「ふぁあ〜眠くて死にそう……ねえ、もうこの時間、放課後に間に合わないんじゃない?いっそ引き返して二度寝しない?」杏奈は前を向いたまま、ハンドルをしっかり握って答えた。「学校に時間は確認したから大丈夫。今から行けば、ちょうど昼休みが終わる時間に間に合うわ」「そっかー……」円香は口をもごもごさせながら、もう一度目を閉じようとした。が、よりにもよってそのタイミングで、スマホがじりじりと震え出した。画面を一瞥した円香は、何も考えずにサイレントモードにして、そのままポケットに突っ込んだ。一連の動作があまりにも迷いなく滑らかで、これまでに何百回と繰り返してきたかのようだった。「誰から?なんで出ないの?」杏奈がちらりと横目で見た。円香は隠す気もなく、顔を思い切り歪めて深々と溜息をついた。「誰だと思う?あのしつこすぎる寒川家の長男坊よ」「寒川翔真から?」「んふ」名前が出た途端、円香のスイッチが入ったように、全身から露骨な不満のオーラが滲み出てきた。「ほんっとに意味わかんない。世の中に女の子なんて星の数ほどいるのに、なんで私なの?ガムみたいにべったり張り付いて、どんなに振り払おうとしても剥がれないし、もううんざり!」杏奈はその様子がおかしくて、つい笑ってしまった。「それだけ円香に魅力があるってことじゃない。輝きすぎて、一度見たら目が離せなくなるのよ」「やめてやめて!」円香は両手を振って全力で拒否した。「魅力なんかいらない、目立たなくていいの。平凡でいいから静かに生きたい!今の私は、厄介な恋愛トラブルのど真ん中なんだってば!」「まあ、真面目に聞くけど」杏奈は笑いを収め、ちらりと円香を見た。「本当に、一ミリも気がないの?……なんとなく、あなた、全然嫌いじゃないんじゃないかと思うんだけど」「もう、杏奈ってば。お願いだからそういうこと言うのやめてよ」円香は頭を抱えるように額に手を当て、どこか達観したような溜息を吐いた。「……まあ、認めるよ。あいつはさ、顔もいいし、家柄もいいし、仕事もできる。文句のつけようがない優良物件よ。ちょっとくらい気になっても、別におかしくはない」小指を立てて、これだけ、と示してみせる。が、すぐに声のトーンが変わった。清々しいくらい、きっぱりと。「でも、自由と比べたら、その『ちょっと
Read more