どうにかこうにか準備を整えた正広を助手席に乗せ、私は実家へと車を走らせた。スーツにネクタイ、髪も整えて、見た目は完璧になっている。でも、心配なのは中身のほうだ。正広を自宅に呼ぶのは初めてのことだった。当然、両親に会わせるのも初めて。とはいえ、郵便局員の彼は、書留の配達で何度か母と顔を合わせたことがあるらしい。ハンコをもらうときに、軽く挨拶くらいはしていたとか。でも今日は、そんな軽い挨拶じゃすまない。 結婚の挨拶なのだ。 とても重要であり、人生の分岐点でもある結婚。 ちゃんとわかっているのだろうか?玄関をくぐり、リビングへ入る。すでに両親がきちんと座って待っており、物々しさに空気がぴんと張りつめた。そして、いざ対面――正広は一言「お邪魔します」と言ったきり、両親の前に座ったまま無言になった。しん、と微妙な空気が流れる。え? えええ??誰がこの場を前に進めるのか。私の勝手なイメージでは、正広が男らしく挨拶をすることを思い描いていた。だって、ドラマとかでありがちな「娘さんと結婚させてください」ってセリフは、まさに今言うべきものだと思うからだ。だけど正広は黙ったまま。 両親も、黙ったまま。 焦る私。まさか、私が言うの? でも、よく考えたら、私から紹介しなきゃいけないことなのかも? ううん、よくわからない。結局、この沈黙が重すぎて耐えきれなくなった私が、「えっと、斉藤正広さんです」と両親に紹介した。両親は、うんと頷いてから正広を見る。 正広は、紹介されて軽くニコッと笑っただけだった。おかしい。 今日って、結婚の挨拶のはず。 なのに、こんな状態で意味が分からない。 もしかして、私の認識が間違っているのか。結婚の挨拶ではなかったのか? 私が取り仕切るべきなのか?
Last Updated : 2025-12-11 Read more