All Chapters of ダメ男との結婚をやめたら、運命の恋が始まりました: Chapter 61 - Chapter 70

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10_2.これで終わりだから

すべてが終わり、プランナーさんへお礼を告げて、結婚式場を出た。 ようやくこれで、終わりなんだ。 そう思うと、ほっとしつつもどっと疲れが押し寄せてきた。ずっと、罪悪感があった。付き合っていた二人が別れるだけなのに、結婚の話まで進んでいたために、両家を巻き込んでしまったこと。周りに心配と迷惑をかけてしまったこと。私が招いた種だけど、ずっとずっと心苦しかった。「正広、最後までいろいろありがとう。これでお別れだね」ありがとうなんて、相応しくなかったかもしれない。正広との思い出は嫌なことで埋め尽くされている。でもきっと、楽しかったこともあったはずなのだ。思い出せないけれど、そういう感情があったからこそ、付き合ったはずなのだ。正広は無言で私の腕をすっと引いた。抵抗するまもなくきつく抱きしめられ、焦りを覚えて胸を押し返す。でも、びくともしない。「気にするな」 「え、……うん」耳元で囁かれたかと思うと、体が解放され、ほっと息付く間もなくそのままキスをされてしまった。衝撃のあまり、抵抗することも声を上げることもできなかった。きっと罪悪感に苛まれていたから、その気持ちが彼を強く拒むことができなかったのだ。これで本当に最後だから。 そう自分に言い聞かせて、じっと耐えた。 なんでこんな事になっているんだろう。抵抗できない自分が惨めで悔しくて、胸が苦しくなる。じわっと視界が揺らいだ。頭の片隅に、江藤くんの顔がよぎる。 新たなる罪悪感に苛まれ、胸が潰れそうになった。そんな私の気持ちを知らない正広は、自分に向けられた涙だと勘違いしたのか、気を良くして笑顔になった。「俺たち、いつでもやり直せるよ」私は、力なく首を振って否定する。 やり直す気なんて、まったくない。 もう、これで終わりなんだから。
last updateLast Updated : 2026-01-20
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10_3.これで終わりだから

二人の温度差が、天と地ほどに違っていることを実感していた。「家まで送るよ」 「ううん、親が迎えに来るから大丈夫」 「そうか?」 「うん。うちの親には会いたくないでしょ? 早く帰りなよ」 「まあ、それもそうだな」正広はバツが悪そうな顔をする。そんなところにも、温度差を感じてしまう。 本当は、親が迎えに来るなんて嘘だ。 正広に送ってもらうなんて、まっぴらごめんだったから。「じゃあ、俺行くわ」 「うん。今までありがとう。さようなら」ありがとうという気持ちは、嘘ではない。好きだと思って付き合ったことは、事実だからだ。ちゃんと楽しかったことも、あったはず。それが途中で、おかしくなってしまったのだ。いつからかわからないけれど、好きという感情が、すっぽり抜け落ちてしまった。惰性なのか、情なのか、心もとない感情だけでここまで来てしまった。そんな情けない自分にも、今日でさよならをしたい。正広と別れた駐車場で、私はひとり佇んだ。 無性に出てくる涙は、どんな気持ちなんだろう。 自分の感情がよくわからない。過去への別れの涙だったのか、新しい自分への喜びの涙だったのか。ただ、感情が膨れ上がって、胸が苦しくなった。ひんやりした風が、頬を撫でていく。 その冷たさが、少しだけ心を落ち着かせてくれた。
last updateLast Updated : 2026-01-21
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10_4.これで終わりだから

