All Chapters of ダメ男との結婚をやめたら、運命の恋が始まりました: Chapter 31 - Chapter 40

78 Chapters

5_2.結婚準備

指輪だけじゃない。式場だって、本当はたくさん見て回りたかった。雑誌に載っている華やかな会場、緑に囲まれたガーデンウェディング、海の見えるチャペル。どれも素敵で、心躍って、夢が広がる。なのに――「俺の先輩が結婚式をあげたところ、紹介状で割引があるらしいんだよ」そんな理由で、式場見学へ。私は見学だけのつもりだった。他にも見て回りたい。式場巡りだって、立派なデートだと思ってた。ドレスの試着ができるところもあるし、コース料理のランチが楽しめるところもある。そういうのは、結婚するまでの特別な時間だ。一生に一度の、かけがえのない思い出になるはずだった。なのに、正広はその場で「ここにします」と決めてしまったのだ。もちろん、ここも十分素敵な式場だとは思った。でも、他にも見たいし、行きたかった。比較したかった。その時に、強く反発できなかった自分に腹が立つ。正広のよそ行きな言葉に絆されて、「まあ、いいか」って、流されてしまった。その結果、不満が募って、モヤモヤした気持ちを抱えたまま、今日に至っている。夢見ていたはずの結婚準備が、ただの作業になっている気がする。それくらい、つまらないものになってしまった。もっと、楽しいことだと思っていたのに。思い描いていた理想が、またひとつ崩れていく。 何も楽しくない。最悪だ。
last updateLast Updated : 2025-12-21
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5_3.結婚準備

ガラスのショーケースに飾られた結婚指輪を見つめながら、私の心は静かに沈んでいった。キラキラ光る指輪はどれも素敵だとは思う。でも、あまり好きなデザインではなかった。雑誌で見た、憧れのキラキラした指輪。繊細な彫りが入っていたり、宝石が散りばめられて輝いていたり……。でも、そういう指輪はここには置いていなかった。 デザインは違えど、どれも似たり寄ったりなもの。パッと目を引くものもない、良く言えばとても無難な結婚指輪。悪く言えば、代わり映えのしない地味な指輪。だけど、どんなに不満でも、ここで買うしかないのだ。それが式場の決まりだから。残念なことに、それ以外の選択肢はない。例外は認められない。あるものの中から、選ばなくてはいけない。「……じゃあ、私はこれがいいかな」 「俺はこっちがいい」二人の意見は見事に分かれた。あれもこれも妥協してきた。 式場も、指輪の店も。本当は、いろんなお店を見て回りたかった。ドレスの試着をして、ランチを楽しんで、指輪を選んで。私は、そんな時間を夢見ていたんだ。でも現実は、どんどん理想から遠ざかっていく。あり得ないほど、自分の気持ちとは反対方向に動いていく。だからこそ、この指輪だけは妥協したくなかった。 せめて、ここだけは自分の気持ちを通したい。ガラス越しに見える指輪はどれも輝いているのに、私の心はくすんだままだ。
last updateLast Updated : 2025-12-22
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5_4.結婚準備

お互い譲らないまま、指輪選びは膠着状態になった。私は何としても譲りたくないけれど、正広も頑として譲る気はないようだ。そんな私たちの不穏な空気を打ち消すかのように、式場のスタッフがにこやかに提案してくる。「最近は、お互い別々のデザインにされる方も多いんですよ。必ずしも、ペアでなくてはいけないということはないです。お好きなデザインがいいですものね」 「あ、そうなんですか」 「はい、そういうのも素敵だと思います」 「なるほど」ペアじゃなくてもいいなら、それでいいじゃないか。何も、こだわる必要なんてまったくなかったのだ。そう思って、私は正広の顔を見たのだけど――彼は明らかに不満そうに、眉間にシワを寄せていた。「でもなぁ。親父に同じものじゃないとダメだと言われたしなぁ」そう言って、腕組みをしてうーんと考え込んでしまう。「え、お父さん?」 「ああ。指輪はペアで買えって言われてる」 「そんな……」嘘でしょう? 私の気持ちより、親の意見を優先するの?せっかくスタッフさんが提案してくれたのに。 せっかく、少しだけ希望が見えたのに。また、モヤモヤとした気持ちが湧き上がってくる。私たちの結婚なのに、どうして私の声はこんなに小さいんだろう。どうしてこんなに届かないんだろう。ショーケースの中で輝く指輪が、少しずつくすんでいく。世界から色と輝きが消えたようだった。
last updateLast Updated : 2025-12-23
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5_5.結婚準備

