All Chapters of ダメ男との結婚をやめたら、運命の恋が始まりました: Chapter 51 - Chapter 60

78 Chapters

8_6.予想外の告白

どう考えても、告白をされている。 いくら超鈍感な私でも、わかっている。でも……予想外すぎて、どうしたらいいかわからない。 だって、まさかそんなことが起こるなんて、思いもよらなかったもの。思考回路はショート寸前。ああ、そんな歌詞、どこかの歌にあったなぁ。なんて、そんな余計なことは頭をよぎるのに、肝心の江藤くんへの返事が思い浮かばない。 だって、そんなことあるわけないって、まだ頭のどこかで思っていて……。 現実を受け止められなくて……。必死に考えて考えて、ようやく出てきたのは、なんともシンプルなものだった。「ありがとう」 「この期に及んでありがとうなの?」 「だ、だって、突然だったから……」 「辻野さんらしいね」これでもかと赤くなる私とは対照的に、江藤くんは楽しそうに笑った。その笑顔は、なんだか素敵に眩しくて。 いつもの江藤くんなのに、いつもの江藤くんじゃないような。そんなことがあったものだから、家に帰ってからもドキドキが止まらなかった。布団に入っても、目を閉じても、心臓の音がうるさい。バカみたいにドキドキとしてしまって、胸がきゅっとなって苦しくなって――その日はもう、自分の情緒が大変だった。でも、その大変が、ちょっとだけ嬉しかったりもした。
last updateLast Updated : 2026-01-10
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9_1.それが当たり前だと思っていた

仕事中、ソフトウェアのインストールに失敗してしまい、見たこともないエラーメッセージが出てきた。焦った私は、すぐに江藤くんに助けを求めてしまう。やっぱり江藤くんを頼りにしているし、江藤くんなら何とかしてくれるはずという信頼感があるからだ。急な私の呼び出しに、江藤くんは嫌な顔ひとつせず来てくれる。 パソコンを覗きこむ姿に、私は椅子ごと左に寄って、彼の作業を見守った。モニターに現れる、たくさんのウィンドウ。それを見ているだけで、目が回りそうになる。私には、それが何をやっているのか、さっぱりわからない。江藤くんは、右手でマウスを操作しながら、左手はキーボード。そして視線はモニターへ。ブラインドタッチでキーボードを叩き、流れるような作業をこなしていく。 その姿が、なんだかすごくかっこよく見えた。真剣な横顔。 迷いのない手の動き。 私にはない、豊富な知識。きっと、頼れるって、こういうことなんだな、なんて漠然と思った。 あの日から、ずっと江藤くんを意識している。 答えは出していない、ありがとうとお礼を言っただけ。 江藤くんは答えを待っているのかもしれないけれど、整理できない私の頭は、まだ江藤くんへの答えを渋っている。だけど、折に触れて江藤くんの優しさや気遣いを感じて、胸の奥がふわっとあたたかくなる。心にぽっと灯りがともる感じ。簡単には消えそうにないその灯りは、私の胸をじわじわと広範囲に照らしていく。
last updateLast Updated : 2026-01-11
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9_2.それが当たり前だと思っていた

いつも優しくて、頼りになって。 楽しい話もいっぱいしてくれて。 私の話も、いっぱい聞いてくれて。 一緒に仕事をするのが、楽しくて。だけど、それが当たり前だと思っていた。 当たり前すぎて、それがどんなに優しい対応だったのか、気づいていなかった。江藤くんと一緒にいることは心地よくて、自然と甘えられたんだ。 そして、江藤くんはそれを快く受け入れてくれる、懐の広い人だった。でも、今わかった気がする。それは、相手が江藤くんだから甘えられたんだと思う。 江藤くんじゃなかったら、こんな風に甘えることはできなかった。江藤くんだったから――あれもこれも、相手が江藤くんだったからできたこと。私は、江藤くんのこと――ふと、視線が合う。彼の瞳が、まっすぐにこちらを見ている。私が江藤くんのことばかりを考えていたことが、バレてしまったのではないかと動揺してしまう。心臓がドキリと揺れ、頬に熱が集まるのがわかった。私は思い切り、江藤くんのことを意識している。 目をそらしたいのに、そらせない。 そらしたくないのに、そらしたい。 そんな、恥ずかしいような気持ちに、自分でもあり得ないくらい動揺しているのがわかる。心臓の音が、どんどん速くなっていく。 胸の奥をぎゅっと掴まれるような感覚に、ぶるりと体が震えた。
last updateLast Updated : 2026-01-12
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9_3.それが当たり前だと思っていた