ふと、口元を触る。 触れられた唇が、気持ち悪いと思った。カバンからハンカチを取り出し、ごしごしと口元を拭ってみたけれど、気持ち悪さはまったく拭えなかった。そんなことをしたって、何も変わらないことなど、わかっているはずなのに。わかっているけれど、どうしてもやらざるを得なかった。 必死に取り繕っていたけれど、 自分の弱さが悔しくて、罪悪感は膨れるばかりだ。 弱い自分とも、さよならしたい。脳裏に浮かぶのは江藤くんの顔。江藤くんからは、終わったら迎えに行くから連絡してほしいと言われている。正広とのことは、江藤くんには何も関係ない。それなのに頼るなんて申し訳ないと思うのに、どうしてか江藤くんに会いたくてたまらなくなった。スマホに江藤くんの連絡先を表示させて、タップしようか指が躊躇って空を彷徨う。かけたら迷惑かもしれない。 だけど江藤くんに会いたい。二つの気持ちがせめぎ合って、胸が苦しくなった。結局、抑えきれない気持ちに負けて、江藤くんに電話をかけてしまったのだけど。「もしもし?」 「終わった?」 「うん」 「じゃあ迎えに行くから待ってて」優しい声音に、ありえないくらい胸がキュンとした。同時に、罪悪感が押し寄せてくる。正広のことはもう好きではない。 きちんと別れたはずだった。 なのに、キスを拒めなかった自分。自分の弱さや甘さが引き起こしたことは、重々承知している。 こんなこと、江藤くんに言えるはずはない。 言えるはずはないのに――心の奥で、江藤くんには正直でいたいと叫んでいた。 それが正しい選択かはわからないのに。
last updateLast Updated : 2026-01-22
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10_5.これで終わりだから

直接式場に来てもらうのは躊躇われて、近くの公園で落ち合うことになった。式はキャンセルしたし、正広とも別れた。 でも、式場の人に見られるのは、あまりいい気はしないから……。待っている間、頭の中で罪悪感が渦巻いて苦しくなった。私は江藤くんに対して誠実でいたいのに、どうしてこんなにもダメダメなんだろう。迎えに来てくれた江藤くんは、とても爽やかでキラキラして、王子様みたいに見えた。 だからこそ余計に、胸が苦しい。 自分の犯した過ちが、憎い。「お疲れ様」 「……うん、ありがとう」 「何かあった?」ドキッと心臓が揺れる。何かを疑われているような、そんな口調ではないにしろ、罪悪感が表に出そうになる。慌てて笑顔を貼り付けた。「ううん、ちゃんとキャンセルできたよ。ちゃんと別れたよ」 「だったら、何でそんなに泣きそうなの?」思わず俯いた私の頭の上から、困ったような声が聞こえる。 ちゃんと笑えていると思っていたのに、そうではなかったらしい。 私の下手くそ。「もしかして、未練があったりする?」 「な、ないっ。それは、絶対にないから!」未練なんてこれっぽっちもない。 あるわけがない。でも、ちゃんと言葉にしようとすると、喉が詰まってしまう。 どう伝えればいいのか、わからない。
last updateLast Updated : 2026-01-23
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10_6.これで終わりだから

罪悪感から隠しきれなくて、思わず先に謝罪の言葉が出る。「江藤くん、ごめんなさい」 「えっ。突然なに? もしかして俺フラれた?」 「違う。そうじゃなくて……」抱きしめられて、キスをされた。 嫌だったのに、拒めなかった。そのことを、正直に伝えるのは怖かった。 江藤くんに幻滅されるのが怖いから。 だけどそれを隠し通せるほど、私の心は強くない。 嘘は苦手だ。「あの、あのね……実は――」ぽつりぽつりと状況を説明する。きちんと伝えられたのかわからない。支離滅裂になっていたかもしれない。だけど江藤くんは、いつものように黙って私の話を聞いてくれた。途切れ途切れになっても、急かすことなくちゃんと待っててくれた。そんな優しさが、よけいに胸を締めつけていく。一通り話し終わると、江藤くんはガシガシと頭を掻く。少し考え込むように黙ってから、こちらをじっと見た。「あのさ、俺のこと、好き……でいいんだよね?」その言葉に、私は小さく「うん」と頷く。 好きなのに、そんなことするなんて本当に申し訳ないと思う。責められたって、仕方がない。 そう思っていたのに――「じゃあ俺が、上書き保存していい?」 「上書き……保存?」 「辻野さんを抱きしめて、キスをしてもいい?」江藤くんの熱っぽい眼差しに、私は動揺した。 こんな色っぽい表情、初めて見るんだもの。とたんに頬が熱くなって、たじろいでしまう。 でも、同時に心の奥が優しくほどけていくのを感じた。過去の痛みを優しく塗り替えてくれるような、そんな言葉だったから。
last updateLast Updated : 2026-01-24
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10_7.これで終わりだから