正広はその後も、うんうんと一人で悩み続けた。隣にいる私は、まるで空気。むしろ、いないものと思われているのかもしれない。私も、あれやこれや指輪を手に取ってみるけれど、どのデザインもピンと来ない。そればかりか、正広が選んだデザインと対になる指輪は、まったく私の趣味に合わない。こんなにも、正広と趣味が合わないなんて、知らなかったな。正広のことを知った気でいたけれど、全然そうじゃなかったことに気づかされる。ああ、気持ちばかりが沈んでいく。 私、何してるんだろう。 こんなんで結婚するの?心の中で何度も葛藤する。 叫びそうになる。優柔不断な正広は、ああでもないこうでもないと一人でブツブツ呟いていたけれど、やがてようやく口を開いた。「まあでも、萌がこれがいいなら俺もこっちにするよ」 「え、いいの?」 「しょうがないだろ」正広が折れる形で、指輪は何とか決まったけれど、私は胸がチクチクしている。譲ってもらったはずなのに、嬉しくない。 むしろ、嫌気が差したような感覚。モヤモヤとした気持ちは、どんどん膨らんでいく。 気を抜くと、愛想笑いさえできなくなりそうだった。苦しい。 イライラする。 楽しくない。 早く帰りたい。頭の中は、そんな想いでいっぱいだった。指輪の輝きが、まるで遠くの星のように感じる。 この結婚という道が、どこへ続いているのか、まったくわからなくなってきていた。
last updateLast Updated : 2025-12-24
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5_6.結婚準備

帰りの車の中、特にこれといった会話もないまま、私の家の近くまできた。 やっと帰れる……そう思ってしまった自分に驚いた。正広は、車を人通りの少ない道端に停車させる。「……じゃあ、また」そう言って、車を降りようとシートベルトを外した。その手を、おもむろに引き寄せられる。正広の方へ傾いた私の体はバランスを崩し、強引に頭を抱えられてキスをされた。「んっ!」怯む間もなく、そのまま体をシートに押し付けられ、身動きが取れなくなる。正広の手が私の体のラインをなぞる。ゾワゾワという感覚に鳥肌が立つ。その間に、服の中に手が滑り込んできた。「ちょっとっ……!」力いっぱい正広をぎゅっと押し返すと、私の抵抗に正広はすごすごと引き下がった。「いいじゃん、ケチ」その言葉に、怒りが一気に爆発する。「よくないよ!」いつ誰が通るかもわからない道端で、バイバイのキスだけならまだしも、こんなこと。しかも、キスだって嬉しくなかった。 触られたくなかった。 気持ち悪い。……そんな風に、思ってしまった。私にとって正広は何だろう? 私は正広の何だろう? 正広にとって私という存在は何? もしかして、都合のいい女なのでは?一緒にいても全然楽しくない。 イライラが募るばかり。そういえば、正広と一緒にいて声をあげて笑ったことがあっただろうか? 心から楽しいって思えたことがあっただろうか?考えれば考えるほど、不満ばかりが募った。
last updateLast Updated : 2025-12-25
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6_1.江藤くんの優しさ