ふいに、江藤くんが口を開いた。「保存する場所に本来あるはずのフォルダが、なぜかなかったから。 追加してインストールしたら、成功したよ」 「えっ? ああ、うん。そうなんだ」江藤くんが、私にもわかるように丁寧に説明してくれる。そうだった、今はパソコンのエラーを直してもらっているんだった。私ったら、余計なことばかり考えてしまっている。でも、ちゃんと聞きたいのに、雑念ばかりが頭を支配し、何も入ってこない。こんなんじゃダメだってわかっているのに。ずっとドキドキしている。 ありえないくらいに、緊張もしている。 自分の鼓動を抑えるので、精一杯だ。「あ、ありがとう」そう言うと、江藤くんは軽く微笑んで、自席へ戻っていった。――こんなの、いつものことなのに。 いつも通りの私たちのはずなのに。やけに心臓の音がうるさく響いてくる。 こんな気持ち、初めてで戸惑う。だって、江藤くんが私のことを好きって言うから。 だから、意識しちゃうんだよ。 意識しないわけないじゃない。この気持ちは、もしかして……恋とでもいうのだろうか? いやいや、まさか、そんな。そんなことを思いつつも、胸の奥で何かが膨らんでいく気配がする。 それは、否定しようとしても否定できない、江藤くんへの気持ちだった。
last updateLast Updated : 2026-01-13
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9_4.それが当たり前だと思っていた

そんな江藤くんへの気持ちを抱えつつ、正広と話をすると一気に現実に戻される。心がすっと冷えていく。あれから何度か、正広と結婚をやめるにあたっての事務的な連絡を取っていたのだ。正広には、もう本当にうんざりしていた。会いたいだの、やり直したいだの、俺たちまだ終わってないだろなどと、未練がましい言葉ばかり並べられる。うわべだけの言葉に流されるほど、私は弱くない。でも、そのせいで話がなかなか前に進まないでいた。毎回同じようなやりとりに、イライラしてしまう。きっぱり冷たく突き放せばいいのに。 そう思いながらも、そうできない自分の性格にも、またイライラした。嫌で嫌でたまらないくせに、綺麗な言葉を並べてしまう。「ごめんね」 「ありがとう」 「でも、もう無理なの」私も正広と一緒だ。 うわべだけの言葉で、正広をどうにかしようとしている。 きっとそれは、自分が傷付きたくないから。 自分が悪いと思われたくないから、そうやって自己防衛しているのだろう。そんな綺麗事で解決する話じゃないことは、頭ではわかっているのに。無意識に自己防衛をしてしまうことに、自己嫌悪だ。そのたびに、心が少しずつすり減っていくのを感じている。こんなことではいけないのに。ちゃんと前に進まなきゃいけないのに。 この選択をしたのは、私自身なのだから、私が頑張るしかないのだ。
last updateLast Updated : 2026-01-14
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9_5.それが当たり前だと思っていた

昼休みの時間になって、そういえば今日は食堂だったと気づく。席を立つと、江藤くんもちょうど席を立ったところだった。食堂に向かう江藤くんに、声を掛けようか迷っていると、彼のほうから気づいて声を掛けてくれた。「今日、食堂?」 「……うん」 「じゃあ、行きますか」いつも通り、自然に誘ってくれる。 まるで、私たちの間に告白なんてなかったかのようだ。もしや、意識しているのは私だけ? かといって、逆に意識されても、それはそれで困る。今日も今日とて、心臓が痛い。 どうにか、この動揺を悟られないようにしなくてはと思うと、余計に緊張する。江藤くんと二人で食堂で昼食をとるなんて、今まで何度もしている。別に特別でも何でもない。いつも通りのことなのに……。どうしてこんなにもドキドキするんだろう。二人の距離感はいつも通り。江藤くんの声のトーンだって、いつも通り。なのに、私はまっすぐ江藤くんを見ることができない。視線が合うのが怖くて、何気ない会話がぎこちなくなりそう。動揺して、箸の持ち方まで変になってしまいそうだ。やばい。 落ち着いて、私。 どう考えても、私だけが意識してしまっている。緊張して、動揺しているのに、隣にいる江藤くんの存在はなんだか嬉しい。なんという、矛盾した気持ちなんだろう。
last updateLast Updated : 2026-01-15
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9_6.それが当たり前だと思っていた

窓際のカウンター席に座った。ここはいつもの定位置。隣同士で座り、目の前はガラス張りで、会社の殺風景な敷地が見える。ここにおしゃれな庭でもあったならよかったのに。そんなことを考えていると、いつの間にか江藤くんが、セルフサービスのお水を二人分持ってきて、そっと私のトレイに置いてくれた。「わあ、ありがとう」そう言うと、彼は何でもないかのように目だけで笑って頷いた。いただきますと手を合わせてから、同じタイミングで食べ始める。醤油のいい香りが漂った。「最近、チャーシュー薄くなったと思わない?」 「確かに、前食べたときはもうちょっと厚切りだったような」 「コスト削減かな? 薄いチャーシューはチャーシュー麺って名乗る資格ないよね」 「じゃあ何麺?」 「ただのラーメン」江藤くんが笑いながら文句を言うので、私もつられて笑顔になった。確かに、薄いチャーシューが3枚のっているだけ。チャーシュー麺とは言い難いかも。食べるのがゆっくりな私。それに合わせて、江藤くんもゆっくり目に食べてくれる。そうやって気にしてくれることが嬉しくなってしまう。ラーメンの湯気が、ふたりの間にふわりと漂った。 そんなことすら嬉しいと思えてしまう。何気ない会話。 何気ない笑顔。なんでもないことに、幸せを感じる。
last updateLast Updated : 2026-01-16
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9_7.それが当たり前だと思っていた