江藤くんとキス―― え、えええ、ええっ! テンパって、あわわとしていると――江藤くんだけが余裕の表情で、楽しそうに笑っている。「残念、自動保存機能が働きました」 「自動保存……?」瞬間、ふわりと包み込まれる。えっと思っているうちに、ぎゅううっと、ちょうどいい強さで抱きしめられた。心臓が、ドキンドキンと高鳴っていく。「やっとつかまえた」優しい声が、耳元をくすぐった。 自分の鼓動が相手に伝わってしまうのではないかと思うほど、心臓が壊れそうになっている。ドキドキが、止まらない。「俺は絶対、辻野さんを泣かせないよ」 「……!」高らかにそう宣言されて、胸がいっぱいになった。そんな風に自信満々に言ってくれるなんて、どれだけ心強いことだろうか。顔を上げると、江藤くんの優しい瞳に包まれた。胸がきゅんとなって、奥の方から込み上げるものがある。「……江藤くんの嘘つき。泣かせないって言ったくせに。嬉しくて……泣けちゃう」 「ちょっと待って。それは反則だよ」慌てる江藤くんが可笑しくて、私は涙を拭いながら笑った。 とても幸せな気持ちで、いっぱいになる。 この時間が、ずっと続けばいいのに。 そう思えるほどあたたかくて、優しい時間だった。
last updateLast Updated : 2026-01-25
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11_1.新たなる始まり

この機に、私は家を出て一人暮らしをすることにした。元々、結婚をしてもしなくても、年齢的にもそろそろ家は出ようと思っていたのだ。それに、結婚をやめたことで親に迷惑をかけてしまったし、何より、実家からすぐの郵便局に正広が勤めているかと思うと気が気ではなかった。気にしないでいようにも、心なしか気まずい。 滅多に会うことはないだろうけれど、それでも近くにいるということが嫌でも頭から離れない。 嫌……とまでは言わないけれど、……うん、正直なところ、嫌かもしれない。そんな私の考えを、両親は心配しつつも理解を示してくれた。実にありがたいことだ。両親は、正広の情けない結婚の挨拶を見たからか、 彼に対していい印象を抱いていない。私もあの挨拶はないと、今でも思っているくらいだ。両親に対して心苦しく思っていたけれど、母は「結婚しなくてよかったじゃない」なんて、お気楽に笑ってくれた。それがどんなに救われる思いがしたか、計り知れない。やっぱり、母は偉大だ。ありがたい気持ちを胸に、トントン拍子に決まっていく、新しい生活に向けての準備。 新しい部屋、新しい環境、荷造り……。 まだ何も始まっていないけれど、少しずつ心が軽くなっていく気がした。
last updateLast Updated : 2026-02-01
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11_2.新たなる始まり

