唐崎由紀は幼馴染の塚原範経を連れて帰宅した。「お帰り」と母の裕子が出迎えた。「今日は祥子ちゃんと一緒じゃないの?」「祥子ちゃんは今日、お家の引っ越しなの」と言いながら由紀は框を上がった。 範経の腕を引っ張って、長い廊下の奥へ入っていった。由紀を溺愛する父親が「女の子の部屋は二階でなくてはいけない」と言って、平屋の屋敷の奥にわざわざ由紀の部屋を増築した。だから廊下の突き当りに階段がある。 由紀は範経の手首をつかんだまま階段を上がり、自分の部屋のドアを開けた。奥の窓際にあるベットに範経を押し倒し、スカートをひらひらさせながら腹の上に馬乗りになった。「答えてもらうわよ」と由紀。「何を?」と範経。「今日の放課後、音楽準備室で川田先生と何を話していたの?」と由紀。「先生の小説の感想を話したんだ」と範経。「なぜ国語の先生と小説の話をするのに音楽準備室に行ったの?」と由紀。「静かに話せるからって、川田先生が……」と範経。 裕子はお茶とお菓子をのせた盆を手に由紀の部屋をノックしようとしたとき、由紀の大きな声が聞こえた。由紀は普段おとなしい娘なので裕子は少し驚いた。つい、聞き耳を立てた。「それで川田先生と何を話したの?」と由紀。 川田先生は小説家と二足わらじをはく国語の若い先生だ。「先生の新刊の感想を話したんだ」と範経。「新刊をいつ買いに行ったの?」と由紀。「先生がくれたんだ、先週の金曜日に」と範経。 裕子は範経が国語の先生からも目を掛けられていることに感心した。「なんで範経にだけ新刊をあげるの?」と由紀。「知らないよ」と範経。「あら、そう。それで、それからどうしたの?」と由紀。「それだけだよ」と範経が答えるや否や、パーンという音がした。裕子はびくっとした。由紀が範経の頬を張ったのだろう。「私に隠し事するの?」と由紀。「ごめん……」と泣き声で範経。「それからどうしたの?」と由紀。「先生と……先生と……」と範経。「先生とキスしたんでしょ」と由紀。「うん……」と範経。「でも……ぼく、そんなつもりじゃ……」 と、そのとき、ドアをトントンとノックする音が聞こえた。 由紀がダッと立ち上がってドアの前に駆け寄り、バンッとドアを開けた。お盆を持った母親が立っていた。「いつからここにいたの!」と由紀。「さっきからよ」と鬼の形
Last Updated : 2025-11-14 Read more