ダメ男との結婚をやめたら、運命の恋が始まりました のすべてのチャプター: チャプター 11 - チャプター 20

78 チャプター

2_6.正広との結婚

幸いなことに、彼のお母さんとは最初から話が合った。玄関を開けて「お邪魔します」と言えば、いつも笑顔で迎えてくれる。リビングに通されると、季節の話や近所の出来事など、世間話がぽつぽつと始まる。お母さんはとても気を遣ってくれるのだ。もちろん、私もそれなりに気を張っているけれど、今のところは上手くやれていると思う。だからいつも話が盛り上がったりもする。それはそれで楽しいとは思っているけれど――。ふと気づくと、正広の姿がない。さっきまで隣にいたはずなのに、いつの間にか消えている。リビングには、お母さんと二人きり。まるでお母さんに会いに来たような構図に、また頭の中にハテナが浮かぶ。どこ行った、あいつ。 残された私はどうすればいいんだ。「正広くんは?」と、お母さんに尋ねると、のんびりとお茶をすすりながら、「さあ?自分の部屋かしらね?」と首を傾げた。……はあ? 自分の部屋?私に一言も声をかけず、勝手に部屋へ行くってどういうこと? 放置プレイにもほどがある。そういうプレイに興味ないっつーの! むしろ怒りで吐き気がする。お母さんの悪気ない優しい笑顔の前で、ツッコミを心の中に押し込めながら、私はそっと立ち上がった。そもそもお母さんも、息子が彼女をリビングへ残してどこかへ行ったのなら、声を掛けるなり注意するなりしてほしいものだ。
last update最終更新日 : 2025-11-30
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2_7.正広との結婚

お母さんに「ちょっと失礼します」と声をかけてから、私は正広の部屋へ向かった。二階へ続く階段を、一人トボトボと登る。その足取りは重い。正広の部屋のドアをそっと開けると、彼はだらしなくベッドに転がって、テレビを見ていた。その姿を見た瞬間、胸の奥から怒りがこみ上げた。 怒鳴りたくなるのを堪えて、私は少し拗ねた声で、正広に詰め寄る。「ねえ、なんで私を置いていくの?」 「だってお前、母さんと楽しそうにしゃべってたから、俺の居場所ねぇじゃん」正広は、行儀悪く転がったまま、テレビから目を離さずに、拗ねるように口を尖らせた。はぁぁぁぁ???心の中で、思わず叫びそうになる。こっちは社交辞令で気を遣って、お母さんと話してただけ。楽しいなんて思ってない。むしろ、お母さんの話が終わらないからこそ、正広が助けてくれたらいいのに。なぜ私が自主的に、お母さんとしゃべっていると思っているんだ。そもそも家に連れてきたのはあなたでしょう?でも、そんな本音は飲み込んで、私は黙って雑誌を取り出した。心の中は大騒ぎだけれど、言葉にするのは苦手なのだ。それに、ケンカになったらそれこそ面倒くさい。私はベッドの端にもたれ掛かりながら、さっき買ったばかりの雑誌を捲る。雑誌を買っておいて良かったと言うべきか、それしかやることがないなんて、実にくだらない。 ……私、何やってるんだろ。 ……何か、虚しいな。そんな思いに、気持ちがどんどん沈んでいく。雑誌の内容すら頭に入ってこない。そんな、思考が停止しかけた瞬間――不意に腕を引かれて、彼の胸元に引き寄せられた。 そして、唐突に唇が重なる。「萌、好きだよ」その言葉は、あまりにも強引で、そしてあまりにも甘くて。さっきまで胸に溜まっていた負の感情が、ゆるゆると溶けていく感覚に陥る。……ずるいよ、ほんとに。
last update最終更新日 : 2025-12-02
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2_8.正広との結婚