江藤くんは、「一緒に住もう」と言ってくれた。その申し出は涙が出るくらいに嬉しかったのだけど。でも、こんな状態で甘えるわけにはいかないと思った。 バカみたいな恋愛をしたせいで、江藤くんに助けてもらったのに、これ以上助けてもらうなんておこがましい。だから、江藤くんの申し出を断って、早々に物件の契約を済ませた。タイミングよく、会社の近くのワンルームが空いていたこともあって、トントン拍子に進んでいった。「もっと甘えてくれていいんだけど」 「ありがとう。十分、甘えてるよ」ニコッと笑うと、江藤くんは少し困った顔をした。江藤くんのことは好きだ。 抱きしめられるのも、キスをされるのも、全然嫌じゃない。 むしろ、ドキドキして胸が苦しくなる。だけど、もしかしたら……、弱い自分が江藤くんの優しさになびいてしまったのかもしれない、なんてそんな考えが、たまに頭をよぎるのだ。自分の気持ちなのに、これが本気の恋なのか自信が持てないでいた。 実に情けないとは思っている。それに、江藤くんが住んでいる部屋もワンルームだ。もしもそこに私が転がり込んだら、きっと狭くなるし迷惑になってしまう。そんなことを、引っ越しが決まってからもグダグダと考えていた。引っ越しは、単身パックで身軽だ。それほど多くはない荷物。一人でも十分だったんだけど、江藤くんは甲斐甲斐しく手伝いに来てくれた。「女の人にしては荷物少ないよね?」 「そうかな?」 「姉が引っ越すときは、この倍は段ボールあったよ」言われた通り、少ないのかもしれない。だって、あっという間に片付けが終わってしまったからだ。新しい部屋。 新しい空気。まだ慣れないけれど、ここから始まる日々に、少しだけ期待してみたくなった。
last updateLast Updated : 2026-02-02
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11_3.新たなる始まり

早く終わったと言えど、気づけばお昼を過ぎていた。ほどよくおなかも空いてきている。「手伝ってくれてありがとう。何かご飯作るよ」 「ええっ! 辻野さん、料理できるの?」 「でーきーまーすー!」からかうように言ってくる江藤くんに、私も反抗するように頬を膨らませる。でも、今作れるものといったら、母親が持たせてくれた、茹でて汁をぶっかけるだけの蕎麦くらい。食材も調味料も、最低限しかない。「お蕎麦でもいい?」 「おっ。引っ越し蕎麦だね」蕎麦と一緒に、ネギも持たせてくれた母。 さすがお母さん、わかってる。 茹でている間にネギを刻み、ネギたっぷりのお蕎麦が出来上がった。少々味気ない。こんなの料理と言えない気がする。でも、今はこれしかできないし……。などと葛藤していると、ふいに覗き込まれてドキッと心臓が高鳴る。「あー、えっと、簡単でごめん」 「作ってくれるだけで嬉しいよ。すっごく美味しそう」 「ネギだけだよ?」 「俺、ネギ好きなんだよね」 「そう?」 「うん。いただきます」嬉しそうに笑ってくれるから、私の気持ちもほっとする。 感謝されるって、すごく嬉しいことなんだって気づいた。ただの蕎麦なのに、江藤くんは「美味しい」と言って、私を褒めながら食べてくれる。 その姿を見ているだけで、胸がぎゅううっとなった。この部屋で、初めての食事が江藤くんとでよかった。 心から、そう思った。
last updateLast Updated : 2026-02-03
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11_4.新たなる始まり

キッチンに、二人並んで立つ。 一緒に洗い物をしながら、たわいもないおしゃべりに花が咲く。 笑い合いながら、ふと顔を見合わせたその瞬間。あっ、キスだ――形のいい唇が、すっと近づいてくる。 空気が変わるのがわかった。 ドキドキと高鳴る鼓動を感じている間に、ふっと重なる唇。それはとにかく、甘くて柔らかくて。 大切にされている感がすごく伝わってくる、優しいキスだった。「うーん、自動保存機能が働いちゃうんだよね」 「……自動保存?」 「嫌だった?」真っ赤な顔で固まる私に、江藤くんは心配そうな顔をする。 嫌なわけない。 むしろ嬉しさと幸せで溢れている。 私は、慌ててふるふると首を横に振って否定した。「江藤くんって、意外と甘い人だったんだね」 「知らなかった? 覚悟してね」ふっと目を細めた江藤くんが眩しすぎて、ドキドキが止まらなくなった。 これは、心臓がもちそうにない。 お手柔らかに、お願いしたいところだ。恋人と過ごすことが、こんな風に心穏やかで満たされるものだなんて、知らなかった。 今までの私は何だったんだろうって思うくらいに、ドキドキして新鮮な気持ちになっている。そういえば、こうしてキッチンに二人で立つことも初めてだ。 今までは、私がやらなくちゃいけないとばかり感じていたのに。
last updateLast Updated : 2026-02-04
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