そうだよ。兄貴のことだから厄介者扱いしてるんだろ。あたしが連れてってあたしが育ててやる」と真由美。「え?」と範経。「何言ってんだ。こいつはおれの息子だぞ」と幸一。「どうせろくに世話してないだろ。物置で寝てるっていうじゃねえか。虐待だぞ」と真由美。「俺の息子だ、構わないでくれ」と幸一。「そうはいかない。かわいい甥っ子をこんなところに放っておけないな」と真由美。「何言ってんだ。男に縁がないからって、甥に手を出すのか。このショタコン女が」と幸一。「なんだと! あたしの純愛を侮辱するのか?」と真由美。「範経、あんたの面倒はあたしが見てあげる。お姉さんと暮らそう!」「だめだ。こんなバカ、話にならねえ。おい恵子、酒と肴もってこい!」と幸一。「こんな時間から酒ですか?」と恵子。「こいつは酒に弱いんだよ。酔わせちまえばすぐにつぶれて寝ちまうんだ」と幸一。 恵子は一升瓶の日本酒とグラスを二つ、それから枝豆をテーブルに運んだ。「冷でいいだろ?」と幸一。「熱燗じゃねえのか?」と真由美。「この酒は冷で飲むのがうまいんだ」と幸一。「わかったよ」と真由美。 幸一は一升瓶を傾けて二つのグラスになみなみと酒を注いて、一つを真由美の前に置いた。「乾杯だ」と幸一。「乾杯」と真由美。 「範経、お前、約束覚えてるか? 子供のとき、あたしにプロポーズしただろう」と真由美。「ええ、覚えてます。たしか小学三年生の頃です」と範経。「あたしは指輪をもらった」と真由美。「お小遣いで買ったおもちゃの指輪でした」と範経。「あたしが受け取ってやったら、本気でチューしてきたな、お前」と真由美。「大好きでしたから」と範経。「今はどうなんだよ」と真由美。「今でも好きですけど……」と範経。「何、期待もたせるよ
last updateLast Updated : 2025-11-26
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第20話 一時帰宅

 範経は親の離婚前に住んでいた家を訪ねた。家には家族がそろっていた。「遊びに来たよ」と範経。「ただいまって言いなさい!」と姉の美登里。「ただいま」と範経。「おかえり」と美登里。「おかえり! お兄ちゃん」と妹の圭と明。「おかえり、待ってたのよ、範経」と母の寛子。「久しぶりだな。この家」と範経。「そうね。四か月ぶり?」と美登里。「あの時は慌ただしかったな」と範経。「今日は泊まっていくんでしょ。私の部屋で寝るのよ」と美登里。「なんで勝手に決めるのよ!」と寛子。「別れた時の約束なの。必ず戻ってくるって。そのときは私の部屋で寝るって。そういえばお母さん、出張でいなかったのよね」と美登里。「そんな約束だったっけ?」と範経。「早く入りなさい」と美登里。「積もる話もあるから」と寛子。「私、毎日お兄ちゃんと電話で話してるよ」と圭。「私も」と明。「本当?」と美登里。「離れ離れになっても毎日お話しするって、約束したの」と圭。「私たち、何があってもお兄ちゃんの妹なのよ」と明。「私だけのけ者みたいね。悲しいわ」と寛子。「母さんがいけないんでしょ。離婚して、範経を捨てたんだから」と美登里。「だから違うのよ!」と寛子。「もう聞きたくない!」と美登里と圭と明。
last updateLast Updated : 2025-11-27
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