何だか、胃が痛い。急に締めつけられるような感覚に、顔が歪む。ここ数日、いろいろなことを考えすぎたせいだろうか。寝ても覚めても、イライラとモヤモヤが止まらない。正広に対してだけじゃない。正広を取り巻くすべてのことに対して、イライラしていた。心も体も、ずっと重たいままだ。どこかに吐き出したくて、母にポロリと愚痴をこぼす。とても言いづらかったけれど、一度言い始めてしまったら止まらなくて、気づけば正広のことや結婚式の準備のモヤモヤを、洗いざらい話してしまった。母は同調するわけでも非難するわけでもなく、ただ静かに聞いていた。そして、私の話が一通り終わると、うんと大きく頷く。「あなたの人生だから、あなたが決めなさい。結婚してみるのも経験だし、やめたっていい。自分が幸せになる選択をしなさい」母の言葉に、ハッとさせられる。ずっと「結婚しなきゃ」「決めたからには進まなきゃ」と思い込んでいた。でも、違うんだ。やめてもいいんだ。そう思った瞬間、すっと肩の荷が下りたようだった。どうして今まで気が付かなかったんだろう。正広といることで嫌な気持ちになるなら、結婚をやめよう。それがダメなら、せめて保留にしよう。自分の人生を、自分で選んでいいんだ。そのことに、ようやく気付けた。 見えない何かに縛られていた気持ちが、ふっと目を覚ます。窓の外の空が、いつもより少しだけ明るく見えた。
last updateLast Updated : 2025-12-26
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6_2.江藤くんの優しさ

そうは言っても、正広に伝えなければ意味がない。 私は意を決して、正広に電話をかけた。数回のコールの後、私の気持ちとは真逆な、呑気な声が返ってくる。「なに? どうした?」その声を聞いた瞬間、胸が潰されるような嫌な感情に、ぎゅっと締めつけられた。ああ、ダメだ。 私はもう、正広の声すら聞きたくないと思ってしまっているんだ。 もうこの気持ちは重症だ。震えそうになるのを堪えて、深呼吸をひとつ。 拳をぐっと握り、そして言葉を絞り出す。「私、結婚をやめたい」しん、と一瞬の沈黙が訪れた。 この部屋に正広はいないというのに、空気がズンと重くなるのを感じる。 それなのに――「えっ? 何で?」電話の向こうからは、まったく危機感のない声が届いた。「いろいろ、不満が募って、……もう無理なの」 「…………」またしばらく、嫌な沈黙が流れる。さすがに今度は電話越しの空気も、重くなっているのを感じた。 そして、一呼吸置いた後、正広の困惑した声が耳に届く。「やめるったって、親には何て言うんだよ?」その言葉に、すっと心が冷えていくのを感じた。 私の気持ちより、親の顔。 私の苦しさより、体裁。結局この人は、ちゃんと私を見てくれていなかったんだ。電話を握る手に力がこもる。 冷えていく気持ちに、もう迷いはない。『あなたの人生なんだから、あなたが決めなさい』母の言葉が脳裏によぎる。 そうだ、私の人生は、私自身が選ぶんだ。 流されてはいけないんだ。
last updateLast Updated : 2025-12-27
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6_3.江藤くんの優しさ

私たちの結婚は、愛し合ってするものではない。 こんなの、正広の“親のため”にするようなものだ。 親が喜ぶから、親がこうしろって言うから、だから結婚という道に進んだんだ。「待って、萌。俺たち結婚するんだろ?」 「しない」 「悪いとこがあるなら直すから」 「……」 「好きだよ、萌」 「……」正広の言う「好き」は、私のことを繋ぎ止める言葉というだけで、本当に私のことを好きではなかったんだろう。何を言われても、正広の言葉ひとつひとつが、薄っぺらいく聞こえた。 電話でやり取りをしているこの時間が、ひどく滑稽に思える。その後、正広と何をどう話したのか、記憶がない。 電話を切ったあと、何とも言えない感情が心の奥で暴れていた。悔しくて、悲しくて、胸がぎゅうっと苦しくなる。 イライラやモヤモヤとは、違う感覚。 今すぐ体から剥ぎ取って、丸めて捨ててしまいたい。何も考えたくなくて、私はすぐに布団に潜り込んだ。もう、よくわからない。 気持ちが溢れて、勝手に涙がこぼれてくる。 止めたくても止まらない、この感情はなんだ。枕に涙が染み込んでいくけれど、大粒の涙は全く止まってはくれない。胸が苦しくて、息が詰まりそうになる。それでも、気のすむまで泣きじゃくった。 誰にも見られない場所で、誰にも聞かれないように、私はただ泣いた。気持ちの捌け口が見つからなかった。
last updateLast Updated : 2025-12-28
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6_4.江藤くんの優しさ

