幸いなことに、彼のお母さんとは最初から話が合った。玄関を開けて「お邪魔します」と言えば、いつも笑顔で迎えてくれる。リビングに通されると、季節の話や近所の出来事など、世間話がぽつぽつと始まる。お母さんはとても気を遣ってくれるのだ。もちろん、私もそれなりに気を張っているけれど、今のところは上手くやれていると思う。だからいつも話が盛り上がったりもする。それはそれで楽しいとは思っているけれど――。ふと気づくと、正広の姿がない。さっきまで隣にいたはずなのに、いつの間にか消えている。リビングには、お母さんと二人きり。まるでお母さんに会いに来たような構図に、また頭の中にハテナが浮かぶ。どこ行った、あいつ。 残された私はどうすればいいんだ。「正広くんは?」と、お母さんに尋ねると、のんびりとお茶をすすりながら、「さあ?自分の部屋かしらね?」と首を傾げた。……はあ? 自分の部屋?私に一言も声をかけず、勝手に部屋へ行くってどういうこと? 放置プレイにもほどがある。そういうプレイに興味ないっつーの! むしろ怒りで吐き気がする。お母さんの悪気ない優しい笑顔の前で、ツッコミを心の中に押し込めながら、私はそっと立ち上がった。そもそもお母さんも、息子が彼女をリビングへ残してどこかへ行ったのなら、声を掛けるなり注意するなりしてほしいものだ。
最終更新日 : 2025-11-30 続きを読む