ただ「好きだよ」と言われて、キスされただけなのに、さっきまでプンプン怒っていた気持ちが、炭酸みたいにしゅわしゅわと溶けていく。「もー、しょうがないなぁ」我ながら、なんて単純なんだと思わなくもない。だけど私にとっては、ケンカにならずに正広の気持ちが私に向けられていることがわかって、安心するのだ。そんな風に簡単に気持ちが揺れると、それを見計らったかのように、正広は私をベッドへ押し倒した。正広の腕の中はあたたかくて、心地よくて。そのぬくもりに包まれると、つい甘えたくなってしまう。彼の手がそっと私を引き寄せ、甘いひとときが始まる予感に、私は少しだけ頑張って応えようとする。さっきまで怒っていたのに、こんなふうに流されていいのだろうか。本当はちゃんと話さなきゃいけないとも思っているのに、うやむやにして、こうして誤魔化されてしまうのは、なんだか違う気がする。正広の顔は優しくて、言葉も甘い。私を放置してテレビを見ていたときとは違う。でも、それは本当に優しさなのか、私はまだ掴みきれていない。雑誌を読んでいたときの虚しさが、まだほんの少しだけ胸に残っている。上手く言葉にできないまま、彼の甘い言葉に流されて――ハッと我に返る。正広はいつも、ゴムを用意していない。私とエッチしたがるくせに、避妊する気が感じられないのだ。それが嫌でたまらなくて、実は最後までしたことがない。だって怖いじゃない、赤ちゃんができたら。子どもがほしいだなんて、まだ全然思えないし。でも、私だって、正広任せにしているわけじゃない。用意してくれないから、自分で購入した。だけどそれを、いつも持ち歩いているわけじゃないもの。それなのに、正広は本能に任せて突き進もうとしてくる。
last update最終更新日 : 2025-12-03
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2_9.正広との結婚

「ねぇ、ちゃんと避妊してよ」私の声は、いつもより少し強かった。今日の正広には、どうしても我慢できなかった。「大丈夫だって」また、それだ。その言葉が一番信用ならない。「なんで大丈夫なの? 赤ちゃんできたらどうするの?」怒りと不安が混ざった声に、正広はキョトンとした顔をして、少し首を傾げた。「そりゃ、その時は責任取るよ。萌と結婚するし、結婚したいし」その言葉に、私は一瞬、息をのんだ。「……え、結婚?」「そう、結婚」当たり前のように言うその声が、やけに落ち着いて鼓膜に響いた。まさか正広の口から、「結婚」なんて言葉が出てくるなんて思わなかった。驚きすぎて、言葉が出てこない。正広は、そんな私の頭を慈しむように優しく撫でた。その手のぬくもりは、とてもあたたかくて、じんわりと心に染みていく。なんだろう、この気持ちは。燻っていた気持ちが、ゆるりとほどけていく感じに、思わず胸のあたりをぎゅうっと握りしめる。正広も、ちゃんと考えてくれてたんだ。私のこと、将来のこと。プロポーズだったのかどうか、正直よくわからない。でも、その日を境に、私たちは少しずつ結婚という未来に向かって、歩き出すことになった。不安はたくさんある。でも、今はただ単純に、嬉しいと感じていた。
last update最終更新日 : 2025-12-04
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3_1.ご挨拶

後日、改めて正広のご両親に結婚の挨拶をした。 何度も顔を合わせていたからか、玄関をくぐった瞬間から空気は柔らかく、緊張で固まっていた私の気持ちが少しだけほぐれた。「萌ちゃんなら大歓迎よ!」正広のお母さんは、両手を胸の前で組んで、満面の笑みを浮かべた。その言葉に、私は胸を撫で下ろす。いつもよくしてもらっていたけれど、こうして正式にとなると、やっぱり緊張するものだ。ご両親と対峙して、和やかに話が進んでいく。そのとき、お母さんが何かを思い出したように手をポンと叩いた。「そうだわ、萌ちゃん。斉藤家の嫁になるんだから、今度の法事、萌ちゃんにも出てもらおうかしら? ねえ、お父さん」「ああ、それもそうだな」ニコニコと笑うお母さんに、寡黙なお父さんが静かに頷く。そのやり取りに、正広は何も言わない。ただ聞いているだけだ。私だけが胸に引っ掛かりを覚えている。まだ結婚していないのに、法事?!法事だなんて、いきなりハードルが高い。斉藤家の親戚が集まるであろうイベント。名前も顔もまったく知らない人たちの中に、まだ結婚もしていない私が参加するだなんて、場違いじゃないだろうか。そして何より、「斉藤家の嫁」という言葉。その響きに、胸がふわっと温かくなる一方で、ずしりと重たい不安も押し寄せてくる。本当に結婚するんだという実感と、斉藤家という他人の家の重圧。そこに私の意見はないような、正広の両親の言葉が絶対のような……。そんな漠然とした不安が渦巻き、これまで私が思い描いてきた結婚のイメージが、ガラガラと崩れ落ちる音がした。
last update最終更新日 : 2025-12-05
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3_2.ご挨拶

