高度一万メートルを越えた空で突如として乱気流に巻き込まれ、機長・高橋隆司(たかはし りゅうじ)は危うい状況のさなか、パートナーである白石美月(しらいし みつき)へと告白した。二人が互いの想いを打ち明け合う一方で、隆司の妻・萩原凛(はぎわら りん)が同じ機内にいることには、誰ひとり気づいていなかった。愛情のこもった隆司の声は、凛の耳に鋭く突き刺さる。「結婚しよう、美月」ちょうどそのとき、凛の前に座っていた息子・高橋翔太(たかはし しょうた)も、露骨な嫌悪を滲ませながら口を開いた。「あんなママなんて大嫌い!美月さんにママになってほしい」凛の心は深い絶望に沈み、悲しみは絶え間なく流れ続けた。飛行機が無事に着陸すると、彼女は震える指でアシスタントに電話をかける。「仮死薬の被験者になるわ。夫も息子も、もういらない」そして凛は、結婚記念日に死ぬことを静かに決めた……*「社長、おめでとうございます。仮死薬の研究開発がついに成功しました。ただ……なかなか被験者が見つからなくて」アシスタントは困惑を隠せない表情を浮かべたが、凛の瞳には揺るぎない決意が宿っていた。「二、三日したら会社に戻るから、私がその被験者になる」ソファにもたれかかった凛の目は、涙で曇りかけていた。電話越しに、アシスタントの驚愕した声が再び響く。「来月は坊ちゃまの卒業式ですが……本当にそうされるおつもりですか?それに、高橋機長が結婚記念日にサプライズを用意している、と」サプライズ?凛は苦々しく自嘲めいた笑みを漏らした。ショックの間違いではないだろうか。三日前、彼女は大きなプロジェクトを成功させたばかりで、夫の隆司と息子の翔太と久しぶりにゆっくり羽を伸ばしたいと願っていたのだ。こっそりと隆司が操縦する便の航空券を買い、手にはふたりへのプレゼントを抱えていた。飛行機が航路の半ばに差し掛かったころ、突然、強烈な乱気流が発生した。緊迫した空気が機内を満たすなか、機内放送から隆司の声が響く。「当便機長の高橋隆司です。必ず皆様を無事に目的地へお送りします」張り詰めていた凛の胸は、次第に落ち着きを取り戻していった。彼なら必ずやり遂げると信じていた。だが、放送は切れず、再び隆司の声が重く響いた。「もし俺たちが今回生きて帰れたら……結婚
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