朝起きると、目が腫れていた。 昨夜、あれだけ泣いたのだ。腫れない方がおかしい。鏡に映る自分の顔に、思わずため息が漏れる。「なんて、ひどい顔……」自分の顔を見て憂鬱な気持ちになるなんて、情けないにもほどがある。 仕事を休みたい気持ちは山々だけれど、そうは言ってもいられない。 社会人としての自覚や責任感はあるつもり。いつもはコンタクトレンズをはめるところを、今日は眼鏡にした。さすがにこの腫れぼったい目にコンタクトレンズをはめるのは躊躇われたし、眼鏡の方が目元をうまく隠してくれる気がしたのだ。分厚いレンズと太めのフレームで、どうにか誤魔化すことができないだろうか。沈んだ気持ちのまま会社に着き、誰にも会わずに静かにしていようと思ったのに、事務所へ入るなりバッタリ江藤くんに出会ってしまった。「おはよう」 「おはようございます」いつも通りの挨拶ができたつもり。 江藤くんも、いつも通り。 だけど、ふっと目元を覗き込まれる。「どうした? イメチェン?」江藤くんはわざとらしく、でも冗談めかしてくすっと笑った。 真っ直ぐ見られなくて、ふいっと目線をずらして、「似合うでしょ」とぶっきらぼうに言ってみる。すると江藤くんは、すっと目線をずらしつつも優しく微笑む。「あー似合う似合う。辻野さんは何でも似合うなぁ」そのやり取りが、可笑しくて、嬉しくて、そして優しくて。 目が腫れていることが、バレてないわけがない。 それでもそうやって言ってくれるその気遣いが、私の心をほんのりと癒してくれる。江藤くんのあたたかさに、胸がぎゅっとなる。 泣き腫らした目の奥に、またじわりと涙が浮かんだ。
last updateLast Updated : 2025-12-29
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6_5.江藤くんの優しさ

そのまますっと別れて自席に行こうとした江藤くんの袖を、なぜか咄嗟につかんでしまった。案の定いぶかしげな顔をされる。「なに?」首を傾げながら、江藤くんはまた私の方に向き直る。 どうしてか、江藤くんに話したいと思った。 この私のモヤモヤを知っているのは江藤くんだけだからだ。「……あのね、……私、結婚やめることにした」聞こえるか聞こえないかの音量で、ぼそりと呟いた一言。 江藤くんは、少しだけ間を置いてから、ぽんっと肩に触れる。「そうか、がんばれ」それだけ。 たったそれだけなのに、どうしてかその言葉がとても優しく感じた。これから先のことを憂いていた私の気持ちを、あっという間に包み込んでくれるくらいの、あたたかい声音。気づくと、目から涙がこぼれ落ちていた。 ハッとなって、慌てて袖で拭う。「ごめん……」 「いいから、使っとけ」謝る私に、江藤くんはハンカチをそっと差し出してくれた。 ハンカチを受け取ると、そのまま手を引かれて非常階段へ連れていかれる。 階段の向こうの廊下には、出社してきた人が続々と歩いていく気配がする。そうか、きっと人目につかないように、そっと隠してくれたんだ。非常階段は冷たい空気が流れているのに、隣にいる江藤くんは優しい。 ただ、隣にいてくれるだけなのに、なんて心強いんだろう。 江藤くんの気遣いが優しくて、苦しい。私はなんて情けないんだろう。 もう、本当に自己嫌悪に陥りそうだ。「始業までには泣き止んだ方がいいよ」あまりにもメソメソしているからだろうか。 江藤くんが、また冗談めかしながら背中をさすってくれた。「……わかってる」精一杯の強気を語気に含ませながら、私は一生懸命に涙をぬぐった。 江藤くんの優しさに触れて、少しだけ前を向けそうな気がした。
last updateLast Updated : 2025-12-30
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