斉藤家に認められるのは、良いことなんだと思う。相手のご両親に歓迎されているのは、ありがたいし嬉しいこと。そう思うのに――でも、もしかして……。 この家には厳しいしきたりとか、これはこうでなくてはダメというルールがあったりするんじゃないだろうか。そんな不安が、ふと頭をよぎる。だけど、今それを聞ける空気ではない。まだ、どこかよそよそしさがあるし、遠慮もするし気も遣う。妙な距離感を感じて、私はとりあえず愛想笑いを浮かべるしかなかった。そのとき、お母さんが「そうだわ」と、胸の前でポンッと手を叩く。にっこり笑って、私だけを見て言った。「萌ちゃんも働いているでしょう。だから、会社の付き合いもあるわよね。でも、飲み会は自由に行っていいのよ。そういう日は正広、うちでご飯食べさせるから」その言葉に、一瞬思考が停止した。 正広を見れば、当然だというように、うんうんと頷いている。もちろん、お父さんも何も言わない。……え、ちょっと待って。それって私が毎日ご飯を作ることが前提で、正広は何もやらないってこと? それが斉藤家では当たり前なの?私は家政婦じゃないんだけど……。反論するべく、なるべく角の立たない上手い言葉を探したが見つからない。だけどここで、素直に頷いてはいけない気がした。「あ、あの、ご飯なんて自分で用意すればよくないですか?」苦し紛れに絞り出した言葉に、お母さんは「あらまあ」とにこやかに笑う。「ふふっ、萌ちゃんはしっかりしてるわね」 「いえ、あの……」それ以上何も言えなかったけれど、お母さんも深く追及してこなかった。……私、まずったかもしれない。いや、でも、つっこまずにはいられなかった。つまり、毎日の食事は私が作る前提で、私が飲み会に行く日は、代わりにお母さんが正広の面倒を見るってこと。それって、食事に限らない気がする。現に、この家は専業主婦であるお母さんが、家事をすべてやっているらしい。それと同じ事を、私にも求められているということ。頭の中が混乱してきた。 何だか不安でたま
last update最終更新日 : 2025-12-06
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3_3.ご挨拶

その日は、一緒に夕食をいただくことになっていた。お母さんがキッチンで準備を始めたので、私も座っているわけにはいかない。手伝わなくちゃとキッチンへ赴くも、正広もお父さんも、リビングで寛いだまま、何ひとつ手伝うつもりもなさそうだ。さらには、正広の弟である秀之さんもリビングへ集合し、男三人ダラダラとテレビを見ながら過ごしているだけ。もしかしたら、私がキッチンへ来たことも気づいていないのかもしれない。これが斉藤家の普段の光景――「萌えちゃん?」「あっ、はいっ!」「お箸を並べてくれるかしら?」「はい、わかりました」ダイニングテーブルへお箸を並べ、準備を整える。お母さんに指示されるまま働き、気付けば私一人があくせくと働いていた。「萌えちゃん、萌えちゃん」「はい、ただいま」考える暇すら与えられず、夕飯が出来上がっていく。正広たちを呼べば、男性陣は無言で自分の定位置に座った。「俺はご飯大盛りで」「あ、はい」秀之さんが言うので、返事をしてからご飯をよそう。言われた通り大盛りにして持っていくと、「うん」と一言顎で返事をされた。「萌、俺は少なめだから」「あ、……はい」正広も、席に座ったまま私に指示を出す。それはさながら命令口調で、私がやるのが当たり前といった様子。「萌ちゃん、これはお父さん用だから、よろしく」お母さんに渡された、タコの刺身が乗ったお皿。みんなとは違うおかずは、晩酌をするお父さん専用らしい。全てが揃って、ようやく私も席に着いた。その時はもう、男性陣は先に夕飯に箸をつけていた。
last update最終更新日 : 2025-12-07
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3_4.ご挨拶