これは絶対に比べることじゃない。そう頭では思っているのに、どうしても思い出されてしまう。それは、正広とラーメンを食べたときのことだ。セルフサービスの水を二人分持ってきたのは、私だった。そういうのは、どちらかがやればいいとは思うから、自分がすることに何とも思わなかった。でも、取りに行っている間にラーメンが運ばれていて、正広は私を待つことなく食べ始めていたのだ。食べるのが早い正広は、私が席に戻った頃には、すでに半分以上食べ終わっていた。そのことにも驚いたけれど、それ以上に、私が食べ終わるまでの間、彼は会話することもなく、私の方を見ることもなく、ただ暇そうにずっとスマホをいじっていた。椅子に浅く腰掛け、足を組んでふんぞり返るような体勢。それだけじゃなく、「お前、食べるの遅いよな」と嘲笑いながら鼻で笑われたのだ。とてもじゃないけど、楽しいと思える食事ではなかった。すごく悔しくて辛かった思い出。忘れたくても忘れられない、衝撃的な思い出。でも、今は違う。 すごく楽しいって思える。江藤くんが隣にいて、笑いながらラーメンを食べていて、さりげなくペースを合わせてくれて、気遣ってくれる。その優しさはとても自然であたたかく、私は幸せな気持ちになる。心がぽっと、あたたかくなる。
last updateLast Updated : 2026-01-17
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9_8.それが当たり前だと思っていた

でも、それで気づいてしまった。 私のこの感情。 ずっと江藤くんに緊張して動揺して、ドキドキが止まらなくなる歯がゆい感情の正体に。私は、箸を置いて江藤くんを見る。「あのね、いつもありがとう」 「いきなり何? 変なものでも食べた? チャーシュー薄い反動?」 「ううん。あのね、私も、……江藤くんが好きだよ」そうだ、この感情は「好き」なのだ。 江藤くんの一挙手一投足に、ずっとドキドキしていた。 胸が苦しくなって張り裂けそうになって、でも嫌な痛みじゃなくて……。江藤くんは一呼吸置いて、ゲホッとむせた。 ゲホゲホと咳き込んでいる。「ちょっと、大丈夫?」思わず背を擦る。江藤くんは食べていた箸を下ろし、少し顔を赤くしながら頭を掻いた。「あのさぁ、何でここで言うかな? 社内じゃ何もできないんですけど」 「何もって……ひゃあっ」江藤くんの手は、私の頭を雑にぐしゃぐしゃっと撫でる。雑なのに、どこかあたたかくて、優しい。 心がぽわっとあたたかくなる。手櫛で髪を整えていると、江藤くんがこちらを見ていた。その柔らかな表情に、またドキッと心臓が高鳴る。「俺はずっと好きだったよ」周りに聞こえないくらいの声で、囁くように言う江藤くんは、何事もなかったかのように残りのチャーシュー麺をズルズルとすすった。その光景が何だか嬉しくて、可笑しくて、涙が込み上げそうになった。ずっとモヤモヤしていた気持ちが、すっと晴れていく気がした。
last updateLast Updated : 2026-01-18
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10_1.これで終わりだから

江藤くんに対するモヤモヤが解消されただけで、現実はやらなければいけないことがまだある。正広とはもう別れたけれど、結婚まで進めたわけだから、後処理が残っているのだ。気が乗らないけれど、式場をキャンセルするために、正広と一緒に行くことになった。何しろいろいろな手続きを済ませてしまっているのだ。頭金の返金手続きもあり、電話一本では終わらせられない事情があった。でも、これが終わればすべてが終わる。 正広と縁を切ることができる。 その想いを胸に、なんとか自分を奮い立たせた。久しぶりに出会った正広は、眉間にしわを寄せてムスッとしていた。これが機嫌が悪いのか、普段の正広だったのか、もう私にはわからなくなっていた。二人で入っていく結婚式場。とても豪華で煌びやかな世界なのに、私たちをまとう空気は重苦しい。式場のスタッフは「残念です」と言いつつも、最後まで丁寧に対応してくれた。詳しいキャンセル理由も聞かれなくて、私は内心ほっとしていた。あくまでも、事務的処理のようだ。幸い、指輪もキャンセルできた。キャンセル料は少しかかったけれど、それでも頭金は大分返ってきた。ずっと私が手続きをしていて、正広は隣にいるだけで何も役に立たなかった。彼の態度や行動は、想定内のはずなのに、どうしてもフラストレーションがたまる。けれど、それなりに愛想よくスタッフと会話しているのを見て、外面だけはいいんだなと改めて気づかされた。こんなときに、意外な側面を見た気がする。 こんなときだからこそ、なのかもしれない。でも、もういいんだ。 私は、前を向いている。 この手続きが終われば、本当にすべてが終わる。 そして、新しい日々が始まるのだ。
last updateLast Updated : 2026-01-19
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