食事中も何かと気をつかう。当たり障りのない会話はするものの、ゆっくり食べてはいられない。なぜなら、男性陣の食の進みが早いからだ。私だけ一人遅れるわけにはいかないし、私のスピードに合わせてくれる人も誰一人いない。そうして、秀之さんは食事が終わると早々に席を立ち、食器はテーブルに置いたまま。正広も席を立とうとしたところ、さすがにそれはお父さんに止められた。「まだ萌ちゃんが食べているだろう。待ってやれ」「ああ、そうだね」「……ごめん、すぐ食べるね」「萌はいつも遅いからなあ」隣で足を組み、背もたれに背を預けてふんぞり返りながら、正広は馬鹿にしたように笑った。 隣で一生懸命ご飯を掻き込む。何一つ美味しくない。美味しいと感じられない。ようやく食べ終わると、それを見届けた正広は無言で席を立つ。当然のように食器はそのまま。「さあ萌ちゃん、片付けましょうか」「……はい」お母さんに言われて、テーブルに残っている食べ終わった食器をシンクへ運んだ。この状況に、誰一人疑問を持たないのだろうか。今日の私は、結婚の挨拶に来ただけなのだ。夕食も一緒にと言われたから承諾したまで。それなのに、この有り様は一体何なのか。正広と結婚するから、私がやるのが当たり前なのだろうか。だからこそ、お母さんは言ったのだ。――萌ちゃんが飲み会のときは、正広はうちで食べさせるからようやくその言葉が、腑に落ちた気がした。 斉藤家とは、それが当たり前の生活なのだろう。 それを、身を持って実感させられた。こんなのまるで家政婦だ。
last update最終更新日 : 2025-12-08
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3_5.ご挨拶

モヤモヤした気持ちを抱えたまま、数日後は私の両親に挨拶をする予定になっていた。煮え切らない思いを抱えたまま、当日を迎える。自分の親なのに、結婚の挨拶というだけで、斉藤家のときとはまた違う種類の緊張とプレッシャーが、じわじわと肩にのしかかってくる感じがした。私も実家暮らしで、家には来客用の駐車スペースがない。だから、当日は私が正広を車で迎えに行くことになっていた。前日には、ちゃんとメッセージも送ってある。【明日10時に迎えに行くね】 【了解~】ほら、ちゃんとやりとりしてる。 証拠なら、自分の携帯を見返してみやがれ。と、なぜ私がこんな悪態をついているかというと――玄関から出てきた正広が、まさかのパジャマ姿だったからだ。え? えええ??開いた口が塞がらないとは、まさにこのことだ。 悪態もつきたくなる。何してんの、コイツ。 寝癖までついてるし。 スリッパのまま外に出てきてるし。これから私の両親に挨拶に行くっていうのに、どうしてそんな、今起きましたというような格好してるのかが、まったく理解できない。私の中で、期待と緊張でふくらんでいた風船が、ぷしゅうっと音を立ててしぼんでいった。「……正広、着替えて」その声は、限界ギリギリの優しさで包んだつもりだったけど、たぶん、いや、かなり冷たく冷え切っていたと思う。
last update最終更新日 : 2025-12-09
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3_6.ご挨拶

「え? もう行く時間だった?」悪びれもせず、のんびりとした声で言う正広に、私の中のイライラが膨らんでいく。「昨日メッセージ送ったじゃん!」怒りで声が震えてしまう。 きょとんとした正広は、持っていたスマホを面倒くさそうに操作した。「マジで? ……あ、ほんとだー」メッセージを確認した正広は、のんきな顔のまま家の中へ消えていった。パタンと閉まった玄関前で、私はぽつんと待つばかり。冷たい風が頬を撫でていく。その冷たさが、心の中の怒りを増幅させるとともに、虚しさももたらしていった。しばらくして、玄関が再び開いた。「ねえねえ、スーツじゃないとダメ? ネクタイっている?」正広はパジャマのまま、片手にワイシャツを持ってこちらに見せてくる。 もう、言葉を失うとはこういうことかと、どこか遠いところに意識が持っていかれた。「……知らない」そう答えるのが精一杯だった。なぜ準備をしていないの? 私の両親に挨拶することって、そんなにどうでもいいことなの?緊張感も、誠意も、何も感じられない。 正広の態度が、むかつく。胸の奥がぎゅっと締めつけられて、涙がこぼれそうになる。結婚って、何だろう。 こんな気持ちになるものだったっけ?頭の中がごちゃごちゃで、よくわからなくなってきた。気がつけば拳をぎゅうっと握りしめ、必死に平静を装っている私がいた。
last update最終更新日 : 2025-12-10
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